属人的株式は、非公開会社が定款で「株主ごと」に議決権などの扱いを変えられる仕組みです。事業承継では、後継者の株式に複数の議決権を付ければ、株式を少しずつ移している途中でも経営権を後継者に集められます。ただし導入には重い決議要件があり、株価評価や事業承継税制への影響も事前の確認が欠かせません。
この記事の結論
属人的株式を使うと、株式(財産)の移転と議決権(経営権)の配分を切り離し、持株の少ない後継者にも経営権を集められます。導入・解除の手続きと税務への影響を、定款を変える前にセットで設計することが前提です。
- 使えるのは、すべての株式に譲渡制限がある非公開会社だけ
- 導入には「総株主の半数以上」かつ「総株主の議決権の4分の3以上」の賛成が必要
- 権利は株主その人に付くため、譲渡・相続で株主が代わると原則として引き継がれない
- 登記は不要。その分、定款・議事録・株主名簿で内容を説明できるようにしておく
- 議決権の割合が変わると、株価の評価方式や事業承継税制の要件の判定に影響することがある
属人的株式とは?株式の数ではなく「株主」に着目する仕組み
株式会社では、株主は持っている株式の数に応じて議決権や配当を受けるのが原則です(1株1議決権)。属人的株式は、この原則の例外として、非公開会社が定款に定めることで、剰余金の配当・残余財産の分配・株主総会の議決権について、株主ごとに異なる取扱いができる仕組みです。
「属人的株式」という名前の株式を新しく発行するわけではありません。株式は普通株式のままで、定款に「株主〇〇が有する株式は、1株につき〇個の議決権を有する」といった定めを置き、その株主が持つ株式の権利の重みを変えます。株式の数を動かさずに議決権の配分を変えられるため、財産としての株式の移転と、経営権としての議決権の配分を切り離して考えられます。
| 権利 | 定めの例 | 事業承継での使い道 |
|---|---|---|
| 株主総会の議決権 | 特定の株主の株式に、1株につき複数の議決権を与える | 後継者または先代に経営権を集める |
| 剰余金の配当 | 株主ごとに配当の割合を変える | 経営に関わらない株主への配慮(税務の確認が前提) |
| 残余財産の分配 | 会社を清算するときの分配の割合を変える | 出資の経緯に応じた調整 |
非公開会社とは、発行するすべての株式について、譲渡に会社の承認が必要と定款で定めている会社です。中小の同族会社の多くが当てはまりますが、自社が該当するかは登記事項証明書の「株式の譲渡制限に関する規定」で確認できます。
会社法上は「種類株式とみなす」場面がある
属人的な定めがあると、その株主が持つ株式は、会社法の一部の手続きで内容の異なる種類の株式とみなして扱われます。定款変更などの場面で種類株主総会が必要になることもあるため、導入後の株主総会の運営まで含めて設計します。
事業承継でどう使う?議決権を集める3つのパターン
使い方は大きく、後継者に議決権を集める方向と、先代に議決権を残す方向に分かれます。両者を時期で切り替える段階的な使い方もあります。
| 狙い | 議決権の付与先 | 効果 | 設計で注意すること |
|---|---|---|---|
| 後継者に集中 | 後継者の株式 | 少ない持株で経営権を確保 | 先代の理解と、決議要件を満たす株主の合意 |
| 先代が当面保持 | 先代の株式 | 株式の大半を移しても、移行期は先代が経営を見守れる | 先代の死亡や判断能力の低下に備えた終期 |
| 段階的承継 | 時期で切替 | 渡し方を柔軟に調整 | 切り替えのたびに定款変更が必要になる |
後継者に議決権を集める
後継者がまだ少数の株式しか持っていなくても、その株式に複数の議決権を付ければ、議決権の上では後継者が支配的になれます。贈与税や相続税の負担を見ながら株式は時間をかけて移し、経営の主導権だけを先に渡せるのが利点です。
計算例:後継者の株式に1株10個の議決権を付けた場合
例えば、発行済株式100株のうち先代が70株、後継者が30株を持つ会社で、後継者の株式に1株につき10個の議決権を付けたとします。後継者の議決権は30株分で300個、先代は70個のままです。
議決権の合計は300個+70個=370個です。後継者の割合は300個÷370個=約81.1%、先代は70個÷370個=約18.9%となり、株式の7割を持つ先代より後継者の議決権が大きくなります。
先代に議決権を残す
株式の大半を早めに後継者へ贈与して相続税対策を進めつつ、先代の手元に残したわずかな株式に多数の議決権を付けておく方法です。移行期の間は先代が経営を見守れ、後継者が一人前になった段階で定めを外します。
注意したいのは、先代に万一のことがあった場合です。先代個人を対象にした定めなら、相続が起きても特別な議決権は相続人に引き継がれず、1株1議決権に戻るのが原則です。そのとき先代の株式を誰が相続するかで支配権が変わるため、遺言で承継先を決めておくことが欠かせません。判断能力が低下したときに意思決定が止まらないよう、効力の終期や解除の条件もあわせて検討します。
時期を決めて段階的に切り替える
後継者の育成段階に合わせて、当初は先代に議決権を残し、一定の時期から後継者に集める使い方です。切り替えのたびに定款変更が必要になるため、その時点で誰が賛成票を持っているかを先に確認しておきます。
後継者の育成計画と議決権の移し方を同じスケジュール表で管理すると、切り替えの判断がしやすくなります。育成の進め方は「後継者育成を3つのステップで進める方法」で整理しています。
種類株式とは何が違う?使い分けの判断基準
議決権を調整する方法には、種類株式もあります。議決権のない株式(議決権制限株式)や、特定の決議に拒否権を持つ株式(拒否権付株式、いわゆる黄金株)などです。両者の違いは、権利が「人」に付くか「株式」に付くかにあります。
| 比較項目 | 属人的株式 | 種類株式 |
|---|---|---|
| 権利が結びつく先 | 株主その人 | 株式そのもの |
| 使える会社 | 非公開会社のみ | 公開会社でも発行できる(一部の種類は非公開会社のみ) |
| 株主が代わったとき | 原則として特別な権利は引き継がれない | 権利は株式についていく |
| 登記 | 不要(定款で管理) | 必要(内容が登記簿に載る) |
| 導入の手続き | 定款変更(特殊決議) | 定款変更に加え、種類株式の発行や既存株式の内容の変更 |
| 向いている場面 | 特定の人に、期間を限って権利を持たせたい | 株式の持ち主が代わっても権利を維持したい |
先代に拒否権を残す方法として黄金株もありますが、黄金株は株式に権利が付くため、先代の相続で後継者以外に渡ると経営の妨げになるおそれがあります。会社が取得できる条項を付けておくなどの手当てが必要です。先代個人を対象にした属人的株式なら、先代の相続で特別な権利が消えるため、この心配は小さくなります。
経営に関わらない相続人には議決権制限株式を相続させ、財産の公平と経営権の集中を両立させる方法もあります。どれが適するかは株主構成と承継の進み具合で変わるため、複数の方法を並べて比較します。承継全体の進め方は「事業承継を成功させる3つの手法と進め方」も参考になります。
もう一つの違いは、外部からの見え方です。属人的株式は登記簿に載らないため、金融機関や取引先、将来のM&Aの相手先には経営権の構造が伝わりません。定款の写しと定款変更の議事録をすぐ出せるようにしておくと、説明がスムーズです。
導入の決議要件は?定款変更までの5ステップ
属人的な定めを新たに設ける定款変更は、通常の定款変更より重い「特殊決議」で行います。総株主の半数以上で、かつ総株主の議決権の4分の3以上の賛成が必要です。定款でこれより重い要件を定めている場合は、その要件に従います。
「半数以上」は株式の数ではなく、株主の頭数で数えます。持株のわずかな親族株主や従業員株主が多い会社では、大株主が賛成していても頭数の要件を満たせないことがあります。少数株主が反対すれば導入できないため、関係者への説明と合意形成が前提です。
- 株主と議決権を確定する定款・株主名簿・登記事項証明書・法人税申告書の別表二(同族会社等の判定に関する明細書)を突き合わせます。名前を借りただけの名義株が残っていると頭数や議決権の数え方が狂うため、先に整理します。
- 設計を決める誰の株式に、どの権利を、どれだけ、いつまで付けるかを決めます。終期や解除の条件、譲渡・相続・退任のときの扱いまで条文案に落とし込みます。
- 税務への影響を試算する株価の評価方式の判定、贈与税・相続税の額、事業承継税制の要件への影響を、定款を変える前に確認します。
- 株主の合意を取り付ける目的と影響を少数株主にも説明し、決議要件を満たす見込みを確認します。
- 株主総会で決議し、書類を整える特殊決議で定款を変更し、議事録・変更後の定款・株主名簿を保管します。登記の申請は不要です。
定めを外す定款変更は特殊決議の対象から除かれており、原則として通常の定款変更と同じ特別決議(議決権の過半数を持つ株主が出席し、その議決権の3分の2以上の賛成)で行えます。ただし、外す決議の時点では特別な議決権がそのまま数えられます。誰が賛成すれば外せるのかを、導入の段階で確かめておきましょう。
特定の株主を不当に不利にする定めは争いの種になる
属人的株式は株主平等の原則の例外ですが、どんな内容でも定められるわけではありません。特定の株主の権利を実質的に奪う定めや、少数株主を締め出す目的の定めは、株主平等の原則の趣旨に反するとして無効を主張されるおそれがあります。円滑な承継という目的と、内容の釣り合いを説明できるようにしておきます。
株価評価・贈与税・相続税への影響は?
属人的株式は株式の数を変えないため、贈与や相続で移る株式の数そのものは変わりません。一方で非上場株式の評価では、取得した株主が原則的評価方式と配当還元方式(特例的評価方式)のどちらで評価されるかを、議決権の割合などで判定します。属人的株式で議決権の割合が変わると、この判定が変わる可能性があります。
配当や残余財産の扱いを株主ごとに変える定めは、株主の間で経済的な価値が移ったと見られるおそれがあり、贈与税の課税関係が論点になります。議決権だけを動かす場合でも、評価上の取扱いには解釈が分かれる部分があるため、定款を変える前に試算しておくのが安全です。
| 株式の移し方 | 主なルール | 属人的株式と組み合わせる視点 |
|---|---|---|
| 暦年課税の贈与 | 基礎控除は年110万円、税率は10〜55%。直系尊属(父母・祖父母など)からその年1月1日に18歳以上の子・孫への贈与は特例税率。相続前の贈与の加算期間は、相続開始が2026年12月31日までなら3年、2027年1月1日〜2030年12月31日は2024年1月1日以後の贈与、2031年1月1日以後は7年 | 時間をかけて株式を移す間も、議決権は後継者に集めておける |
| 相続時精算課税 | 60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫へ。年110万円の基礎控除、特別控除2,500万円、超える部分は20%。選ぶと撤回できない | 株式をまとめて早めに移し、先代の残りの株式に議決権を残す設計と組み合わせやすい |
| 事業承継税制(特例措置) | 特例承継計画の提出期限は2027年9月30日、特例措置の対象となる贈与・相続の期限は2027年12月31日 | 議決権の数を基準にした要件があり、属人的株式で議決権を動かすと判定に影響しうる |
| 遺言による相続 | 先代の株式の承継先を指定できる | 先代の特別な議決権が消えた後の支配権を固める |
計算例:自社株式を相続時精算課税で贈与した場合
例えば、60歳以上の先代が、評価額3,000万円の自社株式を18歳以上の後継者(子)に相続時精算課税で一度に贈与したとします。同じ年にほかの贈与はなく、過去に特別控除を使っていない前提です。
3,000万円−110万円−2,500万円=390万円
390万円×20%=78万円
贈与税は78万円です。この株式は先代の相続のときに、贈与時の価額から基礎控除分を除いた額で相続財産に加算され、納めた贈与税は相続税から差し引かれます。
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ツール暦年課税の贈与税額を計算する1年間に贈与する株式の評価額を入れると、暦年課税の贈与税額を計算できます。計算する
事業承継税制を使う場合は、後継者や同族関係者の議決権に関する要件を満たす必要があります。要件と手続きの全体像は「事業承継税制の要件と手続きのガイド」で確認できます。
議決権の配分と株価・贈与税への影響は、株主構成によって答えが変わります。定款と株主名簿をもとに、初回無料で整理できます。
無料で相談する導入前に確認したい6つの落とし穴
属人的株式は自由度が高い分、設計の甘さが後で表面化します。導入の相談でよく確認するポイントを、起きることと防ぎ方に分けて整理します。
| 落とし穴 | 起きること | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 名義株が残ったまま決議する | 頭数や議決権の数え方が誤り、決議の効力が争われる | 株主名簿を整理し、名義株は導入前に解消する |
| 定めの文言があいまい | 譲渡・相続・退任のときに、効力が続くかどうかで争いになる | 対象の株主、権利の内容、終期と解除の条件を条文で明確にする |
| 先代の相続を想定していない | 特別な議決権が消えた後、相続した株式の行方で支配権が変わる | 遺言で株式の承継先を指定し、遺留分(一定の相続人に保障された取り分)にも配慮する |
| 相続人等に対する売渡請求の定めを見落とす | 先代の相続後、後継者自身が売渡請求の対象になり、その決議で議決権を行使できない | 売渡請求の定めの有無を確認し、承継の設計とあわせて見直す |
| 税務の検討を後回しにする | 評価方式の判定や事業承継税制の要件に影響し、想定外の税負担が生じる | 定款を変える前に、株価と税額を試算する |
| 外部への説明を準備していない | 登記簿に載らないため、金融機関や取引先に経営権の構造が伝わらない | 定款・議事録・株主名簿をそろえて示せるようにする |
名義株は、古くに設立した会社で、設立時に親族や知人の名前を借りた株式が整理されないまま残っているケースが典型です。遺留分の問題も、遺言だけでは解決しきれないことがあります。後継者に株式を集める場合は、要件を満たせば使える経営承継円滑化法の遺留分に関する民法の特例も含めて、相続全体の設計の中で検討します。
相談前に準備する資料と専門家の役割分担
属人的株式は、会社法と税務の両方にまたがる制度です。次の資料がそろっていると、導入できるか、どの設計が合うかの見通しを早く立てられます。
- 現行の定款(最新の変更を反映したもの)
- 登記事項証明書(株式の譲渡制限の規定を確認)
- 株主名簿と、株式を取得した経緯が分かる資料
- 直近の決算書と法人税申告書(別表二を含む)
- 先代・後継者・ほかの株主の親族関係が分かる図
- 先代の遺言の有無と、財産の概要
| 検討する論点 | 主に担う専門家 |
|---|---|
| 定款の条文、会社法上の有効性 | 弁護士・司法書士 |
| 株主総会の議事録や関係書類の整備 | 司法書士 |
| 株価評価、贈与税・相続税の試算、事業承継税制 | 公認会計士・税理士 |
| 承継のスケジュールと納税資金の準備 | 公認会計士・税理士 |
当事務所は公認会計士・税理士として、定款設計の方針づくりから株価評価・税額の試算まで支援します。条文の作成など法律判断が要る部分は、司法書士・弁護士と連携して設計するのが安全です。
よくある質問
属人的株式を入れると、相続税は安くなりますか?
議決権を動かすだけで株式の評価額が下がるわけではありません。税負担を抑える効果は、株式を移す時期と方法(暦年贈与・相続時精算課税・事業承継税制など)の選び方から生まれます。属人的株式は、その間の経営権を安定させる手段と考えるのが実務的です。
属人的株式の定めは、登記簿を見れば分かりますか?
登記事項ではないため、登記簿には載りません。内容は定款で確認します。金融機関などに説明するときは、定款の写しと定款変更の議事録を用意しておくと話が早く進みます。
株式を渡し終えたら、定めを外せますか?
外せます。定めを廃止する定款変更は、原則として特別決議で行えます。ただし決議の時点では特別な議決権がそのまま数えられるため、議決権の大きさによっては、その株主が賛成しない限り外せないことがあります。
先代の判断能力が低下したら、先代の議決権はどうなりますか?
本人が適切に議決権を行使できなくなり、成年後見人が代わりに行使する場面も考えられます。先代に多数の議決権を残す設計では意思決定が滞るおそれがあるため、効力の終期や解除の条件を定款に盛り込めないか、任意後見などとあわせて検討します。
合同会社でも同じことができますか?
合同会社には株式がないため、属人的株式の仕組みはありません。ただし合同会社は、定款で業務執行の決め方や利益の配分を比較的自由に定められるため、その中で経営権の配分を設計します。
まとめ
属人的株式は、株式の移転と議決権の配分を切り離し、税負担を見ながら後継者に経営権を集められる手段です。一方で導入には総株主の半数以上かつ議決権の4分の3以上の賛成が必要で、先代の相続や判断能力の低下、税務への影響まで見通した設計が欠かせません。定款を変える前に、株主構成の確認と株価・税額の試算から始めましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(事業承継税制の計画提出期限の延長などを反映)
