従業員給与の適正額の決め方|労働分配率・粗利の3倍・社会保険料で試算

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従業員給与の適正額は、会社が払える上限(粗利と労働分配率)、採用市場の相場と最低賃金、社内の公平性(賃金テーブル)の3つを重ねて決めます。額面に社会保険料などの会社負担が上乗せされる点、家族への給与は税務上の相当性が問われる点まで、計算例つきで整理します。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

従業員給与の適正額に一律の正解はありません。「払える上限」「市場の相場と法律上の下限」「社内の公平性」の3つの範囲が重なるところが、その会社にとっての適正額です。

  • 払える上限は、粗利(付加価値)×目標の労働分配率で人件費の総額を出して考える
  • 「給料の3倍の粗利」は、人件費以外の経費と利益を賄うための経験則
  • 額面には社会保険料などの会社負担が上乗せされる(本文の計算例では月給の約15%)
  • 下限は北海道最低賃金(2026年10月1日から1,131円)と採用市場の相場
  • 家族に払う給与は、仕事の内容に見合う金額でないと経費として認められない部分が出る
目次

従業員給与の適正額は何で決まる?3つの物差し

従業員給与の適正額に、法律や統計で決まった正解はありません。実務では「会社が払える上限」「採用市場の相場と法律上の下限」「社内の公平性」という3つの物差しを当て、その重なる範囲で金額を決めます。

払える上限(支払能力)

  • 粗利(付加価値)と労働分配率から人件費の総額を出す
  • 社会保険料などの会社負担も含めて考える

市場の相場と下限

  • 同業・同地域の求人の水準
  • 最低賃金を下回らない
  • パートは年収の壁も影響する

社内の公平性

  • 賃金テーブル・等級で金額の根拠を示す
  • 評価基準を明確にし、昇給・賞与に反映する

報酬体系は、基本給・手当・賞与をどう組み合わせて支給するかの仕組みです。賃金カーブ(経験や勤続に応じて給与が上がっていく線)と賃金テーブル(等級・役職ごとの給与額の一覧)を整えておくと、「なぜその金額なのか」を従業員に説明できます。

営業職のように成果が数字で見える職種は、基本給にインセンティブ(歩合や報奨金)を組み合わせるのが一般的です。その場合も評価の基準を明確にして定期的に見直すことが、公平感と納得感につながります。採用時の条件提示の進め方は従業員採用の流れと進め方も参考になります。

会社が払える上限はいくら?労働分配率と人件費率の計算

払える上限は、会社が生み出した付加価値のうち、どれだけを人件費に回せるかで考えます。中小企業では、付加価値を簡便に粗利(売上総利益=売上高−売上原価)で代用することが多くあります。

指標計算式見方
労働分配率人件費÷付加価値(簡便には粗利)稼いだ付加価値のうち人件費に回した割合。高すぎると利益や投資の余力がなくなる
売上高人件費率人件費÷売上高売上に対する人件費の重さ。原価の構造が違う業種どうしでは比べにくい
売上総利益人件費率人件費÷売上総利益粗利で見た人件費の重さ。粗利を付加価値とみなせば労働分配率と同じ
人件費生産性付加価値÷人件費人件費1円あたりの付加価値。労働分配率の逆数
一人当たり付加価値額付加価値÷従業員数1人がどれだけ稼いでいるか。給与水準の上限を考える目安
一人当たり営業利益営業利益÷従業員数人件費を払った後に、1人あたりいくら残るか
給与の水準を考えるときに使う主な指標

人件費には、役員報酬・従業員の給与・賞与に加え、法定福利費(社会保険料の会社負担)や福利厚生費も含めて計算するのが一般的です。給与だけで計算すると、実際の負担より低く見えてしまいます。

適正な水準は、業種や規模、人と設備のどちらで稼ぐ事業かで大きく変わります。一般論の数字に合わせるより、自社の過去数期の推移と同業の決算データを並べて判断するほうが実務的です。

計算例:粗利から1人あたりの給与の上限を出す

例えば、年間の粗利が6,000万円の会社が、労働分配率の目標を仮に50%に置き、役員報酬(法定福利費を含む)が900万円、従業員が6人の場合です。

  • 6,000万円×50%=3,000万円(人件費の総額の上限)
  • 3,000万円-900万円=2,100万円(従業員の人件費に充てられる額)
  • 2,100万円÷6人=350万円(1人あたりの人件費。会社負担の社会保険料などを含む)
  • 350万円÷1.15=約304万円(会社負担を額面の約15%とみた場合の、額面の年収の目安)

目標の分配率は、必要な利益や借入の返済額から逆算して自社で決めます。

「給料の3倍の粗利」は本当?人件費以外のコストから逆算する

「給料の3倍の粗利を稼ぐ」は、給与水準を考えるときによく使われる経験則です。粗利を「本人の給与」「社会保険料や家賃・設備費などの経費」「会社に残す利益」に3分割するイメージで、1人あたりに必要な粗利を逆算します。

計算例:年収400万円の従業員に必要な粗利

例えば、年収(給与と賞与の合計)が400万円の従業員の場合です。

  • 400万円×3=1,200万円(年間に必要な粗利の目安)
  • 1,200万円÷12=100万円(1か月あたりの目安)

営業職なら担当する粗利と比べやすい一方、事務や管理部門のように個人の粗利を測りにくい職種もあります。その場合は、会社全体の粗利を人数で割った一人当たりの粗利と、平均の給与の比率で確認します。

倍率は自社の損益計算書から置き換える

設備や在庫に多くの資金がかかる業種や、家賃などの固定費が重い業種では、3倍では利益が残らないこともあります。反対に、人件費以外の経費が小さい業種では、3倍より低い倍率でも利益が出る場合があります。

損益計算書から「人件費以外の経費+必要な利益」を出し、粗利に対する人件費の割合を自社用に決めておくと、昇給や採用の判断がぶれにくくなります。

額面・手取り・会社負担はどう違う?社会保険料の計算例

給与の適正額を考えるときは、3つの数字を区別します。従業員に約束する「額面」、そこから社会保険料や税金を引いた「手取り」、そして額面に会社負担の社会保険料などを足した「会社の負担総額」です。

保険の種類料率負担の分け方
健康保険(協会けんぽ北海道)10.28%(令和8年3月分から)労使折半
介護保険(40歳以上65歳未満)1.62%(令和8年3月分から)労使折半
厚生年金保険18.3%労使折半
子ども・子育て支援金0.23%(令和8年4月分から。賞与も対象)労使折半
雇用保険(一般の事業)13.5/1000(2026年4月1日〜2027年3月31日)労働者5/1000・事業主8.5/1000
給与にかかる主な社会保険料率(2026年10月時点。このほか労災保険料と子ども・子育て拠出金は全額を会社が負担)

計算例:月給30万円の従業員の会社負担(40歳未満・協会けんぽ北海道)

例えば、月給30万円(標準報酬月額30万円)の従業員の場合、会社が負担する主な保険料は次のとおりです。

  • 健康保険:300,000円×10.28%÷2=15,420円
  • 厚生年金保険:300,000円×18.3%÷2=27,450円
  • 子ども・子育て支援金:300,000円×0.23%÷2=345円
  • 雇用保険:300,000円×8.5/1000=2,550円
  • 合計:15,420円+27,450円+345円+2,550円=45,765円

月給の約15%が上乗せされる計算です(労災保険料などは別)。

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社会保険料の月額を計算する月給を入れると、標準報酬月額の等級と、本人・会社それぞれの保険料を確認できます。計算する

従業員の手取りは、額面から社会保険料の本人負担分と、源泉所得税・住民税を差し引いた額です。採用面接で手取りの話をすると額面との差で誤解が生じやすいため、額面・手取り・会社負担の3つをそろえて把握しておきましょう。賞与にも社会保険料がかかり、厚生年金は賞与1回150万円が上限です。

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給与の源泉徴収税額を計算する月額の給与と扶養の人数から、毎月差し引く源泉所得税(甲欄)を確認できます。計算する

パート・アルバイトの時給はどう決める?最低賃金と年収の壁

パート・アルバイトの時給は、下限として最低賃金を確認したうえで、地域の求人の水準と仕事の内容で決めます。同じ仕事をする正社員との待遇差には合理的な理由が求められる(同一労働同一賃金)点にも注意が必要です。

北海道の最低賃金は2026年10月1日から1,131円

北海道最低賃金は、2026年10月1日から1,131円になりました(前年の1,075円から56円の引上げ)。時給の人だけでなく、月給の人も確認が必要です。

月給制の従業員でも、月給(通勤手当や残業代などを除く)を1か月の平均所定労働時間で割った額が最低賃金を下回れば違反になります。改定のたびに、全員の時間あたりの金額を一覧で確認しておきましょう。

壁の種類目安(給与のみの場合)影響
本人の所得税178万円以下なら所得税がかからない(令和8・9年分。令和7年分は160万円)本人の手取り
親・配偶者の扶養控除・配偶者控除136万円以下(令和8年分)家族の税負担
配偶者特別控除207万円未満(令和8年分)配偶者の税負担
勤務先の社会保険への加入週20時間以上・従業員51人以上の企業・学生でない(月8.8万円の賃金要件は2026年10月1日に撤廃)本人と会社の保険料
家族の健康保険の扶養原則130万円未満(19〜22歳(配偶者を除く)は150万円未満、60歳以上は180万円未満。2026年4月1日から労働契約上の見込み年収で判定)扶養から外れると本人が保険料を負担
パート・アルバイトの年収の主な壁(2026年10月時点)

時給を上げると、年収の壁を意識して勤務時間を減らす人もいます。時給の見直しと同時に、年間の勤務時間の見込みを本人と確認しておくと、人手の計画が立てやすくなります。最低賃金や社会保険の改正の動きは人事労務・最低賃金・社会保険の最新情報にまとめています。

家族に払う給与の適正額は?税務で問われる「相当性」

家族を従業員として雇う場合、適正額は税務の問題にもなります。仕事の内容に見合わない高い給与は、経費として認められない部分が出るためです。

個人事業の場合

  • 青色申告なら、事前に青色事業専従者給与に関する届出書を税務署に提出する
  • 届け出た金額の範囲内で、労務の対価として相当な金額が経費になる
  • 白色申告では給与を経費にできず、上限のある事業専従者控除を差し引く形になる

法人の場合

  • 役員の親族である従業員への給与のうち、不相当に高額な部分は損金にならない
  • 仕事の内容、勤務の状況、同業・同規模の会社の従業員の給与と比べて判断される
  • 担当している仕事の内容を記録している
  • 勤務日と勤務時間をタイムカードなどで残している
  • 他の従業員や同業の水準と比べて、金額の根拠を説明できる
  • 給与は口座振込にし、源泉徴収と年末調整を他の従業員と同じように行っている

勤務の実態がない給与は全額が否認されることも

名義だけ家族を従業員にして給与を払っている場合、勤務の実態がなければ、給与の全額が経費として認められないことがあります。金額の高さだけでなく、働いていることを示す記録があるかが問われます。

なお、役員報酬は従業員の給与とは別のルール(定期同額給与は事業年度の開始から3か月以内に改定するなど)で決まります。考え方は役員報酬の適正額のポイントで整理しています。

家族への給与や人件費の水準が妥当かは、仕事の内容と会社の数字で判断が変わります。決算書をもとに初回無料で確認できます。

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給与を上げるときに使える税制は?賃上げ促進税制

従業員の給与を上げる中小企業は、賃上げ促進税制で、増やした給与の一定割合を法人税(個人事業は所得税)から差し引ける場合があります。

要件税額控除の割合
雇用者給与等支給額が前年度より1.5%以上増加増加額の15%
雇用者給与等支給額が前年度より2.5%以上増加増加額の30%
くるみん・えるぼし等の認定がある控除の割合に5%を上乗せ
中小企業向けの賃上げ促進税制(法人は2024年4月1日〜2027年3月31日に開始する事業年度、個人は令和7〜9年分。控除の上限は法人税額等の20%、控除しきれない額は5年繰越し)

「雇用者給与等支給額」には、役員やその親族などへの給与は含まれません。教育訓練費による上乗せは、2026年3月31日までに開始する事業年度(個人は令和8年分)で終わっています。2027年3月31日が期限の中小企業向けの制度は、延長されるかどうかが令和9年度の税制改正で決まります。

計算例:従業員の給与総額を3%増やした場合

例えば、前年度の雇用者給与等支給額が2,000万円、当年度が2,060万円(3%増)の中小法人の場合です。2.5%以上の増加なので、控除の割合は30%です。

  • 2,060万円-2,000万円=60万円(増加額)
  • 60万円×30%=18万円(税額控除の額。法人税額の20%が上限)

よくある質問

昇給の幅はどのように決めればよいですか?

一律の目安はありません。粗利の伸び(払える余力)、採用市場の相場、本人の評価の3つで決めます。勤続に応じた定期昇給と、給与水準そのものを引き上げるベースアップを分けて考えると、毎年の判断が整理しやすくなります。

試用期間中は給与を低くしてもよいですか?

本採用後より低く設定すること自体はありますが、試用期間中も最低賃金は適用されます。最低賃金を下回る額にできるのは、都道府県労働局長の許可を受けた場合に限られます。条件は雇用契約書に明記しておきましょう。

月給を上げるのと賞与で報いるのは、どちらがよいですか?

月給は一度上げると下げにくい一方、賞与は業績に応じて金額を決めやすいのが特徴です。どちらにも社会保険料がかかるため、会社負担も含めて比べます。賞与の保険料は賞与の社会保険料を計算するで確認できます。

「給料の3倍」の粗利に届かない従業員の給与は、下げてもよいですか?

給与の引下げは労働条件の不利益な変更にあたり、原則として本人の合意が必要です。個人の粗利を測りにくい職種もあるため、まずは会社全体の労働分配率と仕事の配分を見直し、評価の基準を示したうえで話し合うのが現実的です。

まとめ

従業員給与の適正額は、粗利と労働分配率から見た「払える上限」、最低賃金と相場から見た「下限」、賃金テーブルによる「社内の公平性」を重ねて決めます。額面には社会保険料などの会社負担が上乗せされるため、総額で試算することが欠かせません。家族への給与は仕事の実態と金額の根拠を残し、給与を上げるときは賃上げ促進税制の要件も確認しましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)

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