不動産業の融資は、仲介・管理で開業するのか、賃貸物件を買うのか、土地や中古物件を仕入れて売るPJ(プロジェクト)なのかで、借入先も審査で見られる数字も変わります。自己資金・返済原資・出口の根拠の3つを先に整理しておくことが、よい条件を引き出す近道です。
この記事の結論
不動産業の融資は「何に使い、何で返すか」で型が分かれ、型ごとに審査の物差しが違います。開業資金は公庫や制度融資、物件取得はLTVと賃料による返済力、PJ融資は売却価格の根拠と期日が審査の中心です。
- 仲介・管理の開業資金は、公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(限度額7,200万円)や自治体の制度融資が主な候補
- 賃貸物件の取得では、融資比率(LTV)と、賃料収入で返済を賄えるかが見られる
- PJ融資は案件ごとの融資で、売却代金による一括返済が一般的。出口価格と工期の根拠を示す
- 元金の返済は経費にならないため、減価償却費とのバランス(デッドクロス)に注意する
- 札幌市の制度融資は、2026年10月1日以降の実行分から利率が0.3%上がっている
不動産業の融資は「何に使い、何で返すか」で3つに分かれる
不動産業と一口にいっても、資金の使い道と返済原資(返済に充てるお金の出どころ)は、事業の形によって大きく違います。金融機関はまずここを確認し、それに合った物差しで審査します。申込みの前に、自社の借入れがどの型に当たるかを整理しておきましょう。
| 型 | 主な資金使途 | 返済原資 | 返済の形 | 主な借入先 |
|---|---|---|---|---|
| 開業資金(仲介・管理) | 事務所の保証金・内装、宅建業の免許や保証協会の費用、広告費、当面の運転資金 | 仲介手数料・管理手数料などの事業収益 | 分割返済(据置期間を設けることもある) | 日本政策金融公庫、自治体の制度融資 |
| 物件取得(賃貸業) | アパート・マンション・テナントビルなど収益不動産の購入 | 賃料収入 | 長期の分割返済 | 銀行・信用金庫・信用組合 |
| 仕入れ・開発(PJ融資) | 土地・中古物件の仕入れ、建築・リフォーム費用 | 物件の売却代金(完成後に保有する場合は賃料) | 期日一括返済が一般的 | 銀行・信用金庫など |
1つの会社が複数の型を使い分けることもあります。その場合は、案件ごとの借入れと会社全体の返済計画を分けて説明できるようにしておくと、金融機関の理解が早まります。
不動産の「PJ」「プロジェクト融資」とは?審査で見られる点
不動産業界でいう「PJ」はプロジェクトの略で、土地の仕入れから建築・販売までの個別の案件を指すことが多い言葉です。PJ融資(プロジェクト融資)は、その案件に必要な資金を案件単位で借り、完成・売却で得た代金で返す融資をいいます。
大規模な開発で使われる「プロジェクトファイナンス」は、特定の事業が生むキャッシュフローだけを返済原資とする仕組みで、中小の不動産会社が使うPJ融資とは別物です。PJ融資は会社が返済義務を負うのが一般的で、代表者の保証を求められることもあります。案件が計画どおりに進まなくても、返済の義務はなくなりません。
| 見られる点 | 金融機関が確認すること | 準備したい資料 |
|---|---|---|
| 出口価格の根拠 | 想定する販売価格(保有する場合は賃料)が、周辺の相場から見て無理のない水準か | 周辺の成約事例、販売計画、想定賃料の根拠 |
| 事業収支と自己資金 | 仕入価格・建築費・諸費用・金利を差し引いて利益が残るか。自己資金をどれだけ入れるか | 事業収支表、建築の見積書・図面、自己資金の通帳 |
| 工期・販売期間と実績 | 完成・売却までの期間に無理がないか。遅れたときの対応策と、同じ種類の案件の実績 | 工程表、過去の案件の実績一覧 |
- 事業収支をつくる物件情報をもとに、仕入価格・建築費・諸費用・金利・販売価格を並べ、利益と必要資金を試算します。
- 金融機関に打診する物件概要・事業収支・図面・見積りを示し、融資の可否と条件の感触を確かめます。
- 審査・担保評価を受ける担保評価と出口の検証を経て、融資額・金利・返済期日が決まります。
- 決済・融資実行仕入代金や諸費用の支払いに合わせて融資が実行されます。
- 工事・販売を進める進捗を金融機関に報告しながら、工事と販売を進めます。
- 売却代金で返済する売却代金で一括返済します。販売が遅れそうなときは、期日の前に金融機関へ相談します。
期日一括返済は「売れ残り」に弱い
販売が長引くと利息の負担が続き、期日の延長や借換えの交渉が必要になります。積雪期をはさむ案件は工期が延びやすいため、北海道では販売時期も含めて期日に余裕を持たせて計画しましょう。
賃貸物件の取得融資は「LTV」と「賃料で返せるか」で判断される
アパートやテナントビルなど収益不動産の取得では、物件の担保評価に加えて、賃料収入で返済を賄えるかが審査されます。前者を表すのがLTV(融資額÷物件価格。融資比率)、後者を表すのが返済比率(年間返済額÷年間賃料収入)です。
LTVは一般に80%以下が目安とされ、70%以下ならよりよい条件を引き出しやすい傾向があります。LTVが高いまま申し込むと、追加の担保や保証人を求められたり、金利が上乗せされたりすることがあります。自己資金を厚くするほど、金利や融資期間の交渉余地は広がります。
| LTVの水準 | 自己資金 | 融資額(概算) | 審査のイメージ |
|---|---|---|---|
| 70%(保守的) | 1,500万円 | 3,500万円 | 良好。条件交渉の余地がある |
| 80%(標準) | 1,000万円 | 4,000万円 | 許容範囲内 |
| 90%以上 | 500万円以下 | 4,500万円以上 | 追加の保証や金利上乗せのリスク |
計算例:返済比率と空室の影響
例えば満室時の年間賃料収入が480万円、年間返済額が240万円の場合、返済比率は240万円÷480万円=50%です。
空室で賃料収入が1割減って432万円になると、返済比率は240万円÷432万円=約55.6%に上がります。審査では、このように空室や金利上昇を織り込んでも返済を続けられるかが見られます。
賃料からは、固定資産税・管理費・修繕費・保険料などの運営費も出ていきます。運営費を差し引いた手残りで返済できるかを、事業計画書の数字で示しましょう。積雪地では、除雪費や共用部のロードヒーティングの電気代も運営費に入れておくと、計画の精度が上がります。
個人で買うか、法人で買うか
融資の借主と物件の所有者は一致させるのが一般的です。個人で買うか法人(資産管理会社)で買うかは、所得の水準、相続、将来の売却まで含めて判断します。法人で借りる場合は、決算書に加えて代表者個人の資産や収入も見られます。
個人と法人の税負担の違いや、相続を見据えた持ち方は不動産・資産税のよくある質問でも整理しています。
仲介・管理で開業するときの資金と使える融資
宅建業(宅地建物取引業)で開業する場合の初期費用は、事務所の保証金や内装、免許申請の費用、ポータルサイトの掲載料などの広告費です。加えて、営業保証金の供託か保証協会(宅地建物取引業保証協会)への加入が必要になるため、その費用も見込みます。
仲介手数料は契約や決済の時点まで入金されないため、売上が立つまでの運転資金と生活費も見込みます。公庫のFAQでは自己資金は審査の重要な要素とされ、創業時の自己資金の割合は平均2割程度と説明されています。親族からの借入れや援助がある場合は、契約書や振込の記録で経緯を説明できるようにしておきましょう。
| 借入先・制度 | 限度額・期間 | 主なポイント |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 新規開業・スタートアップ支援資金 | 7,200万円。設備資金20年以内・運転資金10年以内(うち据置5年以内) | 開業前から事業開始後おおむね7年以内が対象。税務申告を2期終えていなければ原則として無担保・無保証人。創業融資は原則0.65%(雇用を拡大する場合は0.9%)の利率引下げ |
| 札幌市 創業・雇用創出支援資金 | 5,000万円 | 利率は2026年4月1日時点の表記で年1.70%以内、10月1日以降の実行分は0.3%引上げ。信用保証料の4分の1以内を市が補給 |
| 北海道 創業貸付(北海道中小企業総合振興資金) | 3,500万円。1〜10年 | 固定金利1.8〜2.4%(2026年10月1日現在)。創業貸付【スタートアップ】は経営者の個人保証が不要 |
札幌市内で会社を設立して開業する場合
札幌市の特定創業支援等事業は、市内の支援機関で1か月以上・4回以上の支援を受ける制度です。証明を受けると、市内での会社設立の登録免許税が半分になります(株式会社の最低額15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円)。公庫の利率引下げや、信用保証協会の創業関連保証を開業6か月前から使えるといった効果もあります(証明書の有効期限は2027年3月31日)。
市の制度融資は、2026年10月1日以降に実行される融資から利率が0.3%上がっています。比べるときは、実際に適用される利率を取扱金融機関で確認しましょう。
補助金と組み合わせるときの注意
開業時の広告や管理システムの導入には、補助金を使える場合があります。2026年10月3日時点の案内では、小規模事業者持続化補助金(一般型・通常枠の第20回、創業型の第4回)の受付が2026年11月5日〜12月15日17:00です。デジタル化・AI導入補助金2026は、第6次の締切が2026年10月30日17:00です。創業型は特定創業支援等事業の支援を受けていることが要件です。日程は変わることがあるため、最新の公募要領で確認してください。
補助金は事業を実施して報告した後に支払われる後払いで、採択されても入金までは自己資金や融資で立て替える必要があります。設備など固定資産の取得に充てた補助金は、法人なら圧縮記帳、個人なら総収入金額不算入の対象になる場合があります。
公庫・銀行・信用金庫・制度融資はどう使い分ける?
借入先にはそれぞれ得意な場面があります。創業期は公庫と制度融資、実績ができてからの物件取得やPJは銀行・信用金庫というように、事業の段階に合わせて組み合わせるのが基本の考え方です。
| 借入先 | 向いている場面 | 特徴・注意点 |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫 | 開業時や開業後まもない時期の設備資金・運転資金 | 創業期の制度が充実している。利用できる業種・資金使途は事業内容で判断されるため、事前に窓口で確認する |
| 制度融資(市・道) | 開業資金、運転資金、設備資金 | 自治体が利率の上限を定め、信用保証協会の保証が付く。保証料がかかる(補給制度がある資金もある)。札幌市の資金は設備資金を市内の設備投資に限る |
| 地方銀行・都市銀行 | 物件取得、規模の大きいPJ、継続的な取引 | 決算内容と担保評価を重視する。取引の実績を積むと条件交渉の余地が広がる |
| 信用金庫・信用組合 | 地元の物件取得、小〜中規模のPJ | 地域密着で、地元の物件や事業者に柔軟に対応する場合がある。営業地域内の事業者・物件が中心 |
不動産向け融資への姿勢は、同じ金融機関でも時期や支店で変わることがあります。不動産に詳しい担当者がいるか、築年数や構造で融資期間をどう考えるか、金利と期間の組み合わせを、複数の金融機関で比べましょう。
金利を比べるときは、表面の利率だけでなく、保証料・融資手数料・繰上返済の手数料なども含めた総額で判断します。
借入先の組み合わせと事業計画の組み立ては、物件や事業の形によって変わります。初回無料で一緒に整理できます。
無料で相談する審査の前にそろえる書類と、決算書で見られる数字
不動産業の融資では、事業の資料に加えて物件の資料が求められます。型ごとに必要なものが違うため、申込み前にそろえておくと審査が早く進みます。
- 事業計画書(開業時は創業計画書)と資金繰り表
- 直近の決算書・試算表と申告書(開業前は代表者の確定申告書や源泉徴収票)
- 自己資金を確認できる通帳(貯めてきた経緯がわかるもの)
- 物件の資料:登記事項証明書、公図・測量図、固定資産税の評価証明書、レントロール(賃貸条件の一覧)、修繕の履歴
- PJの場合:事業収支表、建築の見積書・図面、販売計画と周辺の成約事例
- 宅建業の免許証、法人の登記事項証明書、納税証明書
決算書でまず見られるのは、債務超過になっていないかと、税引後利益に減価償却費を足した額で年間の元金返済を賄えているかです。あわせて、販売用不動産が長く売れ残っていないか、代表者との貸し借りや税金の滞納がないかも確認されます。
審査期間は、書類がそろってから数週間で結論が出る場合もあれば、準備を含めて1か月程度かかる場合もあります。PJ融資は決済日から逆算し、余裕をもって打診しましょう。事業計画書の数字は、日々の記帳と月次の試算表が土台になります。記帳から決算までを継続して整える体制は会計・税務顧問のご案内をご覧ください。
借りた後の税務と資金繰りで気をつけること
融資を受けた後は、返済と税金の両方を見ながら資金を回す必要があります。不動産業で特に差が出るのは、利息・元金・保証料・取得時の税金の扱いです。
| 項目 | 税務上の扱い | 注意点 |
|---|---|---|
| 借入金の利息 | 経費(損金・必要経費)になる | 個人の不動産所得が赤字のとき、土地の取得に充てた借入金の利子に当たる部分は、他の所得と損益通算できない |
| 元金の返済 | 経費にならない | 減価償却費より元金返済が多くなると、利益が出ても手元資金が減る(デッドクロス) |
| 信用保証料 | 保証期間に応じて按分して経費にする | 支払った年に全額を経費にはできない(前払費用として処理する) |
| 取得時の税金 | 事業用の固定資産なら、不動産取得税・登録免許税を取得価額に含めず経費にできる | 不動産取得税(北海道)は土地・住宅3%、住宅以外の家屋4%。登録免許税は土地の売買で1.5%(2029年3月31日まで) |
建物の減価償却費は毎年ほぼ一定で、設備部分の償却が終わると減っていきます。一方、元利均等返済では返済額に占める元金の割合が年々増えます。元金返済が減価償却費を上回ると、帳簿上の利益に税金がかかるのに手元資金が残りにくくなるため、融資期間と耐用年数をあわせて計画し、必要に応じて借換えや繰上返済を検討します。
計算例:借換えで総返済額はどれだけ変わる?
例えば借入残高1,000万円・残り5年(60回)の借入れを、金利2.5%から1.5%に借り換えた場合の概算です(元利均等返済)。
- 金利2.5%:毎月の返済 約177,500円、総返済額 約1,065万円、利息合計 約65万円
- 金利1.5%:毎月の返済 約173,100円、総返済額 約1,039万円、利息合計 約39万円
- 差額:毎月 約4,400円、総返済額で約26万円の減少
実際には、借換えの手数料・保証料・印紙代などがかかるため、それらを差し引いた効果で判断します。
よくある質問
開業したばかりで決算書がなくても融資は受けられますか?
開業前や開業直後は、決算書の代わりに創業計画書、自己資金、不動産業での実務経験などで判断されます。公庫の新規開業・スタートアップ支援資金や、自治体の創業向けの制度融資が主な選択肢です。
赤字の決算でも物件取得の融資は受けられますか?
赤字の理由によります。減価償却費が大きいことによる赤字なら、減価償却費を足し戻した返済原資や物件の担保評価、代表者の資産も含めて総合的に判断されます。赤字の原因と改善の見通しを資料で説明できるように準備しましょう。
PJ融資の期日までに物件が売れなかったらどうなりますか?
期日に一括返済できない場合は、期日の延長や借換えを金融機関と協議します。値下げや賃貸への切替えなど出口の見直し案を用意し、期日の前に相談するのが基本です。延滞すると、次の案件の融資にも影響します。
変動金利で借りた場合、金利の上昇にどう備えればよいですか?
変動金利は、金利が上がると利息や返済額が増えます。資金計画の段階で、金利が上がっても返済比率が許容できる範囲に収まるかを試算し、固定金利との組み合わせや繰上返済の余力を検討しておきましょう。
まとめ
不動産業の融資は、開業資金・物件取得・PJ融資のどれに当たるかで、借入先も審査の物差しも変わります。自己資金の厚さ、賃料や売却代金による返済原資、出口の根拠を数字で示せるように準備し、借りた後は元金返済と減価償却費のバランスまで見て資金を回しましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
