相続の生前対策で税金を抑える基本は、暦年贈与・相続時精算課税・目的別の非課税特例を、早めに組み合わせることです。生前贈与の相続財産への加算は、2026年中の相続開始なら3年ですが、その後は段階的に7年へ延びます。改正後のルールと期限を踏まえて計画を立てましょう。
この記事の結論
生前対策は「早く始めて、長く続ける」が基本です。加算期間が7年へ延びていくため、暦年贈与は早めに始め、まとまった財産の移転は相続時精算課税、目的に合う非課税特例は期限内に使います。
- 暦年贈与は受け取る人1人につき年110万円まで非課税。相続前の贈与の加算は、2026年中の相続開始なら3年、2031年以後は7年(延長分は総額100万円まで加算しない)
- 相続時精算課税は特別控除2,500万円+年110万円の基礎控除。基礎控除の部分は相続時に加算されないが、一度選ぶと暦年課税に戻れない
- 孫や子の配偶者など、相続・遺贈で財産を取得しない人への贈与は、原則として加算の対象外
- 住宅取得等資金の非課税は2026年12月31日までの贈与が対象。教育資金の一括贈与は2026年3月31日で終了した
- 贈与契約書と振込記録で「実際に贈与した」証拠を残す
生前対策で税金はどう変わる?まず相続税がかかるかを確かめる
生前対策の出発点は、そもそも相続税がかかるかどうかの確認です。相続税の基礎控除は「3,000万円+600万円×法定相続人の数」で、遺産の総額がこれ以下なら相続税はかかりません。対策が必要かどうかも、どの方法を選ぶかも、この見積りで変わります。
計算例:法定相続人が3人の場合の基礎控除
例えば、配偶者と子2人が相続人の場合です。
600万円×3人+3,000万円=4,800万円
遺産の総額が4,800万円を超える見込みなら、生前対策を検討する意味があります。
ツール相続税の基礎控除を自動計算する法定相続人の数を入れると、相続税がかからない遺産額の目安がわかります。計算する
生前対策で使う主な方法は、次の表のとおりです。それぞれ減らせる税金の種類や、効果が出るまでの時間が違うため、目的と時間軸に合わせて組み合わせます。
| 方法 | 主な効果 | 注意点 |
|---|---|---|
| 暦年贈与 | 年110万円まで非課税で、毎年少しずつ財産を移せる | 相続前の一定期間の贈与は相続財産に加算される |
| 相続時精算課税 | 累計2,500万円まで贈与税なしで、まとまった財産を早く移せる | 相続時に贈与時の価額で精算する。暦年課税に戻れない |
| 目的別の非課税特例 | 住宅資金・配偶者への自宅の贈与などを非課税で移せる | 要件と期限が細かい。申告が必要なものがある |
| 生命保険 | 死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税 | 相続人が受け取る場合に限る |
| 小規模宅地等の特例 | 自宅や事業用の土地の評価を最大80%減らせる | 相続・遺贈で取得した土地が対象で、生前に贈与すると使えない |
- 財産の一覧(不動産・預貯金・有価証券・保険)を作る
- 借入金・未払金などの債務を確認する
- 法定相続人が誰か、何人かを確認する
- 遺言の有無と内容を確認する
- 自社株がある場合は、評価額と承継の方針を整理する
暦年贈与はいくらまで非課税?年110万円の基礎控除と注意点
贈与税は、1人の受贈者が1月から12月に受けた贈与の合計から、基礎控除110万円を引いて計算します。年110万円以内の贈与であれば贈与税はかからず、申告も不要です。110万円を超えた場合は、受贈者が翌年2月1日から3月15日までに申告・納税します(2026年中の贈与は2027年2月1日(月)〜3月15日(月))。
110万円を超える部分には、10〜55%の累進税率がかかります。父母や祖父母から、贈与を受けた年の1月1日に18歳以上の子や孫への贈与には、一般より低い特例税率が使えます。具体的な税額は暦年課税の贈与税額を計算するツールで確かめられます。
計算例:子2人・孫2人に毎年100万円ずつ5年間贈与する場合
例えば、1人あたり年100万円ずつ、子2人と孫2人の計4人に5年間贈与する場合です。
100万円×4人×5年=2,000万円
贈与税をかけずに2,000万円を移せる計算です。ただし、相続で財産を取得する子への贈与は、相続開始の時期によっては相続財産に加算されます。加算の対象期間は次の章で確認してください。
「定期金」と「名義預金」と見られないようにする
最初から「毎年100万円を10年間渡す」と約束していると、約束した総額を一度に贈与したもの(定期金の贈与)と見られるおそれがあります。毎年、その年の贈与として契約書を作るのが基本です。
また、子や孫の名義の口座でも、通帳や印鑑を親が管理し、本人が贈与を知らない状態では、贈与が成立していない「名義預金」として相続財産に含まれることがあります。
生前贈与の加算はいつから7年?相続開始の時期ごとの対象期間
相続や遺贈で財産を取得した人が、亡くなった人から一定期間内に受けた暦年贈与は、相続税の計算で相続財産に加算されます。令和5年度税制改正で、この期間が3年から7年へ延びることになりました。2024年1月1日以後の贈与から順次適用されるため、すぐに7年になるわけではありません。
| 相続開始の時期 | 加算の対象になる贈与 |
|---|---|
| 2026年12月31日まで | 相続開始前3年以内の贈与(従来どおり) |
| 2027年1月1日〜2030年12月31日 | 2024年1月1日から亡くなった日までの贈与 |
| 2031年1月1日以後 | 相続開始前7年以内の贈与 |
| 延長された4年分の扱い | 相続開始前3年以内より前の贈与は、総額100万円までは加算しない(2027年1月2日以後の相続開始) |
注意したいのは、基礎控除110万円以下で贈与税がかからなかった贈与も、加算の対象になることです。加算した贈与に贈与税を納めていた場合は、その分を相続税から差し引けます。
計算例:2031年以後に相続が始まり、子に毎年110万円を贈与していた場合
例えば、亡くなる前の7年間、毎年110万円ずつ子に贈与し、その子が相続で財産を取得した場合です。
- 相続開始前3年以内の分:110万円×3年=330万円(全額を加算)
- 4〜7年前の分:110万円×4年−100万円=340万円
- 加算される合計:330万円+340万円=670万円
贈与した770万円のうち670万円が相続財産に戻ります。加算の期間が長くなるほど、早く始めて長く続けることの意味が大きくなります。
加算の対象は「相続や遺贈で財産を取得した人」への贈与です。相続人でない孫や子の配偶者への贈与は、原則として加算されません。ただし、孫が生命保険金の受取人になっている場合や、遺言で財産を受け取る場合は、財産を取得した人に当たるため加算の対象になります。
相続時精算課税はどう使う?2,500万円+年110万円の仕組み
まとまった財産を早めに移したい場合は、累計2,500万円まで贈与税なしで贈与できる相続時精算課税も選択肢です。贈与者は贈与した年の1月1日に60歳以上の父母・祖父母、受贈者はその年の1月1日に18歳以上の子・孫が対象です。2,500万円を超えた部分には一律20%の贈与税がかかり、相続時に精算します。
2024年1月1日以後の贈与からは、相続時精算課税にも年110万円の基礎控除ができました。この部分は贈与税の申告が不要で、相続時の加算もありません。一方、基礎控除を超えた部分は、贈与した時の価額で相続財産に加算されます。
計算例:相続時精算課税で子に贈与する場合
例えば、親が子に2,000万円を一度に贈与する場合です。
- 基礎控除後の金額:2,000万円−110万円=1,890万円
- 贈与税:特別控除の範囲内のため0円。残りの特別控除は2,500万円−1,890万円=610万円
- 相続時に加算される額:1,890万円(贈与した時の価額)
同じ人に3,000万円を贈与した場合は、3,000万円−110万円−2,500万円=390万円に20%がかかり、390万円×20%=78万円の贈与税を納めます。この贈与税は、相続時に相続税から差し引かれます。
| 項目 | 暦年課税 | 相続時精算課税 |
|---|---|---|
| 贈与する人・受ける人 | 制限なし | 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫(いずれもその年の1月1日時点) |
| 非課税の枠 | 受贈者ごとに年110万円 | 年110万円の基礎控除+累計2,500万円の特別控除 |
| 相続時の加算 | 相続開始前の一定期間(最長7年)の贈与 | 基礎控除を超えた部分を期間の制限なく加算 |
| 加算する価額 | 贈与した時の価額 | 贈与した時の価額 |
| 向いている財産・場面 | 長い期間をかけて少しずつ移す | 値上がりが見込まれる財産や、収益を生む財産を早く移す |
| 主な注意点 | 加算期間の延長で、直前の駆け込みは効きにくい | 選択届出書が必要で、一度選ぶとその贈与者からは暦年課税に戻れない |
相続時精算課税を選ぶときは、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までに選択届出書を出します(基礎控除を超える贈与があれば、贈与税の申告書もあわせて提出します)。選択は贈与者ごとで、父からの贈与は精算課税、母からの贈与は暦年課税、という使い分けもできます。制度の長所と短所は相続時精算課税制度のメリット・デメリットで詳しく解説しています。
無料ツール暦年贈与と相続時精算課税を比較計算する贈与する金額と年数を入れると、2つの方法で税負担がどう変わるかを比べられます。計算する
暦年贈与と相続時精算課税のどちらが有利かは、財産の種類・年齢・相続人の構成で変わります。ご家族の状況に合わせた贈与の計画を、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する目的別の非課税特例は?期限と要件を確認
暦年贈与や相続時精算課税とは別に、目的を限った非課税の特例があります。いずれも要件や期限が細かく定められており、終了した制度や期限が近い制度もあるため、利用前の確認が欠かせません。
| 特例 | 非課税の上限 | 期限・主な要件(2026年10月時点) |
|---|---|---|
| 住宅取得等資金の贈与 | 省エネ等住宅1,000万円、それ以外の住宅500万円 | 2024年1月1日〜2026年12月31日の贈与。受贈者の合計所得金額2,000万円以下、床面積40〜240㎡など。2027年以後の延長は決まっていない |
| 居住用不動産の配偶者控除(おしどり贈与) | 基礎控除110万円とは別に最高2,000万円 | 一定の婚姻期間などの要件を満たす配偶者への、居住用の不動産やその取得資金の贈与 |
| 教育資金の一括贈与 | ― | 2026年3月31日で終了(延長なし)。それまでに拠出した分は引き続き特例の対象 |
| 結婚・子育て資金の一括贈与 | 1,000万円 | 2027年3月31日までの拠出が対象 |
住宅取得等資金の非課税やおしどり贈与は、贈与税がかからない場合でも、贈与税の申告をしないと適用を受けられません。住宅取得等資金の非課税を使う予定がある場合は、2026年12月31日までに贈与を済ませる必要があります。
このほか、相続人が受け取る死亡保険金は「500万円×法定相続人の数」まで非課税で、納税資金や遺産分割の調整にも使えます。制度の改正の全体像は令和8年度税制改正のポイントでまとめています。
自宅・不動産・自社株がある場合の生前対策は?
自宅の土地は、相続で配偶者や同居の親族などが取得すると、小規模宅地等の特例で評価を大きく下げられます。特定居住用の宅地は330㎡まで80%、事業用の宅地は400㎡まで80%、貸付用の宅地は200㎡まで50%の減額です。この特例は相続・遺贈で取得した土地だけが対象で、生前に贈与した土地には使えません。
計算例:自宅の土地に小規模宅地等の特例を使う場合
例えば、評価額5,000万円の自宅の土地(330㎡以内)を、同居していた子が相続する場合です。
- 減額される金額:5,000万円×80%=4,000万円
- 相続税の計算に入る金額:5,000万円−4,000万円=1,000万円
同じ土地を生前に贈与すると、この減額は受けられません。自宅は贈与せずに相続で引き継ぐ方が有利なことが多いのはこのためです。
特例の要件は、取得する人や土地の使い方で細かく分かれます。自宅の評価額で効果を確かめたい場合は、小規模宅地等の特例の減額を計算するツールが使えます。
自社株は、業績が伸びるほど評価額が上がるため、値上がりが見込まれるなら早めに移す方法が考えられます。相続時精算課税なら贈与した時の価額で精算されるため、その後の値上がり分は相続財産に含まれません。後継者に自社株を集める場合は、事業承継税制(特例措置)の期限もあわせて確認します。特例承継計画の提出は2027年9月30日まで、贈与・相続は2027年12月31日までです。
不動産の購入による相続税対策は見直しの方向
令和8年度税制改正大綱では、相続の直前に取得した貸付用の不動産などの評価を見直す方針が示されています。2026年10月時点で財産評価基本通達の改正内容は確認できていないため、不動産の購入を相続対策として検討する場合は、改正の動きを確かめてから判断してください。
贈与を認めてもらうための手続きと記録の残し方
生前贈与は、税務調査で「本当に贈与があったか」を確認されることがあります。贈与は、あげる人ともらう人の合意で成り立つ契約です。次の手順で、実際に贈与したことを示せる形にしておきます。
- 贈与契約書を作る毎年、日付・金額・贈与する人と受ける人の署名を入れた契約書を作ります。受贈者が未成年の場合は、親権者が代わりに署名します。
- 振込で渡す現金の手渡しは記録が残りにくいため、贈与する人の口座から受贈者本人の口座へ振り込みます。
- 受贈者が自分で管理する受け取った口座の通帳・印鑑・カードは受贈者本人が管理し、自由に使える状態にします。
- 必要なら申告する暦年課税で年110万円を超えた場合や、相続時精算課税を選ぶ場合、非課税の特例を使う場合は、翌年2月1日から3月15日までに受贈者が申告します。
- 記録をまとめて保管する契約書・振込の記録・申告書の控えを年ごとに保管し、相続のときに加算の対象を確かめられるようにします。
札幌市内に住む人の贈与税の申告先
贈与税は、贈与を受けた人の住所地を管轄する税務署に申告します。札幌市内は5つの税務署に分かれ、中央区は西10丁目以東がおおむね札幌中税務署、大通西11丁目以西や円山・宮の森などが札幌西税務署の管轄です。2026年7月10日からは、書面の申告書は札幌業務センターへ郵送し、e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署で受け付けています。
よくある質問
年110万円以下の贈与なら、申告は一切いりませんか?
暦年課税で受け取った贈与の合計が年110万円以下なら、贈与税の申告は不要です。相続時精算課税を選んだ人からの贈与も、年110万円以下なら申告は要りません。ただし、住宅取得等資金の非課税など特例を使う場合は、税額が0円でも申告が必要です。
孫への贈与は相続税対策として有効ですか?
孫が相続や遺贈で財産を取得しなければ、孫への贈与は相続財産への加算の対象になりません。ただし、遺言で財産を受け取った孫は、相続税が2割加算されます。また、相続人でない孫が受け取る死亡保険金には非課税の枠が使えないため、保険の受取人の決め方にも注意が必要です。
相続時精算課税を選んだ後に、やめることはできますか?
できません。一度選ぶと、その贈与者からの贈与は以後すべて相続時精算課税になり、暦年課税には戻れません。選ぶかどうかは、将来の贈与の予定や財産の値動きまで見通したうえで判断します。
親が認知症になったら、生前贈与はできませんか?
贈与は当事者の合意で成り立つ契約のため、判断能力が十分でなくなると、有効な贈与が難しくなります。財産の一覧づくりや贈与の計画は、元気なうちに家族で話し合って始めることが大切です。
まとめ
相続の生前対策は、まず相続税がかかるかを確かめ、暦年贈与・相続時精算課税・目的別の非課税特例を時間軸に合わせて組み合わせます。生前贈与の加算は2026年中の相続開始なら3年ですが、その後は段階的に7年へ延びるため、早く始めて長く続けることが基本です。住宅取得等資金の非課税の期限や、小規模宅地等の特例との関係も確かめ、贈与契約書と振込記録で証拠を残しましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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- 初回相談は無料(オンライン対応可)
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
- 国税庁 タックスアンサー No.4161 贈与財産の加算と税額控除(暦年課税)
- 国税庁 タックスアンサー No.4103 相続時精算課税の選択
- 国税庁 タックスアンサー No.4508 直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税
- 国税庁 タックスアンサー No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
