月次締めの12ステップ、月次チェックリスト、試算表の分析(変動費と固定費、損益分岐点)、資金繰り表の作り方、巡回監査で見るもの。
CHAPTER 06月次決算と巡回監査
月次決算のゴールは試算表を出力することではない。経営者がその数字で判断でき、決算・納税の着地が読める状態にすることである。本章では月次締めの標準手順、確認すべきチェック項目、試算表の分析、資金繰り表、巡回監査までを一連の作業として整理する。
1. 月次決算の目的と品質基準
月次決算は「記帳代行の副産物」ではなく、独立した成果物である。仕訳を入力すれば試算表は自動で出る。しかしその試算表の各残高が何を意味しているか説明できなければ、経営者にとっては色のついた紙にすぎない。月次決算とは、数字を作る作業ではなく数字を使える状態にする作業だと定義しておく。
月次決算の3つの目的
1. 経営判断の材料をつくる
先月いくら儲かり、原因は何か、このままだと期末はどうなるか。経営者が翌月の行動を変えられる粒度まで落とす。締めが遅ければ判断に間に合わず、価値はゼロになる。
2. 決算・納税を前倒しする
月次で減価償却費や引当を織り込めば、期中いつでも着地予測と納税予測ができる。決算対策は期末を過ぎたら打てない。月次の精度が対策の選択肢の幅になる。
3. 誤りと不正を早期に見つける
現金のマイナス残、預り金の異常残高、売掛金の長期滞留は、放置すれば決算でまとめて発覚する。月次で潰せば10分の作業が、決算期には数日の遡及調査になる。
品質基準は4つで判定する
| 基準 | 内容 | 合格ラインの目安 |
|---|---|---|
| 適時性 | 翌月のいつ確定するか | 翌月20日までに経営者へ報告。翌々月にずれ込んだ月次は判断材料にならない |
| 正確性 | 貸借対照表の残高が外部証憑と合っているか | 現金・預金・借入金は100%一致。売掛金・買掛金は補助元帳と一致 |
| 網羅性 | 取引の抜けがないか | 通帳の全行が仕訳になっている。請求書・カード明細の連番が飛んでいない |
| 説明可能性 | 増減の理由を言えるか | 貸借対照表の全科目について「なぜこの残高か」を1行で説明できる |
締め日ルールを明文化する
月次が遅れる原因の大半は資料の到着遅れである。関与先ごとに次の4つの日付を決め、業務連絡書に明記する。口頭の約束は必ず崩れる。
- 資料受領期限:翌月第5営業日。通帳、売上請求書控、仕入請求書、領収書、給与明細、カード明細。
- 入力完了:翌月10日。未確定項目を一覧化して照会する。
- 試算表確定:翌月15日。照会回答を反映し所内レビューを通す。
- 報告:翌月20日。巡回監査または月次報告の実施。
事務所ルールとして、期限に資料が届かない場合は「届いた日から10営業日後に報告」へ切り替える運用を明示する。遅延の責任所在が明確になる。
2. 月次締めの標準手順(12ステップ)
手順を固定すると、担当者が替わっても品質が落ちない。次の12ステップは順番に意味がある。特に「預金突合」を仕訳入力の直後に置くのは、ここで網羅性が担保されないと以降のすべての確認が無意味になるためである。
- STEP 1 資料受領と受領チェック
チェックシートで受領物を照合する。通帳は前月末残高から当月末残高まで連続しているか、ページの飛びがないかを見る。ネットバンキング明細はCSVで期間指定して取得する。不足資料は即日照会する。後回しにすると締めの終盤で全体が止まる。 - STEP 2 仕訳入力(自動連携の検証を含む)
自動連携が推測した勘定科目を鵜呑みにしない。振込手数料、リース料と保険料の混同、口座振替の内容不明分に誤りが出やすい。摘要には必ず「取引先名+内容」を入れる。摘要が「振込」だけの仕訳は誰も内容を思い出せない。 - STEP 3 預金の突合
全口座の月末残高が通帳・残高証明・ネットバンキングと一致することを確認する。当座預金は未取立小切手・未落小切手を把握し銀行勘定調整表を作る。定期・積立・外貨預金も動かす。ここが合わない限り先へ進まない。 - STEP 4 売掛金・買掛金の残高確認
売掛金は得意先元帳の合計と総勘定元帳が一致すること、請求額と入金額が対応することを見る。買掛金は請求書と発注・検収の一致を見る。差額が出たら「値引」「返品」「請求漏れ」「入金の他社充当」の4つを疑う。 - STEP 5 棚卸資産の月次計上
実地が困難なら、売上高に標準原価率を乗じるか、期首在庫+仕入−売上原価で推定する。推定でよいので必ず動かす。年1回しか棚卸を動かさない月次は粗利率が毎月でたらめになる。 - STEP 6 減価償却費の月次計上
年間償却予定額を12で割って毎月計上し、期中取得資産は事業供用月から月数按分で加える。手入力運用だと期末に台帳と累計額が合わなくなるため、台帳側で月次償却を出力して転記する運用にそろえる。 - STEP 7 引当・経過勘定の計上
賞与の月割見積、社会保険料の未払、家賃・リース料・保険料の前払按分、未払利息、未収収益を計上する。賞与を支給月に一括計上するとその月だけ損益が沈み、月次比較が壊れる。年間見込額の12分の1を毎月積む。 - STEP 8 役員貸付金・仮払金等の確認
役員貸付金、仮払金、立替金、仮受金は内容不明の受け皿になりやすい。当月の増減について、いつ・誰に・何のために出た金かを特定する。役員貸付金は認定利息の計上が必要で、放置すると金融機関の評価も下がる。 - STEP 9 消費税区分のチェック
課税・非課税・不課税・免税・対象外の区分を、金額の大きい取引と新規取引先から順に確認する。免税事業者からの課税仕入れは令和8年(2026年)10月1日以後、控除できる割合が80%から70%に下がるため、入力区分を切り替えたかを必ず見る。 - STEP 10 前月比・前年同月比の分析
損益計算書を当月・前月・前年同月の3期比較で出し、金額と構成比の両方で変動を見る。売上・売上原価・粗利率・人件費・その他経費の順に追う。単月では季節変動に振り回されるため累計も同時に見る。 - STEP 11 異常値の照会
推測でしか説明できない項目を一覧にして照会する。「なぜ増えたか」ではなく「この請求書は新規の外注ですか、既存取引の前倒しですか」と選択肢を示して聞く。回答が返る速度が2倍になる。 - STEP 12 試算表の確定と所内レビュー
回答を反映し、担当者以外がレビューする。観点は「貸借対照表の各残高に根拠があるか」「損益の異常値に説明メモがあるか」の2点でよい。確定後は再入力禁止とし、修正は当月以降で処理する。過月の数字が動くと報告資料と食い違い、信用を失う。
3. 月次チェックリスト
次のリストは毎月すべて確認する。関与先の規模にかかわらず項目は減らさない。該当なしの項目は「該当なし」と記録する。確認したうえで該当なしなのか見落としたのかを、後任者が区別できるようにするためである。
貸借対照表・資産の部
- 現金の帳簿残高が現金出納帳および金種表と一致している
- 現金残高が月中を含め一度もマイナスになっていない
- 全預金口座の月末残高が通帳・ネットバンキング残高と一致している
- 当座預金について銀行勘定調整表を作成し、未取立小切手・未落小切手を把握している
- 受取手形の残高が手形記入帳と一致し、期日到来分の取立処理が済んでいる
- 売掛金に3か月以上の滞留がない(あれば内容と回収予定を把握している)
- 仮払金・立替金の内容がすべて判明し、精算予定が決まっている
- 役員貸付金の増加理由が説明でき、返済計画がある
- 当月の固定資産取得が資産計上され、事業供用月から償却が開始されている
- 取得価額10万円未満・20万円未満・特例対象の区分が正しく判定されている
貸借対照表・負債および純資産の部
- 支払手形の残高が手形記入帳と一致し、決済分が落ちている
- 買掛金の総勘定元帳残高と仕入先元帳の合計が一致している
- 未払金・未払費用の計上漏れがない(社会保険料、リース料、カード決済、外注費)
- 預り金(源泉所得税)の残高が翌月10日納付額または納期特例の累計と整合している
- 預り金(住民税)の残高が特別徴収税額通知の月額合計と整合している
- 借入金残高が金融機関の返済予定表と一致し、元本と利息が正しく区分されている
- 役員借入金の増減理由が説明でき、資金の出どころが確認できている
損益計算書
- 売上高が売上台帳・請求書合計と一致している
- 売上の計上基準(出荷基準・検収基準・役務完了基準)どおりに期間帰属している
- 粗利率が前月・前年同月から3ポイント以上動いていない(動いていれば理由が判明している)
- 前月比または前年同月比でプラスマイナス20%以上変動した科目の理由が判明している
- 人件費が給与台帳の総支給額と一致している
- 法定福利費が社会保険料の会社負担分と整合している
- 外注費と給与の区分が実態(指揮命令、時間拘束、材料負担)と整合している
- 交際費と会議費の区分が正しい(1人当たり10,000円以下の飲食費は会議費等として交際費から除外できる)
消費税
- 課税・非課税・不課税・免税・対象外の区分が主要取引で正しい
- 免税事業者等からの課税仕入れが経過措置の区分で入力されている
- 新規取引先の登録番号を国税庁の公表サイトで確認している
- 輸出免税・国外取引が正しく区分されている
- 非課税売上(受取利息、土地の譲渡・貸付、住宅家賃)が正しく区分され、課税売上割合への影響を把握している
- 令和8年(2026年)10月1日以後の取引について、控除割合が80%から70%に切り替わっている
- 税込1万円未満の課税仕入れについて少額特例の適用可否(基準期間の課税売上高1億円以下、または特定期間の課税売上高5,000万円以下)を判定している
4. 試算表の見方と分析
まず変動費と固定費に分ける
会計上の売上原価・販売費及び一般管理費という区分は経営判断に向かない。売上に比例して増える費用(変動費)と、売上が動いても変わらない費用(固定費)に組み替えると、いくら売れば黒字になるかが即座に分かる。厳密な分解は不要で、勘定科目ごとにどちらかへ割り切る「勘定科目法」で十分実務に耐える。
| 業種 | 変動費に入れる科目 | 固定費に入れる科目 |
|---|---|---|
| 卸売業・小売業 | 仕入高、支払運賃、荷造包装費、販売手数料 | 人件費、家賃、水道光熱費、減価償却費、リース料、支払利息 |
| 製造業 | 材料費、外注加工費、工場消耗品費、動力費の変動分 | 労務費、工場家賃、機械の減価償却費、間接部門の人件費 |
| 飲食業 | 食材原価、ドリンク原価 | 社員人件費、家賃、水道光熱費の基本料金部分、リース料 |
| サービス業 | 外注費、仕入商品原価 | 人件費、家賃、広告宣伝費、システム利用料 |
限界利益と限界利益率
- 限界利益
- 売上高 − 変動費。売上が1単位増えたときに残る利益で、固定費の回収と利益の源泉。付加価値とほぼ同義に扱う。
- 限界利益率
- 限界利益 ÷ 売上高。高いほど売上増加が利益に直結する。値引きはこの率を直撃するため、値引き交渉の可否を判断する最重要指標になる。
- 損益分岐点売上高
- 固定費 ÷ 限界利益率。この売上高で利益がちょうどゼロになる。
- 損益分岐点比率
- 損益分岐点売上高 ÷ 実際の売上高。80%以下が優良、90%超は要注意。
計算例
年商1億2,000万円、変動費7,200万円、固定費4,320万円の卸売業を例にとる。
| 項目 | 金額(千円) | 算式 |
|---|---|---|
| 売上高 | 120,000 | — |
| 変動費 | 72,000 | — |
| 限界利益 | 48,000 | 120,000 − 72,000 |
| 限界利益率 | 40.0% | 48,000 ÷ 120,000 |
| 固定費 | 43,200 | うち人件費 24,000 |
| 経常利益 | 4,800 | 48,000 − 43,200 |
| 損益分岐点売上高 | 108,000 | 43,200 ÷ 0.40 |
| 損益分岐点比率 | 90.0% | 108,000 ÷ 120,000 |
| 労働分配率 | 50.0% | 24,000 ÷ 48,000 |
| 人件費率 | 20.0% | 24,000 ÷ 120,000 |
この会社は売上が10%落ちると赤字になる。目標経常利益を1,000万円に設定した場合の必要売上高は次のとおり。
- 必要売上高 =(固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率 =(43,200 + 10,000)÷ 0.40 = 133,000千円。現状から13,000千円、約10.8%の増収が必要になる。
- 売上を増やさないなら、固定費を5,200千円削るか、限界利益率を約44.3%まで引き上げる必要がある。
労働分配率と生産性
労働分配率は「稼いだ付加価値のうち何割を人に配ったか」を表す。適正水準は業種で異なるため、同じ会社の時系列で見る。上がり続けている場合、原因は3つに絞られる。売上横ばいのまま人員・給与が増えた、限界利益率が落ちた(値引き、原価上昇の転嫁遅れ)、賞与を月次で按分していない、のいずれかである。
あわせて1人当たり限界利益(限界利益 ÷ 人員数)を見る。上の例で人員12人なら4,000千円。これは採用の可否判断に直接使える。1人採用して年間人件費が4,000千円増えるなら、限界利益を4,000千円以上増やせる見込みがなければ利益は減る。
粗利率の推移を月次で追う
粗利率は最も嘘をつかない指標であると同時に、最も誤りが出やすい指標でもある。月ごとに大きく振れているときは、経営実態の変化ではなく処理上の問題を先に疑う。
| 症状 | 疑うべき原因 | 確認方法 |
|---|---|---|
| ある月だけ粗利率が急落 | 棚卸を動かしていない、まとめ仕入が原価に落ちている | 棚卸資産の月次残高推移を確認 |
| ある月だけ粗利率が急上昇 | 売上の期ズレ(前月分の売上が当月に計上)、仕入の計上漏れ | 売上台帳と請求書の日付を突合 |
| 期末だけ大きく変動 | 年1回の実地棚卸で差異がまとめて出た | 棚卸差異の内訳と月次概算計上の精度を検証 |
利益とキャッシュのズレを説明する
「黒字なのに金がない」という相談は、月次報告の場で最も多く出る。原因を4つに整理して説明できるようにしておく。
| ズレの原因 | 内容 | キャッシュへの影響 |
|---|---|---|
| 運転資金の増加 | 売掛金の増加、在庫の増加、買掛金の減少 | 利益は出ているのに現金は減る。増収時に必ず起きる |
| 借入金の元本返済 | 元本は費用にならない | 利益がそのまま返済に消える |
| 設備投資 | 支出は一括、費用は減価償却で数年に分割 | 投資年度は大幅なキャッシュ減 |
| 税金・社会保険 | 法人税等、消費税、賞与にかかる社会保険 | 特定月に集中して流出する |
簡易的なキャッシュの創出力は税引後利益 + 減価償却費で把握する。これが年間の借入元本返済額を下回っていれば、その会社は返済のために資金を食い潰している。税引後利益3,400千円、減価償却費5,000千円なら簡易キャッシュフローは8,400千円。年間返済額が10,000千円なら毎年1,600千円ずつ資金が減る。月次の段階で伝えるべき最重要の情報である。
5. 月次報告の作り方
A4横1枚のサマリーに集約する
試算表そのものを渡して読ませてはいけない。経営者が見るのは1枚だけである。次の5ブロックで構成する。試算表・推移表・資金繰り表は添付資料として後ろに付ける。
| ブロック | 載せる内容 | 分量の目安 |
|---|---|---|
| 1. 今月の結論 | 良かった点1つ、悪かった点1つ、今すぐ決めてほしいこと1つ | 3行 |
| 2. 数値サマリー | 売上高・限界利益・限界利益率・経常利益の当月と累計。前年同月比と予算比を横に並べる | 8行以内 |
| 3. 変動要因 | 数値が動いた理由。金額の大きい順に3つまで。金額と原因をセットで | 3項目 |
| 4. 資金の状況 | 月末の現預金残高、翌月・翌々月の資金見通し、借入残高と年間返済額 | 表1つ |
| 5. 期末着地見込みと宿題 | 着地利益と概算納税額。次回までに関与先が準備する事項 | 3行 |
経営者に刺さる伝え方の原則
- 絶対額より比較で語る。「経常利益480万円」ではなく「前年同月比マイナス120万円、予算比マイナス80万円」と言う。人は差分にしか反応しない。
- 比較軸は前年同月・予算・累計の3つに固定する。毎月同じ軸で見せることで経営者の頭に基準ができる。
- 率と金額をセットにする。「粗利率が2ポイント低下=年間で240万円の利益減に相当」まで換算する。
- 数字は5つに絞る。売上、限界利益率、固定費、経常利益、現預金残高。この5つで会社の状態は語れる。
- 次の行動で締める。「来月までに主要3社の価格改定を打診する」のように、誰が何をいつまでにやるかで終える。
悪い数字の伝え方
赤字や資金繰り悪化を伝える場面こそ担当者の力量が出る。次の5段階を、順番を崩さずに話す。
- STEP 1 事実だけを先に置く
「当月の経常損失は320万円、累計では180万円の損失です」。評価も慰めも挟まない。数字を先に言い切ることで、以降の話を聞く姿勢ができる。 - STEP 2 原因を金額で分解する
「320万円のうち売上減が210万円、原価上昇が70万円、修繕費の一時的発生が40万円です」。金額で割り振ると、対処すべき対象が自動的に決まる。 - STEP 3 影響を着地で示す
「このペースなら期末は経常損失600万円、現預金は3月末で1,200万円まで減ります」。放置した場合の未来を示す。 - STEP 4 打ち手を選択肢で出す
1つに絞らず2つから3つ出し、効果額と実行難易度を添える。決めるのは経営者であり担当者ではない。 - STEP 5 期限を決めて終える
「来週金曜までに金融機関へ相談するかご判断ください」。期限のない打ち手は実行されない。
6. 資金繰り表の作り方
試算表は過去を語り、資金繰り表は未来を語る。中小企業の倒産は赤字ではなく資金ショートで起きる。実績3か月に予測3か月を並べた6か月表を、月次報告に必ず添付する。
資金繰り表の基本様式
| 区分 | 項目 | 内容 |
|---|---|---|
| 前月繰越 | 前月末現預金残高 | 全口座の合計。拘束性のある定期預金は別掲する |
| 経常収入 | 現金売上、売掛金回収、手形期日入金 | 得意先ごとの回収サイトから逆算して予測する。カード入金は入金サイトを反映 |
| 経常支出 | 現金仕入・買掛金支払、手形決済 | 仕入先ごとの支払条件と支払手形の期日一覧から転記 |
| 経常支出 | 人件費、諸経費、支払利息 | 賞与月と社会保険料の増加月を落とさない。借入の元本は財務収支へ |
| 経常支出 | 納税 | 法人税等、消費税、源泉所得税、住民税、固定資産税、労働保険料 |
| 財務収支 | 借入金の入金、元本返済、増資・配当 | 返済予定表から転記する。未確定の融資は別行で「未確定」と明示する |
| 翌月繰越 | 翌月末現預金残高 | 前月繰越 + 経常収支 + 経常外収支 + 財務収支 |
予測3か月の作り方
- 収入:受注残と得意先別の回収サイトから積み上げる。「前年同月並み」は最後の手段にする。
- 支出:確定分(給与、家賃、リース、返済、納税)を先に埋めると支出の7割が固まる。仕入は予測売上に原価率を乗じ、支払サイトの月へずらす。
- シナリオ:売上が予測どおり、10%減、20%減の3本で残高を出す。20%減で資金がショートする月の3か月前が、金融機関へ相談する期限になる。
借入返済とキャッシュのズレ
経営者が最も理解しにくいのが、元本返済が費用にならないという点である。次の例で説明する。
| 項目 | 金額(千円) | 説明 |
|---|---|---|
| 税引前当期純利益 | 5,000 | 損益計算書の利益 |
| 法人税等 | 1,600 | 概算 |
| 税引後当期純利益 | 3,400 | — |
| 減価償却費(加算) | 5,000 | 現金の支出を伴わない費用 |
| 簡易キャッシュフロー | 8,400 | 3,400 + 5,000。1年間で返済に回せる金額の上限 |
| 年間の借入元本返済額 | 10,000 | 返済予定表の合計 |
| 過不足 | △1,600 | 毎年1,600千円ずつ現預金が減っていく |
打ち手は3つしかない。利益を増やす、返済期間を延ばす(借換・条件変更)、資産を売却する。月次で毎月この計算を見せていれば、資金が尽きる半年前に手を打てる。
7. 巡回監査の意義と現地で見るもの
巡回監査とは何をすることか
巡回監査は、関与先を毎月訪問し、会計帳簿が事実に基づいて適時・正確に記帳されているかを、証憑と現場の実物に当たって確かめる行為である。事務所内で資料を見るだけでは分からないことがある。
現地でしか分からないこと
- 在庫が本当にそこにあるか、動いているか、売れる状態か
- 固定資産が実在し、稼働しているか
- 従業員の人数・様子・現場の忙しさ
- 経営者が言葉にしていない不安や計画
訪問で得られる副次的な効果
- 資料の提出が早くなる(訪問日が締切になる)
- 疑問点をその場で解決でき、照会の往復が減る
- 経営者との信頼関係が積み上がる
- 税務調査の際に、事実関係を自信を持って説明できる
現物・現場・現金の3つを見る
| 対象 | 確認すること | 見つかる問題 |
|---|---|---|
| 現物(在庫) | 倉庫・店舗を実際に見る。主要品目を抜き取りで数える。ホコリをかぶった商品、破損品、期限切れの有無 | 不良在庫の資産計上、棚卸表の水増し、預け在庫や輸送中在庫の計上漏れ |
| 現物(固定資産) | 台帳の主要資産が実在し稼働しているか。逆に現場の機械が台帳にあるか | 除却済み資産の台帳残存、リース資産との混同、簿外資産 |
| 現場 | 工場・店舗の稼働状況、仕掛品の量、従業員数、掲示物(受注ボード、シフト表) | 売上計上漏れ、外注と雇用の実態の食い違い、稼働率低下の兆候 |
| 現金 | 金種表を作成し、実際の紙幣・硬貨を数えて帳簿残高と照合する | 現金不足、私的支出の混入、売上の一部除外 |
| 証憑 | 請求書・領収書の連番、通帳の連続性、契約書の原本 | 証憑の欠落、二重計上、日付の書換え |
現金実査の手順
- 訪問日は伝えても、現金実査を行うことは直前まで伝えない。予告すると意味が薄れる。
- 金種表を作り、担当者立会いで数える。数えるのは関与先の担当者、確認するのが監査担当者という役割分担にする。
- 金庫内の仮払証、立替メモ、未精算の領収書も現金相当として金種表に含める。
- 差額はその場で原因を追う。原因不明分は現金過不足として処理し、金額と発生日を調書に残す。
- 実査結果に双方が署名または押印する。これが後日の争いを防ぐ。
監査調書の残し方
調書は「後任者が読んで同じ結論に至れるか」を基準に書く。最低限、次の項目を定型フォーマットにする。
- 確認した結果(一致・不一致、不一致の内容と金額)
- 指摘事項と、それに対する関与先の回答
- 現金実査の金種表、在庫・固定資産の現物確認の結果
- 担当者の署名と所内レビュー者の確認欄
- 次回への持越事項と期限
- 経営者から聞き取った経営環境の変化(受注動向、人員、設備計画、資金の予定)
8. 年計グラフと移動年計の使い方
単月の数字は季節変動とイレギュラーで揺れる。この揺れを取り除いて基調だけを見る道具が移動年計である。
- 年計(移動年計)
- その月を含む直近12か月の合計。毎月、最も古い月を落として最新月を足していく。季節変動が1年で1周するため、12か月合計にすると季節の影響が消える。
- 累計
- 期首からその月までの合計。予算比の管理に使う。
- Zチャート
- 単月・累計・移動年計の3本を1つのグラフに描いたもの。3本の線がアルファベットのZの形に見えることからこう呼ぶ。移動年計の線の傾きだけを見ればよい。
計算例
| 月 | 当月売上(千円) | 前年同月(千円) | 移動年計(千円) | 移動年計の動き |
|---|---|---|---|---|
| 6月 | 10,500 | 10,000 | 120,500 | 500増 |
| 7月 | 11,800 | 12,000 | 120,300 | 単月は最高だが年計は減少 |
| 8月 | 7,400 | 8,200 | 119,500 | 800減。基調は下向きに転換 |
この例が示すことは重要である。7月は単月売上が年間最高だが、前年同月に200千円届いていないため移動年計は減っている。経営者は「7月は過去最高だった」と喜ぶが、実態は下降局面に入っている。移動年計を見ていれば錯覚を防げる。
読み方の3原則
- 傾きだけを見る。上向きは成長、水平は横ばい、下向きは縮小。金額の絶対水準ではなく方向を見る。
- 転換点を捉える。上向きから水平へ、水平から下向きへ変わった月が経営環境の変わった月である。その月に何があったかを関与先と振り返る。
- 売上だけでなく限界利益でも作る。売上の移動年計は伸びているのに限界利益の移動年計が横ばいなら、値引きで数量を稼いでいる。この2本の乖離は、経営の危険信号として最も分かりやすい。
