限界利益と損益分岐点で「やめる・伸ばす」を決める|計算式と撤退の判断基準

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限界利益と損益分岐点を使うと、事業や商品を「やめる・伸ばす」の判断を数字で説明できます。要は、共通費を配った後の赤字だけで撤退を決めず、その事業の限界利益と「やめたら消える固定費」を比べることです。計算式と判断の手順、撤退にかかるコストと税務の扱いまで順に整理します。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

限界利益(売上高−変動費)がプラスで、やめても残る共通費を負担している事業は、配賦後に赤字でも続けたほうが会社全体の利益は大きくなります。伸ばす先は、限界利益率と「人手など限られた資源あたりの限界利益」で選びます。

  • 損益分岐点売上高は「固定費÷限界利益率」。固定費が月300万円、限界利益率40%なら750万円
  • 撤退の判断は、限界利益と「やめたら消える固定費(個別固定費)」の比較で行う
  • 撤退には設備の除却損や契約の解約金などのコストがかかる。赤字になった期の欠損金は繰越控除などで活かせる
  • 値下げや設備投資は損益分岐点を動かすため、実行前に必要な販売量と売上を試算する
目次

限界利益とは?固定費を回収する「元手」になる利益

限界利益とは、売上高から変動費を差し引いた利益です。変動費は売上や販売数量に比例して増減する費用で、仕入原価・材料費・外注費・販売手数料・運賃などが当たります。家賃や正社員の給与のように、売上が増えても減っても一定額かかる費用は固定費と呼びます。

限界利益が大切なのは、それが固定費を回収し、利益を生み出す元手になるからです。例えば売上100万円、変動費60万円の商品なら、限界利益は40万円です。この40万円が家賃や人件費を賄う原資になり、売上に占める割合(この例では40%)を限界利益率といいます。

商品・店舗・事業ごとに限界利益を並べると、どこが会社の固定費を支えているかが見えてきます。そのための最初の作業が、損益計算書の費用を変動費と固定費に分けることです。

区分主な勘定科目分けるときの考え方
変動費仕入高、材料費、外注加工費、販売手数料、荷造運賃、カード決済手数料売上や数量が増えると、ほぼ比例して増える
固定費地代家賃、役員報酬、正社員の給料、減価償却費、リース料、保険料売上がゼロでも一定額かかる
判断が分かれる費用水道光熱費、パート・アルバイトの給与、車両の燃料費、広告宣伝費主な性質でどちらかに寄せ、毎期同じ基準で分ける
勘定科目ごとに分ける方法(勘定科目法)の例。業種や契約の形によって区分は変わります

「粗利」と「限界利益」は一致しないことが多い

決算書の売上総利益(いわゆる粗利)は、売上高から売上原価を引いた利益です。製造業や建設業では、売上原価に工場や現場の人件費・減価償却費といった固定的な費用が含まれます。

一方、販売手数料や運賃のように売上に比例する費用は、販売費及び一般管理費に入っています。粗利率をそのまま限界利益率として使うと、損益分岐点を読み違えるおそれがあります。

損益分岐点はいくら?計算式と「あといくら売れば黒字か」

損益分岐点とは、利益がちょうどゼロになる売上高のことです。固定費を限界利益でぴったり賄える売上水準で、これを下回れば赤字、上回れば黒字になります。計算式は「損益分岐点売上高=固定費÷限界利益率」です。

例えば、固定費が月300万円、限界利益率が40%の会社なら、損益分岐点は月750万円です。月の売上が750万円を超えれば黒字、下回れば赤字という採算ラインになります。

項目金額・割合
固定費(月)300万円
限界利益率40%
損益分岐点売上高(月)750万円
損益分岐点の計算イメージ(300万円÷40%)

損益分岐点とあわせて見ておくと、判断に使いやすい指標がいくつかあります。どれも固定費・限界利益率・実際の売上高の三つがわかれば計算できます。

指標計算式わかること
損益分岐点売上高固定費÷限界利益率赤字にならない最低限の売上
目標利益を出す売上高(固定費+目標利益)÷限界利益率計画や予算で目指す売上
安全余裕率(実際の売上高−損益分岐点売上高)÷実際の売上高売上がどれだけ減ると赤字になるか
損益分岐点比率損益分岐点売上高÷実際の売上高低いほど売上の落ち込みに強い
損益分岐点まわりの主な指標

計算例:月の売上が1,000万円の会社

例えば、固定費が月300万円、限界利益率が40%、実際の売上が月1,000万円の会社の場合です。

  • 現在の利益:1,000万円×40%−300万円=100万円
  • 損益分岐点売上高:300万円÷40%=750万円
  • 安全余裕率:(1,000万円−750万円)÷1,000万円=25%(売上が25%減ると赤字)
  • 月60万円の利益を出すための売上高:(300万円+60万円)÷40%=900万円

固定費と限界利益率がわかれば、「あといくら売れば黒字か」「目標の利益にはいくらの売上が必要か」を逆算できます。

値下げすると、どれだけ多く売る必要がある?

値下げは売上を伸ばす手段に見えますが、1個あたりの限界利益が減るため、損益分岐点を押し上げます。値下げ前と同じ限界利益を確保するには、販売数量を値下げ幅以上に増やさなければなりません。

計算例:単価1万円の商品を1割値下げした場合

例えば、単価1万円、1個あたりの変動費が6,000円の商品の場合です。

  • 値下げ前の限界利益:1万円−6,000円=4,000円(限界利益率40%)
  • 1割値下げ後の限界利益:9,000円−6,000円=3,000円
  • 同じ限界利益を得るのに必要な販売数量:4,000円÷3,000円=約1.33倍

1割の値下げを取り返すには、販売数量をおよそ3割以上増やす必要があります。限界利益率が低い商品ほど、値下げの影響は大きくなります。

価格の決め方や商品構成の見直しは、値決めと商品構成で利益率を上げる方法もあわせてご覧ください。

赤字の事業はやめるべき?配賦後の赤字で決めてはいけない理由

事業別・店舗別の損益では、本社の家賃や経営者の報酬といった共通の固定費を、売上高などの基準で各事業に配ります。これを配賦といいます。配賦後に赤字の事業があると撤退を考えたくなりますが、その赤字は「やめれば消える赤字」とは限りません。

撤退の判断では、固定費を二つに分けます。その事業のためだけにかかり、やめれば消える「個別固定費」(専任スタッフの人件費、その事業だけの賃借料や設備のリース料など)と、やめても残る「共通固定費」です。限界利益から個別固定費を引いた利益を、ここでは「貢献利益」と呼びます(限界利益と同じ意味で使う文献もあります)。

計算例:配賦後に月30万円の赤字に見える事業

例えば、ある事業の限界利益が月50万円、配賦された固定費が月80万円で、そのうち撤退すれば消える個別固定費が月20万円の場合です。

  • 配賦後の損益:50万円−80万円で、月30万円の赤字に見える
  • 貢献利益:50万円−20万円=30万円(共通費を月30万円まかなっている)
  • 撤退すると:貢献利益の30万円が消え、残る共通費60万円は他の事業が負担する

撤退すると、会社全体の利益は月30万円減ります。事業別の表から赤字が消えても、会社としてはかえって損が増える結果です。

事業や商品ごとの判断の目安を表にまとめると、次のとおりです。まず限界利益、次に貢献利益、最後に配賦後の損益の順に見ていきます。

事業・商品の状態判断の方向次に確認すること
限界利益がマイナス売るほど赤字が増える。最優先で見直す価格と変動費(仕入・外注)の見直し、改善できなければ取扱いの中止
限界利益はプラス、貢献利益がマイナス個別固定費を賄えていない。縮小・撤退の検討対象個別固定費の削減余地と撤退コスト
貢献利益はプラス、配賦後は赤字共通費の一部を負担している。やめると全体の利益が減る売上と限界利益率の改善策
配賦後も黒字会社を支える事業。伸ばす候補追加投資や人員配置の効果
事業・商品ごとの「やめる・続ける」判断の目安(短期の採算で見た場合)

時間をかければ「やめたら消える費用」は増える

共通固定費の中にも、時間をかければ減らせるものがあります。撤退に合わせて事務所を縮小する、人員を配置転換で吸収するなど、将来なくせる費用は撤退で浮く費用に含めて試算します。

撤退で空いた人手や売場を、より限界利益の高い事業に回せる場合は、その分の利益の増加も判断材料になります。

共通費の配り方そのものも見直す余地があります。売上高で配るか、人数や面積、作業時間で配るかで、事業ごとの配賦後の損益は大きく変わります。基準の選び方は部門別・店舗別損益の配賦ルールの決め方で詳しく整理しています。

どの費用が「やめたら消える」のかは、契約や人員の配置によって変わります。自社の数字で撤退・継続を試算したい場合は、初回無料でご相談いただけます。

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撤退を決める前に試算したいコストと税務の扱い

撤退の効果は、月々の損益が改善するかどうかだけでは測れません。撤退の時点で一度に出ていくお金や損失があり、これを含めないと「やめて正解だったか」を判断できないからです。

項目主な内容会計・税務で気をつけること
設備・内装使わなくなる設備や内装の除却・売却帳簿価額が残っていれば除却損・売却損になる。廃棄の記録や処分業者の書類を残す
在庫売れ残りの値引き販売・廃棄税務上、評価損を計上できる場面は限られる。廃棄した場合は事実を示す記録を残す
賃貸借・リース契約中途解約の違約金、原状回復費用、残りのリース料解約予告の期間と違約金の定めを契約書で確認する
人員配置転換や退職に伴う費用就業規則と雇用契約を確認し、早めに方針を決める
取引先・顧客他の商品とあわせて買っていた顧客が離れる他の事業の売上が減る分も試算に入れる
撤退時に発生しやすいコストの例(事業の形態や契約内容で変わります)

撤退の年は、除却損や廃棄損で会社全体が赤字になることがあります。青色申告の法人なら、赤字(欠損金)を翌期以後に繰り越して所得から差し引けます。2018年4月1日以後に開始した事業年度の欠損金は10年繰り越せ、中小法人等は繰越控除前の所得の全額まで控除できます。

繰越控除には、欠損金が生じた期に青色申告書を提出し、その後も続けて確定申告書を提出していることが条件になります。また、前の事業年度に法人税を納めている中小法人等は、欠損金を繰り戻して法人税の還付を請求できる場合があります。個人事業主も、青色申告なら事業の赤字(純損失)を翌年以後に繰り越せます。

無料
ツール
繰越欠損金の控除限度を計算する繰り越した欠損金のうち、今期の所得から差し引ける金額を試算できます。計算する
無料
ツール
欠損金の繰戻し還付を試算する赤字の期の欠損金を前期に繰り戻したときの還付額の目安を確認できます。計算する

除却損や廃棄損、解約の違約金は、原則として除却・廃棄・解約が実際に行われた事業年度の損失になります。決算期末の直前に行うか直後に行うかで、どの期の利益と相殺されるかが変わるため、撤退のスケジュールは決算期を意識して組みます。

伸ばす事業はどう選ぶ?限界利益率と「限られた資源あたり」の利益

伸ばす判断の基本は、限界利益率の高いものから資源を集中することです。限界利益率が高い商品は、売上が増えたときに利益が増えやすいからです。逆に、売上は大きくても限界利益率が低い商品は、いくら売っても利益が積み上がりにくいことがあります。

ただし、人手や作業時間、機械の稼働時間、席数などに限りがある場合は事情が変わります。限界利益率よりも「限られた資源1単位あたりの限界利益」で比べたほうが、会社全体の利益は大きくなります。

計算例:人手が足りないときに伸ばす商品を選ぶ

例えば、作業できる時間に限りがある会社で、次の二つの商品を比べる場合です。

  • 商品A:単価1万円、限界利益6,000円、作業時間2時間。限界利益率は6,000円÷1万円=60%
  • 商品B:単価5,000円、限界利益2,000円、作業時間0.5時間。限界利益率は2,000円÷5,000円=40%
  • 1時間あたりの限界利益:商品Aは6,000円÷2時間=3,000円、商品Bは2,000円÷0.5時間=4,000円

限界利益率だけを見ると商品Aが有利です。しかし作業時間が限られているなら、同じ時間でより多くの限界利益を生む商品Bを伸ばすほうが、会社全体の利益は増えます。

設備や人員を増やして伸ばす場合は、固定費が増えて損益分岐点が上がる点にも注意が必要です。投資の前に、増えた固定費を賄うのに必要な売上と、その売上に届くまで資金がもつかを確認します。

計算例:設備投資で固定費が月50万円増える場合

例えば、固定費が月300万円、限界利益率40%の会社で、設備のリース料と人件費により固定費が月50万円増える場合です。

  • 損益分岐点の上昇幅:50万円÷40%=125万円
  • 投資後の損益分岐点:(300万円+50万円)÷40%=875万円

投資後は、月の売上が875万円を超えないと赤字になります。売上がそこに届くまでの期間と、その間の資金繰りを先に見積もっておきます。

一方で、数字だけで機械的に決めるのは危険です。成長性や顧客との関係、他の商品の集客につながる役割、将来の主力に育てたいといった戦略上の位置づけなど、数字に表れない要素も判断には欠かせません。限界利益と損益分岐点は強力な道具ですが、あくまで判断材料の一つです。

自社の数字で分析する手順:どの資料で何を見るか

分析に特別なソフトは要りません。会計ソフトから出せる試算表と元帳、販売管理やPOSレジのデータがあれば、次の順番で進められます。

  1. 資料をそろえる直近の決算書と1年分の月次試算表、総勘定元帳、商品・店舗・事業ごとの売上データを用意します。
  2. 費用を変動費と固定費に分ける勘定科目ごとに区分し、迷う科目は主な性質で寄せます。基準は毎期同じにします。
  3. 単位ごとの限界利益を出す商品・店舗・事業ごとに売上と変動費を集計し、限界利益と限界利益率を計算します。
  4. 固定費を個別と共通に分けるやめれば消える費用と、やめても残る費用を、契約書や人員配置から確認します。
  5. 指標を計算する損益分岐点売上高、貢献利益、安全余裕率を出し、会社全体と単位ごとに並べます。
  6. シナリオを比べるやめる・続ける・伸ばすの各案で、会社全体の利益と資金繰りがどう変わるかを、撤退コストや税金も含めて比べます。
  7. 実行後に検証する月次試算表で計画と実績を比べ、ずれた原因を次の判断に生かします。

自社の限界利益率や固定費の水準を同業と比べたいときは、業種別の財務指標の目安が参考になります。変動費・固定費の分解や部門別損益の仕組みづくりから相談したい場合は、財務コンサルティングの支援内容もご覧ください。

北海道の事業で損益分岐点を見るときの注意

冬季は暖房費や除雪費がかさみやすく、建設業や観光関連など、冬と夏で売上が大きく変わる事業もあります。年間では黒字でも、月ごとに見ると損益分岐点を下回る時期がある場合は、その時期の採算と資金を前もって確認しておきます。

北海道の最低賃金は2026年10月1日から1,131円に引き上げられました(それまでは1,075円)。時給で働くスタッフの人件費が上がると、変動費と固定費のどちらに分けていても損益分岐点は上がります。人件費の見直しに合わせて、価格と損益分岐点を計算し直しておくと判断を誤りにくくなります。

よくある質問

人件費は変動費と固定費のどちらに入れますか?

役員報酬や正社員の給与は固定費です。パート・アルバイトの給与は、売上や客数に合わせてシフトを増減しているなら変動費、ほぼ一定の時間で働いてもらっているなら固定費として扱うと実態に近くなります。どちらに入れる場合も、毎期同じ基準で分けることが大切です。

決算書の数字だけで損益分岐点は計算できますか?

計算はできますが、組み替えが必要です。損益計算書は売上原価と販売費及び一般管理費に分かれていて、変動費と固定費には分かれていないためです。製造業や建設業では、製造原価報告書や工事原価報告書にある人件費や減価償却費を固定費に移します。季節の動きを見るなら、年1回の決算書より月次試算表が向いています。

限界利益がマイナスの商品は、すぐにやめるべきですか?

売るほど損が増える状態なので、値上げや仕入・外注の見直しを最優先で検討し、改善できなければ取扱いの中止を考えます。ただし、その商品を目当てに来た顧客が他の商品も買っているなら、その分の限界利益も含めて判断します。

個人事業でも同じ考え方で判断できますか?

同じ考え方で判断できます。ただし、事業主本人の生活費は経費にならないため、損益分岐点ちょうどの売上では生活費が残りません。固定費に、生活費と税金・社会保険料に回すお金を加えた額を限界利益率で割った売上を、目標の目安にすると実態に合います。

損益分岐点はどのくらいの頻度で見直せばよいですか?

値上げや仕入価格の変化、人員の増減、家賃の改定があると損益分岐点は動きます。少なくとも決算ごとに計算し直し、価格や人件費が大きく変わる時期は月次試算表で確認すると、判断の遅れを防げます。

まとめ

限界利益は固定費を回収する元手で、損益分岐点は「固定費÷限界利益率」で求める採算ラインです。撤退は配賦後の赤字ではなく、限界利益・やめたら消える固定費・撤退コストを比べて決め、伸ばす先は限界利益率と限られた資源あたりの限界利益で選びます。数字は判断材料の一つなので、成長性や顧客との関係もあわせて考えましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂

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