食品製造業の開業では、保健所の営業許可と並んで、税務署への開業届や青色申告の承認申請などの届出にも期限があります。出し遅れると、青色申告の特典など本来受けられたはずのメリットを逃すことがあります。届出の一覧と期限に加え、軽減税率・インボイス・棚卸など製造業ならではの論点を整理します。
この記事の結論
まず開業届(開業の日から1か月以内)と青色申告承認申請書を期限内に出し、販路に応じてインボイス登録を判断するのが基本の流れです。製造業は、棚卸資産の評価方法と減価償却の方法の届出も確認しておきます。
- 青色申告承認申請書は、その年の3月15日まで(1月16日以後の開業は開業の日から2か月以内)
- 食品の販売は軽減税率8%、イートインでの飲食の提供は10%。販売先が事業者ならインボイス登録がほぼ前提
- 棚卸・原価の把握・減価償却が製造業の経理の基本。設備は毎年の償却資産の申告も必要
- 開業前の試作費や研修費は、開業費として繰延資産に計上できる場合がある
開業時に出す届出は?税務署・北海道への提出一覧と期限
個人で開業する場合、税務署に提出する主な届出は次のとおりです。青色申告は赤字の繰越しや特別控除など利点が大きいため、期限内の申請を最優先にしてください。
| 届出書 | 期限 | 食品製造業でのポイント |
|---|---|---|
| 個人事業の開業届出書 | 開業の日から1か月以内 | 事業の内容に、製造する品目と販売の形(卸売・直販)を書く |
| 所得税の青色申告承認申請書 | その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は、開業の日から2か月以内) | 期限を過ぎると、その年は白色申告になる |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 青色申告承認申請書と同じ考え方(その年の3月15日まで。1月16日以後に開業した場合などは2か月以内) | 家族が製造や販売を手伝い、給与を払う場合 |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設の日から1か月以内 | パート・アルバイトを雇う場合 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認申請書 | 提出した月の翌月末日までに通知がなければ、翌々月の納付分から適用 | 給与の支給人員が常時10人未満なら、源泉所得税の納付を年2回にできる |
| 棚卸資産の評価方法の届出書・減価償却資産の償却方法の届出書 | 開業した年分の確定申告期限まで | 出さなければ、棚卸は最終仕入原価法、減価償却は定額法で計算する |
| インボイスの登録申請書・消費税の届出 | 選ぶ方法によって異なる | 販路と、課税事業者になるかどうかで判断する |
法人で設立する場合は、法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)や、法人の青色申告承認申請書(設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のうち、早い日の前日まで)など、様式と期限が変わります。
税務署とは別に、北海道(道税事務所)への事業開始の申告も必要です。食品製造業は個人事業税の対象で、所得から事業主控除290万円を引いた額に、製造業の税率5%がかかります。
札幌で開業する場合の提出先
税務署への届出は、住所(納税地)を管轄する税務署に出します。札幌市内は区ごとに5つの税務署に分かれ、中央区は西10丁目付近を境に2つの署に分かれるため、国税庁の管轄区域の案内で確認してください。2026年7月10日からは、書面で出す場合の郵送先が札幌業務センターになっています。
営業許可の窓口は保健所です。市内で開業する場合の窓口や必要書類は、札幌市の公式サイトで最新の情報を確認してください。
食品製造業の消費税は?軽減税率・インボイス・簡易課税の注意点
売上と仕入れで税率が分かれる
食品の販売には消費税の軽減税率8%が適用され、店内での飲食の提供は標準税率10%です。製造小売でイートインを設ける場合や、卸売と直販を両方行う場合は、レジや請求書で税率を分けて管理する体制が必要です。
| 取引 | 税率 | 注意点 |
|---|---|---|
| 菓子・パン・惣菜などの販売(持ち帰り・卸売) | 8% | 酒類を除く飲食料品が対象 |
| イートインでの飲食の提供 | 10% | 持ち帰りか店内での飲食かは、販売時に確認して区分する |
| 小麦粉・砂糖・野菜などの原材料の仕入れ | 8% | 仕入先の請求書で税率ごとに確認する |
| 酒類(洋酒・本みりんなど)の仕入れ | 10% | 菓子や惣菜の原材料に使っても、酒類は10% |
| 包装資材・容器・ラベル、製造機械、電気・ガス・水道 | 10% | 飲食料品ではないため標準税率 |
| 器や雑貨と一体で売るギフト商品 | 条件を満たす場合だけ8% | 「一体資産」として、価格と食品部分の割合の要件を確認する |
飲食料品の税率引下げの動きについて
飲食料品の消費税率を引き下げる政府方針が示されていますが、2026年10月時点では法案の審議中で、現行の税率は8%です。値札やレジの設定は、法律が成立して施行日が決まってから変更します。
販売先が事業者なら、インボイス登録がほぼ前提
販売先がスーパーや飲食店、ホテルなどの事業者であれば、インボイス(適格請求書)の発行を求められるのが通常です。登録すれば消費税の申告・納付が必要になります。免税事業者のままでよいかは販路と利益率を踏まえて判断し、迷う場合は登録前に納税額を試算しておくと安心です。
免税事業者から仕入れた事業者が控除できる消費税の割合は、2026年10月1日〜2028年9月30日の仕入れは70%、2028年10月1日〜2030年9月30日の仕入れは50%と段階的に縮みます。直販中心で買い手のほとんどが消費者なら、登録しない選択もありえます。
登録した場合の計算方法:2割特例・3割特例・簡易課税
開業当初は基準期間の売上がないため、登録しなければ原則として免税事業者です。登録して課税事業者になった個人は、令和8年分まで2割特例(売上の消費税の2割を納付)、令和9・10年分は3割特例を使える場合があります。
簡易課税を選ぶ場合、食品の製造販売は第3種事業(みなし仕入率70%)です。自分で製造した商品を店舗で消費者に売る製造小売も、小売業ではなく第3種に当たります。仕入れた商品をそのまま消費者に売る部分は第2種(80%)、イートインでの飲食の提供は第4種(60%)、原材料の支給を受けて加工だけを請け負うOEMの賃加工も第4種と、事業ごとに区分して記録します。
無料ツール2割特例の納付額を計算するインボイスに登録した場合の消費税の納付額を、2割特例で試算できます。計算する
製造業の経理で押さえる三つの基本は?棚卸・原価・減価償却
第一に棚卸です。年末(法人は期末)には、原材料・仕掛品・製品・包装資材を数えて在庫として計上します。仕入れた材料を全額その年の経費にできるわけではありません。
第二に原価の把握です。材料費・人件費・水道光熱費から製品ごとの原価をつかむと、値付けと利益管理に直結します。最初から細かく作り込もうとすると続かないことが多いため、主要な商品だけでも材料費と製造にかかった時間をざっくり記録することから始めると取り組みやすくなります。
第三が設備の減価償却です。オーブンやミキサー、冷蔵庫、包装機械などは、取得価額によって処理が変わります。
| 取得価額 | 処理 | 償却資産の申告 |
|---|---|---|
| 10万円未満 | 消耗品費などとして、その年の経費 | 対象外 |
| 20万円未満 | 一括償却資産として、3年で均等に経費にすることもできる | 対象外 |
| 40万円未満 | 青色申告の中小事業者は、少額減価償却資産の特例で全額をその年の経費にできる(年300万円まで) | 対象 |
| 40万円以上 | 耐用年数に応じて減価償却する | 対象 |
計算例:オーブンや包装機械に300万円を投資した場合
例えば、開業時にオーブンや包装機械など、1台あたり40万円以上の設備に合計300万円を投資した場合、購入した年に全額は経費になりません。耐用年数に応じて、複数年に分けて減価償却します。
仮に耐用年数10年の定額法(償却率0.100)で、1月から事業に使い始めたとすると、1年目の減価償却費は300万円×0.100=30万円です。年の途中から使い始めた場合は、使った月数で按分します。
ツール少額減価償却資産の特例を計算する40万円未満の設備をその年に一括で経費にできるかと、年300万円の上限を確認できます。計算する
設備を持ったら、毎年の償却資産の申告を忘れずに
製造機械や冷蔵設備などの償却資産を持っている人は、毎年1月1日時点の資産を1月31日(休日の場合は翌開庁日)までに、資産のある市町村に申告します。札幌市の場合、償却資産の免税点は令和8年度分まで150万円、令和9年度分から180万円です。免税点未満でも、申告を求められます。
最初の1年は、記帳と資金管理の型を作る時期でもあります。青色申告特別控除は、令和8年分は正規の簿記で記帳して期限内に申告し、電子帳簿保存かe-Taxで申告すると65万円です。令和9年分からは、仕訳帳と総勘定元帳を電子帳簿保存法の要件で保存するなどの要件を満たすと75万円になります。
仕入先ごとの支払サイトや在庫の回転も、あわせて記録しておくと資金繰りの見通しが立てやすくなります。原材料の代金は先に出ていく一方、卸売の代金は入金が後になることがあるため、開業当初は運転資金に余裕を持たせておきます。
見落としやすいポイント
- 試作・ロスの記録漏れ:試作品づくりで生じた原材料のロスも原価の一部です。記録を残していないと、後から実態をつかみにくくなります。
- 事業用の口座を分けない:生活費と事業の資金が混ざると、経費の線引きがあいまいになり、記帳の手間も増えます。
- 軽減税率・標準税率のレジ設定を後回しにする:開業直後は忙しく後回しにしがちですが、区分ができていないと申告時の集計に苦労します。
営業許可・HACCPと開業前の支出はどう扱う?
食品の製造販売には保健所の営業許可が必要で、HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理はすべての食品事業者に求められています。施設ごとに食品衛生責任者を置く必要もあるため、許可の申請に向けたスケジュールと、税務の届出のスケジュールを一緒に組んでおきます。
許可取得の手数料や、開業前の研修費・試作費・市場調査費などは「開業費」として繰延資産に計上できます。開業費は開業後に任意の時期に償却して経費にできるため、利益が出た年に多く償却するといった調整もできます。開業前の領収書も、捨てずに保存しておきましょう。
具体例:開業費として計上できるものの整理
例えば、次のような開業準備のための支出は、開業費として扱えるのが一般的です。
- 開業前に行った試作や市場調査にかかった材料費
- 視察のための交通費
- 屋号入りの名刺やチラシの印刷費
- 営業許可の申請手数料や、食品衛生責任者の講習の受講料
日付や内容がわかるようにレシートを整理し、何のための支出かをメモしておくと、後から集計するときに迷いません。
開業前に買った設備は開業費ではない
開業前に購入したオーブンや冷蔵庫などの設備は、開業費ではなく減価償却資産です。事業に使い始めた時点から、取得価額に応じて前の節の方法で処理します。
開業準備で税理士に相談すべきタイミングは?
物件を決めた段階、設備投資の見積りが出た段階、屋号や販路の方向性が固まった段階など、計画が具体化するたびに相談すると、届出の期限や資金計画のずれを早めに防げます。特に設備投資は金額が大きくなりやすいため、契約前に減価償却や資金繰りへの影響を確認しておくと安心です。
- 事業計画・収支の見通し:想定する売上規模や仕入れの構成を伝えると、届出の内容や消費税の判断がしやすくなる
- 設備投資の見積書:金額と時期が分かる資料があると、経費にするタイミングを一緒に検討できる
- 開業までのスケジュール:営業許可の取得時期や販売開始の予定日を共有すると、届出の期限を管理しやすくなる
- 販路の予定:直販・卸売・ネット販売の割合と、販売先が事業者か消費者かで、インボイス登録の判断が変わる
個人で始めるか、法人で始めるかもこの段階で検討します。市内で会社を設立する場合は、特定創業支援等事業の証明を受けると、登録免許税が半額(株式会社15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円)になる制度もあります。年間の申告・納付の予定は「個人事業主の年間スケジュール」で確認できます。
インボイス登録や設備の処理は、販路と投資の計画で判断が変わります。初回無料で、届出の順番と期限の確認からご相談いただけます。
無料で相談するよくある質問
自宅の一部を製造場所にした場合、家賃や光熱費は経費になりますか?
製造に使っている部分の面積や使用時間など、合理的な基準で按分すれば、事業に使った部分を経費にできます。なお営業許可は施設ごとに基準があるため、自宅で製造する場合は、施設の要件を保健所に事前に相談しておきます。
ネット販売で送料を別にもらう場合、消費税率はどうなりますか?
食品の代金は8%ですが、別に受け取る送料は飲食料品の販売ではないため10%です。商品代と送料を分けて請求する場合は、税率ごとに区分して記載・集計します。
開業した年は赤字の見込みです。青色申告にする意味はありますか?
あります。青色申告なら、その年の赤字(純損失)を翌年以後に繰り越して、黒字になった年の所得から差し引けます。設備投資や試作で初年度に費用がかさみやすい食品製造業では、開業の年から青色申告にしておく効果が大きくなります。
パートを雇うときに、税金以外で確認することはありますか?
北海道の最低賃金は2026年10月1日から時間額1,131円です。給与支払事務所等の開設届出書のほか、労災保険・雇用保険の手続きも必要になるため、採用の前に時給と勤務時間の設計を確認しておきます。
まとめ
食品製造業の開業では、開業届(1か月以内)と青色申告承認申請書を期限内に出し、棚卸資産と減価償却の方法の届出も確認します。食品の販売は軽減税率8%で、販売先が事業者ならインボイス登録がほぼ前提です。棚卸・原価の把握・減価償却という製造業の経理の基本と、開業前の支出の整理を最初の1年で固めておきましょう。
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
