鍼灸院の開業では、保健所への施術所開設届(開設後10日以内)と、税務署への開業届・青色申告承認申請書が中心の届出です。医師の同意書にもとづく療養費の施術は消費税が非課税、美容鍼などの自費施術は課税になるため、収入の区分と保険請求の入金時期も開業時から管理します。
この記事の結論
施術所開設届は開設後10日以内に保健所へ、開業届は開業の日から1か月以内、青色申告承認申請書はその年の3月15日まで(1月16日以後の開業は開業の日から2か月以内)に税務署へ出します。
- 療養費(保険)の対象は、医師の同意書がある神経痛・腰痛症などの慢性的な痛みへの施術で、消費税は非課税
- 美容鍼などの自費施術と物販は課税売上。課税事業者の判定とインボイスの要否は、この部分の売上で考える
- 新規開業の個人は、開業した年と翌年は原則として消費税が免税
- 従業員を雇ったら、労働保険の手続きを雇用した日の翌日から10日以内に行い、常時5人以上なら社会保険の適用も確認する
- 療養費は施術した月より後に入金されるため、売上は施術した月に計上し、資金繰りは入金のずれを見込む
鍼灸院の開業に必要な国家資格と施術所の届出
鍼灸院で施術を行えるのは、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律に基づく、はり師・きゅう師の国家資格を持つ人です。整骨院の柔道整復師とは、根拠となる法律も免許も異なります。施術所の開設者自身に資格は求められていないため、法人が開設して有資格者を雇う形もとれます。
- 施術所を開設したら、開設後10日以内に、所在地を管轄する保健所へ施術所開設届を出します。届け出た事項の変更や廃止のときも届出が必要です
- 施術室・待合室の広さや換気、消毒の設備など、施術所の構造設備の基準が法令で定められています。内装工事の前に保健所へ相談し、図面で基準を満たすかを確認します
- 施術所の広告で表示できる事項は法律で限られています。看板やチラシの内容も、開設前に確認しておきます
必要書類や事前相談の方法は、保健所によって異なります。施術所を持たずに出張だけで施術を行う場合は、施術所の開設届ではなく、出張による業務を始めた旨の届出が必要です。
保険(療養費)を扱う場合の仕組み
はり・きゅうの施術が健康保険の療養費の対象になるのは、医師の同意書がある場合です。対象は神経痛、リウマチ、頸腕症候群、五十肩、腰痛症、頸椎捻挫後遺症など、慢性的な痛みを主な症状とする疾患です。同意には有効期間があり、施術を続ける場合は改めて同意を得る必要があります。
療養費の受け取り方には、施術所が患者に代わって保険者に請求する受領委任のほか、代理受領や、患者がいったん全額を払って自分で請求する償還払いがあります。どれになるかは保険者によって異なります。受領委任を取り扱うには、地方厚生局(北海道は北海道厚生局)への申出などの手続きがあり、施術管理者の要件も事前に確認が必要です。
税務署への開業届と青色申告承認申請
個人事業として鍼灸院を開業する場合は、税務署への届出が必要です。申告と節税の両面で、期限を守ることが重要になります。
| 届出・申請 | 提出先 | 期限 |
|---|---|---|
| 個人事業の開業・廃業等届出書 | 所轄の税務署 | 開業の日から1か月以内 |
| 所得税の青色申告承認申請書 | 所轄の税務署 | その年の3月15日まで(1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内)。期限内に出せば開業した年から適用 |
| 青色事業専従者給与に関する届出書 | 所轄の税務署 | 適用しようとする年の3月15日まで(1月16日以後の開業は開業の日から2か月以内) |
| 給与支払事務所等の開設届出書 | 所轄の税務署 | 開設の日から1か月以内(従業員を雇う場合) |
| 源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 所轄の税務署 | 随時(給与の支払を受ける人が常時10人未満の場合) |
| 事業開始等の申告(個人事業税) | 北海道(道税事務所) | 開業後すみやかに(期限・様式は北海道の案内で確認) |
青色申告を選ぶと、令和8年分までは最大65万円の青色申告特別控除を受けられます(正規の簿記、期限内申告、e-Taxでの申告か電子帳簿保存が要件)。令和9年分からは、仕訳帳と総勘定元帳を電子帳簿保存法の要件で保存するなどの要件を満たすと75万円になります。赤字を翌年以後に繰り越せるのも青色申告の特典で、開業直後は届出漏れが多いため、開業届と同時に申請しておくと安心です。
個人事業税では、はり・きゅうは「医業に類する事業」として第3種事業に当たり、税率は3%です(事業主控除290万円)。保険の施術の収入がある場合の計算の細部は、道税事務所で確認してください。
札幌市内で開業する場合の窓口
札幌市は保健所を設置する市のため、市内の施術所開設届は市の保健所が窓口です(担当部署や事前相談の方法は市の案内で確認してください)。
税務署は、北区・東区が札幌北、豊平区・南区・清田区が札幌南、白石区・厚別区が札幌東の管轄です。西区・手稲区と中央区の西側は札幌西、中央区のおおむね西10丁目以東は札幌中で、個別の住所は国税庁の管轄区域表で確認します。2026年7月10日から、書面の届出は市内5署の内部事務を集約した札幌業務センターへ郵送します(e-Taxや窓口への持参は所轄の税務署)。
消費税と保険請求収入の区分
鍼灸院の収入は、保険診療(医師の同意書がある疾患への施術で、療養費が支払われるもの)と自由診療に分かれ、消費税の扱いも異なります。
| 収入の種類 | 消費税 | 主な例 |
|---|---|---|
| 療養費の対象となる施術 | 非課税 | 保険者から受け取る療養費、患者の一部負担金、往療料 |
| 自費施術 | 課税(10%) | 美容鍼、同意書のない肩こり・疲労回復のための施術、スポーツのコンディショニング |
| 物販 | 課税(10%。飲食料品は8%) | 家庭用のお灸、ツボ押しの用品、健康食品 |
新規開業の個人は、基準期間(前々年)の課税売上高がないため、開業した年と翌年は原則として消費税が免除されます。ただし翌年は、前年1〜6月の課税売上高と給与等の支払額がいずれも1,000万円を超えると課税事業者になります。保険の施術は非課税なので課税売上高に含まれず、判定の対象は自費施術と物販の売上です。
無料ツール消費税の課税事業者になるかを判定する基準期間・特定期間の課税売上高などを入れると、納税義務があるかを確認できます。判定する
設備投資のための課税事業者の選択は慎重に
開業時に大きな設備投資をすると、課税事業者を選んで消費税の還付を受けるほうが有利になることがあります。ただし、保険の施術が中心の鍼灸院は課税売上の割合が小さく、仕入れにかかった消費税の多くは控除できません。一度選ぶと一定期間は免税事業者に戻れないため、自費施術の比率を見込んで試算してから判断します。
インボイス登録は必要?
患者は消費者なので、保険の施術や自費施術の患者からインボイスを求められることはほとんどありません。登録を検討するのは、企業の福利厚生としての出張施術や、スポーツチームとのトレーナー契約、介護施設からの業務の受託など、事業者から代金を受け取る取引がある場合です。
登録すると、免税事業者の規模でも消費税の申告が必要になります。個人で登録した場合は、令和8年分までは2割特例、令和9・10年分は3割特例(登録しなければ免税事業者になる人が対象)を使える場合があります。簡易課税を選ぶ場合、施術はサービス業として第5種(みなし仕入率50%)、物販は小売業として第2種(80%)に当たります。制度の全体像は「インボイス制度の実務ガイド」にまとめています。
無料ツール簡易課税・本則課税・2割特例を比べる売上と経費の見込みを入れると、消費税の計算方法ごとの納税額を比較できます。計算する
自費施術の割合や事業者との取引の有無で、消費税の判定とインボイス登録の要否が変わります。開業前の段階から初回無料で整理できます。
無料で相談する従業員を雇う場合の社会保険・労働保険
鍼灸師や受付のスタッフを雇用する場合は、税務署への届出に加えて、社会保険・労働保険の手続きも必要です。
| 手続き | 窓口 | 期限・ポイント |
|---|---|---|
| 労働保険(労災保険)の成立届 | 労働基準監督署 | 最初の従業員を雇った日の翌日から原則10日以内 |
| 雇用保険の適用事業所の設置届 | ハローワーク | 同じく原則10日以内。雇用保険の加入条件を満たす従業員がいる場合 |
| 健康保険・厚生年金保険の新規適用届 | 年金事務所 | 個人の施術所は、常時5人以上の従業員を使用する場合に強制適用となる扱い(年金事務所で確認)。それ未満は任意 |
| 源泉所得税の納付 | 税務署 | 給与を払った月の翌月10日。納期の特例を受けると、1〜6月分は7月10日、7〜12月分は翌年1月20日 |
個人事業の社会保険は、法律で定める業種の事業所が常時5人以上の従業員を使用すると強制適用になります。施術所は、適用業種である「医療の事業」に含まれるとされるため、人数が5人に近づいたら年金事務所で確認しておきます。院長本人は国民健康保険と国民年金に加入し、法人化した場合は役員1人だけでも社会保険の強制適用になります。
受付スタッフを時給で雇う場合は、2026年10月1日からの北海道の最低賃金(1,131円)を下回らないようにします。保険料率や最低賃金の改定は「人事労務・最低賃金・社会保険の最新情報」で確認できます。
開業前の支出と施術機器・消耗品はどう処理する?
開業準備のために支払った広告・チラシの費用、内覧会の費用、開業準備のための打合せの交通費などは「開業費」として資産に計上し、開業後の好きな年に経費にできます。施術ベッドや鍼通電の機器、内装工事は開業費ではなく、取得価額に応じて処理します。
- 10万円未満:その年の経費(消耗品費など)にできる
- 20万円未満:一括償却資産として、3年で均等に経費にすることも選べる
- 40万円未満:青色申告の中小事業者は、少額減価償却資産の特例で全額を経費にできる(2026年4月1日以後の取得。年300万円まで。2026年3月31日までの取得は30万円未満)
- それ以外:耐用年数に応じて減価償却する
ディスポーザブルの鍼、もぐさ、消毒用品、施術用のタオルなどは、消耗品費などとして経費にします。使用済みの鍼は感染性廃棄物に当たるため、許可を受けた処理業者に処理を委託し、その費用も経費になります。開業時は機器が一度に増えるため、毎年1月31日(休日の場合は翌開庁日)までの償却資産(固定資産税)の申告も忘れずに行います。課税標準額の合計が150万円未満なら課税されず、令和9年度分からは180万円未満に引き上げられます。
具体例|保険診療と自由診療の売上管理
同じ月の売上に保険診療分と自由診療分が混在する場合は、会計ソフトの補助科目やタグ機能で区分しておくと、消費税の課税・非課税の集計や、確定申告の際の内訳の確認がスムーズになります。療養費はレセプトの請求から実際の入金までに時間差が生じやすいため、保険請求分の入金時期も見込んで資金繰りを考えます。
具体例:ある月の売上の区分
例えば、ある月の売上が、自費施術(美容鍼など)税込33万円、療養費の対象となる施術22万円(保険者への請求分と窓口の一部負担金の合計)だった場合です。
- 月の売上の合計:33万円+22万円=55万円
- 消費税の課税売上(税抜):33万円×100/110=30万円
- 非課税売上:22万円(課税事業者の判定には含めない)
この月に窓口や口座に入るのは、自費施術の代金と一部負担金だけです。保険者への請求分は翌月に請求し、入金はさらに後になるため、月末には未収入金として計上します。
見落としやすいポイント
- 訪問施術の記録:往療(訪問での施術)を行う場合は、施術録に訪問先や移動の記録も残しておくと、保険請求の根拠資料として役立ちます。訪問に使う車両の費用は、事業に使った割合で経費にします
- 同意書の管理:同意書の有効期間が切れたまま施術を続けると、療養費の請求が認められないおそれがあります。患者ごとに同意の期限を一覧にして管理します
- 受領委任などの入金時期:保険請求分の入金は自由診療の現金収入より遅れて入ることが多いため、開業直後の資金繰り表には両方の入金タイミングを分けて記載しておきます
- 整骨院・他院との併設:柔道整復師の施術所と鍼灸院を同じ場所で運営する場合は、根拠法・保険請求の仕組みがそれぞれ異なるため、会計上も収入区分を分けて管理します
- 開業前の研修・機材の費用:開業準備のために特別に受けた研修の費用は開業費として整理できますが、機材の購入費は開業費ではなく、取得価額に応じて経費や減価償却で処理します
実務ワンポイント|届出の順番を決めておく
保健所への施術所開設届と税務署への開業届は、提出先も期限の考え方も異なります。どちらを先に済ませるか迷ったときは、まず保健所へ相談して施術所としての要件を満たしているかを確認し、そのうえで税務署への届出を進めると手戻りが少なくなります。
- 保健所に事前相談する物件と内装の図面を持参し、構造設備の基準と必要書類を確認します。
- 施術所開設届を出す開設したら10日以内に届け出ます。届出の控えは保険の手続きでも使うため保管します。
- 保険の取扱いの手続きをする受領委任を扱う場合は、北海道厚生局への申出の要件と時期を確認して進めます。
- 税務署と北海道に届け出る開業届と青色申告承認申請書を同時に出し、北海道へ事業開始の申告をします。
- 雇用したら労務の手続きをするスタッフを雇ったら、給与支払事務所等の開設届出書と労働保険の手続きを期限内に済ませます。
開業後1年の税務の期限は「個人事業主の年間スケジュール」で確認できます。
よくある質問
出張専門の鍼灸師として開業する場合、どんな届出が必要ですか?
施術所を持たずに出張だけで施術を行う場合は、施術所開設届ではなく、出張による業務を始めた旨の届出を保健所に行います。税務署への開業届と青色申告承認申請書は、施術所を持つ場合と同じく必要です。出張にかかる車両費や交通費は、事業に使った分を経費にできます。
勤務していた治療院を辞めた年に開業した場合、確定申告はどうなりますか?
勤務先の給与所得と、開業後の事業所得をあわせて確定申告します。退職した勤務先の源泉徴収票が必要なので、早めに受け取っておきます。所得税の確定申告は翌年2月16日〜3月15日(土日の場合は翌平日)で、令和8年分は2027年2月16日〜3月15日です。
美容鍼など自費施術だけで開業する場合、注意することはありますか?
自費施術の売上はすべて消費税の課税売上になります。開業した年と翌年は原則として免税ですが、翌年は前年1〜6月の課税売上高と給与等の支払額で課税事業者になるかを判定するため、売上が大きく伸びる見込みなら早めに確認します。保険を扱わない場合も、施術所開設届は必要です。
家族に受付を手伝ってもらう場合、給与は経費になりますか?
青色申告をしていて、青色事業専従者給与に関する届出書を期限内に出していれば、届け出た金額の範囲で経費にできます。仕事の内容と勤務時間に見合う金額であることが前提で、給与を支払う事務所として給与支払事務所等の開設届出書も必要です。
まとめ
鍼灸院の開業では、保健所への施術所開設届と、税務署への開業届・青色申告承認申請書を期限内に出すことが出発点です。医師の同意書にもとづく療養費の施術は非課税、自費施術と物販は課税という区分を記帳の段階から分け、療養費の入金の遅れを見込んで資金繰りを組みましょう。スタッフを雇う場合は、労働保険と社会保険の手続きも開業と同時に準備します。
札幌の公認会計士・税理士事務所
鍼灸院の開業・税務のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
