月次推移の分析は、売上・粗利・経費・利益を月ごとに並べ、年間の合計や平均では見えない会社の実力と、資金が足りなくなる月をつかむ作業です。季節性は前年同月比と複数年の同月平均でならし、固定費と変動費を分けて月ごとの損益分岐点を出すのが基本で、季節の波が大きい事業ほど効果があります。
この記事の結論
毎月の試算表を時系列に並べ、季節の波をならし、固定費と変動費を分けて見ると、本当の収益力と資金繰りの危険月が数字で分かります。
- 年商を12で割った「平均月商」を前提に資金繰りを組まない
- 前月比ではなく、前年同月比と複数年の同月平均で比べる
- 固定費÷限界利益率で、月ごとに必要な売上(損益分岐点)を出す
- 売上が伸びても、値引きによる数量増なら粗利は痩せる。粗利率と顧客構成も見る
- 決算月にまとめて計上している費用は、月割りにしてから推移を読む
月次推移の分析とは?年間の平均では何が見えないのか
月次推移の分析とは、売上・粗利・経費・利益といった主要な科目を月ごとに横に並べ、変化を追う作業です。決算書の年計ひとつでは「良かった・悪かった」しかわかりませんが、12か月を並べると、いつ・どの科目が・どれだけ動いたのかが線として見えてきます。
例えば年商1億2,000万円の会社なら、12で割れば月商1,000万円です。しかし実際には、繁忙期に月商1,600万円、閑散期に月商600万円というように大きく振れていることが珍しくありません。この振れ幅を知らずに「毎月1,000万円ある前提」で資金繰りを組むと、閑散期に運転資金が足りなくなります。
見るべきなのは売上だけではありません。月次推移表のどの行を何のために見るのかを整理すると、次のようになります。
| 見る行 | 着眼点 | わかること |
|---|---|---|
| 売上高 | 前年同月との差、毎年の山と谷の位置 | 成長しているのか、季節の波なのか |
| 粗利率 | 月によるぶれ、じわじわ下がっていないか | 値引き・原価の上昇・商品構成の変化 |
| 人件費 | 繁忙期の残業・応援の増え方 | 繁忙期の利益を人件費が食っていないか |
| その他の固定費 | 想定どおりの水準で推移しているか | 売上がゼロでも出ていく金額 |
| 突発的な経費 | 特定の月だけ大きい修繕費・広告費など | 一過性の要因か、毎年くり返すのか |
| 営業利益 | 赤字の月がどこに、何か月続くか | 季節要因か、構造的な問題か |
これらを合わせて見ることで、動きの理由が季節要因なのか、一過性の事情なのか、構造的な問題なのかを区別できます。
月次推移表はどう作る?会計ソフトから作る手順
月次推移表は、多くの会計ソフトに出力する機能があります。ただし、毎月の数字が同じ基準で締められていないと、出てきた表は実態を映しません。次の順で整えると、分析に使える表になります。
- 毎月同じ基準で締める売上は入金時ではなく請求や納品の時点で、仕入や経費も発生した月に計上し、月末の売掛金・買掛金を毎月そろえます。
- 決算でまとめて計上する費用を月割りにする減価償却費、賞与、年払いの保険料や税金などは、年額を12で割って毎月計上します。
- 2〜3期分を並べて出力する会計ソフトの月次推移表を、少なくとも2〜3期分そろえます。部門や店舗がある場合は、部門別にも出します。
- 科目を固定費と変動費に分ける売上に比例して増える材料費・仕入・外注費などを変動費、それ以外を固定費とします。分け方は毎期同じにします。
- 比較の列を加える前年同月比、複数年の同月平均、粗利率の列を加えると、季節の波と実力の変化を読み分けやすくなります。
- 動きの理由をメモに残す値上げ、大口の受注、休業、天候などの出来事を月ごとに記録しておくと、後から数字を読み返すときの手がかりになります。
月次決算を早く正確に締める仕組みは、中小企業の経理・会計処理ガイドで詳しく解説しています。
季節性はどうならす?前年同月比と複数年の同月平均
季節性とは、毎年決まった時期に売上やコストが上下する傾向のことです。観光、建設、飲食、小売、農業関連など、業種によってパターンは異なります。北海道では冬の除排雪や暖房の需要、夏の観光需要のように、気候と結びついた季節変動が強く出やすいのが特徴です。
季節性を見極める基本は、当月の数字を前年同月と比べる「前年同月比」です。前月比だけでは季節の山と谷に振り回されるため、同じ時期どうしを比べて、純粋な成長・後退を読み取ります。さらに複数年分の同月を平均すると、その月の「標準的な水準」が見え、当期がそれを上回っているかで実力を判断できます。
計算例:同月平均で「標準の水準」と比べる
例えば過去3年の2月の売上が、580万円、600万円、620万円だったとします。合計は580万円+600万円+620万円=1,800万円で、同月平均は1,800万円÷3=600万円です。
当期の2月が630万円なら、630万円÷600万円=1.05で、標準の水準を5%上回っています。前月の繁忙期と比べて大きく落ち込んでいても、季節を考えれば実力は伸びていると読めます。
月の営業日数や大型連休の位置、前年の同じ月にあった特殊な出来事も、比較をゆがめる原因になります。数字が大きく動いた月は、こうした暦や一時的な要因がなかったかを先に確かめます。
北海道の事業で季節性を見るときの着眼点
- 建設業:冬期は屋外の工事が減りやすく、完成・引渡しが特定の時期に集まりやすい
- 除排雪・融雪関連:売上が冬期に集中し、降雪の量で年ごとの振れも大きい
- 観光・宿泊・飲食:夏の観光シーズンや冬のイベントの時期に需要が集まりやすい
- 農業関連・食品:収穫の時期に仕入れと在庫が積み上がり、入金は後にずれやすい
- 費用の側:冬期は暖房・燃料費や除雪の費用が増え、同じ売上でも利益率が下がりやすい
固定費と変動費を分けると何がわかる?月ごとの損益分岐点
月次推移と季節性に、固定費と変動費の切り分け(固変分解)を組み合わせると、「どの月に・いくら売れば黒字になるか」が見えてきます。分析の三つの視点を整理すると次のとおりです。
| 視点 | 見るもの | わかること |
|---|---|---|
| 推移 | 月ごとの売上・利益の線 | 上昇・下降の傾向と転換点 |
| 季節性 | 前年同月比・複数年の同月平均 | 毎年の山谷と純粋な成長 |
| 固変分解 | 固定費と変動費の切り分け | 損益分岐点と必要売上 |
売上から変動費を引いた利益を限界利益といい、売上に占める割合を限界利益率といいます。固定費を限界利益率で割った金額が損益分岐点売上高で、その月の売上がこれを下回れば赤字、上回れば黒字です。
計算例:年商1億2,000万円の会社の月次損益分岐点
例えば、固定費が月300万円、限界利益率が40%の会社だとします。月の損益分岐点売上高は 300万円÷40%=750万円 です。
この会社の売上が、繁忙期3か月は1,600万円、通常期6か月は900万円、閑散期3か月は600万円だったとします。閑散期の限界利益は600万円×40%=240万円で、固定費300万円との差の60万円が毎月の赤字です。繁忙期は1,600万円×40%=640万円の限界利益で、340万円の黒字になります。
年間で見ると、繁忙期の黒字が340万円×3=1,020万円、通常期の黒字が60万円×6=360万円、閑散期の赤字が60万円×3=180万円です。合計は1,020万円+360万円−180万円=1,200万円の利益で、年間では黒字でも閑散期は毎月赤字になることがわかります。
固定費は売上がゼロでも出ていくため、閑散期にこの固定費をどう賄うかが資金繰りの肝になります。月ごとの損益分岐点がわかれば、閑散期に固定費を抑える工夫や、繁忙期にどこまで売上を積み上げるべきかを、数字で考えられるようになります。
資金繰りの危険月はどう見つける?
損益の赤字月と、お金が足りなくなる月は一致するとは限りません。売上の入金は売掛金の回収サイトの分だけ遅れ、繁忙期に向けた仕入れや人員の手配は先に支払いが来るためです。月次推移の損益に、入金と支払いのタイミングを重ねて見ることが欠かせません。
- 閑散期の赤字が何か月続き、合計でいくら資金が減るか
- 繁忙期の前の仕入れ・外注の支払いが、どの月に集中するか
- 賞与の支給月と、季節の谷が重なっていないか
- 法人税・消費税などの納付月が、閑散期に当たっていないか
- 借入金の返済額が、谷の月の資金で賄えるか
計算例:閑散期に減る資金の見積もり
上の計算例の会社では、閑散期の3か月は毎月60万円の赤字で、60万円×3=180万円の資金が減る計算です。閑散期の直後に繁忙期の仕入れを先行させる場合は、その支払いも加わり、資金の谷はさらに深くなります。
この谷の深さを前もって数字にしておけば、手元資金で乗り切れるのか、季節の資金として借入れを準備すべきかを、余裕をもって判断できます。
法人税などの申告・納付の期限は、事業年度終了の日の翌日から2か月以内です。繁忙期の直後が決算月だと、利益が大きく出た年の納税が閑散期の資金を圧迫することがあります。消費税も、直前の確定消費税額(国税)が48万円を超えると中間申告が必要になり、納付の回数が増えます。季節の資金の手当ての考え方は、融資・資金調達ガイドにまとめています。
どの月に資金が最も細くなるかは、取引条件と納税・返済の時期で変わります。月次推移と資金繰り表の作り方は、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する数字だけで判断を誤らないために、何を確かめる?
月次の数字を並べただけでは、判断を誤ることがあります。例えば売上が伸びていても、それが値引きによる数量の増加なら粗利は痩せています。逆に売上が横ばいでも、利益率の高い顧客が増えていれば実力は向上しています。
| 数字の動き | 考えられる背景 | 確かめること |
|---|---|---|
| 売上は増えたが粗利率が下がった | 値引き、原価の上昇、利益率の低い商品の増加 | 商品別・顧客別の粗利、値引きの記録 |
| 売上は横ばいだが利益が増えた | 利益率の高い顧客・商品の増加、値上げ | 顧客構成と単価の推移 |
| 特定の月だけ経費が突出した | 修繕、広告、まとめ払い | 一過性か、毎年同じ月にくり返すか |
| 決算月だけ利益が大きく動く | 減価償却費・賞与などの決算整理の一括計上 | 月割りで計上し直した数字 |
| 全社は黒字だが一部の月が赤字 | 季節の谷、特定の部門や店舗の不振 | 部門別・店舗別の月次推移 |
決算整理を月割りしていない月次は読み違えやすい
減価償却費や賞与を決算月だけで計上していると、決算月の利益が大きく落ち込み、ほかの月の利益は実態より多く見えます。在庫の棚卸を年1回しか行っていない場合、月次の粗利率は推定にとどまる点にも注意が必要です。
全社では黒字でも、部門や店舗の単位では赤字が隠れていることがあります。見つけ方は店舗別・部門別収益性の検証で解説しています。数字の背後にある事業の実態と突き合わせる作業は、財務の専門家と一緒に進めると見落としを減らせます。
月次推移は、融資やM&Aの場面でどう使われる?
金融機関は、決算書に加えて月次の試算表や資金繰り表で、業績の流れと季節の資金需要を確かめます。閑散期の資金不足を事前に説明し、必要な時期と金額を示せる会社は、季節の資金の相談もしやすくなります。
M&Aの財務DD(財務デューデリジェンス:買い手が対象会社の財務の実態を調べる手続き)でも、月次推移は分析の出発点です。季節の波を説明できる資料と、決算整理を月割りした月次の数字がそろっていれば、調査の時期が閑散期に当たっても実力が正しく伝わります。DDでの月次分析の進め方は月次PLの分解と異常値の見つけ方を参考にしてください。
よくある質問
月次の試算表が翌月中に出てきません。どうすればよいですか?
締め日と証憑の提出期限を決め、銀行やカードの明細を会計ソフトに連携すると、締めの作業を早められます。最初は概算でもよいので、毎月同じ時期に数字を見る習慣をつけることが大切です。
固定費と変動費の分け方に決まりはありますか?
法令上の決まりはなく、勘定科目ごとに固定か変動かを決める方法で実務上は十分です。パートの人件費のように両方の性質を持つ費用は、実態に近いほうに寄せ、毎期同じ基準で分けることを優先します。
赤字の月があっても、年間で黒字なら問題ありませんか?
損益は年間で黒字でも、資金は月ごとに不足することがあります。閑散期の赤字の合計と、その時期に重なる納税・賞与・返済を見積もり、手元資金で足りるかを確認しておきましょう。
前年同月比がマイナスになったら、すぐに手を打つべきですか?
1か月だけで判断せず、営業日数の違いや前年の特殊な出来事がなかったかを先に確かめます。マイナスが数か月続き、直近12か月の合計も下がり続けているなら、季節ではなく業績の変化を疑います。
季節の波が大きい会社は、決算月をいつにすればよいですか?
一律の正解はありません。繁忙期の直後は在庫が少なく棚卸がしやすい一方、利益が出た年の納税が閑散期に重なることがあります。棚卸の手間、納税資金の時期、決算作業の負担を比べて検討します。
まとめ
年間の合計や平均では、会社の本当の実力も資金繰りの危険月も見えません。毎月の試算表を同じ基準で締めて時系列に並べ、前年同月比と同月平均で季節の波をならし、固定費と変動費を分けて月ごとの損益分岐点を出しましょう。数字の背後にある値引きや顧客構成の変化まで読むことで、資金計画と利益計画の精度が上がります。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
