歯科医院の法人化のタイミングと判断基準|医療法人とMS法人の違い

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歯科医院の法人化(医療法人の設立)は、所得の水準だけでなく、自由診療の比率、院長の社会保険、退職金や承継の計画、認可の受付時期をあわせて判断します。医療法人とMS法人の違い、税率の比べ方、設立までの流れと注意点を、個人開業の歯科医院向けに整理しました。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

歯科医院の法人化は「所得がいくらを超えたら」だけでは決まりません。院長個人と医療法人の税率の差、社会保険の負担、配当ができない医療法人の制約、認可までの期間を比べ、数年先の計画とあわせて判断します。

  • 個人の所得税は最高45%(住民税10%は別)。医療法人の法人税は、年800万円以下の所得が15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)
  • 医療法人は剰余金の配当ができず、院長が受け取る方法は役員報酬と役員退職金が中心になる
  • 法人化すると院長も健康保険・厚生年金に加入し、保険料は法人と折半で負担する
  • 医療法人の設立には都道府県知事の認可が必要で、申請の受付は年1〜2回程度。申請から設立まで半年〜1年程度かかることもある
  • 診療以外の業務を切り出すMS法人は通常の会社として設立でき、医療法人と組み合わせる方法もある
目次

歯科医院が法人化を検討する主なきっかけは?

歯科医院が医療法人化を検討するきっかけとして、次のような場面がよく挙げられます。

  • 所得が一定の水準を超え、個人の税負担が重くなってきた:所得税は累進税率のため、所得が増えるほど上乗せ部分の税率が上がります。個人で課税される所得税・住民税と、法人税・役員報酬の組み合わせを比べると、ある水準からは法人のほうが全体の税負担を抑えやすくなる場合があります。
  • 自由診療(審美・矯正・インプラントなど)の割合が増え、売上の伸びが見込まれる状況になった。
  • 退職金の準備や院長家族への給与など、将来の資産形成・事業承継を意識し始めた。
  • 分院の開設を考え始めた。個人開設の診療所は、開設者である院長が自ら管理するのが原則のため、複数の診療所を運営するには医療法人化が前提になることが多くあります。

なお、保険診療が中心の歯科医院では、診療報酬の水準に制約があるため所得が伸びにくく、自由診療の比率が低い段階では法人化のメリットが限られることもあります。まずは保険診療と自由診療の割合、院長の所得の推移を整理することから始めます。

医療法人と一般法人(MS法人)の違いは?

歯科医院の法人化には、大きく2つの方向性があります。診療そのものを法人で行う医療法人と、診療以外の業務を切り出す一般の会社(MS法人)です。

区分医療法人(持分なし社団)MS法人(メディカルサービス法人)
設立の目的診療行為そのものを法人で行う物品の販売・不動産の賃貸・経営管理などの周辺業務を切り出す
設立の手続き都道府県知事の認可が必要通常の会社設立の手続き(株式会社・合同会社など)
主なメリット役員報酬・役員退職金の設定、法人の税率の活用、分院の展開診療以外の周辺業務をグループで管理できる
注意点設立・定款の変更・解散に行政の関与があり時間がかかる。剰余金の配当ができない診療行為はできない。医療法人や個人の医院との取引は適正な価格で行う必要がある
医療法人とMS法人の比較(概要)

2007年4月以後に設立の申請をする医療法人は、出資の持分のない形(持分なし社団)に限られます。院長などが拠出した基金は返還を受けられますが、法人に積み上がった利益を配当として受け取ることはできません。解散したときに残った財産も、院長個人ではなく、国・地方公共団体・他の医療法人などに帰属します。

理事長は原則として医師または歯科医師で、理事3人以上・監事1人以上を置くのが原則です。院長の家族が理事に就くこともできますが、監事は理事や職員と兼ねることができません。

MS法人は、医院の建物や医療機器を所有して医療法人や個人の医院に貸したり、受付・経理・清掃などの業務を受託したりする会社です。取引の価格が市場の水準とかけ離れていると、税務上、利益の付け替えとみなされて否認されるおそれがあります。医療法人とMS法人などとの一定規模以上の取引は、事業報告書とあわせて行政に報告する必要があります。

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個人・法人・併用の税と社会保険を比べる個人のまま、法人にした場合、個人と法人を併用した場合の税金と社会保険料の合計を比べられます。計算する

法人化のメリットと注意点は?

法人化で得られる可能性のあるメリットと、あわせて押さえておきたい注意点を、個人のままの場合と比べて整理します。

項目個人の歯科医院医療法人
所得にかかる税院長の事業所得に、所得税(5〜45%の累進税率)と住民税(10%)院長は役員報酬として給与所得控除を受ける。法人に残る所得には法人税(年800万円以下の部分は15%、超える部分は23.2%)と地方法人税・法人住民税・事業税
家族への給与青色事業専従者給与(届出が必要)理事などとしての役員報酬(職務に見合う額)
退職金院長自身には支給できない役員退職金を支給でき、適正な額は損金になる
社会保険院長は国民健康保険・国民年金院長も健康保険・厚生年金に加入
社会保険診療報酬の源泉徴収社会保険診療報酬支払基金からの支払いは源泉徴収される源泉徴収されない
事業税社会保険診療に係る所得は非課税社会保険診療に係る所得は非課税。自由診療の所得は課税
お金の自由度事業の利益はそのまま院長のもの配当ができず、法人のお金を院長が自由に使うことはできない
個人と医療法人の主な違い(2026年10月時点。法人税の15%は2027年3月31日までに開始する事業年度)

2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税(基準法人税額から500万円を引いた額の4%)が加わります。税額がゼロでも申告が必要なため、法人化後の申告の手間として見込んでおきます。

  • 役員報酬として院長と家族に給与を分けることで、給与所得控除を活用できる(家族が実際に職務に従事していることが前提)。
  • 役員退職金(役員退職慰労金)を、将来、適正な額の範囲で損金に算入できる。
  • 社会保険(健康保険・厚生年金)への加入義務が生じる一方、保険料の法人負担分は法人の費用になる。
  • 医療法人は剰余金の配当が禁止されており、資金の出し入れに制約がある。
  • 設立・定款変更・解散などに行政の関与が必要で、一般の会社より手続きが複雑になる。

計算例:院長個人の課税所得が2,000万円の場合

例えば、院長個人の課税所得が2,000万円の場合の税額は、次のとおりです(復興特別所得税・事業税は含めない概算)。

  • 所得税:2,000万円×40%−2,796,000円=5,204,000円
  • 住民税:2,000万円×10%=2,000,000円
  • 合計:5,204,000円+2,000,000円=7,204,000円

課税所得のうち1,800万円を超える部分には、所得税40%と住民税10%で合わせて50%の税率がかかっています。医療法人なら年800万円以下の所得にかかる法人税は15%のため、法人に残す利益と役員報酬の配分によって全体の負担が変わります。ただし、法人に残した利益は配当で受け取れないため、役員退職金などで受け取るまでの計画とあわせて考えます。

社会保険料の負担もあわせて比べる

法人化すると、院長も健康保険・厚生年金の被保険者になります。協会けんぽ北海道の保険料率は、2026年3月分から健康保険10.28%、介護保険1.62%(40歳以上65歳未満)で、厚生年金は18.3%です。2026年4月分からは子ども・子育て支援金0.23%も加わり、いずれも法人と本人で折半します。

厚生年金の標準報酬月額の上限は65万円で、2027年9月から68万円、2028年9月から71万円、2029年9月から75万円に段階的に引き上げられます。役員報酬が高い院長ほど、上限の引上げによる負担の増加も見込んでおきます。

役員報酬は原則として事業年度の途中で変えられず、改定は期首から3か月以内に限られます。報酬の水準ごとの手取りは、役員報酬の最適化シミュレーションで比べられます。

「いつ法人化するか」の判断で見るべき数字は?

法人化のタイミングは、所得がいくらになったらという一律の目安で決まるものではありません。設備投資の計画、診療スタッフの人員構成、将来の医院展開などによって最適な時期は変わります。実務的な参考として、次の視点を持っておくと判断しやすくなります。

見る数字判断のポイント
院長の事業所得課税前の事業所得がおおむね年1,500万円〜2,000万円を超えてくると、個人と法人の比較が実質的な意味を持ちやすくなる(あくまで目安)
自由診療の売上と消費税自由診療は消費税の課税売上。課税売上高が1,000万円を超えると、原則として2年後から納税義務が生じる
設備投資の予定ユニットの増設やCTなどの機器を法人化後に導入すると、法人での減価償却の計画を立てやすい
借入金とリース個人名義の借入金やリースを法人に引き継ぐには、金融機関やリース会社の承諾が必要
院長の年齢と承継役員退職金を受け取るまでの在任期間や、後継者への引継ぎの時期
準備の期間申請から設立まで半年〜1年程度かかることもあるため、早めに検討を始める
法人化の時期を判断するときに見る数字

自由診療の割合が高い医院は、法人化の時期によって消費税の納税義務の判定が変わります。新しく設立した医療法人は基準期間がないため、原則として最初の2年間は消費税が免除されます。ただし、1期目の最初の6か月の課税売上高と給与の支払額がいずれも1,000万円を超えると、2期目から課税されます。

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法人成りした場合の税負担を比べる個人のままの場合と法人にした場合の税金の合計を、所得の水準ごとに比べられます。計算する

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医療法人設立の流れとスケジュールは?

医療法人の設立は、一般の会社のように登記だけでは済まず、行政の認可を受けてから登記を行います。診療を止めずに個人から法人へ切り替えるため、税務署・保健所・厚生局などの手続きを順番に進めます。

  1. 事前の相談と準備認可の窓口で受付の時期と必要書類を確認し、定款、事業計画、役員、拠出する資産(基金)の内容を決めます。
  2. 設立総会と認可申請設立総会で定款などを決議し、受付期間内に設立認可を申請します。受付は年1〜2回程度に限られます。
  3. 審査と認可書類の補正を経て認可を受けます。申請から設立まで半年〜1年程度かかることもあります。
  4. 設立の登記認可を受けた後に法務局で設立の登記を行い、医療法人が成立します。
  5. 診療所の開設手続き保健所で、法人としての診療所の開設の手続き(開設の許可と届出)を行い、個人の診療所の廃止の届出を出します。
  6. 保険医療機関の指定厚生局に保険医療機関の指定を申請します。開設者が変わっても診療が続く場合は、さかのぼって指定を受けられる取扱いがあるため、事前に確認します。
  7. 税務・社会保険の届出法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)、青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書(開設の日から1か月以内)、社会保険の新規適用届を出します。個人事業の廃業届(廃業の日から1か月以内)も提出します。

個人から引き継ぐ資産・負債・雇用に注意

医療機器や内装などの資産は、基金として拠出するか、医療法人に売却するかで手続きと税金が変わります。個人名義の借入金やリース契約を法人に引き継ぐには、金融機関やリース会社の承諾が必要です。

土地や建物は、医療法人に移すと不動産取得税や登録免許税がかかるため、個人に残して医療法人に貸す方法も比べます。スタッフの雇用契約も個人から医療法人に切り替わるため、労働条件の通知や社会保険・労働保険の手続きが必要です。

設立の前に決めておくこと

  • 法人の名称(「医療法人社団〇〇会」など)と主たる事務所の所在地
  • 基金の額と、拠出する資産(現金・医療機器など)
  • 役員の構成(理事長・理事・監事)と任期
  • 会計年度(繁忙期を避けると決算・申告の負担が軽くなる)
  • 設立の予定日と、個人の診療所を閉じる日

札幌・北海道の歯科医院が法人化するときの確認点

認可の窓口と地方税

医療法人の設立認可の窓口と受付時期は、診療所の所在地を所管する行政(北海道・札幌市)の公式情報で、法人化を考え始めた段階で確認します。受付の時期を逃すと、設立が次の受付の後までずれることがあります。

法人化すると、赤字でも法人住民税の均等割がかかります。従業者50人以下で資本金等1,000万円以下の区分なら、札幌市内では北海道2万円と札幌市5万円の年7万円です。法人税割は、資本金1億円以下かつ法人税額1,000万円以下の法人で、法人道民税1.0%、法人市民税6.0%です。

院長の健康保険とスタッフの賃金

個人開業の時期に歯科医師の国民健康保険組合に加入している場合、法人化後も一定の手続きをすれば組合の健康保険を続けられることがあります。手続きの期限が短いため、法人化の前に組合と年金事務所に確認します。厚生年金には法人化と同時に加入します。

歯科助手や受付スタッフの雇用契約を医療法人に切り替える際は、北海道の最低賃金(2026年10月1日から1,131円)を下回っていないかもあわせて確認します。

よくある質問

医療法人にすると、院長の退職金は経費になりますか?

役員退職金は、在任期間や職務の内容に見合う適正な額であれば、医療法人の損金になります。受け取る院長側では退職所得となり、退職所得控除を差し引いた額の2分の1が課税の対象です。退職所得控除は、勤続20年以下なら1年につき40万円、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数−20年)です。役員としての勤続年数が5年以下の場合は2分の1にならないほか、個人開業の期間は医療法人の役員の在任期間に含まれません。

法人化した後に、個人の歯科医院に戻すことはできますか?

医療法人を社員総会の決議で解散するには行政の認可が必要で、簡単には戻せません。解散したときに残った財産も院長個人には戻らないため、法人化は元に戻さない前提で、長期の計画として判断します。

MS法人をつくれば、医療法人にしなくても節税できますか?

個人の歯科医院のまま、MS法人に業務を委託したり設備を貸してもらったりすることで、所得を分散できる場合があります。ただし、業務の実態があり、委託料や賃料が市場の水準に見合っていることが前提です。実態のない取引や過大な委託料は否認されるおそれがあるため、医療法人化と比べて検討します。

保険診療が中心の歯科医院でも、法人化のメリットはありますか?

保険診療の収入は消費税が非課税で、事業税も社会保険診療に係る所得は非課税のため、法人化で変わるのは主に所得税と法人税の差、社会保険、退職金の部分です。院長の所得が高く、役員退職金まで長期で計画できる場合はメリットが出やすい一方、所得が伸びにくい場合は個人のままのほうが有利なこともあります。

まとめ

歯科医院の法人化は、院長個人と医療法人の税率の差だけで決めず、社会保険の負担や、配当ができない医療法人の制約もあわせて判断します。認可の受付時期と、半年〜1年程度の準備期間も見込んでおきます。自由診療の比率、設備投資、承継の予定を数年単位で並べ、個人・医療法人・MS法人の組み合わせを試算してから進めると、法人化した後の想定外を防げます。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正・社会保険料率を反映)

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