所在不明株主や名義株は、事業承継やM&Aの前に整理しておきたい株式の問題です。所在不明株主は会社法の売却・買取りの制度で、名義株は払込みや配当の記録で真の出資者を確かめてから名義を実態に合わせ、後継者や会社に株式を集約します。贈与税・相続税の落とし穴にも注意が必要です。
この記事の結論
所在不明株主は会社法の株式売却制度などで、名義株は出資の実態を確かめて名義を戻すか買い取る形で整理し、後継者や会社に株式を集約します。どちらも時間がかかり税務の判断も絡むため、承継やM&Aの予定から逆算して早めに着手するのが安全です。
- まず株主名簿・法人税申告書の別表二・払込みや配当の記録を突き合わせ、問題の株式を特定する
- 所在不明株主の株式は、通知が一定期間届かず配当も受け取っていないなどの要件を満たせば、会社が売却・買取りできる(市場価格のない株式の売却は裁判所の許可が必要)
- 経営承継円滑化法の認定を受けた中小企業には、期間の要件を短縮できる特例がある
- 名義株は払込資金の出所や配当の受取人で真の出資者を確かめ、名義人の確認書を取ってから名義を書き換える
- 実態を説明できないまま株式を動かすと、贈与税や相続税の問題が生じることがある
所在不明株主・名義株とは?なぜ承継やM&Aの障害になる?
所在不明株主とは、株主名簿に記載はあるものの、転居などで連絡が取れなくなっている株主です。名義株とは、実際にお金を出した人(実質株主)と、株主名簿上の名義人が異なる株式をいいます。
名義株は、かつて会社の設立に複数の発起人が必要だった時代に、親族や知人の名義を借りて設立した会社でよく見られます。所在不明株主は、株主の相続で株式が分散した、退職した役員や従業員の持株が残ったまま連絡が途絶えた、といった経緯で生まれるのが典型です。
所在不明株主
- 典型:転居した元役員・元従業員、亡くなった株主の相続人が分からない
- 困ること:招集通知が届かない、配当の支払先が分からない、議決権の行使に支障が出る
- 主な整理方法:会社法の株式売却制度、経営承継円滑化法の特例、株式併合など
名義株
- 典型:設立時の名義借り、親族名義での出資
- 困ること:誰の財産かがあいまいで、相続のときに争いや課税の問題が起きる
- 主な整理方法:確認書を取って名義を戻す、名義人から買い取る
どちらも普段は表に出にくい問題ですが、承継やM&Aの局面で一気に障害になります。後継者が議決権を確保できない、買い手は全株式を問題なく取得できることを前提にしているのに集約できない、といった理由で、取引が止まったり条件が悪くなったりします。
整理はどこから始める?株主の実態を洗い出す手順
最初にやることは、株主名簿と各種の記録を突き合わせ、誰が本当の株主で、どの株式が問題なのかを特定することです。株主名簿は会社法で作成と備置きが義務付けられていますが、長年更新されていない会社も少なくありません。次の資料を集めるところから始めます。
- 株主名簿(作成していなければ、分かる範囲で現状の名簿を作る)
- 法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)に記載した各期の株主と持株数
- 設立時の定款と払込みの記録(通帳など)、増資をしたときの払込みの記録
- 株主総会の招集通知の発送記録と、宛先不明で返送された郵便物
- 配当の支払記録(誰に、いつ、いくら支払ったか)
- 株券の発行状況(株券発行会社かどうか、株券を誰が保管しているか)
- 株式の譲渡を承認した議事録、亡くなった株主の相続の情報
別表二は毎期の申告で株主の構成を記載する書類で、過去分を並べると株式の動きをたどれます。名簿・別表二・配当の記録の間に食い違いがあれば、そこが整理の対象です。食い違いの理由を説明できる資料が残っているかどうかで、後の手続きの難しさが変わります。
株券発行会社では、株券を渡さないと譲渡の効力が生じない
会社法の施行前に設立された株式会社は、定款に株券を発行しない旨の定めがなければ、株券発行会社とされている場合があります。株券発行会社では株券を交付しなければ株式の譲渡の効力が生じないため、株券を発行しないまま名義だけを移しても、譲渡が無効と判断されるおそれがあります。
登記事項証明書に「株券を発行する旨の定め」があるかを最初に確認し、ある場合は株券を発行するか、株券を発行しない会社へ定款を変更するかを先に決めておきましょう。
所在不明株主の株式はどう整理する?
会社法には、所在不明株主の株式を会社が売却したり、自ら買い取ったりできる制度があります。株主への通知や催告が法定の期間継続して届かず、同じ期間、剰余金の配当も受け取っていないことが主な要件です。
配当をしていない会社でも、配当を受け取っていないという要件は満たし得ると一般に解されています。ただし、招集通知などを送っていなければ「届かない」という事実そのものがありません。これまで通知を送っていなかった会社は、通知を送り始めて返送の記録を残すところからのスタートになります。
- 要件の確認と証拠の整理返送された通知や配当の支払記録をそろえ、期間の要件を満たしているかを確認します。
- 公告と個別の催告株主その他の利害関係人に対して、異議があれば一定の期間内に述べるよう公告し、株主と登録株式質権者には個別にも催告します。
- 売却方法の決定市場価格のない株式は、裁判所の許可を得て競売以外の方法で売却するのが一般的です。売却先は後継者などでもよく、会社自身が買い取ることもできます。会社が買い取る場合は、買い取る株式の数と対価の総額を定めます(取締役会設置会社は取締役会の決議)。
- 裁判所への許可の申立て売却価格が相当であることを、株価算定書などで示します。取締役が複数いる場合は、申立てに全員の同意が必要です。
- 売却と代金の取扱い売却代金は所在不明株主に支払うべきお金です。受け取られない場合は、供託などの方法で保管します。
- 株主名簿の書換え新しい株主を株主名簿に記載し、次の期の申告書の別表二にも反映します。
会社が自ら買い取る場合は自己株式の取得になるため、分配可能額の範囲内でしか買い取れないという財源の制限があります。利益の蓄積が少ない会社では、後継者などを売却先にする方法とあわせて比べます。手続きを誤ると後から無効を主張されるおそれもあるため、要件の確認と書類の作成は弁護士と進めるのが安全です。
期間の要件を短縮できる経営承継円滑化法の特例
事業承継のために所在不明株主の整理が必要な非上場の中小企業は、中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)にもとづき都道府県知事の認定を受けると、会社法の期間の要件を短縮できる特例があります。公告や催告などの手続きは引き続き必要で、認定にも要件があるため、承継計画とあわせて早めに確認しましょう。
株主が亡くなっていた場合や、対象が多い場合は?
株主が亡くなっていることが分かった場合、株式は相続人に引き継がれています。相続人が複数いれば株式は共有となり、権利を行使する人を決めてもらう必要があるため、相続人と交渉して買い取る道を探ります。株主の行方も生死も分からない場合は、家庭裁判所に不在者財産管理人の選任を申し立て、管理人と買取りを協議する方法が検討されることもあります。
所在不明株主が多い場合や、連絡の取れる少数株主もまとめて集約したい場合は、株式併合(複数の株式を1株にまとめ、端数になった株式を金銭で精算する方法)など、株主総会の特別決議で株式を集約する方法も比較の対象になります。少数株主には反対株主の買取請求などの権利があるため、価格の根拠と手続きを弁護士と詰めて進めます。
名義株はどう整理する?真の出資者の確認と名義の戻し方
名義株の整理は「実際の出資者は誰か」を確かめることから始まります。名義人と実質株主の認識が一致し、資料でも裏付けられれば、合意のうえで名義を実態に合わせられます。判断の材料は、主に次の5つです。
| 確認する事項 | 名義株(実質株主が別にいる)と言える材料 | 名義人の株式と見られやすい材料 |
|---|---|---|
| 払込資金の出所 | 実質株主の口座から払い込まれている | 名義人自身の資金で払い込んでいる |
| 配当の受取り | 配当を実質株主が受け取っている | 名義人が配当を受け取り、自分の所得として申告している |
| 議決権の行使 | 実質株主が行使し、名義人は関与していない | 名義人が総会に出席し、または委任状を出している |
| 名義人の認識 | 名義を貸しただけだと認めている | 自分の株式だと認識している |
| 株券・書類の保管 | 株券や関係書類を実質株主が保管している | 名義人が株券を保管している |
- 資料を集める設立時・増資時の払込みの記録、配当の記録、別表二の推移をそろえます。
- 名義人に確認する経緯を説明し、名義を貸しただけであることを確認します。名義人が亡くなっていれば、その相続人に確認します。
- 確認書を取り交わす名義株であることと、名義を実質株主に戻すことへの同意を、日付と署名・押印のある書面に残します。
- 株主名簿を書き換える株主名簿の書換えは、原則として名簿上の株主(またはその相続人)と実質株主が共同で請求します。名義人の協力が欠かせないのはこのためです。
- 以後の記録をそろえる次の期の別表二、配当の支払先、招集通知の宛先を実態に合わせます。
名義人が名義株であることを認めない場合や、名義人が配当を受け取って申告していた場合は、名義人の株式と判断される可能性が高くなります。その場合は「名義を戻す」のではなく「名義人から買い取る」整理になり、価格と課税関係の検討が必要です。
名義株かどうかは、払込みの記録や配当の受取りなど複数の材料で判断が分かれます。株主構成の確認から、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する株式を集約するときの税金は?贈与税・相続税・みなし配当
株式の集約では、誰から誰へ、どのような名目で、いくらで株式が動くかによって課税関係が変わります。代表的なパターンは次のとおりです。
| 株式の動き | 主な課税関係 | 注意点 |
|---|---|---|
| 名義株を実質株主の名義に戻す | 実態どおりの整理なら、原則として課税は生じない | 裏付けの資料が弱いと、名義人から実質株主への贈与とみなされるおそれがある |
| 少数株主から後継者(個人)が買い取る | 売り手に株式の譲渡所得 | 時価より著しく低い価格だと、差額が後継者への贈与とみなされることがある |
| 少数株主から会社が買い取る(自己株式の取得) | 売り手は、資本金等の額を超える部分がみなし配当、残りが譲渡所得 | 会社にみなし配当の源泉徴収の義務がある。分配可能額の範囲内でしか買えない |
| 先代から後継者へ贈与する | 後継者に贈与税(暦年課税は基礎控除110万円、相続時精算課税は特別控除2,500万円) | 事業承継税制(特例措置)を使う場合は期限に注意 |
非上場株式の税務上の評価は、取得した人の立場で方式が変わります。会社の支配に関わる同族株主は原則的評価方式(類似業種比準価額や純資産価額による方法)、それ以外の少数株主は配当還元方式で評価するのが基本です。
後継者が少数株主から配当還元方式の価格で買い取ると、取得する後継者には原則的評価方式が当てはまるため、その差額に贈与税がかかるおそれがあります。売り手の立場での評価と、買い手の立場での評価が違う点は、集約の価格を決めるときの落とし穴です。なお、相続で株式を取得して相続税を納めた人が一定の期間内に発行会社へ売る場合は、みなし配当として課税しない特例もあります。
具体例:名義株と所在不明株主が混在する会社の整理の順番
例えば、発行済株式200株の会社で、先代社長が120株、設立時に名義を借りた親族3人が20株ずつ(計60株)、連絡の取れない元役員が20株を持っているとします。
- 親族3人の60株:払込みの記録と確認書で先代の出資と確認できたため、先代の名義に戻す(先代は180株)
- 元役員の20株:所在不明株主の株式売却制度で、裁判所の許可を得て後継者に売却する
- 先代の180株:事業承継税制や相続時精算課税を比べたうえで、後継者へ移す
仮に親族名義の60株(評価額600万円)を名義株と説明できず、親族から先代への贈与と判断された場合、先代の基礎控除後の課税価格は600万円−110万円=490万円になり、これに贈与税の税率がかかります。名義を戻す前に資料をそろえることが、思わぬ課税を避ける第一歩です。
ツール暦年課税の贈与税額を計算する贈与を受けた財産の額を入れて、暦年課税の贈与税額の目安を確認できます。計算する
集約した株式を事業承継税制(特例措置)で後継者へ移す場合は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日、贈与・相続の期限が2027年12月31日です。株主の整理に時間がかかると、この期限に間に合わなくなるおそれがあります。要件と手続きは事業承継税制の要件と手続きのガイドで確認できます。
M&Aや事業承継の前に整理すべき理由は?買い手が確認すること
M&Aで株式を譲渡する場合、買い手はデューデリジェンス(買収前の詳細な調査)で、株主名簿・株式の変遷・株券の発行状況・譲渡承認の手続きを確認します。名義株や所在不明株主が見つかると、次のような対応を求められるのが一般的です。
- クロージング(株式の引渡しと代金の決済)までに整理を終えることを、取引の前提条件にする
- 売り手が株式に問題がないことを保証する表明保証の対象にし、違反したときの補償を定める
- 整理が間に合わない分を、価格の減額や代金の一部の留保で調整する
- 株式譲渡をやめ、事業譲渡など株式を移さない方法に切り替える
どの対応になっても売り手に不利な条件になりやすく、事業譲渡に切り替えると許認可の取り直しや課税関係も変わります。親族内の承継でも、後継者が議決権を確保できなければ、役員の選任や定款の変更などの重要な決定が思うように進みません。買い手の調査で株式まわりがどう見られるかは、財務デューデリジェンス(財務DD)の進め方でも解説しています。
再び株式を分散させないための予防策は?
整理が終わったら、同じ問題を繰り返さない仕組みを作ります。定款の定めと、株主の記録を毎年更新する運用の両面で備えます。
- 株式の譲渡に会社の承認が必要という譲渡制限の定めがあるかを確認する
- 相続などで株式を取得した人に、会社への売渡しを請求できる定め(相続人等に対する売渡請求)を置くかを検討する
- 株券発行会社のままなら、株券を発行しない会社への定款変更を検討する
- 株主名簿を毎年更新し、住所が変わったら届け出てもらうよう株主に依頼しておく
- 招集通知の発送と配当の支払いの記録を保存する
- 役員・従業員・取引先に株式を持ってもらう場合は、退任・退職や取引終了のときの買取りのルールを先に決めておく
相続人等に対する売渡請求の落とし穴
この請求は株主総会の特別決議で行い、売渡しを求められる相続人はその決議で議決権を行使できません。先代社長が多くの株式を持ったまま亡くなると、少数株主だけの決議で、後継者が相続した株式に売渡しを請求されるおそれがあります。導入するかどうかは、株主構成と承継の順番を見て判断しましょう。
専門家にはどう相談する?役割分担と準備する資料
所在不明株主や名義株の整理は、会社法の手続き、登記、税務が組み合わさります。自己流で進めず、それぞれの専門家と役割を分けて進めるのが一般的です。
| 専門家 | 主な役割 |
|---|---|
| 弁護士 | 所在不明株主の株式売却の申立て、少数株主との交渉、株式併合などの手続きの設計 |
| 司法書士 | 株券の廃止などの定款変更の登記、相続関係の調査 |
| 公認会計士・税理士 | 株主の実態の洗い出し、株価の算定、課税関係の整理、承継計画と事業承継税制の検討 |
相談の際は、前の章で挙げた株主名簿・別表二・払込みと配当の記録・登記事項証明書・定款を持参すると、問題の株式と整理の方法の見通しを早く立てられます。当事務所では、株主構成の確認、株価の算定や課税関係の整理など、会計・税務の面からご相談をお受けしています。
よくある質問
所在不明株主の整理には、どのくらいの時間がかかりますか?
会社法の制度は、通知・催告が届かない状態と配当の不受領が法定の期間続いていることが前提で、その後も公告・催告の期間や裁判所の手続きが必要です。要件を満たしていない会社は通知を送り始めるところからになるため、承継やM&Aの予定から逆算して早めに着手しましょう。
名義人がすでに亡くなっている場合は、どうすればよいですか?
名義人の相続人に名義株であることを確認してもらい、確認書と名義書換えへの協力を求めます。相続人が名義人自身の株式だと考えている場合は、名義人の相続財産として申告されている可能性もあるため、名義人の相続税申告での扱いもあわせて確認します。
所在の分かっている少数株主が、買取りに応じてくれない場合は?
まずは株価算定の結果など価格の根拠を示し、買取りの目的を説明して交渉するのが基本です。合意できない場合は、株式併合など株主総会の特別決議で集約する方法もありますが、少数株主には価格の決定を裁判所に申し立てる権利などがあるため、弁護士と手続きを検討します。
名義株を整理しないまま先代が亡くなると、どうなりますか?
名義株が実質的に先代の財産であれば、先代の相続財産として相続税の申告に含める必要があります。相続税の調査では名義株や名義預金が実質的に誰の財産かが確認されやすく、申告から漏れていれば加算税の対象になり得ます。相続人の間で、名義人の株式か先代の株式かをめぐって争いになるおそれもあります。
まとめ
所在不明株主と名義株の整理は、株主名簿・別表二・払込みと配当の記録を突き合わせて、問題の株式を特定することから始まります。所在不明株主は会社法の株式売却制度や経営承継円滑化法の特例で、名義株は確認書と名義書換えで整理し、価格と課税関係は取得者の立場での評価も踏まえて決めます。いずれも時間がかかるため、承継やM&Aの日程から逆算して早めに着手しましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
