起業の失敗事例に共通するのは、売上の見込みを楽観的に立てたまま固定費を積み上げ、手元資金が尽きてしまうパターンです。開業前に「売上ゼロでも何か月持ちこたえられるか」を数字で確かめ、2年目の税金・社会保険料まで見込んだ資金計画を立てておくと、失敗の多くは防げます。
この記事の結論
起業の失敗の多くは、事業のアイデアよりも「お金の見通し」でつまずきます。売上の見込み、固定費、利益と現金のずれ、2年目の税負担、資金調達の順番を開業前に数字で確認しておくことが、いちばんの予防策です。
- 運転資金は、売上がゼロでも固定費を払える月数で考える(固定費の3〜6か月分が一つの目安)
- 黒字でも、売掛金の回収の遅れや借入の返済で手元資金が足りなくなることがある(黒字倒産)
- 個人事業の税金と保険料は、1年目の所得をもとに2年目にまとめてかかる
- 融資は開業前から準備でき、経営者の個人保証を付けない制度もある
- 撤退の基準を開業前に決めておくと、損失が膨らむ前に立て直せる
起業の失敗事例に多い6つのパターンとは?
起業の失敗には、業種を問わず共通するパターンがあります。どれも原因は開業前の見通しの甘さにあり、裏を返せば、事前に数字で確かめることで防げるものです。
| パターン | 起きること | 主な原因 | 防ぎ方 |
|---|---|---|---|
| ①売上の見込みが楽観的 | 開業から数か月たっても、売上が計画に届かない | 顧客の獲得にかかる時間を短く見積もった | 売上ゼロの期間を前提に資金計画を立てる |
| ②固定費が重すぎる | 売上が伸び悩むと、赤字がすぐに膨らむ | 家賃や人件費を開業当初から積み上げた | 変動費型の支出で始め、固定費は慎重に増やす |
| ③利益と現金の混同 | 黒字なのに、支払いの資金が足りない | 売掛金の回収の遅れ、在庫、借入の返済 | 入金と出金の時期を月次で管理する |
| ④2年目の税金・保険料 | 2年目に所得税・住民税・国民健康保険料がまとめてかかる | 1年目の所得にかかる負担を見込んでいない | 毎月の入金から納税資金を取り分ける |
| ⑤資金調達の準備不足 | 資金が足りなくなってから借りようとしても、話が進まない | 自己資金と融資の準備を後回しにした | 開業前に自己資金と融資の計画を立てる |
| ⑥市場調査と体制の不足 | 商品やサービスが受け入れられない、業務が回らない | 需要の見誤り、役割分担とコミュニケーションの不足 | 小さく試して需要を確かめ、役割を明確にする |
中でも多いのが、売上の見込みを楽観的に見積もりすぎることです。開業した月から安定した売上が立つことは少なく、顧客の獲得には想定外の時間がかかる場合があります。①〜⑤はお金の問題、⑥は事業の中身の問題ですが、⑥の見誤りも最終的には資金不足として表に出てきます。
売上ゼロでも何か月持つ?開業前に確認したい運転資金
開業前に「売上ゼロでも何か月持ちこたえられるか」を具体的な数字で確認しておくことが、事業を続けるかどうかの判断軸になります。売上が立ち始めるまでの期間も、固定費だけは毎月出ていきます。
計算例:月の固定費が20万円の事業で、3か月売上が立たない場合
例えば、次のような固定費で事業を始めた場合です(説明のための概算例)。
- 事務所家賃・光熱費8万円、通信費・システム利用料2万円、広告・販促費5万円、その他雑費5万円
- 月の固定費:8万円+2万円+5万円+5万円=20万円
- 売上ゼロが3か月続いた場合の累計支出:20万円×3か月=60万円
実際の金額は業種・規模・立地などで大きく異なります。個人事業の場合は、事業の固定費に加えて生活費も同じお金から出ていくため、合わせて計算します。
運転資金は、固定費の3〜6か月分を確保しておくことが一つの目安として挙げられます。開業の準備で設備や内装にお金を使いすぎると、この運転資金が削られ、売上が立つ前に資金が尽きてしまいます。
損益分岐点で「必要な売上」を逆算する
何か月持つかとあわせて、毎月いくら売れば赤字にならないか(損益分岐点売上高)も開業前に計算しておきます。個人事業主は、事業の固定費だけでなく生活費まで賄えるかも確かめます。
計算例:固定費20万円・粗利率40%の場合
例えば、月の固定費が20万円で、売上に占める粗利(売上から仕入原価などを引いた利益)の割合が40%の事業です。
- 損益分岐点売上高:20万円÷40%=50万円
- 生活費20万円も事業から出す場合:固定費と生活費の合計40万円÷40%=100万円
月100万円の売上を、何人の顧客と、いくらの客単価で達成するのかまで分解すると、計画が現実的かどうかを判断しやすくなります。
固定費の高さも見直しのポイントです。事務所の賃料や人件費は一度発生すると削りにくく、売上が伸び悩む局面で経営を圧迫します。開業当初はできるだけ変動費型の支出構造を意識し、固定費は慎重に積み上げることをお勧めします。
黒字なのにお金が足りない?利益と手元資金がずれる理由
もう一つの落とし穴が「利益と手元資金の混同」です。損益計算書の上では黒字でも、売掛金の回収が遅れると手元の現金が不足し、支払いができなくなる「黒字倒産」のおそれがあります。利益とお金の動きがずれる主な原因は次のとおりです。
| ずれの原因 | 利益(損益計算書) | 手元資金 |
|---|---|---|
| 売掛金の回収 | 請求した時点で売上になる | 入金されるまで増えない |
| 在庫の仕入れ | 売れた分だけが原価になる | 仕入れた時点で出ていく |
| 借入の元金返済 | 経費にならない | 返済した分だけ減る |
| 設備の購入 | 減価償却で数年に分けて経費になる | 買った時点でまとめて出ていく |
| 預かった消費税・源泉所得税 | 利益ではない | 納付の期限まで手元にあるが、使えないお金 |
特に、借入の元金返済は経費にならないため、税引き後の利益に減価償却費を足した額が元金の返済額を下回ると、黒字でも資金は減り続けます。開業したときから、入出金の時期を月次で追うキャッシュフロー管理を習慣にすることが、失敗を防ぐ実務の一歩です。
- 入金と出金の予定を、月ごとの資金繰り表にまとめている
- 売掛金の入金予定日を取引先ごとに管理し、遅れたらすぐに確認している
- 事業用の口座を分け、私的な支払いと混ぜていない
- 預かった消費税と納税の資金を、別の口座に取り分けている
2年目に税金と社会保険料が重くなる?開業後のお金の山
個人事業の税金と保険料は、1年目の所得をもとに翌年にまとめてかかります。そのため開業1年目は手元にお金が残っているように見え、2年目に入って資金が詰まる原因として見落とされがちです。支払いが集中する時期は次のとおりです。
| 時期 | 支払うもの | 備え方 |
|---|---|---|
| 開業の翌年2月16日〜3月15日 | 1年目の所得税の確定申告と納付(令和8年分は2027年2月16日〜3月15日) | 1年目の利益から納税分を取り分けておく |
| 開業の翌年6月ごろ以降 | 住民税・国民健康保険料(1年目の所得をもとに決まる) | 年額を見込んで、毎月積み立てる |
| 2年目以降の7月・11月 | 所得税の予定納税(前年分の所得税額などが15万円以上の場合) | 確定申告とあわせて年3回の支払いを見込む |
| 原則として3年目以降 | 消費税(1年目の課税売上高が1,000万円を超えた場合など) | 売上が伸びた年は、2年後の消費税を見込む |
| 会社で始めた場合 | 赤字でも法人住民税の均等割(札幌市内の小規模な法人なら年7万円)。役員1人でも社会保険料 | 設立の前に、税金と社会保険料の負担を試算する |
計算例:1年目の課税所得が200万円だった場合の翌年の負担
例えば、個人事業の1年目(令和8年分)の課税所得(所得控除を差し引いた後の金額)が200万円だった場合です。
- 所得税:200万円×10%−97,500円=102,500円(別に復興特別所得税がかかる)
- 住民税の所得割:200万円×10%=20万円(住民税は所得控除の額が所得税より小さいため、実際はこれより多くなることがある)
所得税と住民税だけで30万円を超え、さらに国民健康保険料が加わります。これらが確定申告の後、翌年の春から順に届きます。
消費税は、開業した年と翌年は原則として納税義務がありません(翌年は、開業した年の1〜6月の売上と給与の支払額がともに1,000万円を超えると課税)。ただし、インボイスに登録すると登録日から課税事業者になります。個人で登録した人は、令和9年分・令和10年分に3割特例(売上にかかる消費税額の3割を納める)を使える場合があります。申告・納付の期限は「個人事業主の年間スケジュール」で確認できます。
資金調達の準備不足を防ぐ:自己資金・融資・補助金の順番
資金調達は、事業計画と同時に検討を始めます。初期の段階で必要な資金を確保できないと、事業の継続に大きな影響が出ます。創業の融資は開業前から相談でき、資金が足りなくなってから慌てて申し込むより、計画を立てて準備したほうが話を進めやすくなります。
| 資金の種類 | 主な内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金 | 開業前からおおむね7年以内。融資限度7,200万円、設備資金は20年以内・運転資金は10年以内(据置5年以内)。税務申告を2期終えていない人は原則として無担保・無保証人 | 自己資金は審査の重要な要素とされている |
| 札幌市の創業・雇用創出支援資金 | 融資限度5,000万円(2026年4月1日時点の表記で利率1.70%以内。保証料の一部を補給) | 2026年10月1日以降に実行される分は、利率が0.3%上がる |
| 北海道中小企業総合振興資金(創業貸付) | 融資限度3,500万円、期間1〜10年、固定1.8〜2.4%(2026年10月1日現在) | 創業貸付【スタートアップ】は経営者の個人保証が不要 |
| 小規模事業者持続化補助金〈創業型〉 | 上限200万円・補助率2/3(インボイス特例で上乗せあり) | 原則として後払い。特定創業支援等事業の証明が要件 |
補助金は、採択されても入金は事業を実施した後になるため、いったんは自己資金や融資で立て替える必要があります。「採択されたからお金が入る」と考えて支出を先行させると、資金繰りが苦しくなります。融資の準備の進め方は「融資を成功させるポイント」にまとめています。
札幌市内で起業する場合に使える支援
- 特定創業支援等事業:市が指定する支援機関(札幌中小企業支援センター・札幌商工会議所)で1か月以上・4回以上、経営・財務・人材育成・販路開拓の支援を受けると証明書が出ます。会社設立の登録免許税が半分(株式会社15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円。市内での設立に限る)、公庫の利率の引下げ、創業関連保証を開業6か月前から使えるなどの効果があり、証明書の有効期限は2027年3月31日です
- さっぽろ新規創業促進補助金:株式会社75,000円・合同会社30,000円(募集は2026年4月1日〜2027年3月31日。設立から90日以内か2027年3月31日の早い日までに申請)
- 創業の相談窓口:さっぽろ創業支援プラザ 011-200-5511、商工会議所 011-231-1768、よろず支援拠点 011-232-2402(2025年12月25日現在の案内)
自己資金・融資・補助金の組み合わせと、売上ゼロでも持ちこたえられる月数は、事業の内容と生活費で変わります。開業前の資金計画づくりから初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する市場調査と集客の見誤りを防ぐには?小さく試して確かめる
新規事業の失敗の要因として多く見られるのが、需要や市場規模の誤認です。事業プランを作る段階で実際の市場調査が行われていないと、顧客のニーズを正確に把握できず、製品やサービスが受け入れられないことがあります。次の順番で、お金をかける前に需要を確かめます。
- 顧客を具体的に決める誰の、どんな困りごとを解決する事業なのかを一文で言えるようにします。
- 小さく試す副業での提供、試験販売、予約の受付、SNSでの反応などで、お金を払う人が実際にいるかを確かめます。
- 価格と粗利を決める原価と手間から粗利を計算し、損益分岐点の売上に届く客数と客単価を確認します。
- 集客の経路を複数持つ紹介、SNS、Webサイト、チラシ、地域の媒体など、一つの経路だけに頼らないようにします。
- 数字で振り返る月ごとに客数・客単価・粗利を見て、計画とのずれとその理由を確かめます。
海外への進出では、現地の文化や消費者のニーズの理解不足が失敗の要因になりやすいとされます。現地の顧客が求める品質や価格帯を踏まえたリサーチと、それに基づくマーケティングの検討が重要です。
複数人で起業する場合は、チームの役割分担を明確にし、意見交換や問題解決を円滑に進められる体制をつくります。リスク管理では、経済的リスク・法的リスク・市場リスクなど、事業で起こり得るリスクを洗い出して評価しておくと、問題が起きる前に対策を打ちやすくなります。開業準備の全体の流れは「起業成功のポイントとステップ」で紹介しています。
撤退ラインと、失敗した後の立て直し方
開業前に撤退や方針転換の基準を決めておくと、損失が膨らむ前に判断できます。例えば「手元資金が固定費の3か月分を下回ったら、事業の縮小か方針の転換を検討する」「月の売上が損益分岐点に届かない状態が続いたら、計画を見直す」といった基準です。始める前に決めておけば、迷いや感情に流されずに判断できます。
借入に経営者の個人保証を付けると、事業をやめても借金は個人に残ります。創業の時期は、経営者保証を付けない制度も検討しましょう。スタートアップ創出促進保証は、経営者保証が不要で上限3,500万円です。2024年3月15日に始まった事業者選択型経営者保証非提供制度は、上乗せの保証料(0.25%または0.45%)を払うことで、経営者保証を付けずに信用保証協会の保証付き融資を受けられる仕組みです。
事業がうまくいかなかったときは、冷静に原因を突き止め、一度立ち止まって考える時間を持つことが大切です。そのうえで、改めて市場調査を行い、顧客のニーズや優先順位が変わっていないかを確かめてから、新しい計画を立てます。
事業をやめるときと、次の挑戦に向けた税務
青色申告をしていれば、事業の赤字(純損失)は翌年以後に繰り越して、ほかの所得や次の事業の黒字と相殺できます。法人の欠損金は10年間繰り越せます。
個人事業をやめるときは、廃業の日から1か月以内に個人事業の開業・廃業等届出書を出し、消費税の課税事業者なら事業廃止届出書も提出します。最後の年の確定申告も忘れずに行います。
よくある質問
起業に失敗したら、借入金はどうなりますか?
個人事業の借入は個人の借金なので、事業をやめても返済は続きます。会社の借入は会社の債務ですが、経営者が個人保証をしていれば、会社が返せない分を経営者個人が負担することになります。
会社を辞める前に準備しておくことはありますか?
在職中に、事業計画と資金計画(固定費・生活費・運転資金)、自己資金の準備、無理のない範囲での試験販売を進めておくと、開業後の資金の減りを抑えられます。融資は開業前から相談できるため、退職と開業の時期も含めて計画します。
個人事業と会社、どちらで始めたほうが失敗しにくいですか?
費用と手続きが少ない個人事業で小さく始め、利益が増えてから法人化を検討する方法がよく選ばれます。会社は設立の登録免許税(株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)がかかり、赤字でも法人住民税の均等割、役員1人でも社会保険の加入が必要です。小さな会社を使う方法は「マイクロ法人とは」で解説しています。
税理士にはいつ相談すればよいですか?
開業の前がもっとも効果的です。青色申告承認申請書などの届出の期限、融資の事業計画、インボイス登録の判断、資金繰りの見通しは、早く決めるほど選べる手段が増えます。当事務所では、継続的な顧問契約の中で、開業前の準備から1年目の記帳・申告まで支援しています。
まとめ
起業の失敗の多くは、楽観的な売上見込み、重い固定費、利益と現金の混同、2年目の税負担、資金調達の準備不足といった「お金の見通し」から起こります。売上ゼロでも持ちこたえられる月数と損益分岐点を開業前に計算し、融資・補助金・支援制度を組み合わせた資金計画と撤退の基準を決めておけば、失敗の可能性を抑えられます。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
