歯科医院の開業では、税務署への開業届・青色申告承認申請書に加え、保健所への診療所開設届やX線装置の届出、厚生局での保険医療機関の指定申請など、医療法・税務・労務の3分野で届出が必要です。自由診療の消費税区分と、技工料・材料費の管理も開業初日から整えておきます。
この記事の結論
個人で歯科医院を開業する場合は、税務署に開業届(開業の日から1か月以内)と青色申告承認申請書を出し、医療法と保険診療の手続きを開業日から逆算して並行で進めます。
- 届出は医療法・行政、税務署、労務・社会保険の3分野。保険診療には保険医療機関の指定が必要
- 青色申告承認申請書は、1月16日以後の開業なら開業の日から2か月以内(それより前の開業はその年の3月15日まで)
- 保険診療は非課税、インプラント・矯正・ホワイトニングなどの自由診療は課税。売上の区分を開業時から管理する
- 技工料・歯科材料・金属くずの売却収入・設備の減価償却は、歯科特有の論点として処理方針を決めておく
歯科医院の開業で必要な届出は?3分野の全体像
開業時の手続きは「医療法・行政系」「税務署系」「労務・社会保険系」の3分野にわたります。税理士が主に関わるのは税務署系ですが、保険診療を始める日やスタッフの採用時期と連動するため、全体のスケジュールを把握しておくことが大切です。
| 分類 | 主な届出 | 提出先・窓口 |
|---|---|---|
| 医療法・行政 | 診療所開設届(歯科診療所)、診療用エックス線装置の届出 | 開設地を管轄する保健所 |
| 保険診療 | 保険医療機関の指定申請 | 地方厚生局(北海道は北海道厚生局) |
| 税務署 | 個人事業の開業届出書、青色申告承認申請書、給与支払事務所等の開設届出書など | 所轄の税務署 |
| 道の税 | 個人事業税の事業開始の申告 | 北海道(道税の窓口) |
| 労務・社会保険 | 労働保険の成立届、雇用保険の適用事業所設置届、健康保険・厚生年金の適用の届出 | 労働基準監督署、ハローワーク、年金事務所 |
歯科医院でX線装置(デンタルX線・パノラマX線・CTなど)を設置する場合は、医療法施行規則に基づく届出が別途必要です。設置前に保健所の担当窓口へ確認してください。
保険診療を始めるには、診療所開設届のあとに保険医療機関の指定を受ける必要があり、指定を受ける前の診療は保険請求ができません。指定日と申請の締切を窓口で確認し、そこから逆算して開業日を決めます。個人の歯科診療所は、従業員が常時5人以上になると健康保険・厚生年金の強制適用事業所になります。歯科医師国民健康保険組合に加入する場合は健康保険の適用除外の手続きが関係するため、年金事務所と国保組合に確認します。
- 事業計画と収支の見通し(ユニットの台数、患者数、自由診療の割合)
- 開業資金と自己資金の額、借入の返済計画
- 開業届・青色申告承認申請書の準備と、開業日の決定
- 会計ソフト・記帳の体制(保険診療・自由診療・物販を分けて集計できるか)
- 屋号・事業用口座・許認可(開設届・X線・保険医療機関の指定)の確認
税務署への届出は何をいつまでに出す?
個人開業の歯科医院では、開業の日から1か月以内に「個人事業の開業届出書」を所轄の税務署に提出します。あわせて、次の届出を検討します。期限を過ぎると使えなくなる制度があるため、開業届と同時に出しておくのが安全です。
| 届出書 | 期限 | 歯科医院でのポイント |
|---|---|---|
| 個人事業の開業届出書 | 開業の日から1か月以内 | 開業日は、診療所開設届の開設日(診療を始める日)とそろえておく |
| 所得税の青色申告承認申請書 | その年の3月15日まで(1月16日以後の開業は開業の日から2か月以内) | 期限を過ぎると、その年は白色申告になる |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 青色申告承認申請書と同じ | 配偶者などに受付・経理を任せ、給与を必要経費にするとき |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 開設の日から1か月以内 | 歯科衛生士・歯科助手・受付スタッフを雇うとき |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 随時(提出した月の翌月末日までに通知がなければ、翌々月の納付分から適用) | 常時10人未満なら、源泉所得税の納付を年2回(7月10日と翌年1月20日)にまとめられる |
| 棚卸資産の評価方法の届出書 | 開業した年の確定申告期限まで | 歯科材料・物販品の在庫の評価方法を選ぶ(出さない場合は最終仕入原価法) |
| 減価償却資産の償却方法の届出書 | 開業した年の確定申告期限まで | 出さない場合は定額法。医療機器を定率法で償却したいときに出す(建物附属設備などは定額法のみ) |
青色申告にすると、令和8年分は要件を満たせば最大65万円の青色申告特別控除を受けられ、令和9年分以後は帳簿を電子帳簿保存法の要件で保存するなどの要件を満たすと75万円になります。赤字を3年繰り越せる、家族への給与を必要経費にできるなど、開業初年度から効果の大きい制度です。開業後1年間の申告・納付の予定は個人事業主の年間スケジュールで確認できます。
札幌で開業する場合、届出書はどの税務署に出す?
個人の開業届や青色申告承認申請書は、原則として住所地を管轄する税務署に出します(事業所の所在地を納税地に選ぶこともできます)。市内は区によって所轄の税務署が異なり、中央区は東西で2つの税務署に分かれます。
| 税務署 | 管轄区域 | 電話 |
|---|---|---|
| 札幌中税務署 | 中央区の一部(おおむね西10丁目以東) | 011-231-9311 |
| 札幌北税務署 | 北区・東区・石狩市・石狩郡 | 011-707-5111 |
| 札幌南税務署 | 豊平区・南区・清田区・千歳市・恵庭市・北広島市 | 011-555-3900 |
| 札幌西税務署 | 中央区の一部(大通西11丁目以西・円山・宮の森・伏見・旭ケ丘・中島公園など)・西区・手稲区 | 011-666-5111 |
| 札幌東税務署 | 白石区・厚別区・江別市 | 011-897-6111 |
書面の届出は業務センターへ郵送
市内の5つの税務署は、2026年7月10日から内部事務が札幌業務センターに集約されています。書面の届出書を郵送する場合は、同センター(〒060-8510)あてに送ります。e-Taxでの提出や窓口への持参は、これまでどおり所轄の税務署です。
診療所開設届やX線装置の届出は、開設地を管轄する保健所に出します。保健所を設置している市で開業する場合は、市の担当窓口が提出先になります。
歯科医院の消費税は?保険診療と自由診療の区分に注意
歯科医院では、保険診療(健康保険・国民健康保険を使った治療)と自由診療(インプラント・ホワイトニング・矯正歯科など保険適用外の治療)が混在します。保険診療は消費税が非課税、自由診療は課税売上です。自由診療の割合が高い歯科医院は、課税事業者の判定や仕入税額控除の計算で注意が必要です。
| 収入の種類 | 消費税 | 例 |
|---|---|---|
| 保険診療 | 非課税 | 保険適用の治療・検査(窓口負担分と審査支払機関からの入金) |
| 自由診療 | 課税(10%) | インプラント、矯正、ホワイトニング、自費の補綴物 |
| 物販 | 課税(10%) | 歯ブラシ・歯磨き剤・ケア用品の販売 |
| 文書料 | 課税(10%) | 診断書・証明書の作成料 |
| 金属くずの売却 | 課税(10%) | 除去した金属冠などの売却代金 |
消費税の納税義務は、基準期間(個人は前々年)の課税売上高で判定します。非課税の保険診療は含めず、自由診療・物販などの課税売上だけで1,000万円を超えるかを見ます。開業1年目・2年目は基準期間がないため原則として免税ですが、特定期間(前年1〜6月)の課税売上高と給与等の支払額がいずれも1,000万円を超えると課税事業者になります。
無料ツール消費税の課税事業者になるかを判定する基準期間・特定期間の課税売上高などを入れると、納税義務の有無を確認できます。判定する
歯科材料・技工料などの仕入れは課税仕入れです。課税事業者になると、課税売上割合(課税売上と非課税売上の合計に占める課税売上の割合)に応じて控除できる消費税額が変わります。基準期間の課税売上高が5,000万円以下なら簡易課税も選べ、自由診療は第5種(みなし仕入率50%)、物販は第2種(80%)に当たります。開業初年度から売上を区分して記帳しておくことが、申告時の手間を減らす近道です。
患者は消費者のため、インボイスを求められる場面は多くありません。免税事業者のうちは登録しない選択も考えられますが、企業と契約して歯科健診を行う場合などは、相手からインボイスを求められることがあります。本則課税の課税事業者が免税事業者の技工所に外注する場合は、仕入税額控除が経過措置(2026年10月1日〜2028年9月30日は70%)の対象になります。制度の全体像はインボイス制度の実務ガイドで確認できます。
歯科医院特有の経費は?技工料・材料費・設備の処理
歯科医院では、歯科技工物の外注費(技工所への支払い)と歯科材料費が経費の大きな割合を占めます。領収書・納品書・発注記録を整理しておくことは、税務調査への備えという点でも重要です。
| 項目 | 処理 | 注意点 |
|---|---|---|
| 技工料(技工所への外注) | 外注費 | 患者ごとの発注書・納品書と、保険診療・自由診療の別を対応させておく |
| 歯科材料・薬品 | 材料費・消耗品費 | 年末に残っている分は在庫(棚卸資産)として計上する。金属など高額な材料は数量も管理する |
| 金属くずの売却代金 | 雑収入 | 除去した金属冠などの売却は収入に計上する。計上漏れは税務調査で確認されやすい項目の一つ |
| ユニット・CT・滅菌器などの機器 | 減価償却(金額により一括で経費化も可) | 取得価額で処理が変わる(下表) |
| 内装工事 | 建物附属設備などとして減価償却 | 賃貸物件では、貸主との原状回復の取り決めも確認する |
| 開業前の広告費・打合せ費用など | 開業費(繰延資産) | 開業後の任意の年に経費にできる |
| 取得価額 | 処理 | ポイント |
|---|---|---|
| 10万円未満 | その年に全額を経費 | 使用可能期間が1年未満のものも同様 |
| 20万円未満 | 一括償却資産として3年で均等に経費化も選べる | 償却資産税の申告対象外 |
| 40万円未満 | 少額減価償却資産の特例で全額経費(年300万円まで) | 青色申告の中小事業者が対象。2026年4月1日以後の取得から(2026年3月31日までは30万円未満)。償却資産税の申告対象 |
| 上記以外 | 耐用年数に応じて減価償却 | 個人は届出がなければ定額法 |
高額な医療機器を早めに経費化したい場合は、開業した年の確定申告期限までに償却方法の届出を出して定率法を選ぶ方法があります。内装工事などの建物附属設備は定額法しか選べないため、機器と内装の見積りを分けてもらうと処理が明確になります。
無料ツール減価償却(定率法)を計算する取得価額と耐用年数から、定率法の償却費を年ごとに確認できます。計算する
自由診療の割合や設備投資の内容で、消費税の判定や償却方法の選び方は変わります。開業前の届出の段取りから、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する開業1年目の記帳と資金繰りで注意することは?
保険診療の報酬は、診療した月にすぐ入金されるわけではなく、審査支払機関への請求を経てから振り込まれます。開業直後は入金までの運転資金を見込んで資金計画を立て、年末には未入金の診療報酬を未収金としてその年の収入に計上します。
社会保険診療の報酬が一定額以下の場合は、実際の経費の代わりに法定の割合で計算した概算経費を使える特例(社会保険診療報酬の所得計算の特例)があります。開業初年度は減価償却費や開業費で実額の経費が大きくなりやすいため、どちらが有利かを試算して選びます。なお、個人事業税では、社会保険診療に係る所得は課税の対象から除かれます。
- 保険診療・自由診療・物販の売上を分けて記帳している
- 診療報酬の請求額と入金額を、月ごとに照合している
- 技工所への発注と請求書を、患者ごとに対応させている
- 事業用の口座・カードを分け、私的な支払いと混ぜていない
- 電子で受け取った請求書・領収書は、電子データのまま保存している
開業資金の借入や設備投資の計画を立て直すときは、中小企業の財務コンサルティングガイドで資金繰りの考え方も確認できます。
よくある質問
開業届の「開業日」は、いつにすればよいですか?
診療所開設届の開設日、つまり実際に診療を始める日とそろえるのが一般的です。青色申告承認申請書の期限は開業日から数えるため、開業日を決めたら届出の期限も一緒に確認します。
開業前に買った医療機器や内装工事の費用は、どう処理しますか?
医療機器や内装は資産として計上し、診療に使い始めた時点から減価償却します。開業準備のための広告費や打合せの費用などは開業費として計上し、開業後の任意の年に経費にできます。
医療法人として開業する場合、届出は何が変わりますか?
医療法人の設立には都道府県知事の認可が必要で、医療法人が診療所を開設するときは開設の許可を受けます。税務では、個人の開業届の代わりに法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)や法人の青色申告承認申請書を、税務署・道・市町村に提出します。
スタッフを雇うと、社会保険はどうなりますか?
個人の歯科診療所は、従業員が常時5人以上になると健康保険・厚生年金の強制適用事業所になり、4人以下なら任意で加入できます。労災保険は従業員を1人でも雇えば加入が必要で、雇用保険は週20時間以上働く従業員などが対象です(2028年10月1日からは週10時間以上に拡大)。
まとめ
歯科医院の開業では、税務署への開業届・青色申告承認申請書のほか、保健所への開設届とX線装置の届出、保険医療機関の指定を、保険診療を始める日から逆算して進めます。自由診療の割合が高い歯科医院は消費税の区分管理が要で、技工料・材料・金属くずの売却収入・設備の減価償却も開業時に処理方針を決めておくと、1年目の申告がスムーズになります。
札幌の公認会計士・税理士事務所
歯科医院の開業・税務のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
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- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
- 国税庁 タックスアンサー No.2090 新たに事業を始めたときの届出など
- 国税庁 タックスアンサー No.2072 青色申告特別控除
- 札幌国税局「税務署の所在地・管轄区域」
- 札幌国税局「札幌業務センター」
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
