M&A仲介手数料は着手金・中間金・成功報酬などで構成され、中心の成功報酬はレーマン方式(取引金額の帯ごとに料率が下がる計算)で決まるのが一般的です。ただし中小企業の案件では、料率より「何に掛けるか」と最低報酬が実際の金額を左右するため、契約前の確認が欠かせません。
この記事の結論
レーマン方式の料率は代表例で5%から1%へ段階的に下がりますが、規模の小さい案件ほど、料率よりも最低報酬の金額が実質的な手数料を決めます。手数料は税引き後の手取りとあわせて判断します。
- 支払いは着手金・月額報酬・中間金・成功報酬の組み合わせで、金額が大きいのは成功報酬
- 料率を掛ける「取引金額」が株式の譲渡額か、負債を含む移動総資産かで、手数料は何倍にも変わる
- 最低報酬・専任条項・テール条項は、契約前に書面で確認する
- 手数料の税務上の扱いは立場で違う(個人の売り手は譲渡費用、買い手の法人は株式の取得価額)
- 株価算定と手取りの試算は、仲介会社とは別の専門家にセカンドオピニオンを取る
M&A仲介手数料は何で構成される?
仲介会社への支払いは、着手金・月額報酬・基本合意時の中間金・成約時の成功報酬という構成が一般的です。このうち金額が最も大きいのが成功報酬で、その計算に広く使われているのがレーマン方式です。
| 名目 | 支払う時期 | 確認したい点 |
|---|---|---|
| 着手金 | 契約を結んだとき | 成約しなかった場合の扱い |
| 月額報酬 | 契約期間中の毎月 | 期間が長引いたときの総額 |
| 中間金 | 基本合意を結んだとき | 成功報酬から差し引くのか、別建てか |
| 成功報酬 | 成約(最終契約・決済)のとき | 計算方式、料率を掛ける取引金額の定義、最低報酬 |
着手金や月額報酬をとらない完全成功報酬型も増えていますが、その分、成功報酬の最低額が高めに設定される場合があります。名目ごとの金額だけでなく、成約までに払う総額で比べることが大切です。
提示された金額が税抜か税込かも確認します。仲介手数料はサービスの対価なので、別に消費税(10%)がかかります。
レーマン方式とは?金額が大きいほど料率が下がる計算
レーマン方式とは、取引金額を帯に区切り、帯ごとに異なる料率を掛けて合算する計算方法です。よく見られる料率の代表例は次のとおりで、実際の料率や区切りは各社で異なります。
| 取引金額の帯 | 料率(代表例) |
|---|---|
| 5億円以下の部分 | 5% |
| 5億円超〜10億円以下の部分 | 4% |
| 10億円超〜50億円以下の部分 | 3% |
| 50億円超〜100億円以下の部分 | 2% |
| 100億円超の部分 | 1% |
ポイントは、料率が取引金額の全体ではなく「帯ごとの部分」に掛かることです。取引金額が帯の境目をまたぐと、上の帯に入った部分だけに低い料率が使われます。
計算例:取引金額が3億円と12億円の場合
例えば、上の代表的な料率で、料率を掛ける取引金額が3億円の場合と12億円の場合を計算します。
- 3億円の場合:3億円×5%=1,500万円
- 12億円の場合(5億円以下の部分):5億円×5%=2,500万円
- 12億円の場合(5億円超10億円以下の部分):5億円×4%=2,000万円
- 12億円の場合(10億円超の部分):2億円×3%=600万円
- 12億円の場合の合計:2,500万円+2,000万円+600万円=5,100万円
3億円の案件は最初の帯に収まるため、5%がそのまま掛かります。ただし実際の手数料は、次に説明する「取引金額の定義」と最低報酬で、この計算どおりにならないことが多いです。
「何に掛けるか」で手数料はどれだけ変わる?
注意点の一つ目は、料率を掛ける「取引金額」の定義です。株式の譲渡額に掛ける方式のほか、負債を含めた移動総資産に掛ける方式などがあり、借入の多い会社では同じ譲渡額でも手数料が何倍にもなることがあります。
| 取引金額の定義 | 中身 | 影響が大きくなる会社 |
|---|---|---|
| 株式の譲渡額 | 売り手が受け取る株式の対価 | 比べるときの基準になる |
| 移動総資産 | 株式の対価に、会社が抱える負債を加えた額 | 借入や買掛金などの負債が多い会社 |
| 対価の総額 | 株式の対価に、役員退職金や不動産の買取り代金などを含める定め | オーナーが退職金を受け取る、事業用の不動産を個人で持っている会社 |
計算例:株式の譲渡額が1億円、負債が4億円の会社の場合
例えば、代表例の料率5%で、取引金額の定義だけを変えて比べます。
- 株式の譲渡額に掛ける場合:1億円×5%=500万円
- 移動総資産の額:1億円+4億円=5億円
- 移動総資産に掛ける場合:5億円×5%=2,500万円
同じ譲渡額でも、手数料は5倍になります。借入の多い会社ほど、定義の違いが大きく効きます。
契約書では、取引金額の定義条項に何が含まれるかを一語ずつ確かめます。役員退職金を対価に含める定めがあると、手取りを増やすために退職金を組み合わせても、手数料の計算では差し引かれないことがあります。
最低報酬はなぜ重い?小さな案件ほど負担率が上がる
二つ目の注意点が最低報酬(ミニマムフィー)です。多くの仲介会社は、成功報酬に最低額を設けています。中小企業のM&Aでは、レーマン方式の計算結果が最低額に届かず、最低報酬がそのまま適用されるケースが珍しくありません。
計算例:譲渡額8,000万円で最低報酬が設定されている場合
例えば、譲渡額8,000万円の案件で、仮に最低報酬が1,000万円と定められている場合です(最低報酬の額は会社ごとに異なります)。
- レーマン方式の計算値:8,000万円×5%=400万円
- 実際に支払う額:計算値の400万円が最低報酬に届かないため、最低報酬の1,000万円
- 譲渡額に対する負担率:1,000万円÷8,000万円=12.5%
料率は5%でも、実際の負担率はその倍以上になります。さらに消費税もかかるため、手取りの試算は税込の額で行います。
このほか、他社へ並行して依頼できない専任条項や、契約終了後の成約にも手数料がかかるテール条項の期間・範囲も、後からもめやすい条件です。中小企業庁の「中小M&Aガイドライン」でも、支援機関が手数料や契約条件を契約前に十分説明することが求められています。
- 報酬の名目ごとの金額と支払時期、税抜か税込か
- 料率を掛ける取引金額の定義(負債・役員退職金・不動産を含むか)
- 最低報酬の額と、譲渡額に対する負担率
- 中間金を成功報酬から差し引くかどうか
- 専任条項の範囲と期間、テール条項の期間と対象
- 契約を解除できる条件と、解除時に支払う費用
仲介手数料の税務:売り手と買い手で扱いはどう違う?
手数料は金額だけでなく、税金の計算でどう扱われるかによって、実質の負担が変わります。誰が、どの取引で支払うかによって処理が分かれます。
| 立場と取引 | 手数料の扱い | あわせて押さえる点 |
|---|---|---|
| 個人の株主が株式を売る | 譲渡所得の計算で、譲渡のための費用として差し引ける | 譲渡益には所得税・復興特別所得税・住民税をあわせて20.315%がかかる(申告分離課税) |
| 法人が事業を売る(事業譲渡) | 譲渡に要した費用として損金になる | 譲渡益は法人の所得になり、代金も会社に入る |
| 法人が株式を買う | 購入のために要した費用として、株式の取得価額に含める | 支払った時点では損金にならず、株式を手放すまで費用化されない |
| 法人が事業を買う(事業譲渡) | 取得した資産の取得価額への算入など、資産ごとに処理を検討する | 対価が資産の時価を上回る部分は、のれん(資産調整勘定)として扱う場合がある |
消費税の面でも違いがあります。株式の譲渡は消費税の非課税取引ですが、事業譲渡は譲る資産ごとに課税・非課税が分かれ、土地は非課税、建物・設備・のれんは課税になります。
個人の専門家に報酬を払うときは源泉徴収が必要
会社が株価算定や契約書の確認を、個人の公認会計士・税理士・弁護士に依頼した場合は源泉徴収が必要です。報酬から所得税を差し引き、原則として支払った月の翌月10日までに納めます。支払先が仲介会社や税理士法人などの法人なら、源泉徴収は要りません。
計算例:個人の公認会計士に株価算定の報酬を支払う場合
例えば、会社が個人の公認会計士に、消費税を区分した請求書で税抜150万円の報酬を支払う場合です。
- 100万円を超える部分:150万円−100万円=50万円
- 超える部分の税額:50万円×20.42%=102,100円
- 源泉徴収税額(100万円までの部分の102,100円を加える):102,100円+102,100円=204,200円
報酬が100万円以下なら、支払額×10.21%です。例えば80万円なら、80万円×10.21%=81,680円になります。
ツール報酬・料金の源泉徴収税額を計算する専門家への報酬額を入れると、源泉徴収する所得税の額を確かめられます。計算する
源泉徴収の税率(100万円以下の部分10.21%、超える部分20.42%)は、2027年1月1日以後も変わりません。
株式譲渡か事業譲渡か、退職金を組み合わせるかで、手数料の扱いも手取りも変わります。提示された条件をもとに、税引き後の手取りを試算できます。
無料で相談する誰に相談する?仲介とFA、セカンドオピニオン
仲介会社は売り手と買い手の間に立つ立場で、どちらか一方の利益の最大化を約束する存在ではありません。これに対しFA(ファイナンシャル・アドバイザー)は、一方の当事者だけを支援する形態です。
| 相談先 | 役割 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 仲介会社 | 売り手と買い手の間に立ち、条件の調整と手続を進める | 相手探しから成約まで一括で進めたい |
| FA | 売り手か買い手の一方だけを支援する | 自社側の条件を優先して交渉したい |
| 公認会計士・税理士 | 株価算定、財務の調査、株式譲渡と事業譲渡の手取りの比較 | 提示された価格や条件が妥当かを数字で確かめたい |
株価算定や、株式譲渡と事業譲渡で税引き後の手取りがどう変わるかといった論点は、公認会計士・税理士の領域です。買い手の側では、買収前に財務デューデリジェンス(財務DD)や事業デューデリジェンス(事業DD)で、決算書に表れないリスクを調べます。
売り手のオーナーは、株式の代金の一部を役員退職金として受け取る形にすると、手取りが変わることがあります。退職金には退職所得控除が使えるためです。控除額は、勤続20年以下なら40万円×勤続年数(最低80万円)、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数−20年)です。買い手が買収資金を借入で用意する場合は、融資・資金調達の進め方も早めに確認します。
仲介会社の提示条件をうのみにせず、契約前に第三者の専門家へセカンドオピニオンを求めることをおすすめします。当事務所の株価算定や契約条件の検討の進め方は、料金・契約の流れでご確認いただけます。
よくある質問
成約しなかった場合、着手金や中間金は返ってきますか?
契約の定めによりますが、着手金や月額報酬は成約しなくても返金されない定めになっていることがあります。中間金を成功報酬に充てるかどうかとあわせて、契約前に書面で確認してください。
仲介手数料は、売り手と買い手のどちらが払いますか?
仲介会社は売り手・買い手の双方と契約し、それぞれから報酬を受け取るのが一般的です。FAの場合は、依頼した側だけが報酬を支払います。
M&Aの専門家費用に補助金は使えますか?
事業承継・M&A補助金に専門家活用の枠があり、16次は2026年10月2日〜11月6日の受付予定で、補助上限は450万〜2,000万円です(2026年10月3日時点)。中小企業庁のM&A支援機関登録制度に登録された支援機関への費用であることなどの要件があり、補助金は原則として後払いのため、最新の公募要領で確認したうえで計画します。
レーマン方式以外の計算方法もありますか?
会社によっては、取引金額に一律の料率を掛ける方式や、あらかじめ決めた固定額とする方式もあります。どの方式でも、取引金額の定義と最低報酬の確認が欠かせない点は同じです。
まとめ
M&A仲介手数料は成功報酬が中心で、レーマン方式では金額帯ごとに料率が下がりますが、中小企業の案件では取引金額の定義と最低報酬が実際の負担を決めます。契約前に定義条項・最低報酬・専任条項・テール条項を書面で確かめ、手数料の税務上の扱いも含めて手取りで比べましょう。株価算定や条件の妥当性は、仲介会社とは別の専門家にセカンドオピニオンを求めると判断しやすくなります。
札幌の公認会計士・税理士事務所
会社の売却・M&Aの条件のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
