決算スケジュール、着地予測と決算対策、決算整理仕訳の全項目、実地棚卸、減価償却、引当金、勘定科目内訳明細書、決算書の自己点検。
CHAPTER 07年次決算実務 — 決算整理から決算書まで
年次決算は決算日から始まるのではなく、決算日の2か月前から始まる。着地予測と対策の検討、決算整理仕訳、決算書と内訳明細書の作成、そして株主総会での承認まで、工程を分解して押さえる。
1. 決算スケジュール
3月決算法人を例に、決算日の2か月前から申告までの工程を示す。日付は目安であり、関与先の資料提出速度に応じて前倒しする。工程表は関与先と共有し、いつ何を用意してもらうかを事前に握っておく。
| 時期 | 工程 | 成果物・確認資料 |
|---|---|---|
| 2か月前(1月) | 着地予測の第1版。決算対策の選択肢を洗い出す | 予測損益計算書、概算納税額 |
| 1.5か月前(2月中旬) | 経営者と面談し、実行する対策を決定 | 対策一覧と効果額の比較表 |
| 1か月前(3月上旬) | 対策の実行。設備の発注・納品・事業供用、保険の申込、決算賞与の通知、共済の増額 | 注文書、納品書、通知書控、払込証明 |
| 決算日(3月31日) | 実地棚卸、現金実査、残高証明書の依頼、売掛金・買掛金の締め | 棚卸表、金種表、残高証明書、請求書 |
| +2週間(4月中旬) | 決算資料の回収。未達分の照会 | 資料受領チェックリスト |
| +1か月(4月末) | 決算整理仕訳の入力完了。試算表の確定 | 決算整理仕訳一覧、精算表 |
| +40日(5月10日) | 税額計算、別表の作成、決算書ドラフト | 法人税・地方税・消費税の申告書 |
| +45日(5月15日) | 勘定科目内訳明細書、法人事業概況説明書の作成 | 内訳書16種、概況説明書 |
| +50日(5月20日) | 所内レビュー、経営者への決算報告 | 決算報告書、納税額の通知 |
| +55日(5月25日) | 定時株主総会、計算書類の承認 | 招集通知、株主総会議事録 |
| +2か月(5月31日) | 電子申告と納付。申告期限かつ納付期限 | 受信通知、納付書または電子納税の記録 |
2. 決算前検討 — 着地予測・納税予測・決算対策
着地予測の作り方
決算日の2か月前時点の試算表(10か月分の実績)に、残り2か月の予測を積んで年間の着地を出す。
- 実績10か月分を確定させる。棚卸・減価償却・引当が月次で入っていれば30分で終わる。
- 残り2か月の売上を受注残と例年の季節指数から見積もる。変動費は予測売上に実績原価率を乗じる。
- 固定費は実績の月平均を置き、決算月に集中する費用(決算賞与、修繕、広告)を個別に加える。
- 決算整理で必ず動く項目(未払費用、貸倒引当金の繰入、償却不足の調整)を織り込む。
- 別表加算・減算の主要項目(交際費、役員給与、引当金の繰入超過、減価償却超過)を反映して課税所得を見積もる。
納税予測
概算段階では次の税率を当てて総額を押さえる。正確な税額は申告ソフトで計算するが、面談ではこの概算で足りる。
| 税目 | 中小法人の税率 | 留意点 |
|---|---|---|
| 法人税 | 所得年800万円以下の部分 15%、800万円超の部分 23.20% | 15%の軽減税率は令和9年(2027年)3月31日までに開始する事業年度に適用。所得10億円超の法人は800万円以下部分が17% |
| 地方法人税 | 法人税額 × 10.3% | 国税として法人税申告書で計算する |
| 防衛特別法人税 | 課税標準法人税額 × 4% | 令和8年(2026年)4月1日以後に開始する課税事業年度から。課税標準法人税額は基準法人税額から年500万円の基礎控除を差し引いた額 |
| 法人住民税 | 法人税割と均等割 | 均等割は赤字でも発生する。資本金等の額と従業者数で決まる |
| 法人事業税・特別法人事業税 | 所得に応じた区分税率 | 事業税は申告書を提出した事業年度の損金になる(発生年度ではない) |
| 消費税 | 原則課税または簡易課税 | 中間納付額を控除した差額が納付額。還付になる場合も予測に入れる |
決算対策の選択肢と落とし穴
決算対策は「税金を減らす」ためではなく「資金と将来価値を最大にする」ために選ぶ。資金が出ていく対策は、その支出が事業にとって必要かどうかが第一の判断基準である。
| 対策 | 要件・手続 | 落とし穴 |
|---|---|---|
| 役員賞与(事前確定届出給与) | 株主総会等の決議日から1か月を経過する日と、会計期間開始の日から4か月を経過する日のいずれか早い日までに届出。新設法人は設立の日以後2か月を経過する日まで | 届出額と支給額・支給日が1円・1日でも異なれば全額損金不算入。減額支給も不可。期末近くの利益調整には使えない |
| 決算賞与(使用人賞与) | (1)各人別に、同時期に支給を受ける全使用人へ通知 (2)事業年度終了の日の翌日から1か月以内に通知額を全額支払 (3)通知日の属する事業年度で損金経理 | 「在職者のみ支給」の条件を付けると要件を満たさない。各人別の通知書控と受領サインがなければ否認される。1人でも支払が遅れると全額否認。役員には使えない |
| 中小企業倒産防止共済(経営セーフティ共済) | 掛金月額5,000円から20万円、年間240万円まで前納可、累計800万円まで全額損金算入。法人は別表十(七)の添付が必須 | 明細書の添付を忘れると損金算入できない。解約手当金は全額益金になるため、赤字年度や退職金支給年度に解約する出口設計がなければ単なる課税の繰延べで終わる。令和6年(2024年)10月1日以後に解約した場合、解約日から2年を経過する日までに再加入しても掛金は損金算入できない ※最新の取扱いは要確認 |
| 少額減価償却資産の特例 | 中小企業者等が取得価額30万円未満(令和8年(2026年)4月1日以後の取得は40万円未満)の資産を取得し事業供用した場合に全額損金算入。年間限度額300万円 | 取得だけでは不可で、期末までの事業供用が必要。300万円の枠を超えた分は通常償却または一括償却へ回す。別表十六(七)の添付が必要。償却資産税の課税対象になる |
| 短期前払費用 | 支払日から1年以内に役務提供を受けるもので、継続して支払日の属する事業年度の損金とすること(法人税基本通達2-2-14) | 等質等量のサービスに限る。単発の外注費や広告制作費は対象外。翌期以降もやめられない。売上原価となるものは対象外。節税額に比べ資金流出が大きい |
| 不良債権の整理 | 法律上の貸倒れ、事実上の貸倒れ(全額回収不能が明らか)、形式上の貸倒れ(継続的取引の停止から1年以上経過、または取立費用に満たない場合) | 形式上の貸倒れは備忘価額1円を残して損金経理する。単なる回収遅延では貸倒れにできない。催告書や取引停止の記録を残す。一回限りの売掛金は形式基準を使えない |
| 保険の活用 | 法人契約の生命保険。最高解約返戻率に応じて資産計上割合が定まる | 返戻率が高い商品ほど損金算入割合は小さい。解約時に益金が立つため退職金支給時期との一致が前提。保険料が資金繰りを圧迫しないか長期の資金計画で検証する |
| 賃上げ促進税制 | 中小企業向けは給与等支給額が前年比プラス1.5%で15%、プラス2.5%で30%の税額控除。子育て支援・女性活躍の認定で上乗せ5%、最大35% | 控除上限は法人税額の20%。控除しきれない額は5年繰越可(中小企業のみ)。教育訓練費の上乗せ措置は令和8年度(2026年度)改正で全規模において廃止された |
3. 決算整理仕訳の全項目
決算整理は漏れなく行うことが第一で、順番は次の一覧の上から下へ固定する。上から処理することで、下の項目に必要な数値(税引前利益など)が確定していく構造になっている。
| 順 | 項目 | 確認資料 | 留意点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 現金・預金 | 金種表、通帳、残高証明書 | 期末日付の残高証明を全口座で取得。現金過不足は雑収入・雑損失へ振替え、原因を調書に残す |
| 2 | 棚卸資産 | 実地棚卸表 | 商品・製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵品を区分。未使用の切手・印紙・回数券は貯蔵品へ |
| 3 | 売掛金・買掛金 | 得意先元帳、仕入先元帳、請求書 | 締日から期末までの売上・仕入を計上する |
| 4 | 経過勘定 | 契約書、請求書 | 前払費用・前受収益・未払費用・未収収益。家賃、保険料、リース料、利息、社会保険料 |
| 5 | 減価償却 | 固定資産台帳 | 償却限度額まで損金経理。期中取得は月数按分。台帳と帳簿の累計額を一致させる |
| 6 | 引当金 | 売掛金明細、賞与規程 | 貸倒引当金は繰入限度額を計算。賞与引当金・退職給付引当金は税務上損金不算入 |
| 7 | 貸倒れ・評価損 | 債権明細、棚卸表、催告書 | 貸倒れの3類型を判定。評価損は法人税法施行令第68条の事実に該当するか確認 |
| 8 | 繰延資産の償却 | 契約書、支出の明細 | 創立費・開業費は任意償却。同業者団体の加入金や建物賃借の権利金等は償却期間が定まる |
| 9 | 仮払・仮受消費税の精算 | 消費税集計表 | 税抜経理の場合、期末に精算し差額を未払消費税等へ。端数差額は雑収入・雑損失 |
| 10 | 未払消費税等 | 消費税申告書 | 中間納付額を控除した納付額。還付の場合は未収消費税等 |
| 11 | 未払法人税等 | 法人税・地方税申告書 | 税額が確定してから計上するため最後になる |
| 12 | 税効果 | 一時差異の明細 | 適用する場合のみ。中小企業では重要性が乏しければ省略できる |
代表的な決算整理仕訳
期末商品棚卸高8,400,000円、期首7,900,000円(三分法)、減価償却費の年間計上、社会保険料の未払計上、前払家賃の繰延べ。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 期首商品棚卸高 | 7,900,000 | 商品 | 7,900,000 | 期首在庫の振替 |
| 商品 | 8,400,000 | 期末商品棚卸高 | 8,400,000 | 実地棚卸表による |
| 減価償却費 | 5,240,000 | 減価償却累計額 | 5,240,000 | 固定資産台帳のとおり |
| 法定福利費 | 640,000 | 未払費用 | 640,000 | 3月分社会保険料(4月末納付) |
| 前払費用 | 300,000 | 地代家賃 | 300,000 | 4月分家賃の前払 |
貸倒引当金の繰入(洗替法)と、形式上の貸倒れ。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 貸倒引当金 | 380,000 | 貸倒引当金戻入額 | 380,000 | 前期繰入額の戻入 |
| 貸倒引当金繰入額 | 412,000 | 貸倒引当金 | 412,000 | 法定繰入率による繰入 |
| 貸倒損失 | 259,999 | 売掛金 | 259,999 | 取引停止後1年経過。備忘価額1円を残す |
仮払消費税・仮受消費税の精算(税抜経理・原則課税)。仮受14,800,000円、仮払9,650,000円、申告書の年税額5,140,000円、中間納付3,000,000円の場合。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 仮受消費税等 | 14,800,000 | 仮払消費税等 | 9,650,000 | 年税額5,140,000円 |
| — | — | 仮払金(中間納付額) | 3,000,000 | 中間納付済み |
| — | — | 未払消費税等 | 2,140,000 | 確定納付額 |
| — | — | 雑収入 | 10,000 | 端数調整(貸借差額を雑収入または雑損失へ) |
未払法人税等の計上(中間納付額を仮払金処理していた場合)。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 法人税、住民税及び事業税 | 4,860,000 | 仮払金(中間納付額) | 1,900,000 | 中間納付済み |
| — | — | 未払法人税等 | 2,960,000 | 確定申告による納付額 |
4. 実地棚卸と評価
実地棚卸の手順
- STEP 1 事前準備(2週間前)
棚卸実施要領を作る。実施日時、担当者と担当エリア、カウント方法(数える人と記録する人を分ける)、単位(個・箱・kg)を決める。棚卸日までに不要在庫を処分し区画を整理すると精度が上がる。 - STEP 2 棚卸対象の確定
自社倉庫の在庫だけではない。預け在庫、預り在庫、未着品、積送品、加工委託中の材料を洗い出す。預り在庫は自社の資産ではないので除外し、預け在庫・未着品は計上する。 - STEP 3 当日のカウント
棚卸原票を連番管理する。使用分・未使用分・書き損じをすべて回収し番号の連続性を確認する。破損品・不良品・長期滞留品は別リストにして数量と状態を記録する。 - STEP 4 カットオフの確認
期末日に納品されたが検収が翌日の物、期末日に出荷したが売上計上が翌期の物を特定し、在庫と売上・仕入の帰属をそろえる。決算で最も誤りが多いのがこの期ズレである。 - STEP 5 単価の決定と棚卸表の作成
採用している評価方法で単価を決め、数量に乗じる。棚卸表には品名・規格・数量・単位・単価・金額・保管場所を記載し、責任者が署名する。 - STEP 6 差異分析
帳簿在庫と実地在庫の差異を出し、金額の大きいものは原因を追う。原因不明の減耗は棚卸減耗損として処理し、次年度の管理改善につなげる。
評価方法
| 方法 | 内容 | 実務での使いどころ |
|---|---|---|
| 最終仕入原価法 | 期末に最も近い時期の仕入単価で評価 | 届出をしない場合の法定評価方法。中小企業の大半がこれ |
| 総平均法 | 期首在庫と期中仕入の合計を総数量で除した平均単価 | 仕入単価の変動が大きい場合に実態に近い |
| 移動平均法 | 仕入のつど平均単価を計算し直す | 在庫管理システムがある場合。期中も原価が把握できる |
| 先入先出法 | 先に仕入れたものから先に払い出したとみなす | 生鮮品や賞味期限のある商品 |
| 個別法 | 個々の取得価額で評価 | 不動産、宝飾品、中古車など個別性の高い商品 |
| 低価法 | 原価法による価額と期末時価のいずれか低い方 | 届出が必要。評価損を計上しやすくなる |
評価損を計上できる場合
棚卸資産の評価損は、次のいずれかの事実がある場合に限り損金算入できる(法人税法施行令第68条)。単に時価が下がっただけでは計上できない点が最重要である。
- 災害により著しく損傷したこと
- 著しく陳腐化したこと(型式・性能・品質が新製品に対して著しく劣り、通常の方法では販売できないこと)
- 破損、型崩れ、たなざらし、品質変化などにより、通常の方法で販売できないこと
- 会社更生法等による評価換えを行う必要が生じたこと
5. 減価償却の実務
償却方法と法定償却方法
| 資産の区分 | 選定できる方法 | 法定償却方法(届出がない場合) |
|---|---|---|
| 建物 | 定額法のみ | 定額法(平成10年4月1日以後取得分) |
| 建物附属設備・構築物 | 定額法のみ | 定額法(平成28年4月1日以後取得分) |
| 機械装置・車両運搬具・工具器具備品 | 定額法または定率法 | 法人は定率法、個人事業者は定額法 |
| 無形固定資産(ソフトウェア、営業権等) | 定額法のみ | 定額法。自社利用ソフトウェアの耐用年数は5年 |
| 一括償却資産 | 3年均等償却 | 取得価額の3分の1を3年間。月数按分しない |
法定以外の方法を選ぶ場合は「減価償却資産の償却方法の届出書」を、新設法人なら設立第1期の確定申告書の提出期限までに提出する。変更は、変更しようとする事業年度開始の日の前日までに承認申請が必要である。
事業供用日と月数按分
償却の開始は取得日ではなく事業の用に供した日である。機械なら据付・試運転を経て稼働した日、車両なら登録して使い始めた日を指す。期中供用は供用月から期末までの月数で按分し、1か月未満の端数は1か月として数える。取得価額2,400,000円、耐用年数6年(定額法償却率0.167)の資産を3月決算法人が11月に供用した場合、当期の償却限度額は400,800 × 5 ÷ 12 = 167,000円となる。
中古資産の耐用年数(簡便法)
| ケース | 算式 | 計算例(法定耐用年数6年の車両) |
|---|---|---|
| 法定耐用年数の全部を経過 | 法定耐用年数 × 20% | 6 × 0.2 = 1.2年。2年未満は2年とするため2年 |
| 法定耐用年数の一部を経過 | (法定耐用年数 − 経過年数)+ 経過年数 × 20% | 3年経過なら (6 − 3) + 3 × 0.2 = 3.6年。端数切捨てで3年 |
- 1年未満の端数は切り捨て、2年未満となる場合は2年とする。
- 資本的支出の額がその中古資産の取得価額の50%相当額を超える場合は簡便法を使えない(見積法による)。さらに再取得価額の50%相当額を超える場合は見積法も使えず、法定耐用年数による。
資本的支出と修繕費
上から順に判定し、修繕費と判定できた時点で終了する。
- 金額基準:1件が20万円未満なら修繕費。
- 周期基準:おおむね3年以内の周期で行う修理・改良なら修繕費。
- 実質判定:使用可能期間を延長させる支出、価値を増加させる支出は資本的支出。避難階段の取付け、用途変更のための改造、著しく品質・性能の高い部品への取替えの差額が該当する。
- 形式基準:なお不明なら、60万円未満またはその資産の前期末取得価額のおおむね10%以下であれば修繕費として差し支えない。
除却と有姿除却
物理的に廃棄したら除却損を計上する。現物は残るが今後使用する見込みがない場合は有姿除却として、処分見込価額を控除した帳簿価額を損金算入できる(法人税基本通達7-7-2)。要件は、使用を廃止し今後通常の方法で事業の用に供する可能性がないと認められること、または特定製品専用の金型等でその製品の生産を中止したことにより今後使用の可能性がほとんどないことである。
償却限度額と償却不足・償却超過
法人税では損金経理した金額のうち償却限度額に達するまでの金額が損金となる。ここから非対称な2つの帰結が生じる。
償却不足額
限度額まで償却しなかった場合、不足額は翌期以降へ繰り越せず切り捨てになる。ただし帳簿価額が多く残るため、償却期間が延びる形で回収される。赤字法人が償却を見送るのは金融機関対策としては合理的である。
償却超過額
限度額を超えた分は別表四で加算し、別表五(一)で繰り越す。翌期以降に償却不足が生じた年度で、その不足額の範囲内で認容減算される。超過は繰り越せるが不足は繰り越せない。
少額減価償却資産の3区分
| 取得価額 | 処理 | 償却資産税 | 要件・添付書類 |
|---|---|---|---|
| 10万円未満 | 取得時に全額損金(消耗品費等) | 対象外 | 事業供用が必要 |
| 10万円以上20万円未満 | 一括償却資産として3年均等償却 | 対象外 | 別表十六(八)。月数按分しない。3年内に除却しても償却を継続する |
| 20万円以上30万円未満(令和8年(2026年)4月1日以後の取得は40万円未満) | 中小企業者等の少額減価償却資産の特例により全額損金算入 | 対象 | 年間限度額300万円(事業年度1年未満は月数按分)。別表十六(七)の添付が必要。常時使用する従業員数は令和8年(2026年)4月1日以後の取得について400人以下(従前500人以下)。適用期限は令和11年(2029年)3月31日までの取得分 |
| 上記を超える金額 | 通常の減価償却 | 対象 | 耐用年数表により耐用年数を判定 |
6. 引当金
貸倒引当金 — 中小法人の特例
資本金1億円以下の中小法人等は貸倒引当金の繰入れが認められ、一括評価金銭債権については実績繰入率と法定繰入率のいずれか有利な方を選べる(租税特別措置法第57条の9)。
| 業種 | 法定繰入率 |
|---|---|
| 卸売業・小売業(飲食店業、料理店業を含む) | 10 ÷ 1,000 |
| 製造業(電気業、ガス業、熱供給業、水道業、修理業を含む) | 8 ÷ 1,000 |
| 金融業・保険業 | 3 ÷ 1,000 |
| 割賦販売小売業、包括信用購入あっせん業、個別信用購入あっせん業 | 13 ÷ 1,000 |
| その他の事業(建設業、不動産業、サービス業など) | 6 ÷ 1,000 |
実績繰入率は、前3年間の貸倒損失額の合計をその期間の一括評価金銭債権の帳簿価額の平均で除して算出する。貸倒れがほとんど発生しない関与先では実績繰入率がゼロに近くなるため、通常は法定繰入率を使う。
法定繰入率による計算例
小売業、期末の売掛金12,000,000円、受取手形3,000,000円、同一取引先に対する買掛金1,500,000円がある場合。
- 一括評価金銭債権 = 12,000,000 + 3,000,000 = 15,000,000円
- 実質的に債権とみられない金額の控除 = 1,500,000円(同一人に対する買掛金等と相殺される部分)
- 控除後の債権 = 15,000,000 − 1,500,000 = 13,500,000円
- 繰入限度額 = 13,500,000 × 10 ÷ 1,000 = 135,000円
個別評価金銭債権
| 事由 | 繰入限度額 |
|---|---|
| 更生計画認可の決定、再生計画認可の決定、特別清算に係る協定の認可等により弁済が猶予・分割払いとなった | 事由発生年度の翌期首から5年以内に弁済されない金額 |
| 債務者の債務超過が相当期間継続し、事業に好転の見通しがない等により一部の取立て見込みがない | 取立て見込みがないと認められる金額 |
| 更生手続開始の申立て、再生手続開始の申立て、破産手続開始の申立て、手形交換所の取引停止処分等 | 債権額から実質的に債権とみられない部分等を控除した額の50% |
賞与引当金・退職給付引当金
| 引当金 | 会計上の扱い | 税務上の扱い | 実務対応 |
|---|---|---|---|
| 賞与引当金 | 支給見込額のうち当期負担分を計上 | 損金不算入。別表四で加算し別表五(一)で繰り越す | 翌期の支給時に認容減算する |
| 退職給付引当金 | 退職給付債務に基づき計上(中小企業は自己都合要支給額基準が一般的) | 損金不算入 | 中小企業退職金共済等の掛金は支払時に損金算入できるため、外部積立への切替えが有効 |
| 貸倒引当金 | 回収不能見込額を計上 | 中小法人等は繰入限度額まで損金算入 | 会計上の計上額が税務上の限度額を超える場合、超過額を加算 |
7. 決算書一式と勘定科目内訳明細書
決算書(計算書類)の構成
| 書類 | 内容 | 作成上のポイント |
|---|---|---|
| 貸借対照表 | 資産・負債・純資産の期末残高 | 流動と固定の区分は1年基準と正常営業循環基準による。借入金の1年内返済分を流動負債へ振り替える |
| 損益計算書 | 売上高から当期純利益までの区分計算 | 営業損益・経常損益・特別損益の区分を正しく。臨時多額のものだけを特別損益へ |
| 株主資本等変動計算書 | 純資産の期首から期末への変動 | 期首残高が前期決算書の期末残高と一致すること。当期純利益と剰余金の配当を漏らさない |
| 個別注記表 | 会計方針その他の注記 | 会計監査人設置会社でなく公開会社でもない株式会社は、重要な会計方針に係る事項の注記と株主資本等変動計算書に関する注記が必須 |
| 販売費及び一般管理費の内訳 | 販管費の科目別明細 | 損益計算書の販管費合計と一致させる。科目の並び順を毎期そろえる |
勘定科目内訳明細書16種類
内訳明細書は税務調査の入口である。調査官は臨場前に内訳書を読み込み、確認したい取引先や不自然な残高に当たりを付けてくる。「合計だけ書いて中身は当日説明する」という作り方は無用な疑いを招く。
| 番号 | 明細書 | 記載のコツ | 調査で見られる点 |
|---|---|---|---|
| 1 | 預貯金等 | 金融機関名・支店名・種類・口座番号・期末残高。担保提供の有無も | 簿外口座。代表者名義口座との資金の行き来 |
| 2 | 受取手形 | 振出人、振出日、支払期日、支払銀行、金額。割引・裏書分は摘要へ | 期末直前の異常な手形受領。融通手形 |
| 3 | 売掛金(未収入金) | 相手先の名称・所在地・期末残高。50万円以上は個別記載 | 長期滞留債権、期末月だけ突出した残高、関係会社取引 |
| 4 | 仮払金(前渡金)・貸付金及び受取利息 | 相手先、期末残高、取引の内容、利率。役員分は必ず個別記載 | 役員貸付金の増加、認定利息の計上漏れ、内容不明の仮払金 |
| 5 | 棚卸資産 | 商品又は製品・半製品・仕掛品・原材料・貯蔵品を区分。品目・数量・単価・金額 | 前期比の急変、粗利率との整合、在庫の水増しまたは除外 |
| 6 | 有価証券 | 種類、銘柄、期末現在高(数量・金額)、期中増減 | 関係会社株式の評価、譲渡損益の計上漏れ |
| 7 | 固定資産(土地・土地の上に存する権利・建物に限る) | 所在地、面積、用途、期末現在高、取得年月日、取得先 | 付随費用の取得価額算入、私的利用の有無 |
| 8 | 支払手形 | 受取人、振出日、支払期日、支払銀行、金額 | 期末直前の異常な手形振出。架空仕入 |
| 9 | 買掛金(未払金・未払費用) | 相手先の名称・所在地・期末残高 | 期末の計上漏れまたは架空計上、翌期支払の実在性 |
| 10 | 仮受金(前受金・預り金)・源泉所得税預り金 | 相手先、期末残高、取引の内容 | 売上の繰延べに使われていないか。源泉所得税の納付漏れ |
| 11 | 借入金及び支払利子 | 借入先、期末残高、期中の支払利子、利率、担保の内容 | 役員借入金の原資、利率の妥当性、簿外借入 |
| 12 | 土地の売上高等 | 所在地、面積、売却先、売却価額、原価 | 譲渡損益の計算、時価との乖離 |
| 13 | 売上高等の事業所別 | 事業所名、所在地、責任者、売上高、従事者数 | 事業所ごとの売上と人員のバランス。未申告の事業所 |
| 14 | 役員給与等 | 役員名、役職、常勤非常勤の別、担当業務、報酬額、代表者との関係 | 定期同額給与の要件、非常勤役員の実態、家族役員の職務内容 |
| 15 | 地代家賃等・工業所有権等の使用料 | 支借の別、物件の用途・所在地、貸主または借主、支払賃借料 | 役員個人からの賃借の相場との乖離、社宅家賃の適正額 |
| 16 | 雑益・雑損失等 | 科目、取引の内容、相手先、金額 | 本来の収益科目に計上すべきものが雑益に紛れていないか |
8. 法人事業概況説明書の書き方
法人事業概況説明書は、申告書に添付して提出する。調査対象の選定に使われる資料であり、記載内容と決算書・内訳書の整合性が見られる。空欄が多い概況説明書は「実態が把握しにくい法人」として選定される確率を上げるだけである。
主な記載欄と書き方
| 欄 | 記載内容 | 書き方のポイント |
|---|---|---|
| 事業内容 | 主たる事業と兼業の内容 | 「卸売業」ではなく「食品卸売(業務用冷凍食品)」のように具体的に。定款の目的ではなく実態を書く |
| 支店・海外取引等 | 支店・工場・営業所の数と所在、海外取引の有無 | 内訳書13番(事業所別売上高)と一致させる |
| 期末従業員等の状況 | 常勤役員数、従業員数(常用・臨時)、うち代表者の親族の人数 | 人件費と人数のバランスが見られる。源泉徴収の人員数とも整合させる |
| 経理の状況 | 帳簿の種類、記帳の程度、決算書の作成者 | 関与税理士が作成している場合はその旨を記載する |
| 電子計算機の利用状況 | 使用しているシステム、電子帳簿保存の有無 | 電子帳簿保存法への対応状況が把握される。電子取引データの保存方法も整理しておく |
| 月別の売上高等 | 売上高、仕入高、外注費、人件費、源泉徴収税額を月別に記載 | ここが最重要。合計が損益計算書と、源泉徴収税額が納付書の合計と一致すること |
| 主要科目 | 売上原価、期末棚卸高、減価償却費、地代家賃、交際費など | 決算書からそのまま転記する。単位を統一する |
| 当期の営業成績の概況 | 増減の理由を文章で記載 | 「主要得意先の受注減により前期比12%減少」のように数値と理由をセットで簡潔に書く |
9. 決算書の自己点検チェックリスト
申告書を出す前に次の項目をすべて確認する。担当者が自己点検した上で、別の者がレビューする二段構えにする。
形式の整合
- 貸借対照表の資産合計と負債・純資産合計が一致している
- 損益計算書の当期純利益と株主資本等変動計算書の当期純利益が一致している
- 勘定科目内訳明細書の各合計額と貸借対照表・損益計算書の該当科目が一致している
- 法人事業概況説明書の月別売上高・仕入高・人件費の合計が損益計算書と一致している
繰越の一致
- 期首の各科目残高が前期決算書の期末残高と完全に一致している
- 繰越利益剰余金の期首残高が前期末と一致している
- 別表五(一)の期首現在利益積立金額が前期の期末現在額と一致している
前期比較
- 主要科目について前期比でプラスマイナス20%以上動いた項目の理由を説明できる
- 粗利率が前期から大きく変動していない(変動していれば理由が判明している)
- 役員報酬の総額が前期と整合している(変動があれば定期同額の要件を確認済み)
- 棚卸資産の在庫回転期間が前期から不自然に変動していない
税務との整合
- 別表四の当期利益が損益計算書の当期純利益と一致している
- 事業税・特別法人事業税を当期に加算し、翌期に減算する処理ができている
- 交際費等の損金不算入額を別表十五で計算し、内訳書と整合している
- 少額減価償却資産の特例を適用した資産について別表十六(七)を添付している
- 消費税の未払計上額と申告書の納付税額が一致している
- 令和8年(2026年)4月1日以後開始事業年度について、防衛特別法人税の申告を行っている
10. 株主総会・決算承認と「確定した決算」
承認までの流れ
- 計算書類の作成:取締役が計算書類・事業報告・附属明細書を作成する。実質的に事務所が作成しても、作成主体は会社である。
- 監査:監査役設置会社では監査役が監査報告を作成する。監査役を置いていない会社では不要。
- 招集手続:定時株主総会の招集を決定し通知する。株主全員の同意があれば招集手続の省略も可能で、中小企業ではこれが多い。
- 承認決議:定時株主総会で計算書類を承認する。事業年度終了後3か月以内の開催が一般的である。
- 議事録の作成と備置:本店に10年間、支店には写しを5年間備え置く。
- 申告:承認を受けた決算に基づき法人税・地方税・消費税を申告する。
株主総会議事録の記載事項
- 開催の日時および場所(出席方法を含む)
- 議事の経過の要領およびその結果
- 出席した取締役・監査役の氏名
- 株主総会に出席した株主の議決権数(総株主の議決権数に対する割合)
11. 税効果会計の最低限
何をするものか
会計上の利益と税務上の所得のズレのうち、将来解消するもの(一時差異)について税金費用を期間対応させる手続である。永久に解消しないズレ(永久差異)は対象外である。
一時差異(対象になる)
- 賞与引当金の繰入超過額
- 退職給付引当金の繰入額
- 貸倒引当金の繰入限度超過額
- 減価償却の償却超過額
- 繰越欠損金
永久差異(対象にならない)
- 交際費等の損金不算入額
- 役員給与の損金不算入額
- 受取配当等の益金不算入額
中小企業で適用すべきか
多くの中小企業では適用しない、または重要性の乏しいものは省略する判断で足りる。
| 準拠する基準 | 税効果会計の扱い | 実務判断 |
|---|---|---|
| 中小企業の会計に関する基本要領(中小会計要領) | 税効果会計の規定を置いていない | 適用しないことが前提。中小会計要領を採用する旨を注記する |
| 中小企業の会計に関する指針(中小会計指針) | 適用が求められるが、重要性が乏しい場合は計上しないことができる | 一時差異が少額の関与先では省略する。金融機関から詳細な財務情報を求められる場合は適用を検討 |
| 金融商品取引法・会社法の会計監査対象 | 適用必須 | 該当する規模の関与先では会計士と連携する |
繰延税金資産の回収可能性
繰延税金資産は「将来の税金を減らす権利」であり、将来その税金を払うだけの所得が出る見込みがなければ資産価値がない。回収可能性の判断は次の3点で行う。
- 収益力に基づく将来の課税所得:過去3期および当期が連続して安定的に課税所得を計上しているか。連続赤字の会社では回収可能性は認められない。
- タックスプランニング:含み益のある資産の売却など、課税所得を作る具体的な計画があるか。願望では足りない。
- 将来加算一時差異の存在:将来減算一時差異が解消する時期に、それを相殺する将来加算一時差異があるか。
仕訳例
賞与引当金の繰入額3,000,000円(税務上は損金不算入)について、法定実効税率を34%として税効果を認識する場合。
| 借方科目 | 金額 | 貸方科目 | 金額 | 摘要 |
|---|---|---|---|---|
| 繰延税金資産 | 1,020,000 | 法人税等調整額 | 1,020,000 | 3,000,000 × 34% |
翌期に賞与を支給して損金算入されると、この一時差異は解消するため、繰延税金資産を取り崩す反対仕訳を行う。
