設備投資の採算計算は、回収期間法で何年で元が取れるかを確かめ、投資額が大きい案件はNPV(正味現在価値)で最終判断し、規模の違う案件を比べるときはIRR(内部収益率)を補助に使うのが実務的です。どの方法も、税引後のキャッシュフローをどう見積もるかで結果が変わります。
この記事の結論
3つの方法は見ているものが違います。回収期間法は「何年で戻るか(安全性)」、NPVは「いくら価値が増えるか(金額)」、IRRは「何%で回るか(効率)」を示すため、組み合わせて判断します。
- 回収期間法:投資額÷毎年のキャッシュフロー。計算は簡単だが、回収後の利益とお金の時間価値を考えない
- NPV:将来のキャッシュフローを割引率で現在価値に直し、投資額を引く。プラスなら投資する価値がある
- IRR:NPVがゼロになる割引率。借入金利や目標の利回りを上回るかで判断し、規模の違う案件の効率比較に向く
- どちらか一方しか選べないときはNPVを優先し、資金に限りがあるときは投資額あたりの効率も比べる
- キャッシュフローは税引後で見積もり、減価償却の節税効果・補助金の入金時期・借入の返済期間も織り込む
回収期間法・NPV・IRRは何が違う?
3つの方法は、同じ投資を別の角度から見ています。回収期間法は投資したお金が戻るまでの年数、NPVは投資によって増える価値の金額、IRRは投資の実質的な利回りを示します。
| 方法 | わかること | 判断の目安 | 長所 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| 回収期間法 | 投資額が何年で戻るか | 回収期間が返済期間や使用期間より短いか | 計算が簡単で直感的 | 回収後の利益とお金の時間価値を考えない |
| NPV(正味現在価値法) | 投資で増える価値の金額 | プラスなら投資する価値がある | 期間全体の金額と入金のタイミングを反映できる | 割引率の決め方で結果が変わる |
| IRR(内部収益率法) | 投資の実質的な利回り | 借入金利や目標の利回りを上回るか | %で表すため規模の違う案件を比べやすい | 投資の規模を反映しない。条件によって値が複数出る |
計算の前提になるのは、その投資で増える現金(キャッシュフロー)です。会計上の利益とは違い、減価償却費のように現金が出ていかない費用は足し戻し、税金の支払いは差し引いて考えます。見積もり方は後半の節で整理します。
回収期間法:投資したお金は何年で戻る?
回収期間法は、投資額を毎年のキャッシュフロー(現金の増加分)で割り、何年で回収できるかを見る方法です。例えば、1,000万円の設備で毎年250万円のキャッシュフローが増える見込みなら、回収期間は1,000万円÷250万円=4年です。毎年の金額が一定でない場合は、累計額が投資額に達する年を数えます。
長所は、計算が簡単で、投資回収までの期間という直感的にわかりやすい数字が出ることです。一方で、回収した後に生まれる利益の大きさと、お金の時間価値(今受け取る1万円と数年後に受け取る1万円は価値が違うこと)を考えません。そのため、早く回収できるが小さな利益しか生まない投資を、過大に評価しがちです。
計算例:回収期間が短い案件ほど有利とは限らない
- 例えば、どちらも投資額1,000万円で、案件Cは毎年500万円のキャッシュフローが2年間、案件Dは毎年200万円が8年間続く場合
- 回収期間:案件Cは1,000万円÷500万円=2年、案件Dは1,000万円÷200万円=5年
- 割引率5%で現在価値に直すと、案件Cは500万円×1.8594=929.7万円で投資額に届かず、NPVはマイナス70.3万円
- 案件Dは200万円×6.4632=1,292.6万円となり、NPVはプラス292.6万円
- 回収期間だけで選ぶとCですが、期間全体の採算ではDが有利です(1.8594と6.4632は割引率5%の年金現価係数)
割引回収期間法と、借入の返済期間との比較
時間価値を考えない弱点を補うのが、将来のキャッシュフローを現在価値に直してから回収期間を数える割引回収期間法です。割り引いた分だけ、回収期間は割引前より長くなります(次の節の計算例で確認できます)。
借入で設備を買う場合は、回収期間を返済期間と比べることも大切です。回収期間が返済期間より長いと、その設備が生む現金だけでは返済が追いつかず、他の事業の資金で穴埋めすることになります。設備資金の返済の原資を、その設備のキャッシュフローで説明できるかは、金融機関との面談でも確認される点です。
NPV(正味現在価値):投資で増える価値を金額で見る
NPVは、将来のキャッシュフローを一定の割引率で現在の価値に割り引いて合計し、そこから投資額を差し引いた金額です。割引率は、お金の時間価値とリスクを反映した率で、借入金利や会社が求める最低限の利回りを目安に決めます。
NPVがプラスなら「投資額を上回る価値を生む」、マイナスなら「投資に見合わない」と判断します。回収期間法では見えなかった、回収後に生まれる利益も評価に入るのが長所です。
計算例:1,000万円の設備を6年間使う場合のNPV(割引率5%)
- 例えば、投資額1,000万円の設備から、6年間にわたり毎年250万円の税引後キャッシュフローが生まれる場合(現価係数は小数第4位までで計算)
- 1年目:2,500,000円×0.9524=2,381,000円
- 2年目:2,500,000円×0.9070=2,267,500円
- 3年目:2,500,000円×0.8638=2,159,500円
- 4年目:2,500,000円×0.8227=2,056,750円
- 5年目:2,500,000円×0.7835=1,958,750円
- 6年目:2,500,000円×0.7462=1,865,500円
- 現在価値の合計:2,381,000円+2,267,500円+2,159,500円+2,056,750円+1,958,750円+1,865,500円=12,689,000円
- NPV:12,689,000円−10,000,000円=2,689,000円(プラスなので投資する価値がある)
- 割引回収期間:4年目までの累計は8,864,750円。不足分は10,000,000円−8,864,750円=1,135,250円で、5年目の現在価値で割ると1,135,250円÷1,958,750円=0.58。割引前の4年に対して約4.58年かかる
NPVの弱点は、割引率の設定次第で結果が変わることです。借入金利を下限に、新規事業など不確実性の高い投資ほど高めの率で計算し、率を変えても結論が変わらないかを確かめておくと、判断の根拠を説明しやすくなります。
IRR(内部収益率):投資の利回りで比べる
IRRは、NPVがちょうどゼロになるときの割引率で、その投資が実質的に年何%で回るかを示す指標です。IRRが会社の求める最低限の利回り(借入金利などの資金調達コスト)を上回っていれば、投資する価値があると判断します。
計算例:前の節の設備のIRR
- 同じ設備(投資額1,000万円、毎年250万円が6年間)で割引率を13%にすると、現在価値の合計は250万円×3.9975=999.4万円(3.9975は割引率13%・6年の年金現価係数)
- 投資額の1,000万円とほぼ等しく、NPVがほぼゼロになるため、IRRは約13%
- 借入金利がこれを十分に下回っていれば、利回りの面でも投資する価値があると判断できる
IRRの長所は、%で投資効率を表すため、投資規模の異なる案件同士を比べやすい点です。ただしIRRは投資の規模を反映しません。投資額500万円の案件と3,000万円の案件を比べると、NPVの金額だけでは大きい案件が有利に見えても、IRRで見ると効率は逆転していることがあります。
計算例:規模の違う2つの案件(割引率5%・5年間)
- 例えば、案件Aは投資額500万円で毎年150万円、案件Bは投資額3,000万円で毎年750万円のキャッシュフローが5年間続く場合(4.3295は割引率5%・5年の年金現価係数)
- 案件A:現在価値は150万円×4.3295=649.4万円、NPVは649.4万円−500万円=149.4万円、IRRは約15.2%
- 案件B:現在価値は750万円×4.3295=3,247.1万円、NPVは3,247.1万円−3,000万円=247.1万円、IRRは約7.9%
- 収益性指数(現在価値÷投資額):案件Aは649.4万円÷500万円=1.30、案件Bは3,247.1万円÷3,000万円=1.08
同じ場所に置く機械Aと機械Bのように、どちらか一方しか選べない場合は、NPVの大きい案件を選ぶのが原則です。資金に限りがあり、複数の案件に優先順位をつける場合は、IRRや収益性指数で投資額あたりの効率も比べます。
IRRが使いにくいケース
使用期間の途中で大規模な修繕をする、最後に多額の撤去費用がかかるなど、キャッシュフローのプラスとマイナスが何度も入れ替わる投資では、IRRが複数出たり求められなかったりします。このような投資はNPVで判断します。
3つの方法はどう使い分ける?場面別の目安
| 場面 | 主に使う方法 |
|---|---|
| 投資額が小さく、まず大まかなリスク感覚をつかみたい | 回収期間法 |
| 投資額が大きく、長期的な採算まで含めて最終判断したい | NPV |
| 投資規模の異なる複数案件の効率を比べ、優先順位をつけたい | IRR(収益性指数も併用) |
| どちらか一方の案件しか選べない | NPVの大きい方 |
| 金融機関に投資の妥当性を説明したい | NPVとIRRを併記し、回収期間と返済期間の関係も示す |
実務では、まず回収期間法で「何年で元が取れそうか」をつかみます。そのうえで投資額の大きい案件はNPVで採算を詳しく確認し、複数の投資案に優先順位をつけるときはIRRも参考にする、という段階的な使い方が現実的です。計算は次の順番で進めます。
- 投資の範囲を決める本体価格だけでなく、運搬・据付・付帯工事・試運転の費用や、増える在庫・売掛金などの運転資金も含めます。
- 増える現金と減る現金を見積もる売上の増加、人件費・外注費・材料ロスの削減と、増える保守費・電気代・保険料を年ごとに並べます。古い設備の売却収入や撤去費用も入れます。
- 税引後のキャッシュフローに直す税金を差し引き、減価償却費を足し戻します。税制の特例を使う場合は、税金が減る年に反映します。
- 期間と割引率を決める期間は法定耐用年数ではなく、実際に使える年数を目安にします。割引率は借入金利を下限に決めます。
- 3つの指標を計算する回収期間・NPV・IRRを出し、使い分けの表に沿って判断します。
- 保守的なシナリオで確かめる売上の増加が見込みを下回る場合でも、NPVがプラスで返済が続くかを確認します。
- 資金調達と返済計画を組む自己資金・借入・リース・補助金の組み合わせを決め、返済期間内にキャッシュフローで返せるかを確かめます。
キャッシュフローはどう見積もる?税金・減価償却・補助金の扱い
どの方法でも、結果を左右するのは将来のキャッシュフローの予測です。売上増加や経費削減の見込みを楽観的に見積もりすぎると、実際には採算が合わない投資でも、NPVやIRRの数字上は良好に見えてしまいます。
税引後キャッシュフローの基本式
税引後キャッシュフロー=(増える売上−増える費用−減価償却費)×(1−税率)+減価償却費
減価償却費は現金の支出を伴いませんが、その分だけ税金を減らす効果(減価償却費×税率)があります。償却の方法や時期は、税金が減るタイミングを通じてキャッシュフローに影響します。
法人は、機械装置などの償却方法を届け出なければ定率法(建物・建物附属設備・構築物は定額法)、個人事業主は定額法が原則です。定率法は初めの年ほど償却費が大きく、税金の減る時期が早まります。
無料ツール定率法の減価償却費を年ごとに計算する取得価額と耐用年数を入れると、毎年の償却費の目安がわかり、キャッシュフロー表の作成に使えます。計算する 無料
ツール定額法の減価償却費を計算する建物附属設備や個人事業主の設備など、定額法で償却する資産の毎年の償却費を確認できます。計算する
税制の特例は「税金が減る時期」と「総額」の両方を見る
| 制度 | 内容(2026年10月時点) | 採算計算への影響 |
|---|---|---|
| 少額減価償却資産の特例 | 青色申告の中小企業者等が2026年4月1日以後に取得した40万円未満の資産を、年300万円まで取得した年に全額経費にできる(2029年3月31日まで。従業員400人超の法人は対象外) | 税金の減る時期が早まる |
| 中小企業経営強化税制 | 経営力向上計画の認定を受けた設備について、即時償却か税額控除10%(資本金3,000万円超は7%)を選べる。2027年3月31日までの取得・事業供用が対象 | 即時償却は時期が早まり、税額控除は税額そのものが減る |
| 中小企業投資促進税制 | 特別償却30%か税額控除7%を選べる。2027年3月31日までが対象 | 特別償却は時期が早まり、税額控除は税額そのものが減る |
即時償却や特別償却は、償却費を前倒しした分だけ後の年の償却費が減るため、使用期間全体で見た税額は大きく変わりません。それでも税金の支払いを先に減らせるため、お金の時間価値を考えるNPVでは有利に働きます。税額控除は税額そのものが減るため、キャッシュフローの総額が増えます。
補助金は「後払い」として織り込む
補助金は採択されてもすぐには入金されず、設備を導入して支払いを終え、実績報告をした後に入金されるのが一般的です。投資の時点では全額を自己資金や借入で用意する必要があるため、採算計算では補助金を入金が見込まれる年のキャッシュフローとして入れます。
2026年10月時点では、新事業進出・ものづくり商業サービス補助金や中小企業省力化投資補助金などが、設備投資に使える主な補助金です。公募の時期や要件は回ごとに変わるため、最新の公募要領で確認してください。補助金の収入は課税の対象ですが、圧縮記帳を使うと課税を先に延ばせます。
予測は、標準的な見積もりと保守的な見積もりの複数のシナリオで作り、保守的な見積もりでも採算が成り立つかを確認しておくと、判断の精度が上がります。
キャッシュフローの見積もりや、税制の特例・補助金の織り込み方は、設備の種類と会社の状況で変わります。初回無料で試算の進め方を確認できます。
無料で相談する資金調達と返済計画まで含めて判断する
採算が合う投資でも、資金繰りが続かなければ実行できません。借入で設備を買う場合は、返済期間を設備の使用期間や回収期間と合わせ、毎年の返済額をその設備のキャッシュフローでまかなえるかを確認します。短期の借入で長く使う設備を買うと、利益が出ていても資金が不足しやすくなります。
投資の規模が自己資本に比べて大きすぎないかは、「固定比率と固定長期適合率で設備投資の無理を測る方法」で確認できます。借入の種類の選び方は「制度融資・プロパー・保証協会付き融資の使い分け」、資金調達の全体像は「融資・資金調達ガイド」にまとめています。
札幌市・北海道の制度融資を使う場合
札幌市の融資制度(マル札資金・特別資金)は、2026年10月1日以降に実行される融資から利率が0.3%上乗せされています。割引率の目安や返済計画に使う借入金利は、実行時点の利率で確認してください。
北海道の中小企業総合振興資金も選択肢になります(資金の使い道や条件は窓口で確認)。開業からおおむね7年以内であれば、日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金(設備資金の返済期間は20年以内)も検討できます。
よくある質問
割引率は何%にすればよいですか?
決まった正解はありません。中小企業では、借入金利を下限とし、事業のリスクが高い投資ほど上乗せして決める方法が実務的です。会社として目標とする利回りがあれば、それを使います。率を変えて計算し、結論が変わるかを確かめておきましょう。
ExcelでNPVやIRRを計算するには、どう入力しますか?
ExcelのNPV関数は1つ目の値から1期分割り引くため、0年目の投資額は関数に含めず、「=NPV(割引率, 1年目〜最終年のキャッシュフロー)−投資額」とします。IRRは、投資額をマイナスで入れた0年目から最終年までのキャッシュフローを範囲に指定し、「=IRR(範囲)」で求められます。
回収期間は何年以内なら投資してよいですか?
一律の基準はありません。借入で買う設備なら返済期間より短いこと、技術の陳腐化が早い設備なら実際に使える年数より十分短いことが目安です。回収期間だけで決めず、NPVがプラスかもあわせて確認します。
リースで導入する場合も同じ計算でよいですか?
購入とリースを比べるときは、購入の支出(本体価格と借入の利息)とリースの支払い(リース料)を、それぞれ現在価値に直して比べます。税務上の費用になる時期も違うため、税引後のキャッシュフローで比較します。中途解約の可否や、保守費用が含まれるかも確認しておきます。
まとめ
回収期間法は「何年で戻るか」、NPVは「いくら価値が増えるか」、IRRは「何%で回るか」を示します。まず回収期間法で大まかなリスクをつかみ、投資額が大きい案件はNPVで最終判断し、規模の違う案件の比較にはIRRや収益性指数を使いましょう。いずれも税引後のキャッシュフローの予測が土台になるため、税制の特例や補助金の入金時期、借入の返済計画まで織り込んで判断することが大切です。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
