後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、自社株の受益者を「先代→後継者→その次の後継者」と複数世代にわたって信託契約で決めておき、株式の分散を防ぐ仕組みです。一方で、受益者が替わるたびに相続税がかかり、信託の期間にも法律上の制限があるため、株価・納税資金・遺留分まで含めた設計が欠かせません。
この記事の結論
後継者の次の代まで株式の行き先を決められる一方、受益者が替わるたびに、前の受益者から受益権を遺贈で取得したとみなして相続税がかかります。信託だけで解決しようとせず、株価対策・納税資金・事業承継税制などほかの手段と比べて設計します。
- 遺言では決めきれない「次の次」の承継先まで、信託契約で指定できる
- 株主名簿上の株主は受託者になり、議決権は受託者が行使する。指図権者を置けば先代や後継者の意向を反映できる
- 受益者連続型信託の受益権は、受け取れる期間が限られていても、制約がないものとして評価される
- 甥・姪など一親等の血族以外が受益者になると、相続税の2割加算の対象になる
- 信託の期間の制限、遺留分、事業承継税制との関係は設計の段階で確認する
後継ぎ遺贈型受益者連続信託とは?遺言との違い
信託とは、財産を持つ人(委託者)が、信頼できる人(受託者)に財産を託し、その財産から生じる利益を受け取る人(受益者)のために管理・運用してもらう仕組みです。家族や親族が受託者になる信託は「家族信託」とも呼ばれ、認知症対策や事業承継の手段として使われています。
後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、受益者が亡くなるとその受益権が消え、あらかじめ指定した次の人が新たに受益権を取得する定めを置いた信託です。「最初の受益者は先代、先代が亡くなったら長男、長男が亡くなったら孫」というように、複数世代にわたる承継先を契約の時点で決められます。
遺言で「長男に相続させ、長男が亡くなったら孫に」と書いても、長男が相続した財産の行き先は、長男自身の遺言や相続で決まります。こうした「後継ぎ遺贈」は効力に疑問があるとされ、先代の意思どおりになるとは限りません。信託なら、受益権の移り方そのものを契約で定めておけるため、次の次の代まで道筋を描けます。
| 承継の手段 | 決められる範囲 | 議決権の扱い | 主な税金と注意点 |
|---|---|---|---|
| 遺言 | 自分の次の代(相続人・受遺者)まで | 相続後は新しい株主が行使する | 相続税。遺留分への配慮が必要 |
| 生前贈与(事業承継税制を含む) | 贈与する相手まで | 贈与後は後継者が行使する | 贈与税。株価が高いと負担が重く、納税猶予には期限つきの要件がある |
| 種類株式(議決権制限株式・拒否権付株式など) | 株式の内容として議決権を配分する | 定款で設計する | 株式が移るときに相続税・贈与税。定款変更の株主総会決議と登記が必要 |
| 後継ぎ遺贈型受益者連続信託 | 次の次の代以降まで(期間の制限あり) | 受託者が行使し、指図権で調整する | 受益者が替わるたびに相続税など。契約の設計が複雑で、遺留分の検討も必要 |
自社株の承継にはどう使う?基本の設計例
自社株を信託に入れるときは、先代が委託者として株式を受託者に移し、受益者の順番と、議決権を誰の意向で行使するかを契約で決めます。代表的な役割分担は次のとおりです。
| 役割 | 誰にするか(例) | ポイント |
|---|---|---|
| 委託者 | 先代経営者 | 自社株を信託財産として受託者に移す |
| 受託者 | 後継者、信頼できる親族、受託のために設立した一般社団法人など | 株主名簿上の株主になり、株式を管理して議決権を行使する |
| 指図権者 | 先代(判断能力があるうち)、その後は後継者 | 議決権の行使について受託者に指図する |
| 第1受益者 | 先代 | 配当などの利益を受け取る。設定時に贈与税がかからない形(自益信託)にできる |
| 第2受益者 | 後継者(長男) | 先代が亡くなったときに受益権を取得する |
| 第3受益者 | 長男の子、または弟の子(甥) | 長男が亡くなったときに受益権を取得する |
| 帰属権利者 | 信託が終わったときに株式を受け取る人 | 最終的に株式を誰の名義に戻すかを決めておく |
例えば、後継者である長男に子がいない場合を考えます。何も対策しなければ、長男が亡くなった後、自社株は長男の配偶者など経営に関わらない人に渡るおそれがあります。信託で「長男の次は弟の子(甥)」と定めておけば、株式を事業の後継ラインに留めやすくなり、株主が経営に無関係な人へ分散するのを防げます。
株式を信託するときの会社側の手続き
中小企業の株式は、多くの場合、定款で譲渡に会社の承認が必要とされています(譲渡制限株式)。受託者への移転も株式の譲渡に当たるため、定款で定めた機関(取締役会や株主総会など)の承認を受けます。あわせて、株主名簿を受託者の名義に書き換え、信託財産に属する株式である旨を記載しておかないと、信託財産であることを会社や第三者に主張できません。
議決権は誰が持つ?受託者と指図権者の決め方
信託した株式は受託者が株主として管理し、議決権も受託者が行使します。誰を受託者にし、議決権をどう行使するかを契約で決めておけば、受益者が世代をまたいで替わっても、経営の意思決定のルールを一貫させられます。
例えば、まだ若い後継者が受益者であっても、経験のある受託者が議決権を行使する形にしておけば、移行期の経営を支えられます。配当など財産としての利益は後継者が受け取り、経営判断は信頼できる受託者が担う、という役割分担ができます。
さらに、議決権の行使を指図する「指図権」を先代に残しておけば、先代は判断能力があるうちは経営に関与し続けられます。判断能力が低下した後は指図権を後継者に移すと定めておけば、株式の管理と議決権の行使は契約に沿って続き、会社の意思決定が止まる事態を避けられます。
- 受託者が亡くなったり辞めたりしたときの後任を、契約で決めているか
- 受託者と受益者が同じ一人だけにならないか(受託者が受益権の全部を一人で持つ状態が続くと、信託が終了する規定がある)
- 受託者が、財産の分別管理や帳簿の作成、受益者への報告といった義務を担えるか
- 後継者以外の家族との間で、利益相反や不公平感が生じない設計か
- 指図権を誰が、いつまで持つか(判断能力の低下や死亡のときの引継ぎを含む)
受託者には、後継者本人や信頼できる親族のほか、受託のために一般社団法人を設立して就かせる方法もあります。法人を受託者にすると、個人の死亡や判断能力の低下で受託者が欠けるリスクを抑えられる一方、設立と運営の手間がかかります。
税金はいつ・誰にかかる?受益者が替わるたびに相続税
税務では、信託財産は受益者が持っているものとして扱います。受益権が別の人に移れば財産が移ったことになり、贈与税や相続税の対象になります。受益者連続型信託の主な課税関係は次のとおりです。
| 場面 | かかる税金 | ポイント |
|---|---|---|
| 信託の設定(先代が自分を受益者にする自益信託) | 課税なし | 実質的な財産の持ち主が変わらないため |
| 信託の設定(最初から後継者を受益者にする他益信託) | 後継者に贈与税 | 受益権の贈与として扱われる。相続時精算課税(60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ、特別控除2,500万円)を選ぶこともできる |
| 先代の死亡で後継者が受益者になる | 後継者に相続税 | 受益権を先代から遺贈により取得したものとみなす |
| 後継者の死亡で次の受益者(例:甥)が受益者になる | 次の受益者に相続税 | 受益権を後継者から遺贈により取得したものとみなす。一親等の血族・配偶者以外は2割加算 |
| 信託の終了 | 帰属権利者に相続税または贈与税 | 終了の原因が受益者の死亡かどうかで税目が変わる |
見落としやすいのが受益権の評価です。受益者連続型信託の受益権は、受け取れる期間が限られているといった制約があっても、その制約はないものとして評価します(相続税法9条の3)。後継者が生涯の間だけ持つ受益権であっても、原則として自社株そのものの価額で相続税がかかると考えておく必要があります。受益権を収益に関する部分と元本に関する部分に分ける設計などでは扱いが異なる場合があるため、設計の段階で確認します。
自社株の価額は、取引相場のない株式の評価方法(類似業種比準価額・純資産価額など)で計算します。受益者が替わるたびに、その時点の株価で相続税が計算されるため、業績が伸びて株価が上がるほど、次の世代の税負担も重くなります。
無料ツール非上場株式の原則的評価を計算する類似業種比準価額と純資産価額を組み合わせて、自社株の評価額の目安を試算できます。計算する
計算例:甥が受益者になるときの2割加算
例えば、後継者(長男)が亡くなって甥が受益権を取得し、甥が負担する相続税額が2割加算前で600万円と計算された場合です。
- 2割加算の額:600万円×20%=120万円
- 甥が納める相続税額:600万円+120万円=720万円
同じ受益権でも、第3受益者を長男の子にすれば、長男から見て一親等の血族のため2割加算はかかりません。誰を次の受益者にするかで、税負担は変わります。
受益者の交代で相続税がかかる場合は、そのたびに、相続の開始を知った日の翌日から10か月以内に申告と納付が必要です。受益権は自由に売ることが難しく、配当だけで相続税を払うのは現実的でないことが多いため、生命保険の活用など、納税資金を別に準備しておきます。
設計で注意すること:期間の制限・遺留分・事業承継税制
信託は何世代先まで続けられる?
後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、無期限には続けられません。信託法の規定により、信託の設定から一定の年数が経過した後に新たに受益権を取得した受益者が亡くなるか、その受益権が消えるまでで、受益者の連続は効力を失います。何世代先まで指定できるかは、設定の時期と各受益者の年齢で変わるため、承継ラインは現実的な範囲に絞って設計します。
ほかの相続人の遺留分はどうなる?
信託を使っても、ほかの相続人の遺留分(法律で保障された最低限の取り分)の問題はなくなりません。遺留分を侵害する目的で組まれた信託について、その一部が無効と判断された裁判例もあります。後継者以外の子には、ほかの財産の配分や生命保険で取り分を確保するなど、株式以外の部分で調整する設計をあわせて考えます。
事業承継税制とどちらを使う?
事業承継税制(特例措置)で贈与税・相続税の納税猶予を受けるには、特例承継計画を2027年9月30日までに提出し、2027年12月31日までに贈与や相続で株式を取得する必要があります。信託を使うと、後継者が取得するのは株式そのものではなく受益権になるため、納税猶予の対象になるかどうかを含め、どちらを優先するかを先に検討します。制度の要件は「事業承継税制の要件と手続きの全体像」で整理しています。
信託契約の文言が、承継の結果を決める
信託契約の内容は専門的で、設計を誤ると意図した承継が実現しなかったり、想定外の税負担が生じたりするおそれがあります。会社法・信託法・税務が交差する領域のため、契約書は弁護士や司法書士が作成し、自社株の評価と税額は公認会計士・税理士が確認するなど、専門家が連携して組み立てるのが安全です。契約は公正証書にしておくと、存在と内容を後から証明しやすくなります。
家族構成や株主の状況によって、信託が向くか、事業承継税制や種類株式が向くかは変わります。自社株の評価から一緒に整理します。
無料で相談する導入はどう進める?確認する資料と手順
信託は契約を結んで終わりではなく、受益者が替わるたびに税務と会社の手続きが発生します。導入の前に、次の順番で検討を進めます。
- 現状を把握する株主名簿、定款(譲渡制限や種類株式の定め)、直近の決算書と法人税申告書をもとに、株主構成と自社株の評価額を確認します。
- 承継ラインを決める後継者とその次の候補、推定相続人と遺留分の目安を整理し、誰に株式を集めるかを決めます。
- 役割を決める受託者と後任の受託者、指図権者、帰属権利者、信託が終わる条件を決めます。
- 税額を試算する受益者が替わる場面ごとの相続税(2割加算の有無を含む)と、納税資金の出どころを試算します。
- ほかの手段と比べる事業承継税制、生前贈与、種類株式、遺言との組み合わせも含めて、負担とリスクを比べます。
- 契約と会社の手続きをする信託契約を結び、譲渡承認、株主名簿の書換えと信託財産である旨の記載、信託用の口座の開設を行います。
- 運用と見直しを続ける受託者による帳簿の作成と受益者への報告、税務署への調書の提出(要件と期限は国税庁の案内で確認)を行い、家族構成や株価の変化に合わせて内容を見直します。
ツール自社株評価の会社規模を判定する従業員数・総資産・売上高から、類似業種比準価額をどの割合で使うか(Lの割合)を判定できます。判定する
よくある質問
信託した自社株の配当は、誰の所得になりますか?
受託者が株主として配当を受け取り、受益者に渡します。税務上は、受益者が配当を受け取ったものとして、受益者の配当所得になります。
後継者が受託者と受益者を兼ねてもよいですか?
兼ねること自体はできます。ただし、受託者が受益権の全部を一人で持つ状態が一定期間続くと信託が終了する規定があるため、先代を第1受益者にするなど、受益者が受託者一人だけにならない設計にします。
先代が認知症になってからでも信託は組めますか?
信託契約は委託者の判断能力があることが前提のため、元気なうちに結ぶ必要があります。契約した後に判断能力が低下しても、受託者が契約に沿って株式の管理と議決権の行使を続けられる点が、信託を使う利点の一つです。
途中で信託の内容を変えたり、やめたりできますか?
信託契約で変更や終了の方法を定めておけば、その定めに従います。定めがなければ委託者と受益者の合意で終了できるのが原則ですが、受益者が替わった後は合意が難しくなることもあるため、変更の手続きを契約に入れておきます。
信託を組むには、どのような費用がかかりますか?
契約書の作成を依頼する専門家への報酬、公正証書にする場合の公証役場の手数料、自社株の評価や税額の試算にかかる費用などです。金額は財産の内容や設計の複雑さで変わるため、見積りで作業の範囲を確認します。
まとめ
後継ぎ遺贈型受益者連続信託は、自社株の行き先を後継者の次の代まで決められ、議決権を受託者に集めて経営を安定させられる手段です。一方で、受益者が替わるたびに相続税がかかり、受益権は制約のないものとして評価され、甥・姪などには2割加算もかかります。信託の期間の制限や遺留分、事業承継税制との関係も踏まえ、自社株の評価と納税資金の試算から設計を始めましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
自社株の承継と信託の設計のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
