会社売却の準備は3年前から|高く売るための磨き上げと進め方

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会社売却の準備は、売る3年前から始めるのが理想です。買い手はデューデリジェンスで直近3期程度の決算書と申告書を確認し、評価は「その数字に実力がどれだけ表れているか」で決まるからです。財務・組織と契約・売り方の順に、何を・どの資料で直すかを示します。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

会社を高く売るには、売却の2〜3期前から決算書に収益力を表し、買い手の調査で指摘される問題を先に片付けておくことが要点です。直前に数字を整えても、決算書の実績として認められるまでに時間がかかります。

  • 節税で利益を圧縮する決算から、収益力が見える決算に切り替える
  • 役員貸付金・仮払金・私的な経費・事業に関係ない資産を整理する
  • 名義株・株券・議事録など、解決に時間がかかる株式と書類の論点から着手する
  • 社長がいなくても回る体制を、数字と仕組みで示せるようにする
  • 株式譲渡か事業譲渡か、退職金をどう払うかで手取りが変わるため、意思決定前に試算する
目次

なぜ3年前から?買い手が見る資料と評価の決まり方

M&Aの買い手は、買収を決める前にデューデリジェンス(財務・税務・法務・事業の詳細な調査。以下DD)を行います。中心になる資料は、直近3期程度の決算書・税務申告書・勘定科目内訳明細書と、月次の試算表です。節税を優先して利益を圧縮してきた会社は、本来の収益力より低く評価されがちです。

収益構造の改善が決算書の数字として定着するには2〜3期かかります。売ると決めた年に慌てて数字を整えても「一時的な改善」と見られやすく、評価に十分反映されません。だからこそ、売却の3年前がスタートラインになります。

評価の考え方中身磨き上げで効くこと
利益×倍率(EBITDAマルチプル)EBITDA(利払い・税金・減価償却費を差し引く前の利益)に一定の倍率を掛けて企業価値の目安を出す実力ベースの利益を高め、毎期の数字のぶれを小さくする
時価純資産+営業権資産・負債を時価に直した純資産に、数年分の利益を営業権(のれん)として上乗せする資産の実在性を示し、回収できない債権や使えない在庫を整理する
企業価値から株式価値へ企業価値から借入金などの有利子負債を差し引き、現預金を足したものが株式の価格になる借入金と現預金の残高、簿外の債務を説明できるようにする
中小企業のM&Aで使われる主な評価の考え方(実際の評価は買い手・案件ごとに異なる)

計算例:利益の改善が評価に効く大きさ

例えばEBITDAが3,000万円の会社が、仮に倍率4倍で評価される場合、企業価値の目安は3,000万円×4倍=1.2億円です。利益を300万円改善できれば、300万円×4倍=1,200万円評価が変わる計算になります。

さらに借入金が5,000万円、現預金が3,000万円ある場合、株式価値の目安は1.2億円-5,000万円+3,000万円=1億円です。倍率や評価方法は業種・規模・買い手で変わるため、数字はあくまで仮の例です。

財務の磨き上げ①:損益計算書を「収益力が見える形」にする

買い手は、決算書の利益をそのまま使わず、一時的な損益や社長個人に関わる支出を調整した「正常収益力」(実力ベースの利益)を見ます。調整の根拠を売り手が説明できないと、買い手は保守的に低く見積もります。何が調整されるかを先に知り、説明できる形に直しておくことが磨き上げの中心です。

調整される項目典型例3年前からやること
役員報酬社長の報酬が業務の内容に比べて高すぎる・低すぎる社長の役割を誰がいくらで引き継ぐかを整理し、報酬の水準を説明できるようにする
私的な支出家族の車両費、私的な飲食、家族への給与事業と関係のない支出を会社の経費に入れない
節税目的の支出保険料、期末の前倒し購入評価とのバランスを見て続けるかを決める。解約返戻金は一時的な利益として扱われる
一時的な損益固定資産の売却益、補助金収入、災害による損失経常的な損益と分けて記録し、内容を説明できる資料を残す
親族・関係会社との取引社長個人からの賃借、関係会社への業務委託契約書を整え、取引の価格を市場の水準に合わせる
正常収益力の算定で調整されやすい項目

利益を出せば法人税などの負担は増えますが、利益の改善は倍率を掛けた形で評価に効きます。売却を意識し始めたら、節税と評価のバランスを決算ごとに見直す時期です。月次の試算表を毎月締め、部門別・取引先別の損益を出せるようにしておくと、買い手の質問に数字で答えられます。月次決算の組み立ては中小企業の経理・会計処理ガイドで確認できます。

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役員報酬の水準をシミュレーションする役員報酬の額を変えたときに、会社の利益と社長個人の手取りがどう動くかを確認できます。計算する

財務の磨き上げ②:貸借対照表の「説明できない残高」をなくす

貸借対照表は、DDで最も細かく見られる部分です。残高の中身を説明できない科目は、株価の減額や、契約での補償の対象になりやすくなります。次の項目は、売却の直前では片付けにくいものから順に着手します。

  • 役員貸付金(会社から社長への貸付け):返済の計画を立てて残高を減らす。売却時の精算方法を早めに決める
  • 役員借入金(社長から会社への貸付け):売却時に返済を受けるのか、株価に織り込むのかを決める。債務免除をすると会社に免除益が出ることがある
  • 仮払金・立替金:使途のあいまいな残高を精算し、内容を説明できる状態にする
  • 事業に関係ない資産:社長が使う車両、保養所、会員権、保険積立金などを整理する。社長個人に移すときは時価で取引する
  • 売掛金・在庫:回収できない債権や売れない在庫を、実態に合わせて処理する
  • 簿外の債務:未払の残業代、取引先への保証、リース契約など、帳簿に載っていない負担を洗い出す

過去の税務申告もDDの対象です。税務署が更正・決定できる期間は原則として法定申告期限から5年(偽りその他不正の行為がある場合は7年)のため、買い手はその期間の源泉所得税・消費税・役員給与の処理などを確認します。誤りが見つかれば、売却前に修正申告で片付けておく方が交渉への影響を小さくできます。財務DDで調べる項目は財務デューデリジェンスの解説で一覧にしています。

組織と契約の磨き上げ:属人性・株式・書類を整える

社長がいないと回らない会社は、買い手にとって大きなリスクです。主要な取引先との関係や現場のノウハウを幹部や仕組みに移し、業務の手順を文書にしておきます。社長が引き継ぎの期間だけ残る条件で売る場合も、引き継ぐ相手と範囲が決まっていると評価と交渉が進めやすくなります。

株式の論点は、売却の直前では解決が難しい代表例です。名義株(実際の出資者と株主名簿の名義人が異なる株式)や所在のわからない株主がいると、買い手は株式を問題なく取得できるかを疑います。旧商法の時代に設立した会社では、定款上、株券を発行する会社のままになっている場合があり、株券を交付しないまま行った過去の譲渡の効力が問題になることもあります。

書類DDで確認されること早めにやること
定款・登記事項証明書・株主名簿株主と持株数、株券発行の定め、役員の任期名義株や株券の扱いを整理し、名簿と実態を合わせる
株主総会・取締役会の議事録役員報酬・退職金・重要な取引の決議があるか過去の決議を確認し、抜けている議事録を整える
取引先との契約書株主が変わると契約を解除できる条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)の有無主要な契約を一覧にし、条項と更新時期を確認する
就業規則・労働条件・社会保険未払の残業代、加入漏れなどの簿外の負担労働時間の管理と給与計算を見直す
許認可・不動産・リース許認可の名義、賃貸借やリースの契約条件売り方によって引継ぎの手続きが要るかを確認する
組織・契約面でDDの前に整えておきたい書類

売り方で手取りはどう変わる?株式譲渡・事業譲渡と退職金

同じ評価額でも、売り方によって税金の種類と手取りが変わります。中小企業の売却で多い株式譲渡では、株主である社長個人が株を売り、譲渡益に所得税・住民税が合計20.315%かかります。事業譲渡では会社が事業を売るため、譲渡益は会社の法人税の対象になり、売却代金を社長が受け取るには配当などの形でもう一度課税を受けます。

項目株式譲渡事業譲渡
売り手株主(社長個人など)会社
主な税金株式の譲渡益に所得税・住民税(合計20.315%)会社の譲渡益に法人税など。資産の内容により消費税も
契約・許認可会社がそのまま残るため、原則として引き継がれる(契約の条項は要確認)契約・従業員・許認可を個別に移す手続きが要る
向いている場面会社ごと引き継いでもらいたいとき一部の事業だけを売りたいとき、会社に残したい資産があるとき
株式譲渡と事業譲渡の主な違い(2026年10月時点の税制。個別の手取りは試算が必要)

売却に合わせて役員退職金を払う方法もあります。退職金は会社の利益と株価を下げる一方、社長個人では退職所得として、勤続年数に応じた退職所得控除(20年以下は40万円×勤続年数、最低80万円。20年超は800万円+70万円×(勤続年数-20年))を差し引き、残りの2分の1に課税されます。勤続5年以下の役員には2分の1の計算がなく、金額が過大だと会社の損金にならない部分が出るため、株式の対価との配分は事前の試算で決めます。

株式譲渡か事業譲渡か、退職金をいくら組み合わせるかで、社長の手取りは大きく変わります。売る前の段階から、秘密厳守で初回無料のご相談を受け付けています。

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3年間で何をする?売却までのロードマップ

磨き上げは、時間のかかる論点から逆算して並べると漏れがなくなります。次の順番は一つの目安で、会社の状況と売却の時期によって前後します。

  1. 3年前:現状の把握と方針の転換決算書と試算表を専門家に見てもらい、評価の目安と改善余地を把握します。名義株・株券・役員貸付金など解決に時間がかかる論点に着手し、決算の方針を収益力が見える形に切り替えます。
  2. 2年前:収益力と組織の見える化月次決算の精度を上げ、部門別・取引先別の損益を出せるようにします。幹部に権限を移し、契約書・規程・議事録を整えます。
  3. 1年前:売り手側の事前調査と相談先の選定買い手のDDと同じ目線で自社を点検し(セルフDD)、指摘されそうな点を直します。仲介会社やFA(売り手側の助言者)を選び、売り方ごとの手取りを試算します。
  4. 売却期:交渉から引渡しまで秘密保持契約、基本合意、買い手のDD、最終契約、代金の決済と株式の引渡しの順に進みます。最終契約では、売り手が事実を保証する表明保証の範囲を確認します。

具体例:3年かけて評価額を積み上げるイメージ

例えば、EBITDAが2,000万円の会社が、役員報酬の見直しや目的のあいまいな保険の解約などで毎年200万円ずつ利益を改善し、3年後にEBITDAが2,600万円になった場合を考えます。改善額は2,600万円-2,000万円=600万円です。

倍率が4倍のまま変わらないとすると、評価額の目安は600万円×4倍=2,400万円上乗せされます。売却の直前に同じだけ改善しても、決算書の実績として認められるまで時間がかかるため、同じ効果は得にくくなります。

誰に・いつ相談する?専門家の役割と秘密保持

相談先主な役割相談する時期
公認会計士・税理士決算の見直し、正常収益力の整理、株価の算定、売り方ごとの税金と手取りの試算売却の意思が固まる前の情報収集の段階から
M&A仲介会社・FA買い手探し、条件交渉、手続きの進行管理磨き上げが進み、売却の時期が見えてきた段階
弁護士契約書のチェック、株式や労務などの法的論点株式の論点が見つかったとき、最終契約の前
事業承継・引継ぎ支援センター国の公的な相談窓口。相手探しや進め方の相談どこに相談すべきか迷ったとき
会社売却の主な相談先と役割

磨き上げの段階で最初に相談したいのは、決算書の中身を一緒に見られる会計の専門家です。仲介会社は売り手と買い手の間に立ち、双方から手数料を受け取る仕組みです。FAは売り手か買い手の一方の立場で助言する点が違います。契約の前に、手数料の決まり方と、誰の立場で動くのかを確認しておきましょう。

専門家に払う費用には、事業承継・M&A補助金の「専門家活用」枠が使える場合があります。2026年10月3日時点の公表では、16次の申請受付は2026年10月2日〜11月6日17時(予定)で、補助上限は450万〜2,000万円です。対象となる費用や要件は、申請時点の公募要領で確認してください。

準備の初期段階は情報の範囲を絞る

売却の検討が従業員や取引先に早く広まると、士気の低下や取引条件の見直しにつながることがあります。相談する専門家と社内で知る人を限定し、資料のやり取りは秘密保持契約を結んだ相手とだけ行います。

親族や社内の後継者に引き継ぐ選択肢と比べたい場合は、贈与税・相続税の猶予を受けられる事業承継税制の要件と期限もあわせて確認しておくと、売却と承継のどちらが合うかを判断しやすくなります。

よくある質問

赤字の会社でも売れますか?

顧客基盤、技術、人材、許認可など、買い手にとって価値のある事業があれば売却の対象になります。株式譲渡なら繰越欠損金は会社に残りますが、買収後に事業の内容を大きく変えると使えなくなる規定もあるため、買い手にとっての価値は個別に検討されます。

売却前に役員報酬を下げて利益を増やすのは有効ですか?

買い手は、社長の業務を引き継ぐ人に払う報酬の水準で利益を調整して見るため、報酬を下げただけでは評価は上がりにくいです。役員報酬を期中に変えられるのは原則として期首から3か月以内の改定に限られるため、見直すなら決算ごとの計画に組み込みます。

従業員にはいつ伝えればよいですか?

一般には、最終契約の締結後から引渡しの前後に、買い手と相談して伝える時期と内容を決めます。DDへの対応で協力が必要な幹部には、秘密保持を約束してもらったうえで、必要な範囲だけ先に伝える方法がとられます。

自社の価値はいつ、どうやって把握すればよいですか?

3年前の段階では、直近の決算書をもとに複数の方法で大まかな幅をつかめば十分です。売却の時期が近づいたら、正常収益力の調整を反映した株価の算定を専門家に依頼し、交渉の前提となる金額の根拠を固めます。

まとめ

会社売却の準備は、決算書に収益力が表れるまでの時間を考えて3年前から始めます。損益計算書の調整項目と貸借対照表の説明できない残高を片付け、株式・書類・属人性の論点を先に解消しておくと、DDで評価を下げられにくくなります。売り方と退職金の組み合わせで手取りが変わるため、意思決定の前に試算しておきましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂

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