事業計画の感度分析は、売上・原価率・固定費などの前提を一定の幅で動かし、利益と資金繰りがどこまで耐えられるかを前もって試算する手法です。目的は「下振れしても資金が持つか」「持たないなら、いつ何をするか」を決めておくことにあります。動かす前提の選び方、計算例、計画への反映方法を順に示します。
この記事の結論
感度分析は、計画のどの前提が崩れると資金が持たなくなるかを見つける作業です。下振れのケースを試算して資金が最も少なくなる月と、その手前で打つ手を決めておくと、計画の実行力と金融機関からの信頼が高まります。
- 売上が下がっても固定費はすぐ減らないため、利益は売上の減少率以上に落ちる
- 前提を1つずつ動かす感度分析と、複数を同時に動かすシナリオ分析を組み合わせる
- 年間の数字だけでなく、月次の資金繰り表で資金の底を確認する
- 下振れ時の打ち手と、実行に移す判断基準を事前に決める
- 月次の実績で前提を更新し、継続的に見直す
感度分析とは?シナリオ分析・損益分岐点分析との違い
感度分析とは、事業計画の前提となる数値(売上、原価率、固定費など)を一定の幅で動かし、利益や資金繰りがどのくらい変わるかを確認する作業です。計画は将来の予測にもとづくため、不確実性を含みます。特に売上は景気や取引先の動向に左右されやすく、原価は仕入価格や為替の影響を受けます。
前提が少し崩れただけで資金繰りが破綻する計画では、実行の段階でつまずくおそれが高くなります。感度分析を行うと、計画のどこが脆弱で、どこに余裕があるのかが見えるようになります。
| 手法 | 何を動かすか | わかること |
|---|---|---|
| 感度分析 | 前提を1つずつ動かす(売上だけを下げる、など) | どの前提の影響が大きいか |
| シナリオ分析 | 複数の前提を同時に動かす(売上減と原価上昇が重なる、など) | 起こりうる組み合わせで、資金がどこまで持つか |
| 損益分岐点分析 | 売上を動かして、利益がゼロになる点を探す | 赤字にならない最低限の売上 |
実務では、まず感度分析で影響の大きい前提を見つけ、次にその前提を組み合わせたシナリオで資金繰りを確かめる順番が効率的です。返済条件の見直し(リスケジュール)や経営改善計画のように金融機関へ計画を出す場面では、下振れした場合の説明を求められることもあります。
どの前提を動かす?変動要因の選び方と動かす幅
すべての数字を動かす必要はありません。金額が大きいもの、ぶれやすいもの、自社だけでは決められないものに絞ると、分析の手間を抑えながら要点をつかめます。
| 変動要因 | 資金繰りへの影響 | 確認しておきたいこと |
|---|---|---|
| 売上の下振れ(客数・単価・受注件数) | 固定費が減らないため、影響が増幅されやすい | どの程度の期間なら資金が持つか |
| 原価・仕入価格の上昇 | 売上が同じでも、利益とキャッシュが圧迫される | 価格転嫁や仕入先の見直しの余地 |
| 固定費の増加(人件費・家賃・光熱費) | 売上の変動と無関係に、資金繰りを悪化させる | 削減できる費用の洗い出し |
| 回収・支払の条件の変化 | 利益が同じでも入金が遅れ、資金が先に不足する | 主要な取引先の支払サイト、仕入先の条件変更 |
| 金利の上昇 | 借入の利息負担が増える | 変動金利の借入の残高と、借換えの予定 |
| 複合シナリオ | 単一要因より深刻な資金不足につながりやすい | 追加の資金調達手段の有無 |
動かす幅は、思いつきではなく根拠をもって決めます。過去の実績で最も悪かった年や月の落ち込み、主要な取引先の発注の変動、仕入価格の推移などを手がかりにすると、金融機関にも説明しやすくなります。
売上は「客数×客単価」「受注件数×平均単価」のように分解しておくと、どの要素が崩れたときに何が起きるかを具体的に試算できます。客数の減少と単価の下落では、打つべき手も変わります。
売上が下がると資金繰りはどう変わる?固定費が効いてくる理由
売上が計画を下回ると、原材料費や外注費などの変動費は連動して減ります。一方、家賃や人件費などの固定費はすぐには減らせません。この結果、売上の減少幅以上に、利益と手元資金への影響が大きくなります。
この影響を数字で見るには、売上高から変動費を引いた「限界利益」を使います。固定費を限界利益の割合(限界利益率)で割ると、利益がゼロになる損益分岐点の売上がわかります。
計算例:売上が10%下がった場合
例えば、計画の売上高1億円、変動費率60%、固定費3,500万円(うち減価償却費300万円)、年間の借入金の返済が600万円の会社の場合です(税金は考えない簡便な計算)。
- 計画:限界利益は1億円×40%=4,000万円、営業利益は4,000万円−3,500万円=500万円
- 売上10%減:売上高9,000万円、限界利益は9,000万円×40%=3,600万円、営業利益は3,600万円−3,500万円=100万円
- 返済後の資金の増減(計画):500万円+300万円−600万円=200万円
- 返済後の資金の増減(売上10%減):100万円+300万円−600万円=▲200万円
- 損益分岐点売上高:3,500万円÷40%=8,750万円
- 赤字にならない売上の余裕:1億円−8,750万円=1,250万円
売上の減少は10%でも営業利益は8割減り、年間の資金は「増える計画」から「減る計画」に変わります。
感度分析では、売上が一定割合下振れした場合に、月々の資金繰りがどこまで耐えられるかを試算します。あわせて、売上の減少がどのくらいの期間続くと資金がショートするのかという「持ちこたえられる期間」の目安も確認しておきます。
売上の入金は回収の条件の分だけ遅れて表れるため、売上が落ちた月より後の月に資金が減り始めます。年間の損益表だけを見ていると、この時間差を見落とします。
原価・固定費が上がったときは?価格転嫁までの時間差を見る
売上だけでなく、原価や固定費の変動も資金繰りに大きく影響します。仕入価格の上昇、燃料費や光熱費の高騰、人件費の増加は、売上が横ばいでも利益を圧迫し、資金繰りを悪化させます。
原価が上がっても、価格に転嫁できるまでには時間がかかります。値上げの交渉、価格表の改定、既存の契約の更新を待つ間は、上がった原価を自社で負担することになります。感度分析では「原価が何%上がるか」に加えて、「転嫁できるまで何か月かかるか」も前提に置くと、現実に近い試算になります。
計算例:原価率が3ポイント上がった場合
先ほどの会社(売上高1億円、固定費3,500万円)で、原価率が60%から63%に上がった場合です。
- 限界利益率:37%(売上のうち、変動費の63%を除いた割合)
- 限界利益:1億円×37%=3,700万円
- 営業利益:3,700万円−3,500万円=200万円
原価率が3ポイント上がるだけで、営業利益は計画の500万円から300万円減ります。売上の下振れと同時に起きると、影響はさらに大きくなります。
北海道の事業で見直したい前提
北海道の最低賃金は、2026年10月1日から1,131円(前年は1,075円)になりました。パート・アルバイトの多い事業では、時給の見直しが固定費の増加に直結します。冬の暖房用の灯油や燃料、除雪の費用など、季節によって増える費用も月ごとに見込んでおきます。
札幌市の融資制度(マル札資金など)は、2026年10月1日以降に実行される分の利率が0.3%上がります。借換えや新たな借入を計画に入れる場合は、金利の前提も見直してください。
計算例:最低賃金の改定による人件費の増加
例えば、時給1,075円のパート5人が、それぞれ月120時間働いている場合に、時給を1,131円に引き上げるときです。
- 月の増加額:56円×120時間×5人=33,600円
- 年間の増加額:33,600円×12か月=403,200円
社会保険の加入者がいれば、会社負担の保険料もこれに連動して増えます。
複合シナリオはどう組む?月次の資金繰り表で「資金の底」を見る
売上の減少と原価の上昇が同時に起こる複合的なシナリオも検討しておくと、より現実的なリスクの把握につながります。単一の要因だけでなく、複数の要因が重なった場合の影響を確かめることが、感度分析を実践的なものにするポイントです。
シナリオは3つ程度に絞ると扱いやすくなります。計画どおりの「基本」、起こりうる下振れの「慎重」、悪い前提が重なる「厳しい」の3つです。
基本シナリオ
- 売上は計画どおり
- 原価率は直近の実績
- 回収・支払の条件は現状のまま
慎重シナリオ
- 売上は過去に落ち込んだ年の水準
- 原価の上昇を、価格転嫁まで自社で負担
- 人件費は改定後の時給で計算
厳しいシナリオ
- 慎重シナリオの前提をすべて含む
- 主要な取引先の入金が1か月遅れる
- 借入金の金利が上がる
シナリオごとに月次の資金繰り表を作り、資金が最も少なくなる月(資金の底)がいつで、いくらになるかを確認します。年間では黒字でも、賞与・納税・返済が重なる月や閑散期に、資金が一時的に足りなくなることがあるためです。表の組み立て方は資金繰り表の作り方と使い方で紹介しています。
計算例:資金が持ちこたえられる期間
例えば、手元資金が1,200万円、厳しいシナリオで毎月100万円ずつ資金が減り、最低限残しておきたい資金を300万円とする場合です。
- 使える資金:1,200万円−300万円=900万円
- 持ちこたえられる期間:900万円÷100万円=9か月
この9か月のうちに、費用の削減や資金調達の手を打つ必要があります。融資の審査には時間がかかるため、残りの期間に余裕があるうちに動き始めます。
表計算ソフトで作る場合は、縦に売上の変化、横に原価率の変化をとった「2つの前提の感度表」を作ると、どの組み合わせで赤字や資金不足になるかが一目でわかります。前提を入力するシートと計算するシートを分けておくと、月次の更新も楽になります。
結果を計画にどう反映する?打ち手と判断基準を決めておく
感度分析を行った後は、その結果を踏まえて計画にバッファ(余裕)を持たせることが重要です。資金に余裕がなくなる時期が見えたら、その手前で動けるように、追加の資金調達手段や費用削減の選択肢を検討しておきます。
- 資金の底と、最低限残す資金を決めるどのシナリオで、いつ、いくらまで資金が減るかを確認し、下回ってはいけない残高を決めます。
- 判断基準を決める「月次の売上が計画を2か月続けて下回ったら」など、打ち手に移る条件を数字で決めておきます。
- 打ち手を順番に並べる費用の削減、支払条件の見直し、在庫の圧縮、価格の改定、追加の借入や返済条件の相談などを、効果が出るまでの時間と合わせて並べます。
- 金融機関への説明資料にまとめる「売上が下振れした場合でもこの範囲までは資金が持つ」「その場合はこう対応する」と説明できると、計画の実現可能性への信頼が高まります。
- 月次の実績で前提を更新する感度分析は一度作って終わりではありません。月次の実績を踏まえて前提を更新し、継続的に見直します。
- 売上が一定割合下振れした場合の資金繰りへの影響を試算した
- 原価や固定費が想定より上昇した場合の影響を試算した
- 複数の変動要因が同時に起きた複合シナリオも検討した
- 資金繰りが厳しくなる時期を把握し、対応策を事前に準備した
追加の借入が必要になりそうな場合は、資金の底が来る前に相談を始めることが大切です。融資の種類や準備の進め方は融資・資金調達ガイドに、計画づくりから資金繰りの改善までの全体像は中小企業の財務コンサルティングの進め方にまとめています。
どの前提をどの幅で動かすかは、業種と取引条件で変わります。月次の資金繰り表づくりから、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談するよくある質問
感度分析で動かす幅は、どのくらいが妥当ですか?
一律の正解はなく、自社の過去の実績の振れ幅を基準にするのが基本です。売上なら過去に最も落ち込んだ年や月、原価なら仕入価格の上昇が続いた時期を参考にします。幅の根拠を一言添えておくと、金融機関にも説明しやすくなります。
黒字の計画なのに、資金が足りなくなるのはなぜですか?
利益と資金の動きにずれがあるためです。借入金の返済は利益の中から行いますが、費用にはなりません。売上が伸びると売掛金や在庫が増え、資金が先に出ていくこともあります。年間の損益だけでなく、月次の資金繰り表で確認します。
金融機関に下振れのケースを見せると、計画が弱く見えませんか?
下振れ時の対応策とセットで示せば、計画の実現可能性を説明する材料になります。根拠のない楽観的な計画より、厳しい前提でも資金が持つことや、持たない場合の手当てを示した計画のほうが、説明として受け止めてもらいやすくなります。
会計ソフトの試算表だけで感度分析はできますか?
試算表は過去の実績なので、そのままでは計画になりません。費用を変動費と固定費に分ける作業(固変分解)を行い、売上の前提と組み合わせて計画を作ります。勘定科目ごとに変動費か固定費かを決めていく方法が手軽です。
まとめ
事業計画の感度分析は、売上や原価などの前提が崩れたときに資金がどこまで持つかを、前もって確かめる手法です。固定費が減らないため売上の下振れは利益に大きく響き、原価の上昇は価格転嫁までの時間差で資金を圧迫します。資金の底と打ち手の判断基準を決め、月次の実績で前提を更新し続けることが、計画を実行できるものにします。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
