第11章 所得税の確定申告 — 個人顧問先対応|会計事務所 実務ハンドブック

確定申告の要否と期限、事業所得と青色申告特別控除、不動産所得、譲渡所得、令和8年分の所得控除、住民税と国保への波及、法人成りの判断、繁忙期の運営。

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CHAPTER 11
所得税の確定申告 — 個人顧問先対応
目次

CHAPTER 11所得税の確定申告 — 個人顧問先対応

個人の確定申告は、1月から3月に事務所の仕事量が一年で最も膨らむ業務である。所得区分の判定を誤ると税額そのものが変わり、按分や特例の適用漏れは翌年以降の住民税と国民健康保険料まで引きずる。令和8年(2026年)分は基礎控除・扶養の所得要件・生命保険料控除がまとめて動き、翌令和9年(2027年)分からは青色申告特別控除の要件が変わる。改正の切れ目を先に頭に入れてから、判定・計算・段取りの順で進める。

1. 確定申告の要否判定と期限

最初にやることは「この人は申告義務があるのか」「義務はないが申告した方が得なのか」の切り分けである。義務の有無で期限後申告のペナルティが変わり、有利不利の判定で提案の中身が変わる。両方を同じ表で見られるようにしておく。

申告義務がある人

区分申告が必要になる基準確認する資料
事業所得・不動産所得がある人各種所得の合計額が所得控除の合計額を超え、税額が生じる場合試算表、前年の申告書
給与所得者(1)給与の収入金額が2,000万円を超える源泉徴収票(年末調整されていない)
給与所得者(2)給与以外の所得(副業、原稿料、暗号資産、太陽光売電など)の合計が20万円を超える支払調書、取引履歴
給与所得者(3)2か所以上から給与を受け、従たる給与とその他の所得の合計が20万円を超える源泉徴収票が2枚以上
給与所得者(4)同族会社の役員やその親族等が、その法人から貸付金の利子・不動産賃貸料等を受けている法人の勘定科目内訳明細書(借入金・地代家賃)
公的年金等の受給者公的年金等の収入が400万円を超える、または公的年金等以外の所得が20万円を超える公的年金等の源泉徴収票
退職所得がある人「退職所得の受給に関する申告書」を提出していない場合(一律20.42%が源泉徴収されており精算が必要)退職所得の源泉徴収票
譲渡所得がある人不動産・株式等の譲渡益がある場合。特例で税額がゼロになる場合も申告が適用要件売買契約書、特定口座年間取引報告書
注意 「給与以外の所得が20万円以下なら申告不要」は所得税だけのルールで、住民税には20万円ルールがない。所得税の確定申告をしない場合でも、市区町村への住民税申告が別途必要になる。ここを飛ばすと、後で市役所から本人に照会が行き「先生に頼んでいたのに」という話になる。副業がある給与所得者には必ず口頭で伝え、面談記録に残す。

義務はないが申告した方が有利な人

  • 源泉徴収された税額が年税額を上回っている(年の途中で退職した、給与が減った、扶養が増えた)
  • 医療費控除・寄附金控除・雑損控除がある(年末調整では処理できない3つの控除)
  • 住宅ローン控除の初年度
  • 上場株式等の譲渡損失を翌年以降3年間繰り越したい、または配当と損益通算したい
  • 事業で純損失が出ており、繰越または前年への繰戻し還付を受けたい
  • 予定納税をしており、実績が見積りを下回っている

期限の一覧

手続期限(令和8年=2026年分の申告)実務上の注意
所得税・復興特別所得税の申告と納付令和9年(2027年)2月16日から3月15日還付申告のみの人は1月1日から提出できる。2月15日以前に出して構わない
個人事業者の消費税・地方消費税の申告と納付令和9年(2027年)3月31日所得税と締切が違う。管理表の列を分け、所得税提出後に消費税を放置しない
贈与税の申告と納付令和9年(2027年)2月1日から3月15日相続時精算課税の選択届出も同じ期限
振替納税(所得税)例年4月中旬残高不足だと期限内納付にならず延滞税が付く。事前に案内する
振替納税(消費税)例年4月下旬所得税より約1週間遅い
延納(所得税)3月15日までに納付すべき税額の2分の1以上を納付し、残額は5月31日まで申告書第一表の延納の届出欄に記載する。利子税がかかる
青色申告承認申請書適用を受けようとする年の3月15日。その年1月16日以後の新規開業は開業から2か月以内1日でも遅れるとその年は白色。最優先で管理する
予定納税額の減額申請(第1期・第2期分)7月15日6月30日の現況で見積る
予定納税額の減額申請(第2期分のみ)11月15日10月31日の現況で見積る
更正の請求法定申告期限から5年有利な特例の適用漏れに気付いたときの救済ルート
還付申告その年の翌年1月1日から5年過去分をまとめて出せる。医療費控除の遡及でよく使う
準確定申告相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内相続人全員が連署。付表の添付を忘れない
補足 期限の日が土曜・日曜・祝日にあたるときは、その翌日(次の開庁日)が期限になる。令和9年(2027年)3月15日は月曜日、3月31日は水曜日なので、令和8年分については日付のずれはない。ただし毎年必ずカレンダーで確認する習慣にする。

振替納税と延納

振替納税は、口座振替により納付する制度である。申告期限までに「預貯金口座振替依頼書兼納付書送付依頼書」を税務署または金融機関に提出しておけば、以後は自動で継続する。メリットは納付を約1か月遅らせられること、納付書を書きに行かなくてよいことの2点。デメリットは残高不足の一発失敗で、引落しができないと期限内納付として扱われず、法定納期限の翌日から延滞税が付く。

実務のコツ 振替納税を使っている顧問先には、申告書の控えを渡すときに「振替日」と「振替金額」を書いた紙を1枚添える。3月に申告して4月に落ちるため、本人の記憶から抜けやすい。事務所ルールとして、振替日の3営業日前に一斉メールを送る運用にすると事故がほぼ消える。なお、住所や氏名が変わった場合、口座を変える場合は依頼書の出し直しが必要になる。

延納は、3月15日までに納付すべき税額の2分の1以上を納め、残りを5月31日まで待ってもらう制度である。届出は申告書第一表の「延納の届出」欄に金額を書くだけでよい。ただし延納期間中は利子税がかかる。資金繰りが苦しい先にはまず延納を案内し、それでも足りなければ税務署の納税相談(換価の猶予・納税の猶予)につなぐ。

期限後申告と加算税・延滞税

種類割合軽減・加重
無申告加算税納付すべき税額のうち50万円までの部分15%、50万円超300万円以下の部分20%、300万円超の部分30%税務調査の事前通知前に自主的に期限後申告をすれば5%。事前通知後で更正の予知前は10%(50万円超300万円以下の部分15%、300万円超の部分25%)
過少申告加算税追加税額の10%期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%。調査の事前通知前の自主的な修正申告は不適用
重加算税仮装隠蔽があった場合、過少申告に代えて35%、無申告に代えて40%過去5年内に無申告加算税・重加算税を課されたことがあるときはさらに10%加重
延滞税法定納期限の翌日から納付日まで日割り。納期限の翌日から2か月以内と2か月超で割合が変わる割合は市中金利に連動して年ごとに改定される ※適用年分の割合は国税庁ホームページで要確認
利子税(延納・準確定申告等)延滞税より低い割合。必要経費算入できる場合がある同上
補足 期限内に申告する意思があったと認められる一定の場合、具体的には法定申告期限から1か月以内に自主的に期限後申告をし、かつ期限内納付の実績があるなど所定の要件を満たすときは、無申告加算税が課されない。3月16日に「出し忘れていた」と連絡が来ても、まだ打てる手がある。慌てずに1か月以内の提出と全額納付を最優先に動く。

2. 所得10種類の一覧

所得税は、まず所得を10種類に分け、それぞれのルールで金額を計算し、総合課税のものだけを合算して累進税率をかける、という組み立てになっている。区分を間違えると計算方法も税率も変わる。迷ったら「その収入は何をした対価か」「継続反復しているか」「元手は資産か労務か」の3点で切る。

所得区分主な内容所得金額の計算方法課税方法
利子所得預貯金・公社債の利子、公社債投資信託の収益分配金収入金額がそのまま所得(必要経費なし)原則、源泉分離課税20.315%(申告不要)
配当所得法人からの剰余金の配当、株式投資信託の収益分配金収入金額 − 株式取得のための負債利子総合課税(配当控除あり)。上場株式等は申告分離課税または申告不要を選択できる
不動産所得土地・建物・船舶・航空機の貸付けによる所得総収入金額 − 必要経費(− 青色申告特別控除)総合課税
事業所得農業、製造、卸小売、サービス業、自由職業など事業から生ずる所得総収入金額 − 必要経費(− 青色申告特別控除)総合課税
給与所得俸給、給料、賃金、賞与、役員報酬収入金額 − 給与所得控除額(− 特定支出控除)総合課税(源泉徴収・年末調整で完結することが多い)
退職所得退職手当、一時恩給、確定拠出年金の一時金(収入金額 − 退職所得控除額)× 2分の1。勤続5年以下の役員等は2分の1なし分離課税。申告書の提出があれば源泉徴収で完結
山林所得取得後5年を超える山林の伐採または譲渡総収入金額 − 必要経費 − 特別控除50万円(− 青色申告特別控除)分離課税(5分5乗方式)
譲渡所得土地・建物・株式・機械・ゴルフ会員権などの資産の譲渡総合分は 収入金額 − 取得費 − 譲渡費用 − 特別控除50万円土地建物・株式等は申告分離課税。その他の資産は総合課税(長期は2分の1)
一時所得生命保険の満期一時金、懸賞金、法人からの贈与、ふるさと納税の返礼品総収入金額 − 収入を得るために支出した金額 − 特別控除50万円総合課税(2分の1を他の所得と合算)
雑所得公的年金等、副業、原稿料・講演料、暗号資産、事業に至らない各種の所得公的年金等は 収入金額 − 公的年金等控除額。業務・その他は 収入金額 − 必要経費総合課税(一部は分離課税)

損益通算のルール

赤字を他の所得と相殺できるのは不動産所得・事業所得・山林所得・譲渡所得の4つだけである。「不・事・山・譲」と覚える。ただし次の制限がある。

  • 土地等を取得するための負債の利子に相当する不動産所得の損失は、損益通算できない
  • 生活に通常必要でない資産(別荘、書画骨董、貴金属、ゴルフ会員権など)の譲渡損失は、損益通算できない
  • 土地建物等の譲渡損失は、原則として他の所得と損益通算できない(居住用財産の特例に該当する場合のみ可能)
  • 株式等の譲渡損失は、上場株式等の配当所得等との間でのみ通算できる
  • 雑所得の損失は損益通算できない(暗号資産・副業の赤字は切り捨て)
よくあるミス 副業の赤字を事業所得として申告して給与と損益通算する処理は、税務調査で最も指摘されやすい論点である。帳簿書類の保存がなく、収入金額が300万円以下の場合は、原則として業務に係る雑所得として扱われる。事業所得と主張するには、記帳・帳簿保存に加え、営利性・継続性・反復性、人的物的設備、生活の状況などを総合的に説明できる材料が要る。最初の面談で「帳簿はありますか」を必ず聞く。

3. 事業所得(個人事業)の実務

青色申告特別控除

青色申告特別控除は、事業所得または事業的規模の不動産所得がある青色申告者が、記帳と申告の方法に応じて受けられる控除である。令和8年(2026年)分までの現行制度と、令和9年(2027年)分以後の改正後で要件が変わる。ここは顧問先への説明が必要になるので、2つの表で押さえる。

控除額令和8年(2026年)分までの要件
65万円正規の簿記の原則(複式簿記)による記帳、貸借対照表と損益計算書の添付、法定申告期限内の提出に加えて、e-Taxによる電子申告 または 優良な電子帳簿の保存(あらかじめ届出が必要)のいずれかを満たすこと
55万円複式簿記・貸借対照表添付・期限内申告は満たすが、上記の電子要件を満たさない場合
10万円簡易な簿記による記帳など、上記以外の場合。期限後申告でもこの控除は受けられる
控除額令和9年(2027年)分以後の要件(改正後)実務対応
75万円(新設)e-Taxによる申告に加えて、優良な電子帳簿の保存 または 電子取引データが帳簿に自動連携されていること会計ソフトの銀行明細・クレジット明細の自動連携を令和8年中に設定しておく
65万円e-Taxによる電子申告が必須になる(従来の優良な電子帳簿ルート単独では65万円にならない)紙提出の顧問先は電子申告へ移行させる。利用者識別番号の取得を年内に済ませる
55万円複式簿記・期限内申告等の従来要件変更なし
10万円簡易帳簿による控除は、前々年の収入金額が1,000万円を超える者は対象外になる該当先は複式簿記への切替えが必要。令和9年分に間に合うよう令和8年中に体制を整える
根拠 令和8年度税制改正により、令和9年分以後の青色申告特別控除は、75万円の区分が新設され、65万円はe-Tax申告が必須とされた。あわせて、簡易帳簿による10万円控除について、前々年の収入金額1,000万円超の者を対象外とする改正が行われた。適用は令和9年分からであり、令和8年分の申告には影響しない。
実務のコツ 改正の案内は令和8年分の申告書を渡すタイミングで行う。「来年からe-Taxでないと65万円が55万円に下がります」という説明は、10万円の差=所得税・住民税・国保でおよそ3万円から4万円の負担増という金額に置き換えると通りやすい。逆に自動連携を設定すれば75万円になるという上振れの話も同時にする。

青色事業専従者給与

項目内容
対象者青色申告者と生計を一にする配偶者その他の親族で、その年12月31日現在15歳以上の者
従事要件その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事すること(年の途中の開業・従事は従事可能期間の2分の1超)
届出期限その年3月15日まで。その年1月16日以後に開業した場合、または新たに専従者を有することとなった場合は、その日から2か月以内
金額の上限届出書に記載した金額の範囲内。増額するときは変更届出書を先に出す
妥当性の判断労務の対価として相当かどうか。職務の内容、従事の程度と期間、他の使用人の給与、同種同規模の事業の水準で判断する
重複適用の禁止専従者給与を支払うと、その専従者について配偶者控除・配偶者特別控除・扶養控除は受けられない
源泉徴収通常の従業員と同じ。扶養控除等申告書の受領、源泉徴収、年末調整、給与支払報告書の提出まで行う
白色申告の場合事業専従者控除として、配偶者86万円・その他の親族50万円と、事業所得等を専従者数に1を加えた数で割った金額の、いずれか低い方
よくあるミス 専従者が他にパート勤務をしていて「専ら従事」の要件を満たしていないケース、届出額を超えて支給しているケース、届出だけ出して実際には支払っていない(未払計上のまま)ケースの3つが定番の否認事由である。年1回、専従者の勤務実態と支給実績、届出額を突き合わせるチェックを決算前に入れる。給与台帳と現金出納帳・預金通帳の支払記録が一致しているかまで見る。

家事按分

個人事業では、支出のうち事業に対応する部分だけが必要経費になる。按分そのものより按分の根拠をどう残すかが実務の勝負どころである。税務調査で聞かれるのは割合の妥当性ではなく「その割合はどうやって出しましたか」だからである。次の表の「残す資料」を最低限そろえ、按分計算書を1枚作って毎年更新する。

経費項目按分の基準残す資料・根拠実務上の目安
家賃・地代(賃借)事業使用面積 ÷ 総面積間取り図に事業スペースを図示したもの、賃貸借契約書30%から50%が多い。1部屋を専用にしていれば説明しやすい
持家の減価償却費・固定資産税同上(面積比)売買契約書、登記事項証明書、固定資産税納税通知書建物の取得価額と経過年数の資料が必須
住宅ローンの支払利息面積比。元本部分は経費にならない返済予定表、金融機関の年間取引明細住宅ローン控除との関係を必ず確認する
電気料金面積比、または業務使用時間比使用機器と1日の稼働時間のメモ、電力会社の明細30%から50%。在宅時間の説明ができること
水道・ガス原則として事業関連性が薄い飲食業・美容業など業務で使う場合のみ算定根拠を残す一般の業種では計上しない
携帯電話・通信費事業用の通話・通信の割合、または使用時間比1か月分の通話明細で実測し、その月を年間に引き伸ばした計算メモ50%から80%。事業専用回線を分ければ全額
インターネット回線業務使用時間 ÷ 総使用時間業務時間の記録、事業用端末の台数50%から80%
車両(ガソリン、保険料、車検、自動車税、減価償却費)事業走行距離 ÷ 総走行距離、または使用日数比運行記録(日付・行先・目的・距離)、車検証、走行距離メーターの年初年末の写真走行距離の実測が最も強い。2台目を事業専用にすると説明が楽になる
火災保険料・地震保険料面積比保険証券地震保険料控除との二重計上に注意
実務のコツ 按分計算書は「項目・年間支出額・按分基準・分子・分母・事業割合・必要経費算入額」の7列で作る。エクセル1枚でよい。初年度に作れば翌年以降は数値の更新だけで済み、担当者が代わっても引き継げる。決算書の摘要欄や事業概況説明書に「家賃のうち事業割合40%」と一言書いておくと、調査官の初動の質問が減る。

減価償却

取得価額取扱い個人の場合の注意
10万円未満取得した年に全額必要経費(消耗品費)税込経理か税抜経理かで判定額が変わる。免税事業者は税込で判定
10万円以上20万円未満一括償却資産として3年間で均等償却(3分の1ずつ)償却資産税の対象外になるメリットがある。除却しても3年間償却を続ける
20万円以上30万円未満(2026年3月31日までの取得)中小事業者の少額減価償却資産の特例により全額必要経費年間合計300万円が限度。青色申告者に限る
20万円以上40万円未満(2026年4月1日以後の取得)同特例の上限が40万円未満に引き上げられる令和8年分は年の途中で基準が変わる。取得日で分けて集計する
上記以外法定耐用年数による通常の減価償却個人は定額法が原則。定率法を使うには「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」が必要
注意 少額減価償却資産の特例は、令和8年(2026年)4月1日以後の取得から取得価額の基準が30万円未満から40万円未満に引き上げられ、従業員要件も常時使用する従業員500人以下から400人以下に変わる。個人は暦年で申告するため、令和8年分は1月1日から3月31日までの取得と4月1日以後の取得で基準が異なる。固定資産台帳を取得日順に並べ、35万円のパソコンが3月納品か4月納品かで判定を分ける。適用期限は2029年(令和11年)3月31日取得分までである。

個人特有の論点として、減価償却は強制償却である点を押さえる。法人のように任意で償却を止めることはできず、償却しなかった年があってもその分は取り戻せない。赤字だから償却を止めておく、という処理はできない。

貸倒引当金

青色申告者は、年末の貸金(売掛金・受取手形・貸付金など)に対して一括評価の貸倒引当金を設定できる。繰入限度額は年末の貸金の帳簿価額の合計額 × 5.5%(金融業は3.3%)である。前年に繰り入れた金額は当年に全額戻入れする洗替え方式で処理する。

借方科目金額貸方科目金額摘要
貸倒引当金330,000貸倒引当金戻入額330,000前年繰入額の戻入れ(洗替え)
貸倒引当金繰入額418,000貸倒引当金418,000期末貸金 7,600,000 × 5.5%
補足 貸倒引当金は青色申告の特典であり、白色申告者は個別評価分(更生手続開始の申立てなど回収不能が明らかなもの)しか設定できない。金額としては大きくないが、青色申告のメリットを説明する材料になる。なお、繰入額は決算書の該当欄に記載しないと認められない。

純損失の繰越しと繰戻し還付

純損失の繰越控除(3年)

  • 青色申告者は、損失が生じた年の翌年以後3年間にわたり所得から控除できる
  • 損失の生じた年に青色申告書を期限内に提出していること
  • その後の年も連続して確定申告書を提出していること(所得がなくても出す)
  • 申告書第四表(損失申告用)を使う
  • 白色申告者は変動所得の損失と被災事業用資産の損失に限られる

純損失の繰戻し還付(前年分)

  • 前年分に繰り戻して、前年に納めた所得税の還付を受ける
  • 損失の年と前年の両方が青色申告であること
  • 損失の年の確定申告書を期限内に提出すること
  • 「純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書」を確定申告書と同時に提出する
  • 還付されるのは所得税のみ。住民税は繰戻しがなく、翌年以降の繰越しで調整される
  • 還付請求は税務署の調査対象になりやすい点を事前に伝える
実務のコツ 繰越しと繰戻しは選択制であり、有利判定が必要になる。前年の所得が高く今後の所得回復が見込めないなら繰戻し、翌年以降に黒字が見込めて税率も高いなら繰越しが有利になることが多い。判定の材料は「前年の課税所得に対応する限界税率」と「翌年以降3年の所得見込み」の2つ。3年で使い切れずに切り捨てになるリスクも見る。資金繰りが厳しい先は、有利不利より現金が早く入る繰戻しを優先することもある。

開業初年度の注意点

  1. STEP1 届出書を期限管理表に落とす
    個人事業の開業・廃業等届出書(1か月以内)、所得税の青色申告承認申請書(開業から2か月以内。1月1日から1月15日までの開業はその年3月15日)、青色事業専従者給与に関する届出書(2か月以内)、給与支払事務所等の開設届出書(1か月以内)、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書。青色申告承認申請書の期限徒過は取り返しがつかないため、開業相談の当日にその場で書かせる。
  2. STEP2 開業前の支出を開業費に集める
    開業準備のために特別に支出した費用は繰延資産(開業費)として資産計上し、任意償却する。任意償却なので、黒字が出た年にまとめて償却できる。名刺・ホームページ制作費・研修費・内装費のうち資産にならないもの・打合せ費用などを、開業日前のレシートから拾う。仕入代金や10万円以上の資産、家賃・水道光熱費など経常的な費用は開業費にならない。
  3. STEP3 家事用資産の事業転用を計算する
    自家用車や自宅パソコンを事業に使い始めた場合、取得価額から非業務期間の減価の額を控除した金額を取得価額とみなして償却を始める。非業務期間の減価は、法定耐用年数を1.5倍した年数に対応する旧定額法の償却率で、経過年数分を計算する。中古車を事業用にする相談は頻出なので計算パターンを持っておく。
  4. STEP4 消費税の立ち位置を決める
    開業初年度は基準期間がないため原則として免税だが、インボイス発行事業者の登録をすれば登録日から課税事業者になる。取引先が事業者中心か消費者中心かで判断が分かれる。登録するなら簡易課税の選択、2割特例・3割特例の適用可否まで一体で検討する。
  5. STEP5 社会保険と共済を案内する
    国民健康保険・国民年金への切替(退職から14日以内)、国民年金の付加保険料、小規模企業共済(掛金全額が小規模企業共済等掛金控除)、iDeCo、経営セーフティ共済(倒産防止共済。必要経費算入だが解約時に収入となる点と、令和6年10月以後の再加入制限に注意)。
  6. STEP6 帳簿と証憑の型を決める
    会計ソフトの選定、銀行口座とクレジットカードの事業用分離、電子取引データの保存方法(ファイル名規則と保存場所)、レシートの保管方法。ここを開業時に固めるかどうかで、その後の毎年の作業時間が変わる。

4. 不動産所得

事業的規模の判定と効果

不動産の貸付けが事業として行われているかどうかは、原則として5棟10室基準で判定する。独立家屋なら5棟以上、アパート・マンションなど独立した室数なら10室以上であれば、特に反証がない限り事業的規模として扱う。土地の貸付けについては、おおむね5件を1室に相当するものとして換算する取扱いがある。

項目事業的規模(5棟10室以上)事業的規模でない
青色申告特別控除65万円・55万円の適用あり10万円のみ
青色事業専従者給与・事業専従者控除適用あり適用なし
賃貸用固定資産の取壊し・除却損全額を必要経費に算入その年の不動産所得の金額を限度に算入(引ききれない部分は切捨て)
貸倒損失回収不能となった年の必要経費収入計上した年に遡って、その収入がなかったものとして更正の請求
貸倒引当金設定できる設定できない
延納に係る利子税不動産所得に対応する部分を必要経費に算入できる同左
実務のコツ 9室のオーナーが1室増やして10室にすると、青色申告特別控除が10万円から65万円に増え、専従者給与も使えるようになる。所得税・住民税・国保への効果を金額で示すと、増築や区分所有の追加取得の判断材料になる。逆に、相続で共有になった物件は共有者ごとに持分で判定するのではなく、共有物全体の室数で判定する取扱いがあるため、共有割合だけで安易に判断しない。

必要経費

  • 固定資産税・都市計画税(賦課決定のあった年分。原則として納期到来分または実際納付分でも可)
  • 損害保険料(賃貸物件の火災保険。長期一括払いは期間対応で按分)
  • 減価償却費(建物、建物附属設備、構築物。中古取得は簡便法による耐用年数)
  • 修繕費(資本的支出との区分は後述)
  • 管理会社への管理手数料、共用部分の水道光熱費、清掃費
  • 入居者募集の広告宣伝費、仲介手数料
  • 借入金の利息(元本は経費にならない。返済予定表で元利を分ける)
  • 立退料(賃貸継続のためのものは必要経費。譲渡のためのものは譲渡費用)
  • 税理士報酬、不動産関係の書籍代、物件視察の旅費交通費
注意 建物と土地を一括で購入したときの取得価額の按分を誤ると、減価償却費が毎年ずれ続ける。売買契約書に建物価額と消費税額の記載があればそれを使い、記載がなければ固定資産税評価額の比で按分するのが実務の第一選択である。契約書に「消費税額」だけ書いてある場合は、消費税額を税率で割り戻すと建物価額が出る。この計算をした根拠メモを必ずファイルに残す。

土地等を取得するための負債の利子の損益通算制限

不動産所得に損失が生じたとき、その損失のうち土地等を取得するために要した負債の利子に相当する部分は、他の所得と損益通算できない。損失額の全部が通算できなくなるのではなく、土地取得分の利子を限度として制限される。

根拠 建物と土地を一括して借入金で取得した場合、その借入金はまず建物の取得に充てられ、残額が土地の取得に充てられたものとして計算できる。この取扱いを使うと土地取得分の利子が小さくなり、損益通算できる金額が増える。申告書第四表付表または明細に、土地等を取得するための負債の利子の額を記載する。

計算例を示す。物件取得価額8,000万円(建物3,000万円、土地5,000万円)、借入金6,000万円、当年の支払利息120万円、不動産所得の損失が180万円の場合を考える。借入金6,000万円のうち3,000万円が建物、残り3,000万円が土地に充てられたものとする。土地対応の利子は120万円 × 3,000万円 ÷ 6,000万円 = 60万円。損失180万円のうち60万円は損益通算できず、残り120万円だけが他の所得と通算できる。

修繕費と資本的支出

修繕費(その年の必要経費)

  • 通常の維持管理、原状回復のための支出
  • 退去後のクロス張替え、畳表替え、ハウスクリーニング
  • 壊れた給湯器を同等品に交換
  • 外壁の塗り替え(従来と同程度のもの)

資本的支出(資産計上して償却)

  • 価値を高める、使用可能期間を延ばす支出
  • 非常階段や避難設備の新設
  • 用途変更のための模様替え(事務所を店舗に)
  • グレードを上げた設備への取替え(差額部分)
順番形式基準判定
11件20万円未満の支出修繕費としてよい
2おおむね3年以内の周期で行われる支出修繕費としてよい
360万円未満、または前年末取得価額のおおむね10%以下修繕費としてよい
4上記でも区分が不明な場合支出額の30%と前年末取得価額の10%のいずれか少ない額を修繕費、残りを資本的支出とする(7対3基準。継続適用が条件)
よくあるミス 領収書が「リフォーム工事一式」でまとめられていると判定できない。工事見積書・内訳書を必ず入手し、給湯器交換・クロス張替え・間取り変更などの項目ごとに分けて判定する。1枚の請求書の中に修繕費と資本的支出が混在するのが普通である。金額が大きい工事は、着工前に見積書の段階で相談してもらう運用にすると精度が上がる。

敷金・礼金の収入計上時期

受領するもの取扱い収入計上時期
礼金・権利金返還を要しないので収入原則として貸付けに係る契約の効力発生日(引渡しを要するものは引渡日)
更新料・名義書換料返還を要しないので収入契約の効力発生日
敷金・保証金(全額返還するもの)預り金。収入ではない貸借対照表の負債に計上したまま
敷金・保証金(一部返還不要のもの)返還を要しない部分が収入返還不要が確定した日(契約時に確定していれば契約時、退去時に確定するなら退去時)
家賃・共益費収入契約で支払日が定められていればその支払日。前受家賃も当年分の支払日到来分は収入
滞納家賃収入支払日が到来していれば未収でも収入計上する
注意 保証金の償却(いわゆる敷引き)が契約書に定められている場合、その部分は返還を要しないことが契約時に確定しているため、契約時に収入計上する。退去時にまとめて収入にする処理は誤りである。契約書のひな型を1度確認し、償却条項の有無を顧問先ごとにメモしておく。

青色申告特別控除との関係

不動産所得と事業所得の両方がある場合、青色申告特別控除はまず不動産所得から控除し、控除しきれない金額を事業所得から控除する。この順序は決まっており、有利選択はできない。不動産所得が事業的規模でない場合、65万円・55万円の控除は事業所得がなければ受けられず、10万円が上限になる。ただし、事業所得があって65万円の要件を満たしていれば、その控除を不動産所得から先に引くことになる。

5. 給与所得者の還付申告

還付申告はその年の翌年1月1日から5年間提出できる。2月16日を待つ必要はなく、1月中に出せば還付も早い。繁忙期の平準化のため、還付申告だけの顧問先は1月に処理してしまうのが事務所運営の基本方針になる。

医療費控除とセルフメディケーション税制

項目医療費控除セルフメディケーション税制
控除額支払医療費 − 保険金等で補填される金額 − (10万円 または 総所得金額等の5%のいずれか低い方)対象医薬品の購入費 − 保険金等で補填される金額 − 12,000円
上限200万円88,000円
対象治療のための診療費、治療目的の医薬品、通院の交通費(公共交通機関)、入院時の部屋代・食事代、治療のための歯列矯正、介護保険サービスの一部スイッチOTC医薬品等の対象医薬品。レシートに対象品である旨の表示がある
対象外健康診断・人間ドック(重大な疾病が見つかり治療した場合は対象)、予防接種、美容目的、自家用車のガソリン代・駐車場代、健康食品対象医薬品以外の一般用医薬品
追加要件なし健康診断、予防接種、がん検診など一定の取組を行っていること
添付書類医療費控除の明細書。医療保険者の医療費通知を添付すれば明細の記入を省略できるセルフメディケーション税制の明細書。取組を証明する書類は保存(5年)
注意 医療費控除とセルフメディケーション税制は選択適用で、併用できない。しかも確定申告書を提出した後は、更正の請求や修正申告によって一方から他方へ選択替えすることはできない。両方の集計をしてから有利な方を選び、提出前に確定させる。なお、セルフメディケーション税制の適用期限は令和8年(2026年)12月31日までとされている。令和9年分以後の取扱いは、申告書の作成に入る前に国税庁ホームページで確認する。
実務のコツ 医療費控除の足切りは「10万円 または 総所得金額等の5%のいずれか低い方」であり、所得が低い年は5%が効く。給与収入が少ない年や、事業が赤字だった年は、医療費が10万円未満でも控除が取れることがある。総所得金額等が200万円未満の顧問先には必ず医療費を聞く。また、生計を一にする家族全員分をまとめられるので、共働き世帯では所得の高い方に寄せるのが原則(ただし高額療養費や補填金の按分に注意)。

ふるさと納税とワンストップ特例

ワンストップ特例は、確定申告をしない給与所得者が、寄附先の自治体に申請書を出すことで、確定申告なしに住民税から控除を受けられる制度である。次のいずれかに該当するとワンストップ特例は使えなくなる

  • 確定申告または住民税申告をする場合(医療費控除、住宅ローン控除の初年度、副業の申告、譲渡所得の申告など理由を問わない)
  • 1年間の寄附先が6団体以上になった場合(同じ自治体への複数回の寄附は1団体と数える)
  • 申請書を寄附した年の翌年1月10日必着で提出できなかった場合
  • 申請後に住所や氏名が変わり、変更届出書を1月10日までに出していない場合
よくあるミス ワンストップ特例の申請を済ませた人が、後から医療費控除のために確定申告をすると、ワンストップの申請はすべて無効になる。このとき、寄附金受領証明書をもとに全件を寄附金控除として申告書に入力し直さなければならない。1件でも入力を漏らすと、その分の控除がまるごと消える。面談時に「ふるさと納税はしていますか。何件ですか」を定型質問にし、受領証明書または特定事業者の寄附金控除に関する証明書を必ず回収する。医療費控除の還付額より、ふるさと納税の控除漏れによる損失の方が大きいというケースが実際に起きる。

住宅ローン控除の初年度

項目内容
初年度確定申告が必要。給与所得者でも年末調整では処理できない
2年目以降税務署から送られる「年末調整のための住宅借入金等特別控除証明書」と金融機関の年末残高等証明書を勤務先に提出して年末調整で処理する
必要書類(特定増改築等)住宅借入金等特別控除額の計算明細書、建物・土地の登記事項証明書、売買契約書または工事請負契約書の写し、住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書、本人確認書類。省エネ基準への適合が要件となる住宅は、住宅性能証明書等
適用期限令和12年(2030年)12月31日までに居住の用に供した場合
既存住宅(中古)借入限度額は最大4,500万円、控除期間13年
床面積要件令和8年(2026年)1月1日以後は50平方メートル以上から40平方メートル以上に緩和。ただし合計所得金額の要件に注意する
注意 住宅ローン控除は税額控除であるため、所得税額を超える部分は控除しきれない。控除しきれない金額は、翌年度の住民税から一定額を限度に控除される。ここで注意すべきは、ふるさと納税や医療費控除で所得税額を下げてしまうと、住宅ローン控除の枠を使い切れなくなる場合があることである。住宅ローン控除の初年度は、ふるさと納税の上限額も通常より小さくなる。年内にシミュレーションして本人に伝える。

特定支出控除

給与所得者が職務のために自ら支出した費用が、給与所得控除額の2分の1を超える場合、その超える部分を給与所得控除額に加算できる。対象は通勤費、職務上の旅費、転居費、研修費、資格取得費、帰宅旅費、勤務必要経費(図書費・衣服費・交際費。合計65万円が上限)である。

補足 特定支出控除の最大の壁は、支出のすべてについて給与の支払者による証明書が必要な点である。会社が「これは職務に必要と認める」と押印しなければ使えない。実務で当たるのは、会社負担のない高額な資格取得費(大学院の学費、専門資格のスクール費用)や単身赴任者の帰宅旅費が中心になる。給与収入が低いほど給与所得控除額も小さくなり2分の1のハードルが下がるため、若手社員の資格取得費で成立することがある。相談を受けたら、まず会社が証明書を書いてくれるかを確認するところから始める。

6. 譲渡所得

不動産の長期・短期の判定と税率

土地建物等の譲渡は申告分離課税で、長期と短期の判定は譲渡した年の1月1日時点で所有期間が5年を超えるかどうかで行う。実際の所有年数が5年を超えていても、1月1日時点で5年以下なら短期になる。年末に売るか年明けに売るかで税率が倍近く変わるため、相談段階での確認が最重要になる。

区分判定税率(令和8年分)内訳
短期譲渡所得譲渡した年の1月1日で所有期間5年以下39.63%所得税30% + 復興特別所得税0.63% + 住民税9%
長期譲渡所得譲渡した年の1月1日で所有期間5年超20.315%所得税15% + 復興特別所得税0.315% + 住民税5%
居住用財産の軽減税率(10年超所有)譲渡した年の1月1日で所有期間10年超の居住用財産課税譲渡所得6,000万円以下の部分14.21%、6,000万円超の部分20.315%6,000万円以下は所得税10% + 復興0.21% + 住民税4%
補足 相続や贈与で取得した資産は、原則として被相続人・贈与者の取得日と取得費を引き継ぐ。親から相続した実家を売るとき、相続してから1年でも、親の所有期間が長ければ長期譲渡になる。取得日を相続日と誤ると税率が倍近く変わるため、被相続人の取得時の資料(登記事項証明書の権利部、古い売買契約書)を必ず探す。

居住用財産の特例

特例内容主な要件
3,000万円特別控除居住用財産の譲渡益から3,000万円を控除自己が居住していた家屋とその敷地。住まなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの譲渡。前年・前々年に同特例等を受けていないこと。配偶者や親族等への譲渡でないこと
10年超所有の軽減税率3,000万円控除後の課税譲渡所得に軽減税率を適用譲渡年1月1日で家屋・敷地とも所有期間10年超。3,000万円特別控除と併用できる
特定居住用財産の買換え特例買換えにより譲渡益への課税を将来に繰り延べる所有期間10年超、居住期間10年以上、譲渡対価1億円以下など。3,000万円控除・軽減税率とは選択(併用不可) ※適用期限は最新の情報を要確認
被相続人の居住用財産(空き家)の3,000万円特別控除相続した旧耐震の空き家を耐震改修または取壊しのうえ譲渡した場合昭和56年5月31日以前建築、相続開始直前に被相続人が一人暮らし、相続時から譲渡時まで空き家、譲渡対価1億円以下、相続開始から3年を経過する日の属する年の12月31日まで。相続人が3人以上の場合の控除額は1人2,000万円
注意 買換え特例は税金がなくなる制度ではなく、課税の繰延べである。買い換えた物件を将来売却するとき、繰り延べた譲渡益がまとめて課税される。目先の税額だけで3,000万円控除と比較すると誤った提案になる。また、3,000万円特別控除や買換え特例を使うと、買換え先の住宅について住宅ローン控除が使えなくなる(居住年とその前後の一定期間の重複適用禁止)。この組合せは相談時に必ず確認する。

取得費と譲渡費用

取得費

  • 購入代金、建築代金、購入手数料、登録免許税、不動産取得税、印紙税
  • 建物は所有期間中の減価償却費相当額を控除する(非業務用は法定耐用年数の1.5倍の年数による旧定額法相当)
  • 取得費が不明、または取得費が譲渡収入の5%に満たない場合は、概算取得費として譲渡収入金額の5%を取得費にできる
  • 相続税の取得費加算(相続開始の翌日から相続税の申告期限の翌日以後3年を経過する日までの譲渡)

譲渡費用

  • 仲介手数料、売主負担の印紙税
  • 貸家を売るために支払った立退料
  • 建物を取り壊して土地を売るための取壊し費用と建物の損失額
  • より有利な条件で売るために契約解除した際の違約金
  • 借地権を売るときの名義書換料
  • 測量費、分筆費用
  • 対象外:修繕費、固定資産税、抵当権抹消費用、引越費用、遺産分割のための費用
実務のコツ 概算取得費5%は最後の手段である。先祖代々の土地でも、次の資料で実額が出せることがある。1つ目は購入時の売買契約書・領収書(本人が保管していなくても、仲介業者や売主側に残っていることがある)。2つ目は住宅ローンの当初借入額(購入価額の目安になる)。3つ目は分譲時のパンフレット、購入当時の新聞広告。4つ目は登記事項証明書に記載された抵当権の債権額。実額が概算より大きければ税額が下がるため、5%を使う前に必ず一度は探す時間を取る。ただし、これらの間接資料が取得費として認められるかは事案ごとの判断になるため、根拠と限界を書面で説明しておく。

株式等の譲渡

口座区分源泉徴収申告の要否実務のポイント
特定口座(源泉徴収あり)あり(20.315%)申告不要を選択できる年間取引報告書1枚で完結。損失がある年や複数口座の通算をする年は申告した方が有利になることがある
特定口座(源泉徴収なし)なし申告が必要年間取引報告書の金額をそのまま転記する
一般口座なし申告が必要取得価額を自分で計算する。取引報告書の積上げが必要
NISA口座非課税申告不要損失はないものとされ、他の口座の利益と通算できない

上場株式等の譲渡損失は、確定申告により上場株式等の配当所得等と損益通算でき、引ききれない損失は翌年以後3年間繰り越せる。繰越しの適用を受けるには、損失の年に確定申告をし、その後も取引がない年を含めて連続して申告書を提出する必要がある。1年でも出し忘れると繰越しが切れる。

よくあるミス 源泉徴収ありの特定口座の譲渡益を申告すると、所得税・住民税の計算上は申告分離で追加負担が生じなくても、合計所得金額が増える。その結果、配偶者控除・扶養控除の判定、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料の自己負担割合、各種の行政サービスに影響が出る。特に年金生活者の扶養に入っている家族や、国保加入者は要注意である。申告不要を選べる場合は、有利不利を税額だけで判断しない。

暗号資産

暗号資産の取引による所得は、従来は原則として雑所得(総合課税)で、最高税率は住民税と合わせて55%、損失の繰越しもできなかった。この取扱いが改正され、申告分離課税(約20%=所得税15%と住民税5%)とし、損失は3年間繰り越せることとされた。

根拠 暗号資産の申告分離課税化と損失の3年繰越しは、金融商品取引法上の位置付けの見直しとセットで措置されたものであり、適用は金融商品取引法の改正法が施行された年の翌年1月1日からとされている。したがって、令和8年(2026年)分の申告で当然に分離課税になるわけではない。※適用開始年分は施行日を最新情報で要確認
注意 適用開始前の年分は従来どおり雑所得の総合課税であり、損失の繰越しもできない。適用開始年をまたぐ売買の相談を受けたときは、どちらの年分の取扱いになるかで税額が大きく変わる。また、分離課税に移行しても、マイニング・ステーキング報酬、暗号資産同士の交換、暗号資産による決済などの取扱いは論点として残る。取引所の年間取引報告書と、取引所を経由しない取引の記録(ウォレットの履歴)の両方を回収する。

7. 令和8年分の所得控除・税額控除

令和8年(2026年)分は、基礎控除、給与所得控除、扶養親族等の所得要件がまとめて動いた年である。年末調整で処理済みの内容と重複するが、確定申告では年末調整の誤りを直す場面が出てくるので、金額を手元に置いておく。

人的控除

控除令和8年(2026年)分の内容注意点
基礎控除本則62万円。令和8年・9年分は特例加算があり、合計所得金額489万円以下の人に最大42万円が上乗せされ、基礎控除額は最大104万円になる。上乗せ額は合計所得金額の区分に応じて段階的に減る令和10年分以後は本則62万円に戻る予定。翌々年の税負担が増えることを事業主に説明しておく
給与所得控除最低保障額が65万円から74万円に引き上げられた基礎控除の特例加算と合わせ、令和8年・9年の課税最低限は178万円になる
配偶者控除38万円(老人控除対象配偶者は48万円)。配偶者の合計所得金額62万円以下。本人の合計所得金額900万円以下が満額、900万円超で逓減し1,000万円超で不適用所得要件が58万円以下から62万円以下に引き上げられた
配偶者特別控除配偶者の合計所得金額62万円超133万円以下下限が58万円超から62万円超に変わった
扶養控除一般38万円、特定扶養親族(19歳以上23歳未満)63万円、老人扶養親族48万円、同居老親等58万円。扶養親族の合計所得金額62万円以下所得要件が62万円以下に引き上げられた
特定親族特別控除19歳以上23歳未満で合計所得金額62万円超123万円以下の親族について、最大63万円「源泉控除対象親族」として月次の給与計算にも反映される点が従来と異なる。年末調整での処理漏れを確定申告で拾う
障害者控除27万円、特別障害者40万円、同居特別障害者75万円扶養控除の対象にならない16歳未満の扶養親族についても適用がある
寡婦控除・ひとり親控除寡婦27万円、ひとり親35万円いずれも合計所得金額500万円以下。事実上婚姻関係と同様の事情にある者がいないこと
勤労学生控除27万円。合計所得金額89万円以下所得要件が85万円以下から89万円以下に引き上げられた

物的控除

控除控除額実務上の注意
社会保険料控除支払額の全額生計を一にする親族の国民年金・国保を本人が払っていれば本人の控除になる。国民年金は控除証明書が必須。過年度分をまとめて払った年は全額がその年の控除
小規模企業共済等掛金控除支払額の全額小規模企業共済(月7万円が上限)、iDeCo、心身障害者扶養共済。個人事業主に対する最も有効な節税提案の1つ
生命保険料控除新契約は一般・介護医療・個人年金の各4万円、合計12万円が限度。令和8年・9年分は、23歳未満の扶養親族がいる場合に一般生命保険料控除の限度額が6万円に引き上げられる(合計限度額12万円は据置き)子育て特例は限度額の枠の使い方が変わるだけで、合計上限は増えない。介護医療・個人年金で既に枠を使い切っている人には効果がない
地震保険料控除最高5万円(旧長期損害保険料は最高1万5千円、合計5万円が限度)賃貸物件分を必要経費にしている場合、その部分は控除にできない
医療費控除最高200万円セルフメディケーション税制との選択
寄附金控除(寄附金の額と総所得金額等の40%相当額のいずれか低い方)− 2,000円政党等・認定NPO法人等・公益社団法人等への寄附は税額控除との選択ができる。有利判定が必要
雑損控除差引損失額 − 総所得金額等の10%、または災害関連支出 − 5万円のいずれか多い方災害・盗難・横領による損失に限る。詐欺・恐喝は対象外。3年間繰り越せる

税額控除と復興特別所得税

  • 配当控除(課税総所得金額1,000万円以下の部分は配当所得の10%、超える部分は5%)
  • 住宅借入金等特別控除、住宅耐震改修特別控除、住宅特定改修特別税額控除、認定住宅新築等特別税額控除
  • 政党等寄附金特別控除、認定NPO法人等寄附金特別控除、公益社団法人等寄附金特別控除(寄附金控除との選択)
  • 外国税額控除、災害減免法による軽減免除(雑損控除との選択)
  • 復興特別所得税は令和8年分は基準所得税額の2.1%。令和9年(2027年)分以後は1.1%に引き下げられ、これに代わって防衛特別所得税(所得税額の1%)が課される
補足 令和6年(2024年)分限りの措置であった定額減税は、令和8年分では実施されない。前年までの申告書と見比べて「今年は定額減税の欄がない」と質問されることがあるが、制度そのものが終了している旨を説明する。予定納税でも特別控除の減額はない。

8. 住民税・国民健康保険料への波及

個人の顧問先に対して最も価値のある説明は、所得税の税額そのものよりその所得が翌年度の住民税と国民健康保険料にいくら跳ね返るかである。所得税は申告と同時に納めるが、住民税は翌年6月から、国保料は翌年度から請求が来る。時差があるため、事業主の資金繰り感覚から抜け落ちやすい。

3つの負担の性質

負担計算のしかた負担が発生する時期
所得税・復興特別所得税課税所得に5%から45%の超過累進税率。令和8年分は所得税額に2.1%の復興特別所得税申告と同時(翌年3月15日または振替日)
個人住民税所得割は課税所得に対して一律10%(市町村6%、道府県4%)。これに均等割(森林環境税を含めておおむね年5,000円程度)翌年6月から。普通徴収は6月・8月・10月・翌年1月の4回払い
国民健康保険料(税)所得割は「総所得金額等 − 基礎控除43万円」に市区町村ごとの料率。医療分・後期高齢者支援金分・介護分(40歳以上65歳未満)の合計でおおむね10%から15%。これに均等割・平等割。世帯単位で賦課限度額あり翌年度(6月頃に決定通知、以後分割納付)
国民年金保険料所得に関係なく定額毎月
注意 住民税と国民健康保険料の控除額は、所得税と同じではない。基礎控除、扶養控除、生命保険料控除などの金額が所得税より小さく設定されている項目があり、青色申告特別控除や社会保険料控除のように同じ扱いのものもある。「所得税がゼロなら住民税もゼロ」ではない。また、国保料の所得割は所得控除をほとんど考慮せず、基礎控除相当額だけを引いた金額で計算される点が決定的に違う。医療費控除や生命保険料控除をいくら積んでも、国保料は下がらない。

数値例で説明する

事業所得が前年400万円から当年700万円に増えた個人事業主(40歳、国保加入、扶養は配偶者のみ、他に大きな所得控除なし)を例に、増加分300万円が生む負担を並べる。

負担増加額の計算金額負担する時期
所得税・復興特別所得税増加した課税所得300万円が税率20%の区分に乗る場合、300万円 × 20% × 1.021約61万円令和9年3月(申告時)
個人住民税(所得割)300万円 × 10%30万円令和9年6月から令和10年5月
国民健康保険料(所得割)300万円 × 料率12%と仮定(自治体により異なる。賦課限度額に達すればそれ以上は増えない)約36万円令和9年度(6月頃から分割)
予定納税増えた所得税額をもとに翌年の予定納税基準額が算定され、7月と11月に3分の1ずつ所得税額の3分の2相当を前払い令和9年7月・11月
合計約127万円(増えた所得の4割強)
実務のコツ 事業主に必ず伝えるのは次の3点である。1つ目は「儲かった翌年は、所得税だけでなく住民税・国保・予定納税が同時に来る」こと。2つ目は「増えた利益の約4割は納税用に別口座へ寄せておく」こと。3つ目は「逆に所得が減った年は、翌年に住民税と国保の請求が残るので、減った年こそ資金が苦しくなる」こと。決算の説明時に、上の表と同じ形式で当該顧問先の実数を入れた1枚を作って渡す。この1枚があるかどうかで、翌年の滞納相談の件数がはっきり変わる。
補足 国民健康保険料には世帯ごとの賦課限度額があり、所得が一定水準を超えるとそれ以上は増えない。所得が高い層では上の計算より負担が軽くなる。逆に所得が低い層には均等割・平等割の軽減(7割・5割・2割)があり、所得が軽減の境目をわずかに超えると保険料が跳ね上がることがある。境目付近の顧問先は、小規模企業共済やiDeCoの掛金では国保料が下がらない点(所得割の計算では所得控除を引かないため)に留意し、青色申告特別控除や必要経費の適正計上で総所得金額等そのものを下げる方向で検討する。

9. 予定納税と減額申請

予定納税のしくみ

項目内容
対象者予定納税基準額が15万円以上の人
予定納税基準額前年分の課税総所得金額に係る所得税額(復興特別所得税を含む)から源泉徴収税額を差し引いた金額。原則として譲渡所得、一時所得、雑所得、平均課税を受けた臨時所得は除いて計算する
通知その年6月15日までに税務署から「予定納税額の通知書」が送付される
第1期分予定納税基準額の3分の1。納期は7月1日から7月31日
第2期分予定納税基準額の3分の1。納期は11月1日から11月30日
精算翌年の確定申告で年税額から控除する。納めすぎは還付される
補足 予定納税基準額から譲渡所得等が除かれるのは、その年限りの一時的な所得を翌年の予定納税に持ち込まないためである。前年に不動産を売って多額の所得税を納めた顧問先から「今年も同じだけ予定納税が来るのか」と聞かれたら、この点を説明する。ただし、通知書が実際に届いたら金額を必ず検算し、除外されるべき所得が含まれていないかを確認する。

減額申請

申請の区分見積りの基準日提出期限減額できる対象
第1期分・第2期分の減額その年6月30日の現況7月15日第1期分と第2期分の両方
第2期分のみの減額その年10月31日の現況11月15日第2期分のみ

減額が認められる理由は、その年の申告納税見積額が予定納税基準額に満たないと見込まれる場合である。具体的には次のようなケースが該当する。

  • 廃業、休業、失業した
  • 売上の減少、大口取引先の喪失、災害・盗難・横領による損失で業績が悪化した
  • 多額の設備投資を行い減価償却費が増えた
  • 本人・家族の医療費が多額にかかり、医療費控除が増える見込みである
  • 扶養親族が増えた、配偶者控除の適用を受けることになった
  • 前年に臨時的な所得があり、その年は見込まれない

提出書類は「所得税及び復興特別所得税の予定納税額の減額申請書」で、その年の申告納税見積額の計算根拠として、6月30日または10月31日までの損益計算書と年間見込みの計算資料を添付する。承認されると税務署から通知が届く。承認前に納期限が来る場合でも、申請中であれば結論を待つのが通常の扱いになるが、却下されると延滞税が生じる可能性があるため、税務署の担当部門に確認しながら進める。

実務のコツ 減額申請は7月15日と11月15日の年2回しかチャンスがない。6月中旬に通知書が届いたタイミングで、対象となる顧問先を機械的に洗い出す仕組みを作る。具体的には、前年の申告データから予定納税基準額15万円以上の先をリスト化し、6月末時点の試算表と前年同期を比較して、所得が3割以上減っている先に連絡する。この作業を7月の第1週にまとめて行う運用にすると、期限に追われずに済む。

10. 個人から法人へ(法人成り)

判断材料

観点個人事業法人判断のポイント
税率構造所得税5%から45%の超過累進 + 住民税10%中小法人は年800万円以下の所得15%(適用期限は令和9年3月31日までに開始する事業年度)、800万円超は23.20%所得が800万円前後で逆転が起きやすい。ただし1年だけの数字で決めない
事業主の報酬事業主本人への給与は必要経費にならない役員報酬は損金。本人は給与所得控除を受けられる法人所得を圧縮しつつ給与所得控除も使えるのが最大のメリット
所得の分散青色事業専従者給与(届出額の範囲、専従要件あり)家族を役員・従業員にして報酬を支払える(不相当に高額な部分は損金不算入)専従要件がない分、法人の方が柔軟
社会保険常時5人未満の個人事業所は任意適用(一部業種は5人以上でも任意)社長1人でも強制加入会社負担分がまるごと増える。法人成りの最大のコスト
赤字の場合純損失を3年繰越し。所得ゼロなら住民税所得割もゼロ欠損金を10年繰越し。ただし赤字でも均等割が年7万円程度かかる赤字が続く見込みなら法人は不利
決算期12月31日に固定任意に設定できる繁忙期や在庫の多い時期を避けられる
消費税基準期間の課税売上高等で判定新設法人は基準期間がないため、資本金1,000万円未満なら第1期は原則免税インボイス登録をすると免税にならない。後述
信用力・採用取引先によっては法人でないと口座を開けない一般に高い取引先の要請が動機になるケースが多い
事業承継個々の資産を相続・贈与株式の承継。事業承継税制の特例(特例承継計画の提出期限は令和9年9月30日)承継を視野に入れるなら法人化が扱いやすい
コストほぼゼロ設立費用(株式会社でおおむね25万円前後、合同会社はより低額)、毎年の決算・申告コスト、社会保険の事務年間の追加コストを織り込んで比較する
注意 「所得800万円を超えたら法人化」という単純な基準で提案しない。社会保険料の会社負担、均等割、税理士報酬の増加、社長への貸付金の管理といったコストを積み上げると、実際の分岐点はもっと高いことが多い。また、法人化しても事業に必要な資金は役員報酬で個人に移さないと使えないため、生活費として引き出す金額が大きい先ではメリットが薄い。最低3年分の損益見込みで比較表を作り、書面で説明したうえで本人に決めてもらう。

消費税の観点

法人成りの消費税メリットは、個人と法人が別人格であるため、法人には基準期間がなく、第1期は原則として免税事業者になる点にあった。ただし、インボイス制度の下ではこの前提が崩れている。

論点内容
第1期の免税資本金または出資の額が1,000万円未満であれば、基準期間がないため原則として免税
第2期の判定特定期間(前事業年度開始の日から6か月)の課税売上高と給与等支払額のいずれもが1,000万円を超える場合に課税事業者になる。片方が1,000万円以下なら免税を維持できる
特定新規設立法人他の者に支配され、その者の課税売上高が5億円を超えるなどの場合は、資本金1,000万円未満でも免税にならない
インボイス登録との関係インボイス発行事業者の登録を受けると、登録日から課税事業者になる。免税のメリットは消える
個人の2割特例令和8年(2026年)9月30日の属する課税期間をもって終了する。個人事業者は令和8年分が最後である
個人の3割特例令和9年(2027年)分と令和10年(2028年)分の2年間、個人事業者のみが対象。基準期間・特定期間の課税売上高が1,000万円以下で、インボイス発行事業者であることが要件。納付税額は売上税額の3割
仕入側の経過措置免税事業者からの課税仕入れについて控除できる割合は、2026年10月1日から80%が70%に下がる(2028年10月1日から50%、2030年10月1日から30%、2031年10月1日以後は0%)
実務のコツ 3割特例は個人事業者だけの制度である。インボイス登録済みで課税売上高1,000万円以下の個人事業者が令和9年(2027年)に法人成りすると、令和9年分・令和10年分に使えたはずの3割特例を捨てることになる。売上税額の3割で済むはずが、法人では原則課税または簡易課税で計算することになるため、負担が増える可能性がある。法人成りのタイミングを検討している先には、この2年分の差額を試算して提示する。逆に、簡易課税のみなし仕入率が高い業種(第1種90%、第2種80%)では簡易課税の方が有利なこともあるため、必ず数字で比較する。

手続一覧

区分手続期限
法人設立定款作成・公証人の認証(株式会社)、出資の払込み、設立登記登記申請日が設立日になる
税務署法人設立届出書設立の日から2か月以内
税務署青色申告の承認申請書設立の日から3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日まで
税務署給与支払事務所等の開設届出書開設の日から1か月以内
税務署源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書随時(提出月の翌月支払分から適用)
税務署消費税課税事業者選択届出書、簡易課税制度選択届出書、インボイス登録申請適用を受けようとする課税期間の開始前など。新設法人は設立事業年度中でよい特例がある
都道府県・市町村法人設立届出書各自治体の条例による(おおむね設立から1か月から2か月以内)
個人側個人事業の開業・廃業等届出書(廃業)廃業の日から1か月以内
個人側所得税の青色申告の取りやめ届出書取りやめようとする年の翌年3月15日まで
個人側事業廃止届出書(消費税)事由が生じた場合速やかに
個人側給与支払事務所等の廃止届出書廃止の日から1か月以内
個人側予定納税額の減額申請(廃業により所得が減る場合)7月15日または11月15日
資産の引継ぎ棚卸資産・固定資産の売買契約書、賃貸借契約書(不動産を個人所有のまま貸す場合)設立後速やかに。売買は消費税の課税取引になる
社会保険健康保険・厚生年金保険 新規適用届、被保険者資格取得届事実発生から5日以内
労働保険労働保険関係成立届、雇用保険適用事業所設置届成立から10日以内など
その他許認可の承継または再取得、銀行口座・リース・保険・賃貸借の名義変更、取引先への通知設立前から段取りする
よくあるミス 個人時代の在庫と固定資産を、契約書も対価もなく法人に持ち込んでしまう例が非常に多い。これは個人にとって譲渡(消費税の課税売上)であり、法人にとって取得である。売買契約書を作り、対価を決め、消費税の処理をする。個人が課税事業者だった場合、廃業年の消費税申告に売却分が乗るため、消費税額が想定外に膨らむ。事前に試算して伝える。また、許認可(建設業、飲食業、古物商、運送業など)は個人の許可を法人に引き継げないものが多く、再取得の期間中に営業が止まるおそれがある。設立日を決める前に許認可を確認する。

11. 確定申告期の事務所運営

受付から提出までのフロー

  1. STEP1 12月 事前準備
    顧問先リストを申告区分(事業、不動産、還付のみ、譲渡、贈与)で分類し、難易度と想定工数を入れる。担当者を割り当て、資料依頼書とチェックシートを発送する。前年の申告書を見て、今年変わりそうな論点(扶養の異動、物件の売買、住宅取得、専従者の変更)に付箋を立てておく。
  2. STEP2 1月 還付申告と資料回収
    還付申告のみの先は1月中に処理して提出まで終わらせる。事業所得・不動産所得の先には資料回収の督促を入れる。1月31日が法定調書・給与支払報告書・償却資産申告の期限であり、この山と重ならないよう順番を決める。
  3. STEP3 2月上旬 入力と1次確認
    資料到着順に入力する。入力完了時に担当者が自己チェックリストで1次確認を行い、前年比較表を出力して増減理由を書き込む。理由が書けない増減は、必ず顧問先に確認する。
  4. STEP4 2月中旬から3月上旬 レビューと説明
    入力者と別の職員が2次チェックを行う。所長または管理者が最終確認。顧問先に申告書案を提示し、税額・納付方法・納付期限を説明して同意を得る。電子申告の利用同意(電子署名または利用者識別番号の確認)を取る。
  5. STEP5 3月中旬 送信と納付案内
    e-Taxで送信し、受信通知(メッセージボックス)を必ず開いて受付結果を確認する。送信しただけで終わらせない。納付書または振替納税の案内、納付期限、消費税の期限(3月31日)を書面で渡す。
  6. STEP6 4月 振替確認と振り返り
    振替日の翌営業日に、振替不能の連絡が来ていないかを確認する。申告期の振り返りを行い、遅れた原因、追加で発生した論点、翌年に前倒しできる作業を記録に残す。この記録が翌年の段取りの元になる。

資料回収

資料回収は依頼書の書き方で7割が決まる。「必要書類をお持ちください」では集まらない。顧問先の属性ごとに、実物の名前で列挙したチェックシートを作る。

区分依頼する資料(実物の名称で書く)
共通マイナンバーカード(または通知カードと本人確認書類)の写し、還付口座の通帳の見開き、前年の申告書控え、税務署から届いた封筒一式
事業所得売上帳・請求書控え、通帳全ページ、クレジットカード明細、経費のレシート・領収書、借入金の返済予定表、リース契約書、棚卸表(12月31日現在)、固定資産の売買契約書・納品書、専従者を含む給与台帳と源泉徴収簿
不動産所得賃貸借契約書(新規・更新分)、管理会社の年間収支報告書、固定資産税納税通知書、火災保険の証券、借入金の返済予定表、修繕の見積書と請求書の内訳、退去精算書
所得控除国民年金保険料控除証明書、国民健康保険の年間納付額のお知らせ、生命保険料控除証明書、地震保険料控除証明書、小規模企業共済の掛金払込証明書、iDeCoの掛金払込証明書、医療費通知と領収書、寄附金受領証明書(ふるさと納税を含む)
譲渡売買契約書(売却時・購入時の両方)、仲介手数料の領収書、登記事項証明書、測量・解体の請求書、特定口座年間取引報告書、暗号資産の年間取引報告書
実務のコツ 資料を預かったら、その場でお預り証を発行し、返却時に受領印をもらう運用にする。繁忙期は書類の紛失リスクが跳ね上がり、通帳や権利証を預かることもある。お預り証は事務所を守る書類である。あわせて、預かった資料は顧問先ごとの箱またはファイルに入れ、机に平積みしない。「どこにあるか探す時間」が繁忙期の最大の無駄になる。

進捗管理表

進捗は工程ごとの列で管理する。「未着手・作業中・完了」の3段階では、どこで止まっているかが分からない。全職員が同じ表を見て、朝礼で滞留を潰す。

顧客区分担当資料依頼資料到着入力1次2次説明・同意送信受信確認納付案内振替確認
A(製造業)事業・消費税12/101/202/32/42/62/102/122/122/12
B(アパート2棟)不動産12/102/18
C(給与・医療費)還付12/101/81/91/91/101/121/121/12
D(自宅売却)譲渡12/101/252/202/21
補足 表に「資料依頼」と「資料到着」の2列を置くのは、遅れの原因が事務所側にあるのか顧問先側にあるのかを見分けるためである。上の例ではBが2月18日に資料到着で止まっており、3月に作業が集中する。この時点で担当を追加するか、消費税の期限(3月31日)まで使う前提で組み直すかを決める。表は毎日更新し、朝礼で滞留している行だけを読み上げる運用が最も続く。

繁忙期の品質確保と二重チェック

前倒しできる作業

  • 還付申告のみの先を1月中に完了させる
  • 11月から12月の月次を12月中に締める
  • 減価償却の当年分を12月に計算しておく
  • 資料依頼書を12月上旬に発送する
  • 譲渡・相続がある先の資料収集を年内に始める
  • 電子申告の利用者識別番号・委任状を年内に整える

二重チェックの型

  • 入力者と確認者を必ず分ける。自分の入力は自分で見つけられない
  • 確認者は申告書の数字から原始資料へ遡る(申告書から証憑への逆方向)
  • 前年比較表を必ず出し、増減の理由を全項目書かせる
  • 納税額が前年から大きく動いた先は所長が確認する
  • チェックした人の氏名と日付を記録に残す
  • 疲労が溜まる3月第2週は、新規の複雑案件を入れない
注意 繁忙期の事故は、難しい論点ではなく単純な転記と確認漏れで起きる。過去の失敗を集めると、還付口座の番号違い、扶養親族の生年月日誤り、源泉徴収票の入力漏れ(2枚目を見落とす)、ふるさと納税の入力漏れ、消費税申告の失念、電子申告の送信忘れ、といった項目に集中する。これらは「気を付ける」では防げないので、次のチェックリストのように機械的に潰す形にする。

12. 個人確定申告のチェックリスト

受付・基礎情報

  • 本人確認書類とマイナンバーを確認し、写しを保管したか
  • 住所・氏名・世帯構成に前年からの変更がないか本人に確認したか
  • 還付口座の名義が本人であり、口座番号を通帳原本または写しで確認したか(旧姓・屋号名義の口座は還付できない)
  • 前年の申告書控えと突き合わせ、今年なくなった所得・新しく増えた所得を洗い出したか
  • 税務署から届いた書類(予定納税額の通知、お知らせ)をすべて回収したか
  • 資料はお預り証を発行して受領したか

所得の網羅性

  • 源泉徴収票をすべて回収したか(年の途中で転職した場合は前職分も)
  • 公的年金等の源泉徴収票、企業年金・個人年金の支払通知を確認したか
  • 副業・単発の報酬、原稿料、講演料、アフィリエイト収入の申告漏れがないか
  • 特定口座年間取引報告書、一般口座の取引、配当金の支払通知書を確認したか
  • 暗号資産、FX、太陽光の売電収入、フリマアプリの継続的な販売がないか聞き取ったか
  • 生命保険の満期金・解約返戻金、損害保険の満期金がないか(一時所得)
  • 不動産の売却、株式の売却、ゴルフ会員権の譲渡がないか
  • 贈与を受けていないか(贈与税申告の要否と、相続時精算課税の選択)

事業所得・不動産所得

  • 期末棚卸高を実地棚卸に基づいて計上したか
  • 売掛金・買掛金・未払金の期ズレを確認したか(12月納品分の売上計上漏れ)
  • 家事按分の割合を按分計算書で説明できるか、前年と変わっていないか
  • 生活費・所得税・住民税・国民健康保険料・国民年金を経費に入れていないか(事業主貸で処理)
  • 固定資産の除却・売却を台帳に反映したか(除却損、譲渡所得の判定)
  • 少額減価償却資産の特例は、取得日が2026年3月31日以前か4月1日以後かで判定額を分けたか(30万円未満と40万円未満)、年間300万円の限度内か
  • 青色事業専従者給与が届出額の範囲内か、専従要件を満たすか、実際に支払われているか
  • 専従者について配偶者控除・扶養控除を重複適用していないか
  • 借入金の返済額を元本と利息に分け、利息のみを経費にしたか
  • 不動産所得の事業的規模の判定(5棟10室)が今年も同じか
  • 土地等を取得するための負債の利子による損益通算の制限を検討したか
  • 修繕費と資本的支出の区分を工事内訳書で判定したか
  • 礼金・更新料を収入計上し、敷金を預り金として区分したか
  • 貸倒引当金の洗替え処理をしたか

所得控除・税額控除

  • 令和8年分の改正後の金額(基礎控除、扶養等の所得要件62万円以下、配偶者特別控除62万円超133万円以下)で判定したか
  • 特定親族特別控除(19歳以上23歳未満、合計所得62万円超123万円以下)の適用漏れがないか
  • 生命保険料控除の子育て特例(23歳未満の扶養親族がいる場合の一般4万円から6万円)を反映したか
  • 国民年金・国民健康保険料は控除証明書または納付額のお知らせで金額を確認したか。家族分を本人が払っている分を入れたか
  • 小規模企業共済・iDeCoの掛金払込証明書を回収したか
  • 医療費控除とセルフメディケーション税制の有利判定を行い、提出前に確定させたか
  • ふるさと納税の件数を確認し、ワンストップ特例が無効になる場合はすべて寄附金控除に入力したか
  • 住宅ローン控除の初年度に必要な添付書類がすべてそろっているか
  • 住宅ローン控除と居住用財産の3,000万円特別控除等の重複適用禁止に抵触していないか
  • 源泉徴収税額と予定納税額を正しく転記したか

提出前・提出後

  • 前年比較表を出力し、増減の理由をすべて書き込んだか
  • 入力者以外の職員が2次チェックを行い、記録を残したか
  • 純損失・上場株式等の譲渡損失・雑損控除の繰越しがある場合、今年も申告書を提出して繰越しを継続したか
  • 青色申告特別控除の要件(複式簿記、貸借対照表の添付、期限内申告、電子申告)を満たしているか
  • 消費税の申告が必要な先を別リストで管理し、3月31日の期限を押さえたか
  • 2割特例・簡易課税・原則課税の有利判定を行ったか(令和8年分が2割特例の最終年)
  • e-Taxの受信通知を開き、受付日時と受付番号を確認して保存したか
  • 納付方法・納付期限・振替日を書面で案内したか
  • 翌年の予定納税の見込みを伝えたか
  • 住民税・国民健康保険料への影響を金額で説明したか
  • 申告書控え、決算書、添付資料一式を保存し、預かり資料を返却して受領印をもらったか

Q. 3月10日に「不動産を売っていた」と初めて聞かされた。期限に間に合わない場合はどうするか。

A. まず、居住用財産の3,000万円特別控除など、期限内申告が適用要件になっている特例に該当しないかを最優先で確認する。該当するなら、概算でも期限内に申告することを最優先し、後日修正申告または更正の請求で正す方針を本人に説明して同意を得る。該当しない場合でも、期限後申告になると無申告加算税と延滞税が生じるため、資料が不足していても合理的な見積りで期限内に提出する。取得費が不明なら概算取得費5%で仮計算し、後日実額の資料が出たら更正の請求(法定申告期限から5年)で取り戻す。いずれの場合も、判断の経緯と本人の同意を書面で残す。

Q. 顧問先から「所得税がゼロなのに、なぜ国民健康保険料がこんなに高いのか」と聞かれた。

A. 国民健康保険料の所得割は、総所得金額等から基礎控除相当額(43万円)だけを差し引いた金額に料率を掛けて計算する。所得税で使った扶養控除、生命保険料控除、医療費控除、小規模企業共済等掛金控除は一切考慮されない。そのため、所得控除が積み上がって所得税がゼロになっていても、国保料はしっかりかかる。国保料を下げたいなら、所得控除ではなく総所得金額等そのものを下げる方向、つまり必要経費の適正な計上と青色申告特別控除(65万円)の確保が効く。この違いを最初に説明しておくと、翌年の問い合わせが減る。

合計所得金額
各種所得の金額の合計額(損益通算後、純損失等の繰越控除前)。扶養や配偶者控除の判定、基礎控除の特例加算の判定に使う。
総所得金額等
合計所得金額から純損失・雑損失等の繰越控除を差し引いた後の金額。医療費控除の5%基準、寄附金控除の40%基準、国民健康保険料の算定に使う。
課税総所得金額
総所得金額等から所得控除を差し引いた後の金額。税率をかける対象になる。
予定納税基準額
前年分の課税総所得金額に係る所得税額から源泉徴収税額を控除した金額。原則として譲渡所得・一時所得・雑所得等は除いて計算する。
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監修ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士事務所)
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