眼科クリニックを個人で開業するときは、開業届(開業の日から1か月以内)と青色申告承認申請書(原則3月15日まで、1月16日以後の開業は2か月以内)を軸に、税務の届出を期限から逆算してそろえます。あわせて、高額な医療機器の減価償却、自由診療とコンタクトレンズ販売の消費税を開業前に設計しておきます。
この記事の結論
税務の届出は開業前に期限から逆算して準備し、眼科特有の「高額機器」「自由診療」「コンタクト販売」の三つは、経理の区分と消費税の扱いを開業前に決めておきます。
- 開業届は開業の日から1か月以内、青色申告承認申請書は原則その年の3月15日まで(1月16日以後の開業は2か月以内)
- スタッフを雇うなら給与支払事務所等の開設届出書(1か月以内)と、源泉所得税の納期の特例(常時10人未満)を検討する
- 手術装置などの高額機器は減価償却で費用にする。支払いが先に出るため資金計画に織り込む
- 保険診療は非課税、自由診療とコンタクト・眼鏡の物販は課税。保険・自費・物販を分けて集計する
- 医療機器は、市町村への償却資産の申告(毎年1月31日)の対象になる
眼科の開業で必要な税務の届出は?期限の一覧
税務署への届出は、開業届と一緒に出せるものをまとめて準備すると漏れを防げます。源泉所得税の納期の特例や青色事業専従者給与の届出にも、適用を受けたい時期から逆算した期限があります。
| 届出書類 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業届出書 | 税務署 | 開業の日から1か月以内 |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 税務署 | その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は、開業の日から2か月以内) |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 税務署 | 原則その年の3月15日まで(1月16日以後の開業や、新たに専従者がいることになった場合は、その日から2か月以内) |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 開設の日から1か月以内 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 税務署 | 提出した月の翌月末日までに通知がなければ、翌々月の納付分から特例が適用(給与の支給人員が常時10人未満) |
| 消費税簡易課税制度選択届出書(選ぶ場合) | 税務署 | 適用したい課税期間の初日の前日まで(開業した課税期間は、その期間中) |
あわせて、医療法に基づく診療所開設の手続き(札幌市保健所など所在地の保健所)と、保険医療機関の指定申請(北海道厚生局)も並行して進めます。様式や受付の時期は各機関の案内で確認してください。
院内でコンタクトレンズを販売する場合は、税務とは別に許可が必要です。コンタクトレンズは高度管理医療機器に当たり、販売には医薬品医療機器等法に基づく販売業の許可が求められます。申請先と要件は、開業前に保健所などの窓口で確認しておきます。
青色申告承認申請書の出し忘れに注意
期限を過ぎると、その年は白色申告になり、青色申告特別控除(令和8年分まで最大65万円、令和9年分からは要件を満たすと75万円)や赤字の繰越しが使えません。開業届と同じ日に出しておくと、出し忘れを防げます。
開業前の支出と、最初の1年の資金の流れは?
開業前に支払った広告費、内覧会の準備費、開業前の研修や打合せの費用などは「開業費」として資産に計上し、開業後の好きな年に経費にできます。一方、開業前に買った医療機器は開業費ではなく、使い始めた日から減価償却の対象になります。
資金の面で見落としやすいのが、売上と入金のずれです。保険診療の報酬は、診療した月の翌々月をめどに入金されます。売上は診療した月に計上するため、開業から数か月は帳簿上の売上に入金が追いつかず、その間の人件費や家賃は手元資金でまかなうことになります。
- 保険診療・自由診療・物販の売上を、科目か補助科目で分けて記帳する
- 診療報酬の未収分と、医療ローンなど自由診療の未入金分を毎月残高で管理する
- 開業後数か月分の運転資金を、機器や内装の資金とは別に確保する
- 2年目に予定納税(前年分の所得税が一定額以上の場合、7月と11月)が来る前提で納税資金を積み立てる
- 会計ソフトと電子帳簿の保存方法を開業時に決める(e-Taxでの申告か電子帳簿保存が65万円控除の要件)
確定申告や予定納税、償却資産の申告など、開業後1年の税務の予定は個人事業主の年間スケジュールで確認できます。
高額機器の経理:減価償却とリースの選択
眼科は、OCT(光干渉断層計)や手術装置など開業時の機器投資が数千万円規模になることも珍しくありません。購入した機器は支払った年に全額が経費になるのではなく、耐用年数にわたって減価償却で費用にします。例えば白内障の手術装置を1,500万円で購入した場合、経費化は数年がかりで進む一方、支払いは先に発生します。この「資金と経費のずれ」を開業資金の計画に織り込みます。
| 取得価額 | 処理 | 眼科での例と注意点 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 消耗品費などとして全額をその年の経費にできる | 小型の検査器具、待合室の備品など |
| 20万円未満 | 一括償却資産として3年で均等に経費化も選べる | 償却資産の申告の対象外 |
| 40万円未満 | 少額減価償却資産の特例で全額を経費にできる(年300万円まで) | 青色申告の中小事業者が対象。2026年4月1日以後の取得から(それまでは30万円未満)。償却資産の申告の対象 |
| 上記以外 | 耐用年数に応じて減価償却 | OCTや手術装置などの医療機器。中古品は新品と異なる見積耐用年数を使う |
ツール少額資産の処理方法を3択で比較する即時の経費化・一括償却・少額減価償却資産の特例のどれが有利か、金額を入れて比べられます。計算する
高額な医療機器には特別償却などの優遇制度が使える場合がありますが、対象となる機器や要件は年度ごとに変わります。取得する年度の制度を、発注の前に確認しておきます。リースは初期資金を抑えられる反面、総支払額は増えがちなため、損益と資金繰りの両面から比較します。
医療機器や内装設備は、市町村への償却資産の申告(毎年1月31日、休日の場合は翌開庁日)の対象です。償却資産の免税点は150万円ですが、令和9年度分(2027年1月1日の賦課期日)から180万円に上がります。眼科は機器が多いため、開業の翌年から申告が必要になると考えておきます。
具体例:機器の保守費用と資本的支出の見分け方
例えば、OCTや手術装置の修理に50万円かかった場合、故障を元の状態に戻す通常の維持管理であれば、修繕費として全額をその年の経費にできます。一方、性能を大きく高める改良であれば、資本的支出として減価償却の対象になることがあります。
金額だけでなく修理の内容で処理が変わるため、請求書や見積書の内訳(部品交換か、機能の追加か)を確認して保存しておきます。
自由診療とコンタクト販売の消費税はどうなる?
保険診療の収入は消費税が非課税ですが、レーシックやICL、オルソケラトロジーといった自由診療は原則として課税対象です。コンタクトレンズや眼鏡の物販も課税売上に当たり、期末には在庫の棚卸が必要になります。保険診療と自費が組み合わさる診療では、患者から受け取る料金ごとに課税か非課税かを確認します。
| 収入の種類 | 消費税 | 簡易課税の事業区分 |
|---|---|---|
| 保険診療(社会保険診療) | 非課税 | 対象外(課税売上高に含めない) |
| 自由診療(レーシック・ICL・オルソケラトロジーなど) | 課税 | 第5種(みなし仕入率50%) |
| コンタクトレンズ・眼鏡の販売 | 課税 | 消費者への販売は小売業として第2種(80%) |
| 診断書などの文書料 | 課税 | 第5種(50%) |
消費税の納税義務は、基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円を超えるかで判定します。非課税の保険診療は含めないため、判定は自由診療・物販・文書料などの合計で行います。簡易課税は、基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら届出により選べます。
機器の消費税は、ほとんど戻らないことが多い
高額な機器を買うと「消費税の還付を受けられるのでは」と考えがちです。しかし本則課税で控除できる仕入れの消費税は、売上全体に占める課税売上の割合などで制限されます。保険診療が中心の眼科では課税売上の割合が低く、機器の消費税の多くは控除できません。
インボイスの登録は、取引先が事業者か消費者かで判断します。患者は消費者なのでインボイスを求められることはほとんどなく、免税事業者のうちは登録を急ぐ必要は低いといえます。法人との契約がある場合などは、インボイス制度の実務ガイドで判断のポイントを確認してください。
無料ツール消費税の課税事業者になるかを判定する基準期間・特定期間の課税売上高などから、納税義務の有無を確認できます。計算する
コンタクト販売を別の事業(別会社など)として切り出す形も見られますが、管理コストや取引整理の手間が増えます。許可の名義や在庫の管理も変わるため、メリットとの比較で慎重に判断したい論点です。
自由診療と物販の比率で、消費税の見通しと機器の買い方は変わります。開業前の計画を初回無料で確認できます。
無料で相談するスタッフを雇うときの手続きは?
視能訓練士や看護師、受付スタッフを雇う場合は、給与支払事務所等の開設届出書を提出し、源泉所得税の納期の特例も検討します。特例の承認を受けると、給与の支給人員が常時10人未満の場合に、源泉所得税の納付を年2回(1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日)にまとめられます。
配偶者が経理や受付を担う場合は、青色事業専従者給与の届出も検討します。届出た金額の範囲内で、仕事の内容に見合う給与を経費にできます。
社会保険は、個人の診療所でも常時5人以上を使用すると、健康保険・厚生年金の強制適用事業所になります。開業時の採用人数と、数年後の増員の計画をあわせて、人件費の見通しを立てておきます。
開業地の税務署と書類の提出先は?
税務署への届出は、診療所の所在地を管轄する税務署に出します。札幌市内であれば、区ごとの管轄は次のとおりです。
| 税務署 | 主な管轄区域 | 電話 |
|---|---|---|
| 札幌中税務署 | 中央区の一部(おおむね西10丁目以東) | 011-231-9311 |
| 札幌北税務署 | 北区・東区・石狩市・石狩郡 | 011-707-5111 |
| 札幌南税務署 | 豊平区・南区・清田区・千歳市・恵庭市・北広島市 | 011-555-3900 |
| 札幌西税務署 | 中央区の一部(大通西11丁目以西・円山・宮の森など)・西区・手稲区 | 011-666-5111 |
| 札幌東税務署 | 白石区・厚別区・江別市 | 011-897-6111 |
書面で出すなら業務センターへ郵送
2026年7月10日から、表の5つの税務署の内部事務は札幌業務センターに集約されています。届出書を書面で郵送する場合は、同センター(〒060-8510)あてに送ります。e-Taxでの提出や、所轄の税務署の窓口への持参もできます。
見落としやすいポイント
| ポイント | 内容と対策 |
|---|---|
| 医療ローン・分割払いの入金時期 | 自由診療で提携ローンを使う患者が多い場合、入金は施術日より遅れます。売上は施術した時点で計上し、入金とのずれを記帳のルールに反映させます |
| 中古機器の耐用年数 | 中古の医療機器は、新品と異なる見積耐用年数を使います。製造年や使用状況の資料を購入時に残しておくと、計算の根拠が明確になります |
| 資格取得・研修費用 | 視能訓練士や看護師の資格取得支援・研修費用は、業務に関連する範囲で経費にできます。福利厚生費か研修費かなど、科目のルールを先に決めます |
| 機器更新の資金計画 | 高額機器は数年ごとの更新が視野に入ります。減価償却が終わる時期と次の投資の時期を合わせて、資金繰りの計画に組み込みます |
| コンタクトの在庫 | 期末に残っているレンズは棚卸資産として計上します。度数ごとの在庫が増えやすいため、数量の管理方法を開業時に決めておきます |
眼科は機器投資の規模が大きく、購入かリースかの判断が資金繰りに直結します。見積りを取る段階で複数の資金調達方法を比べ、減価償却の見通しを税理士と一緒に確認しておくと、開業後のキャッシュフローを見通しやすくなります。医療業界の経営の動きは医療・歯科クリニックの経営に役立つ情報でもまとめています。
よくある質問
開業した年から消費税を納める必要がありますか?
個人で新たに開業した場合、開業した年と翌年は基準期間(前々年)の売上がないため、原則として免税事業者です。ただし翌年は、特定期間(開業した年の1〜6月)の課税売上高と給与等の支払額がどちらも1,000万円を超えると課税事業者になります。インボイスの登録をした場合も課税事業者になります。
個人事業税は保険診療の所得にもかかりますか?
個人事業税は、社会保険診療報酬に対応する所得には課されません。自由診療や物販などの所得が課税の対象になるため、ここでも保険・自費・物販を分けて集計しておくことが役立ちます。
開業届はe-Taxで出せますか?
出せます。開業届・青色申告承認申請書・給与支払事務所等の開設届出書は、いずれもe-Taxで提出できます。書面で郵送する場合の宛先は、前の章で紹介した業務センターです。
開業前に買った医療機器の消費税は、還付を受けられますか?
免税事業者のままでは還付は受けられません。課税事業者を選んで本則課税で申告すれば仕入れの消費税を控除できますが、保険診療が中心だと控除できる割合が低く、効果は限られます。いったん課税事業者を選ぶと一定期間はやめられないため、試算してから判断します。
まとめ
眼科クリニックの開業では、開業届・青色申告承認申請書・給与関係の届出を期限から逆算して開業前にそろえます。そのうえで、高額機器の減価償却と資金のずれ、保険・自費・物販の区分と消費税、コンタクト販売の許可と在庫管理を、診療メニューと開業規模に合わせて設計しておくことが、開業後の税負担と事務量を左右します。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
