中小企業の経理体制の構築は、「誰が・何を・いつまでに・どのルールで」処理するかを決め、実行する人と確認する人を分けることから始まります。会社の段階に合った分担、月次決算の締め、電子帳簿保存法やインボイスへの対応、外部専門家との役割分担まで、手順に沿って整えます。
この記事の結論
経理体制は、業務の分担と承認ルール、月次の締め、証憑の保存方法、外部専門家との役割分担を決めると形になります。人数が少ない会社でも、確認の仕組みは作れます。
- まず経理業務を日次・月次・年次に分けて棚卸しし、担当と期限を決める
- 担当者が1人でも、支払の承認や残高の照合を別の人が行えば内部牽制は作れる
- 月次決算では預金・現金の残高を通帳などと照合し、試算表を締める日を決めて守る
- 電子取引データの電子保存(2024年1月1日以後は義務)と、インボイスの経過措置(2026年10月1日〜2028年9月30日は70%)に対応する
- 決算・申告や税務判断は税理士と分担し、マニュアルで属人化を防ぐ
経理体制とは?最初に決める5つの要素
経理体制とは、会社のお金と取引の記録を「誰が・何を・いつまでに・どのルールで」処理し、誰が確認するかを決めた仕組みのことです。経理部という部署があるかどうかではなく、仕組みとして毎月回っているかが問われます。
経理が回っていない会社では、試算表が数か月遅れる、請求漏れや二重払いに気づかない、決算で大きな修正が出るといった問題が起きがちです。税務処理が不正確なまま申告すると、後から修正申告や加算税の負担が生じることもあります。
| 要素 | 決めること |
|---|---|
| 業務範囲 | 記帳、請求・入金管理、支払、経費精算、給与計算、決算・申告のうち、社内で行う業務と外部に任せる業務 |
| 担当と承認 | 実行する人と確認・承認する人、承認が必要な取引や金額の基準 |
| スケジュール | 日次・月次の締め日、試算表の完成日、年間の申告・納付期限 |
| ツールと保存 | 会計ソフト、銀行・カードの連携、請求書や領収書の保存場所と方法(紙・電子) |
| チェックの仕組み | 残高の照合、月次の数字の確認、マニュアルの整備と定期的な見直し |
会社の段階に合った経理の組織体制は?
経理の組織体制に、どの会社にも当てはまる正解はありません。取引の量、従業員や拠点の数、社長がどこまで数字を見るかで、適した形が変わります。代表的な形を段階別に整理すると次のとおりです。
| 段階 | 体制の例 | 外部の使い方 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 創業期 | 社長が経理を兼務し、会計ソフトの銀行・カード連携で入力を減らす | 税理士の顧問で月次の確認と申告。記帳代行も選択肢 | 社長の時間が取られすぎる。会社と個人の支出が混ざりやすい |
| 成長期 | 経理担当1〜2名が実務を行い、社長が承認する | 税理士が月次決算の確認・決算・申告。給与計算や社会保険手続きの外部委託も検討 | 担当者への業務の集中と属人化。承認と照合の分担 |
| 拡大期 | 経理部門として記帳・支払・給与・決算を分担し、部門の責任者が承認する | 税理士は税務判断・申告・改正対応。必要に応じて内部監査の支援も | 部門別・拠点別の損益管理、予算と実績の比較、内部監査 |
どの段階でも共通するのは、社長が月次の数字を見る習慣と、実行と確認を分けるルールです。人数が少ないうちからこの2つを仕組みにしておくと、会社が大きくなっても体制を一から作り直さずに済みます。
経理体制はどう構築する?7つの手順
- 現状を棚卸しする経理業務を日次・月次・年次に分けて書き出し、誰が、何に、どのくらい時間をかけているかを把握します。
- ゴールを決める月次の試算表を毎月いつまでに完成させるか、経営判断にどの数字を使うかを決めます。
- 分担と承認ルールを決める実行する人と確認する人を分け、支払・現金・預金の承認ルールを文書にします。
- 証憑の流れと保存方法を決める紙と電子の請求書・領収書を、誰が受け取り、どこに保存するかを決めます。電子で受け取ったデータは電子のまま保存します。
- ツールを選ぶ会計ソフトの銀行・カード連携、請求書の発行、経費精算などを、決めた業務の流れに合わせて選びます。
- マニュアルにする手順、判断の基準、期限、例外が起きたときの連絡先を、担当者以外も読める形で残します。
- 運用して見直す試算表の完成日や残高照合の結果を指標にし、少なくとも年1回は体制を見直します。
最初は「締め日を守る」ことを優先する
最初から完璧なマニュアルを目指すより、月次の締め日を決めて毎月守り、試算表で見つかった問題を直していくほうが体制は定着します。手順書は運用しながら書き足していけば十分です。
手順1の棚卸しでは、自社の経理のどこに抜けがあるかを先に把握しておくと、優先順位をつけやすくなります。経理・決算セルフチェックで現状を確認してから進めると効率的です。
不正とミスを防ぐ「内部牽制」はどう作る?
内部牽制とは、一つの取引に複数の人が関わるようにして、誤りや不正が起きにくく、起きても見つかる状態にすることです。経理担当が1人の会社でも、承認と照合を社長や別の人が担えば成り立ちます。誰がどの業務を担当し、どこまで決めてよいかを定めた職務分掌の考え方を、規模に合わせて取り入れます。
| 業務 | 実行する人 | 確認・承認する人 |
|---|---|---|
| 請求書の発行と入金の確認 | 営業担当・経理担当 | 経理の責任者や社長が、売上と入金の一致を確認 |
| 振込データの作成 | 経理担当 | 社長など別の人が、ネットバンキングで承認して実行 |
| 現金の出納 | 経理担当 | 担当者以外が月末に現金を数え、帳簿と照合 |
| 預金の記帳 | 経理担当 | 月末に通帳や残高データと帳簿の残高を照合 |
| 経費の精算 | 申請者 | 上長が承認し、経理が領収書などを確認 |
| 給与の計算 | 経理担当・外部委託先 | 社長が総額と人数、新規・退職者を確認 |
1人にすべてを任せる体制の危うさ
経理担当1人が、通帳と印鑑、ネットバンキングの承認、記帳、残高照合をすべて担っていると、誤りや不正があっても発見が遅れます。長く信頼してきた担当者であっても、仕組みとして確認を入れることが、担当者自身を守ることにもつながります。
- ネットバンキングの振込承認は、振込データを作る人とは別の人が行う
- 通帳・印鑑・法人カードは、保管する人を分ける
- 毎月末に預金残高を通帳や残高データと照合し、1円の差でも原因を確かめる
- 新しい支払先の登録や振込先の変更は、承認者が根拠を確認する
- 年に1回は担当者以外が証憑と帳簿を抜き取りで突き合わせる
月次決算と年間の期限はどう回す?経理カレンダーの作り方
経理体制が機能しているかどうかは、月次決算が毎月同じ時期に締まるかでわかります。月次決算では、取引の入力を締めたうえで、残高を根拠資料と照合し、試算表を作ります。
- 当月分の請求書・領収書・カード明細の入力を締める
- 預金・現金の帳簿残高を、通帳や残高データ、実際の現金と照合する
- 売掛金・買掛金を取引先ごとに確認し、入金の遅れや支払漏れを洗い出す
- 減価償却費や賞与など年単位の費用を、月割りで計上するかどうかを決めておく
- 試算表を前月や前年同月と比べ、大きな増減の理由を確認する
年間の期限は、経理カレンダーにまとめて担当者と社長で共有します。法人の主な期限は次のとおりです。
| 時期 | 主な業務・期限 |
|---|---|
| 毎月10日 | 前月に支払った給与・報酬の源泉所得税の納付(納期の特例を受けている場合は、1〜6月分を7月10日、7〜12月分を翌年1月20日) |
| 毎月の締め日後 | 月次決算(残高照合・試算表の作成)、社長への報告 |
| 12月 | 年末調整(その年最後の給与の支払時に精算) |
| 1月31日 | 法定調書・給与支払報告書の提出と源泉徴収票の交付(令和8年分は2027年2月1日(月))、償却資産の申告(休日の場合は翌開庁日) |
| 決算日の翌日から2か月以内 | 法人税・地方法人税・法人住民税・事業税、消費税の申告と納付(申告期限の延長の特例あり) |
札幌市内の会社は、書面の提出先を確認する
2026年7月10日から、札幌市内などを管轄する5つの税務署の内部事務が札幌業務センターに集約されました。書面の申告書や届出書を郵送する場合は、札幌第2合同庁舎内の同センター宛てに送ります。e-Taxでの提出や窓口への持参は、これまでどおり所轄の税務署です。経理マニュアルの提出先の記載も、あわせて更新しておきます。
法令対応で外せないポイントは?電子帳簿保存法・インボイス・保存期間
経理体制のルールには、税法が求める保存方法や記載事項を組み込んでおく必要があります。担当者の判断に任せず、マニュアルに書いておくべき主なポイントは次のとおりです。
| 制度 | 経理体制で決めておくこと |
|---|---|
| 電子取引データの保存 | 2024年1月1日以後、メールやWebで受け取った請求書・領収書などのデータは電子のまま保存する義務がある。改ざん防止の措置、画面で見られる状態、日付・金額・取引先で検索できる状態を整える(基準期間の売上高が5,000万円以下などで、税務職員のダウンロードの求めに応じる場合は検索の要件が不要) |
| インボイス | 受け取った請求書の登録番号と記載事項を確認する。免税事業者などからの仕入れは、2026年10月1日〜2028年9月30日は仕入税額の70%を控除でき(2026年9月30日までは80%)、帳簿には経過措置の適用を受ける旨を書く |
| 少額特例 | 基準期間の課税売上高が1億円以下などの事業者は、税込1万円未満の仕入れならインボイスがなくても帳簿の記載で控除できる(2029年9月30日まで) |
| 帳簿書類の保存期間 | 法人は7年(欠損金が生じた事業年度は10年)。保存場所と廃棄のルールを決めておく |
| 電子申告 | 資本金1億円超の法人などは、法人税などの電子申告が義務。それ以外の法人も、e-Taxなら郵送や持参の手間を省ける |
消費税の納税義務は、基準期間(法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下なら原則として免除されます。ただし、特定期間(前期の期首から6か月)の課税売上高などが1,000万円を超えると課税事業者になるため、売上が伸びている時期は毎年判定する手順をマニュアルに入れておきます。インボイスの実務はインボイス制度 完全実務ガイドで詳しく整理しています。
無料ツール消費税の課税事業者かどうかを判定する基準期間や特定期間の売上高などから、消費税の納税義務があるかを確認できます。計算する
経理担当者に求めるスキルと、属人化を防ぐ仕組みは?
経理担当者には、会計の知識だけでなく、税務の基礎と、他部門から資料を集めるためのコミュニケーション力が求められます。役割ごとに必要なスキルを分けて考えると、採用や研修の目標を決めやすくなります。
| 役割 | 求められる知識・スキル |
|---|---|
| 経理担当 | 簿記の基礎、会計ソフトの操作、証憑の見方、インボイスと電子取引データ保存の基本 |
| 経理の責任者 | 月次決算の取りまとめ、消費税・源泉所得税など税務の基礎、資金繰り表の作成、他部門との調整 |
| 経営者 | 試算表と資金繰り表の読み方、承認ルールの運用、税理士との協議 |
属人化を防ぐには、業務分担表とマニュアルに加え、会計ソフトや銀行のIDを共有せず、人ごとに権限を設定して管理することが有効です。税務研修や会計セミナーで法令改正の情報を共有し、OJT(実務を通じた教育)で別の人も同じ作業をできるようにしておくと、急な交代にも対応できます。
体制が機能しているかは、感覚ではなく指標で確認します。次のような指標を毎月見ると、問題の早期発見につながります。
| 指標 | 見る理由 |
|---|---|
| 月次試算表の完成日 | 経営判断の早さに直結する |
| 預金・現金の残高差異 | 入力漏れや二重計上を早く見つける |
| 未処理の証憑・仕訳の件数 | 締めが遅れる原因をつかむ |
| 期日を過ぎた売掛金 | 回収漏れと資金繰りの悪化を防ぐ |
| 決算での修正仕訳の件数 | 月次の数字の精度を測る |
外部の専門家に任せる範囲はどう決める?
経理をすべて社内で抱える必要はありません。社内に残すべきなのは、取引の事実を一番よく知る人にしかできない仕事と、承認・判断の仕事です。手間のかかる入力や専門的な判断は、外部に任せたほうが早く正確になる場合があります。
| 業務 | 社内で行う場合 | 外部に任せる場合の相手 |
|---|---|---|
| 日々の記帳・証憑の整理 | 担当者と会計ソフト | 記帳代行 |
| 給与計算・年末調整 | 担当者と給与ソフト | 税理士事務所など(社会保険の手続きは社会保険労務士) |
| 月次決算の確認・税務判断 | 経理の責任者 | 税理士(顧問) |
| 決算・税務申告 | 社内だけで行うのは負担が大きい | 税理士(顧問) |
| 資金繰り・融資の準備 | 経営者・経理の責任者 | 税理士・公認会計士 |
顧問料は、取引の量、記帳を社内と外部のどちらで行うか、従業員数と給与計算の有無、拠点の数、面談の頻度などで変わります。費用の考え方と契約までの流れは料金・契約の流れでご確認いただけます。
当事務所は、決算・申告だけのスポットのご依頼は受けておらず、月次から継続して関わる会計・税務顧問で、経理の仕組みづくりから決算・申告まで支援しています。入力作業そのものを任せたい場合は記帳代行プランもご用意しています。
どこまで社内で行い、どこから任せるかは、取引量と人員で変わります。初回無料で整理できます。
無料で相談するよくある質問
会計ソフトはクラウド型とインストール型のどちらがよいですか?
銀行やカードの明細を自動で取り込みたい、複数の人や税理士と同じデータを見たい場合は、クラウド型が向いています。一方で、ネット環境や権限の設定、データの持ち出しルールも決めておく必要があります。業務の流れを先に決め、それに合うソフトを選ぶのが順番です。
経理担当者が急に辞めることになったら、何から手をつけますか?
最初に、ネットバンキングや会計ソフトのIDと権限を変更し、進行中の支払・請求と月次の締めの状況を確認します。次に、直近の納付・申告期限を洗い出し、顧問税理士がいれば早めに共有します。日ごろからマニュアルと業務分担表を整えておくと、引継ぎの負担が大きく減ります。
経理体制の見直しは、どのくらいの頻度で行えばよいですか?
決算が終わった後に年1回見直すのが目安です。加えて、担当者の交代、拠点や事業の追加、売上規模の変化、インボイスや電子帳簿保存法などの制度変更があったときは、その都度ルールとマニュアルを更新します。
決算と申告だけを税理士に頼むことはできますか?
当事務所では、決算・申告だけのスポットのご依頼はお受けしていません。月次の数字を一緒に確認しながら決算を迎えるほうが、誤りの早期発見や節税の検討がしやすいためです。継続的な顧問契約の中で、決算・申告まで対応しています。
まとめ
経理体制の構築は、業務の棚卸しから始め、分担と承認ルール、月次決算の締め日、証憑の保存方法を決めて、マニュアルで定着させる流れで進めます。人数が少なくても、承認と残高照合を別の人が担えば内部牽制は作れます。電子帳簿保存法やインボイスへの対応も組み込み、決算・申告や税務判断は税理士と分担して、会社の成長に合わせて見直していきましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
経理体制づくりのご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
