第9章 消費税実務 — インボイス時代の判断と申告|会計事務所 実務ハンドブック

納税義務の判定、課税区分と軽減税率、インボイスの記載事項、2026年10月からの経過措置70%、2割特例の終了と3割特例、簡易課税、少額特例、申告書の作成手順。

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CHAPTER 09
消費税実務 — インボイス時代の判断と申告
目次

CHAPTER 09消費税実務 — インボイス時代の判断と申告

消費税は「預かった税から支払った税を差し引く」だけの単純な税目に見えて、実務の誤りが最も多い税目である。原因は取引ごとの課税区分判定、届出書の提出期限、そして毎年動く経過措置の3つに集中している。2026年10月1日には免税事業者からの課税仕入れの控除割合が80%から70%へ下がり、2割特例も令和8年(2026年)9月30日の属する課税期間で終了する。本章は判定から記帳、申告までを担当者がその場で手を動かせる順序で整理する。

1. 消費税の全体像

消費税の納付税額は次の式で決まる。この1行を理解していれば、あとはすべて「どちらの箱に入れるか」の判定作業である。

実務のコツ 納付税額 = 売上で預かった消費税(売上税額) − 仕入れ等で支払った消費税(仕入税額)。売上税額を大きくする誤りは過大納付、仕入税額を大きくする誤りは過少申告になる。どちらも顧問先の損失に直結するので、判定は「課税か否か」「税率はいくらか」「証憑があるか」の3点で機械的に処理する。

課税の対象となる4要件

国内取引が消費税の課税対象になるのは、次の4つをすべて満たす場合に限る。1つでも欠ければ不課税である。

  • 国内において行うものであること(取引の場所が国内かどうか。資産の譲渡は譲渡時の資産の所在地、役務提供は役務提供地で判定)
  • 事業者が事業として行うものであること(個人が生活用の家財を売っても課税対象外)
  • 対価を得て行うものであること(無償の贈与、寄附金、補助金、損害賠償金は対価性がない)
  • 資産の譲渡、資産の貸付け、役務の提供のいずれかであること

このほか、保税地域から引き取る外国貨物(輸入取引)は、事業者でなくても課税対象になる。輸入消費税は税関へ納付し、その額が仕入税額控除の対象になる。

税率の内訳

申告書は国税部分と地方消費税部分を分けて計算する。会計ソフトの税区分名や付表の欄と直結するので、内訳は覚えておく。

区分合計国税(消費税)地方消費税適用対象
標準税率10%7.8%2.2%軽減税率対象以外のすべての課税取引
軽減税率8%6.24%1.76%飲食料品(酒類・外食を除く)、定期購読の新聞
旧税率(経過措置)8%6.3%1.7%長期割賦販売、リース、旧税率時に締結した工事等の経過措置対象
注意 軽減税率8%と旧税率8%は税率の合計こそ同じだが、国税と地方税の内訳が違う。会計ソフトで両方を「8%」の1つの税区分にまとめてしまうと、付表の税率別集計が合わなくなる。旧税率の経過措置対象取引が残っている顧問先は、税区分の設定を必ず確認する。

納税義務者と申告期限

区分確定申告期限納付期限備考
法人課税期間の末日の翌日から2か月以内同左3月決算なら5月31日。土日祝は翌開庁日
個人事業者翌年3月31日同左所得税は3月15日。消費税だけ期限が違う点に注意
法人(申告期限延長)1か月延長(3か月以内)延長されない法人税の申告期限延長を受けていることが前提。届出が別途必要。延長期間は利子税がかかる
個人(振替納税)3月31日4月下旬の指定日口座残高不足に注意。事前に残高確認の連絡を入れる
よくあるミス 個人事業者の消費税の申告期限を所得税と同じ3月15日と思い込むミス。逆に、3月15日に間に合わせようとして概算で申告してしまうミスもある。消費税は3月31日まで時間があるので、所得税の決算数値を確定させてから丁寧に組む。

中間申告

中間申告の回数は、直前の課税期間の確定消費税額(国税部分の年税額)だけで決まる。地方消費税を含んだ金額で判定しないこと。

直前課税期間の確定消費税額(国税)回数中間納付額(国税)申告・納付期限
48万円以下0回中間申告不要(任意の中間申告制度あり)
48万円超 400万円以下年1回直前課税期間の確定消費税額の2分の1課税期間開始後6か月を経過した日から2か月以内(個人は8月31日)
400万円超 4,800万円以下年3回同 4分の1ずつ各中間申告対象期間の末日の翌日から2か月以内(個人は5月31日・8月31日・11月30日)
4,800万円超年11回同 12分の1ずつ各月末日の翌日から2か月以内。ただし課税期間開始後1か月分は開始日から2か月を経過した日から2か月以内(個人は1月分から3月分をまとめて5月31日)
  • 中間納付額には、上表の国税部分に加えて地方消費税(国税額の78分の22)を併せて納付する。税務署から送付される納付書には合計額が印字されている。
  • 直前課税期間が1年でない場合は、確定消費税額を年換算してから判定する。
  • 仮決算による中間申告も選択できる。前期が好調で当期が不振という顧問先は、仮決算で中間納付額を圧縮できる。ただし仮決算の結果がマイナスでも還付は受けられない(中間段階での還付はない)。
  • 48万円以下でも「任意の中間申告書を提出する旨の届出書」を出せば年1回の中間申告ができる。資金繰りの平準化に使える一方、提出後に中間申告書を出さないと届出を取り下げたものとみなされる。
実務のコツ 中間申告書を期限までに提出しなくても、前期実績による中間申告書が提出されたものとみなされる(みなし申告)。したがって「申告書を出し忘れた」こと自体では加算税は生じないが、納付が遅れれば延滞税が生じる。顧問先には「申告書は出さなくてもよいが納付は必ず期限内に」と伝える。

2. 納税義務の判定フロー

納税義務の判定は順序が決まっている。上から順に見て、どこかで「課税事業者」に該当したらそこで終了する。飛ばして下から見ると誤る。

  1. STEP0 インボイス登録の有無を確認する
    適格請求書発行事業者として登録している場合は、基準期間や特定期間の課税売上高がいくらであっても課税事業者である。登録している顧問先はここで判定終了。以下のSTEPは、登録していない事業者、または登録の取消しを検討する場合に使う。
  2. STEP1 基準期間の課税売上高で判定する
    基準期間(法人は前々事業年度、個人は前々年)の課税売上高が1,000万円超なら課税事業者。課税売上高は税抜きで判定するが、基準期間が免税事業者だった期間は税込金額そのままで判定する。基準期間が1年でない法人は年換算する。
  3. STEP2 特定期間の課税売上高または給与等支払額で判定する
    基準期間が1,000万円以下でも、特定期間(法人は前事業年度開始の日以後6か月間、個人は前年1月1日から6月30日まで)の課税売上高が1,000万円超で、かつその期間の給与等支払額も1,000万円超なら課税事業者。どちらか一方が1,000万円以下なら免税のまま。判定に使う指標は納税者が選べる。
  4. STEP3 新設法人に該当するか
    設立時の資本金または出資の金額が1,000万円以上の法人は、基準期間がない設立1期目・2期目は課税事業者になる。期中に増資して1,000万円以上になった場合は、その事業年度からではなく、各事業年度開始の日の資本金で判定する。
  5. STEP4 特定新規設立法人に該当するか
    資本金1,000万円未満でも、他の者に発行済株式等の50%超を直接・間接に保有され、その者またはその特殊関係法人の基準期間相当期間の課税売上高が5億円超であれば課税事業者になる。令和6年度改正により、国内課税売上高5億円超に加えて、国外分を含む収入金額が50億円超である場合も判定に加わった。大企業や資産家グループが設立した子会社は必ず確認する。
  6. STEP5 課税事業者選択届出書を出していないか
    還付を受けるために「消費税課税事業者選択届出書」を提出している場合は課税事業者。提出の効力は「不適用届出書」を出すまで続く。過年度の届出の有無は必ず控えで確認する。
  7. STEP6 3年縛り・高額特定資産に該当しないか
    後述の調整対象固定資産・高額特定資産の縛りに該当する期間は、強制的に課税事業者かつ本則課税になる。
  8. STEP7 相続・合併・分割の特例に該当しないか
    被相続人の基準期間の課税売上高が1,000万円超であれば、相続人は相続のあった日の翌日から課税事業者になる(相続年)。翌年以降は相続人と被相続人の課税売上高の合計で判定する。合併・分割にも同様の特例がある。

課税事業者選択の2年縛り

「消費税課税事業者選択届出書」を提出した場合、事業を廃止した場合を除き、適用開始課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ「不適用届出書」を提出できない。つまり最低2年間は課税事業者を続ける。設備投資の還付狙いで選択した後、翌期に売上が伸びて納税になるケースがあるので、選択前に2期分のシミュレーションを必ず作る。

調整対象固定資産の3年縛り

調整対象固定資産とは、建物、構築物、機械装置、車両運搬具、工具器具備品、無形固定資産などで、一の取引単位の税抜価額が100万円以上のものをいう(棚卸資産は含まない)。次のいずれかの期間中に調整対象固定資産を取得し、その課税期間で本則課税により仕入税額控除を受けた場合、取得した課税期間の初日から3年間は免税事業者に戻れず、簡易課税も選択できない。

  • 課税事業者選択届出書による強制適用期間(2年間)
  • 新設法人・特定新規設立法人の基準期間がない課税期間

高額特定資産の3年縛り

高額特定資産とは、一の取引単位の税抜価額が1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産をいう。本則課税の課税期間中に高額特定資産を取得した場合、取得した課税期間の翌課税期間から3年間は免税事業者になれず、簡易課税制度選択届出書も提出できない。自己建設した資産は、建設等に要した原材料費・経費の累計額(税抜)が1,000万円以上となった課税期間から縛りが始まる。

注意 免税事業者から課税事業者になった期の期首に保有していた棚卸資産のうち、税抜1,000万円以上のものを調整対象自己建設高額資産等として扱う規定もある。また、免税事業者期間中に仕入れた棚卸資産は、課税事業者になる期の期首に棚卸資産に係る消費税額の調整で仕入税額控除に加算できる。逆に課税事業者から免税事業者になるときは、期末棚卸資産に係る消費税額を控除から除く。インボイス登録で課税事業者になった年は、この調整の漏れが非常に多い。

根拠 基準期間の課税売上高(消法9)、特定期間(消法9の2)、新設法人(消法12の2)、特定新規設立法人(消法12の3)、調整対象固定資産(消法2①十六、消法9⑦)、高額特定資産(消法12の4)、棚卸資産に係る消費税額の調整(消法36)。

3. 課税区分の判定

課税区分は課税・非課税・免税・不課税の4つに分かれる。非課税と不課税は「消費税がかからない」点は同じだが、課税売上割合の計算で扱いが決定的に違う。非課税売上は分母に入り、不課税売上は分母にも分子にも入らない。

区分意味課税売上割合の分母分子代表例
課税課税対象で税率が課される入る入る商品売上、サービス料、事務所家賃、車両売却
免税課税対象だが税率0%入る入る輸出売上、国際輸送、非居住者向け役務提供
非課税課税対象だが政策上非課税入る入らない土地の譲渡・貸付、住宅家賃、受取利息、保険料
不課税そもそも課税対象外入らない入らない給与、配当、保険金、損害賠償金、補助金、国外取引

間違えやすい取引の一覧

取引区分判定のポイント
土地の譲渡・貸付非課税更地・農地を問わず非課税。ただし貸付期間が1か月未満なら課税
駐車場の貸付原則 課税アスファルト舗装・フェンス・区画等の施設を設けていれば課税。青空駐車で地面を貸すだけなら土地の貸付として非課税
住宅に付属する駐車場非課税1戸あたり1台分以上が付属し、家賃と別に駐車場代を収受していない場合に限り家賃と一体で非課税
住宅の貸付非課税契約で居住用と明らかで、貸付期間1か月以上。共益費・管理費も家賃と同じ扱い
事務所・店舗の貸付課税用途が事業用なら課税。同一建物で住宅部分と事業用部分があれば按分
礼金・更新料家賃と同じ区分住宅なら非課税、事業用なら課税
敷金・保証金返還部分は不課税返還しないことが確定した部分は、その時点で家賃と同じ区分の収益になる
受取利息・支払利息非課税受取利息は非課税売上として課税売上割合の分母に入る。少額でも拾う
保険料非課税支払保険料は非課税仕入れ。受取保険金は不課税(対価性なし)
信用保証料非課税信用保証協会への保証料は非課税仕入れ。繰上返済による返戻も非課税
給与・賞与不課税雇用契約に基づく労務の対価。外注費(課税)との区分が調査の最重要論点
通勤手当課税通勤に通常必要と認められる範囲は課税仕入れになる。所得税の非課税限度と混同しない
出張日当・旅費課税通常必要と認められる国内出張の日当・宿泊費は課税仕入れ。海外出張分は不課税
社会保険料・労働保険料不課税法定福利費は課税仕入れにならない
収入印紙・郵便切手非課税郵便局等での購入時は非課税。ただし切手は使用時に課税仕入れとする処理も継続適用を条件に可
行政手数料・登録免許税非課税・不課税登記手数料・住民票発行手数料は非課税。登録免許税・印紙税は不課税(租税公課)
司法書士報酬課税登記費用の請求書は、報酬(課税)と登録免許税等の立替分(不課税)が混在する。必ず内訳で分ける
商品券・プリペイドカード非課税購入時は非課税。使用時に課税仕入れとして計上する
国際輸送・国際電話免税国内と国外の間の輸送・通信は免税。国内区間のみの輸送は課税
国外での取引不課税海外支店の経費、海外での役務提供は課税対象外。海外出張の航空券は国際輸送で免税
輸出売上免税輸出許可通知書等の保存が要件。保存がなければ免税にできず課税扱いになる
返品・値引・割戻し元の取引と同じ税率売上に係る対価の返還等として売上税額から控除。8%の商品の返品は8%で処理
自動販売機での購入課税税込3万円未満の自動販売機・自動サービス機からの課税仕入れはインボイス不要(帳簿のみ)
従業員への社宅貸付非課税住宅の貸付として非課税売上になる。課税売上割合が下がる要因
補助金・助成金・給付金不課税対価性がないため不課税。ただし補助対象の支出は課税仕入れとして控除できる
損害賠償金原則 不課税心身・資産に加えられた損害に対するものは不課税。修理代相当や、損傷資産をそのまま引き渡す場合は課税
解約手数料・キャンセル料内容による逸失利益の補填なら不課税、事務手数料の性質なら課税。契約書の文言で判定
よくあるミス 受取利息を「営業外収益だから」と不課税で処理し、課税売上割合を100%のまま申告するミス。金額が小さくても非課税売上は非課税売上である。もっとも、これだけで95%を割ることは通常ないため実害が出るのは土地売却や社宅家賃がある年である。逆に、たまたま土地を売った年に課税売上割合が急落し、仕入税額控除が大きく削られることに気づかず申告してしまうミスは実害が大きい。決算前に非課税売上の有無を必ず洗う。

輸出免税を受けるための証憑

  • 本船渡し等の物品の輸出 … 税関長が交付する輸出許可通知書
  • 郵便による輸出で価額20万円超 … 輸出許可通知書
  • 郵便による輸出で価額20万円以下 … 帳簿または発送伝票等の控え(日付、品名、数量、価額、受取人の氏名・住所)
  • 国際輸送・非居住者への役務提供 … 契約書等で非居住者であることと役務の内容がわかる書類
  • 保存期間は7年間。輸出免税は証憑の保存が実体要件なので、紛失は即座に課税扱いにつながる。

4. 軽減税率8%の対象範囲

軽減税率の対象は飲食料品定期購読契約の新聞の2つだけである。この2つに当てはまらなければ10%と考えてよい。

飲食料品の範囲

  • 食品表示法に規定する食品(人の飲用または食用に供されるもの)。医薬品、医薬部外品、再生医療等製品は除く。
  • 酒税法に規定する酒類は除く(アルコール分1度以上)。
  • 外食(飲食設備のある場所での飲食の提供)とケータリング(相手方の指定した場所での調理・給仕等の役務)は除く。
取引税率理由
スーパーでの食品購入8%飲食料品の譲渡
飲食店での食事10%外食(飲食設備がある場所での提供)
飲食店のテイクアウト・持ち帰り8%飲食料品の譲渡。持ち帰りかどうかは提供時の意思確認で判定
そば屋・寿司屋の出前、ピザの宅配8%単なる配達で、給仕等の役務がない
ケータリング・出張料理10%相手方の指定場所での調理・配膳等の役務
有料老人ホーム・サービス付き高齢者向け住宅での食事提供8%ケータリングの適用除外。1食640円以下かつ1日1,920円までの範囲
学校給食(義務教育諸学校等)8%ケータリングの適用除外
社員食堂での食事10%外食に該当
コンビニのイートインコーナー利用10%店内飲食の意思表示があれば外食。掲示による意思確認で足りる
ホテルの客室冷蔵庫の飲料8%飲食料品の譲渡(酒類を除く)
ルームサービス10%飲食設備での飲食の提供
宴会・立食パーティー10%外食
屋台・移動販売状況次第テーブル・椅子等の飲食設備を用意していれば10%、なければ8%
ミネラルウォーター(ペットボトル)8%飲用の飲食料品
水道水10%生活用水を含むため飲食料品に該当しない
氷(かき氷用・食用)8%飲食用
ドライアイス・保冷用氷10%飲食用ではない
みりん(酒類)10%アルコール分1度以上で酒税法の酒類
みりん風調味料8%アルコール分1度未満で酒類に該当しない
料理酒(不可飲処置済み)8%酒税法の酒類に該当しない
ノンアルコールビール・甘酒8%アルコール分1度未満
栄養ドリンク(医薬部外品)10%医薬部外品は飲食料品から除外
栄養ドリンク(清涼飲料水表示)8%食品に該当
健康食品・サプリメント(食品表示あり)8%食品として販売されていれば軽減対象
ペットフード10%人の飲食用ではない
果物の苗木・種子(栽培用)10%栽培用は食用ではない。ただし食用の種子(かぼちゃの種等)は8%
生きた牛・豚(家畜)10%と畜前は食品でない。生きた魚(食用)は8%
新聞(週2回以上発行・定期購読契約)8%宅配。電子版は10%、駅売り・コンビニ売りも10%
飲食料品の配送料を別途収受10%送料は役務の提供。商品代金に含めて一体で請求すれば8%

一体資産の判定

一体資産とは、食品と食品以外の資産があらかじめ一体となっている商品で、その一体としての価格のみが提示されているものをいう。次の2要件をどちらも満たせば、全体が8%になる。

  1. 一体資産の譲渡の対価の額(税抜)が1万円以下であること
  2. 一体資産に含まれる食品に係る部分の価額の占める割合が3分の2以上であること

割合の算定は、原価または販売価額のいずれか合理的な方法によればよい。判定例を挙げる。

  • 菓子と玩具のセット(税抜800円、原価に占める菓子の割合80%)… 全体が8%
  • ビール1本と高級グラスのセット(税抜3,000円)… 酒類は軽減対象外なので食品部分がなく、全体が10%
  • 紅茶とティーカップのセット(税抜1万2,000円)… 1万円超のため一体資産の特例は使えず、全体が10%
  • 食品と非食品それぞれの価格を個別に表示して同時に販売した場合 … 一体資産ではないので、食品部分8%、非食品部分10%に区分する
実務のコツ 飲食料品の包装材料は、その飲食料品の販売に通常必要なものであれば飲食料品に含めて8%でよい(レジ袋、パック、包装紙)。一方、桐箱や陶製の器のように、別途対価を定めているものや、それ自体に販売価値があるものは一体資産として判定する。中元・歳暮のギフトセットを扱う顧問先は、商品ごとに判定シートを作らせておくと毎年の作業が軽くなる。

5. インボイス制度の実務

仕入税額控除を受けるには、原則として適格請求書(インボイス)帳簿の両方を保存する。どちらか一方でも欠ければ控除できない。以下は交付側と受領側の両面から整理する。

適格請求書の記載事項6要件

No記載事項実務上のチェックポイント
1適格請求書発行事業者の氏名または名称および登録番号Tから始まる13桁。屋号のみの記載は不可(屋号での公表登録をしている場合を除く)
2課税資産の譲渡等を行った年月日1か月分をまとめる場合は「2026年9月分」等の課税期間の範囲でよい
3取引内容(軽減税率対象品目である旨)軽減対象に「※」等の記号を付し、記号の意味を欄外に注記する方法が一般的
4税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)および適用税率8%対象と10%対象を必ず分けて小計する
5税率ごとに区分した消費税額等1つのインボイスにつき、税率ごとに端数処理は1回だけ。明細行ごとの端数処理は不可
6書類の交付を受ける事業者の氏名または名称簡易インボイスでは不要
注意 端数処理のルールを守れていない請求書が非常に多い。1つの適格請求書につき、税率ごとに1回が原則である。明細行ごとに消費税額を計算して合計する方式は認められない。自社開発システムや古い販売管理ソフトを使っている顧問先は、この点を最初に確認する。

簡易インボイス(適格簡易請求書)

不特定多数の者に販売等を行う次の事業は、簡易インボイスを交付できる。

  • 小売業、飲食店業、写真業、旅行業、タクシー業、駐車場業(不特定多数向けのものに限る)、その他これらに準ずる事業

簡易インボイスは、上表の6(交付先の氏名)が不要で、かつ4の適用税率と5の消費税額等はどちらか一方の記載でよい。レシートがこれに当たる。

返還インボイス(適格返還請求書)

  • 返品、値引き、割戻し、販売奨励金など売上に係る対価の返還等を行うときに交付義務がある。
  • 記載事項は、発行事業者の氏名・登録番号、返還等を行う年月日、返還等の基となる取引を行った年月日、取引内容(軽減対象である旨)、税率ごとに区分した返還等の対価の額、税率ごとの消費税額等または適用税率。
  • 税込1万円未満の売上に係る対価の返還等は交付義務が免除される(恒久措置)。振込手数料相当額を売上値引きとして処理する場合が典型で、この処理をしていても返還インボイスの交付は不要である。
  • 継続取引先には、当月の請求書に返還内容を併記する「1枚方式」が実務上便利である。適格請求書と適格返還請求書の記載事項を1枚に満たせば、1つの書類で足りる。

修正インボイス

交付した適格請求書に誤りがあった場合、交付した側が修正したものを交付し直す義務がある。受領側が自分で赤ペンを入れて修正することはできない。修正の方法は2つある。

  • 正しい記載事項をすべて記載した書類を改めて交付する(差替え)
  • 当初交付したものとの関連性を明らかにしたうえで、修正箇所のみを明示した書類を交付する(追加交付)

例外として、買い手が作成する仕入明細書(支払通知書)の方式を採っている場合は、売り手の確認を受けることを条件に、買い手側で作成した書類を仕入税額控除の要件を満たす書類にできる。建設業の出来高払いや、運送業の運賃精算で広く使われている。

電子インボイス

  • 適格請求書は書面に代えて電磁的記録で提供できる。メール添付のPDF、EDI、Webからのダウンロードのいずれも可。
  • 提供した側も受領した側も、電子帳簿保存法の電子取引の保存要件(真実性の確保と検索要件)に従って保存する。紙に印刷しただけの保存は原則として認められない。
  • デジタルインボイス(Peppol準拠)を使えば、請求データがそのまま会計システムに取り込まれる。仕訳入力と証憑保存を同時に片付けられるので、取引件数の多い顧問先には導入を勧める価値がある。

登録番号の確認方法

  1. STEP1 番号の形式を確認する
    「T」+13桁。法人は法人番号と一致する。個人事業者や人格のない社団等は法人番号とは無関係の固有の13桁が付される。
  2. STEP2 国税庁の公表サイトで照会する
    適格請求書発行事業者公表サイトで登録番号を入力し、氏名または名称、登録年月日、登録取消年月日を確認する。法人は本店所在地も表示される。
  3. STEP3 継続取引先は定期的に一括確認する
    公表サイトでは全件データのダウンロードやWeb-APIの利用ができる。取引先マスタの登録番号を年1回、決算前に一括照合する運用をルール化する。取消しや失効に気づかないまま控除していると、調査で全額否認される。
  4. STEP4 記録を残す
    確認した日付と結果を取引先マスタに記録する。事務所ルールとして、新規取引先の初回請求書受領時に必ず照会し、その画面を証憑と一緒に保存する。

登録の取消し

  • 「適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書」を、取消しを受けようとする課税期間の初日から起算して15日前の日までに提出する。提出が遅れると、その翌課税期間からの取消しになる。
  • 免税事業者が登録により課税事業者となった場合(令和5年10月1日を含む課税期間中に登録した場合を除く)、登録日から2年を経過する日の属する課税期間の末日までは免税事業者に戻れない。
  • 登録の取消しをすると、基準期間の課税売上高が1,000万円以下であれば免税事業者に戻る。ただし取引先から仕入税額控除ができないことを理由に取引を見直される可能性があるため、取引先構成(相手が消費者中心か事業者中心か)を確認したうえで判断する。

免税事業者との取引と価格交渉

仕入先が免税事業者の場合、買い手は経過措置の範囲でしか仕入税額控除ができない。その負担をどう分担するかは当事者間の協議事項だが、一方的な取扱いは独占禁止法上の優越的地位の濫用、下請法上の買いたたき等に該当するおそれがある。

行為評価理由
免税事業者であることを理由に、協議なく一方的に取引価格を消費税相当額だけ引き下げる問題となる買いたたき、優越的地位の濫用に該当するおそれ
双方が納得したうえで、経過措置による控除不能分を反映した価格に合意する問題ない再交渉が行われ、合理的な範囲であること
課税事業者にならなければ取引を打ち切ると一方的に通告する問題となる取引の停止をほのめかした強要
登録を要請しつつ、応じない場合の価格を協議して決める問題ない要請自体は可。強要と価格の一方的決定が問題
免税事業者からの仕入れについて、消費税相当額を支払わない問題となる下請法の減額、代金の支払遅延等
根拠 財務省・公正取引委員会・経済産業省・中小企業庁・国土交通省連名「免税事業者及びその取引先のインボイス制度への対応に関するQandA」。下請法は令和8年(2026年)1月に中小受託取引適正化法へ改称された。※名称・施行日および運用の詳細は最新の情報を要確認

6. 免税事業者からの課税仕入れの経過措置

適格請求書発行事業者以外の者(免税事業者、登録していない課税事業者、消費者、免税事業者である農家等)からの課税仕入れについては、一定割合を仕入税額とみなして控除できる経過措置が置かれている。令和8年度税制改正で2年延長され、5段階になった。

課税仕入れを行った期間控除できる割合控除できない部分実務上の位置づけ
2023年10月1日 から 2026年9月30日80%20%現行。2026年9月30日で終了
2026年10月1日 から 2028年9月30日70%30%2026年10月1日から適用。本章の最重要ポイント
2028年10月1日 から 2030年9月30日50%50%負担が一気に増える段階
2030年10月1日 から 2031年9月30日30%70%1年だけの段階
2031年10月1日 以後0%100%経過措置終了。インボイスがなければ一切控除できない
注意 2026年10月1日から控除割合が80%から70%へ下がる。判定の基準は決算期ではなく課税仕入れを行った日である。したがって9月決算法人以外は、1つの課税期間の中に80%の期間と70%の期間が混在する。会計ソフトの税区分を10月1日をまたいで切り替える作業が必要になる。この切替漏れは2026年秋から2027年春にかけての申告で最も起きやすいミスである。

経過措置の適用要件

  • 帳簿に、通常の記載事項に加えて「80%控除対象」「70%控除対象」等、経過措置の適用を受ける課税仕入れである旨を記載する。記号を付して欄外に説明する方法でもよい。
  • 請求書等として、区分記載請求書等と同様の記載事項(相手方の氏名・名称、年月日、取引内容と軽減対象である旨、税率ごとに区分した対価の額、交付を受ける者の氏名・名称)がある書類を保存する。登録番号と税率ごとの消費税額等は不要である。
  • 会計ソフトで所定の税区分(各社「区分80%」「経過措置80%」等の名称)を選択していれば、帳簿の記載要件は満たされる。

税区分設定の変更手順

  1. STEP1 対象取引先を洗い出す
    取引先マスタで登録番号が未登録・空欄の相手を抽出する。個人の外注先、小規模な家主、シルバー人材センター、個人タクシー、駐車場オーナーなどが典型。決算前ではなく2026年9月中に実施する。
  2. STEP2 会計ソフトの初期設定を更新する
    取引先マスタの既定税区分を「80%控除」から「70%控除」へ変更する。主要ソフトはバージョンアップで自動的に切り替わるものと、手動設定が必要なものがある。事務所ルールとして、9月中にソフトごとの対応状況を一覧化しておく。
  3. STEP3 10月1日をまたぐ取引を仕分ける
    9月分の請求で10月に支払うもの、9月末締め10月10日払いなど、判定は仕入れを行った日(役務提供完了日・引渡日)で行う。支払日ではない。締め日基準で機械的に処理していると誤る。
  4. STEP4 継続的役務は期間按分する
    年払いの家賃や保守料などで、2026年9月30日以前と10月1日以後にまたがるものは、期間対応で按分する。契約期間の月数按分で差し支えない。
  5. STEP5 期中の集計を確認する
    期末に税区分別集計を出し、80%と70%の両方に金額が計上されているか、逆に片方に全額寄っていないかを確認する。3月決算法人なら4月から9月が80%、10月から3月が70%になるのが正常である。

仕訳例(税抜経理)

免税事業者である個人外注先へ、外注費として税込110,000円を支払った場合。

2026年9月(80%控除期間):消費税相当額10,000円のうち8,000円が仮払消費税等、残り2,000円は本体価格に算入する。

借方科目金額貸方科目金額摘要
外注費102,000買掛金110,000免税事業者分 80%控除対象
仮払消費税等8,00010,000 × 80%

2026年10月(70%控除期間):同額の取引でも、控除できるのは7,000円に減る。差額3,000円が本体価格に上乗せされ、その分だけ法人税等の課税所得は減るが、消費税の納付額は1,000円増える。

借方科目金額貸方科目金額摘要
外注費103,000買掛金110,000免税事業者分 70%控除対象
仮払消費税等7,00010,000 × 70%

固定資産を取得した場合:免税事業者から機械装置を税込1,100,000円で2026年11月に取得。消費税相当額100,000円のうち70,000円が仮払消費税等、30,000円は取得価額に算入する。取得価額が増えるので、減価償却を通じて費用化される。

借方科目金額貸方科目金額摘要
機械装置1,030,000未払金1,100,000免税事業者分 70%控除対象
仮払消費税等70,000100,000 × 70%
補足 控除できない部分(上の例の30,000円)を「雑損失」や「租税公課」で一括処理してはいけない。法人税法上、経過措置により控除できない部分はその資産の取得価額または経費の額に算入する。したがって少額減価償却資産の30万円未満・40万円未満の判定も、この上乗せ後の金額で行う。税込経理を採用している場合は、そもそも税込で計上するのでこの調整は不要である。

よくあるミス 経過措置の対象になるのは「適格請求書発行事業者以外からの課税仕入れ」であって、非課税・不課税の支出は関係ない。免税事業者である家主から借りた住宅の家賃は非課税仕入れなので経過措置の話にならないし、給与も不課税である。「相手が免税事業者だから全部80%(70%)」と機械的に処理すると誤る。まず課税区分、次に経過措置の順で判定する。

7. 2割特例と3割特例

インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった小規模事業者の負担軽減措置が2割特例である。これが令和8年(2026年)9月30日の属する課税期間で終了し、個人事業者に限って3割特例が2年間置かれる。顧問先への説明で最も需要が高い論点なので、決算期別の早見表を用意して臨む。

項目2割特例3割特例
対象者インボイス制度を機に免税事業者から課税事業者になった者(法人・個人とも)個人事業者のみ
納付税額売上税額 × 20%(みなし仕入率80%相当)売上税額 × 30%(みなし仕入率70%相当)
適用要件基準期間の課税売上高1,000万円以下等。インボイス登録がなければ免税事業者であったこと基準期間および特定期間の課税売上高がいずれも1,000万円以下、かつ適格請求書発行事業者であること
適用期間令和8年(2026年)9月30日の属する課税期間まで令和9年(2027年)分と令和10年(2028年)分の2年間
事前届出不要。申告書に適用を受ける旨を付記する不要(申告時の選択)※具体的な手続は最新の情報を要確認
課税期間ごとの選択可。本則・簡易と有利な方を毎期選べる
使えないケース基準期間の課税売上高1,000万円超、調整対象固定資産・高額特定資産の3年縛り中、課税期間の特例を適用している場合など同左に加え、法人であること、特定期間の課税売上高が1,000万円超であること

決算期別 2割特例の終了時期 早見表

「令和8年9月30日を含む課税期間まで」が終了時期である。決算月から機械的に読める形にすると次のとおり。

決算月2割特例を使える最後の課税期間本則または簡易の選択が必要になる最初の課税期間
9月決算令和7年10月1日 から 令和8年9月30日令和8年10月1日開始(令和9年9月期)
10月決算令和7年11月1日 から 令和8年10月31日令和8年11月1日開始(令和9年10月期)
11月決算令和7年12月1日 から 令和8年11月30日令和8年12月1日開始(令和9年11月期)
12月決算令和8年1月1日 から 令和8年12月31日令和9年1月1日開始(令和9年12月期)
1月決算令和8年2月1日 から 令和9年1月31日令和9年2月1日開始
2月決算令和8年3月1日 から 令和9年2月28日令和9年3月1日開始
3月決算令和8年4月1日 から 令和9年3月31日令和9年4月1日開始
4月決算令和8年5月1日 から 令和9年4月30日令和9年5月1日開始
5月決算令和8年6月1日 から 令和9年5月31日令和9年6月1日開始
6月決算令和8年7月1日 から 令和9年6月30日令和9年7月1日開始
7月決算令和8年8月1日 から 令和9年7月31日令和9年8月1日開始
8月決算令和8年9月1日 から 令和9年8月31日令和9年9月1日開始
個人事業者令和8年分(令和8年1月1日 から 12月31日)令和9年分(3割特例を令和10年分まで適用可)
注意 9月決算法人は令和8年10月1日開始の課税期間からもう2割特例が使えない。決算期の中で最も早く影響が出るので、9月決算の顧問先には2026年夏のうちに簡易課税の要否を判定して連絡する。逆に3月決算法人は令和9年3月期まで使えるため、対応は1年遅れる。決算期ごとに案内時期を分けて管理する。

特例終了後の選択肢と有利判定

2割特例(および個人の3割特例)が終わったら、本則課税簡易課税を選ぶ。判定式は単純である。

実務のコツ 実際の課税仕入れ率(課税仕入れ ÷ 課税売上)がみなし仕入率を上回れば本則課税が有利、下回れば簡易課税が有利。2割特例は「みなし仕入率80%」と同じなので、第1種(卸売業90%)は簡易課税のほうが有利、第2種(小売業80%)は同額、第3種以下(70%以下)の事業者は2割特例のほうが有利だった。終了によって負担が増える度合いは業種で大きく違う。

数値例を3つ挙げる。いずれも消費税額(国税と地方税の合計)ベースの概算である。

ケース課税売上(税抜)課税仕入れ(税抜)2割特例簡易課税本則課税終了後の選択
コンサルタント(第5種 50%)800万円200万円16万円40万円60万円簡易課税。負担は24万円増
一人親方の内装工事(第3種 70%)1,000万円250万円20万円30万円75万円簡易課税。負担は10万円増
ネット物販(第2種 80%)1,000万円850万円20万円20万円15万円本則課税。むしろ5万円減

判定を実務に落とすときは、次の順で確認する。

  1. 直近2期の課税仕入れ率を実績から算出する。設備投資や大型仕入れがある年は本則が有利になることがあるので、翌期の予定も聞く。
  2. 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることを確認する(簡易課税の要件)。5,000万円超なら本則しか選べない。
  3. 調整対象固定資産・高額特定資産の3年縛りに該当しないか確認する。該当すれば簡易課税は選べない。
  4. 簡易課税を選ぶ場合の事務負担軽減効果(請求書の保存・登録番号確認が不要になる)も考慮する。ただし帳簿の保存義務はなくならない。
  5. 簡易課税は2年間継続適用になるため、2期分で有利不利を判定する。

簡易課税制度選択届出書の提出期限の特例

簡易課税制度選択届出書は、原則として適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出しなければならない。しかし2割特例・3割特例の適用をやめて簡易課税へ移行する場合には特例があり、その課税期間の確定申告期限までに提出すれば足りる

  • 実務上の効果は大きい。期首前に見込みで判断する必要がなく、1年間の実績を見てから本則と簡易を選べる
  • 例:9月決算法人が令和8年10月1日開始の課税期間(令和9年9月期)から簡易課税を使いたい場合、原則なら令和8年9月30日までの提出が必要だが、この特例により令和9年11月30日(確定申告期限)までに提出すればよい。
  • 例:個人事業者が3割特例終了後の令和11年分から簡易課税を使う場合も、令和12年3月31日までに提出すればよい。
  • ただし特例を使えるのは移行の局面に限られる。いったん本則課税で申告した後に「やはり簡易にしたい」と遡ることはできない。
よくあるミス 2割特例が終わることを失念し、簡易課税の届出をしないまま本則課税で申告してしまうケース。第5種のサービス業なら、上の例のとおり年間20万円以上の差が出る。事務所ルールとして、2割特例を適用している顧問先の一覧を作り、決算期別に終了時期と届出期限を管理する。この一覧は2026年から2029年まで毎年使う。

根拠 2割特例(平成28年改正法附則51の2)。3割特例および簡易課税制度選択届出書の提出期限の特例は令和8年度税制改正による。

8. 簡易課税制度

簡易課税は、実際の仕入税額を集計せず、売上税額にみなし仕入率を掛けた額を仕入税額とみなす制度である。仕入れ側のインボイス保存が不要になるため事務負担が大きく減る。

適用要件

  • 基準期間の課税売上高が5,000万円以下であること。当期の売上ではなく前々期で判定する。
  • 適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに消費税簡易課税制度選択届出書を提出していること(新規開業等はその課税期間中、2割特例からの移行は前節の特例あり)。
  • 調整対象固定資産・高額特定資産の3年縛りに該当していないこと。
注意 届出は効力が継続する。基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた年は自動的に本則課税に戻るが、届出の効力自体は残っている。翌々期に売上が下がって5,000万円以下になれば、何もしなくても簡易課税に戻る。「去年は本則だったから今年も本則」と思い込んで本則で組むと誤る。毎期、届出の有無と基準期間の課税売上高の両方を確認する

みなし仕入率6区分

事業区分みなし仕入率該当する事業判定のポイント
第1種事業90%卸売業購入した商品を性質・形状を変更せずに他の事業者へ販売
第2種事業80%小売業、農林水産業のうち飲食料品の譲渡に係る事業性質・形状を変更せずに消費者へ販売。軽減税率対象の飲食料品を扱う農林水産業も第2種
第3種事業70%農業・林業・漁業(飲食料品の譲渡以外)、鉱業、建設業、製造業、電気・ガス・熱供給・水道業原材料を仕入れて加工・製造する。建設業でも材料を元請から支給される場合は第4種
第4種事業60%飲食店業、その他の事業(第1・2・3・5・6種以外)加工賃を対価とする役務提供、事業用固定資産の売却も第4種
第5種事業50%運輸通信業、金融業・保険業、サービス業(飲食店業を除く)士業、美容室、修理業、広告業、情報サービス業など
第6種事業40%不動産業不動産の売買・仲介・管理・賃貸。ただし自ら建築した建物の販売は第3種

事業区分でつまずきやすい取引

  • 車両や機械の売却 … 本業が何であっても第4種。簡易課税の申告で最も漏れやすい。固定資産除却損益の内訳を必ず確認する。
  • 建設業の手間請け(人工出し) … 材料の支給を受けて加工賃だけを受け取る形態は第4種。材料込みで請け負えば第3種。契約書と請求書の内訳で判定する。
  • 飲食店のテイクアウト … 店内飲食は第4種、持ち帰り用の弁当等の販売も原則第4種(自ら調理しているため)。仕入れた商品をそのまま売れば第2種。
  • 修理業 … 部品代を含めても役務提供が主体なら第5種。部品の販売が独立していれば第1種または第2種。
  • 不動産賃貸業 … 第6種。事務所家賃も駐車場収入も第6種。
  • 太陽光の売電収入 … 電気供給業として第3種。
  • 保険代理店手数料 … 第5種。
  • 自動販売機設置手数料 … 第5種(サービス業)。

2以上の事業を営む場合の計算

  1. 原則(加重平均):事業区分ごとに売上税額を集計し、それぞれにみなし仕入率を掛けた合計を、全体の売上税額で割って仕入税額を求める。
  2. 特例1(75%ルール):1種類の事業の課税売上高が全体の75%以上を占める場合、その事業のみなし仕入率を全体に適用できる。
  3. 特例2(2種類75%ルール):3種類以上の事業を営み、そのうち2種類の課税売上高の合計が全体の75%以上を占める場合、その2種類のうちみなし仕入率の高い方はその事業の売上に、残りすべては低い方のみなし仕入率を適用できる。
  4. 事業区分をしていない場合:区分していない部分は、その事業者が営む事業のうち最も低いみなし仕入率が適用される。区分を怠ると不利になる仕組みである。

計算例:小売業(第2種)と飲食店業(第4種)を営む法人。課税売上に係る消費税額が合計200万円、内訳は第2種160万円、第4種40万円。

  • 原則計算:(160万 × 80% + 40万 × 60%) ÷ 200万 = 152万 ÷ 200万 = 76% → 仕入税額 152万円 → 納付 48万円
  • 特例1:第2種が全体の80%(160万 ÷ 200万)で75%以上 → 全体に80%を適用 → 仕入税額 160万円 → 納付 40万円
  • 結論:特例1のほうが8万円有利。特例は納税者が選択できるので、必ず両方計算して有利な方を採用する。付表5-3は両方の計算欄が用意されている。

簡易課税の2年縛りと注意点

  • 簡易課税制度選択届出書を提出したら、事業を廃止した場合を除き、2年間は本則課税に戻れない(適用開始課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ不適用届出書を提出できない)。
  • 大型の設備投資を予定している場合は簡易課税を選んではいけない。簡易課税では設備投資に係る仕入税額を控除できず、還付も受けられない。
  • 簡易課税でも帳簿の保存義務はある。請求書等の保存義務がないだけで、記帳をやめてよいわけではない。
  • 災害等により被害を受けた事業者は、「災害等による消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例承認申請書」により、事後的に選択・不選択を変更できる場合がある。

9. 少額特例と少額な返還インボイス

少額特例(一定規模以下の事業者に対する事務負担の軽減措置)

項目内容
対象事業者基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者
対象取引税込1万円未満の課税仕入れ
効果適格請求書の保存が不要。帳簿のみの保存で仕入税額控除ができる
適用期間令和5年(2023年)10月1日 から 令和11年(2029年)9月30日までの課税仕入れ
相手方問わない。免税事業者からの仕入れでも全額控除できる
  • 特定期間で判定する場合、課税売上高のみで判定する。納税義務判定と違い、給与等支払額での代替はできない。
  • 1万円未満の判定は一回の取引の課税仕入れに係る金額で行う。商品1個ごとではない。5,000円の商品を3個、合計15,000円で1回に購入すれば1万円以上となり対象外。
  • 月極めの取引で1か月分をまとめて請求される場合は、その1か月分の合計額で判定する。
  • 適用期間は課税期間ではなく課税仕入れの日で切れる。令和11年10月1日以後は課税期間の途中でも使えなくなるため、経過措置と同じく期中で税区分の切替えが必要になる。
  • 帳簿には通常の記載事項(相手方の氏名・名称、年月日、内容、金額)を記載する。「少額特例のため保存不要である旨」の記載までは求められない。
実務のコツ 少額特例は経過措置より強い。相手が免税事業者でも、税込1万円未満なら100%控除できる。少額の外注費、駐車場代、備品購入などは、経過措置の70%ではなく少額特例で全額控除するのが正しい。会計ソフトの税区分は「課税仕入れ10%」(通常の課税仕入れ)を選び、経過措置の税区分は選ばない。逆に、少額特例が使えるのに経過措置の税区分を当てていると、控除できるはずの税額を捨てていることになる。

よくあるミス 少額特例の判定を「基準期間1億円以下かつ特定期間5,000万円以下」と誤解するミス。正しくはいずれかを満たせばよい。基準期間の課税売上高が1億2,000万円でも、特定期間(前年上半期)の課税売上高が5,000万円以下なら適用できる。急成長・急減速している顧問先で判定が変わる。

少額な返還インボイスの交付義務免除

  • 税込1万円未満の売上に係る対価の返還等については、適格返還請求書の交付義務が免除される。これは期限のない恒久措置である。
  • 典型は振込手数料。売り手負担の振込手数料を売上値引きとして処理する場合、返還インボイスの交付は不要になる。
  • 振込手数料の処理方法は2通りある。売上値引きとして処理する方法(対価の返還等として売上税額から控除)と、支払手数料として処理する方法(課税仕入れとする。この場合は金融機関のインボイスが必要だが、買い手が立て替えているため立替金精算書等が必要になり煩雑)。実務では売上値引き処理のほうが簡便である。
  • 売上値引き処理をする場合、税率は元の売上と同じ税率で処理する。8%の商品の代金から差し引かれたなら8%で処理する。

10. 本則課税の計算

課税売上割合と控除方式の判定

本則課税では、まず課税売上割合を計算し、その水準に応じて仕入税額の控除方法を決める。

実務のコツ 課税売上割合 = (課税売上高 + 免税売上高) ÷ (課税売上高 + 免税売上高 + 非課税売上高)。いずれも税抜きで、返品・値引きを控除した後の金額を使う。不課税収入(配当、保険金、補助金)は分母にも分子にも入れない。

条件控除できる仕入税額方式
課税売上割合95%以上 かつ 課税期間の課税売上高5億円以下全額全額控除
課税売上割合95%未満 または 課税売上高5億円超一部個別対応方式 または 一括比例配分方式(選択)
  • 5億円基準の判定に使うのは当課税期間の課税売上高である。基準期間ではない。課税期間が1年未満なら年換算する。
  • 課税売上割合の端数処理は行わない。切上げ・切捨てをせず、そのままの割合で計算する。

個別対応方式

課税仕入れを3つに区分し、区分ごとに控除額を計算する。

区分控除できる額該当する支出の例
課税売上げにのみ要するもage(課税売上対応)全額販売用商品の仕入、輸出用商品の仕入、課税物件の販売手数料、製造用の原材料・外注費
非課税売上げにのみ要するもの(非課税売上対応)ゼロ賃貸用住宅の建築費・修繕費・管理費、有価証券の売却手数料、土地の売却仲介手数料
共通して要するもの(共通対応)その額 × 課税売上割合本社家賃、水道光熱費、通信費、消耗品費、税理士報酬、全社的な広告宣伝費、福利厚生費
注意 用途区分は課税仕入れを行った日の状況で判定する。判定が困難な場合は共通対応にする。なお、事務所と社宅が混在するビルの修繕費のように、合理的な基準(床面積比、使用割合)で課税売上対応分と非課税売上対応分に区分できる場合は、区分して処理してよい。全体を共通対応にするより有利になることが多い。

一括比例配分方式

  • 用途区分をせず、課税仕入れ等の税額の合計 × 課税売上割合で控除額を計算する。
  • 用途区分の手間がかからないが、通常は個別対応方式より不利になる(課税売上対応分まで按分されるため)。
  • いったん選択すると2年間継続適用しなければならない。翌期に大型設備投資があると不利が固定されるので、安易に選ばない。
  • 用途区分ができていない場合は、一括比例配分方式しか選べない。日々の記帳段階で用途区分を入力しておくことが本則課税の実務の要である。

計算例

3月決算法人。課税売上高(税抜)3億円、非課税売上高(土地の売却)1億円、その他非課税売上(受取利息)200万円。課税仕入れに係る消費税額の合計は2,000万円で、内訳は課税売上対応1,400万円、非課税売上対応200万円、共通対応400万円。

項目計算金額
課税売上割合3億円 ÷ (3億円 + 1億円 + 200万円)74.62%
判定95%未満 → 全額控除は不可
個別対応方式1,400万 + 0 + 400万 × 74.62%1,698万円
一括比例配分方式2,000万 × 74.62%1,492万円
差額個別対応方式が有利206万円

課税売上割合に準ずる割合

課税売上割合をそのまま使うと事業の実態と乖離する場合、税務署長の承認を受けて課税売上割合に準ずる割合を使える。使えるのは個別対応方式の共通対応分だけである。

  • 準ずる割合の例:従業員数の比率、消費または使用する資産の価額の比率、使用数量の比率、床面積の比率、取引件数の比率。事業部門ごとに異なる割合を使うこともできる。
  • 手続:「消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書」を、適用しようとする課税期間の末日までに提出し、同日の翌日以後1か月以内に承認を受ければ、その課税期間から適用できる。
  • やめるときは「不適用届出書」を、やめようとする課税期間の末日までに提出する。
実務のコツ たまたま土地を譲渡した場合は準ずる割合の代表的な活用場面である。土地の譲渡が単発で、かつ土地の譲渡がなかったとした場合の課税売上割合と前課税期間の課税売上割合との差が5%以内であれば、次のいずれか低い割合を準ずる割合として承認を受けられる。
(1) 前3年に含まれる課税期間の通算課税売上割合
(2) 前課税期間の課税売上割合
この承認を受けた場合、翌課税期間で必ず不適用届出書を提出する。提出を忘れると翌期も低い割合が続いて不利になる。申請書は課税期間の末日までに提出しなければならないので、決算が締まってから気づいても間に合わない。土地の売却情報は必ず期中に把握する。

仕入れに係る消費税額の調整

  • 調整対象固定資産の転用:課税業務用に取得した調整対象固定資産を3年以内に非課税業務用に転用した場合(またはその逆)、控除税額を調整する。転用時期に応じて全額・3分の2・3分の1を加減算する。
  • 課税売上割合が著しく変動した場合:調整対象固定資産を取得し比例配分法で控除した後、第3年度の課税期間の通算課税売上割合が、取得時の課税売上割合と比べて著しく増加または減少(変動率50%以上かつ変動差5%以上)したときは、第3年度の課税期間で調整する。
  • 居住用賃貸建物:令和2年10月1日以後に取得した居住用賃貸建物は、そもそも仕入税額控除の対象外である。ただし取得から3年以内に課税賃貸用に供したり譲渡したりした場合は、一定額を第3年度の課税期間等で控除に加算できる。賃貸マンションを扱う顧問先では必須の論点。

11. 税抜経理と税込経理

税抜経理方式

  • 売上・仕入から消費税相当額を分離し、仮受消費税等仮払消費税等で処理する。
  • 損益計算書の売上高・仕入高が税抜きになるので、期間比較や粗利率の分析がしやすい。
  • 固定資産の取得価額が税抜きになるため、少額減価償却資産の判定や償却限度額の計算で有利になる。
  • 交際費の800万円の判定も税抜きで行えるので有利。
  • 期末に仮受と仮払を相殺し、納付税額との差額を雑収入または雑損失で処理する。

税込経理方式

  • 消費税込みの金額で売上・仕入を計上する。
  • 納付税額は租税公課として損金算入する。計上時期は申告書提出日の属する事業年度が原則だが、決算で未払計上すれば当期の損金にできる。
  • 還付税額は雑収入。同様に未収計上できる。
  • 免税事業者は税込経理しか選べない
  • 固定資産の取得価額が税込みになるため、少額減価償却資産の判定で不利になる。
補足 税抜経理と税込経理の併用は原則としてできないが、売上を税抜経理としている場合に限り、固定資産・繰延資産・棚卸資産経費等のそれぞれについて、継続適用を条件に税込経理を選ぶことが認められている。ただし混在させると管理が煩雑になるため、事務所ルールとして原則は税抜経理に統一するのが望ましい。なお、消費税の納付税額そのものは経理方式によって変わらない。変わるのは法人税・所得税の課税所得の計上時期と、各種判定基準の金額である。

控除対象外消費税額等

税抜経理を採用していて課税売上割合が95%未満(または課税売上高5億円超)の場合、仮払消費税等のうち控除できなかった部分が生じる。これを控除対象外消費税額等という。処理は次のフローで決まる。

  1. STEP1 経費等に係るものか、資産に係るものか
    経費等(交際費等を除く)に係るものは、発生した事業年度の損金に算入する。以下は資産に係るものについて判定する。
  2. STEP2 課税売上割合が80%以上か
    80%以上なら、資産に係るものであっても全額を発生年度の損金に算入する。
  3. STEP3 棚卸資産に係るものか
    課税売上割合が80%未満でも、棚卸資産に係るものは発生年度の損金に算入する。
  4. STEP4 一の資産に係る金額が20万円未満か
    20万円未満なら発生年度の損金に算入する。
  5. STEP5 それ以外は繰延消費税額等として資産計上する
    60か月で均等償却する。損金経理が要件。別表十六(十)「資産に係る控除対象外消費税額等の損金算入に関する明細書」で処理する。

償却額の計算式

  • 初年度:繰延消費税額等 × その事業年度の月数 ÷ 60 × 2分の1
  • 翌年度以降:繰延消費税額等 × その事業年度の月数 ÷ 60

計算例:課税売上割合70%の法人が建物を取得。建物に係る仮払消費税等500万円のうち、控除できなかった額が150万円。課税売上割合80%未満で、棚卸資産ではなく、20万円以上であるため繰延消費税額等となる。事業年度は12か月。

年度計算損金算入額期末残高
1年目150万 × 12 ÷ 60 × 1/2150,0001,350,000
2年目150万 × 12 ÷ 60300,0001,050,000
3年目150万 × 12 ÷ 60300,000750,000
4年目150万 × 12 ÷ 60300,000450,000
5年目150万 × 12 ÷ 60300,000150,000
6年目残額150,0000
借方科目金額貸方科目金額摘要
長期前払費用1,500,000仮払消費税等1,500,000繰延消費税額等への振替
繰延消費税額等償却150,000長期前払費用150,000初年度 60か月償却の2分の1
注意 交際費等に係る控除対象外消費税額等は、交際費等の額に加算して損金不算入額を計算する。税抜経理でも、控除できなかった消費税分は交際費に足し戻す必要がある。別表十五の作成時に見落としやすい。

12. 申告書の作成手順

使用する様式

課税方式使用する付表備考
本則課税(軽減税率のみ)付表1-3、付表2-3中小企業の大半はこれ
本則課税(旧税率8%等の経過措置対象を含む)付表1-1・1-2、付表2-1・2-2長期リース、旧税率時の請負工事等がある場合
簡易課税(軽減税率のみ)付表4-3、付表5-3付表5-3で事業区分ごとに集計
簡易課税(経過措置対象を含む)付表4-1・4-2、付表5-1・5-2
2割特例付表6第一表の「税額控除に係る経過措置の適用(2割特例)」欄に丸を付ける

作成手順

  1. STEP1 税区分別の集計表を出す
    会計ソフトから消費税集計表を出力し、税率別・区分別の金額を確認する。売上と仕入の両方で、10%・軽減8%・非課税・不課税・免税・経過措置(80%と70%)の各区分に金額が入っているかを見る。予期しない区分に金額があれば入力誤りを疑う。
  2. STEP2 課税標準額を計算する
    税率ごとの課税売上高(税込)に、標準税率分は100/110、軽減分は100/108を掛ける。それぞれ千円未満切捨てで課税標準額を出す。
  3. STEP3 課税標準額に対する消費税額を計算する
    標準税率分は課税標準額 × 7.8%、軽減分は × 6.24%。これが割戻し計算による売上税額である。
  4. STEP4 控除税額を計算する
    控除対象仕入税額(付表2-3または付表5-3で計算)、返還等対価に係る税額、貸倒れに係る税額を集計する。
  5. STEP5 差引税額を求める
    売上税額に貸倒回収に係る消費税額を加え、控除税額を差し引く。百円未満切捨て
  6. STEP6 中間納付税額を差し引く
    納付すべき税額(または還付税額)が確定する。
  7. STEP7 地方消費税を計算する
    差引税額(=地方消費税の課税標準となる消費税額)に78分の22を掛けて譲渡割額を求める。百円未満切捨て。
  8. STEP8 第二表と付表を突合する
    第二表の課税標準額の内訳と、付表の税率別金額が一致しているかを確認する。ここが合わなければ集計のどこかが誤っている。
  9. STEP9 決算書の仮受・仮払と突合する
    税抜経理なら、仮受消費税等と仮払消費税等の差額が、申告書の納付税額とおおむね一致するはずである。差額が大きい場合は税区分の誤りを疑う。この突合を省略しない

割戻し計算と積上げ計算

区分割戻し計算積上げ計算
売上税額原則。税率ごとの税込売上合計 × 100/110(108)→ 千円未満切捨て → × 7.8%(6.24%)特例。交付した適格請求書の写しに記載した消費税額等の合計 × 78/100。適格請求書発行事業者のみ
仕入税額特例。税率ごとの税込仕入合計 × 7.8/110(6.24/108)原則。請求書等積上げ方式(インボイスの消費税額等を積み上げる)または帳簿積上げ方式(仕入の都度、税込金額に10/110を乗じて端数切捨てし積み上げる)
  • 組み合わせの制限:売上税額を積上げ計算にした場合、仕入税額は積上げ計算しか使えない。売上税額を割戻し計算にした場合は、仕入税額はどちらでもよい。
  • 売上税額で割戻しと積上げを併用することは可能だが、その場合も仕入税額は積上げ計算のみになる。
  • 実務上は売上は割戻し、仕入は割戻しの組み合わせが最も簡便で、中小企業の大半はこれで足りる。
  • 小売業など1件あたりの単価が小さく取引件数が多い事業者は、売上を積上げ計算にすると端数処理の積み重ねで有利になることがある。ただし仕入も積上げにしなければならず、事務負担とのバランスで判断する。

13. 届出書一覧

消費税は届出書の提出期限を1日でも過ぎると取り返しがつかない。提出の記録は必ず控えを保管し、事務所ルールとして提出日・受付日をデータベースで管理する。

届出書・申請書提出期限効果・注意点
消費税課税事業者届出書(基準期間用)該当することとなったら速やかに基準期間の課税売上高が1,000万円超になったとき。提出遅れでも納税義務は発生する
消費税課税事業者届出書(特定期間用)該当することとなったら速やかに特定期間の判定で課税事業者になったとき
消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書該当することとなったら速やかに基準期間の課税売上高が1,000万円以下になったとき
消費税課税事業者選択届出書適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(新規開業等はその課税期間中)免税事業者が自ら課税事業者になる。2年縛りあり。還付目的で使う
消費税課税事業者選択不適用届出書やめようとする課税期間の初日の前日まで2年経過後でなければ提出不可。調整対象固定資産の3年縛りに注意
消費税簡易課税制度選択届出書適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(新規開業等はその課税期間中)基準期間の課税売上高5,000万円以下が要件。2割特例からの移行は確定申告期限までの特例あり
消費税簡易課税制度選択不適用届出書やめようとする課税期間の初日の前日まで2年縛りあり。設備投資の前年に必ず検討する
消費税課税期間特例選択・変更届出書適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで課税期間を3か月または1か月に短縮。還付を早く受けたいときに使う。2年縛りあり
消費税課税期間特例選択不適用届出書やめようとする課税期間の初日の前日まで
適格請求書発行事業者の登録申請書登録を受けようとする課税期間の初日から起算して15日前の日までe-Taxでの申請が早い。登録通知までに時間がかかる場合がある
適格請求書発行事業者の登録の取消しを求める旨の届出書取消しを受けようとする課税期間の初日から起算して15日前の日まで遅れるとさらに翌課税期間からの取消しになる
消費税申告期限延長届出書特例の適用を受けようとする事業年度終了の日の属する課税期間の末日まで法人のみ。法人税の申告期限延長を受けていることが前提。1か月延長。納付期限は延びず利子税がかかる
消費税の新設法人に該当する旨の届出書速やかに資本金1,000万円以上で設立したとき。法人設立届出書に記載していれば提出不要
消費税課税売上割合に準ずる割合の適用承認申請書適用しようとする課税期間の末日まで同日の翌日以後1か月以内の承認が必要。土地売却がある年は期中に必ず検討
消費税課税売上割合に準ずる割合の不適用届出書やめようとする課税期間の末日までたまたま土地を譲渡した場合は翌期に必ず提出
任意の中間申告書を提出する旨の届出書適用を受けようとする6か月中間申告対象期間の末日まで提出後に中間申告書を出さないと届出を取り下げたものとみなされる
事業廃止届出書速やかに提出すると各種の選択届出書の効力もすべて失われる
災害等による消費税簡易課税制度選択(不適用)届出に係る特例承認申請書災害等がやんだ日から2か月以内災害により被害を受けた場合の事後的な選択変更
よくあるミス 「初日の前日まで」の届出を、決算作業中に気づいて慌てて出すケース。3月決算法人が令和9年3月期から簡易課税にしたいなら、令和8年3月31日までに提出しなければならない。決算を組んでから判断するのでは遅い。事務所ルールとして、決算報告の場で必ず「翌期の課税方式」を議題に載せ、届出の要否をその場で決める運用にする。

14. 実務チェックリストとよくあるミス

期首(前期申告後)の確認

  • 当期の納税義務の有無を、基準期間・特定期間・インボイス登録の3点で確認したか
  • 当期の課税方式(本則・簡易・2割特例)を確定し、顧問先に伝えたか
  • 簡易課税を選ぶ場合、届出書は前期末までに提出済みか
  • 調整対象固定資産・高額特定資産の3年縛りに該当していないか、固定資産台帳で確認したか
  • 前期に免税事業者から課税事業者になった場合、期首棚卸資産に係る消費税額の調整を行ったか
  • 中間申告の回数と各回の期限をスケジュールに登録したか
  • 会計ソフトの税区分の初期設定(取引先マスタの登録番号、既定税区分)を更新したか

期中の記帳・証憑

  • 取引先ごとの登録番号を取引先マスタに登録し、公表サイトで確認済みか
  • 登録番号のない取引先について、経過措置の税区分(2026年10月1日以後は70%)を正しく当てているか
  • 2026年10月1日をまたぐ取引を、支払日ではなく仕入れを行った日で区分したか
  • 年払いの家賃・保守料など、2026年9月30日と10月1日にまたがる継続的役務を期間按分したか
  • 少額特例の対象事業者であれば、税込1万円未満の仕入れに経過措置の税区分を当てていないか
  • 軽減税率8%と旧税率8%を別の税区分で処理しているか
  • 受取利息・社宅家賃・土地売却など、非課税売上を漏れなく計上しているか
  • 補助金・助成金・保険金・損害賠償金を不課税で処理しているか
  • 給与と外注費の区分は、契約書・請求書・指揮命令関係から説明できるか
  • 司法書士報酬の請求書を、報酬(課税)と登録免許税等(不課税)に分けて入力したか
  • 海外出張の航空券(免税)と現地費用(不課税)を区分したか
  • 本則課税なら、課税仕入れの用途区分(課税売上対応・非課税売上対応・共通対応)を入力しているか
  • 電子取引で受領したインボイスを、電子帳簿保存法の要件に従って保存しているか
  • 自社が交付する請求書が適格請求書の6要件を満たしているか、税率ごとの端数処理は1回になっているか
  • 値引き・返品を、元の取引と同じ税率で対価の返還等として処理しているか
  • 振込手数料を売上値引きで処理する運用に統一しているか

決算・申告時

  • 課税売上割合を計算し、95%以上か、課税売上高5億円以下かを判定したか
  • 95%未満の場合、個別対応方式と一括比例配分方式の両方を試算して有利な方を選んだか
  • 一括比例配分方式を選んだ場合、2年継続適用の縛りを顧問先に説明したか
  • 土地の譲渡があった場合、課税売上割合に準ずる割合の申請を課税期間の末日までに行ったか
  • 前期に準ずる割合の承認を受けた場合、当期に不適用届出書を提出したか
  • 簡易課税なら、車両・機械等の固定資産売却を第4種で拾ったか
  • 簡易課税で2以上の事業がある場合、原則計算と75%特例の両方を計算して有利な方を採用したか
  • 税抜経理で控除対象外消費税額等が生じた場合、資産区分・課税売上割合80%・20万円基準で判定したか
  • 繰延消費税額等がある場合、別表十六(十)を作成し、初年度は2分の1で償却したか
  • 交際費等に係る控除対象外消費税額等を交際費の額に加算したか
  • 仮受消費税等と仮払消費税等の差額が申告書の納付税額とおおむね一致するか突合したか
  • 第二表と付表の税率別金額が一致しているか確認したか
  • 中間納付税額を正しく差し引いたか(納付書控えまたは納税証明で確認)
  • 翌期の課税方式を検討し、届出の要否を決算報告の場で決めたか
  • 2割特例を適用している顧問先について、終了時期と簡易課税届出の期限を管理表に記載したか

よくあるミス集

ミス結果防ぎ方
簡易課税制度選択届出書の提出忘れ本則課税で申告することになり、納付税額が増える決算報告時に翌期の課税方式を必ず議題にする
簡易課税で固定資産売却を第4種で拾い忘れる過少申告。調査で必ず指摘される固定資産除却損益・雑収入の内訳を毎期確認する
2026年10月1日以後も経過措置80%のまま処理控除過大による過少申告2026年9月中に税区分設定を一斉更新する
少額特例の対象なのに経過措置70%を適用控除過小。納めすぎ基準期間1億円・特定期間5,000万円の判定を毎期記録する
受取利息・社宅家賃を非課税売上に計上せず、課税売上割合を100%で申告土地売却等がある年に控除過大決算前に非課税売上の有無を洗い出す
個人事業者の消費税申告を3月15日期限と誤認拙速な申告による誤り期限は3月31日。所得税確定後に丁寧に組む
免税事業者期間の棚卸資産に係る調整の失念控除できるはずの税額を失う課税事業者になる初年度は期首棚卸を必ず確認する
課税事業者選択・簡易課税の2年縛りを説明せず選択翌期に不利な方式が固定される選択前に必ず2期分のシミュレーションを作る
土地売却の情報を決算時に初めて知る準ずる割合の申請期限(課税期間の末日)に間に合わない期中の月次で不動産の異動を確認する
登録番号の失効・取消しに気づかず控除調査で控除否認決算前に取引先マスタを公表サイトで一括照合する
1つの請求書で明細行ごとに端数処理交付側が適格請求書の要件違反顧問先の請求システムを初回訪問時に確認する
控除対象外消費税額等を全額雑損失で処理法人税の所得計算の誤り資産区分・80%基準・20万円基準のフローで判定する
経過措置で控除できない部分を租税公課で処理取得価額が過少になり償却計算も誤る本体価格に算入するルールを徹底する

Q. 2割特例が終わる顧問先には、いつ・何を案内すればよいか。

A. 決算期別の終了時期一覧(本章7節の早見表)を使い、終了する課税期間の1つ前の決算報告時に案内する。案内する内容は3点。第1に2割特例が終わること、第2に本則と簡易のどちらが有利かの試算、第3に簡易課税を選ぶ場合の届出期限。特に9月決算法人は令和8年10月1日開始の期からもう使えないため、2026年夏の時点で着手する。なお2割特例からの移行には確定申告期限までに届出すればよい特例があるので、実績を見てから決めることもできる。この点も併せて説明すると顧問先は安心する。

Q. 免税事業者の仕入先に「課税事業者になってほしい」と言うのは問題があるか。

A. 登録を要請すること自体は問題ない。問題になるのは、要請に応じない場合に一方的に取引価格を引き下げたり、取引を打ち切ると通告したりすることである。再交渉の機会を設け、双方が納得した価格に合意するのであれば独占禁止法上も下請法上も問題にならない。顧問先には「協議の記録を残すこと」を助言する。メールや議事録で経緯を残しておけば、後日の説明に耐える。

Q. 簡易課税を選んだ後に大型の設備投資が決まった。本則に戻せるか。

A. 簡易課税制度選択不適用届出書を提出できるのは、適用開始課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後である。2年を経過していれば、設備投資をする課税期間の初日の前日までに不適用届出書を提出すれば本則に戻れる。2年を経過していなければ戻れないので、その課税期間中の設備投資は還付の対象にならない。可能であれば投資時期を翌期に繰り延べる提案を検討する。逆に言えば、簡易課税を選ぶ前に3期先までの設備投資計画を聞いておくことが事故を防ぐ。

用語ミニ辞典
基準期間
法人は前々事業年度、個人は前々年。納税義務および簡易課税の適用判定に使う。
特定期間
法人は前事業年度開始の日以後6か月間、個人は前年1月1日から6月30日まで。課税売上高と給与等支払額のいずれかで判定できる。
課税売上割合
(課税売上高+免税売上高)÷(課税売上高+免税売上高+非課税売上高)。税抜き、返還等控除後で計算する。
調整対象固定資産
税抜100万円以上の固定資産等。取得すると一定の場合に3年縛りが発生する。
高額特定資産
税抜1,000万円以上の棚卸資産または調整対象固定資産。本則課税期間中に取得すると翌期から3年縛り。
適格請求書発行事業者
税務署長の登録を受けた事業者。登録している限り課税事業者となる。
対価の返還等
返品、値引き、割戻し、販売奨励金など。売上税額から控除する。
みなし仕入率
簡易課税で用いる、事業区分ごとの仕入税額の割合。90%から40%までの6区分。
繰延消費税額等
控除対象外消費税額等のうち資産計上が必要なもの。60か月で均等償却する。
割戻し計算
税込金額から税率で割り戻して消費税額を求める方法。売上税額の原則的な計算方法。
積上げ計算
インボイスに記載された消費税額等を積み上げる方法。仕入税額の原則的な計算方法。
実務のコツ 消費税の事故は、税法の理解不足よりも管理の欠落から起きる。届出の提出期限、経過措置の切替日、特例の終了時期はすべてカレンダーに載る情報である。事務所ルールとして、顧問先ごとに「課税方式・届出履歴・登録番号・基準期間の課税売上高・次に判断が必要な日」の5項目を1行にまとめた管理表を作り、決算報告のたびに更新する。この1枚があるだけで、本章のミスの大半は防げる。

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ご利用にあたって 本手引きは2026年8月21日時点の法令・通達等に基づいて作成した実務資料です。税制は毎年改正されます。適用期限・税率・金額基準は、実際の判断の際に必ず最新の法令、国税庁の通達・質疑応答事例、各自治体の公表資料で確認してください。
記載内容は一般的な取扱いの整理であり、個別具体的な事案への当てはめを保証するものではありません。判断に迷う論点、前例のない取引、金額的影響の大きい論点は、独断で処理せず必ず所内で確認してください。

監修ジェイスタート会計事務所(公認会計士・税理士事務所)
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