簡易課税は、売上にかかる消費税額にみなし仕入率(業種ごとに40〜90%)を掛けて仕入税額を計算する方法で、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者が届出によって選べます。人件費の割合が高いサービス業などで有利になりやすい一方、2年間は変更できないため、本則課税や2割特例・3割特例と比べてから選びます。
この記事の結論
簡易課税は、実際の仕入れの消費税を集計せず、売上の消費税額とみなし仕入率だけで納付税額を計算できる制度です。実際の仕入れの割合がみなし仕入率より低い事業者ほど有利になります。
- 条件は、基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下であること
- 適用を受けたい課税期間の初日の前日までに選択届出書を提出する(事業を始めた課税期間はその課税期間中)
- 一度選ぶと2年間は継続適用で、簡易課税のままでは還付も受けられない
- みなし仕入率は第1種90%から第6種40%までの6区分
- 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了。個人は令和9・10年分に3割特例も選べる
簡易課税とは?納付税額の計算のしくみ
消費税の納付税額は、原則として「売上にかかる消費税額から仕入れにかかる消費税額を引いた額」で計算します。これを本則課税(一般課税)といいます。
簡易課税では、仕入れにかかる消費税額を実際の金額で集計せず、売上にかかる消費税額にみなし仕入率を掛けた額とみなします。納付税額は売上の消費税額とみなし仕入率だけで決まるため、仕入れや経費の請求書を税額の計算のために集計する必要がありません。経理の負担を減らせる点が、小規模な事業者にとっての大きな利点です。
計算例:小売業で簡易課税と本則課税を比べる
例えば、小売業(第2種・みなし仕入率80%)で、税抜の課税売上高が2,000万円、税抜の課税仕入れが1,500万円の場合です。すべて標準税率10%とし、国税と地方税の合計で概算します。
- 売上にかかる消費税額:2,000万円×10%=200万円
- 簡易課税の仕入税額:200万円×80%=160万円
- 簡易課税の納付税額:200万円−160万円=40万円
- 本則課税の仕入税額:1,500万円×10%=150万円
- 本則課税の納付税額:200万円−150万円=50万円
この例では簡易課税の方が10万円少なくなります。実際の仕入れの割合が1,500万円÷2,000万円=75%で、みなし仕入率の80%より低いためです。
ツール簡易課税の納付税額を計算する事業が1種類の場合の納付税額を、売上の金額と事業区分から計算できます。計算する
みなし仕入率はいくら?事業区分の判定
みなし仕入率は、事業の種類に応じて6つの区分で決められています。区分は事業者ごとではなく、原則として売上(取引)ごとに判定します。
| 区分 | みなし仕入率 | 主な事業 |
|---|---|---|
| 第1種 | 90% | 卸売業(仕入れた商品をそのまま他の事業者に販売する事業) |
| 第2種 | 80% | 小売業(仕入れた商品をそのまま消費者に販売する事業)、農林漁業のうち飲食料品の譲渡 |
| 第3種 | 70% | 農林漁業(飲食料品の譲渡を除く)、鉱業、建設業、製造業など |
| 第4種 | 60% | 飲食店業など、ほかの区分に当たらない事業 |
| 第5種 | 50% | 運輸通信業、金融保険業、サービス業(飲食店業を除く) |
| 第6種 | 40% | 不動産業 |
区分の誤りで納付税額が変わる
- 飲食店は第4種(60%)で、サービス業の第5種(50%)ではありません。同じ店でも、テイクアウトの販売などは別の区分になることがあります。
- 複数の事業を営む場合は、事業区分ごとに売上を分けて記録します。区分していない売上には、営んでいる事業のうち最も低いみなし仕入率が適用されます。
- 売上の大半を1つの区分が占める場合などには、その区分のみなし仕入率を売上全体に使える特例もあります。
簡易課税を選べる条件と届出の期限は?
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 選べる事業者 | 基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下 |
| 届出書 | 消費税簡易課税制度選択届出書 |
| 提出の期限 | 適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで(新たに事業を始めた課税期間は、その課税期間中) |
| 継続適用 | 選んだら2年間は継続し、その間は本則課税に戻せない |
| やめるとき | 消費税簡易課税制度選択不適用届出書を、やめたい課税期間の初日の前日までに提出 |
| 選べない場合 | 調整対象固定資産や高額特定資産を取得した場合など、一定の期間は届出ができない |
よく混同されますが、基準期間の課税売上高が1,000万円以下というのは、消費税の納税義務が免除される(免税事業者になる)基準です。簡易課税の条件ではなく、簡易課税は課税売上高5,000万円以下まで選べます。
届出書に記入するのは、適用を開始する課税期間、その基準期間と課税売上高、事業の内容と事業区分などです。届出書は免税事業者のうちに出しておくこともでき、その場合は課税事業者になった課税期間から簡易課税が適用されます。課税事業者になるかどうかの判定は課税事業者の判定方法で確認できます。
札幌市内の税務署に書面で提出する場合
札幌市内の5つの税務署あての書面の届出書は、2026年7月10日から札幌業務センターへの郵送になっています。e-Taxで提出する場合や、窓口に持参する場合は所轄の税務署です。期限ぎりぎりの郵送は避け、控えを残しておきます。
本則課税とどちらが得?判断の目安
簡易課税が有利かどうかは、実際の仕入れの割合がみなし仕入率より高いか低いかで決まります。実際の割合は「税抜の課税仕入れ÷税抜の課税売上高」で考えます。給与、社会保険料、土地の賃料や住宅の家賃、支払利息、保険料など消費税がかからない支払は、課税仕入れに入りません。
簡易課税が有利になりやすい
- 人件費の割合が高いサービス業・士業・IT業など
- 仕入れや外注が少なく、利益率が高い
- 免税事業者からの仕入れが多い(経過措置の計算が要らない)
- 経理の手間を減らしたい
本則課税が有利になりやすい
- 仕入れや外注の割合がみなし仕入率より高い
- 店舗の改装や機械の購入など、大きな設備投資がある
- 輸出が多いなど、還付を受けられる可能性がある
- 在庫の積み増しなどで仕入れが売上を上回る年がある
計算例:人件費が中心のサービス業
例えば、デザイン業(第5種・みなし仕入率50%)で、税抜の課税売上高が1,500万円、外注やソフトの利用料など税抜の課税仕入れが300万円の場合です(標準税率10%で概算)。
- 売上にかかる消費税額:1,500万円×10%=150万円
- 簡易課税の仕入税額:150万円×50%=75万円
- 簡易課税の納付税額:150万円−75万円=75万円
- 本則課税の仕入税額:300万円×10%=30万円
- 本則課税の納付税額:150万円−30万円=120万円
実際の仕入れの割合は300万円÷1,500万円=20%で、みなし仕入率50%を大きく下回るため、簡易課税の方が45万円少なくなります。スタッフの給与は課税仕入れにならないため、人件費の割合が高い事業ほどこの差は大きくなります。
設備投資の予定があるなら選ぶ前に試算する
簡易課税を選んでいる間は、店舗の改装や機械の購入で多額の消費税を払っても、その税額を差し引けません。本則課税なら還付になる場面でも、簡易課税では還付を受けられません。2年間は変更できないため、設備投資の計画がある場合は届出の前に試算します。
ツール簡易課税・本則課税・2割特例を比べる売上と仕入れの金額を入れると、計算方法ごとの納付税額を並べて比べられます。計算する
簡易課税・本則課税・3割特例のどれが有利かは、事業区分と仕入れの割合、設備投資の予定で変わります。届出の期限の前に、初回無料で試算できます。
無料で相談する2割特例・3割特例とはどう違う?
インボイスの登録をきっかけに課税事業者になった事業者には、簡易課税とは別に、納付税額を売上の消費税額の一定割合にできる特例があります。2割特例は終了の時期が決まっており、個人事業者には後継の3割特例が設けられました。
| 計算方法 | 使える事業者 | 納付税額 | 使える期間・手続き |
|---|---|---|---|
| 本則課税 | すべての課税事業者 | 売上の消費税額から仕入れの消費税額を引いた額 | 届出は不要 |
| 簡易課税 | 基準期間の課税売上高が5,000万円以下で届出をした事業者 | 売上の消費税額からその額にみなし仕入率を掛けた額を引いた額 | 事前の届出が必要、2年間継続 |
| 2割特例 | 登録しなければ免税事業者になる事業者 | 売上の消費税額の2割 | 2026年9月30日を含む課税期間まで(3月決算法人は2027年3月期、個人は令和8年分まで) |
| 3割特例 | 個人事業者のみ。登録しなければ免税事業者になる人 | 売上の消費税額の3割 | 令和9・10年分。届出は不要 |
3割特例は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える場合、特定期間の判定で課税事業者になる場合、課税期間を短縮している場合、調整対象固定資産などの取得による制限がある場合は使えません。法人には後継の特例がないため、2割特例が終わった法人は簡易課税か本則課税を選びます。
3割特例の納付税額は売上の消費税額の3割で、みなし仕入率70%の簡易課税と同じ水準です。卸売業(第1種)や小売業(第2種)なら簡易課税の方が、飲食店(第4種)・サービス業(第5種)・不動産業(第6種)なら3割特例の方が、納付税額は少なくなります。
計算例:個人の飲食店が令和9年分に選ぶ場合
例えば、個人で飲食店(第4種)を営み、令和9年分の税抜の課税売上高が800万円、売上にかかる消費税額が80万円で、登録しなければ免税事業者になる場合です。
- 3割特例の納付税額:80万円×30%=24万円
- 簡易課税の仕入税額:80万円×60%=48万円
- 簡易課税の納付税額:80万円−48万円=32万円
この場合は3割特例の方が8万円少なく、事前の届出も要りません。
2割特例・3割特例を使った課税期間の翌課税期間から簡易課税に切り替える場合は、その翌課税期間の確定申告期限までに選択届出書を出せばよい扱いがあります。例えば、令和10年分に3割特例を使い、令和11年分から簡易課税にするなら、提出の期限は2030年4月1日です。2割特例の税額はインボイス2割特例の計算で確かめられます。
インボイス制度と簡易課税の関係は?
簡易課税を選んでいても、適格請求書発行事業者として登録していれば、取引先の課税事業者から求められたらインボイスを交付する義務があります。簡易課税かどうかは、売り手としての義務には影響しません。
一方、仕入れの側では、簡易課税の事業者は仕入税額をみなし仕入率で計算するため、税額の計算のために仕入れのインボイスを保存する必要はありません。免税事業者からの仕入れに係る経過措置(2026年10月1日〜2028年9月30日は仕入税額の70%を控除)の計算も要りません。ただし、所得税・法人税の経費の証拠としては、請求書や領収書の保存が必要です。
本則課税の事業者は、インボイスの保存が仕入税額控除の要件です。税込1万円未満の仕入れは帳簿への記載だけで控除できる少額特例があり、基準期間の課税売上高が1億円以下などの事業者が、2029年9月30日まで使えます。制度の全体像はインボイス制度の実務ガイドにまとめています。
簡易課税の申告と納付はいつ?
| 区分 | 申告・納付の期限 |
|---|---|
| 個人事業者 | 翌年3月31日(令和8年分は2027年3月31日(水)) |
| 法人 | 事業年度終了の日の翌日から2か月以内(延長の届出で1か月延長) |
| 中間申告 | 直前の確定消費税額(国税)が48万円超で年1回、400万円超で年3回、4,800万円超で年11回 |
簡易課税でも、売上は事業区分ごと・税率(10%と軽減税率8%)ごとに分けて記帳しておく必要があります。会計ソフトでは、売上の勘定科目や補助科目、税区分を事業区分に合わせて設定しておくと、申告書の作成がスムーズです。
よくある質問
簡易課税を選んだ後に、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えたらどうなりますか?
その課税期間は本則課税で計算します。選択届出書の効力は不適用届出書を出すまで続くため、再び5,000万円以下になれば、新たに届け出なくても簡易課税に戻ります。
開業した年から簡易課税を選べますか?
新たに事業を始めた課税期間は、その課税期間中に届出書を出せば初年度から選べます。ただし、開業当初は基準期間がないため原則として免税事業者です。インボイスの登録などで課税事業者になる場合に、簡易課税を使うかどうかを検討します。
事業区分がわからない売上はどうすればよいですか?
事業区分は、おおむね日本標準産業分類をもとに判定します。判断に迷う売上は、税務署や税理士に確認してから区分を決めます。区分を誤ると納付税額が変わるため、主な売上ごとに区分を決めて記帳しておきます。
個人事業主が法人化すると、簡易課税の届出は引き継がれますか?
引き継がれません。法人は個人とは別の事業者のため、法人として届出書を提出します。設立した課税期間中に提出すれば、1期目から簡易課税を選べます。
まとめ
簡易課税は、売上の消費税額とみなし仕入率だけで納付税額を計算できる制度で、基準期間の課税売上高5,000万円以下なら届出で選べます。実際の仕入れの割合がみなし仕入率より低いほど有利ですが、2年間は変更できず還付も受けられないため、設備投資の予定まで含めて本則課税と比べます。2割特例の終了後は、個人なら3割特例も選択肢になるため、事業区分ごとに有利な方法を試算してから届け出ましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
