相続税の計算と初動対応、財産評価と小規模宅地等の特例、贈与税と相続時精算課税、事業承継税制、相続対策の3視点、職員が踏み込んではいけない線引き。
CHAPTER 12資産税 — 相続・贈与・事業承継
資産税は顧問先の一生に一度の場面を扱う。毎年繰り返す法人税や所得税と違い、手順を身体で覚える機会が少ないぶん、段取りを紙に落としておく価値が大きい分野である。相続が起きた瞬間から申告までの流れ、財産評価の勘所、生前対策としての贈与と事業承継税制、そして職員が踏み込んではいけない線引きまでを一本の道筋で並べる。
1. 相続税の全体像と計算の流れ
相続税は、被相続人の財産の総額から先に「相続税の総額」を計算し、それを各人の取得割合で配分する二段構えの税である。所得税のように人ごとに独立して計算しない。ここを取り違えると、以後の説明がすべてずれる。
計算の8ステップ
- STEP1 各人が取得した財産を洗い出す
本来の相続財産(土地・建物・預貯金・有価証券・自社株・貸付金・家庭用財産など)に、みなし相続財産(生命保険金・死亡退職金)を加え、非課税財産(墓地・仏壇、保険金と退職金の非課税枠)を除く。 - STEP2 債務と葬式費用を控除し、生前贈与加算を足す
借入金、未払医療費、未払租税公課、葬式費用を引く。香典返しの費用、法要費用、墓石代は葬式費用に入らない。ここに相続開始前7年以内の暦年課税贈与と、相続時精算課税の贈与を加算して課税価格を出す。 - STEP3 基礎控除を引く
課税価格の合計額から3,000万円+600万円×法定相続人の数を控除し、課税遺産総額を求める。ここでマイナスなら申告不要(特例を使う場合を除く)。 - STEP4 法定相続分で按分する
課税遺産総額を、実際の分け方に関係なく法定相続分で分ける。これは計算上の仮定であって、実際の遺産分割とは無関係である。 - STEP5 税率表を当てて合計する
按分した金額それぞれに速算表を適用し、合計したものが相続税の総額。 - STEP6 実際の取得割合で配分する
相続税の総額に「各人の課税価格÷課税価格の合計額」を乗じて各人の算出税額を出す。 - STEP7 2割加算と税額控除を適用する
加算対象者は算出税額の2割を加算。その後、決められた順序で税額控除を差し引く。 - STEP8 各人の納付税額を確定する
百円未満切捨て。申告期限までに各人がそれぞれ納付する。
基礎控除と法定相続人の数
| 法定相続人の数 | 基礎控除額 | 生命保険金・死亡退職金の非課税枠(各) |
|---|---|---|
| 1人 | 3,600万円 | 500万円 |
| 2人 | 4,200万円 | 1,000万円 |
| 3人 | 4,800万円 | 1,500万円 |
| 4人 | 5,400万円 | 2,000万円 |
| 5人 | 6,000万円 | 2,500万円 |
「法定相続人の数」には固有のルールがある。実際の相続人の数とは一致しないことがあるので、必ず戸籍で確認したうえで次の2点を当てはめる。
- 相続放棄をした人も、放棄がなかったものとして数える。放棄によって基礎控除が減ることはない。
- 養子は、実子がいる場合は1人まで、実子がいない場合は2人までしか数に入れられない。ただし特別養子、配偶者の連れ子を養子にした場合、代襲相続人である養子は実子として扱う。
相続税の速算表
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | — |
| 1,000万円超 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 3,000万円超 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 5,000万円超 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 1億円超 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 2億円超 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 3億円超 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
計算例で流れを掴む
課税価格の合計額2億円、相続人は配偶者と子2人、分け方は配偶者2分の1・子が各4分の1とする。
- 基礎控除 3,000万円+600万円×3人=4,800万円
- 課税遺産総額 2億円−4,800万円=1億5,200万円
- 配偶者の法定相続分 1億5,200万円×2分の1=7,600万円 → 7,600万円×30%−700万円=1,580万円
- 子の法定相続分 1億5,200万円×4分の1=3,800万円 → 3,800万円×20%−200万円=560万円 (2人で1,120万円)
- 相続税の総額 1,580万円+1,120万円=2,700万円
- 配偶者の算出税額 2,700万円×2分の1=1,350万円 → 配偶者の税額軽減により0円
- 子の算出税額 2,700万円×4分の1=675万円(各人)
- 納付税額の合計 1,350万円
2割加算
被相続人の一親等の血族と配偶者以外の人が財産を取得した場合、その人の算出税額に20%を加算する。実務で当たるのは次の顔ぶれである。
| 取得者 | 2割加算 | 備考 |
|---|---|---|
| 配偶者、子、父母 | なし | 一親等の血族と配偶者 |
| 代襲相続人である孫 | なし | 子の代わりに相続人になっているため |
| 孫養子(代襲相続人でない) | あり | 養子縁組で一親等になっても加算対象。世代飛ばしを防ぐ趣旨 |
| 兄弟姉妹、甥姪 | あり | 二親等・三親等 |
| 遺贈を受けた第三者、内縁の配偶者 | あり | 血族でも配偶者でもない |
税額控除の順序
控除には適用する順序が決まっている。控除しきれなかった場合の扱いが控除ごとに違うためである。
- 贈与税額控除(暦年課税分) 生前贈与加算した贈与に課された贈与税。控除しきれない額は切捨て(還付なし)。
- 配偶者の税額軽減 法定相続分相当額か1億6,000万円のいずれか多い金額まで、配偶者に相続税はかからない。
- 未成年者控除 10万円×(18歳−相続開始時の年齢)。1年未満切上げ。控除しきれない額は扶養義務者の税額から控除できる。
- 障害者控除 10万円×(85歳−年齢)、特別障害者は20万円×(85歳−年齢)。同じく扶養義務者から控除可。
- 相次相続控除 10年以内に2回目の相続が起きた場合、前回納めた相続税の一部を控除する。
- 外国税額控除 国外財産に外国の相続税が課された場合。
- 相続時精算課税分の贈与税額控除 最後。控除しきれない額は還付されるのでここに置かれている。
申告と納付
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 申告期限 | 相続の開始があったことを知った日の翌日から10か月以内 |
| 提出先 | 被相続人の死亡時の住所地を所轄する税務署。相続人の住所地ではない |
| 提出方法 | 相続人が共同で1通提出するのが原則。関係が良くない場合は別々に提出することもできる |
| 納付 | 申告期限と同じ。各相続人が自分の税額を金銭で一括納付 |
| 連帯納付義務 | 他の相続人が納付しない場合、受けた利益の額を限度に他の相続人が納付義務を負う |
| 延納 | 金銭一括納付が困難な場合。担保提供が必要(延納税額100万円以下かつ期間3年以下は不要)。利子税がかかる |
| 物納 | 延納によっても納付困難な場合の最終手段。物納順位は不動産・国債等が第1順位。要件が厳しく実務での成立は多くない |
2. 相続発生時の初動対応
相続の期限は死亡日から自動的に走り出す。事務所が連絡を受けた時点ですでに数週間経過していることも珍しくない。まず日付を押さえ、期限表に落とすところから始める。
期限の一覧
| 起算からの期間 | 手続 | 提出先・注意点 |
|---|---|---|
| 7日以内 | 死亡届 | 市区町村。通常は葬儀社が代行する |
| 速やかに | 遺言書の有無の確認 | 公正証書遺言は最寄りの公証役場で検索できる。自筆証書は家庭裁判所の検認が必要(法務局の保管制度を利用していれば検認不要) |
| 速やかに | 金融機関への連絡、残高証明書の請求 | 連絡すると口座は凍結される。公共料金や借入返済の引落し口座なら、先に手当てを検討する |
| 3か月以内 | 相続放棄・限定承認の申述 | 家庭裁判所。この期限は延長申立て以外に救済がない |
| 4か月以内 | 所得税の準確定申告 | 被相続人の住所地の所轄税務署 |
| 10か月以内 | 相続税の申告・納付 | 被相続人の住所地の所轄税務署 |
| 1年以内 | 遺留分侵害額請求 | 相続の開始および侵害を知った時から1年。弁護士の領域 |
| 3年以内 | 相続登記の申請 | 令和6年(2024年)4月1日から義務化。正当な理由なく怠ると過料の対象。司法書士の領域 |
| 申告期限後3年以内 | 未分割財産の分割 | 「申告期限後3年以内の分割見込書」を申告時に添付しておくこと |
| 3年10か月以内 | 相続財産を譲渡した場合の取得費加算 | 相続開始の翌日から相続税申告期限の翌日以後3年を経過する日まで |
準確定申告
被相続人のその年1月1日から死亡の日までの所得について、相続人が申告する。所得税の確定申告の期限(翌年3月15日)ではなく、相続開始を知った日の翌日から4か月以内である点を必ず押さえる。
- 相続人が2人以上いる場合は、原則として全員が連署して1通提出する。各人の氏名・住所・相続分を記載した付表を添付する。連署できない場合は各人が別々に提出し、他の相続人へ内容を通知する。
- 医療費控除、社会保険料控除、生命保険料控除は死亡の日までに支払ったものが対象。死亡後に相続人が支払った被相続人の医療費は準確定申告では控除できないが、相続税では債務控除の対象になる。
- 配偶者控除・扶養控除の判定は死亡の日現在の現況で行い、月割りはしない。
- 青色申告特別控除は要件を満たせば適用できる。事業を承継する相続人は、自分の青色申告承認申請を別途行う必要がある。
| 被相続人の死亡日 | 事業を承継する相続人の青色申告承認申請の期限 |
|---|---|
| その年1月1日から8月31日 | 死亡の日から4か月以内 |
| その年9月1日から10月31日 | その年12月31日 |
| その年11月1日から12月31日 | 翌年2月15日 |
単純承認・限定承認・相続放棄
| 区分 | 効果 | 手続 | 税務上の注意 |
|---|---|---|---|
| 単純承認 | 権利義務を無限に承継する | 手続不要。3か月何もしなければ自動的に単純承認になる | 通常の相続税申告 |
| 限定承認 | 相続財産の限度でのみ債務を弁済する | 相続人全員が共同で家庭裁判所へ申述 | 被相続人が時価で財産を譲渡したものとみなされ、含み益に所得税が課される(所得税法59条)。準確定申告で申告する |
| 相続放棄 | 初めから相続人でなかったものとみなされる | 各人が単独で家庭裁判所へ申述 | 法定相続人の数には算入する(基礎控除は減らない)。ただし放棄した人が受け取る生命保険金に非課税枠は使えない |
初動チェックリスト
- 死亡日と「相続の開始があったことを知った日」を確認し、10か月後の日付を全担当者の予定表に入れた
- 被相続人の出生から死亡までの連続戸籍、相続人全員の戸籍謄本・住民票を請求した(法定相続情報一覧図の作成も検討)
- 遺言書の有無を確認した(公証役場の検索、法務局の保管事実証明、自宅の金庫・貸金庫)
- 債務の概況を確認し、3か月の放棄期限の要否を判断した
- 準確定申告の要否を判断した(事業所得、不動産所得、給与2か所、公的年金400万円超、還付申告の有無)
- 死亡日現在の残高証明書を全金融機関へ請求した(既経過利息の計算書も同時に依頼)
- 過去5年から10年分の預金取引履歴を請求した(名義預金・生前贈与の把握のため)
- 不動産の名寄帳、固定資産税課税明細書、登記事項証明書を取得した
- 証券会社の残高報告書、生命保険会社の支払通知・保険証券一覧を集めた
- 被相続人が代表を務める法人の直近3期の決算書と株主名簿を確認した
- 過去の贈与税申告書、相続時精算課税選択届出書の有無を確認した
- 受任範囲と報酬について、相続人全員に同じ内容で説明した
3. 財産評価の要点
相続税の実務時間の大半は評価に費やされる。とくに土地と自社株が金額を左右する。ここでは「どこを見て、何を確認するか」を中心に整理する。
土地 — 路線価方式と倍率方式
国税庁ホームページの財産評価基準書で、その土地が路線価地域か倍率地域かを確認する。路線価は毎年7月1日に公表され、その年1月1日時点の価額を示す。公示価格の80%程度の水準に設定されている。
| 方式 | 算式 | 適用地域 |
|---|---|---|
| 路線価方式 | 路線価×各種補正率×地積 | 市街地。路線価図に道路ごとの価額が記載されている |
| 倍率方式 | 固定資産税評価額×評価倍率 | 路線価が定められていない地域。評価倍率表で地目ごとの倍率を確認する |
路線価方式では、画地の形状や接道状況に応じて補正を行う。補正を一つ落とすだけで評価額が数百万円変わるので、机上で終わらせず必ず現地と公図で確認する。
- 奥行価格補正 地区区分と奥行距離に応じた補正。最初に必ず当てる。
- 側方路線影響加算・二方路線影響加算 角地・準角地、裏面道路がある場合の加算。
- 間口狭小補正・奥行長大補正 間口が狭い、細長い土地の減額。
- 不整形地補正 想定整形地を描いてかげ地割合を求める。減額幅が大きく、判断が分かれやすい。
- がけ地補正・土砂災害特別警戒区域内の宅地の補正 傾斜地、レッドゾーンの減額。
- 無道路地 接道義務を満たさない土地。通路開設費用を控除する。
私道・貸宅地・貸家建付地
| 区分 | 評価 |
|---|---|
| 私道(不特定多数の者の通行の用に供されるもの) | 評価しない(ゼロ) |
| 私道(特定の者の通行の用に供されるもの) | 自用地価額の30% |
| セットバックを要する宅地 | 該当部分の価額の70%を減額 |
| 都市計画道路予定地 | 地区区分・容積率・地積割合に応じた補正率を乗じる |
| 貸宅地(借地権が設定された土地) | 自用地価額×(1−借地権割合) |
| 貸家建付地(自分の土地に建てた貸家の敷地) | 自用地価額×(1−借地権割合×借家権割合30%×賃貸割合) |
| 貸家建付借地権 | 借地権価額×(1−借家権割合30%×賃貸割合) |
地積規模の大きな宅地の評価
一定の要件を満たす広い宅地は、戸建分譲用地として開発する際の潰れ地(道路部分)を考慮して規模格差補正率を乗じる。減額幅が大きいため、面積の大きい宅地を見たら必ず判定する。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 地積 | 三大都市圏は500平方メートル以上、それ以外の地域は1,000平方メートル以上 |
| 地区区分 | 路線価地域では普通商業・併用住宅地区または普通住宅地区に所在すること |
| 都市計画 | 市街化調整区域(一定の開発可能な区域を除く)に所在しないこと |
| 用途地域 | 工業専用地域に所在しないこと |
| 容積率 | 指定容積率400%(東京都の特別区は300%)以上の地域に所在しないこと |
算式は「路線価×奥行価格補正率等の各種補正率×規模格差補正率×地積」。倍率地域でも、その宅地が標準的な宅地であるとした場合の路線価に相当する価額を用いて適用できる。
小規模宅地等の特例
相続税の減額としては最大級の効果を持つ。4類型あり、限度面積と減額割合が異なる。
| 区分 | 限度面積 | 減額割合 | 主な取得者要件 |
|---|---|---|---|
| 特定居住用宅地等 | 330平方メートル | 80% | 配偶者は無条件。同居親族は申告期限まで居住継続かつ所有継続。別居親族(いわゆる家なき子)は、相続開始前3年以内に自己・配偶者・三親等内の親族・特別の関係のある法人が所有する家屋に居住したことがないこと等 |
| 特定事業用宅地等 | 400平方メートル | 80% | 被相続人等の事業を承継し、申告期限まで事業継続かつ所有継続。相続開始前3年以内に新たに事業の用に供した宅地は原則対象外(宅地上の減価償却資産の価額が宅地の価額の15%以上なら対象) |
| 特定同族会社事業用宅地等 | 400平方メートル | 80% | 被相続人および親族等が発行済株式の50%超を保有する法人の事業用宅地。取得者が申告期限においてその法人の役員であること。法人へ相当の対価で賃貸していることが前提(使用貸借は対象外) |
| 貸付事業用宅地等 | 200平方メートル | 50% | 申告期限まで貸付事業を継続かつ所有継続。相続開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供した宅地は原則対象外(事業的規模で3年超営んでいる場合を除く) |
複数の宅地がある場合の併用ルールは次のとおり。
- 特定居住用(330平方メートル)と特定事業用・特定同族会社事業用(400平方メートル)は完全併用できる。合計730平方メートルまで80%減額。
- 貸付事業用を併せて選択する場合は面積調整が必要になる。特定居住用の面積×200÷330+特定事業用等の面積×200÷400+貸付事業用の面積 が200平方メートル以下であること。
- 選択は取得者全員の同意が必要。誰の取得した宅地に特例を当てるかで各人の税額が変わるため、分割協議と一体で決める。
家屋・上場株式・その他
| 財産 | 評価方法 |
|---|---|
| 自用家屋 | 固定資産税評価額×1.0。課税明細書の「価格(評価額)」欄を使う。課税標準額ではない |
| 貸家 | 固定資産税評価額×(1−借家権割合30%×賃貸割合) |
| 建築中の家屋 | 課税時期までの費用現価×70% |
| 構築物 | (再建築価額−経過年数に応ずる減価の額)×70% |
| 上場株式 | 次の4つのうち最も低い価額。①課税時期の終値 ②課税時期の月の毎日の終値の月平均額 ③前月の月平均額 ④前々月の月平均額 |
| 公社債 | 利付公社債は市場価格+既経過利息(源泉税相当額控除後) |
| 投資信託 | 課税時期の解約請求時の価額(信託財産留保額・源泉税相当額を控除) |
| 預貯金 | 課税時期の残高+既経過利息(源泉税相当額控除後)。定期預金は必ず既経過利息を加算する |
| ゴルフ会員権 | 取引相場×70%(+取引価格に含まれない預託金) |
| 家庭用財産 | 一括して見積もることが多い。書画骨董・貴金属は個別に評価 |
| 貸付金・未収入金 | 元本+既経過利息。回収不能が明らかな部分を除く |
取引相場のない株式(自社株)
中小企業の相続で最大の論点になる。手順は「①株主の判定 ②会社規模の判定 ③評価方式の適用」の3段である。
- STEP1 株主区分の判定
取得者が同族株主等に該当するかを見る。同族株主等なら原則的評価方式、それ以外なら配当還元方式。配当還元方式は「その年配当金額÷10%×1株あたりの資本金等の額÷50円」で、原則的評価に比べて著しく低い価額になる。 - STEP2 会社規模の判定
従業員数、総資産価額、取引金額(売上高)と業種から、大会社・中会社(大・中・小)・小会社に区分する。従業員数70人以上は無条件で大会社。規模が大きいほど類似業種比準価額の割合が高くなり、一般に評価額は下がる。 - STEP3 評価方式の適用
大会社は類似業種比準価額(純資産価額との選択可)、小会社は純資産価額(併用可)、中会社は併用。併用割合Lは会社規模で決まる。
| 会社規模 | 原則的評価方式 | 併用割合L |
|---|---|---|
| 大会社 | 類似業種比準価額(純資産価額との選択可) | 1.00 |
| 中会社の大 | 類似業種比準価額×L+純資産価額×(1−L) | 0.90 |
| 中会社の中 | 同上 | 0.75 |
| 中会社の小 | 同上 | 0.60 |
| 小会社 | 純資産価額(併用も可) | 0.50 |
類似業種比準価額は、類似業種の上場株価をもとに、配当・利益・簿価純資産の3要素を自社と比較して算出する。算式は「A×{(bかけるBぶんの1)+(cかけるCぶんの1)+(dかけるDぶんの1)}÷3×斟酌率×(1株あたりの資本金等の額÷50円)」。斟酌率は大会社0.7、中会社0.6、小会社0.5。
純資産価額は、資産・負債を相続税評価額に置き換えた純資産から、評価差額に対する法人税等相当額(37%)を控除して求める。含み益のある不動産を持つ会社ほど、この方式では評価が高く出る。
次の会社は特定の評価会社として、原則として純資産価額方式で評価する。判定を落とすと評価額が大きく狂うので、必ず全社チェックする。
- 株式等保有特定会社(総資産に占める株式等の割合が50%以上)
- 土地保有特定会社(総資産に占める土地等の割合が、会社規模に応じた基準以上)
- 比準要素数1の会社(配当・利益・簿価純資産のうち2つがゼロ)、比準要素数0の会社
- 開業後3年未満の会社、開業前・休業中の会社、清算中の会社
生命保険金・死亡退職金の非課税枠
いずれも500万円×法定相続人の数まで非課税。ただし枠を使えるのは相続人が受け取った場合に限られる。
| 受取人 | 非課税枠 | 備考 |
|---|---|---|
| 相続人 | 使える | 複数人いる場合は受取金額の比で按分 |
| 相続放棄をした人 | 使えない | ただし法定相続人の数には算入されるので、他の相続人の枠は減らない |
| 相続人以外(孫、内縁の配偶者など) | 使えない | さらに2割加算の対象になる |
名義預金
税務調査で最も指摘される項目である。名義が家族でも、実質的に被相続人の財産であれば相続財産に含める。判定は次の要素の総合判断で行う。
| 判定要素 | 被相続人の財産と判断されやすい状況 |
|---|---|
| 原資の出捐者 | 収入のない配偶者・子・孫の口座に多額の残高がある |
| 通帳・印鑑・カードの管理者 | 被相続人が自宅の金庫でまとめて管理していた |
| 贈与の事実 | 贈与契約書がない。贈与税の申告もない。名義人が贈与を受けた認識がない |
| 利息・配当の帰属 | 利息が被相続人の口座に入金されている |
| 名義人の自由処分 | 名義人が口座の存在すら知らず、一度も引き出していない |
| 口座開設場所・届出印 | 名義人の生活圏から離れた、被相続人の取引店で開設。届出印が被相続人と同じ |
4. 贈与税
贈与税は相続税の補完税である。生前に財産を移して相続税を回避することを防ぐ目的で、相続税より高い税率が設定されている。課税方式は暦年課税と相続時精算課税の2つで、受贈者が贈与者ごとに選択する。
暦年課税
1月1日から12月31日までに受けた贈与の合計額から基礎控除110万円を差し引き、税率表を適用する。申告期限は翌年の2月1日から3月15日まで(受贈者の住所地の所轄税務署)。基礎控除は受贈者1人につき年110万円であって、贈与者ごとではない。
特例税率(特例贈与財産)
18歳以上の者が直系尊属(父母・祖父母)から受けた贈与
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | — |
| 400万円以下 | 15% | 10万円 |
| 600万円以下 | 20% | 30万円 |
| 1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
| 1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
| 3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
| 4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
| 4,500万円超 | 55% | 640万円 |
一般税率(一般贈与財産)
上記以外(配偶者間、兄弟間、他人からなど)
| 基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 200万円以下 | 10% | — |
| 300万円以下 | 15% | 10万円 |
| 400万円以下 | 20% | 25万円 |
| 600万円以下 | 30% | 65万円 |
| 1,000万円以下 | 40% | 125万円 |
| 1,500万円以下 | 45% | 175万円 |
| 3,000万円以下 | 50% | 250万円 |
| 3,000万円超 | 55% | 400万円 |
相続時精算課税
贈与時にいったん軽い課税で済ませ、相続時に精算する制度。60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与が対象。最初の贈与を受けた年の翌年3月15日までに相続時精算課税選択届出書を提出する。一度選ぶとその贈与者からの贈与について撤回できない。
令和6年(2024年)分の贈与から年110万円の基礎控除が新設された。これが制度の性格を大きく変えている。
| 比較項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 年110万円(受贈者ごと) | 年110万円(贈与者ごと。同一年に複数の特定贈与者がいる場合は按分) |
| 特別控除 | なし | 累計2,500万円 |
| 税率 | 10%から55%の超過累進 | 特別控除を超えた部分に一律20% |
| 相続財産への加算 | 相続開始前7年以内の贈与を加算 | 基礎控除110万円を超える部分をすべて加算(年数無制限) |
| 基礎控除部分の相続時の扱い | 加算対象期間内なら加算される | 加算されない(申告も不要) |
| 加算する価額 | 贈与時の価額 | 贈与時の価額(一定の災害による被害を受けた土地建物は再計算あり) |
| 贈与税額の精算 | 控除しきれない額は切捨て | 控除しきれない額は還付される |
| 小規模宅地等の特例 | 相続で取得すれば適用可 | 精算課税で贈与した宅地は適用不可 |
| 撤回 | — | 不可 |
生前贈与加算(7年)
相続または遺贈により財産を取得した者が、相続開始前7年以内に被相続人から受けた暦年課税の贈与は、相続財産に加算する。令和6年(2024年)1月1日以後の贈与から、従来の3年が7年へ段階的に延長された。
- 延長された4年間(相続開始前3年超7年以内)に受けた贈与については、その合計額から100万円を控除した残額を加算する。
- 加算されるのは「相続または遺贈により財産を取得した者」への贈与に限られる。相続人でない孫(代襲相続人でなく、遺贈も受けず、生命保険金も受け取っていない者)への贈与は加算されない。
- 加算する価額は贈与時の価額。加算された贈与に課された贈与税は、贈与税額控除で差し引く。
- 7年分がフルに遡るのは、令和13年(2031年)1月1日以後に開始する相続からである。それ以前は「令和6年1月1日以後の贈与のうち、相続開始前7年以内のもの」が対象になる。
非課税の特例
| 制度 | 非課税限度額 | 主な要件・状況 |
|---|---|---|
| 住宅取得等資金の贈与 | 省エネ等住宅1,000万円/それ以外500万円 | 直系尊属からの贈与。受贈者は18歳以上、合計所得金額2,000万円以下(床面積40平方メートル以上50平方メートル未満の場合は1,000万円以下)。翌年3月15日までに取得し居住すること。※適用期限は最新の情報を要確認 |
| 教育資金の一括贈与 | 1,500万円(学校等以外への支払は500万円) | 金融機関との契約が必要。令和8年(2026年)3月31日をもって終了し、以後の新規契約はできない。既契約の残額は、受贈者が30歳に達した時などの終了時に贈与税が課される |
| 結婚・子育て資金の一括贈与 | 1,000万円(結婚関係は300万円) | すでに適用期限を経過しており、新規の契約はできない。既契約の残額管理と終了時の課税だけが実務論点として残る※制度の終了時期は最新の情報を要確認 |
| 贈与税の配偶者控除(おしどり贈与) | 2,000万円(基礎控除と合わせて2,110万円) | 婚姻期間20年以上の配偶者から、居住用不動産またはその取得資金の贈与。翌年3月15日までに居住し、その後も居住する見込みであること。同一夫婦間で一生に一度。生前贈与加算の対象外 |
| 扶養義務者間の生活費・教育費 | 限度額なし | 通常必要と認められる範囲で、その都度直接充てられるものに限る。まとめて渡して預金にした部分は課税される |
5. 事業承継税制と自社株対策
中小企業の相続では、換金できない自社株に高い評価額がついて納税資金が足りなくなる。これを正面から解決するのが事業承継税制(非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除の特例)である。
法人版事業承継税制(特例措置)
| 項目 | 特例措置 | 一般措置 |
|---|---|---|
| 対象株式 | 全株式 | 総株式数の3分の2まで |
| 納税猶予割合 | 贈与100%・相続100% | 贈与100%・相続80% |
| 後継者の数 | 最大3人 | 1人 |
| 雇用確保要件 | 5年平均8割を下回っても、理由を記載した報告書を提出すれば猶予継続 | 下回ると猶予打切り |
| 事前の計画 | 特例承継計画の提出が必要 | 不要 |
| 相続時精算課税との併用 | 推定相続人以外の後継者にも適用可 | 推定相続人・孫に限る |
特例措置を使うには、認定経営革新等支援機関の所見を記載した特例承継計画を都道府県知事に提出して確認を受ける。提出期限は令和9年(2027年)9月30日まで延長されている。※贈与・相続そのものの適用期限は最新の情報を要確認
- STEP1 特例承継計画の作成・提出
会社の概要、後継者の氏名、承継までの経営見通し、承継後5年間の経営計画を記載する。認定経営革新等支援機関(金融機関・税理士等)の所見が必要。都道府県庁の担当課へ提出する。 - STEP2 贈与または相続の実行
先代経営者は代表を退任する(有給役員として残ることは可能)。後継者は代表に就任し、議決権の一定割合を確保する。 - STEP3 円滑化法の認定申請
贈与の場合は贈与年の翌年1月15日まで、相続の場合は相続開始後8か月以内に都道府県知事へ申請する。この期限を落とすと制度自体が使えなくなる。 - STEP4 税務署へ申告
贈与税・相続税の申告期限までに、認定書の写しを添えて申告し、猶予税額と利子税に見合う担保を提供する(対象株式のすべてを担保提供すればよい)。 - STEP5 継続届出書の提出
申告期限の翌日から5年間は毎年、その後は3年ごとに税務署へ継続届出書を提出する。あわせて5年間は都道府県へ年次報告書を提出する。 - STEP6 免除事由の発生
後継者の死亡、次の後継者への特例贈与などにより、猶予税額が免除される。
- 継続届出書・年次報告書の提出漏れ
- 後継者が代表権を失った(5年以内)
- 後継者の同族関係者と合わせた議決権が50%以下になった、または筆頭株主でなくなった(5年以内)
- 対象株式を譲渡した(5年経過後は譲渡割合に応じて一部打切り)
- 会社が資産保有型会社・資産運用型会社に該当した
- 会社の総収入金額がゼロになった、資本金・準備金を減少した
個人版事業承継税制
個人事業者の後継者が、特定事業用資産(宅地400平方メートルまで、建物床面積800平方メートルまで、機械装置・車両・器具備品・生物・無形固定資産)を贈与・相続で取得した場合の納税猶予。個人事業承継計画の提出期限は令和10年(2028年)9月30日まで延長されている。
自社株評価の引下げ策
いずれも実行前に必ず税理士の判断を仰ぐ。ここでは「どういう打ち手があるか」を把握しておくための整理にとどめる。
類似業種比準価額を下げる
比準要素である配当・利益・簿価純資産を引き下げる。役員退職金の支給(利益と純資産を同時に圧縮できるため効果が大きい)、含み損のある資産の処分、不良債権の貸倒処理、記念配当・特別配当の活用(比準要素の配当から除外できる)、決算期の変更による利益の平準化など。
純資産価額を下げる
相続税評価額と時価に差が生じる資産を取得する。ただし課税時期前3年以内に取得した土地建物は通常の取引価額で評価されるため、効果が出るのは取得から3年経過後である。生命保険の活用も同様の発想。
会社規模を引き上げる
従業員数・総資産・売上高で判定されるため、規模が上がると類似業種比準価額のウエイトが増え、一般に評価は下がる。合併や事業の集約が結果的に規模区分を動かすことがある。
持株会社(ホールディングス)化
後継者が設立した持株会社が金融機関借入で先代から株式を買い取る方式。株式が現金に変わり納税資金が確保でき、以後の事業会社の価値上昇は持株会社に留まる。ただし株式等保有特定会社(総資産に占める株式等の割合50%以上)に該当すると純資産価額評価になり狙いが外れる。借入の返済原資(配当・経営指導料)まで含めた資金計画が必須。
種類株式の活用
議決権制限株式を後継者以外の相続人に渡して経営権を集中させる、拒否権付株式(黄金株)を先代が1株だけ持って当面の歯止めにする、など。黄金株は先代の相続時に誰が持つかまで決めておかないと、かえって紛争の種になる。
従業員持株会・従業員への譲渡
同族株主等以外への譲渡なので配当還元価額で移転できる。少数株式の分散には有効だが、退職時の買戻しルールを定款・規約で明確にしておかないと、将来株式が社外に流出する。
遺留分の民法特例
後継者に自社株を集中させると、他の相続人の遺留分を侵害してしまう。経営承継円滑化法の民法特例は、この問題を生前の合意で解決する仕組みである。
| 合意の種類 | 効果 |
|---|---|
| 除外合意 | 後継者が先代から贈与を受けた自社株を、遺留分算定の基礎財産から除外する。後から遺留分侵害額請求を受けない |
| 固定合意 | 自社株の価額を合意時点の価額に固定する。承継後に後継者の努力で株価が上がっても、遺留分の計算では値上がり分が考慮されない |
- STEP1 推定相続人全員の書面による合意
後継者と先代の推定相続人全員(遺留分を有する者)の合意が必要。1人でも反対すれば成立しない。 - STEP2 経済産業大臣の確認
合意の日から1か月以内に申請する。 - STEP3 家庭裁判所の許可
確認を受けた日から1か月以内に申立てる。許可により合意の効力が確定する。
6. 相続対策の3視点と職員の線引き
3つの視点と優先順位
争族防止
最優先。分け方が決まらなければ、小規模宅地等の特例も配偶者の税額軽減も使えず、税額は跳ね上がる。事業も止まる。手段は遺言(公正証書が基本)、生前の家族会議、遺留分の民法特例、生命保険を使った代償金の準備、種類株式。
納税資金
次点。相続税は原則として金銭一括納付である。財産が不動産と自社株ばかりだと、納税のために事業用資産を売る羽目になる。手段は生命保険、死亡退職金、金庫株、遊休不動産の生前売却、延納・物納の検討。
節税
最後。評価引下げと生前贈与が中心。効果は大きいが、争族と納税資金を放置したまま節税だけ進めると、かえって身動きが取れなくなる。とくに「借入で不動産を買う」対策は、相続後に返済と空室リスクを相続人が背負う点を必ず説明する。
納税資金対策としての金庫株
踏み込んではいけない線引き
相続案件は、税理士業務・弁護士業務・司法書士業務・不動産業務が隣り合っている。境界を越えると法令違反になるだけでなく、事務所の信用を一度で失う。
| 行為 | 可否 | 関係する法令・考え方 |
|---|---|---|
| 相続税の試算、申告書の作成 | 可(税理士業務。無資格職員は税理士の指揮監督のもとで補助する) | 税理士法。職員が単独で税務判断を顧問先に伝えない |
| 複数の分割案について税額を比較試算して示す | 可 | 税務判断の範囲。ただし「どれを選ぶべきか」を決めるのは相続人 |
| 相続人間の意見調整、代理交渉、一方の立場での主張 | 不可 | 弁護士法72条(非弁行為)。報酬の有無にかかわらず関与しない |
| 遺産分割協議書の作成 | 紛争性があれば不可。税理士業務に付随する範囲を超えない | 弁護士法72条。相続人間で合意済みの内容を書面化するのと、内容を調整するのは全く別である |
| 相続登記の申請代理、登記申請書の作成 | 不可 | 司法書士法73条。司法書士へつなぐ |
| 相続放棄の申述書、期間伸長の申立書の作成 | 不可 | 裁判所提出書類の作成は司法書士・弁護士の業務 |
| 遺言書の文案作成 | 不可 | 弁護士法・行政書士法。税務上の観点からの助言にとどめ、文案は専門家に依頼する |
| 遺言執行者への就任 | 個人として就任は可能だが、事務所方針に従う | 紛争化した場合の負担が大きい。所長・所内会議の承認を要件にする |
| 不動産の売却先の紹介、売買価格の助言 | 媒介行為は不可 | 宅地建物取引業法。価額の鑑定評価は不動産鑑定士の業務 |
| 生命保険の提案・募集 | 募集人登録がなければ不可 | 保険業法。「必要性の説明」と「商品の募集」は別物である |
7. 相続の兆候をつかむ、所内へつなぐ
相続対策は、相続が起きてからでは打つ手がほとんどない。顧問先を担当している職員が最初の発見者になる。特別な調査は要らない。毎年見ている資料の中に兆候は出ている。
兆候チェックリスト
- 社長が70歳以上である。または健康を害した、入院した、代表交代の話が出た
- 後継者が決まっていない。または後継者候補が社内におらず、M&Aを含めて何も検討していない
- 自社株の大半を社長個人が保有している。株主名簿を数年見ていない
- 純資産が厚い、含み益のある不動産を法人が持っている(株価が高くなっている)
- 決算書に役員借入金がある。これは社長個人にとって法人への貸付金であり、相続財産である
- 社長個人所有の土地に法人の建物が建っている。地代の授受、「土地の無償返還に関する届出書」の有無を確認していない
- 個人の確定申告に不動産所得がある。物件が複数ある
- 設立時の名義株(親族・知人に名義を借りた株式)が整理されないまま残っている
- 相続人が遠方に住んでいる、疎遠である、前妻の子がいる、子のいない夫婦である
- 遺言がない。または10年以上前に書いたまま見直していない
- 生命保険に長年加入していない、あるいは保障内容を10年以上見直していない
所内での引継ぎ方
- STEP1 気づいたら、その日のうちに記録する
面談メモに「相続の兆候」と分かる印を付ける。記憶に留めない。担当替えで確実に消える。 - STEP2 事実確認資料を集める
直近3期の決算書・法人税申告書、株主名簿、不動産の登記事項証明書と固定資産税課税明細書、社長個人の確定申告書、保険証券の一覧、家族関係の概要。ここまでは通常の関与の中で集められる。 - STEP3 粗い相続税の試算を作る
1円まで合わせる必要はない。「今のままだと相続税がおおむねいくらで、納税資金が足りるか足りないか」が分かればよい。この1枚が所内で話を動かす。 - STEP4 所内会議に上げる
資産税の担当者・所長へ。ここで受任するかどうか、誰が担当するか、外部専門家(弁護士・司法書士・不動産鑑定士・金融機関)を入れるかを決める。 - STEP5 顧問先に提案する場面を設計する
いきなり「相続の話を」と切り出さない。決算報告の場を使う。社長単独ではなく、可能なら後継者にも同席してもらう。 - STEP6 実行はチームで、期限管理は事務所で
特例承継計画、認定申請、継続届出書、贈与税申告など、期限のある手続が連なる。担当者個人の記憶ではなく、事務所の期限管理表で回す。
Q. 顧問先の社長が亡くなったと電話が入った。まず何をするか。
A. お悔やみを伝えたうえで、この4点だけを確認して記録し、すぐ所長へ報告する。①亡くなった日 ②葬儀の日程 ③相続人の構成(配偶者・子の人数) ④遺言の有無。財産の話はこの段階では一切聞かない。遺族は葬儀の準備で余裕がない。ただし期限はすべて死亡日から起算されるため、日付の確認だけは必ず行う。改めての打合せは、四十九日の前後を目安に日程だけ押さえておく。
Q. 遺産分割がまとまらないまま申告期限が近づいている。
A. 未分割のまま法定相続分で按分して申告し、申告期限までに「申告期限後3年以内の分割見込書」を必ず添付する。未分割では配偶者の税額軽減も小規模宅地等の特例も使えないため、いったん多めに納付することになるが、この書面を出しておけば、分割が確定した日の翌日から4か月以内に更正の請求をして特例を適用できる。3年以内に分割できないやむを得ない事情があるときは、3年経過日の翌日から2か月以内に「遺産が未分割であることについてやむを得ない事由がある旨の承認申請書」を提出する。見込書の添付漏れは取り返しがつかないので、未分割案件のチェックリストの筆頭に置く。
Q. 相続税の申告を受任するのは初めて。どこから手をつけるか。
A. 財産の把握がすべてで、評価と申告書作成は資料が揃えば機械的に進む。時間の8割を資料収集に充てる。死亡日現在の残高証明書、過去5年から10年分の預金取引履歴(名義預金と生前贈与の把握のため。ここを省略すると調査で必ず崩れる)、不動産の名寄帳・登記事項証明書・公図・測量図、証券会社の残高報告書、保険会社の支払通知と保険証券一覧、過去の贈与税申告書。あわせて「相続税の申告のためのチェックシート」(国税庁が公表している様式)を最初から埋めながら進めると、確認漏れが構造的に減る。
Q. 相続人から「税務調査は来るのか」と聞かれた。
A. 「来る前提で準備します」と答える。相続税は申告件数に対する調査割合が他の税目より高く、指摘の中心は名義預金と現金である。だから申告の段階で、家族名義の預金について「誰の原資か、誰が管理していたか、贈与の事実があるか」を整理し、判断の根拠を書面で残しておく。亡くなる直前に引き出された多額の現金は必ず聞かれるので、使途を確認して記録する。書面添付制度(税理士法33条の2)を利用し、判断が分かれた論点とその根拠を添付書面に書いておけば、調査の前に意見聴取の機会が設けられ、そこで解決することもある。
