訪問看護ステーションの開業では、介護保険・医療保険の指定申請と、法人設立届や給与支払事務所等の開設届などの税務の届出を同時に進めます。どちらの指定も原則として法人でなければ受けられないため、法人の設立から逆算して準備し、収入の消費税区分と入金の時期も開業前に整理しておきます。
この記事の結論
訪問看護ステーションは法人を設立したうえで、介護保険・医療保険の指定申請と、税務・社会保険の届出を並行して進めます。保険収入は消費税が非課税で、報酬の入金はサービス提供の翌々月になるのが一般的なため、届出の期限とあわせて運転資金も準備します。
- 介護保険・医療保険の指定は、病院・診療所が行う場合を除き法人が対象。個人の開業届で始めることはできない
- 法人設立届出書は設立の日以後2か月以内、給与支払事務所等の開設届出書は開設の日から1か月以内に提出する
- 青色申告の承認申請は、設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで
- 介護保険・医療保険の訪問看護と利用者負担分は非課税。保険外の自費サービスは課税なので分けて記帳する
- 法人は役員1人でも社会保険の強制適用事業所。従業員を雇えば労働保険の手続も必要
訪問看護ステーションの指定申請はどこに、いつ出す?
訪問看護ステーションは、介護保険の指定訪問看護事業者と、医療保険(健康保険法など)の指定訪問看護事業者の両方として運営するのが一般的です。介護保険の指定を受けると、別段の申出をしない限り、医療保険の指定も受けたものとみなされる仕組み(みなし指定)があります。
介護保険の指定は都道府県知事が行うのが原則ですが、政令指定都市と中核市では市長が行います。北海道では、札幌市・旭川市・函館市に事業所を置く場合は各市が、それ以外の地域は北海道(各総合振興局・振興局)が申請の窓口です。医療保険の加算の届出などは、厚生労働省の地方厚生局(北海道は北海道厚生局)に行います。
個人事業のままでは指定を受けられない
介護保険・医療保険の訪問看護の指定は、病院・診療所が行う場合を除き、法人であることが要件です。個人で開業届を出しても訪問看護ステーションとしての指定は受けられないため、株式会社・合同会社・一般社団法人・NPO法人などを先に設立し、定款の事業目的に訪問看護事業を入れておきます。
| 基準 | 主な内容 |
|---|---|
| 人員基準 | 看護職員(保健師・看護師・准看護師)を常勤換算で一定数以上配置する。管理者は原則として常勤の保健師または看護師(医療保険の基準では助産師も可)。必要に応じて理学療法士などを置く |
| 設備基準 | 事業の運営に必要な広さの事務室と、感染症の予防に必要な設備・備品をそろえる |
| 運営基準 | 運営規程の作成、主治医の訪問看護指示書に基づくサービスの提供、記録の整備などを行う |
申請から指定まで数か月かかることもあり、申請の締切や事前相談の要否は窓口ごとに異なります。開業の目標日から逆算し、次の順番で準備を進めます。
- 事業計画と資金計画を立てる人員と利用者数の見込みから収支を試算し、報酬の入金が始まるまでの運転資金を見積もります。
- 法人を設立する定款の事業目的に訪問看護事業を記載して設立登記をし、税務署・自治体への届出を始めます。
- 事務所と人員を確保する事務所の賃貸借契約を結び、管理者と看護職員を採用して人員基準を満たします。
- 指定申請をする介護保険の指定を市または北海道に申請し、医療保険の加算などは地方厚生局に届け出ます。
- 指定を受けて開業する国民健康保険団体連合会(国保連)と社会保険診療報酬支払基金への請求の準備を整え、利用者と契約します。
開業時の税務届出一覧:いつまでに何を出す?
指定申請と並行して、税務・行政への届出も必要です。法人で開業することを前提に、主な届出を一覧で整理します。
| 届出の種類 | 提出先 | 提出期限の目安 |
|---|---|---|
| 法人設立届出書 | 所轄の税務署 | 設立の日以後2か月以内 |
| 法人設立・設置の届出(地方税) | 北海道(道税の窓口)と、事業所のある市町村 | 設立後すみやかに(期限は各自治体の案内で確認) |
| 青色申告の承認申請書 | 所轄の税務署 | 設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 所轄の税務署 | 開設の日から1か月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書(任意) | 所轄の税務署 | 給与の支払を受ける人が常時10人未満なら提出できる。提出した月の翌月末日までに通知がなければ、翌々月の納付分から適用 |
| 労働保険の保険関係成立届・雇用保険の適用事業所設置届 | 労働基準監督署・ハローワーク | 従業員を雇用した後すみやかに(成立・設置の日の翌日から10日以内) |
| 健康保険・厚生年金保険の新規適用届 | 年金事務所 | 設立後すみやかに(事実が発生した日から5日以内) |
| 個人事業の開業届・所得税の青色申告承認申請書 | 所轄の税務署 | 法人で開設するため、通常は提出しない |
給与から天引きした源泉所得税は、原則として支払った月の翌月10日までに納めます。納期の特例の承認を受けると、1〜6月分を7月10日まで、7〜12月分を翌年1月20日までにまとめて納めればよくなり、少人数で始めるステーションの事務負担が軽くなります。
代表者自身の役員報酬は、設立の日(最初の事業年度の開始の日)から3か月以内に金額を決め、毎月同額で支給するのが基本です。途中で自由に増減すると、法人税の計算で損金に算入できない部分が生じることがあります。
法人は役員1人でも社会保険に加入する
法人の事業所は、役員1人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。人件費を見積もるときは、給与・役員報酬に加えて会社負担の保険料を見込んでおきます。
| 保険料 | 料率 | 負担 |
|---|---|---|
| 健康保険(協会けんぽ北海道支部) | 10.28%(令和8年3月分から) | 労使折半 |
| 介護保険(介護保険の第2号被保険者) | 1.62%(令和8年3月分から) | 労使折半 |
| 子ども・子育て支援金 | 0.23%(令和8年4月分から) | 労使折半(賞与も対象) |
| 厚生年金保険 | 18.3% | 労使折半 |
| 雇用保険(一般の事業) | 13.5/1000(2026年4月1日〜2027年3月31日) | 労働者5/1000・事業主8.5/1000 |
| 労災保険 | 事業の種類ごとの料率 | 全額事業主負担 |
訪問看護の収入に消費税はかかる?非課税と課税の分け方
訪問看護の収入は、介護保険の給付分、医療保険の給付分(訪問看護療養費)、利用者負担分(自己負担分)からなり、いずれも原則として消費税は非課税です。介護保険法に基づく居宅サービスと、健康保険法などに基づく訪問看護は、消費税法で非課税とされています。
一方、保険適用外の自費サービスや、証明書などの文書作成料は課税売上となる場合があります。非課税と課税を同じ科目で記帳すると、課税売上高の判定や申告の際に誤りが起きやすくなります。
| 収入の種類 | 消費税 | 記帳のポイント |
|---|---|---|
| 介護保険の訪問看護(介護給付・予防給付) | 非課税 | 国保連からの入金と利用者負担分を分けて管理する |
| 医療保険の訪問看護療養費 | 非課税 | 国保連・支払基金への請求分を、請求月とサービス提供月がわかる形で管理する |
| 利用者負担分(自己負担分) | 非課税 | 口座振替などの入金を、利用者ごとに消し込む |
| 保険外の自費サービス(病院への付き添い、保険の対象外の長時間の見守りなど) | 課税(10%) | 料金表と契約書を用意し、専用の科目で記帳する |
| 証明書などの文書作成料 | 課税(10%) | 件数が少なくても課税売上として集計する |
消費税の納税義務は、基準期間の課税売上高が1,000万円以下なら原則として免除されます。非課税の保険収入はこの課税売上高に含めないため、自費サービスが少なければ免税事業者のままのことがあります。新設法人には基準期間がありませんが、資本金の額や特定期間(前期首から6か月)の課税売上高などによっては、設立当初から課税事業者になります。
課税事業者になった場合は、非課税売上が中心のため課税売上割合が低くなりやすく、仕入税額控除の計算方式(個別対応方式か一括比例配分方式か)の選択が納税額を左右します。簡易課税を選ぶ場合、保険外の自費サービスは原則としてサービス業の第5種(みなし仕入率50%)です。
無料ツール課税事業者かどうかを判定する基準期間・特定期間の課税売上高から、消費税の納税義務があるかを確認できます。判定する
インボイスは、利用者や保険者から求められることは通常ないため、登録を急ぐ必要は低いと考えられます。保険外のサービスを施設や企業などの事業者に提供する場合は、取引先の意向を確認してから判断します。制度の全体像はインボイス制度の実務ガイドで確認できます。
自費サービスの料金設計や消費税の判定は、サービスの内容と資本金の額で変わります。開業前の段階から、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する介護事業所と何が違う?訪問看護固有の論点
訪問介護などの介護事業所と訪問看護ステーションでは、開業時の手続にいくつか違いがあります。医療保険の指定も関係すること、管理者に看護職の資格が求められることなど、医療系の事業者としての要件が加わります。
| 項目 | 訪問介護事業所 | 訪問看護ステーション |
|---|---|---|
| 保険の指定 | 介護保険 | 介護保険と医療保険(みなし指定を含む) |
| 管理者 | 常勤の管理者(サービス提供責任者は別に配置) | 原則として常勤の保健師または看護師 |
| サービスの前提 | ケアプラン | 主治医の訪問看護指示書(介護保険ではケアプランも) |
| 報酬の請求先 | 国保連 | 国保連(介護保険・国民健康保険など)と支払基金(被用者保険) |
| 消費税 | 介護保険サービスは非課税 | 介護保険・医療保険とも非課税 |
訪問看護は主治医からの訪問看護指示書がなければサービスを提供できないため、開業前から地域の医療機関との関係づくりが経営の課題になります。税務面では、介護事業所と同様に、非課税収入を中心とした会計処理と消費税申告の設計が重要です。介護事業所の届出は訪問介護事業所の開業時の税務手続きと届出一覧、連携先となる医療機関の届出はクリニックの開業時の税務手続きと届出一覧で整理しています。
開業前の支出と最初の1年の資金繰り・記帳はどうする?
法人の設立登記にかかった費用は創立費、設立後に開業準備のために特別に支出した費用は開業費として、繰延資産に計上できます。どちらも任意の時期に償却して損金にできるため、利益が出始めた期に合わせて償却額を調整できます。設立前に代表者が個人で立て替えた費用は、領収書をそろえて法人が精算します。
パソコン・タブレット・訪問用の備品は、取得価額によって処理が分かれます。10万円未満は消耗品費などとして全額を損金にでき、20万円未満は一括償却資産として3年で均等に償却する方法も選べます。青色申告の中小法人は、2026年4月1日以後に取得した40万円未満の資産を、年300万円まで全額損金にできる特例があります(2029年3月31日までの取得)。
介護報酬と訪問看護療養費は、サービスを提供した月の翌月に請求し、入金は翌々月になるのが一般的です。決算月に提供したサービスの報酬は、入金前でも売上(未収入金)として計上します。請求の差戻し(返戻)や減額(査定)があった場合は、再請求の状況とあわせて売上を修正します。
計算例:入金が始まるまでの運転資金
例えば、人件費・家賃などの固定費が毎月1,200,000円かかり、報酬がサービス提供の翌々月に入金される場合です。開業月と翌月の固定費は入金前に支払うことになるため、少なくとも1,200,000円×2か月=2,400,000円を運転資金として用意しておく必要があります。
開業直後は利用者が少なく、入金額が固定費に届かない月が続くこともあるため、実際にはその不足分も上乗せして資金計画を立てます。
開業前にそろえておくことを、チェックリストにまとめました。
- 事業計画と収支の見通し(利用者数・訪問件数・人件費)
- 開業資金と自己資金の額、入金が始まるまでの運転資金
- 法人設立届出書・青色申告の承認申請書・給与支払事務所等の開設届出書の準備
- 会計ソフトと記帳の体制(保険収入・利用者負担分・自費サービスを分ける科目)
- 法人名義の口座、事務所の賃貸借契約、指定申請の窓口と締切の確認
札幌・北海道で開業する場合に確認すること
法人の税務の届出は、本店所在地を管轄する税務署に提出します。市内は5つの税務署に分かれており、例えば北区・東区は札幌北税務署、豊平区・南区・清田区は札幌南税務署の管轄です。中央区は地域によって管轄が分かれるため、国税庁の管轄区域表で確認します。
書面の提出先と、設立時に使える支援
- 書面で郵送する届出書は、2026年7月10日から札幌業務センター(市内5署の内部事務を集約)が送付先です。e-Taxで提出する場合や窓口に持参する場合は所轄の税務署あてです
- 市の特定創業支援等事業の証明を受けて札幌市内で会社を設立すると、登録免許税が半分になります(株式会社は最低15万円が7.5万円、合同会社は6万円が3万円)
- 事務職員やパートを雇う場合、北海道の最低賃金は2026年10月1日から時間額1,131円です
- 冬は路面の状況で移動に時間がかかり、訪問の予定を組みにくくなることがあります。冬用タイヤや駐車場の除雪費などは、事業に必要な支出であれば経費として扱うのが一般的です
よくある質問
株式会社と合同会社のどちらで設立すればよいですか?
指定の要件のうえでは、どちらの法人でも訪問看護ステーションを開設できます。設立時の登録免許税は最低額で株式会社15万円・合同会社6万円と差があり、対外的な信用や役員の任期、利益の配分の自由度なども違います。将来の事業規模や採用の計画とあわせて選びます。
開業前に支払った研修費や広告費は経費になりますか?
設立後、開業までの間に開業準備のために特別に支出した費用は、開業費として繰延資産に計上し、任意の時期に損金にできます。設立前に代表者が立て替えた費用は、法人の設立のための費用であれば創立費として法人が引き継げます。設立前に支払った事業の準備費用の扱いは内容によって判断が分かれるため、領収書と支出の目的を記録しておきます。
看護師1人で法人を設立した場合も、社会保険に加入しますか?
役員報酬を支払う場合は、代表者1人だけの法人でも健康保険・厚生年金保険に加入します。法人の事業所は、人数にかかわらず強制適用事業所になるためです。保険料は会社と本人で折半するため、役員報酬を決めるときは会社負担分も含めて資金計画を立てます。
開業した年が赤字でも、税金はかかりますか?
法人税はかかりませんが、法人住民税の均等割は赤字でもかかります。札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の法人なら、道民税2万円と市民税5万円の年7万円です。青色申告の承認を受けていれば、赤字(欠損金)を翌期以後10年間繰り越して、黒字の年の所得と相殺できます。
まとめ
訪問看護ステーションの開業は、法人の設立を起点に、介護保険・医療保険の指定申請と税務・社会保険の届出を期限内にそろえることが基本です。収入は原則として消費税が非課税ですが、保険外サービスは課税になる場合があるため区分して記帳し、報酬の入金が翌々月になることを前提に運転資金を準備しておきましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。指定申請の要件・様式は申請先の最新の手引きでご確認ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
