相続時精算課税制度とは|メリット・デメリットと暦年贈与との選び方

  • URLをコピーしました!

相続時精算課税制度は、累計2,500万円までの贈与に贈与税をかけず、相続のときに贈与財産を相続財産に加えて精算する制度です。2024年1月1日以後の贈与には年110万円の基礎控除があり、この部分は相続時の加算も不要です。メリット・デメリットと暦年贈与との選び方を整理します。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

相続時精算課税制度は、値上がりが見込まれる財産や収益を生む財産を早めに移したい場合や、年110万円の基礎控除を相続時の加算なしで使いたい場合に向いています。一度選ぶと同じ贈与者からの贈与は暦年課税に戻れず、贈与した土地には小規模宅地等の特例も使えないため、財産の種類と規模で比べてから選びます。

  • 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与で、贈与者ごとに選べる
  • 特別控除は累計2,500万円、超えた部分は一律20%。納めた贈与税は相続税から差し引き、引ききれない分は還付される
  • 年110万円の基礎控除の範囲は申告不要で、相続時の加算もない(最初の年に選択届出書の提出は必要)
  • 暦年贈与の加算期間は、2026年12月31日までの相続開始なら3年。2027年1月1日以後の相続開始から段階的に延び、2031年1月1日以後は7年
  • 選択届出書は、最初の贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日に提出する
目次

相続時精算課税制度とは?対象者と仕組み

国税庁のタックスアンサー(No.4103)によると、相続時精算課税は、原則として60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与について選択できる制度です。贈与の時点では特別控除や基礎控除で贈与税を抑え、相続が起きたときに贈与財産を相続財産に加えて相続税を計算し直します。

項目内容
贈与する人贈与の年の1月1日時点で60歳以上の父母・祖父母
贈与を受ける人贈与の年の1月1日時点で18歳以上の子・孫
基礎控除年110万円(2024年1月1日以後の贈与。暦年課税の基礎控除とは別枠)
特別控除累計2,500万円(前年までに使った分を差し引いた残り)
税率特別控除を超えた部分に一律20%
相続のとき基礎控除の分を除いた贈与財産を、贈与時の価額で相続財産に加算。納めた贈与税は相続税から差し引き、引ききれない分は還付
選択の手続き最初の贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日に「相続時精算課税選択届出書」を提出
撤回できない(その贈与者からの贈与は、以後すべて精算課税)
相続時精算課税の主な要件と仕組み(2026年10月時点)

精算課税は、贈与を受ける人が贈与者ごとに選びます。父からの贈与は精算課税、母からの贈与は暦年課税のように分けることもできます。父と母の両方から精算課税で贈与を受ける場合、年110万円の基礎控除は、その年の贈与額に応じて2人に割り振ります。

2024年からの年110万円の基礎控除で何が変わった?

2024年1月1日以後の贈与からは、2,500万円の特別控除とは別に、毎年110万円の基礎控除が使えます。この範囲の贈与は贈与税の申告が不要で、相続のときの加算の対象にもなりません。相続開始前の一定期間の贈与が持ち戻される暦年贈与と比べて、使い勝手が大きく改善しました。

計算例:2024年以後の精算課税の使い方(親から子1人)

  • 例えば、母から毎年110万円ずつ4年間の贈与を受けた場合:110万円×4年=440万円について、贈与税も相続時の加算もない
  • 例えば、父から年600万円を5年間贈与した場合:毎年の基礎控除後は600万円−110万円=490万円で、5年分は490万円×5年=2,450万円となり、特別控除2,500万円の範囲内なので贈与税は0円
  • この場合、父の相続のときに加算されるのは2,450万円で、基礎控除の分(110万円×5年=550万円)は加算されない

※仮の数字による概算です。精算課税を選ぶ最初の年は、基礎控除以下の贈与でも選択届出書の提出が必要です。

2つの110万円は別枠

精算課税の基礎控除(年110万円)と暦年課税の基礎控除(年110万円)は別のものです。例えば、父からは精算課税、祖母からは暦年課税で贈与を受ける場合、同じ年にそれぞれの110万円の範囲で贈与税がかからないように受け取れます。

暦年課税との違いは?加算期間の延長に注意

項目暦年課税相続時精算課税
贈与税がかからない枠年110万円(受け取る人ごと)年110万円+累計2,500万円
税率10〜55%の累進税率特別控除を超えた部分に一律20%
相続時に加算される贈与相続開始前の一定期間の贈与(下の表)基礎控除の分を除くすべての贈与(期間の制限なし)
加算する価額贈与時の価額贈与時の価額
贈与した土地の小規模宅地等の特例使えない使えない
やめられるか毎年自由に判断できる撤回できない
暦年課税と相続時精算課税の比較(2026年10月時点)

暦年課税(通常の贈与)にも年110万円の基礎控除がありますが、相続や遺贈で財産を取得した人が受けた相続開始前の贈与は、相続財産に加算されます。加算期間は改正で延びますが、2026年12月31日までの相続開始では、まだ3年です。

相続開始の時期暦年課税で相続財産に加算される贈与
2026年12月31日まで相続開始前3年以内の贈与
2027年1月1日〜2030年12月31日2024年1月1日以後の贈与(加算期間が段階的に延びる)
2031年1月1日以後相続開始前7年以内の贈与
延びた期間(3年より前)の贈与は、合計100万円まで加算しません(2027年1月2日以後の相続開始)。

計算例:毎年110万円の贈与を続けた場合の加算額

例えば、2031年1月1日以後に相続が開始し、相続開始前7年以内に毎年1回、110万円の贈与を受けていた場合です。

  • 暦年課税:相続開始前3年以内の分は110万円×3年=330万円を全額加算
  • 暦年課税:それより前の4年分は110万円×4年=440万円から100万円を差し引き、440万円−100万円=340万円を加算
  • 暦年課税の加算額の合計:330万円+340万円=670万円
  • 相続時精算課税(基礎控除の範囲の贈与だけ):加算額は0円

※仮の数字による概算です。高齢になってからの贈与ほど、この差が大きくなりやすくなります。

つまり、亡くなる直前の駆け込み贈与は、暦年課税では効果が薄れる可能性があります。早めに計画するほど暦年贈与の効果は大きくなりやすく、高齢になってからの対策では精算課税の年110万円の基礎控除が有利になるケースがある、というのが大まかな目安です。

相続時精算課税のメリットは?

  • 値上がりが見込まれる財産(自社株・不動産など)を、贈与した時点の価額で固定できる。相続時に加算されるのは贈与時の価額です。
  • 賃貸物件など収益を生む財産を早めに移せば、その後の賃料収入は受け取った人のものになり、親の財産が増え続けるのを抑えられる。
  • 年110万円までは申告が不要で、相続時の加算もない。
  • 累計2,500万円までは贈与税の負担なしに、住宅資金や事業資金など必要な時期にまとまった額を渡せる。
  • 特別控除を超えて納めた贈与税は相続税から差し引け、相続税より多ければ還付される。

自社株を後継者に移す場合は、事業承継税制(特例措置)と組み合わせる方法もあります。特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、贈与・相続の期限は2027年12月31日で、要件が細かいため早めの検討が必要です。

デメリットと注意点は?

  • 一度選ぶと撤回できず、同じ贈与者からの贈与は暦年課税に戻れない。
  • 贈与した土地には小規模宅地等の特例が使えない。自宅の敷地を330㎡まで80%減額できる特例は、相続で取得した場合に使える制度です。
  • 値下がりした財産も、贈与時の高い価額で相続財産に加算される。
  • 基礎控除を除く贈与は相続時に加算されるため、相続税を減らす効果は、基礎控除の分と値上がりの分、移した財産から生まれる収益の分が中心になる。
  • 不動産を贈与すると、不動産取得税がかかり(相続による取得にはかからない)、登録免許税も相続の登記より高い税率になる。
  • 精算課税で贈与を受けた財産は、相続税の物納に充てられない。

届出の出し忘れに注意

選択届出書を期限までに出さないと、その年の贈与は暦年課税として扱われ、精算課税の特別控除や基礎控除は使えません。基礎控除以下の贈与だけで申告が不要な年でも、精算課税を選ぶ最初の年は届出書の提出が必要です。

小規模宅地等の特例の要件は「小規模宅地等の特例の解説」で整理しています。自宅の土地を子が引き継ぐ予定なら、精算課税で贈与するより、相続で引き継いで特例を使うほうが有利になることがあります。

暦年贈与とどう使い分ける?判断の目安

状況向いている方法理由
相続財産が基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)に収まる見込み相続時精算課税加算されても相続税がかかりにくく、2,500万円まで贈与税なしで早く渡せる
相続税がかかる規模で、長い期間をかけて贈与できる暦年課税加算期間より前の贈与は相続財産に加算されない
高齢で、相続までの期間が短い可能性がある相続時精算課税(年110万円の基礎控除)暦年の贈与は加算期間内なら持ち戻されるが、精算課税の基礎控除の分は加算されない
値上がりが見込まれる自社株・不動産、賃料を生む物件相続時精算課税贈与時の価額で固定でき、その後の収益も受け取った人に移る
自宅の土地を同居の子などが引き継ぐ予定贈与せず相続で引き継ぐ小規模宅地等の特例を使える可能性がある
相続時精算課税と暦年課税の使い分けの目安

相続税がかかるかどうか、どのくらいかかるかで答えが変わるため、まず相続税の見込みを試算し、そのうえで贈与の方法を比べるのが近道です。相続対策の全体の進め方は相続対策の基本(生前贈与・生命保険・小規模宅地の特例)もあわせてご覧ください。

無料
ツール
暦年贈与と相続時精算課税を比較する贈与の金額と年数を入れると、2つの方式で贈与税と相続時の加算がどう変わるかの目安を比べられます。計算する
無料
ツール
相続税の詳細シミュレーション財産の内訳と家族構成から、相続税がかかるかどうかと税額の目安を試算できます。計算する

精算課税と暦年課税のどちらが有利かは、財産の構成・規模と家族の状況で変わります。一度選ぶと戻れないため、選ぶ前の試算を初回無料でご相談いただけます。

無料で相談する

手続きと期限は?届出から相続までの流れ

  1. 贈与契約を結ぶ贈与契約書を作り、振込など記録が残る方法で財産を渡します。
  2. 選択届出書を出す最初の贈与を受けた年の翌年2月1日〜3月15日に、受け取った人が住所地の税務署へ「相続時精算課税選択届出書」を提出します。2026年分の贈与なら、2027年2月1日〜3月15日です。
  3. 110万円を超えた年は申告する同じ期間に贈与税の申告をし、特別控除の残りを使います。特別控除を超えた部分には20%の贈与税がかかります。
  4. 贈与の記録を残す贈与を受けるたびに、日付・財産・価額と、特別控除の残りを記録しておきます。
  5. 相続税の申告で精算する相続が起きたら、基礎控除の分を除いた精算課税の贈与財産を相続財産に加え、納めた贈与税を差し引いて相続税を計算します。

札幌・北海道で贈与する場合

  • 選択届出書と贈与税の申告書は、贈与を受けた人の住所地を管轄する税務署に提出します。札幌市内は区によって管轄の税務署が分かれ、2026年7月10日から郵送で提出する書面は札幌業務センター宛てです(e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署)。
  • 道内の不動産を贈与すると北海道の不動産取得税がかかります。税率は土地・住宅が3%、住宅以外の家屋が4%で、宅地は2027年3月31日までの取得なら課税標準が2分の1になります。2026年4月1日以後の取得の免税点は、土地16万円、贈与や売買など新築以外による家屋34万円です。

よくある質問

年110万円以下の贈与だけなら、手続きは何もいりませんか?

精算課税を選ぶ最初の年は、贈与額が110万円以下でも選択届出書の提出が必要です。2年目以後は、その年の贈与が110万円以下なら贈与税の申告は不要です。ただし、相続のときの計算のために、贈与の記録は残しておきましょう。

住宅取得等資金の非課税と組み合わせられますか?

組み合わせられます。父母・祖父母から住宅の取得資金の贈与を受ける場合、まず住宅取得等資金の非課税(省エネ等の住宅は1,000万円、その他は500万円まで。2026年12月31日までの贈与が対象)を使い、超える部分に精算課税か暦年課税を適用できます。

孫への贈与にも使えますか?

贈与の年の1月1日時点で18歳以上の孫なら使えます。孫が相続人でなくても、精算課税で受けた贈与財産は祖父母の相続のときに相続税の対象になり、孫の相続税は2割加算の対象になる点に注意が必要です。

精算課税で贈与を受けた人は、相続のときに相続税の申告が必要ですか?

精算課税の贈与財産(基礎控除の分を除く)を加えた課税価格の合計が基礎控除を超える場合は、申告が必要です。超えない場合でも、精算課税で納めた贈与税の還付を受けるには申告が必要になります。

まとめ

相続時精算課税制度は、累計2,500万円の特別控除と2024年からの年110万円の基礎控除で、生前にまとまった財産を移しやすくする制度です。値上がりする財産や収益を生む財産の移転、高齢になってからの贈与では有利になりやすい一方、撤回できないこと、贈与した土地に小規模宅地等の特例が使えないこと、不動産の贈与に伴う税負担などのデメリットもあります。暦年贈与の加算期間が2027年以後の相続開始から延びることも踏まえ、相続税の見込みを試算したうえで選びましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

生前贈与・相続時精算課税のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ

  • 初回相談は無料(オンライン対応可)
  • フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
  • その場でご契約を迫ることはありません

対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り

出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂(生前贈与加算の経過措置などを反映)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次