人材定着のポイントは、離職の理由を数字と面談でつかみ、入社直後のフォロー、評価と処遇の説明、働き方の柔軟性、賃金の見直しに優先順位をつけて取り組むことです。定着率を毎年同じ方法で測り、採用費や研修費とあわせて費用対効果で見直すと、限られた予算でも成果につなげやすくなります。
この記事の結論
人材定着は「なぜ辞めるのか」を把握し、離職が集中しやすい入社直後と、評価・処遇・働き方の不満に手を打つことが要点です。効果は定着率と採用コストで測ります。
- 定着率は、期首に在籍していた人のうち期末まで残った人の割合。毎年同じ方法で測って推移を見る
- 入社直後の数か月は面談の頻度を上げ、業務量と人間関係のつまずきを早めに拾う
- 評価の結果が給与や役割にどうつながるかを、面談で言葉にして伝える
- 賃上げは、賃上げ促進税制(中小企業は給与等の増加率1.5%以上で15%、2.5%以上で30%の税額控除)とあわせて計画する
- パートの働き控えには、2026年10月1日に撤廃された社会保険の賃金要件など、年収の壁の最新の扱いを説明する
人材定着率とは?計算方法と、あわせて見たい数字
人材定着率は、一定期間に会社に残った社員の割合を示す指標です。期首に在籍していた社員のうち、期末まで在籍している人の割合で計算します。期の途中で入社した人は、その期の計算からは外して、翌期から数えると比べやすくなります。
| 指標 | 計算の方法 | 見方 |
|---|---|---|
| 定着率 | 期末まで残った人数÷期首の在籍人数 | 会社全体の傾向を毎年同じ方法で比べる |
| 離職率 | 期中の離職者数÷期首の在籍人数 | 定着率と表裏の関係。部署や職種ごとにも出す |
| 入社年ごとの定着率 | 同じ年に入社した人のうち、一定期間後に残っている人の割合 | 早期離職が多い時期と、採用・研修の課題が見える |
| 1人あたりの採用コスト | 求人広告・紹介手数料・面接や教育にかかった時間の合計÷採用人数 | 離職1件で失うお金の大きさが分かる |
計算例:期首100人の会社で、期末に80人が残った場合
例えば、年度の初めに100人の社員がいて、そのうち20人が年度中に辞め、年度末に80人が残っている場合です。
- 定着率:80人÷100人=80%
- 離職率:20人÷100人=20%
年度の途中に入社した人は、この年度の計算には含めません。数字そのものより、前年や部署ごとの数字と比べて変化を見ることが大切です。
定着率は、人事施策や労働環境など多くの要因で変わります。高い定着率は職場の働きやすさの表れである一方、低い定着率は組織内の課題を示している場合があり、経営の方針を考えるうえで参考になる指標です。
社員が辞める理由をどうつかむ?離職理由の分析
定着率を上げるには、まず離職の本当の理由をつかむことが出発点です。退職時の面談だけでは本音が出にくいため、在職している社員の声も定期的に集めます。
| 離職の理由の例 | つかみ方 | 主な打ち手 |
|---|---|---|
| 業務量が多い・偏っている | 勤怠の記録で残業時間を部署・個人別に見る | 業務の分担の見直し、手作業のIT化、増員の検討 |
| 人間関係・相談相手がいない | 入社後の定期面談、在職者アンケート | メンター制度、上司との1対1の面談 |
| 評価や給与に納得できない | 評価面談の記録、アンケートの自由記述 | 評価の基準と、給与・役割への反映の仕方を説明する |
| 将来の姿が見えない | キャリアの希望を聞く面談 | キャリアプランの提示、教育・研修の計画 |
| 働き方が合わない | 家庭の事情や通勤の負担の聞き取り | フレックスタイム制度、リモートワーク、シフトの柔軟化 |
原因がつかめたら、PDCAサイクル(計画・実行・評価・改善)で施策を回します。現状の数字をもとに目標を決め、施策を実行し、結果を評価して次の施策に反映させる流れを繰り返すことで、取り組みの精度が上がります。
- 現状を数字で把握する定着率・離職率・入社年ごとの定着率と、離職の理由を一覧にします。
- 目標と対象を絞る「入社1年以内の離職を減らす」のように、対象と目標を一つに絞ります。
- 施策を決めて実行する面談の頻度、メンターの担当、評価の説明の仕方など、誰が何をいつやるかを決めます。
- 結果を評価して直す半年から1年ごとに数字と社員の声を確かめ、効果のない施策はやめ、効果のある施策を広げます。
定着率を上げる具体的な施策は?優先順位のつけ方
施策は数多くありますが、すべてを一度に始める必要はありません。離職の理由に直接効くものから、費用と手間の小さい順に始めるのが現実的です。社員が「自分が大切にされている」と感じられる環境づくりが、どの施策にも共通する土台になります。
| 施策 | 効きやすい離職の理由 | 始めるときのポイント |
|---|---|---|
| 入社直後の定期面談・メンター制度 | 人間関係、業務へのつまずき | 入社後の数か月は面談の頻度を上げる。メンターは直属の上司以外から選ぶと相談しやすい |
| 評価制度の見直しと説明 | 評価・給与への不満 | 評価の結果が給与や役割にどうつながるかを、面談で根拠とともに伝える |
| 教育・研修とキャリアプラン | 将来の姿が見えない | 本人のキャリアの希望に沿った研修を選び、身につけたことを役割に反映する |
| 柔軟な働き方(フレックスタイム・リモートワーク・シフトの柔軟化) | 家庭の事情、通勤の負担 | 対象の業務と運用のルールを決め、勤怠の管理と両立させる |
| 社員の意見を取り入れた業務改善 | 業務量の多さ、やりがい | 現場から改善の提案を集め、採用した提案は結果まで共有する |
| 賃金の見直し・福利厚生 | 給与水準への不満 | 賃上げ促進税制や退職金・年金の制度とあわせて、会社の負担を試算する |
中小企業が人材を確保・定着させるには、自社の文化や強みを採用の段階から伝え、入社後の教育やキャリアの道筋を示し、社員との対話を続けることが基本です。国や自治体の助成金・支援策も選択肢の一つで、人事労務の制度の動きは人事労務・最低賃金・社会保険の最新情報で、助成金の公募の動きは補助金・助成金・資金調達の最新情報で確認できます。
賃上げで定着を図るなら?賃上げ促進税制と人件費の見込み
賃金の水準は、定着に大きく影響します。賃上げをする場合は、税額控除を受けられる賃上げ促進税制と、社会保険料を含めた会社の負担をセットで試算しておくと、無理のない計画になります。
| 項目 | 中小企業向けの内容(2026年10月時点) |
|---|---|
| 対象の期間 | 法人は2024年4月1日から2027年3月31日までに開始する事業年度、個人は令和7年分から令和9年分 |
| 税額控除の割合 | 給与等の支給額が前年度より1.5%以上増えれば増加額の15%、2.5%以上増えれば30%。くるみん・えるぼしの認定などで5%上乗せ |
| 控除の上限と繰越し | 法人税額(個人は所得税額)の20%まで。控除しきれない分は5年間繰り越せる(要件あり) |
| 教育訓練費の上乗せ | 2026年3月31日までに開始する事業年度(個人は令和8年分)で終了。2026年4月1日以後に開始する事業年度は使えない |
計算例:給与等の支給額を2.5%増やした中小法人
例えば、前期の給与等の支給額が3,000万円、当期が3,075万円、当期の法人税額が200万円の中小法人の場合です。
- 増加額:3,075万円−3,000万円=75万円
- 増加率:75万円÷3,000万円=2.5%
- 税額控除の額:75万円×30%=225,000円
- 控除の上限:200万円×20%=40万円
税額控除の額は上限の範囲内なので、225,000円を法人税額から差し引けます。賃上げの負担の一部を、税金の減少で取り戻せる計算です。
ツール賃上げ促進税制の税額控除を自動計算する前期と当期の給与等の支給額を入れると、控除の割合と税額控除の見込み額を確認できます。計算する
北海道の会社が賃金を見直すときの前提
北海道の最低賃金は2026年10月1日から1,131円になり、前年の1,075円から56円(5.21%)上がりました。パート・アルバイトの時給がこれを下回っていないかを、まず確認します。
賃上げをすると社会保険料の会社負担も増えます。協会けんぽ北海道の令和8年度の保険料率は健康保険10.28%、介護保険1.62%で、2026年4月分からは子ども・子育て支援金0.23%も加わります(いずれも労使で折半)。給与の増加分だけでなく、こうした負担も含めて人件費を見込みましょう。
パートの定着と働き控え:年収の壁と社会保険の改正
パート・アルバイトの方が「扶養の範囲で働きたい」と勤務時間を抑える働き控えは、人手不足の会社にとって定着と同じくらい大きな課題です。年収の壁の扱いは2025年から2026年にかけて大きく変わったため、正しい情報を会社から説明できると、安心して長く働いてもらいやすくなります。
| 壁・制度 | 2026年10月時点の扱い | 会社として説明したいこと |
|---|---|---|
| 社会保険の加入(いわゆる106万円の壁) | 賃金の要件(月8.8万円)は2026年10月1日に撤廃。週20時間以上・企業規模51人以上・学生でないことが要件。企業規模の要件は2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上、2032年10月に11人以上へと広がり、2035年10月には10人以下も対象になる | 年収ではなく働く時間で加入が決まること、自社がいつ対象になるか |
| 保険料調整制度 | 2026年10月1日から、新たに適用となった事業所などで、標準報酬月額12.6万円以下の短時間労働者の保険料の一部を事業主が追加で負担できる(通算3年。会社の最終的な負担は増えない仕組み) | 加入しても手取りが急に減らないよう、会社が負担を分担できること |
| 家族の扶養(130万円の壁) | 原則130万円未満(60歳以上・障害者は180万円未満、19〜22歳(配偶者を除く)は150万円未満)。2026年4月1日からは労働契約上の見込みの年収で判定。一時的な増収は事業主の証明で、原則連続2回まで扶養を続けられる | 繁忙期の一時的な残業で、すぐに扶養から外れるわけではないこと |
| 本人の所得税(給与のみ) | 令和8・9年分は年収178万円以下なら所得税がかからない(令和7年分は160万円) | 所得税の「103万円の壁」はなくなっていること |
| 家族の税金の扶養(給与のみ) | 令和8年分は配偶者控除・扶養控除が給与136万円以下、配偶者特別控除が207万円未満 | 税金の扶養と社会保険の扶養は基準が違うこと |
短時間労働者の労働時間を延ばして社会保険に加入させる場合は、キャリアアップ助成金の労働時間延長支援コース(最大75万円)が使える場合があります。なお、同じ助成金の社会保険適用時処遇改善コースは2026年3月31日で終了しています。シニアの社員については、在職老齢年金で年金が減り始める基準額が、2026年4月から50万円から62万円に引き上げられており、働く時間を増やしやすくなっています。
賃上げ促進税制が使えるか、パートの社会保険の加入で人件費がどう変わるかは、給与の総額と会社の規模で変わります。初回無料で試算できます。
無料で相談する見落としやすいポイントと、定着施策の費用対効果の見方
施策を重ねても効果が出ないときは、次のような基本が抜けていることがあります。
| 見落としやすい点 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 入社直後のフォロー不足 | 離職は入社してまもない時期に集中しやすい | 初めの数か月は面談の頻度を上げ、業務量と人間関係のつまずきを早めに拾う |
| 評価と処遇の説明不足 | 評価制度があっても、給与や役割への反映が見えず不公平感が生まれる | 評価面談で、結果と根拠を言葉にして伝える |
| 退職者の声だけに頼る分析 | 退職時のヒアリングは本音が出にくく、課題の発見が遅れる | 在職者への定期的なアンケートや1対1の面談を組み合わせる |
| 労務の体制の未整備 | 残業の管理や有給休暇の取得などの基本が整わず、施策の効果が出にくい | 就業規則と勤怠の運用を、社会保険労務士などの専門家と整える |
定着の取り組みは「気持ちの問題」ではなく、コストの問題として捉えると優先順位をつけやすくなります。例えば、求人広告や人材紹介の手数料、入社後の教育にかかる先輩社員の時間まで含めて1人の採用に100万円かかっていた場合、早期離職が1件減るだけで、同じ金額を福利厚生や賃上げの原資に回せる計算になります。
そのためには、研修費・福利厚生費・採用費を月次の試算表で科目を分けて把握し、施策ごとに「何にいくら使い、離職がどう変わったか」を年単位で振り返ります。数字があれば、効果が見えない施策をやめる判断も、感情に流されずにできます。定着につながる制度には、税務上の扱いを確認しておきたいものもあります。
- 中小企業退職金共済(中退共)の掛金は、全額を損金(個人事業主は必要経費)にできる
- 企業型確定拠出年金(企業型DC)の事業主掛金は損金になり、拠出の限度額は2026年12月1日から月6.2万円に引き上げられる
- 業務に必要な研修の費用は研修費として経費になる。社員旅行や社内行事の費用は、全員を対象とするなどの要件を満たせば福利厚生費になる
人件費の計画や賃上げの税務は、月次の数字を見ながら判断すると精度が上がります。会計・税務顧問では、試算表をもとに人件費と利益の見通しを一緒に確認しています。
よくある質問
定着率はどのくらいあれば良いのですか?
業種や職種、雇用形態によって大きく異なるため、一律の目安はありません。他社の数字より、自社の前年との比較や、部署・入社年ごとの比較で変化を見るほうが、打ち手を考えやすくなります。
社員が数人の会社でもできる定着策はありますか?
あります。月1回の1対1の面談、入社時に相談相手を決めておくこと、仕事の手順を文書にして新人が一人で調べられるようにすることは、費用をかけずに始められます。評価や昇給の考え方を口頭でも説明しておくと、不公平感を減らせます。
赤字の会社でも賃上げ促進税制は使えますか?
賃上げ促進税制は税額控除のため、法人税額がない年には控除を受けられません。ただし中小企業者等は、控除しきれなかった額を5年間繰り越し、繰越し先の年に要件を満たせば、その年の税額から控除できます。
就業規則や労務の相談は、税理士にできますか?
就業規則の作成や社会保険の手続きは、社会保険労務士の業務です。人件費の計画、賃上げ促進税制、給与にかかる源泉徴収や年末調整などの税金のことは、税理士に相談するのが一般的です。
まとめ
人材定着は、定着率と離職の理由を把握し、入社直後のフォロー、評価と処遇の説明、柔軟な働き方、賃金の見直しを優先順位をつけて進める、継続的な取り組みです。賃上げは賃上げ促進税制と社会保険料の負担を含めて試算し、パートの方には2026年10月時点の年収の壁の扱いを説明しましょう。研修費や採用費を月次で把握し、施策の効果を数字で振り返ることが、社員が長く働き続けられる会社への近道です。
札幌の公認会計士・税理士事務所
人件費の計画・賃上げ促進税制のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
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- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
