GeminiをGoogle Workspaceの中で使うと、士業事務所ではメールの要約と返信の下書き、顧問先への通知文、会議メモの整理といった文章まわりの手間を減らせます。ただし守秘義務があるため、入力してよい情報の線引きと設定の確認、根拠の裏取りを人が担うルールを先に決めることが前提です。
この記事の結論
GeminiとGoogle Workspaceの組み合わせは、士業事務所の「書く・まとめる」作業の下書き役に向いています。専門判断と最終確認は有資格者が担い、守秘義務に沿った入力ルールを決めてから使い始めます。
- 向いている作業:問い合わせメールの要約と返信案、通知文や資料依頼文の下書き、会議メモからのToDoの抜き出し
- 任せない作業:税額の判定や要件の当てはめなど、根拠と責任が伴う判断
- 顧問先の実名と結びついた情報やマイナンバー・口座番号は入力しない
- 業務向けプランの契約内容とデータの扱いの設定を、導入前に確認する
- 制度の説明は国税庁などの一次情報で裏取りしてから使う
GeminiとGoogle Workspaceで、士業事務所の何が楽になる?
Google Workspaceに組み込まれたGeminiは、別のアプリを立ち上げずに、GmailやGoogleドキュメント、スプレッドシートの画面の中で作業を手伝います。すでにWorkspaceで顧客対応や資料作成を回している事務所なら、新しいツールを入れ直す負担が小さく、文書を別の場所にコピーして貼り付ける手間も省けます。
税理士・社会保険労務士・行政書士の事務所で効果が出やすいのは、文章を「書く」「要約する」「整理する」作業です。一方で、結論を出す作業は人の担当として残します。業務ごとに役割を分けると、次のようになります。
| 業務 | Geminiに任せる部分 | 人が担う部分 |
|---|---|---|
| Gmailでの問い合わせ対応 | 長いメールの要点の要約、返信文のたたき台 | 回答内容の判断、送信前の確認 |
| 顧問先への通知文 | 年末調整や確定申告の資料依頼文、制度改正のお知らせの下書き | 制度の内容と期限の確認、顧問先ごとの調整 |
| スプレッドシートの管理表 | 資料の回収状況の整理・分類、表の項目の提案 | 数値の正しさの確認 |
| 面談・会議のメモ | 決定事項とToDoの抜き出し、議事録の体裁を整える | 記録として残す内容の確定 |
| 事務所内の文書 | 業務マニュアルやチェックリストの下書き | 内容の承認と更新 |
税理士事務所での具体的な使い方:3つの場面と手順
場面1:顧問先からの質問メールに答える
- 固有名詞を伏せて要点を整理させる会社名や氏名を伏せたうえで、質問を箇条書きにし、回答に必要な追加情報を挙げてもらいます。
- 結論と根拠は有資格者が決める法令や国税庁の情報を確認し、回答の結論と根拠を人が決めます。
- 文章に整えてもらう決めた結論と根拠を渡し、顧問先向けの丁寧な返信文に整えてもらいます。
- 送信前に数字と年分を突き合わせる金額・期限・「令和何年分」の表記を一次情報と照らし合わせてから送ります。
場面2:繁忙期の資料依頼文やお知らせをひな形にする
年末調整や確定申告の時期は、同じような依頼文と質問への回答が集中します。依頼文の基本形をGeminiで作り、「不動産収入がある方向け」「医療費控除を受ける方向け」のように対象別の版を用意しておくと、ピーク時の対応速度を落とさずに済みます。毎年変わる改正点の部分だけは、人が一次情報を見て差し替えます。
場面3:巡回・面談のメモから決定事項とToDoを抜き出す
顧問先との面談メモから「決定事項」「ToDo」「期限」「担当者」を表の形で抜き出してもらい、スプレッドシートの管理表に貼り付けます。抜き出した内容は、面談に出た担当者が正しいかを確認してから記録として残します。
指示文(プロンプト)の例
- 次の文章は顧問先からの問い合わせです(固有名詞は伏せています)。質問を箇条書きで整理し、回答に必要な追加情報を挙げてください。
- 以下の結論と根拠をもとに、顧問先向けの返信文を丁寧語で短くまとめてください。結論と根拠の内容は変えないでください。
- この面談メモから、決定事項・ToDo・期限・担当者を表の形で抜き出してください。メモにない内容は補わないでください。
入力してよい情報・いけない情報の線引き
税理士には税理士法第38条で秘密を守る義務が課されており、社会保険労務士法や行政書士法にも同様の規定があります。AIに文章を入力することは、外部のサービスに情報を渡すことでもあります。顧問先の個人情報や事業上の秘密を安易に入力しないこと、必要に応じて匿名化することが基本です。
入力しない(匿名化する)情報
- 顧問先の会社名・氏名と結びついた財務の数字
- マイナンバー(個人番号)
- 口座番号・カード番号
- 病歴など、特に配慮が必要な個人情報
- 税務調査の対応内容や係争中の案件
入力してよい情報の例
- 個人や会社を特定できないよう加工した質問文
- 公表されている制度の説明文
- 事務所内のひな形・定型文
- 固有名詞を伏せた会議メモの構成
業務向けプランでも、何を入力してよいかは事務所が決める
Google Workspaceの業務向けプランでは、データの取り扱いに配慮した設計がされています。それでも、契約の内容や管理者の設定によって扱いが変わることがあり、顧問先に対する責任は事務所が負います。自社の契約内容と設定を確認したうえで、入力のルールを文書にしておきましょう。
守秘義務と実務の両立については、士業がClaude・Geminiを使うときの守秘義務と実務でも具体的に整理しています。
導入前に確認する設定と、事務所のルールづくり
使い始めてからルールを作ると、各自の使い方がばらばらになります。導入前に、管理者と所長が次の点を確認して決めておきます。
- 契約しているGoogle Workspaceのプランで、Geminiが使えるか、入力したデータがどう扱われるかを契約内容で確認する
- 入力した内容が学習に使われない設定になっているかを確認する
- 共有している文書のアクセス権を整理する(利用者が閲覧できる文書を参照して答えることがあるため)
- AIに渡してよい情報と禁止する情報の線引きを、文書にして全員に共有する
- 使う業務を、下書き・整理・調べ物などに限定する
- 顧問先に出す文書は、最終確認を有資格者が行う運用にする
- 成果の測り方(作業時間の短縮など)を決めておく
どの業務にAIを使い、どこで人が確認するかは、事務所の体制と扱う情報で変わります。初回無料で一緒に整理できます。
無料で相談するGeminiの回答は正確?税務の根拠は一次情報で裏取りする
Geminiの回答には、誤りや古い情報が混じることがあります。税制は毎年のように改正されるため、改正前の金額や時期のまま答えることも珍しくありません。法令や制度の解釈、申請の要件は回答をそのまま使わず、有資格者が根拠に当たって確認します。
| 論点 | 古い・誤った答えの例 | 2026年10月時点の正しい情報 |
|---|---|---|
| 給与のみの人の所得税がかからない上限(年収の壁) | 103万円 | 令和8・9年分は178万円(令和7年分は160万円) |
| 扶養親族の所得要件 | 58万円(給与のみなら123万円) | 令和8年分は62万円(給与のみなら136万円) |
| 2026年中の毎月の源泉徴収 | 改正後の金額がすぐに反映される | 2026年中は旧税額表のままで、12月の年末調整で精算 |
| 免税事業者からの仕入れの経過措置 | 2026年10月から50% | 2026年10月1日〜2028年9月30日は70%(50%は2028年10月1日から) |
| 青色申告特別控除の75万円 | 2026年分から | 令和9年分から |
- 年分・年度が書かれているか見る「令和何年分」「いつ以後の取得」など、時点の記載がない回答は使いません。
- 一次情報で確かめる国税庁のタックスアンサーや法令、自治体の公式ページで同じ内容を確認します。
- 改正の施行日と適用時期を確かめる改正の年は「いつから」「どの年分から」が論点になりやすいため、施行日と適用関係を確認します。
- 最終判断は有資格者が行う顧問先に伝える結論は、確認した担当者の責任で確定します。
北海道の士業事務所で効く使い方:遠方の顧問先と季節の繁忙
広い道内と、季節で動く仕事量に合わせる
北海道は地理的に広く、顧問先が札幌市内だけでなく道内各地に点在することも珍しくありません。移動に時間がかかる分、オンラインでのやり取りや文書での説明が増えがちです。メールや通知文の下書きをGeminiで素早く整えられれば、遠方の顧問先とのやり取りの密度を保ちやすくなります。
季節で繁忙が大きく動く事業者を顧問先に持つと、確定申告期や年度末に問い合わせが集中します。よくある質問への回答文や、地域・季節の事情を踏まえた定型文をあらかじめ整えておくと、ピーク時も対応の質を落とさずに済みます。
導入の進め方:小さく始めて効果を測る
- 対象業務を一つに絞る例えば「問い合わせメールの要約」のように、効果が見えやすく、判断を伴わない業務から始めます。
- 入力ルールと確認者を決める匿名化の方法と、顧問先に出す前に誰が確認するかを決めます。
- 少人数で試す担当者を限って一定期間試し、困った点や危うかった点を記録します。
- 作業時間を比べる導入前と後で、同じ業務にかかった時間を比べて効果を確かめます。
- 対象を広げ、ルールを更新する効果が確認できた業務から広げ、入力ルールも実態に合わせて見直します。
Gemini以外のAIも含めて経理業務への組み込み方を知りたい場合は、Claude Cowork 経理活用ガイドや中小企業のAI活用・最新技術の記事も参考になります。当事務所では、導入の進め方や安全な運用ルールづくりについてもご相談をお受けしています。
よくある質問
個人向けの無料のGeminiを業務に使ってもよいですか?
個人向けのサービスと業務向けプランでは、入力したデータの扱いが異なることがあります。顧問先の情報を扱う業務に使うなら、業務向けの契約内容と設定を確認したうえで、入力ルールに沿って使うことをおすすめします。
Geminiに申告書や届出書を作らせてもよいですか?
様式の説明を整理したり、添付する説明文の下書きを作ったりする使い方はできます。ただし税額の計算や要件の当てはめは、有資格者が根拠を確認して行い、AIの出力をそのまま提出書類に使わないようにします。
ほかのAIとはどう使い分ければよいですか?
日々の業務がGoogle Workspace中心なら、メールや文書と同じ画面で使えるGeminiが手間なく使えます。複数のAIを併用する場合も、入力してよい情報と確認の流れは共通のルールにしておくと、運用がぶれません。
顧問先にAIを使っていることを伝えるべきですか?
どの業務で使い、顧問先の情報をどう扱っているかを説明できるようにしておくと、信頼につながります。個人情報の取扱いについての事務所の方針と、AIの使い方が食い違っていないかも確認しておきましょう。
社会保険労務士や行政書士の事務所でも同じように使えますか?
同じ考え方で使えます。どちらも法律で秘密を守る義務があり、労務や許認可の書類は個人情報を多く含むため、匿名化と確認の手順は税理士事務所以上に丁寧に決めておくと安心です。
まとめ
GeminiとGoogle Workspaceは、士業事務所のメール・通知文・会議メモといった文章まわりの手間を減らすのに向いています。守秘義務を踏まえて入力してよい情報を決め、業務向けプランの設定を確認し、税務の内容は一次情報で裏取りする運用にすれば、限られた人手を判断や顧問先対応に振り向けられます。
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
