第17章 AI・DXの活用と限界|会計事務所 実務ハンドブック

AIで速くなる工程と人が担う工程、プロンプトの型、税務判断に使うときの鉄則、顧問先データの取扱いルール、活用シナリオ集、自計化支援、DXロードマップ。

会計事務所 実務ハンドブック > 第17章 AI・DXの活用と限界
CHAPTER 17
AI・DXの活用と限界
目次

CHAPTER 17AI・DXの活用と限界

AIは会計事務所の作業時間を確実に削る。ただし削れるのは「作業」であって「判断」ではない。本章は、どの工程をAIに任せてよいか、生成AIをどう使えば実務で使い物になるか、税務判断と顧問先データについて越えてはならない線はどこかを、2026年時点の実務水準で示す。自計化支援と事務所のDXロードマップ、電子帳簿保存法との接点までをつなげる。

1. AIで速くなる工程と、人が担う工程

まず前提を一つ置く。AIは「もっともらしい出力を高速に作る道具」であって「正しさを保証する装置」ではない。したがって、間違いが出たときに人が短時間で気づける工程は任せてよく、間違いが表に出るまで誰も気づかない工程は任せてはならない。この基準で仕分けると、事務所業務は3つに分かれる。

AIが得意なこと

  • 大量・定型・繰り返しの処理(証憑の読み取り、明細の取込、名寄せ)
  • パターンからの推測(過去の仕訳履歴に基づく勘定科目の推定)
  • 網羅的な洗い出し(異常値の候補列挙、確認事項のリストアップ)
  • 形式の変換(音声から文字、日本語から英語)と圧縮(長文の要約)
  • 下書きの生成(ゼロから1行目を書く時間の短縮)

人にしかできないこと

  • 事実認定(この支出は誰のために、何の目的で行われたのか)
  • 税務判断(否認リスクの評価、複数の処理から一つを選ぶこと)
  • 責任の引受け(申告書に署名し、調査で説明すること)
  • 関係構築(社長が本音を話す相手になること)
  • 実態把握(現場を見て、帳簿に出ていない事実に気づくこと)

工程別・3分類の仕分け表

各工程を「AI主導・人が確認」「人主導・AI補助」「AI不可」に分ける。自分の月次の作業をこの表に当てはめ、どこから手を付けるかを決める。

工程分類AIに任せる範囲人が必ず行うこと
証憑のOCRと自動仕訳AI主導・人が確認画像・PDFから日付・金額・取引先を読み取り、過去履歴から科目を推定して仕訳候補を作る金額・日付・取引先の3項目の突合。税区分(課税・非課税・不課税・軽減8%・インボイス有無)の確認
銀行・カード明細の自動取込AI主導・人が確認明細の取得、重複排除、定型取引の自動仕訳ルール適用初回のルール設計。未確定取引の処理。期ズレの確認
異常値・エラーの検知AI主導・人が確認前年同月比の急変、科目の異例な組合せ、二重計上候補、税区分の不整合の洗い出し候補が本当に誤りかの判定。検知されなかった誤りへの目配り
長文資料の要約AI主導・人が確認改正資料・契約書の論点抽出と要約要約から落ちた重要事項の確認。原典の読み直し
議事録の整形AI主導・人が確認録音からの文字起こし、発言の整理、決定事項と宿題の抽出固有名詞・数値の訂正。顧問先への確認
Excel関数・マクロの作成人主導・AI補助やりたい処理を伝えて関数式やコードの案を出させる要件の定義。小さなサンプルでの検算。想定外データでの挙動確認
月次コメント・報告資料の下書き人主導・AI補助数値と論点を渡して文章化させる数値の出どころの確認。社長の関心に合わせた取捨選択
税務の調べもの人主導・AI補助論点の整理、検討すべき制度や条文の当たりを付ける法令・通達・タックスアンサー等での裏取り。条文番号の確認
顧問先向け文章の推敲人主導・AI補助言い回しの整え、冗長表現の削除、丁寧さの調整内容の正確性の確認。伝えるべきでない情報の混入がないかの確認
業種別の質問リスト作成人主導・AI補助業種の一般的な論点から確認事項の素案を出すその顧問先の実態に合わせた取捨。過去の指摘事項の追加
事実認定AI不可なし領収書1枚の背景にある取引の実態を、聞き取りと現物確認で固める
税務判断・処理方針の決定AI不可なし複数の解釈がある論点で、根拠と否認リスクを比較して結論を出す
申告書の最終確認と署名AI不可なし税理士が内容を確認し、署名して責任を負う
関係構築と実態把握AI不可なし訪問、傾聴、現場・在庫・従業員の様子の確認。帳簿に出ていない変化に気づく
根拠 税務代理・税務書類の作成・税務相談は税理士の業務であり、その責任は税理士が負う(税理士法第2条、第1条)。AIは補助手段であって、責任の主体にはなり得ない。この一点が、上記の「AI不可」を線引きする理由である。
実務のコツ 導入は「AI主導・人が確認」の工程から始める。効果が大きく、誤りがその場で見つかるため事故になりにくい。いきなり税務の調べものから入る事務所は失敗しやすい。効果が見えにくいうえ、誤りが申告まで残るからである。

2. 生成AIの正しい使い方(プロンプトの型)

生成AIの出力の質は、投げた質問の質でほぼ決まる。「うまく使えない」という職員のプロンプトは、ほぼ例外なく一行で終わっている。実務で使えるプロンプトには5つの要素がある。この型を覚えれば当たり外れは大きく減る。

プロンプトの5要素

要素書くこと書き方の例
役割誰として答えてほしいか「あなたは中小企業を担当する会計事務所の職員です」
前提対象・時点・数値・状況。ここが最も重要「顧問先は建設業の3月決算法人、売上高2億円。令和8年(2026年)3月期の月次が対象」
制約やってはいけないこと、範囲の限定「推測で数値を作らない。分からない点は『不明』と書く。税務判断は結論を出さず論点の列挙にとどめる」
出力形式形・長さ・宛先「社長宛の月次報告コメントとして、400字以内、箇条書き3点と結びの1文」
検証方法こちらが後で確かめる手順を書かせる「最後に、この回答のうち私が一次情報で確認すべき箇所を箇条書きで挙げること」

実務で効くのは前提検証方法である。前提を書かないとAIは平均的な一般論を返し、それは事務所の役に立たない。検証方法を書かせないと、どこを疑えばよいか分からないまま出力を信じることになる。

悪いプロンプトと良いプロンプトの対比

場面悪い例良い例差が出る理由
月次コメント「月次の報告コメントを書いて」「あなたは会計事務所の担当者です。顧問先は従業員12名の設備工事業、3月決算。当月の売上は前年同月比マイナス18%、原価率は58%から64%に悪化、原因は資材単価の上昇と工期延伸。現預金は2,800万円で月商1.6か月分。社長宛の月次報告コメントを400字以内、事実の指摘2点・確認したい点1点・提案1点の構成で。数値は私が渡したものだけを使うこと」前提の数値と構成を与えると、そのまま推敲して使える水準になる。前提がないと当たり障りのない文章しか出ない
税務の調べもの「役員社宅の家賃はいくら取ればいい」「役員社宅の賃貸料相当額について、小規模住宅の判定基準と算式、小規模でない場合の取扱い、豪華社宅の考え方を整理してください。制約は、(1)結論を断定せず論点と考慮要素の整理にとどめる、(2)根拠となる法令・通達・国税庁情報の名称を明示する、(3)不確かな点は『要確認』と明記する。最後に、私が国税庁サイトで確認すべき項目を挙げてください」断定を禁じ、根拠の明示と要確認箇所の列挙を求めると検証しやすい形で返る。悪い例は数値を断定してくるが、改正前の数値である危険が高い
Excel関数「合計を出す関数を教えて」「A列に取引先名、B列に取引年月日、C列に税抜金額、D列に税区分(課税10・軽減8・非課税・不課税)が入った1,500行の表があります。取引先ごと・税区分ごとの合計を別シートに出したい。ピボットテーブルを使わず関数だけで組む式を、セル参照付きで示してください。空白行と全角スペース混じりの取引先名がある前提で、失敗パターンも挙げてください」データの形・行数・想定される汚れを伝えると実データで動く式が返る。悪い例では関数名の説明しか返らず、貼り付けても動かない
顧問先へのメール推敲「このメールを直して」「次の文面を、長年の顧問先の社長宛メールとして推敲してください。関係は良好で、堅すぎない丁寧語が適切です。目的は、決算資料の提出が2週間遅れている件を催促し、締切日を明示することです。相手を責める表現は避け300字以内。内容や事実関係は変えず表現だけを整えてください。(以下、原文)」関係・目的・禁止事項・長さを指定すると、そのまま送れる水準になる。悪い例では敬語が過剰になり、意図と違う要求が足される
業種別の質問リスト「飲食業の確認事項を教えて」「顧問先は席数30の居酒屋、個人経営、アルバイト5名、現金売上の比率が高い。月次巡回で確認すべき事項を、売上の網羅性・現金管理・人件費・在庫・消費税の区分の5分類で各3〜5項目、経営者に口頭で聞ける質問文の形で作ってください」業種と規模と分類軸を与えると、そのまま巡回に持って行けるリストになる。悪い例では業種解説が返るだけで質問文にならない
実務のコツ 一度で完成させようとしない。「まず論点だけ箇条書きで出して」と頼み、取捨選択してから「この3点について本文を書いて」と続ける。長い文章を一発で出させるのが最も効率が悪い。
よくあるミス 「もっと良くして」「なんか違う」といった曖昧な指示を繰り返す。何が違うのかを推測できないため、無関係な方向に変わっていく。「2段落目の数値の説明が冗長なので1文にまとめて」のように箇所を特定して指示する。

3. 税務判断に生成AIを使うときの鉄則

本章で最も重要な節である。生成AIは税法について流暢に答えるが、流暢さと正確さは無関係である。次の鉄則を守らない使い方は、事務所にとって事故予備軍でしかない。

鉄則1 一次情報で必ず裏を取る

AIの回答は「調べる方向を決めるための当たり」であって、根拠ではない。裏取りの順序は次のとおり。

  1. 法令(法律・政令・省令)……e-Gov法令検索で条文そのものを読む
  2. 通達(法人税基本通達、所得税基本通達、消費税法基本通達など)……国税庁サイトで番号まで確認する
  3. タックスアンサー……納税者向けの平易な整理。ページ末尾の更新日と適用時期を必ず見る
  4. 質疑応答事例・各種の手引き……個別事案の当てはめの参考にする
  5. 文書回答事例・公表裁決・判例……争いのある論点で必要に応じて確認する

上にあるものほど強い根拠である。記述が食い違って見えるときは、必ず法令と通達に戻る。

鉄則2 条文番号まで確認する

AIが「租税特別措置法第○条の○」と書いてきたら、その番号を必ず引く。番号が実在しない、実在しても内容が全く違う、というのは頻出の誤りである。制度名は合っているのに条番号だけ違う例も多く、引かずに引用すると調査の場で根拠を示せなくなる。

鉄則3 ハルシネーションの型を知っておく

誤りはランダムには出ない。型がある。型を知っていれば、読んだ瞬間に怪しい箇所が分かる。

実例(AIが返しがちな誤り)見抜き方
存在しない条文・通達番号それらしい条番号を作り出す。枝番号(第○条の○の○)で特に起きやすいe-Gov法令検索と国税庁サイトで番号を直接引く。1分で判定できる
廃止済み制度を現行として説明すでに終了した特例を「現在も利用できる」と説明する「この制度の適用期限はいつか」を追加で質問し、期限を国税庁資料で確認する
改正前の金額・率で回答基礎控除を48万円、給与所得控除の最低保障を55万円と答える(令和8年分は本則62万円、最低保障は74万円)金額が出たら「何年分の数値か」を確認する。年分の明示がない回答は疑う
経過措置の段階を取り違える免税事業者からの課税仕入れの経過措置を一律80%と答える(2026年10月1日から70%)期間区分のある制度は「いつからいつまでが何%か」を表の形で確認する
終了した時限措置を継続中とする定額減税が令和8年分でも実施されると答える(令和6年分限りの措置)「その措置は何年分の措置か」を聞き返す
判例・裁決の捏造実在しない事件名や年月日の裁決を根拠として挙げる裁決・判決は必ず原典を検索する。見つからないものは存在しないと扱う
計算過程の誤り税額計算の途中で桁を取り違える、按分の分母を誤る計算過程を書かせ、電卓で1回検算する
誘導への迎合「損金になりますよね」と聞くと「なります」、「ならないですよね」と聞くと「なりません」と答える同じ論点を肯定形と否定形の両方で質問する。答えが変われば信用しない

鉄則4 改正への追随が遅れることを前提にする

生成AIの知識には学習データの時点という上限があり、改正情報が十分に蓄積されるまでにも時間差がある。したがって直近の改正ほど誤りやすい。2026年(令和8年)時点で、AIに聞くと古い内容が返る代表例を挙げる。

論点古い(誤りやすい)回答2026年8月時点の正しい内容
免税事業者からの仕入れの経過措置「80%控除できる」2026年9月30日までは80%。2026年10月1日から2028年9月30日までは70%。以後50%、30%と下がり2031年10月1日以後は0%
消費税の2割特例「当面使える」令和8年(2026年)9月30日の属する課税期間をもって終了。個人事業者は令和8年分が最後
個人事業者の3割特例存在を知らない、または2割特例と混同する個人事業者のみ対象。令和9年分・令和10年分の2年間。納付税額は売上税額の3割
基礎控除「48万円」本則62万円。令和8・9年分は合計所得金額489万円以下で最大42万円の特例加算があり、最大104万円
扶養親族等の所得要件「48万円以下」62万円以下(令和8年分)
少額減価償却資産の特例「30万円未満・従業員500人以下」2026年4月1日以後の取得は40万円未満、常時使用する従業員400人以下。年間限度額300万円は据置
防衛特別法人税存在を知らない令和8年4月1日以後開始事業年度から。基準法人税額から年500万円を控除した額に4%
復興特別所得税「2.1%」令和9年分以後は1.1%。別に防衛特別所得税(所得税額の1%)が課される

鉄則5 断定口調に引きずられない

AIは誤っているときでも同じ調子で断定する。人間なら自信のなさが口調に表れるが、AIには表れない。「言い切っているから正しい」という日常の感覚がそのまま罠になる。口調は信頼度の情報を一切含まないと割り切って読む。

注意 AIの回答をそのまま顧問先に伝えてはならない。理由は3つある。第一に、誤りがあった場合の責任は税理士および事務所が負い、AIは負わない。第二に、顧問先は事務所の回答を「専門家の判断」として受け取り、それを前提に投資や契約を決める。第三に、後日誤りと判明したとき「AIがそう言っていた」という説明は、税務代理の場でも損害賠償の場でも通用しない。顧問先に伝えてよいのは、一次情報で裏を取り、必要に応じて上長・税理士の確認を経た内容だけである。

Q. 急ぎの質問に対して、AIの回答を「速報値」として伝えるのはどうか。

A. しない。速報として伝えた内容は、顧問先の記憶には結論として残る。後で訂正しても、最初の回答をもとに動き出していることがある。急ぐ場合は「本日中に確認して回答します」と時間を区切って返す。所要時間の問題ではなく、事務所が出す情報の位置づけの問題である。

4. 顧問先データを生成AIに入力してよいか

結論から言う。顧問先を特定できる情報、個人情報、マイナンバーは生成AIに入力しない。入力する場合は、サービスの仕様と契約、事務所の内部規程、顧問先への説明の3条件をそろえてからにする。

情報の区分と取扱い

情報の区分具体例取扱い根拠・理由
マイナンバー(特定個人情報)個人番号を含む扶養控除等申告書、支払調書のデータ入力禁止。例外なし番号法上、特定個人情報の提供・収集は法令に定める場合に限られる。生成AIへの入力はこれに当たらない
個人情報従業員の氏名・住所・生年月日・給与額、個人顧問先の申告データ原則入力しない。必要なら氏名等を伏せ数値のみにする個人情報保護法の第三者提供の制限(第27条)、委託先の監督(第25条)の問題が生じる
顧問先を特定できる情報法人名、屋号、代表者名、所在地、取引先名、登録番号、口座番号入力しない。「A社」等に置き換える税理士法上の秘密を守る義務(第38条、使用人等は第54条)。違反には罰則がある
財務数値(匿名化済み)売上高、原価率、資金繰りの数値のみ事務所ルールで認めた範囲で入力可個社が特定できなければ守秘の問題は生じにくい。業種・地域・規模を細かく書くと特定可能になる点に注意
公開情報・一般論制度の解説、条文、公表資料、一般的な業種論点自由に入力可秘密に当たらない
事務所内部の非公開情報報酬体系、内部手続、職員の人事情報入力しない事務所の営業秘密であり、職員の個人情報でもある

サービス選定時に必ず確認する4点

  1. 入力データの学習利用の有無……既定で学習に使われるか、オプトアウトできるか。仕様は変わるため年1回は確認する
  2. データの保存期間と保存場所……国外保存の場合は個人情報保護法上の外国にある第三者への提供の論点が生じ得る
  3. アクセス権限と管理……事務所のアカウント管理者が誰か、退職者のアカウントを止める手順があるか
  4. 監査・証跡……誰がいつ何を入力したかを事務所側で把握できるか
根拠 税理士法第38条は、税理士が正当な理由なく業務上知り得た秘密を他に漏らし、または窃用してはならないと定める。同法第54条は使用人その他の従業者にも同様の義務を課し、この義務は退職後も続く。顧問契約書の守秘条項も併せて確認する。生成AIへの入力は「他に漏らす」に当たり得るという前提で運用を組む。
よくあるミス 決算書のPDFをそのまま読み込ませて「分析して」と頼む。会社名・所在地・代表者名・取引銀行名が含まれており、その時点で守秘の問題が生じている。必要な数値だけを表に転記し、社名を伏せて渡す。転記は3分で終わる。
ひな形|生成AI利用ルール(事務所規程の例・11か条)

事務所規程のひな形である。採用の際は、サービスの仕様、顧問契約書の守秘条項、既存の情報セキュリティ規程との整合を確認して調整する。

第1条(目的)
本規程は、事務所の業務における生成AIの利用について必要な事項を定め、業務の効率化と、税理士法上の守秘義務および顧客情報の保護との両立を図ることを目的とする。

第2条(定義)
本規程において「生成AI」とは、入力に応じて文章、表、画像、プログラム等を生成するサービスをいう。「顧客情報」とは、顧問先および過去に関与した者に関する一切の情報をいい、公知の情報を除く。

第3条(利用を認めるサービス)
1 業務に利用できる生成AIは、事務所が指定し一覧に掲載したサービスに限る。一覧への追加は、学習利用の有無、保存期間、保存場所、アカウント管理の可否を確認して管理責任者が決定する。
2 職員個人が契約したサービスおよび個人アカウントを業務に用いてはならない。

第4条(入力してはならない情報)
次の情報は、いかなる場合も生成AIに入力してはならない。
一 マイナンバーその他の特定個人情報
二 個人を識別できる情報(氏名、住所、生年月日、電話番号、口座番号等)
三 顧問先の名称、屋号、代表者名その他顧問先を特定できる情報
四 事務所の報酬体系、職員の人事情報その他事務所の非公開情報
五 顧問先から秘密として指定された情報

第5条(加工して入力する場合の方法)
1 前条各号に該当する情報を含む資料は、当該情報を削除し、または「A社」「甲」等の記号に置き換えたうえで入力する。
2 業種、地域、規模、取引先の特徴の組合せにより個社が特定され得る場合は、記載の粒度を落とす。加工の要否に迷う場合は入力しない。

第6条(出力物の検証義務)
1 職員は、生成AIの出力をそのまま成果物として用いてはならない。
2 制度・数値・条文番号を含む出力は、法令、通達、国税庁が公表する情報その他の一次情報により確認しなければならない。検証を経ていない内容を顧問先に伝えてはならない。

第7条(税務判断への利用の制限)
1 生成AIは、論点の整理および調査の端緒として用いるにとどめ、税務判断の根拠としてはならない。
2 顧問先に回答する税務上の取扱いは、担当者が一次情報で確認し、必要に応じて上長または税理士の確認を受けたものに限る。

第8条(顧問先への説明)
顧問先の資料を加工したうえで生成AIを利用する業務がある場合は、その旨および取扱い方針をあらかじめ説明する。顧問先から利用しない旨の申出があった場合は、これに従う。

第9条(記録)
業務に生成AIを用いた場合、サービス名および用途を作業記録に残す。成果物に出力を含む場合は、検証を行った者および確認した一次情報を記録する。

第10条(教育)
事務所は、職員に対し、生成AIの特性、誤りの型と見抜き方、守秘義務との関係について、年1回以上の研修を実施する。

第11条(違反時の対応)
1 本規程に違反する入力を行った、または行ったおそれがある場合、職員は直ちに管理責任者に報告する。
2 管理責任者は影響範囲を確認し、必要に応じて顧問先への報告および再発防止措置を講ずる。報告を怠った場合は、就業規則により処分の対象となることがある。

附則 本規程は令和 年 月 日から施行する。

5. 具体的な活用シナリオ集

シナリオごとに「入力例」「出力の使い方」「使う際の注意」の3点で整理する。入力例はいずれも顧問先を特定できる情報を除いた形である。

シナリオ入力例(要旨)出力の使い方使う際の注意
月次コメントのドラフト業種・規模・当月の主要数値・前年同月比・特記事項を渡し、社長宛400字の構成を指定する下書きとして受け取り、数値の出どころを確認して自分の言葉に直す数値を追加させない。原因の推測を書かせると事実と異なる説明が混ざる。原因は担当者が把握したものだけを書く
決算報告資料の下書き決算の要点(売上・利益の増減、要因、税額、来期の前提)を渡し、説明用の構成案と見出し案を出させる構成案を土台に、数値と図表は自分で作る税額計算の結果を書かせない。来期予測を作らせない。顧問先と合意した前提に基づく予測以外は資料に載せない
顧問先向けメール文の推敲原文と、相手との関係・目的・避けたい表現・字数を指定する整えられた文面をもとに事実関係を再確認して送信する推敲の過程で内容が変わる。金額・日付・期限は送信前に原文と突き合わせる
税制改正のポイント整理改正資料のテキストを貼り、「中小企業に影響する項目のみ、適用開始時期と実務上やることを表にして」と指定する所内共有用の一覧の素案にする。顧問先向け案内文の骨子にも使える貼った資料の範囲外の情報が混ざる。表の各行を原典と突き合わせる。適用時期の誤りが最も起きやすい
Excel関数・マクロの作成列構成・行数・想定される汚れ(空白、全角スペース、表記ゆれ)を伝え、関数式やコードをセル参照付きで求めるコピーを取ったファイルの小さな範囲で試し、手計算と一致するか確認してから全体に適用する元データを直接書き換える処理は作らせず、必ず別ファイルに出力させる。動くことと実用に耐えることは別に確認する
業種別の質問リスト作成業種・規模・組織形態・現金比率を伝え、分類軸と項目数を指定する巡回監査のチェック表の素案にする。過去の指摘事項を追記して事務所の型にする一般論の項目が並ぶため、無関係な項目は削る。削らずに持って行くと聞くこと自体が目的化する
議事録の整形文字起こしを貼り、「決定事項・保留事項・宿題(担当と期限)の3区分に整理して」と指定する整形結果を確認・修正して、当日中に顧問先へ共有する固有名詞と数値の誤変換が必ず残る。発言していない内容が混ざることもある。全文を目で追う
長文資料の要約契約書・規程を貼り、「税務・会計に影響する条項のみ抜き出し、条番号と要旨を表にして」と指定する読むべき箇所の絞り込みに使う。抜き出された条項は原文を必ず読む要約は落ちるものが必ずある。原文の目次と突き合わせる。要約だけで判断しない
英文資料の翻訳海外取引の請求書・契約書の英文を貼り、「直訳と、意味を取った訳の2種類を並べて」と指定する内容把握に使う。取引の性質(役務の提供地、対価の性質)を判断する材料にする源泉徴収や課税区分の判断は訳文ではなく契約の実態で行う。訳のニュアンス違いが判断を誤らせる
実務のコツ よく使うプロンプトは所内の共有フォルダに文例集として蓄積する。「月次コメント用」「改正整理用」「議事録整形用」の3つがあれば当面足りる。各人が毎回ゼロから書くと品質がばらつき、失敗の経験も共有されない。

6. 自計化支援とクラウド会計の導入手順

AI活用の効果を最も大きくするのは、生成AIではなく顧問先側のデータ化である。紙で受け取っている限り、どれだけAIを入れても入力作業は消えない。自計化とクラウド会計の導入は、事務所のDXの前提工事に当たる。

顧問先のレベル判定

提案の前に、顧問先が今どの段階にいるかを判定する。段階を飛ばした提案は失敗する。

レベル顧問先の状態事務所の作業次に提案すること
レベル0領収書を袋で持ち込む。帳簿は事務所が全部作る記帳代行の全工程資料を整理して渡す習慣づくり。日付順に並べる、現金と口座を分ける、の2点だけ
レベル1資料は整理され、売上・仕入の一覧をExcelで作っている記帳代行だが入力量は減るネットバンキングの明細取得、証憑のPDF化と共有フォルダでの受渡し
レベル2会計ソフトを導入し、日常の入力を顧問先が行う。決算整理は事務所月次のチェックと修正、決算銀行・カードの自動連携、証憑のOCR取込、部門別・工事別の管理
レベル3自動連携が動き、月次が翌月10日程度で締まるチェックと分析、経営助言販売管理・給与システムとの連携、資金繰り表の月次運用、予実管理
レベル4基幹システムから会計まで自動で流れ、数値が経営判断に使われている助言と検証が中心管理会計の高度化、部門別採算、業績連動の仕組み
注意 レベル0の顧問先にいきなりクラウド会計を提案しない。入力が止まり、数か月後に事務所が全部やり直すことになる。レベル0からレベル1へは「資料の出し方」の改善だけでよい。段階を1つずつ上げるのが結果的に最短である。

移行の段取り

  1. STEP1 現状の棚卸し
    使用中の業務システム、銀行口座とカードの数、月次の取引件数、入力担当者と作業時間を洗い出す。件数を把握していないと効果試算ができない。
  2. STEP2 目的と効果の合意
    「何が楽になるか」を顧問先の言葉で合意する。入力時間が月10時間減る、月次が翌月20日から10日に早まる、といった形にする。「流行っているから」では続かない。
  3. STEP3 移行時期の決定
    期首からの移行を原則とする。期中移行は残高の引継ぎと二重管理が発生し負担が跳ね上がる。間に合わなければ次期首まで待つ判断もする。
  4. STEP4 初期設定
    勘定科目体系、補助科目、部門、税区分の初期設定は事務所が行う。顧問先任せにすると後から全件修正になる。開始残高の登録と前期比較が正しく出るかの確認までを事務所の責任範囲とする。
  5. STEP5 連携の設定
    銀行・カード・決済サービスの連携を設定し、自動仕訳ルールを作る。最初の1か月は取引の8割を占める定型取引に絞る。全部を自動化しようとしない。
  6. STEP6 教育(3回で組む)
    1回目は入力の基本操作、2回目は1か月分を入力した後の疑問解消、3回目は月次締めの手順。1回で終わらせると定着しない。操作は顧問先の実データの画面で説明する。
  7. STEP7 並走期間
    最初の2〜3か月は顧問先の入力を事務所が全件確認し、誤りの傾向を把握して自動仕訳ルールを調整する。ここを惜しむと誤った処理が習慣として固定する。
  8. STEP8 運用の定着確認
    月次の締め日、連絡方法、資料の受渡し方法を文書化して共有する。担当者が変わっても回るようにするための最後の工程である。

よくあるつまずきと対処

つまずき起きること対処
入力が続かない2か月目から止まり、3か月分がまとめて来る週1回15分の入力を習慣にする。締切を「毎週金曜」と曜日で決める。月単位の締切は後ろ倒しになる
自動仕訳が的外れ推定された科目が毎回違い、修正のほうが手間になる取引先名と科目の対応をルール登録し、摘要の表記ゆれを統一する。ルールが育つまで2〜3か月かかることを最初に伝えておく
消費税区分の誤り軽減税率、非課税、不課税、インボイス有無の区分が一律になる誤りやすい取引(飲食、駐車場、保険、給与と外注の区別、免税事業者からの仕入れ)を一覧にして渡す。月次チェックで税区分は全件見る
証憑と仕訳がつながらない後から根拠を確認できず、調査時に説明できない証憑の電子データを仕訳に紐づけて保存する。ファイル名規則(日付_金額_取引先)を最初に決める
担当者の退職ログイン情報が分からず入力が止まるアカウントと権限の一覧を顧問先と事務所の双方で保持する。管理者権限は経営者本人が持つ
経営者が数値を見ない入力はされるが経営に使われず、価値を感じてもらえない月次で見る指標を3つに絞る(例:売上、粗利率、現預金残高)。全部見せると何も見なくなる

7. 事務所のDXロードマップ

事務所側の整備も段階で考える。よくある失敗は、紙のまま高度な自動化ツールを入れることである。前段が終わっていない投資は回収できない。

段階状態できるようになること次に進む条件投資対効果の考え方
第1段階 紙証憑も申告書控えも紙。資料は持参・郵送(現状維持)複合機のスキャン運用が回ること。保存先のフォルダ構成が決まっていること投資はほぼゼロ。ただし探索・再発行の時間が累積している。まずこの時間を測る
第2段階 PDF紙をスキャンしてPDFで保存。授受はメールまたは共有フォルダ検索と共有が速くなる。担当者以外でも資料にたどり着ける。在宅・出張先でも作業できるファイル名規則が全員で守られていること。共有フォルダのアクセス権が整理されていること投資はスキャナと保存領域。効果は探す時間と郵送費の削減。1年以内に回収できることが多い
第3段階 データ連携銀行・カード・販売システムから明細が自動で流れ、証憑はOCRで仕訳候補になる入力作業が大幅に減り月次が早く締まる。担当者はチェックと分析に時間を回せる顧問先の一定割合がレベル2以上にあること。チェック手順が標準化されていること投資は利用料と初期設定の工数。効果は入力工数の削減。1件あたりの月間削減時間×件数で試算する
第4段階 自動化定型処理は自動で流れ、異常値のみ人が見る件数を増やしても人を増やさずに回る。担当者の業務が助言中心に移る第3段階の運用が1年以上安定し、例外処理の手順が文書化されていること投資は大きくなる。効果は担当件数の増加と残業の削減。人件費1人分に相当するかで判断する

投資対効果の試算のしかた

導入判断は感覚でしない。次の式で1年分を試算して所長に示す。

  • 削減時間=(1件あたりの月間削減時間)×(対象件数)×12か月
  • 金額換算=削減時間×(職員の時間単価)。時間単価は人件費総額を稼働時間で割って求める
  • 費用=システム利用料の年額+初期設定と教育に要する工数の金額換算
  • 判定=金額換算した削減額が費用を上回るか。初年度は初期工数が重く回収できないことも多い。2年目以降で判断する
補足 削減した時間の使い道を決めていない導入は、効果が数字に出ない。削減時間は「残業の減少」「担当件数の増加」「助言業務の時間」のいずれかに割り当てる。決めずに導入すると空いた時間が別の作業で埋まり、投資対効果を検証できなくなる。

8. 電子帳簿保存法とAI活用の接点

OCRと自動連携を進めると必ず電子帳簿保存法の要件に触れる。ここを外すと、効率化したつもりが保存要件違反になる。押さえるべきは3点である。

接点1 電子取引データの保存はAIの有無と無関係に義務

メール添付のPDF請求書、サイトからダウンロードした領収書、電子契約書などの電子取引データは、全事業者について電子データのまま保存することが義務である。紙に出力するだけでは足りない。AI-OCRで読み取って仕訳を作っても元の電子データの保存義務は消えない。読み取ったテキストは元データの代わりにならない。

税務署長が相当の理由があると認める場合の猶予措置はあるが、調査時にデータのダウンロードの求めと出力書面の提示・提出に応じられることが条件である。「猶予措置があるから何もしなくてよい」という理解は誤りで、データ自体は保存しておかなければならない。

接点2 紙の証憑をスキャンする場合(スキャナ保存)

紙で受け取った請求書・領収書をスキャンし、紙を廃棄したいという要望は自計化とセットで出る。スキャナ保存は任意制度だが、要件を満たさなければ紙原本を捨てられない。主な要件は次のとおり。

要件内容実務での確認
解像度・階調解像度200dpi以上、赤・緑・青それぞれ256階調以上のカラー画像で読み取る複合機やアプリの設定を最初に固定する。白黒設定のままの事務所が多い
入力期間速やかに(おおむね7営業日以内)、または業務処理サイクル後に速やかに(最長2か月とおおむね7営業日以内)締め日と資料到着日から逆算して運用を決める
訂正削除の記録タイムスタンプを付与するか、訂正削除の履歴が残るシステムで保存する使用するシステムがこの要件を満たす設計かを確認する
検索機能取引年月日・取引金額・取引先の3項目で検索できることファイル名規則または索引簿で担保する
見読可能性ディスプレイとプリンタで整然・明瞭に出力できること拡大縮小して読めるか、実際に印刷して確認する
注意 AI-OCRが読み取った日付・金額・取引先を検索項目に使う場合、誤読がそのまま検索できない状態を生む。金額の桁誤り、日付の年の誤り、取引先名の誤変換は一定割合で必ず発生する。検索の3項目はOCR結果を人が突合してから確定させる。自動のまま流すと調査で「検索できません」という事態になる。

接点3 検索要件の免除と原本の扱い

電子取引データについて、基準期間の売上高5,000万円以下の事業者は、調査の際にデータのダウンロードの求めに応じられるのであれば検索要件は不要である。5,000万円を超える場合は、取引年月日・取引金額・取引先の3項目で検索できる状態にしておく。売上規模がこの基準の前後にある顧問先は期ごとに判定が変わるため、規模にかかわらず検索できる運用にするほうが楽である。

紙原本の廃棄は、スキャナ保存の要件を満たして保存した後であれば可能である。ただし実務上は、読み取り不備の確認(全ページ読めているか、金額が欠けていないか)を終えるまで廃棄しない。

実務のコツ ファイル名規則は「日付_金額_取引先」の順で統一する(例:20260507_11000_○○商事)。検索要件を満たすうえ、フォルダ内で日付順に自動で並ぶ。後から変えると過去分の全件改名が必要になるため、最初に決めて全顧問先で統一する。

9. これから求められる職員像

入力と転記が減るということは、その時間の使い道が問われるということである。作業量で貢献してきた職員は、意識して役割を移す必要がある。

価値が下がる働き方

  • 資料を受け取って入力するだけで完結する
  • 試算表を渡すが説明しない
  • 質問されたことにだけ答える
  • 期限管理はできるが、中身の検討をしない

価値が上がる働き方

  • 数値の異常に気づき、原因を顧問先に確認しにいく
  • 試算表から先の話(資金繰り、投資、採用)につなげる
  • 一次情報にあたって自分の判断根拠を持つ
  • 顧問先の業界と現場を理解している

身につけるべきスキル

スキル中身身につけ方
一次情報にあたる力法令・通達・国税庁公表資料を自分で引き、条文を読んで意味を取る月に1つ、AIに聞いた論点を条文まで遡って確認する。1年続けると調べる速度が変わる
質問設計力顧問先にもAIにも、必要な情報を引き出す問いを立てられる巡回前に確認事項を5つ書き出してから訪問し、聞き漏らした点を記録する
データ整備力Excelの関数、表の正規化、CSVの扱い、表記ゆれの統一集計、参照、条件分岐、文字列処理の4分類を使えるようにする。手作業の繰り返しを1つずつ関数に置き換える
業務設計力作業の手順を分解し、どこを自動化しどこを人が見るかを決められる月次業務を工程に分解して所要時間を測り、第1節の3分類に当てはめる
説明力専門用語を使わずに、経営者が意思決定できる形で伝える月次コメントを毎回自分の言葉で書く。AIの下書きをそのまま出さない
情報セキュリティの基礎守秘義務、個人情報、アクセス権限、事故時の初動事務所の規程を年1回読み直し、他業種の漏えい事例を自分の業務に当てはめる
業界知識顧問先の業界の商習慣、原価構造、季節変動、特有の税務論点担当先の業界紙・業界団体の資料を年に数回読む。現場を見せてもらう

学習の進め方

  1. STEP1 1つの工程で試す
    最も時間を取られている定型作業を1つ選び、AIで置き換えられるか試す。全業務を一度に変えようとしない。
  2. STEP2 効果を測る
    置き換え前後の所要時間を記録する。数値がないと、所内での共有も投資判断もできない。
  3. STEP3 失敗例を集める
    AIが間違えた例を記録して所内で共有する。成功例より失敗例のほうが教育効果が高い。第3節の型に当てはめる。
  4. STEP4 浮いた時間を先に予約する
    削減できた時間を顧問先訪問や制度の学習にあらかじめ割り当てる。放っておくと別の作業で埋まる。
  5. STEP5 定期的に見直す
    サービスの仕様も制度も変わる。半年に1回、使い方とルールを点検する。

Q. AIが進んだら、会計事務所の仕事はなくなるのか。

A. なくならないが、中身は変わる。入力と転記は確実に減る。一方で電子帳簿保存法への対応、消費税の経過措置の段階的変更、所得税の控除見直しなど、制度は複雑になり続けている。複雑になるほど、事実を確かめて判断し、責任を持って説明する役割の価値は上がる。減るのは作業であって専門家の仕事ではない。

10. AI活用の実務チェックリスト

担当先でAIやクラウドの活用を進めるとき、また自分の業務に生成AIを取り入れるときに次を確認する。1つでも「いいえ」があれば、そこが事故の起点になる。

  • 事務所が利用を認めたサービスを、事務所のアカウントで使っているか(個人アカウントを業務に使っていないか)
  • 入力しようとしている文章に、顧問先名・代表者名・所在地・取引先名・登録番号が含まれていないか
  • 個人の氏名・住所・生年月日・口座番号が含まれていないか
  • マイナンバーを含む資料を扱っていないか(含む場合は入力しない)
  • 入力データが学習に使われない設定・契約になっていることを確認したか(年1回は再確認したか)
  • 業種・地域・規模の組合せから個社が特定されない粒度になっているか
  • プロンプトに前提(対象・時点・数値・状況)と出力形式(長さ・構成・宛先)を書いたか
  • 「推測で数値を作らない」「不明な点は不明と書く」という制約を入れたか
  • 出力に含まれる制度・数値・条文番号を、法令・通達・国税庁公表資料で確認したか
  • 条文番号・通達番号を実際に引いて、実在と内容を確かめたか
  • 制度の適用期限と、何年分・何事業年度からの取扱いかを確認したか
  • 直近の改正(消費税の経過措置、2割特例の終了、基礎控除、少額減価償却資産、防衛特別法人税)が古い内容で返っていないか
  • 計算結果は電卓またはExcelで検算したか
  • 同じ論点を肯定形・否定形の両方で聞いて、答えが変わらないことを確かめたか
  • 顧問先に伝える前に、上長または担当税理士の確認を受けたか(税務判断を含む場合)
  • AIの出力をそのまま成果物にしていないか(自分の言葉で書き直したか)
  • OCRで読み取った日付・金額・取引先を、原本と突合したか
  • 電子取引データの元データそのものを、電子のまま保存しているか
  • ファイル名規則(日付_金額_取引先)に従い、検索できる状態になっているか
  • 自動仕訳のルールを定期的に見直し、誤った科目が固定していないか
  • 利用したサービス名・用途・検証した一次情報を、作業記録に残したか
  • 入力してはいけない情報を誤って入力した場合の報告手順を知っているか
補足 本章で触れた制度の適用時期や要件のうち、税制改正で毎年見直される項目については※最新の適用期限は要確認。特に消費税の経過措置と各種特例の期限、電子帳簿保存法の運用上の取扱いは、国税庁の公表資料で年1回は確認する。
実務のコツ AI活用の巧拙を分けるのは道具の性能ではなく、「どこまでを任せ、どこから自分で確かめるか」の線引きが所内で共有されているかである。線引きが個人の判断に委ねられている事務所ほど、誰かが一線を越える。第1節の3分類表と本節のチェックリストを所内の共通言語にすることから始める。
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ご利用にあたって 本手引きは2026年8月21日時点の法令・通達等に基づいて作成した実務資料です。税制は毎年改正されます。適用期限・税率・金額基準は、実際の判断の際に必ず最新の法令、国税庁の通達・質疑応答事例、各自治体の公表資料で確認してください。
記載内容は一般的な取扱いの整理であり、個別具体的な事案への当てはめを保証するものではありません。判断に迷う論点、前例のない取引、金額的影響の大きい論点は、独断で処理せず必ず所内で確認してください。

監修ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士事務所)
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