役員退職金の決め方と税金|功績倍率法・損金算入の要件と手取りの計算

公認会計士・税理士 監修

この記事は、公認会計士・税理士が代表を務める札幌の会計事務所「ジェイスタート会計事務所」が監修しています。

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役員退職金は、会社では「不相当に高額」でない部分が損金になり、受け取る役員は退職所得として退職所得控除と2分の1課税を使えるため、税負担を抑えやすい支払い方です。金額は「最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率」の功績倍率法で根拠を持って決め、株主総会の決議と支給の時期をそろえます。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

役員退職金は、会社では相当な金額までが損金になり、受け取る側では退職所得として軽い課税で済む仕組みです。功績倍率法で根拠のある金額を決め、規程・決議・支払いの手順をそろえることが大切です。

  • 会社法上は、定款か株主総会の決議で金額(または算定の基準)を決め、議事録を残す
  • 金額は最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率で検討し、同業・同規模の会社の水準と比べる
  • 損金にする時期は、原則として決議で金額が確定した事業年度(支払った年度に損金経理する方法もある)
  • 受け取る側は(退職金−退職所得控除)×1/2が課税対象。役員としての勤続が5年以下なら1/2はない
  • 社長から会長への交代など分掌変更でも、実質的に退職と同じ事情なら退職金として扱える
目次

役員退職金とは?会社と役員それぞれの税金の扱い

役員退職金(役員退職慰労金)は、取締役や監査役などの役員が退任するときに、会社が在任中の職務への対価として支払う一時金です。会社法では役員の報酬等にあたるため、定款に定めがなければ株主総会の決議で決めます。実務では、役員退職慰労金規程に従って金額・時期・方法を取締役会に一任する決議もよく使われます。

立場税金の扱いポイント
支払う会社退職給与として損金になる。ただし、不相当に高額な部分は損金にならない金額の根拠と、損金にする事業年度を決めておく
受け取る役員退職所得として、ほかの所得と分けて課税(分離課税)。退職所得控除と2分の1課税がある「退職所得の受給に関する申告書」を出せば、源泉徴収で課税が完結する
社会保険退職時に一時金として払う退職金は、社会保険料の対象にならない同じ額を報酬や賞与で払う場合との違いになる
役員退職金の税金の扱い(2026年10月時点)

よくある誤解に注意

  • 役員には、従業員のような労働基準法に基づく退職金のルールはない。支給の有無と金額は、定款・株主総会の決議と社内規程で決まる
  • 「役員退職慰労金」と「役員退職金」は呼び方の違いで、税金の扱いは同じ(受け取る側は一時所得ではなく退職所得)
  • 将来の退職金に備えて積み立てる引当金は、計上しても損金にならない

金額はどう決める?功績倍率法と「不相当に高額」の判断

役員退職金のうち、損金にできるのは「相当」と認められる金額までです。相当かどうかは、その役員が業務に従事した期間、退職の事情、同じ種類の事業を営む同規模の会社が役員に払っている退職金の状況などに照らして判断されます。この考え方を数式にしたのが功績倍率法で、中小企業で広く使われています。

要素内容確認すること
最終報酬月額退任直前の役員報酬の月額退任の直前に不自然に引き上げていないか。逆に、事情があって大きく下げている場合は、その経緯も記録しておく
役員在任年数役員として在任した年数就任日と退任日を登記簿や議事録で確認する
功績倍率役職や功績に応じた倍率役員退職慰労金規程に定め、同業・同規模の会社の水準と比べて説明できるようにする
功績倍率法の3つの要素(最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率)

最終報酬月額が実態より低い場合などは、在任1年あたりの平均額に年数を掛ける「1年当たり平均額法」で考えることもあります。どの方法でも、規程と議事録で金額の根拠を残しておくことが、税務調査での説明の土台になります。

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受け取る役員の税金は?退職所得の計算と手取り

役員退職金は退職所得として、ほかの所得と分けて課税されます。退職所得の金額は(収入金額−退職所得控除額)×1/2で、退職所得控除額は勤続20年以下なら40万円×勤続年数(最低80万円)、20年超なら800万円+70万円×(勤続年数−20年)です。勤続年数には、従業員として勤めた期間も含めます。

ただし、役員としての勤続年数が5年以下の人が受け取る退職金(特定役員退職手当等)には、2分の1の計算がありません。就任して間もない役員に多額の退職金を払う場合は、税負担が大きく変わる点に注意します。控除額の数え方は「退職所得控除の計算方法」でも整理しています。

計算例:役員在任20年・勤続30年の社長が退任する場合

例えば、最終報酬月額80万円、役員在任年数20年、功績倍率2.0(仮の倍率)で、従業員として10年勤めた後に役員になった勤続30年の札幌市在住の社長が退任する場合(いずれも仮の数字)。

  • 退職金:80万円×20年×2.0=3,200万円
  • 勤続20年を超える部分の控除:70万円×10年=700万円
  • 退職所得控除:800万円+700万円=1,500万円
  • 控除後の金額:3,200万円−1,500万円=1,700万円
  • 退職所得:1,700万円÷2=850万円
  • 所得税:8,500,000円×23%−636,000円=1,319,000円
  • 復興特別所得税:1,319,000円×2.1%=27,699円
  • 住民税(市民税8%・道民税2%):8,500,000円×10%=850,000円
  • 税金の合計:1,319,000円+27,699円+850,000円=2,196,699円
  • 手取り:32,000,000円−2,196,699円=29,803,301円

3,200万円の退職金に対する税金は約220万円で、手取りは約2,980万円です。功績倍率2.0は計算のための仮の数字で、実際の倍率は役職や同業の水準などから検討します。

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源泉徴収と、iDeCoの一時金を受け取る場合の注意

受け取る役員が「退職所得の受給に関する申告書」を出していれば、会社が正しい税額を源泉徴収するため、原則として確定申告は要りません。出していない場合は退職金の20.42%が源泉徴収され、確定申告で精算します。

iDeCoなど確定拠出年金の一時金を先に受け取り、その後に会社の退職金を受け取る場合、退職所得控除の調整の対象になる期間は、2026年1月1日以後に支払を受ける退職手当等から「前年以前4年内」が「前年以前9年内」に延びています(いわゆる5年ルールは10年ルールになっています)。受け取る順番と時期は、退任の前に確認しておきます。

報酬で払うのと退職金で払うのは、どちらが有利?

同じ金額を払うなら、多くの場合、退職金のほうが受け取る役員の税負担は軽くなります。役員報酬は給与所得としてほかの所得と合算され、累進税率がそのまま適用されるのに対し、退職金は退職所得控除を差し引いたうえで2分の1にし、分離して課税されるためです。

役員報酬で払う場合

  • 給与所得として総合課税(累進税率)
  • 社会保険料がかかる
  • 損金にするには定期同額給与などの要件がある
  • 毎年の資金の流出は平準化できる

退職金で払う場合

  • 退職所得控除と2分の1課税で、分離して課税
  • 退職時の一時金は社会保険料の対象外
  • 不相当に高額な部分は損金にならない
  • 支給する年度に大きな資金が必要になる

在任中の報酬をどこまで抑え、退職金にどこまで回すかは、会社の資金繰りや役員の生活設計とあわせて決めます。報酬と退職金で受け取った場合の差は「退職金と給与、どちらでもらうと得かを計算する」で試算できます。

いつ損金にする?支給の時期と手続きの流れ

役員退職金を損金にする時期は、原則として株主総会などの決議で金額が確定した日を含む事業年度です。ただし、決議の後に実際に支払った日を含む事業年度に損金経理(決算で費用として処理)した場合も認められます。分割して支払うことを決議した場合は、支払いのつど損金経理する方法もあります。

  1. 役員退職慰労金規程を整える算定方法(功績倍率など)、支給の時期・方法、減額の事由を定めておきます。
  2. 退任と金額を決議する株主総会で金額を決めるか、規程に従って金額・時期・方法を取締役会に一任する決議をします。
  3. 議事録を作る決議の内容と金額の根拠が分かる議事録を作成し、登記簿の退任日とあわせて保管します。
  4. 支払いと源泉徴収をする「退職所得の受給に関する申告書」を受け取り、所得税と住民税を差し引いて支払います。
  5. 税金を納める差し引いた所得税は原則として翌月10日まで(納期の特例を受けている場合は特例の期限)に、住民税は翌月10日までに市町村へ納めます。
  6. 源泉徴収票を交付・提出する退職後1か月以内に、退職所得の源泉徴収票を本人に交付し、税務署にも提出します。2026年1月1日以後の支払分は、役員に限らず全員分の提出が必要です。

議事録の書き方と保存の注意点は「法人の議事録の作り方」で整理しています。

分掌変更・事業承継・M&Aで支給するときの注意点は?

役員を辞めずに肩書きや職務が変わる場合でも、実質的に退職したのと同じ事情があれば、退職金として扱えます(分掌変更による退職給与)。事業承継で社長が会長に退くときによく使われますが、要件を満たさないと役員賞与とみなされ、損金にならないおそれがあります。

場面ポイント注意点
分掌変更(社長から会長へ等)常勤から非常勤になった、取締役から監査役になった、報酬がおおむね50%以上減ったなど、実質的に退職と同じ事情があること引き続き経営の主要な地位にある場合は認められない。未払金として計上した分は原則として認められず、実際の支払いが必要
事業承継退職金の支給で会社の利益と純資産が減り、自社株の評価が下がることがある後継者への株式の贈与・譲渡の時期と合わせて検討する。退任後の関わり方も記録に残す
M&Aでの株式の譲渡譲渡代金の一部を退職金として受け取ると、退職所得控除と2分の1課税を使えるため、手取りが増える場合がある会社の資金が減るため、譲渡価格の交渉と一体で決める。退任後も経営に関わり続けると、退職の実態が問われる
分掌変更・事業承継・M&Aで役員退職金を払うときの注意点

分掌変更の退職金は「その後の働き方」で判断される

形式上は会長や非常勤になっていても、取引先との交渉や資金繰りの決定を引き続き担っていれば、退職の実態がないと判断されやすくなります。退任後の役割を議事録や業務分担の資料で明確にし、報酬もその役割に見合った額に見直しておきます。

退職金の財源はどう準備する?生命保険と積立の注意点

役員退職金は金額が大きくなりやすく、支給する年度に多額の資金が出ていきます。数年前から財源を計画的に準備しておくことが、会社の資金繰りを守ることにつながります。

準備の方法税務の扱い注意点
会社の預金で積み立てる積み立てても損金にはならない使い道の自由度が高い。ほかの資金需要と区別して管理する
法人契約の生命保険保険料を損金にできる範囲は、保険の種類や解約返戻率によって異なり、全額が損金になるとは限らない。解約返戻金や保険金を受け取ると会社の益金になる早期に解約すると返戻金が払込保険料を下回ることがある。受け取る時期を退職金の支給年度に合わせると、益金と損金を相殺しやすい
小規模企業共済(役員個人が加入)掛金は役員個人の所得控除。共済金を一括で受け取ると退職所得として扱われる加入できるのは一定規模以下の会社の役員。会社の退職金とは別に受け取れるが、同じ年や近い時期に受け取ると退職所得控除の調整を受ける
金融機関からの借入借入で払っても、退職金の損金の扱いは変わらない返済の計画を立て、支給の前に金融機関と相談する
役員退職金の財源の準備方法(2026年10月時点の一般的な取扱い)

生命保険は、保険金や返戻金が「いつ」「いくら」会社に入るかで、退職金を払う年度の利益と資金繰りが変わります。保険の設計だけで判断せず、退職の予定時期と会社の利益の見込みとあわせて検討します。借入で資金を用意する場合の進め方は「融資・資金調達ガイド」で確認できます。

よくある質問

役員退職金に上限はありますか?

法律で決まった上限はありませんが、会社の税務では不相当に高額な部分は損金になりません。損金にならなかった部分も、受け取る役員の側では退職所得として課税されるため、会社と個人の両方で負担が生じます。金額は根拠を示せる範囲で決めます。

退職金を払った年に会社が赤字になっても問題ありませんか?

退職金は損金になるため、支給した年度は赤字になることがあります。法人の欠損金は10年間繰り越して、翌年度以降の所得から差し引けます(中小法人等は所得の全額まで)。融資を受けている場合は、一時的な要因による赤字であることを金融機関に説明できるようにしておきます。

役員が在任中に亡くなった場合の退職金はどうなりますか?

遺族に支払う死亡退職金は、所得税ではなく相続税の対象(みなし相続財産)になります。相続人が受け取る死亡退職金には、500万円×法定相続人の数までの非課税枠があります。会社の側では、相当な金額であれば損金になります。

退職金を分割で払うことはできますか?

できます。決議で分割での支払いを決めておけば、会社は支払いのつど損金経理する方法がとれます。一時金として決めた金額を分割で受け取る場合、受け取る側は退職所得として扱われます。資金繰りに合わせた支払い方を、決議の前に決めておきます。

役員退職慰労金規程は、作らないといけませんか?

法律上の作成義務はありませんが、規程があれば金額の根拠を示しやすく、株主総会の一任決議や税務調査での説明に役立ちます。役員が複数いる会社や、将来の事業承継を考えている会社では、早めに整えておくと安心です。

まとめ

役員退職金は、会社では相当な金額までが損金になり、受け取る役員は退職所得控除と2分の1課税で税負担を抑えられる支払い方です。金額は最終報酬月額×役員在任年数×功績倍率で根拠を持って決め、規程・株主総会の決議・議事録・源泉徴収の手順をそろえます。分掌変更や事業承継、M&Aで払う場合は退職の実態が問われるため、支給の時期と財源もあわせて早めに計画しましょう。

札幌の公認会計士・税理士事務所

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)

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