第16章 税務調査対応|会計事務所 実務ハンドブック

税務調査の種類と選定、事前通知後の段取り、準備チェックリスト、当日の進行、調査官がよく見る論点、指摘への対応、加算税と延滞税。

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CHAPTER 16
税務調査対応
目次

CHAPTER 16税務調査対応

税務調査は事故ではなく、申告内容を確かめる通常の行政手続である。慌てないための条件はただ一つ、通知を受けた瞬間に段取りが決まっていることに尽きる。本章は調査の種類と選定、事前通知から当日の進行、頻出論点への備え、指摘を受けたときの選択肢、終了後の後始末までを時系列で並べる。

1. 税務調査の種類と、選定されやすい法人

まず「今、何が起きているのか」を正確に分類する。種類が違えば、対応する相手も、答え方も、加算税の扱いも変わる。顧問先から「税務署から電話があった」と連絡を受けたら、最初にこの表のどこに当たるかを聞き取る。

調査の種類

区分内容根拠・特徴職員の動き
任意調査(実地調査)調査官が顧問先に臨場し、帳簿書類を確認する通常の調査。会計事務所が対応するもののほぼ全部がこれ国税通則法第74条の2以下の質問検査権に基づく。「任意」でも受忍義務があり、正当な理由のない拒否・虚偽答弁には罰則がある日程調整、事前準備、立会い、指摘への対応まで一貫して関与する
強制調査(査察)国税局査察部が裁判官の許可状に基づき臨検・捜索・差押えを行う。刑事告発を前提とする国税通則法第11章(犯則事件の調査及び処分)。大口・悪質な脱税が対象会計事務所単独では対応しない。直ちに所長に報告し、弁護士の関与を検討する
書面照会・お尋ね「自主的な見直しの要請」等の文書が届く形。臨場はない行政指導であって「調査」ではない。回答は任意だが、放置すると実地調査に発展しやすい照会内容を確認し、誤りがあれば速やかに自主的な修正申告を検討する
消費税単独調査消費税だけを対象とする調査。設備投資や輸出取引による還付申告の後に多い還付原因の確認が目的。課税区分と証憑の裏付けが中心論点還付申告時点で根拠資料を一式そろえておく。申告後ではなく申告前の準備が本番
源泉所得税調査源泉徴収の適否を確認する調査。法人税調査と同時に行われることが多いが単独もある経済的利益の供与、認定賞与、報酬料金の源泉漏れ、非居住者への支払が定番賃金台帳・源泉徴収簿・支払調書・旅費規程を先に点検する
無予告調査(現況調査)事前通知なしで臨場する調査。現金商売や仮装隠蔽が疑われる場合国税通則法第74条の10。通知により正確な課税標準の把握が困難になるおそれ等がある場合に限られる顧問先から連絡を受けたら即座に臨場する。到着まで待ってもらうよう依頼する
注意 無予告で調査官が来た場合、顧問先の担当者に伝えるべきことは3つだけである。第一に身分証明書と質問検査章を確認して調査官の氏名・所属官署を控えること、第二に顧問税理士に直ちに連絡すること、第三に税理士が到着するまで帳簿の提示や実質的なやり取りを始めないよう丁重に依頼すること。この依頼に応じる法的義務は調査官側にはないが、実務上は多くの場合待ってもらえる。顧問先には平時からこの3点だけ伝えておく。

選定されやすい法人の特徴

調査対象は無作為ではない。申告書と決算書のデータは電子的に蓄積・分析され、同業種・同規模との比較や過年度との変動から異常値が抽出される。以下は選定されやすい典型である。担当先がいくつ当てはまるかを、決算のたびに自分で確認する習慣を持つ。

  • 前回調査から5年以上経過している。あるいは設立以来一度も調査を受けていない
  • 売上高が急増または急減した。特に売上が伸びているのに所得が横ばいまたは減少している
  • 売上総利益率・営業利益率が前期から大きく動いた。同業種平均から乖離している
  • 消費税の還付申告をした。多額の設備投資、輸出取引、居住用でない建物の取得がある
  • 役員報酬が大きく変動した。役員貸付金・仮払金が多額で継続的に残っている
  • 雑収入・雑損失・特別損失に多額かつ内容が読み取れない項目がある
  • 現金売上の比率が高い業種(飲食、美容、小売、医院、建設の一部)である
  • 外注費の比率が高い、または前期から急増している
  • 海外取引、関係会社間取引、同族関係者との不動産取引がある
  • 過去に修正申告歴、特に重加算税の賦課歴がある
  • 申告書に添付すべき明細書が欠けている、勘定科目内訳明細書の記載が空欄だらけである
実務のコツ 最後の項目は自分たちの仕事の質の問題である。勘定科目内訳明細書の「その他」一括記載、事業概況説明書の空欄、別表の添付漏れは、それ自体が「確認しに行く価値がある」というシグナルになる。内訳書を丁寧に埋めることは、最も安上がりな調査対策である。

2. 事前通知の11項目と、通知後の段取り

実地調査を行うときは、原則として納税者と税務代理人に対し、あらかじめ電話等で通知される。通知される事項は法令で定められた11項目である。電話を受けたら、この11項目を漏らさずメモする。あとの準備の設計図がここにすべて入っている。

事前通知の11項目

番号通知事項この情報から決まること
1実地の調査を行う旨行政指導ではなく「調査」であることの確定。以後の自主的修正申告には加算税が課される
2調査を開始する日時準備に使える日数。合理的な理由があれば変更を求められる
3調査を行う場所原則は本店または事業所。会議室・応接室の確保と、原本の搬入場所の決定
4調査の目的「申告内容の確認」が通常。還付原因の確認など具体的な目的が示されることもある
5調査の対象となる税目法人税のみか、消費税・源泉所得税・印紙税まで含むか。準備する資料の範囲が決まる
6調査の対象となる期間通常は直近3事業年度。5年・7年と示されたときは相応の警戒が要る
7調査の対象となる帳簿書類その他の物件準備すべき資料の名指し。ここに挙がったものは必ずそろえる
8調査対象の納税義務者の氏名・住所対象法人の特定。グループ内の別法人と取り違えないための確認
9調査を行う職員の氏名・所属官署人数と役職。統括官が同行する場合は重点調査の可能性を織り込む
10日時・場所の変更を求めることができる旨決算期・繁忙期・社長の出張と重なる場合は遠慮せず変更を申し出る
11通知事項以外の事項について非違が疑われた場合には質問検査等を行える旨通知された税目・期間の外に話が及び得ること。準備は通知範囲より一回り広く取る
根拠 事前通知は国税通則法第74条の9に定めがある。同法第74条の10により、違法または不当な行為を容易にし、正確な課税標準等の把握を困難にするおそれ等があると認められる場合には、事前通知を要しないとされている。これが無予告調査の法的根拠である。
補足 税務代理権限証書に、調査の通知は税理士に対してすれば足りる旨の同意を記載して提出している場合、事前通知は税務代理人に対して行われる。関与先の税務代理権限証書にこの記載が漏れていないか、申告書提出時に必ず確認する。記載がないと顧問先に直接電話が入り、社長が単独で日程を約束してしまう事故が起きる。

通知を受けてから当日までの段取り

  1. STEP1 通知内容を記録し、所内で共有する
    11項目をそのままメモに落とし、担当・上席・所長で共有する。調査対象期間の申告書控えと決算書を即座に手元に出す。過去の調査履歴、前回指摘事項、その後の是正状況を確認する。
  2. STEP2 顧問先へ当日中に連絡する
    「税務調査の連絡がありました」で終わらせない。調査は通常の手続であること、通知された税目と期間、当日の所要日数(通常2日間)、社長に同席してもらう時間帯、準備してほしい資料を、その場で具体的に伝える。顧問先の不安は情報量の不足から生まれる。
  3. STEP3 日程を調整する
    決算・申告期限・棚卸・繁忙期・社長の出張と重ならないかを確認し、支障があれば変更を申し出る。日程は「顧問先の都合」で決める。担当者が立ち会えない日程を安請け合いしない。
  4. STEP4 準備指示を書面で出す
    口頭指示は必ず抜ける。次節のチェックリストを顧問先用に整えて渡し、誰が何をいつまでに用意するかを表にする。電子データは所在(サーバー、クラウド、担当者のパソコン)まで特定する。
  5. STEP5 自主点検を行う
    調査対象期間の総勘定元帳を、後述の頻出論点の観点で先に読む。誤りを見つけたら、通知前であれば自主的な修正申告で加算税を回避できる余地がある。通知後でも、更正を予知する前の修正申告は加算税が軽減される。
  6. STEP6 顧問先と事前打合せをする
    調査前日または数日前に訪問し、当日の進行、社長に聞かれること、答え方のルールを共有する。書類の置き場所と動線も確認する。金庫・レジ・在庫置場の場所を把握しておく。
注意 事前通知を受けた後に誤りに気づいた場合、修正申告をしても過少申告加算税は原則として課される(調査通知以後・更正の予知前は軽減税率)。それでも、更正を予知した後に修正するより税負担は軽く、何より調査官の心証が違う。「隠していたのではなく、見直して自分で直した」という事実は、その後のやり取り全体に効く。気づいたら黙って当日を迎えるという選択は取らない。

3. 準備の実務チェックリスト

準備の目的は「求められた資料をその場で出せる状態」を作ることである。探し回る時間が長いほど調査は延び、調査官の関心は「なぜ整理されていないのか」に向かう。以下を印刷して顧問先に渡し、担当者と一緒に消し込む。

申告・決算関係

  • 調査対象期間の法人税・地方税・消費税の申告書控え(別表・付表・添付書類を含む一式)
  • 決算書、勘定科目内訳明細書、法人事業概況説明書
  • 株主総会議事録、決算承認の記録、定款、登記事項証明書
  • 前回調査の指摘事項と修正申告書、その後の処理変更の記録

帳簿・証憑

  • 総勘定元帳、補助元帳、仕訳帳(全期間・全科目。抜粋ではなく通しで)
  • 現金出納帳、預金通帳の原本(全口座。定期・積立・別段預金も含む)
  • 売上・仕入の請求書控えと請求書、納品書、受領書、注文書、見積書
  • 領収書、レシート、クレジットカード明細、電子マネー・キャッシュレス決済の明細
  • 手形記入帳、受取手形・支払手形の現物または控え、借入金の返済予定表

契約・意思決定

  • 売買契約書、業務委託契約書、賃貸借契約書、リース契約書、保険証券
  • 取締役会議事録、稟議書、決裁書、社内規程(旅費規程、慶弔規程、貸付規程)
  • 役員報酬の改定を決議した議事録(改定時期と金額が定期同額給与の要件を満たすかの根拠)
  • 事前確定届出給与の届出書控えと、実際の支給日・支給額がわかる資料

人件費・源泉

  • 賃金台帳、出勤簿・タイムカード、雇用契約書、給与規程
  • 源泉徴収簿、扶養控除等(異動)申告書、年末調整関係書類、法定調書合計表
  • 源泉所得税の納付書控え(納期特例の適用有無を含む)
  • 外注先の一覧、外注契約書、請求書、支払調書
  • 社会保険・労働保険の申告書と、給与総額との突合資料

資産・在庫

  • 棚卸表(原始記録である現物カウント用紙まで含む)、評価方法の届出書控え
  • 固定資産台帳、減価償却の計算根拠、除却・売却の証憑(廃棄写真、マニフェスト等)
  • 少額減価償却資産の特例の適用明細(別表十六(七))と、取得価額がわかる資料
  • 倉庫・現場・預け先の在庫の所在一覧、積送品・未着品・預け在庫のリスト
  • 貯蔵品(未使用の切手・収入印紙・商品券・回数券)の期末実査記録

電子データと電子帳簿保存法

2026年(令和8年)時点で、電子取引データの電子保存は全事業者の義務である。調査では「電子で受け取った請求書を、電子のまま、探せる形で保存しているか」が具体的に問われる。当日になって慌てないよう、次を先に確認する。

  • 会計データを調査官に提示できる形にしてあるか(画面表示、印刷、CSVでの出力手順を担当者が実演できるか)
  • 電子取引データの保存場所が特定されているか。メール添付、Web明細のダウンロード、EDI、クラウド上のやり取りをすべて洗い出したか
  • ファイル名規則が運用されているか(例:20260507_11000_取引先名)。索引簿方式の場合は索引簿が最新か
  • 基準期間の売上高が5,000万円以下の顧問先は、調査時にダウンロードの求めに応じられれば検索要件は不要。5,000万円超は日付・金額・取引先による検索ができるか
  • 電子取引データの事務処理規程が整備され、実際の運用と一致しているか
  • 猶予措置に依拠している場合、データのダウンロードと出力書面の提示・提出の両方に応じられる体制になっているか
  • バックアップの所在と復元手順。担当者が退職している場合のアクセス権限
よくあるミス 「紙で全部印刷してあるから大丈夫です」という顧問先の申告を、そのまま信じてしまう。電子取引データは紙に出力しただけでは保存義務を果たしたことにならない。逆に、電子データさえあれば紙の出力は必須ではない。この二点を取り違えたまま調査当日を迎えると、その場で運用の不備が露見する。事前訪問で、実際にパソコンを操作してもらって確認する。
実務のコツ 準備した資料は、調査官に渡す前に必ず担当者が一度目を通す。目的は隠すことではない。想定外の資料が紛れていないか、私物の書類や他社の情報が混ざっていないか、そして「これを見せたら必ず質問される」という箇所を先に把握しておくためである。質問を予測できていれば、その場で答えられる。

4. 調査当日の進行

標準的な中小企業の実地調査は2日間である。初日午前は概況ヒアリング、初日午後から2日目にかけて帳簿の確認、最終日夕方に指摘事項の整理という流れになる。それぞれの局面で誰が何を話すかを、事前に決めておく。

1日目午前 — 概況ヒアリング

調査官は帳簿をいきなり開かない。まず社長から会社の話を聞く。ここで得た情報をもとに、午後どこを重点的に見るかを決めている。つまり午前のヒアリングは雑談ではなく、調査の設計そのものである。

聞かれること調査官の狙い答え方の指針
創業の経緯、沿革、株主構成同族関係と実質的な支配者の把握事実を簡潔に。系図や資本関係は図で用意しておくと早い
事業の内容、主力商品、取引先売上計上のタイミングと商流の理解主要3社程度の取引の流れを、受注から入金まで順に説明する
受注から入金までの流れ、締日期ズレの発見。締後売上の計上漏れ締日と請求サイクル、月末をまたぐ取引の処理方法を明確に
現金の取扱い、レジ、金庫の管理者売上除外の余地の有無誰が何を管理し、いつ入金しているかを事実どおりに
従業員数、外注先の使い分け給与と外注費の区分、架空人件費雇用と業務委託の区別基準を、契約の実態に即して
社長の1日、私生活との接点家事関連費、私的経費の混入社用車の使用実態など、聞かれた範囲で正直に
最近の業績、設備投資、今後の計画異常値の背景の確認数字の変動には必ず理由がある。その理由を説明する

社長が話すべきこと

  • 事業の実態。何を売って、どう儲けているか
  • 数字が動いた理由。増収の背景、赤字の原因
  • 社内の役割分担。誰が何を決めているか
  • 聞かれたことへの、事実に基づく答え

話しすぎてはいけないこと

  • 聞かれていない他社・他年度の話
  • 推測や伝聞。「たぶん」「聞いた話では」
  • 記憶が曖昧な過去の経緯を断定的に語ること
  • 個人の資産、家族の収入など調査対象外の事項
注意 社長は自社の話を聞いてもらえると嬉しくなり、つい話が広がる。悪気なく口にした一言が、聞かれていなかった論点への入口になる。事前打合せでは「質問には答える。ただし聞かれたこと以外は言わない」を一つの言葉で伝えておく。逆に、答えたくないからと黙り込むのも悪手である。沈黙は疑念を呼ぶ。

担当者(会計事務所職員)の役割

  • 進行の管理。調査官と顧問先の間に立ち、質問の意図を必要に応じて言い換えて伝える。専門用語で聞かれて社長が意味を取り違えたまま答える事故を防ぐ。
  • 記録。誰が、いつ、何を質問し、誰がどう答えたかを時系列で書き残す。提出した資料、預けた原本、後日回答とした事項をすべて記録する。この記録が、後日の指摘に対する反論の土台になる。
  • 資料の出し入れ。求められた資料を出す。求められていない資料を勝手に出さない。所在がわからないものは「確認して後ほど」と答える。
  • 会計処理の説明。仕訳の根拠、採用した基準、判断の理由を説明するのは職員の仕事である。社長に会計処理の理由を答えさせない。
  • 時間管理。昼食は別々にとる。調査官を接待しない。手土産・贈答は一切しない。

質問への回答ルール

  1. 事実だけを答える。推測、憶測、希望的観測を混ぜない。
  2. わからないことは「わかりません。確認して後日回答します」と答える。これは逃げではなく、正しい対応である。曖昧な記憶で答えた内容が後で事実と食い違うと、その食い違い自体が仮装隠蔽の疑いを招く。
  3. 後日回答とした事項は必ずメモし、期限を切って回答する。放置は最も心証を損なう。
  4. 解釈を求められたら職員が答える。「この費用はなぜ交際費ではないのか」といった税務判断の質問は、社長ではなく職員が根拠を示して答える。
  5. その場で修正を約束しない。「確かに違いますね、直します」と即答すると、事実関係を確認する前に非を認めたことになる。持ち帰って検討すると伝える。

原本の預かりと預り証

調査官が帳簿書類の一部を署に持ち帰ることがある。これは国税通則法第74条の7に基づく提出物件の留置きであり、応じる場合は必ず預り証の交付を受ける。以下を必ず確認する。

  • 預り証に、預かる物件の名称・数量・期間が具体的に特定されているか(「帳簿一式」のような包括表記は避けてもらう)
  • 預り証の写しを顧問先と事務所の双方で保管したか
  • 業務に必要な書類は、コピーを取ってから渡したか
  • 返却の見込み時期を確認したか。返却時は預り証と現物を照合し、受領の記録を残したか
補足 留置きは納税者の同意を前提とする。業務に支障が出る書類は、その旨を説明してコピーでの対応を相談する。一方で、正当な理由なく提示・提出を拒むと質問検査権の妨害となり、令和6年(2024年)1月1日以後に法定申告期限が到来する分については、帳簿の提示等がない場合の加算税の加重措置の対象にもなり得る。断るのではなく、条件を調整するという発想で臨む。

5. 調査官がよく見る論点と、その備え

調査で問題になる論点は、業種を問わずおおむね決まっている。以下の表を決算作業のチェックリストとしても使う。調査対策とは、調査の直前にやることではなく、毎期の決算でこの表を潰しておくことである。

論点見られ方平時の備え
売上の期ズレ期末前後1か月の出荷・検収・請求を並べ、翌期計上の中に当期分がないかを確認する。出荷基準と検収基準の使い分けが年度で揺れていないかも見る期末月と翌期首月の納品書・検収書を突合した資料を毎期作る。収益認識の基準を明文化し、継続適用する
売上の除外現金売上、レジ外の入金、社長個人口座への入金、雑収入に紛れた本業収入。取引先への反面調査で裏を取られる入金経路を法人口座に一本化する。個人口座での受領が残る場合は、その全件を法人に振り替える運用にする
棚卸資産原始のカウント用紙と棚卸表の一致、預け在庫・積送品・未着品・仕掛品の計上漏れ、貯蔵品(切手・印紙・商品券)の期末残棚卸の原始記録を必ず保存する。外部倉庫・現場・委託先の在庫は毎期リスト化して残高証明を取る
外注費と給与の区分実態が雇用なら給与と認定され、源泉徴収漏れと消費税の仕入税額控除否認が同時に起こる。ダメージが最も大きい論点の一つ代替性の有無、指揮監督の有無、未完成物の報酬請求の可否、材料・用具の供給者という4つの視点で判定し、判定結果を書面で残す。契約書と実態を一致させる
交際費等会議費・福利厚生費・広告宣伝費に紛れた交際費、参加者不明の飲食費、1人当たり基準の判定誤り飲食費の領収書裏面に必ず参加者名と人数と目的を書く運用にする。1人当たり10,000円以下の飲食費を交際費から除外するには、参加者の氏名等の記録保存が要件である
役員給与期中の増額改定、未払計上と実際の支給、定期同額給与・事前確定届出給与の要件充足、不相当に高額な部分改定は原則として事業年度開始の日から3か月以内に行い、議事録を残す。事前確定届出給与は届出どおりの日に届出どおりの額を支給する。1円でも1日でもずれると全額が損金不算入になる
役員貸付金・仮払金長期滞留、増加傾向、認定利息の未計上。実質的に賞与ではないかと疑われる金銭消費貸借契約書と返済計画を整備し、利息を必ず計上する。回収不能なものを漫然と残さない。増加している場合は原因(私的経費の立替え)を先に断つ
修繕費と資本的支出資産の価値を高める支出、耐用年数を延ばす支出が一括で費用化されていないか。金額の大きい修繕はほぼ確実に見られる工事の見積書・仕様書で内容を確認し、判定の根拠をメモに残す。1件20万円未満、おおむね3年以内の周期での支出、60万円未満または前期末取得価額のおおむね10%以下といった形式基準の適用可否を、通達の順序どおりに当てはめる
消費税の課税区分非課税・不課税・免税の区分誤り、課税売上割合の計算、個別対応方式の用途区分、居住用賃貸建物に係る仕入税額控除の制限科目ごとの課税区分表を作り、新規取引が発生したら区分を決めてから入力する。売上側の区分誤りは納税額に直結する
免税事業者からの仕入れ経過措置の割合が正しいか。適格請求書発行事業者でない相手からの課税仕入れに、経過措置適用の区分と帳簿への記載がされているか2026年(令和8年)10月1日以後の課税仕入れから控除割合は80%から70%に下がる。会計ソフトの税区分設定を9月末で切り替える。切替漏れは全社的な誤りになるため、対象先を一覧化して事前に段取りする
印紙税契約書・領収書の課税文書該当性、記載金額に応じた税額、消印の有無。原本を並べて確認される契約書の種類ごとに要否と税額の一覧を作り、締結時に確認する。電子契約は課税文書に当たらない点も含めて社内に周知する
現金その場で現金実査が行われることがある。帳簿残高と手許現金の不一致、マイナス残高現金出納帳を日次で締める。マイナス残高を出さない。社長の財布と法人の現金を分ける
家事関連費社用車の私的利用、自宅兼事務所の按分、家族旅行を装った出張、私物の購入按分基準を書面化し、毎期同じ基準で計算する。走行記録・使用記録を残す
架空人件費実在しない従業員、勤務実態のない親族への給与、退職者への支給継続。タイムカードと振込記録の突合、住民税の特別徴収との照合で発覚する親族従業員こそ出勤簿・業務内容・給与水準の根拠を整える。振込で支給し、現金手渡しを残さない
期末の未払計上債務が確定していない費用の未払計上、翌期の費用の先取り、賞与引当の損金性期末日までに債務が確定していること(発生・具体的給付原因・金額の合理的算定)を、請求書または契約で示せるようにする
根拠 費用の損金算入時期は法人税法第22条第3項の債務確定基準による。収益の計上時期は同法第22条の2に定めがある。修繕費と資本的支出の区分は法人税基本通達7-8-1から7-8-5に形式基準が置かれている。判定に迷ったら、条文と通達を順に当てはめ、結論だけでなく当てはめの過程をメモに残す。調査で問われるのは結論ではなく理由である。
実務のコツ 上の表のうち、当期に該当する論点については、決算時に判断メモを作って調書に綴じておく。書く内容は4行でよい。事実、適用した条文・通達、当てはめ、結論。調査で聞かれたとき、このメモがあれば10秒で答えられる。なければ、当時の判断を思い出すところから始めることになる。3年前の自分は他人である。

6. 指摘を受けたときの対応

まず、争いの性質を切り分ける

指摘に対応する最初の作業は、それが事実認定の争いなのか法解釈の争いなのかを見極めることである。この切り分けを飛ばして反論すると議論が噛み合わない。

事実認定の争い

「本当にその取引はあったのか」「誰が使ったのか」「いつ引き渡したのか」という、事実そのものの認定をめぐる争い。

  • 勝負を分けるのは証拠である。契約書、納品書、写真、メール、入退館記録、走行記録
  • 記憶ではなく記録で反論する
  • 証拠がない場合、当時の合理的な業務慣行を第三者資料で補強できないかを探す

法解釈の争い

事実は共通で、その事実に法令をどう当てはめるかが分かれる争い。

  • 勝負を分けるのは条文・通達・裁決例・判例である
  • 調査官の指摘の根拠がどの条文・通達かを必ず確認する。「一般的にそうです」で終わらせない
  • 国税不服審判所の公表裁決事例、国税庁の質疑応答事例を検索し、近い事例を探す
注意 指摘を受けたら、まず「その根拠となる条文または通達を教えてください」と聞く。これは対決姿勢ではなく、正確な検討のための当然の確認である。根拠を聞いたうえで自分で条文を読み、当てはめが正しいかを検証する。調査官の指摘が常に正しいわけではないし、常に誤っているわけでもない。読んで判断する以外に方法はない。

修正申告の勧奨と更正の違い

項目修正申告(勧奨に応じる)更正(処分を受ける)
誰の行為か納税者が自ら申告する税務署長が行政処分をする
不服申立てできないできる(再調査の請求または審査請求)
更正の請求できる(法定申告期限から5年以内)できる
手続修正申告書を提出。後日、加算税の賦課決定通知書が届く更正通知書が届く。加算税は賦課決定通知書
実務上の位置づけ大半の調査はここで終わる。争点がない、または争っても勝ち目が薄い場合の合理的な選択納得できない指摘があり、争う意思がある場合に選ぶ
根拠 調査結果の説明と修正申告の勧奨は国税通則法第74条の11に定めがある。勧奨に当たっては、修正申告書を提出すると不服申立てをすることはできないが更正の請求はできる旨が、書面で説明され交付される。この書面は必ず受け取り、控えを保管する。
実務のコツ 修正申告に応じるか更正を受けるかは、顧問先が決めることである。職員は「税額」「争った場合の見通し」「手間と時間」「取引先や金融機関への影響」を整理して示し、判断材料をそろえる。ここで職員が勝手に「修正申告で終わらせましょう」と決めるのは越権である。逆に「絶対に争いましょう」と煽るのも無責任である。選択肢と見通しを示すのが仕事である。

不服申立ての流れ

  1. STEP1 再調査の請求
    処分を行った税務署長等に対して請求する。処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内。省略して直接審査請求をすることもできる。
  2. STEP2 審査請求
    国税不服審判所長に対して行う。処分の通知を受けた日の翌日から3か月以内。再調査の請求をした場合は、その決定の通知を受けた日の翌日から1か月以内。審判所は税務署から独立した機関で、法令解釈が争点の事案ではここで納税者の主張が認められることもある。
  3. STEP3 訴訟
    裁決に不服がある場合、裁決の通知を受けた日から6か月以内に地方裁判所へ出訴する。ここまで来ると弁護士との共同対応になる。
補足 不服申立てをしても、原則として納税義務は停止しない。争っている間も本税・加算税・延滞税は発生する。延滞税は日々増えるため、争う場合でもいったん納付しておき、認められたら還付を受けるという選択が合理的なことが多い。この判断を顧問先に必ず説明する。

加算税と延滞税

種類原則の割合調査通知前に自主的に申告調査通知後・更正の予知前
過少申告加算税10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%)課されない5%(同じ超過部分は10%)
無申告加算税15%(50万円超の部分20%、300万円超の部分30%)5%10%(50万円超15%、300万円超25%)
重加算税過少申告に代えて35%、無申告に代えて40%
不納付加算税(源泉)10%5%(納税告知を予知しない自主納付)

上記に加えて、次の加重がある。

  • 繰り返しの加重。過去5年内に無申告加算税または重加算税を課されたことがある場合、無申告加算税・重加算税がそれぞれ10%加重される。
  • 帳簿の不提示等による加重。売上に関する一定の帳簿の提示・提出がない場合や記載が著しく不十分な場合、過少申告加算税・無申告加算税が10%(不十分の程度により5%)加重される。令和6年(2024年)1月1日以後に法定申告期限が到来する国税に適用される。
  • 延滞税。法定納期限の翌日から完納の日までの日数に応じて課される。納期限の翌日から2か月以内の期間と、それ以後の期間で割合が異なり、後者は大幅に高い。割合は毎年告示されるため、計算時に必ず適用年の割合を確認する。※延滞税の割合は年ごとに変動するため、最新の割合は要確認

重加算税の要件

重加算税は「隠蔽」または「仮装」があった場合にのみ課される。単なる計算誤りや解釈の誤り、うっかりの計上漏れでは課されない。ここは絶対に譲らずに事実を確認する。税率が重いだけでなく、過去5年内の賦課歴が次回以後の加重要件になり、青色申告の承認取消しの検討材料にもなるからである。

類型具体例重加算税の対象になるか
隠蔽二重帳簿の作成、売上の意図的な除外、簿外預金への入金、在庫の意図的な除外対象になる
仮装架空の請求書・領収書の作成、他人名義の使用、契約書の日付の改ざん、架空人件費の計上対象になる
単純な誤り計算ミス、転記ミス、消費税の課税区分の取り違え、通達の解釈の誤り対象にならない(過少申告加算税にとどまる)
認識の欠如制度を知らずに未計上だった、判断を誤ったが根拠は残っている原則として対象にならない
注意 調査の現場では、事実としては単純な誤りであるのに、説明が二転三転したことで「隠そうとした」と評価されてしまうことがある。第4節の回答ルール、とりわけ「わからないことは後日回答する」の徹底が、そのまま重加算税の回避につながる。曖昧な記憶で取り繕った一言が、35%の差を生む。

Q. 調査官から「重加算税になりますよ」と言われた。どう対応するか。

A. その場で認めない。隠蔽または仮装に該当すると考える具体的な事実は何かを確認し、書き留める。持ち帰って、その事実の有無を証憑で検証する。単純な誤りであると考える場合は、誤りが生じた経緯を時系列で整理し、隠蔽・仮装の意図がなかったことを示す資料(社内のやり取り、担当者の交替、システムの設定誤り等)とともに主張する。重加算税は課税庁側が要件該当性を立証すべきものであり、納税者が「違う」と証明しなければならないものではない。

7. 調査終了までの流れと、終了後にやること

  1. STEP1 実地調査の終了
    帳簿の確認が終わると、調査官は署に戻って検討する。この間、追加資料の提出依頼や電話での質問が続くことがある。後日回答とした事項は、この期間に期限を切って回答する。
  2. STEP2 調査結果の説明
    非違があると認められる場合、その内容・金額・理由が説明される。この説明は必ずメモを取る。指摘項目ごとに、事実、根拠条文、税目、対象年度、増差所得、税額を一覧にする。
  3. STEP3 検討と回答
    持ち帰って検討する。納得できる指摘と、納得できない指摘を分ける。納得できない部分は根拠を示して主張する。全部を丸呑みしないし、全部を突っぱねもしない。
  4. STEP4 修正申告または更正
    修正申告の勧奨に応じる場合は修正申告書を作成・提出する。応じない場合は更正処分を待つ。是認の場合は更正決定等をすべきと認められない旨の通知書が交付される。これは必ず受け取り、保管する。
  5. STEP5 納付
    修正申告の場合、本税は修正申告書の提出日が納期限となる。加算税は後日届く賦課決定通知書に従って納付する。延滞税は納付日までの日数で計算される。資金繰りを顧問先と確認し、一括納付が困難な場合は納税の猶予や換価の猶予の相談を早めに行う。

終了後にやること

調査が終わって修正申告書を出したら仕事は終わり、ではない。同じ指摘を次回も受けるなら、事務所として何も学んでいないことになる。次の3つを必ず実行する。

  • 調査記録を残す。調査年月日、調査官の所属と氏名、対象税目・期間、指摘事項、増差所得と税額、加算税の種類、こちらの主張と結論。1枚にまとめて顧問先ファイルの先頭に綴じる。次回の調査で必ず参照される
  • 原因を分析する。指摘は「顧問先の運用に原因があるもの」と「事務所のチェックに原因があるもの」に分けられる。後者は事務所の決算チェックリストに項目を追加する。前者は顧問先の業務フローの手直しにつなげる
  • 顧問先の社内ルールを直す。領収書裏面への参加者記載、現金出納帳の日次締め、在庫カウント用紙の保存、契約書の締結時チェックなど、指摘に対応する具体的な運用ルールを文書化して渡す。口頭の注意は3か月で消える
  • 翌期の申告に反映する。指摘を受けた処理は翌期以後も同じ論点として残る。会計ソフトの税区分設定、按分率、判定基準を書き換える。翌期の決算チェックリストに「前回調査指摘事項の反映確認」を必ず入れる
  • 顧問先への報告を行う。結果、原因、再発防止策を書面で報告する。社長は「いくら払うことになったか」よりも「なぜ起きて、次はどうするか」を知りたい
実務のコツ 調査の結果、増差がゼロまたはごく僅少で終わった場合も、必ず記録に残す。「前回調査は是認であった」という事実は、次回調査での説明の土台になるし、顧問先に対する自分たちの仕事の証明にもなる。良い結果ほど記録から漏れやすい。

8. 職員としての心構え

顧問先を守るとは何か

「顧問先を守る」を「税額をゼロにする」「調査官を追い返す」と取り違えないこと。守るとは、次の3つを指す。

  • 正しい税額に落ち着かせること。払わなくてよい税金を払わせないと同時に、払うべき税金を払わずに後で重い負担を負わせない。過大な指摘には根拠を示して反論し、正当な指摘には速やかに応じる。
  • 不必要な負担から遠ざけること。調査の長期化、重加算税、青色申告の承認取消しといった、避けられたはずの不利益を避ける。そのために平時の記録と当日の言葉遣いを整える。
  • 次に同じことが起きない状態を作ること。調査は顧問先の管理体制を第三者が点検してくれる機会でもある。指摘を運用改善に変換して初めて、顧問料に見合う仕事になる。

嘘をつかない

これは倫理の話であると同時に、極めて実務的な話である。虚偽の答弁は罰則の対象であり、税理士にとっては懲戒の対象にもなる。それ以上に、一度でも事実と違うことを言えば、以後のこちらの主張はすべて疑われる。正しい主張まで通らなくなる。

知らないことは「知りません」、確認していないことは「確認します」、記憶が曖昧なことは「記憶が定かでないので記録で確認します」と言う。これは弱腰ではない。事実を積み上げる者だけが、最後に正しい結論に辿り着ける。

記録を残す

調査の場では、記録を持っている側が強い。逆に、記録のない主張はどれほど正しくても通らない。次の3層で記録を残す習慣を持つ。

残すものいつ作るか
平時判断メモ(事実・条文通達・当てはめ・結論の4行)、按分基準、契約書、稟議、議事録その処理を決めた日。後から作らない
調査中質問と回答の時系列記録、提出資料の一覧、預り証の写し、後日回答事項と期限その日のうちに清書する
調査後調査結果の説明内容、主張と結論、修正申告の内容、再発防止策終了後1週間以内
よくあるミス 「あのときの判断、確か根拠があったはずなんですが…」で止まってしまう。3年前の判断の根拠を記憶で再現できる人はいない。判断メモは、未来の自分と、自分の後任と、顧問先を守るために書く。書くのは4行、かかるのは3分、効くのは3年後である。
補足 調査対応は、経験の差が最も大きく出る仕事である。新人が一人で立ち会うことは避け、必ず上席と組む。同時に、新人は同席して記録係を務めることで最も早く学べる。記録係は「聞いているだけ」ではない。誰が何をどう聞き、どう答え、どこで話が転換したかを追う訓練であり、調査の構造がそのまま頭に入る。
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ご利用にあたって 本手引きは2026年8月21日時点の法令・通達等に基づいて作成した実務資料です。税制は毎年改正されます。適用期限・税率・金額基準は、実際の判断の際に必ず最新の法令、国税庁の通達・質疑応答事例、各自治体の公表資料で確認してください。
記載内容は一般的な取扱いの整理であり、個別具体的な事案への当てはめを保証するものではありません。判断に迷う論点、前例のない取引、金額的影響の大きい論点は、独断で処理せず必ず所内で確認してください。

監修ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士事務所)
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