一人会社のメリット・デメリット|個人事業との税金・社会保険の違い

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一人会社(いちにんがいしゃ)とは、社長一人が出資者と役員を兼ねる会社です。主なメリットは法人税率と役員報酬による所得の分散、信用力で、デメリットは社会保険料の会社負担分も実質的に自分で払うことや、赤字でもかかる住民税の均等割、決算・申告の手間です。損得は利益の水準と手取りで比べます。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

一人会社は、事業の利益が安定して出ていて、役員報酬と会社に残す利益に分けることで税負担を抑えられる段階で有利になりやすい形態です。社会保険料と会社の維持コストを含めた手取りで、個人事業と比べて判断します。

  • 法人税は、中小法人の年800万円以下の所得が15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)、それを超える部分は23.2%
  • 役員報酬には給与所得控除が使える一方、法人は役員一人でも社会保険の強制適用事業所になる
  • 赤字でも法人住民税の均等割がかかる(札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら年7万円)
  • 個人事業者が使える消費税の3割特例(令和9・10年分)は、法人には後継の特例がない
  • 設立の費用と手間は株式会社と合同会社で異なり、運営のルールにも違いがある
目次

一人会社とは?株式会社・合同会社のどちらでも一人で設立できる

一人会社とは、社長一人が出資者(株主・社員)と役員を兼ね、法人として事業を行う会社です。「いちにんがいしゃ」と読み、「1人社長の会社」とも呼ばれます。株式会社は株主一人・取締役一人で、合同会社は社員一人で設立でき、従業員を雇わなくても運営できます。

会社は会社法に基づいて法人格を持つため、社長個人の財産と会社の財産は区別されます。取引や契約の名義は会社になり、税金も個人の所得税ではなく法人税などで計算します。フリーランスの法人化、ネットショップの運営、コンサルティング、デジタルコンテンツの販売など、個人のスキルや知識を生かす事業で選ばれる形態です。

項目株式会社合同会社
設立の登録免許税資本金の0.7%(最低15万円)資本金の0.7%(最低6万円)
定款の認証公証役場での認証が必要不要
社長の肩書き代表取締役代表社員
役員の任期あり(再任でも任期ごとに登記が必要)なし
決算公告必要不要
税金・社会保険同じ同じ
一人で設立する場合の株式会社と合同会社の主な違い

一人会社のメリットは?税金・役員報酬・信用

一人会社にする主なメリットは、税率の違いと、役員報酬によって所得を分けられることです。個人事業の所得税は所得が増えるほど税率が上がる累進課税ですが、中小法人の法人税は所得の区分ごとに税率が決まっています。

税金個人事業一人会社(中小法人)
国の税金所得税:5%〜45%の累進税率(別に復興特別所得税)法人税:年800万円以下の所得は15%、それを超える部分は23.2%(別に地方法人税=法人税額の10.3%)
地方の税金住民税:所得の10%法人住民税:法人税割(法人税額に道民税1.0%+市民税6.0%)と均等割
事業税個人事業税:多くの業種で5%(事業主控除290万円)法人事業税:所得400万円以下3.5%、800万円以下5.3%、それを超える部分7.0%(別に特別法人事業税)
個人事業と一人会社の主な税金(札幌市内の場合。中小法人の15%は2027年3月31日までに開始する事業年度が対象)

役員報酬にすると、社長個人は給与所得として給与所得控除を差し引けます。会社の側では、定期同額給与などの要件を満たした役員報酬は損金になります。会社の利益と社長個人の所得に分けることで、高い累進税率がかかる部分を減らせるのが、法人化の税金面の基本的な効果です。

計算例:役員報酬を年600万円にした場合の給与所得

例えば、令和8年分で役員報酬が年600万円の場合、給与所得控除額は次のように計算します(収入360万円超660万円以下の区分)。

  • 給与所得控除額:600万円×20%+44万円=164万円
  • 給与所得:600万円−164万円=436万円

社長個人の税金は、この436万円から基礎控除や社会保険料控除などを差し引いた金額で計算します。会社の側では、600万円が損金になります。

このほかにも、個人事業ではできない仕組みを使えるようになります。

  • 役員退職金:退職所得控除を使え、ほかの所得と分けて課税される
  • 役員社宅:会社が借りた住宅を社長に貸し、一定の家賃を受け取る形にできる
  • 出張旅費規程に基づく日当の支給
  • 欠損金の繰越:青色申告なら、2018年4月1日以後に開始した事業年度の赤字を10年間繰り越せる
  • 健康保険の傷病手当金・出産手当金と、厚生年金による将来の年金の上乗せ

社宅の仕組みは社宅制度のメリットで、社長の退職金の準備に使える制度は小規模企業共済のメリットとデメリットで詳しく紹介しています。法人格を持つことで取引先や金融機関からの信用も得やすくなり、法人との取引を条件にする相手とも契約しやすくなります。

一人会社のデメリットは?社会保険料・維持コスト・手間

デメリットの中心は、社会保険料の負担と、利益が出ていなくてもかかる会社の維持コストです。消費税の扱いが変わる点にも注意が必要です。

社会保険料は会社負担分も実質的に自分で払う

法人の事業所は、役員が一人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。役員報酬を受けている社長は被保険者になり、保険料は会社と本人で半分ずつ負担します。一人会社では、会社負担分も本人負担分も、実質的には自分のお金から出ていきます。

計算例:標準報酬月額が30万円の社長の社会保険料

例えば、協会けんぽ北海道に加入する40歳未満の社長で、標準報酬月額が30万円の場合です(令和8年度の料率)。

  • 料率の合計:健康保険10.28%+厚生年金18.3%+子ども・子育て支援金0.23%=28.81%
  • 1か月の保険料(会社と本人の合計):30万円×28.81%=86,430円
  • 1年間の保険料:86,430円×12=1,037,160円

40歳以上65歳未満の場合は、介護保険料(1.62%)が加わります。賞与を支給した場合は、賞与にも保険料がかかります。

一方で、厚生年金に加入することで将来の年金が増え、健康保険の傷病手当金なども受けられます。保険料は負担ですが、国民健康保険・国民年金とは給付の内容が違う点も含めて比べます。

赤字でもかかる税金と、決算・申告の手間

項目内容
住民税の均等割赤字でもかかる。資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の法人は、道民税2万円+市民税5万円で年7万円(札幌市内の場合)
申告する税金法人税・地方法人税・法人住民税・法人事業税・特別法人事業税、課税事業者なら消費税
防衛特別法人税2026年4月1日以後に開始する事業年度から。税額が0でも申告が必要
源泉徴収と年末調整役員報酬からの源泉徴収と納付、年末調整、法定調書・給与支払報告書の提出
決算と申告の期限事業年度終了の日の翌日から2か月以内
会社の維持株式会社は役員の任期ごとの登記と決算公告が必要。会社をたたむときは解散・清算の手続きがある
一人会社にかかる主な維持コストと手間(2026年10月時点)

会社のお金は、社長一人の会社でも会社のものです。役員報酬は原則として事業年度の開始から3か月以内に決め、その事業年度は毎月同じ額を支給します。生活費が足りないからと会社のお金を引き出すと、役員への貸付金として扱われ、金融機関からの評価が下がる原因になります。

すべての業務を一人で担うため、経理や申告の負担も大きくなりがちです。税理士に決算・申告を依頼すればその費用もかかり、費用は取引の量や記帳を誰が行うかで変わります。見積りをとるときは、依頼する範囲を明確にしておきます。

消費税の「3割特例」を使えなくなる場合がある

インボイス登録をした個人事業者のうち、登録しなければ免税事業者になる人は、令和9年分と令和10年分に限り、売上にかかる消費税額の3割を納付税額とする「3割特例」を届出なしで使えます。法人にはこの特例がなく、法人の2割特例も、2026年9月30日を含む課税期間までで終わります(3月決算法人は2027年3月期まで)。

新たに設立した法人は、設立当初は基準期間がないため、原則として消費税の免税事業者として始められます。ただし、資本金の額や、特定期間(前の事業年度の開始から6か月)の課税売上高・給与の額によっては、早い段階で課税事業者になります。インボイス登録をすれば課税事業者になるため、簡易課税の仕組みと有利になる場合も含めて、設立前に検討します。

個人事業と一人会社、どちらが得?判断のポイント

一人会社が得かどうかは、売上ではなく利益(所得)の水準と、社会保険料を含めた手取りで決まります。個人の所得税と住民税の税率が法人の税率を上回るほど所得が大きくなると、役員報酬と会社の利益に分ける効果が出やすくなります。一方で社会保険料の負担が増えるため、税金だけでなく手取りの合計で比べることが欠かせません。

判断の軸個人事業のままが向く一人会社が向く
利益の水準利益が小さい、または年による変動が大きい利益が安定して出ていて、生活費を超える分を会社に残せる
社会保険国民健康保険・国民年金で足りると考える厚生年金・健康保険の給付を重視する
消費税免税事業者のまま、または3割特例(令和9・10年分)を使えるすでに課税事業者で、インボイス登録が前提の取引が多い
取引先個人の顧客との取引が中心法人との取引が中心で、法人であることを求められる
手間自分で確定申告を続けたい経理や申告を任せる体制を作れる
将来事業を小さく続ける退職金の準備や事業の承継を考えている
個人事業と一人会社の判断の軸

個人のまま続ける場合は、青色申告特別控除(令和8年分までは最大65万円、令和9年分からは要件を満たすと75万円)も生かせます。法人化した場合と比べるときは、この控除も含めて試算します。

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一人会社を設立する手順と最初の届出

  1. 基本事項を決める株式会社か合同会社か、商号、本店所在地、事業目的、資本金、事業年度(決算月)を決めます。資本金の額は、消費税や住民税の均等割にも影響します。
  2. 定款を作る会社の基本ルールを定款にまとめます。株式会社は、公証役場で定款の認証を受けます。
  3. 資本金を払い込む社長個人の口座に資本金を入金し、払込みを証明する書類を作ります。
  4. 設立の登記を申請する法務局に登記を申請します。登録免許税は資本金の0.7%で、最低額は株式会社15万円、合同会社6万円です。登記を申請した日が会社の設立日になります。
  5. 税務署に届け出る法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)、青色申告の承認申請書(設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで)、給与支払事務所等の開設届出書(開設の日から1か月以内)を提出します。役員報酬の源泉所得税を半年ごとにまとめて納めたい場合は、納期の特例の承認に関する申請書も出します。
  6. 都道府県・市町村と年金事務所の手続きをする本店所在地の都道府県と市町村にも法人設立の届出をします。社会保険は、年金事務所で新規適用の手続きをします。

札幌市内で設立する場合の支援制度

札幌中小企業支援センターや札幌商工会議所などで、1か月以上・4回以上、4分野(経営・財務・人材育成・販路開拓)の支援を受けると、特定創業支援等事業の証明書が発行されます。この証明書があれば、市内で会社を設立するときの登録免許税が0.7%から0.35%に半減し、最低額も株式会社は15万円から7.5万円に、合同会社は6万円から3万円になります(証明書の有効期限は2027年3月31日)。日本政策金融公庫の融資の利率引下げなど、ほかの支援の要件にもなります。

さっぽろ新規創業促進補助金(募集期間は2026年4月1日〜2027年3月31日)は、株式会社75,000円・合同会社30,000円で、設立から90日以内か2027年3月31日の早い日までに申請します。

一人会社を続けるうえで注意したいこと

設立した後は、会社としてのルールを守って運営することが、税務と信用の両面で大切です。日々の運営では、次の点を確認しておきます。

  • 役員報酬は事業年度の開始から3か月以内に決め、株主総会などの議事録を残す
  • 会社の口座とカードは事業専用にし、社長個人の支出と混ぜない
  • メールやネットで受け取った請求書・領収書は、電子帳簿保存法の要件に沿って電子データのまま保存する(2024年1月1日以後の電子取引は義務)
  • 帳簿書類は原則7年(欠損金が生じた事業年度は10年)保存する
  • 役員報酬を大きく変えたときは、社会保険の届出が必要になる場合がある
  • 決算月の前に、利益の見込みと納税額を確認しておく

クラウド会計などのITツールを使って記帳の手間を減らせば、事業そのものに使える時間を確保できます。事業の内容によっては許可や登録が必要な場合があり、商号や本店などの登記事項が変わったときは変更の登記も必要です。

会社にしても、事業の悪化が社長個人の財産に及ぶことがあります。会社の借入に社長が連帯保証をしている場合などです。すべての責任が一人に集中するため、保険の活用や、会社と個人のお金を分けた管理でリスクに備えます。

よくある質問

役員報酬をゼロにすれば、社会保険に入らなくてよいですか?

役員報酬を受けていない役員は、原則として健康保険・厚生年金保険の被保険者になりません。ただし、報酬がないまま生活費を会社から引き出すと、役員への貸付金や給与とみなされる問題が生じます。会社に利益が残る分、法人税もかかるため、報酬額は手取りの全体で決めます。

個人事業と一人会社を併用できますか?

併用できます。ただし、個人と会社で行う事業の内容を明確に分ける必要があります。同じ事業の売上や経費を個人と会社の間で付け替えていると疑われないよう、契約や請求の名義、口座を分けて管理します。

一人会社で従業員を雇うと、何が変わりますか?

給与からの源泉徴収と、労災保険・雇用保険(労働保険)の手続きが必要になり、労働時間などの条件を満たせば社会保険にも加入します。北海道の最低賃金は2026年10月1日から1,131円のため、時給の設定もこれを下回らないようにします。

資本金はいくらにすればよいですか?

法律上は1円から設立できますが、資本金は取引先や金融機関からの信用、融資の審査での自己資金の見方に影響します。資本金等の額が1,000万円を超えると住民税の均等割が上がり、資本金の額によっては設立当初から消費税の課税事業者になるため、事業に必要な資金と税金の両方から決めます。

合同会社で始めて、後から株式会社に変えられますか?

組織変更という手続きで、合同会社から株式会社に変えられます。社員全員の同意や債権者を保護する手続き、登記が必要で、時間と費用がかかります。将来、株式を使った資金調達や上場を考えている場合は、最初から株式会社を選ぶ方法もあります。

まとめ

一人会社は、法人税率と役員報酬による所得の分散、信用力がメリットで、社会保険料の会社負担分も実質的に自分で払うことや、赤字でもかかる均等割、決算・申告の手間がデメリットです。損得は利益の水準と、社会保険料を含めた手取りの合計で決まります。消費税の特例や設立時の支援制度も含めて比べ、自分の事業に合う形を選びましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)

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