事前確定届出給与は、役員に支給する賞与などについて、支給時期と金額をあらかじめ税務署へ届け出て、そのとおりに支給することで法人の損金に算入できる仕組みです。届出期限は株主総会等の決議から1か月か期首から4か月の早い日で、届出額と異なる支給は原則として全額が損金不算入になります。
この記事の結論
事前確定届出給与は、役員賞与を損金にするための仕組みで、「期限内の届出」と「届出どおりの支給」の2つがそろって初めて損金になります。
- 届出期限は、株主総会等の決議日から1か月を経過する日と、期首から4か月を経過する日の早いほう(新設法人は設立から2か月)
- 届出より多くても少なくても、支給額の全額が損金不算入になるのが原則(差額だけではない)
- 業績の悪化などで減額するときは、期限内に変更届出が必要
- 支給日前に全額を辞退すれば、法人の損金も役員の課税も生じない。一部だけの辞退は届出と異なる支給になる
- 届出は役員ごとに行うため、一人だけに支給することもできる
事前確定届出給与とは?定期同額給与・業績連動給与との違い
法人が役員に支払う給与は、原則として次の3つの区分に当たるものだけが損金になります(法人税法34条)。毎月同じ額を払う定期同額給与、所定の時期に確定した額を払う事前確定届出給与、利益などの指標に連動する業績連動給与です。同族会社が役員に賞与を払いたい場合は、事前確定届出給与が実質的な選択肢になります。
| 区分 | 支給の形 | 税務署への届出 | 主な注意点 |
|---|---|---|---|
| 定期同額給与 | 毎月同じ額の報酬 | 不要 | 改定は原則として期首から3か月以内(臨時改定事由・業績悪化改定事由による改定を除く) |
| 事前確定届出給与 | 所定の時期に、確定した額を支給する賞与など | 必要(同族会社でない法人が、定期給与を支給しない役員に金銭で支給する場合などを除く) | 届出どおりの時期・金額で支給する |
| 業績連動給与 | 利益などの指標に連動して額が決まる給与 | ― | 同族会社は原則として使えない。算定方法の開示など要件が厳しい |
損金にならなくても、役員には課税される
届出をしていない役員賞与や、届出どおりに支給しなかった役員賞与は法人の損金になりませんが、受け取った役員には給与所得として所得税・住民税がかかります。法人と個人の両方で税負担が生じるため、損金にならない支給は避けるのが基本です。
また、業績が出た年に、決算の直前に役員賞与を決めて損金にする、という使い方はできません。届出期限は原則として期首から4か月以内に来るため、支給額は期の早い段階で決めておく必要があります。
届出期限はいつ?決算月別の早見表
| ケース | 届出期限 |
|---|---|
| 原則 | 次のいずれか早い日。①株主総会等の決議日(決議日が職務執行の開始日より後なら開始日)から1か月を経過する日、②会計期間開始の日から4か月を経過する日 |
| 新設法人 | 設立の日以後2か月を経過する日 |
| 臨時改定事由がある場合 | 事由が生じた日から1か月を経過する日(原則の期限のほうが遅ければ、その日) |
定時株主総会で役員の報酬を決め、同じ日から職務の執行が始まる一般的なケースでは、届出期限は次のようになります。
| 決算月 | 定時株主総会(例) | 決議から1か月 | 期首から4か月 | 届出期限 |
|---|---|---|---|---|
| 3月決算 | 6月25日 | 7月25日 | 7月31日 | 7月25日 |
| 12月決算 | 3月25日 | 4月25日 | 4月30日 | 4月25日 |
| 9月決算 | 12月20日 | 1月20日 | 1月31日 | 1月20日 |
議事録の日付と届出書の記載をそろえる
届出書には、株主総会等の決議をした日と、職務の執行を開始する日を書きます。議事録の日付と届出書の記載が食い違うと、期限内の届出かどうかを説明しにくくなるため、提出前に照合しておきます。
手続きの流れと届出書の書き方(理由欄の記載例)
- 支給額と時期を決める業績と資金繰りの見通しから、期中に無理なく支給できる額と時期を決めます。
- 株主総会等で決議する役員ごとの支給額・支給時期を決議し、議事録を作成します。
- 期限内に届け出る届出期限までに、届出書と付表を納税地の所轄税務署へ提出します。e-Taxでも提出できます。
- 届出どおりに支給する届け出た支給日に、届け出た金額を支給し、賞与として源泉徴収をします。
- 変更が必要なら変更届出をする臨時改定事由や業績悪化改定事由に当たる場合は、期限内に変更届出書を提出します。
届出は「事前確定届出給与に関する届出書」に、金銭で支給する場合は付表(事前確定届出給与等の状況)を添えて行います。様式は国税庁のホームページから入手できます。主な記載事項は次のとおりです。
- 株主総会等の決議をした日と、決議をした機関(株主総会・取締役会など)
- 事前確定届出給与に係る職務の執行を開始する日
- 対象となる役員の氏名・役職
- 事前確定届出給与の支給時期と支給額
- 同じ役員に支給する定期同額給与などの支給時期と金額
- 定期同額給与による支給としない理由と、支給時期をそのように定めた理由
「理由」欄の記載例
理由欄は、会社の実情に沿って簡潔に書きます。例えば次のような書き方があります。記載に誤りがあると届出どおりに支給したかの判断に影響するため、役員名・金額・支給日を議事録と照合してから提出します。
- 役員の職務執行の対価の一部を、業績と資金繰りの見通しを踏まえて賞与として支給するため
- 支給時期は、使用人の賞与の支給時期にあわせて定めたため
札幌市内の法人が書面で提出する場合
2026年7月10日から、札幌市内の5つの税務署の内部事務は札幌業務センターに集約されています。届出書を郵送する場合の送付先は札幌業務センター(札幌第2合同庁舎内)で、e-Taxでの提出や窓口への持参は、従来どおり所轄の税務署です。
届出と違う金額・時期で支給したらどうなる?
法人税法が損金算入を認めているのは、所定の時期に確定した額を支給する給与です。そのため、届出額より多く支給した場合も、少なく支給した場合も、原則としてその支給額の全額が損金不算入になります。差額だけが損金にならない、という扱いではありません。
支給日がずれた場合も、届出どおりの時期に支給したとはいえず、損金算入が認められないおそれがあります。資金繰りの都合で支給日を動かすことは避け、支給日に無理なく払える額を届け出ることが大切です。
計算例:減額して支給した場合
例えば、届出額300万円に対し、業績が振るわず200万円だけ支給した場合です(法人税などの実効税率を仮に30%とします)。
- 損金にならない額:200万円(差額の100万円ではなく、支給額の全額)
- 法人の税負担の増加の目安:2,000,000円×30%=600,000円
役員個人には、受け取った200万円に対して給与として所得税・住民税がかかります。
年に複数回支給する場合
夏と冬など複数回の支給を届け出た場合、届出どおりかどうかは原則として職務執行期間全体で判断されます。同じ事業年度内の支給のうち1回でも届出と異なれば、ほかの支給も損金にならないおそれがあります。
一方、支給が事業年度をまたぐ場合に、翌事業年度の支給だけが届出と異なったときの扱いは別です。前の事業年度に届出どおり支給した分まで損金不算入にする必要はない、という考え方が国税庁の質疑応答事例で示されています。決算月と支給月の関係を確認したうえで支給時期を決めましょう。
業績が悪化したら?変更届出と辞退の扱い
| 事由 | 内容の例 | 変更届出の期限 |
|---|---|---|
| 臨時改定事由 | 役員の職制上の地位の変更、職務内容の重大な変更など | 事由が生じた日から1か月を経過する日 |
| 業績悪化改定事由 | 経営状況が著しく悪化したことなど | 変更の決議をした日から1か月を経過する日(変更前の支給日がそれより前に来る場合は、その支給日の前日) |
業績悪化改定事由は、単に利益が見込みを下回った程度では当たらず、やむを得ず減額する事情が必要とされています(法人税基本通達の考え方)。例えば、財務状況の悪化で経営責任から減額せざるを得ない場合や、取引銀行と借入金返済の条件変更を協議する中で減額が必要になった場合です。一時的な資金繰りの都合だけでは認められにくいため、判断に迷うときは減額を決める前に確認します。
支給を辞退する場合(辞退届)
| ケース | 法人の損金 | 役員の課税 |
|---|---|---|
| 支給日の前に全額を辞退し、支給しない | 支給がないため、損金算入の問題は生じない | 支給日の前に辞退した部分は課税されない |
| 一部だけ辞退して減額支給する | 届出と異なる支給となり、支給額の全額が損金不算入 | 受け取った額に課税される |
| 支給日の後に辞退する | 支払いが確定した後の放棄となり、債務免除益などの扱いを個別に検討する | 課税や源泉徴収の問題が残ることがある |
辞退届は、支給日より前の日付で作成し、次の項目を記載して保存します。
- 宛先(会社名・代表者名)と作成日(支給日より前の日付)
- 辞退する役員の氏名・役職
- 辞退する給与(事前確定届出給与であること、支給予定日、金額)
- 全額を辞退する旨
- 辞退の理由(業績の状況など)
- 役員本人の署名
辞退を受けて支給しないことを決めた取締役会や株主総会の議事録も、あわせて保存します。不支給について税務署へ出す決まった様式はありませんが、経緯を説明できる書面を残しておくことが大切です。
減額・辞退・変更届出のどれを選ぶかで、法人の損金と役員個人の税金が大きく変わります。支給日の前に、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する役員の一人だけに支給できる?
できます。事前確定届出給与の届出は役員ごとに行うため、代表取締役だけ、あるいは特定の役員だけに支給することも可能です。届出書の付表には、支給する役員だけを記載します。支給しない役員は、定期同額給与だけを受け取る形になります。
従業員としての職務もある使用人兼務役員の場合、使用人分の賞与は、ほかの使用人と同じ時期に適正な額を支給すれば、届出がなくても損金になります。ただし、代表取締役や、同族会社で一定の株式を持つ役員などは使用人兼務役員になれません。
家族を役員にしている場合も同じ仕組みで、届出どおりに支給すれば損金になります。ただし、職務の内容に比べて不相当に高額な部分は損金になりません。
社会保険料や役員個人の税金はどうなる?
事前確定届出給与は、役員個人にとっては賞与として給与所得になり、支給時に源泉徴収をします。社会保険料も賞与としてかかり、厚生年金保険料の計算に使う標準賞与額には1回150万円の上限があります。源泉徴収の基本は源泉所得税の基礎知識で確認できます。
月々の報酬を抑えて賞与の割合を増やすと、法人と役員個人の税金・社会保険料の合計が変わります。ただし、賞与でも年4回以上支給するものは報酬として扱われるほか、保険料が減れば将来の年金額にも影響します。税金だけでなく、資金繰りや将来の給付も含めて試算してから決めましょう。
無料ツール役員報酬の配分をシミュレーションする役員報酬の額を変えたときの、法人と役員個人の負担の変化を試算できます。計算する
個人事業のままの場合や、法人と個人事業を併用する場合との比較は、マイクロ法人シミュレーターで個人・法人・併用の負担を比べると全体像をつかめます。
よくある質問
事前確定届出給与の届出は毎年必要ですか?
必要です。届出は職務執行期間ごとに行うため、定時株主総会などで決議するたびに、期限内に提出します。前の期と同じ内容でも省略できません。
届出の期限を過ぎてしまったら、どうなりますか?
その職務執行期間については、事前確定届出給与として損金にすることはできません。賞与を支給しても損金不算入になるため、支給を見送るか、次の職務執行期間に向けて期限内に届け出ることを検討します。
非常勤役員に年1回だけ報酬を払う場合も届出が必要ですか?
同族会社に当たる法人では、原則として届出が必要です。同族会社でない法人が、定期給与を支給していない役員に金銭で支給する場合は、届出は不要です。
届出書の控えや議事録は、どのくらい保存しますか?
法人の帳簿書類の保存期間(原則7年、欠損金が生じた事業年度は10年)にあわせて保存しておくと安心です。税務調査では、議事録・届出書・支給の記録をあわせて確認されることがあります。
まとめ
事前確定届出給与は、期限内に届け出て、届出どおりの時期・金額で支給したときにだけ役員賞与を損金にできる仕組みです。届出と異なる支給は差額ではなく支給額の全額が損金不算入になるため、金額は無理のない水準で決め、業績が悪化したときは変更届出や辞退の方法を支給日の前に検討しましょう。一人だけへの支給も可能なので、役員ごとに税金と社会保険料を試算して設計することが大切です。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
