第三者承継(M&A)で会社を譲渡するには、準備から成約まで半年から1年以上かかることが多く、譲渡価格に決まった相場はありません。価格は純資産と収益力をもとに個別に決まります。全体の流れ、価格の考え方、株式譲渡と事業譲渡で変わる税金、早めにやっておきたい準備を順に整理します。
この記事の結論
第三者承継は、後継者がいなくても会社と雇用を残せる前向きな選択肢です。成約までに時間がかかるため、廃業を考える前の早い段階から、自社の価値の把握と会社の「見える化」を進めることが良い条件につながります。
- 流れは「準備→企業価値評価→相手探し→基本合意→デューデリジェンス→最終契約・決済→引継ぎ」
- 準備から成約まで半年〜1年以上かかることが多い
- 譲渡価格は時価純資産と収益力(数年分の利益)などから個別に算定され、決まった相場はない
- 個人株主が株式を売ると、譲渡益に20.315%の税金がかかる(事業譲渡は会社に課税)
- 価格だけでなく、従業員の処遇・経営者保証の解除・引継ぎ期間も条件に含めて判断する
第三者承継(M&A)が選ばれる理由は?
「親族にも社内にも後継者がいない。それでも、従業員と取引先のために会社を残したい」。こうした悩みを持つ経営者にとって、現実的な選択肢になるのが第三者承継、すなわちM&Aによる会社の譲渡です。
かつてM&Aには「会社を売る=経営に失敗した」という負のイメージがありましたが、近年はそうした見方は薄れています。会社をより成長させてくれる相手に託す前向きな選択として、中小企業でも一般的なものになりました。後継者がいないまま廃業すれば失われる技術や雇用を、M&Aによって残せる可能性があります。
第三者承継のメリット
- 従業員の雇用と取引先との関係を維持しながら事業を続けられる
- オーナーが株式の譲渡対価を受け取れる
- 買い手への切替えにより、経営者保証を外せる場合がある
- 在庫・設備の処分など、廃業に伴う損失を避けられる
事前に知っておきたい注意点
- 希望する条件に合う相手がすぐ見つかるとは限らない
- 相手探しから最終契約まで相応の時間がかかる
- 情報が漏れると、従業員や取引先が動揺するおそれがある
- 買い手の方針によって、社内の制度や働き方が変わることがある
相手探しには時間がかかるからこそ、廃業を考える前に、早めにM&Aという選択肢を検討する価値があります。早く動くことが、より良い相手とより良い条件につながります。
会社を譲渡する流れと期間は?
M&Aは一般的に、次のような段階を経て進みます。準備から成約までは半年から1年以上かかることが多く、条件の調整に時間がかかればさらに延びます。各段階で専門家のサポートを受けながら慎重に進めることが、成功につながります。
| 段階 | 主な内容 | 売り手が準備すること |
|---|---|---|
| 1. 準備・相談 | 譲渡の意思決定、自社の現状整理、専門家への相談 | 直近数期の決算書、株主名簿、主要な契約書 |
| 2. 企業価値評価 | 株価・事業価値の算定、譲渡条件の方向性の検討 | 資産の時価が分かる資料、事業計画 |
| 3. 相手探し | 社名を伏せた概要書(ノンネームシート)で候補先に打診し、秘密保持契約のうえで詳しい資料を開示 | 会社概要書、開示してよい範囲の決定 |
| 4. 交渉・基本合意 | トップ面談、条件交渉、譲渡価格や枠組みの基本合意 | 譲れない条件(雇用・社名・引継ぎ期間)の整理 |
| 5. デューデリジェンス | 買い手による財務・税務・法務などの調査 | 質問への回答、追加資料の提出 |
| 6. 最終契約・実行 | 最終契約の締結、譲渡代金の決済(クロージング) | 役員の交代や株式の名義変更の手続き |
| 7. 引継ぎ | 取引先・従業員への説明、業務と人脈の引継ぎ | 引継ぎの計画と、オーナーが関わる期間の取り決め |
デューデリジェンス(DD)は、買い手が会社の実態を確かめる調査です。ここで問題が見つかると、価格の引下げや破談につながることもあるため、事前の備えが結果を大きく左右します。各段階の進め方と準備物は会社売却・M&Aの依頼から完了までの流れでも紹介しています。
譲渡の前に整えておきたいことは?
特に重要なのが、早い段階での準備です。買い手から見て魅力的で安心できる会社にしておくことが、交渉を有利に進めます。次の項目を、相手探しを始める前に確認しておきます。
- 決算書から私的な経費を除き、役員への貸付金・役員からの借入金を整理する
- 未払の残業代・退職金・保証債務・リースなど、決算書に載っていない債務(簿外債務)がないか確かめる
- 株主名簿を整え、名義だけの株主(名義株)があれば整理する
- 事業に必要な許認可が、株主や経営者が変わっても維持できるかを確認する
- 主要な取引先・賃貸借の契約に、株主が変わると解除できる条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)がないかを確認する
- 社長個人の名義の土地や建物を会社が使っている場合、譲渡後の扱いを決めておく
- 社長に属人化した業務や取引先との関係を、手順書や引継ぎ表で見える化する
決算書の整備は一度で終わる作業ではなく、相手探しの前の数期分の数字が評価の材料になります。日々の経理と決算の状態は、経理・決算セルフチェックで点検できます。
譲渡価格の相場はどう決まる?
会社の譲渡価格には画一的な相場があるわけではなく、収益力や資産、将来性などを踏まえて個別に算定されます。中小企業のM&Aでは、主に次のような評価の考え方が使われます。
| 評価の考え方 | 内容 | 向いている場面 |
|---|---|---|
| 時価純資産+のれん(年買法) | 資産と負債を時価で評価した純資産に、数年分の利益を「のれん」として加える | 中小企業のM&Aで広く使われる |
| DCF法 | 将来の事業計画から生み出すお金を見積もり、現在の価値に割り引く | 成長が見込め、事業計画に根拠がある会社 |
| 類似会社比較法 | 似た業種の上場会社の株価と利益の倍率を当てはめる | 比べられる上場会社がある業種 |
計算例:時価純資産+のれんで価格の目安を出す
例えば、帳簿上の純資産が4,000万円で、土地の含み益が1,500万円、回収できない売掛金が500万円ある会社を考えます。時価純資産は4,000万円+1,500万円−500万円=5,000万円です。
- 役員報酬などを調整した正常な利益が1,500万円で、のれんを利益の3年分と見ると、1,500万円×3年=4,500万円
- 価格の目安は5,000万円+4,500万円=9,500万円
何年分を加えるかは業種や将来性、交渉で変わり、決まった年数はありません。数字は仮のものです。
重要なのは、自社にとって妥当な価値を客観的に把握したうえで交渉に臨むことです。根拠のないまま価格交渉に入ると、安く手放してしまうおそれがあります。時価純資産の計算の考え方は、税務上の評価とは異なるものの、純資産価額の計算ツールで規模感をつかむこともできます。
無料ツール純資産価額を自動計算する資産・負債の金額を入れると、非上場株式の純資産価額を計算できます。時価純資産を考える出発点になります。計算する
税務上の株価とM&Aの価格は別物
相続や贈与で使う税務上の株価(類似業種比準価額・純資産価額)は、M&Aの譲渡価格とは計算の目的が違い、金額も一致しません。親族や従業員に引き継ぐ場合と第三者に売る場合を比べるときは、両方の金額を並べて検討します。
ツール非上場株式の評価額(原則的評価)を試算する親族内承継と比べるときに使う、税務上の株価の目安を計算できます。計算する
株式譲渡と事業譲渡で手取りと税金はどう変わる?
中小企業の第三者承継では、オーナーが株式を売る「株式譲渡」がよく使われますが、事業の一部だけを売る場合などは会社が事業を売る「事業譲渡」になります。どちらを選ぶかで、税金がかかる人と手取りが変わります。
| 項目 | 株式譲渡 | 事業譲渡 |
|---|---|---|
| 売り手 | 株主(オーナー個人など) | 会社 |
| 売り手の税金 | 個人株主は譲渡所得として分離課税。税率は所得税15%・住民税5%に復興特別所得税を加えた20.315% | 会社の譲渡益に法人税等がかかる。代金は会社に入り、オーナー個人が受け取るには配当や退職金として別に課税される |
| 消費税 | 株式の譲渡は非課税 | 建物・設備・在庫・のれんなどには消費税がかかり、土地は非課税 |
| 契約・許認可 | 会社がそのまま残るため原則として続く(解除条項には注意) | 契約は個別に移す必要があり、許認可は取り直しや承継の手続きが必要になる場合がある |
| 従業員 | 雇用契約はそのまま続く | 移る従業員の個別の同意が必要 |
| 買い手の負担 | 簿外債務も含めて会社ごと引き継ぐ | 引き継ぐ資産・負債を選べる。不動産を移すと不動産取得税や登録免許税がかかる |
株式の譲渡所得は、譲渡価格から取得費と譲渡費用(仲介手数料など)を差し引いて計算します。譲渡前に役員退職金を支給して株価を下げ、退職所得として受け取る部分を作ると、手取りが増える場合があります。ただし、役員退職金のうち不相当に高額な部分は会社の損金になりません。
計算例:役員退職金の課税対象額
例えば、勤続30年の社長が退職金5,000万円を受け取る場合を考えます。退職所得控除は、勤続20年までが800万円、20年を超える10年分が70万円×10年=700万円で、800万円+700万円=1,500万円です。
- 5,000万円−1,500万円=3,500万円
- 3,500万円÷2=1,750万円が課税の対象になる退職所得(他の所得と分けて課税)
役員としての勤続が5年以下の場合などは、2分の1にする計算が使えない場合があります。数字は仮のものです。
株式の譲渡代金で受け取るか、退職金と組み合わせるかの最適な配分は、金額・勤続年数・会社の利益の状況で変わります。最終契約の前に税金と手取り額を試算しておくことが大切です。
価格以外に交渉すべき条件は?
価格だけでなく、譲渡後の従業員の処遇や、オーナー自身の引継ぎ期間といった条件も、納得のいく承継には欠かせない要素です。基本合意の前に、譲れない条件を書き出しておきます。
- 従業員の雇用と、給与・退職金などの処遇をどこまで維持するか
- 会社の借入にかかる経営者保証を、決済の時点で解除または買い手に切り替えられるか
- オーナーが役員や顧問として残る期間と、その間の報酬
- 表明保証(売り手が会社の状態を保証する条項)の範囲と、違反があったときの補償の上限・期間
- 社名・屋号・取引先との関係を維持するか
- 従業員・取引先・金融機関に、いつ誰が説明するか
譲渡後も前の経営者の個人保証が残ると、退任した後に会社の借入の返済を求められるおそれがあります。金融機関との調整を含め、保証の扱いは最終契約の条件として明確にしておきます。これらを総合的に判断するには、企業価値評価や交渉に通じた専門家の関与が有効です。
提示された譲渡価格や条件が妥当か、株式譲渡と退職金の配分で手取りがどう変わるかは、会社ごとに試算が必要です。初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する費用と相談先はどう考える?
M&Aの費用は、仲介会社やFA(依頼者一方の側に立つアドバイザー)に支払う着手金・中間金・成功報酬が中心です。成功報酬は取引額に応じて料率が下がるレーマン方式で計算されることが多く、最低報酬が決められていることもあります。費用の内訳と見積もりの見方は会社売却・M&Aの費用の内訳で整理しています。
専門家の費用に使える補助金
国の「事業承継・M&A補助金」の専門家活用枠では、仲介・FAやデューデリジェンスの費用などが補助の対象になります。2026年10月時点では16次公募(2026年10月2日〜11月6日17時、予定)が行われ、補助上限は類型や条件に応じて450万〜2,000万円でした。日程と要件は公募要領で確認してください。
札幌・北海道の会社が相談先を選ぶとき
国が各都道府県に設けている「事業承継・引継ぎ支援センター」では、中立の立場で第三者承継の相談ができます。買い手候補を道内の同業者や取引先に絞るのか、道外の企業まで広げるのかで、相談先や進め方が変わるため、最初の相談の段階で希望を伝えておきます。
当事務所では、第三者承継について、企業価値の評価、譲渡に向けた決算書の整備、株式譲渡・事業譲渡の税務面の検討といったご相談に対応しています。親族への承継と比べる場合は、事業承継税制の要件と期限もあわせて確認すると、選択肢を比較しやすくなります。
よくある質問
赤字や債務超過の会社でも譲渡できますか?
技術・人材・顧客基盤・許認可などに価値を見いだす買い手がいれば、譲渡できる可能性があります。価格は低くなりやすく、経営者保証の解除や従業員の雇用の維持が主な目的になることもあります。まず赤字の原因と、買い手から見た強みを整理することから始めます。
従業員にはいつ伝えればよいですか?
早すぎる段階で伝えると、動揺や情報の漏えいにつながるおそれがあるため、基本合意から最終契約の前後に伝える進め方が一般的です。ただし、引継ぎに欠かせない幹部には、買い手との面談の前に話しておく必要がある場合もあります。
譲渡した後も、社長として会社に残る必要がありますか?
取引先や従業員との関係を引き継ぐため、一定期間は役員や顧問として残ることを求められる場合があります。期間・役割・報酬は最終契約で決めておくと、譲渡後の行き違いを防げます。
株式を売った後の確定申告はどうなりますか?
個人株主は、譲渡した年の翌年に株式の譲渡所得を確定申告します。令和8年分の申告期間は2027年2月16日から3月15日までです。株式の取得費が分からない場合は、譲渡価格の5%を取得費とする方法もありますが、実際の取得費が分かる資料があれば、そのほうが税金が少なくなることがあります。
まとめ
第三者承継(M&A)は、後継者がいなくても会社と雇用を守れる前向きな選択肢で、準備から成約まで半年〜1年以上かかることが多いため計画的に進めます。決算書の整備や業務の見える化など事前の備えが交渉を左右し、譲渡価格は収益力や資産、将来性をもとに個別に算定されます。株式譲渡か事業譲渡か、退職金を組み合わせるかで手取りも変わるため、価格・税金・従業員の処遇を合わせて総合的に判断しましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
第三者承継・会社の譲渡のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
