旅行業・ツアー会社の開業では、観光庁・都道府県への旅行業登録と並行して、開業届や青色申告承認申請書などの税務の届出を進めます。あわせて、手配旅行は手数料だけ、企画旅行は旅行代金の総額が売上になるという計上のルールを、最初に決めておくことが重要です。
この記事の結論
旅行業の開業は「旅行業登録」と「税務の届出」の二本立てで、さらに旅行業特有の売上計上ルールを最初に決めておくことが重要です。登録が下りてから届出を出すと、青色申告のように期限のあるものを逃すおそれがあります。
- 旅行業登録と税務の届出は並行して進める(道内に主たる営業所があれば、第1種以外の登録は北海道が窓口)
- 開業届は開業の日から1か月以内、青色申告承認申請書は1月16日以後の開業なら2か月以内
- 手配旅行は手数料だけ、企画旅行は総額が売上。同じ案件でも課税売上高が大きく変わる
- 原価率の高い企画旅行が中心なら、簡易課税より本則課税が有利になりやすい
- 保証金の資産計上、ガイド報酬の源泉徴収、インボイスを開業直後に整理する
旅行業登録と税務手続きは並行で進める
ツアー会社や旅行代理店の開業では、旅行業登録に目が行きがちですが、税務の届出や経理の設計も同じタイミングで動かす必要があります。登録要件をクリアしても、税務の初動を誤ると後から手間と税負担が増えかねません。
旅行業を営むには、企画旅行を実施する範囲などに応じて、第1種から第3種、地域限定といった区分で登録を受ける必要があります。北海道内に主たる営業所を置く場合、第1種以外は北海道庁が窓口です。
| 登録の区分 | 扱える業務の範囲(概要) | 窓口 |
|---|---|---|
| 第1種旅行業 | 海外・国内の募集型企画旅行を含む旅行業務の全般 | 観光庁 |
| 第2種旅行業 | 海外の募集型企画旅行を除く旅行業務 | 北海道 |
| 第3種旅行業 | 募集型企画旅行は、営業所のある地域とその周辺に限られる | 北海道 |
| 地域限定旅行業 | 企画旅行・手配旅行とも、営業所のある地域とその周辺に限られる | 北海道 |
| 旅行業者代理業 | 所属する旅行業者の代理として旅行商品を販売する | 北海道 |
登録には、営業保証金の供託か、旅行業協会に加入して弁済業務保証金分担金を納める方法のいずれかと、旅行業務取扱管理者の選任が求められます。区分ごとに基準資産額(財産的な基礎)の要件もあります。要件や金額の詳細は、観光庁・北海道の公式サイトで最新情報を確認してください。
この登録準備と並行して、税務署や自治体への届出を進めます。登録が下りてから慌てて出すと、青色申告の承認のように期限のあるものを逃すおそれがあります。観光需要の波が大きい北海道では、繁忙期と閑散期を織り込んだ資金繰り計画も、この段階で作っておきたいところです。
開業時の税務届出一覧(期限と提出先)
個人で開業する場合の主な届出は次のとおりです。様式は国税庁サイトから入手でき、e-Taxでの提出もできます。
| 届出 | 提出先 | 期限 | ポイント |
|---|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書(開業届) | 税務署 | 開業の日から1か月以内 | 営業を始める日を開業日として記載する |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 税務署 | その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内) | 出し忘れると、その年分は白色申告になる |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 税務署 | 開設の日から1か月以内 | スタッフや添乗員を雇う場合 |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 税務署 | 随時(提出した月の翌月末日までに通知がなければ、翌々月の納付分から適用) | 給与の支給人員が常時10人未満の場合。1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日に納付 |
| インボイスの登録申請・消費税の届出 | 税務署 | 方針を決めて必要に応じて | 法人顧客の有無と課税売上高の見込みで判断する |
| 個人事業税の事業開始等申告書 | 北海道(道税の窓口) | 事業開始後すみやかに | 様式と期限は窓口で確認する |
法人で設立する場合
法人で設立する場合は、税務署への法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)と青色申告の承認申請が必要です。加えて、北海道と市町村(札幌市内なら札幌市)への設立届も出します。法人の青色申告承認申請書は、設立の日以後3か月を経過した日と、最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までに出します。
このほか、インボイス発行事業者の登録申請や消費税関係の届出も検討対象になります。提出の期限はそれぞれ異なるため、開業日を起点に一覧表で管理すると漏れを防げます。個人で始めるか法人で始めるかの判断は、旅行業・ツアー会社の法人化のタイミングと判断基準で整理しています。
旅行業特有の売上計上と消費税
ツアー会社の経理で最初に押さえるべきは、売上の計上方法です。ホテルや交通機関を旅行者の代わりに手配する手配旅行では、受け取る旅行代金のうち手数料部分だけが自社の売上になります。一方、自社で造成する企画旅行では、原則として旅行代金の総額を売上にし、ホテル代などを原価として計上します。
| 項目 | 手配旅行 | 企画旅行 |
|---|---|---|
| 売上にする金額 | 手数料部分だけ | 旅行代金の総額 |
| ホテル代・交通費 | 旅行者のための立替金・預り金として処理 | 自社の原価として計上 |
| 消費税の課税売上 | 手数料部分 | 旅行代金の総額(国内旅行の場合) |
| 帳簿で分けること | 手数料収入と立替金・預り金 | 旅行売上と旅行原価(宿泊・交通・バスなど) |
計算例:同じ案件でも売上が10倍変わる
例えば、旅行代金30万円・支払先への原価27万円の案件の場合です。
- 手配旅行の売上:30万円−27万円=3万円
- 企画旅行の売上:30万円(原価27万円は別に計上)
- 売上の差:30万円÷3万円=10倍
同じ案件でも課税売上高が10倍変わります。消費税の免税判定やインボイス対応、簡易課税の選択に直結するため、商品の設計段階から区分を意識してください。
個人の場合、基準期間(前々年)の課税売上高が1,000万円以下なら、原則としてその年は免税事業者です。開業1年目・2年目は基準期間の売上がないため、原則として免税です。ただし、前年1〜6月(特定期間)の売上と給与がともに1,000万円を超えると課税事業者になります。企画旅行が中心だと、総額が売上になる分、この基準を早く超えます。
無料ツール課税事業者になるかを判定する基準期間・特定期間の売上と給与を入れると、消費税の納税義務があるかを確認できます。判定する
海外ツアーとキャンセル料の扱い
海外ツアーは、国際輸送が輸出免税、国外での宿泊や現地の移動などのサービスが不課税になるなど、国内ツアーと消費税の扱いが大きく異なります。国内の移動や国内で提供するサービスは課税のため、一つの商品の中で課税・免税・不課税を分けて集計します。海外商品を扱う予定があるなら、申告方法まで含めて早めに整理しておきます。
旅行者の都合で受け取るキャンセル料(取消料)は、損害賠償の性格を持つため、原則として消費税の不課税です。一方、取消しの事務手数料として受け取る部分は課税になります。規約や請求書で両者を分けて記載しておくと、申告時の集計が正確になります。
簡易課税・2割特例・3割特例は有利か
旅行業は簡易課税ではサービス業の第5種(みなし仕入率50%)です。企画旅行はホテル代や交通費などの課税仕入れが大きいため、実際の仕入れで計算する本則課税のほうが、納付税額が少なくなりやすい業種です。
計算例:企画旅行中心の場合の課税方式の比較
例えば、国内の企画旅行で税込売上1,100万円、ホテル・バスなどの課税仕入れが税込990万円の場合です。国税と地方税を合わせた概算で計算します。
- 売上の消費税:1,100万円×10/110=100万円
- 仕入れの消費税:990万円×10/110=90万円
- 本則課税:100万円−90万円=10万円
- 簡易課税の控除額:100万円×50%=50万円、納付税額は100万円−50万円=50万円
- 2割特例(個人は令和8年分まで):100万円×20%=20万円
- 3割特例(個人の令和9・10年分):100万円×30%=30万円
この例では本則課税が最も少なくなります。手数料収入が中心の手配旅行では課税仕入れが少ないため、結果が逆になることがあります。
簡易課税は前もって届け出る必要があり、選ぶと原則2年間は継続が必要です。2割特例と3割特例は申告の際に選べますが、使えるのは登録しなければ免税事業者になる個人などに限られ、法人には3割特例がありません。宿泊先や現地の仕入先が免税事業者の場合、仕入税額控除は2026年10月1日〜2028年9月30日の取引で70%に制限されます。
無料ツール簡易課税・本則課税・2割特例を比較する売上と課税仕入れの見込みを入れると、課税方式ごとの納付税額の違いを確認できます。計算する
手配旅行と企画旅行の比率で、課税事業者になる時期も有利な課税方式も変わります。商品構成の見込みをもとに、初回無料で試算できます。
無料で相談する開業直後に決めておきたいこと
まず、営業保証金や弁済業務保証金分担金は、支払時の経費ではなく資産として計上します。開業初年度の利益計算を誤りやすいポイントです。旅行業協会の入会金のように返還されない支出は、金額によって支出時の経費にするか、繰延資産として数年に分けて費用化するかが変わります。
次に、添乗員やガイドへの報酬は、雇用か業務委託かで源泉徴収の扱いが変わるため、契約形態を最初に整理しておきます。業務委託でも、通訳を伴う仕事の報酬は源泉徴収(原則10.21%)の対象になる場合があります。
また、インボイス登録の要否も早めに検討します。社員旅行や研修旅行を依頼する法人顧客、提携先が仕入税額控除を求めるかを確認し、登録の時期を決めましょう。制度の詳細はインボイス制度の実務ガイドで確認できます。
- 申込時に受け取った旅行代金は前受金とし、旅行の実施に合わせて売上にする(基準を決めて毎期同じ方法で処理)
- クレジットカード決済は手数料を差し引いて入金されるため、総額で売上を計上し、手数料を経費にする
- 手配旅行の立替金・預り金と、企画旅行の売上・原価を別の科目で管理する
- 海外商品は、課税・免税・不課税の区分が分かる形で記帳する
- ホテルやバス会社などの請求書は、インボイスの登録番号の有無を確認して保存する
クレジットカード決済や前受金が多く、入金サイクルが独特な業種でもあります。売上計上と入金管理を分けて把握できる帳簿の形を最初に作っておくと、その後の管理が格段に楽になります。旅行業の経営に関する情報は旅行業の経営に役立つ最新情報にもまとめています。
開業前にそろえておくこと
- 事業計画と収支の見通し
- 開業資金と自己資金の額
- 開業届・青色申告承認申請の準備
- 会計ソフト・記帳の体制
- 屋号・事業用口座・許認可の確認
札幌・北海道で旅行業を開業する場合
税務署と書面の提出先
税務署は区ごとに中・北・南・西・東の5署に分かれ、中央区は西側と東側で所轄が分かれます。個別の住所は国税庁の管轄区域表で確認します。2026年7月10日からは札幌業務センターが5署の内部事務を集約しており、届出書を郵送する場合は同センターあてです。e-Taxでの提出や窓口への持参は所轄の税務署になります。
法人で設立するなら特定創業支援等事業も確認
市の特定創業支援等事業(札幌中小企業支援センターなどで1か月以上・4回以上の支援)を受けると、会社設立の登録免許税が0.7%から0.35%になります。札幌市内での設立に限られ、株式会社は最低15万円が7.5万円、合同会社は6万円が3万円です。証明書の有効期限は2027年3月31日です。
さっぽろ新規創業促進補助金の募集期間は2026年4月1日〜2027年3月31日で、補助額は株式会社75,000円・合同会社30,000円です。設立から90日以内か2027年3月31日の早い日までに申請します。要件は市の案内で確認してください。
北海道の旅行需要は季節による波が大きく、繁忙期の前に宿泊や交通の仕入れの支払いが先行することもあります。前受金は旅行の実施まで自社の売上ではないため、運転資金と分けて管理し、閑散期の固定費を賄える資金計画を開業時に作っておきます。
よくある質問
旅行業登録の前に開業届を出してもよいですか?
開業届の開業日は、事業を始めた日です。旅行業は登録を受けるまで旅行業務を営めないため、登録を受けて営業を始める日を開業日とするのが自然です。その日から数えて、開業届は1か月以内、青色申告承認申請書は2か月以内(1月16日以後の開業の場合)が期限です。登録の見込み日に合わせて書類を準備しておきます。登録前の準備期間に支払った広告費や打合せの費用などは、開業費として資産に計上し、開業後に経費にできます。
手配旅行と企画旅行の両方を扱う場合、帳簿はどう分けますか?
売上の科目を「手数料収入」と「旅行売上」に分け、手配旅行で預かる代金は立替金・預り金、企画旅行の宿泊・交通の支払いは旅行原価として管理します。商品ごとにどちらに当たるかを申込みの段階で決め、案件の台帳と会計ソフトの科目を対応させておくと集計が正確になります。
営業保証金と弁済業務保証金分担金で、税務上の違いはありますか?
どちらも返還を前提とするお金なので、資産として計上する点は同じです。旅行業協会に加入する場合は、返還されない入会金や毎年の会費が別にかかり、会費はその年の経費になります。一般に分担金のほうが手元資金の負担は小さく、資金計画にも影響するため、登録の準備段階で比べておきます。
海外ツアーの免税売上は、課税事業者の判定に含まれますか?
含まれます。国際輸送などの輸出免税の売上は、免税事業者かどうかを判定する課税売上高に入ります。一方、国外での宿泊などの不課税の部分は含まれません。海外商品の比率が高い場合は、区分ごとの集計をもとに判定します。
まとめ
旅行業の開業は、旅行業登録・税務の届出・経理設計を同時に進める段取りが肝心です。開業届と青色申告承認申請書は期限を先に押さえ、手配旅行と企画旅行で売上計上と消費税が大きく変わる点を、商品の設計段階から意識しましょう。保証金の資産計上、ガイド報酬の源泉徴収、インボイスと課税方式の選び方を開業直後に整理しておくと、その後の申告が格段に楽になります。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
