マイクロ法人とは、社長1人(または家族だけ)で運営する小さな会社のことで、法律上の特別な区分ではありません。個人事業との違いは、税率の仕組み・社会保険への加入・赤字でもかかる均等割などの維持費にあり、利益の水準と役員報酬の設計で損得が分かれます。
この記事の結論
マイクロ法人は、事業の利益が安定して出ていて、役員報酬と法人の利益に分けて考えられる場合に意味が出る形です。設立すると社会保険への加入、毎年の決算・申告、赤字でもかかる均等割が必要になるため、手取りの比較をしてから決めます。
- 法人は役員1人だけでも、健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になる
- 法人の所得には法人税等がかかり、役員報酬は給与として個人の所得税・住民税の対象になる
- 設立時は登録免許税(株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)などがかかる
- 売上がなくても、決算・申告と均等割(札幌市内の最小規模の法人で年7万円)の納付が毎年必要
- 会社員の副業で作る場合は、勤務先の就業規則と社会保険の扱いを先に確認する
マイクロ法人とは?個人事業との違いを一覧で
マイクロ法人は、従業員を雇わず、社長1人や家族だけで運営する株式会社・合同会社を指す呼び方です。法人格は登記によって成立し、資本金は1円からでも設立できます。会社員が副業の受け皿として作る場合や、個人事業を続けながら別の事業を法人で行う場合(いわゆる二刀流)にも使われます。
| 項目 | 個人事業 | マイクロ法人 |
|---|---|---|
| 始め方 | 開業届を出す(開業の日から1か月以内) | 定款を作り、法務局で設立の登記をする |
| 所得への課税 | 事業所得に所得税(5〜45%の累進税率)・住民税・個人事業税 | 法人の所得に法人税等。役員報酬は個人の給与所得として課税 |
| 社会保険 | 国民健康保険・国民年金 | 健康保険・厚生年金保険(役員1人でも強制適用) |
| 赤字のとき | 所得税と住民税の所得割はかからない | 均等割(札幌市内の最小規模で年7万円)がかかる |
| 決算・申告 | 翌年の確定申告(原則2月16日〜3月15日) | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内に申告・納付 |
| 本人への支払 | 事業主本人への給与は経費にならない | 役員報酬は要件を満たせば法人の損金になる |
| 対外的な信用 | 取引先によっては法人との取引を求められる | 法人格があることで取引や融資の場面で信頼を得やすい場合がある |
最大の違いは、事業の利益が「個人の所得」として課税されるか、「法人の所得」と「役員報酬」に分かれて課税されるかです。この分け方を設計できる点がマイクロ法人の特徴で、同時に社会保険の加入と維持の手間を引き受けることになります。
税金はどう変わる?個人と法人の税率の仕組み
個人の所得税は、課税所得が増えるほど税率が上がる累進課税です。法人税は、中小法人なら年800万円以下の部分の税率が低く抑えられています。所得の水準によっては、利益の一部を法人に残すことで、全体の税負担が変わる場合があります。
| 区分 | 個人事業(事業所得) | マイクロ法人(法人の所得) |
|---|---|---|
| 国税 | 所得税:課税所得195万円以下5%〜4,000万円超45%の7段階(別に所得税額×2.1%の復興特別所得税) | 法人税:年800万円以下の部分15%(中小法人、2027年3月31日までに開始する事業年度)、超える部分23.2%。地方法人税は法人税額の10.3% |
| 地方税(所得に応じる部分) | 住民税の所得割10%(市民税8%・道民税2%)、個人事業税は多くの業種で5%(事業主控除290万円) | 法人事業税(北海道):所得400万円以下3.5%・800万円以下5.3%・超える部分7.0%。法人住民税の法人税割:道1.0%・市6.0%(法人税額に対して) |
| 赤字でもかかるもの | 住民税の均等割(所得が一定以下なら非課税) | 法人住民税の均等割:資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら道2万円+市5万円で年7万円 |
計算例:課税所得800万円にかかる税金の比較の目安
例えば、個人事業の課税所得が800万円の場合(住民税の課税所得も同額と仮定)。
- 所得税:800万円×23%−636,000円=1,204,000円(別に復興特別所得税)
- 住民税の所得割:800万円×10%=80万円
- 合計:1,204,000円+80万円=2,004,000円(このほか個人事業税)
同じ800万円が中小法人の所得の場合(2027年3月31日までに開始する事業年度)。
- 法人税:800万円×15%=120万円
- 地方法人税:120万円×10.3%=123,600円
- 合計:1,200,000円+123,600円=1,323,600円(このほか法人住民税・法人事業税・特別法人事業税・均等割)
ただし、法人に残した利益を個人で使うには、役員報酬や配当として受け取る必要があり、そのときに所得税・住民税と社会保険料がかかります。損得は「法人の税金」だけでなく、「役員報酬にかかる税金と社会保険料」まで合計して比べるのが基本です。役員報酬は給与として給与所得控除を差し引けるため、法人の利益と報酬の配分で手取りが変わります。
無料ツールマイクロ法人シミュレーターで比較する個人事業のまま・法人化・個人事業と法人の併用の3パターンで、税金と社会保険料を含めた手取りを比べられます。計算する
役員報酬は、原則として事業年度の開始から3か月以内に改定し、毎月同じ額を払う定期同額給与にしないと、法人の損金にできない部分が生じます。期の途中で利益に合わせて増減させることはできないため、設立時の報酬額の決め方が大切です。
無料ツール役員報酬の最適化をシミュレーションする法人の利益と役員報酬の配分を変えたときの、法人と個人の税金・社会保険料の合計を試算できます。計算する
社会保険はどうなる?役員1人でも加入が必要
法人の事業所は、役員1人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。個人事業所は、法定の業種で常時5人以上を使用する場合に強制適用となるため、ここが個人事業との大きな違いです。役員報酬を受け取る役員は被保険者となり、報酬の額に応じた保険料を会社と本人で半分ずつ負担します。
計算例:役員報酬が月30万円の場合の社会保険料
例えば、標準報酬月額が30万円で、協会けんぽ北海道支部に加入する40歳未満の役員の場合(2026年4月分以後の料率)。
- 健康保険:30万円×10.28%=30,840円
- 厚生年金保険:30万円×18.3%=54,900円
- 子ども・子育て支援金:30万円×0.23%=690円
- 合計:30,840円+54,900円+690円=86,430円(会社負担分と本人負担分の合計)
40歳以上65歳未満の方は、介護保険料(1.62%)が加わります。マイクロ法人では会社も自分のものなので、会社負担分も含めた全額が実質的な負担になります。
保険料が増える一方で、厚生年金に加入することで将来の年金は国民年金だけの場合より手厚くなり、健康保険では扶養の仕組みも使えます。保険料を抑える目的で役員報酬を極端に低くすると、将来の年金も少なくなる点はあわせて考えておきます。
会社員の副業なら「二以上事業所勤務」に注意
会社員が自分のマイクロ法人からも役員報酬を受け取ると、勤務先と自分の会社の両方で被保険者になります。この場合は届出が必要で、二つの報酬を合算した額で保険料が決まり、報酬の割合に応じて各社に振り分けられます。副業の法人で社会保険料が二重にかかるイメージを持たれがちですが、実際の負担は合算の仕組みで試算します。
設立と維持の費用はいくら?合同会社と株式会社の違い
設立時の法定費用の中心は登録免許税で、税率は資本金の額の0.7%、最低額は株式会社15万円・合同会社6万円です。株式会社はこれに加えて、公証人による定款の認証の手数料がかかります。紙の定款には収入印紙が必要ですが、電子定款なら不要です。
| 時期 | 主な費用 | ポイント |
|---|---|---|
| 設立時 | 登録免許税、定款認証の手数料(株式会社)、印鑑、登記事項証明書など | 特定創業支援等事業の証明書があれば、登録免許税は株式会社7.5万円・合同会社3万円に(札幌市内での設立のみ) |
| 毎年 | 法人住民税の均等割、税理士への報酬、会計ソフト、法人口座の手数料 | 均等割は赤字でもかかる。決算・申告を自分で行うかで負担が変わる |
| 毎月 | 社会保険料(役員報酬を払う場合) | 役員報酬の額で決まり、会社負担分も含めて考える |
札幌市内で法人を設立する場合は、さっぽろ新規創業促進補助金(株式会社75,000円・合同会社30,000円。募集は2027年3月31日まで、設立から90日以内か同日の早い日までに申請)も確認しておきましょう。法定費用の内訳は「株式会社設立の費用はいくら?法定費用の内訳」、顧問契約を含めた費用の考え方は「マイクロ法人の設立・顧問の費用の内訳」で解説しています。
合同会社が向く場合
- 設立費用を抑えたい(登録免許税の最低額6万円、定款認証は不要)
- 出資者と経営者が同じで、意思決定を早くしたい
- 役員の任期がなく、任期ごとの変更登記を避けたい
株式会社が向く場合
- 取引先や金融機関からの信用を重視したい
- 将来、出資者を迎えたり株式で事業を引き継いだりしたい
- 役員の任期ごとの変更登記の手間は許容できる
設立の手順と、税務署などへの届出の期限
- 基本事項を決める商号(既存の会社との重複を確認)、事業目的、本店所在地、資本金、事業年度、役員を決めます。
- 定款を作る株式会社は公証人の認証を受けます。許認可が必要な事業は、事業目的の書き方も確認します。
- 資本金を払い込む発起人の個人口座に資本金を振り込み、払込みを証明する書類を作ります。
- 法務局に設立の登記を申請する登記を申請した日が会社の設立日になります。
- 税金と社会保険の届出をする税務署・道・市への届出と、年金事務所への社会保険の新規適用の届出を行います。
- 口座と会計の準備をする法人口座を開設し、個人のお金と分けて記帳を始めます。
| 届出 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 法人設立届出書 | 税務署 | 設立の日以後2か月以内 |
| 青色申告の承認申請書 | 税務署 | 設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日のうち、いずれか早い日の前日まで |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 開設の日から1か月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 税務署 | 随時(提出した月の翌月末日までに通知がなければ、翌々月の納付分から適用) |
| 法人設立・設置の届出 | 北海道(道税事務所)・市町村 | 各自治体の定める期限まで(窓口で確認) |
| 健康保険・厚生年金保険の新規適用の届出 | 年金事務所 | 設立後速やかに(期限は日本年金機構の案内で確認) |
青色申告の承認申請は、期限を過ぎると最初の事業年度から青色申告ができず、赤字を翌年度以降に繰り越す欠損金の繰越控除なども使えなくなります。源泉の納期の特例は、給与の支払を受ける人が常時10人未満なら、源泉所得税を1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日にまとめて納められる制度です。依頼から設立・届出までの段取りは「マイクロ法人の設立・顧問:依頼から完了までの流れ」で紹介しています。
札幌市内に本店を置く場合の提出先
税務署は本店所在地で決まります。例えば北区・東区は札幌北税務署、白石区・厚別区は札幌東税務署の管轄です。中央区は西側の一部が札幌西税務署の管轄になるため、国税庁の管轄区域表で確認してください。
2026年7月10日からは、市内5署の内部事務が札幌業務センターに集約されています。書面で提出する場合は同センターへ郵送し、e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署が対象です。
会社員の副業・売上ゼロのときに注意することは?
副業で作るなら、就業規則と住民税の通知を確認
会社員がマイクロ法人を運営する場合は、勤務先の就業規則で副業が制限されていないか、届出が必要かを事前に確認します。法人から役員報酬を受け取ると給与所得として合算されるため、住民税の通知を通じて勤務先が副収入に気づくこともあります。隠すことを前提にせず、規程に沿って届け出るのが安全です。
売上がなくても、決算・申告と均等割は毎年必要
マイクロ法人は売上がない状態でも法人として扱われるため、毎年の決算と法人税等の申告の義務は続きます。均等割は赤字でも納付が必要で、期限内の申告を怠ると、青色申告の承認を取り消されることもあります。赤字の年度も申告しておけば、青色申告の法人なら欠損金を10年繰り越して、黒字になった年度の所得と相殺できます。
2026年4月1日以後に開始する事業年度からは、防衛特別法人税の申告も始まります。税額は(基準法人税額−500万円)×4%で、多くのマイクロ法人では税額が0になりますが、税額が0でも申告は必要です。
実態のない法人・根拠のない付け替えは否認されやすい
税金や社会保険料を減らす目的だけで事業の実態がない法人を作ったり、個人事業の売上や経費を根拠なく法人に付け替えたりすると、税務調査などで否認されるおそれがあります。個人事業と法人の両方を続ける場合は、事業の区分、契約書、請求書、口座を分け、取引の価格が妥当か説明できるようにしておきます。
利益が出ていない年度や経費が多額になった年度は、税務署から内容を確認されることもあります。日頃から正確な記録を残し、資金の使いみちを明確にしておくことが、問い合わせへの一番の備えになります。
マイクロ法人が向いている人・向いていない人
向いている人
- 事業の利益が安定して出ていて、所得税の税率が高くなってきた
- コンサルティング・制作・講師業など、設備が少なく自分の専門知識で稼ぐ事業
- 取引先から法人との契約を求められている
- 将来の事業拡大や融資を見据えて、会社の決算書を積み上げたい
向いていない人
- 利益が少ない、または年によって大きく変わる
- 均等割・税理士への報酬・社会保険料などの維持費が負担になる
- 勤務先の就業規則で副業が禁止されている
- 個人事業のまま青色申告特別控除で十分に対応できる
マイクロ法人の設立にはメリットがある一方、法人化が最善とは限りません。個人事業なら手続きや維持の負担が軽く、青色申告特別控除は令和8年分まで最大65万円、令和9年分からは要件を満たせば75万円になります。まずは個人で事業を始め、利益の水準を見て法人化を検討する進め方も選択肢の一つです。
個人事業のままがよいか、マイクロ法人を作るかは、利益の水準と役員報酬・社会保険の設計で結論が変わります。初回無料で試算をご相談いただけます。
無料で相談するよくある質問
資本金は1円でも設立できますか?
会社法上は1円でも設立できます。ただし資本金は会社の当面の運転資金にもなり、取引先や金融機関が会社の規模を見る目安にもなります。資本金を1,000万円以上にすると、設立1期目から消費税の課税事業者になる特例があるほか、均等割の区分も変わるため、少額で設立するのが一般的です。
マイクロ法人でもインボイスの登録は必要ですか?
取引先が事業者で、仕入税額控除のためにインボイスを求められるなら登録を検討します。登録すると消費税の課税事業者になります。売上税額の2割を納める2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わり、個人向けの3割特例は法人には使えないため、簡易課税の選択も含めて判断します。
家族を役員にして報酬を払えますか?
払えます。ただし、仕事の実態と報酬の額が見合っていることが前提です。役員報酬は原則として事業年度の開始から3か月以内に決め、毎月同じ額を払う必要があります。家族が受け取る報酬にも、所得税・住民税と、要件によっては社会保険料がかかります。
マイクロ法人を作ったら、個人事業は廃業すべきですか?
事業の内容が異なれば、個人事業と法人を併存させることもできます。同じ事業を両方で行うと、売上や経費の区分があいまいになり説明が難しくなるため、事業ごとに分けて契約と口座を管理します。
設立の手続きは自分でできますか?
定款の作成から登記の申請、届出まで自分で行うこともできます。役員報酬の額や事業年度の決め方は設立後の税金と社会保険料に影響するため、手続きの前に専門家と試算しておくと、設立後の手戻りを防げます。
まとめ
マイクロ法人は、社長1人や家族だけで運営する小さな会社で、利益を法人の所得と役員報酬に分けて考えられる点が個人事業との大きな違いです。一方で、役員1人でも社会保険の加入が必要になり、売上がなくても決算・申告と均等割が毎年かかります。法人の税金と役員報酬にかかる税金・社会保険料を合計した手取りで比べ、勤務先の規程も確かめてから設立を判断してください。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
