ホテル・旅館のインボイス対応は、法人客に登録番号入りの領収書を漏れなく出す体制、OTA経由の予約での発行者の整理、入湯税・宿泊税の区分処理の3点が要です。仕入側では、免税事業者からの仕入れの経過措置(2026年10月1日〜2028年9月30日は70%)と納税方法の選び方も試算しておきます。
この記事の結論
出張・宴会などの法人利用があるホテル・旅館は、インボイスを正しく交付できることが前提です。そのうえで、予約経路ごとの発行ルール、税金の区分表示、仕入れと納税方法の試算の3つをそろえます。
- 宿泊・宴会・レストランは10%、売店で売る飲食料品(酒類を除く)は8%。レジと宿泊管理システムの税率設定を点検する
- OTA経由の予約は、現地払いか事前決済か、契約の形によって領収書の発行者が変わる
- 入湯税・宿泊税は宿泊客から預かる税として区分し、課税売上に含めない
- 免税事業者からの仕入れは、2026年10月1日〜2028年9月30日は消費税相当額の70%を控除できる
- 簡易課税・2割特例・3割特例の有利不利は、改装などの設備投資の予定も含めて試算する
ホテル・旅館はインボイス登録が必要?取引先の構成で考える
インボイス(適格請求書)が必要になるのは、代金を支払った側が消費税の仕入税額控除を受けたい事業者の場合です。ホテル・旅館の利用者には、出張や研修で泊まる会社員、宴会・会議を手配する法人の幹事、団体旅行を扱う旅行会社など、事業者が多く含まれます。
基準期間(個人は前々年、法人は前々事業年度)の課税売上高が1,000万円を超える施設は、もともと消費税の課税事業者です。この場合は登録しない理由がほとんどなく、正しく交付する体制づくりが課題になります。判断が必要なのは、課税売上高が1,000万円以下の小規模な旅館・民宿・ゲストハウスです。
| 主な取引先 | インボイスの必要性 | 対応のポイント |
|---|---|---|
| 出張・研修で泊まる会社員 | 高い | 宛名・但し書きのルールを決め、登録番号入りの領収書を出す |
| 宴会・会議の幹事(法人) | 高い | 見積書・請求書の段階から税率ごとの金額を示す |
| 旅行会社(団体・パッケージ) | 高い | 精算書・請求書の様式を旅行会社と事前にすり合わせる |
| OTA(予約サイト) | 契約による | 宿泊客への領収書の発行者と、手数料のインボイスの受け取り方を確認する |
| 個人の観光客 | 低い | 消費者は仕入税額控除をしないため、通常の領収書で足りる |
免税の小規模施設が新たに登録すると、消費税の納税が始まります。個人事業者は令和8年分まで売上税額の2割を納める2割特例、令和9年分・令和10年分は3割を納める3割特例を使える場合があります。法人客の割合が低く、個人の観光客が中心の施設は、登録しない選択肢も含めて納税額と客離れの影響を比べます。制度全体の流れはインボイス制度の実務ガイド(登録・記載事項・保存)で確認できます。
領収書・請求書には何を載せる?売上の種類ごとの税率と記載事項
インボイスには、登録番号のほか、税率ごとに区分した合計額と消費税額を載せます。ホテル・旅館は1枚の領収書に宿泊・飲食・物販・預かった税が混在しやすいため、まず売上の種類ごとの税率を整理します。
| 売上の種類 | 消費税 | 注意点 |
|---|---|---|
| 宿泊料(素泊まり・食事付き) | 10% | 食事付きのプランも全体が10%。料金に含めた入湯税・宿泊税は区分する |
| 宴会・レストラン・ルームサービス | 10% | 施設内での飲食の提供は外食と同じ扱い |
| 客室冷蔵庫の飲料(酒類を除く) | 8% | 国税庁の軽減税率Q&Aでは飲食料品の販売として扱われる |
| 売店の菓子・水産加工品などの飲食料品 | 8% | 酒類は10%。雑貨と組み合わせた詰め合わせ(一体資産)は税率の判定に注意 |
| 駐車場・クリーニング・会議室 | 10% | 宿泊料と別建てにしても税率は同じ |
| 入湯税・宿泊税 | 対象外 | 宿泊料と明確に区分して受け取ることが前提 |
| キャンセル料 | 内容による | 損害賠償の性格なら対象外、事務手数料なら10% |
インボイスに必要な記載事項は次のとおりです。宿泊管理システムやPOSレジから出力する領収書に、すべてそろっているかを確認します。
- 発行者の名称と登録番号
- 取引年月日と取引の内容(軽減税率の対象品目はその旨)
- 税率ごとに区分した合計額と適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額
- 交付を受ける相手の名称(宛名)
不特定多数の客を相手にする事業では、宛名を省略できる「適格簡易請求書(簡易インボイス)」を交付できる場合があります。どちらの様式で出すかは、法人客から宛名入りを求められる場面も踏まえ、施設として統一しておきます。
- 領収書・レシートに登録番号と、税率ごとの合計額・消費税額が印字されるか
- 宿泊・飲食・売店の商品マスタに正しい税率が設定されているか
- システム停止時に使う手書き領収書の様式に、記載事項がそろっているか
- 宛名・但し書きの書き方と、再発行を求められたときの手順がマニュアルになっているか
- 宴会の請求書で、料理・飲物・会場費などの内訳と税率が明示されているか
OTA経由の予約は誰がインボイスを出す?決済方法と契約で整理する
予約サイト(OTA)経由の宿泊は、宿泊客が誰に代金を払ったかで発行者が変わります。現地払いなら施設が宿泊客から代金を受け取るため、施設が領収書を出すのが基本です。事前決済では、OTAが施設に代わって代金を受け取っているだけなのか、OTAが客室を仕入れて販売しているのかを、契約で確認する必要があります。
| 予約・決済の形 | 宿泊客への領収書 | 施設の売上の考え方 |
|---|---|---|
| 現地払い | 施設が発行する | 宿泊料の総額を売上、OTAの手数料を費用にする |
| 事前決済(OTAが代金を受け取って施設に送金) | 売主である施設が発行する。OTAが代わりに交付する仕組みの場合もある | 宿泊料の総額を売上、差し引かれた手数料を費用にする |
| OTA・旅行会社が客室を仕入れて販売 | OTA・旅行会社が発行する | OTA・旅行会社への販売額を売上にする |
事前決済で売主が施設の場合も、代金の受け取りを委託された側(媒介者)が自分の名称と登録番号でインボイスを交付できる「媒介者交付特例」という仕組みがあります。この場合、施設は交付されたインボイスの写しなどを受け取って保存します。発行者が曖昧なままだと、同じ宿泊に二重に領収書を出したり、誰も出さなかったりする原因になります。
- 利用しているOTAを一覧にする国内外の予約サイトと取引のある旅行会社を洗い出し、決済方法(現地払い・事前決済)ごとに分けます。
- 契約と規約で発行者を確認する事前決済の領収書を誰が出すのか、OTAの管理画面から発行できるのかを確認します。
- 予約データに目印を付ける宿泊管理システムの予約ごとに「領収書:施設発行/OTA発行」が分かるようにします。
- フロントの案内文を決めるOTA発行の予約で領収書を求められたときの説明を用意し、二重発行を防ぎます。
- 毎月、精算書と売上を照合するOTAの精算書(手数料のインボイスを含む)と売上・入金を突き合わせ、差額の理由を確認します。
OTAに支払う手数料は課税仕入れで、控除にはOTAのインボイス(精算書や電子データ)の保存が必要です。電子で受け取った精算書は、電子取引データとして電子帳簿保存法の要件に沿って保存します。国外の事業者に支払う手数料は、リバースチャージ方式の対象になるなど国内の取引と扱いが異なる場合があるため、契約の相手が国内法人か国外事業者かを確認しておきます。
入湯税・宿泊税・前受金・キャンセル料はどう処理する?
入湯税・宿泊税は「預かった税」として区分する
入湯税は、温泉施設の入湯客に市町村が課す税で、施設が宿泊客から預かって納めます。納めるのは利用者なので、宿泊料と明確に区分して受け取っていれば消費税の課税売上に含めません。区分せずに「入湯税込み」の料金で受け取ると、その部分まで課税売上として扱われるおそれがあります。宿泊税も、宿泊者が納める税を施設が預かる仕組みで、考え方は同じです。
経理では「預り金」で受け入れ、納付したときに取り崩します。レジ・会計ソフトの税区分を「対象外(不課税)」に設定し、月ごとに預り金の残高と納付額が合っているかを確認します。
前受金とキャンセル料の扱い
予約時に受け取る内金や事前決済の代金は前受金で、課税売上になるのは宿泊・宴会を提供した日です。決算日をまたぐ予約は、入金日ではなく提供日で売上を計上します。
予約の取消しで受け取るキャンセル料は、得られなくなった利益を補う損害賠償の性格であれば消費税の対象外で、インボイスの交付も要りません。一方、取消しの事務手数料として受け取る部分は課税売上です。規約上の名目と金額の決め方を確認し、会計ソフトの税区分をそろえておきます。
申告誤りにつながりやすい処理
- 入湯税・宿泊税を宿泊料と一緒に10%の課税売上で計上している
- OTAの手数料を差し引いた入金額だけを売上にしている
- キャンセル料を名目にかかわらず、すべて課税売上にしている
いずれも消費税の過大な納付や、課税売上高の判定の誤りにつながります。月次の段階で税区分を点検しておくと、決算・申告時の修正が少なくなります。
免税事業者からの仕入れは何%控除できる?清掃・送迎・地元食材の確認
インボイスを出せない免税事業者からの仕入れは、本来は仕入税額控除ができません。ただし経過措置で、消費税相当額の一定割合を控除できます。割合は、物の引渡しやサービスの完了の日(課税仕入れの日)で判定します。
| 課税仕入れの日 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2026年9月30日まで | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以後 | 控除できない |
ホテル・旅館では、客室清掃や送迎を個人に外注している、地元の農家・漁業者から食材を直接仕入れている、除雪や設備の小修繕を個人の事業者に頼んでいる、といった場面で相手が免税事業者であることが少なくありません。経過措置を使うには、帳簿に「70%控除対象」などと記載し、区分記載請求書と同様の事項が書かれた請求書等を保存します。
一の免税事業者からの課税仕入れは、2026年10月1日以後に開始する課税期間から税込1億円が上限になります(個人は令和9年分から)。経過措置が80%から70%に下がった影響と対応はインボイス経過措置70%への変更点と今やることで整理しています。
無料ツール経過措置で控除できる消費税を計算する免税事業者からの仕入れ額を入れると、期間ごとの控除額の目安が分かります。計算する
取引条件の見直しは協議で決める
免税事業者の取引先に一方的な値下げを求めたり、登録していないことだけを理由に取引を打ち切ったりすると、独占禁止法上の優越的地位の濫用などに当たるおそれがあります。経過措置で控除できる割合を示したうえで、双方で話し合って条件を決めます。
納税額はどう選ぶ?簡易課税・2割特例・3割特例と設備投資
消費税の計算方法には、実際の仕入れから計算する本則課税、売上から計算する簡易課税、登録した小規模事業者向けの特例があります。ホテル・旅館は宿泊・飲食・物販で簡易課税の事業区分が分かれるため、売上の集計方法まで含めて決めます。
| 売上 | 事業区分 | みなし仕入率 |
|---|---|---|
| 宿泊料 | 第5種(サービス業) | 50% |
| レストラン・宴会などの飲食 | 第4種(飲食店業) | 60% |
| 仕入れた土産物を観光客に販売 | 第2種(小売業) | 80% |
| 自家製の土産品を製造して販売 | 第3種(製造業) | 70% |
簡易課税を使えるのは基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合で、適用したい課税期間の初日の前日までに届出が必要です。いったん選ぶと2年間は継続します。複数の事業の売上を区分していないと、区分していない売上にはそのうち最も低いみなし仕入率が適用されるため、宿泊管理システムやレジで部門別に集計できるようにしておきます。
改装や客室設備の更新など大きな投資を予定する課税期間は、本則課税なら仕入れの消費税が売上の消費税を上回り、還付を受けられる場合があります。簡易課税では還付が生じないため、投資の時期が決まったら届出の期限と合わせて試算します。
免税事業者から登録した事業者が使える2割特例は、2026年9月30日を含む課税期間で終わります(個人は令和8年分まで、3月決算法人は2027年3月期まで)。個人事業者は令和9年分・令和10年分に3割特例を使え、届出は要りません。法人には後継の特例がない点に注意します。要件の詳細は2割特例終了後の3割特例(個人事業者向け)で確認できます。
計算例:小さな旅館の納税額を比べる
例えば、個人で営む旅館の課税売上高(税抜)が800万円で、すべて宿泊料の場合を考えます。売上にかかる消費税は、800万円×10%=80万円です。
- 2割特例(令和8年分まで):80万円×20%=16万円
- 3割特例(令和9年分・令和10年分):80万円×30%=24万円
- 簡易課税(第5種):仕入れとみなす額が80万円×50%=40万円なので、納税額は80万円−40万円=40万円
本則課税では、実際に支払った仕入れ・経費の消費税を差し引きます。人件費は課税仕入れにならないため、人件費の割合が高い施設ほど本則課税の納税額は大きくなりやすい点も比べるときのポイントです。
ツール簡易課税・本則課税・2割特例を比較する売上と仕入れの金額から、計算方法ごとの納税額の違いを確認できます。計算する
宿泊・飲食・売店の事業区分や、改装を控えた年の本則課税・簡易課税の選び方は、施設ごとに結論が変わります。初回無料で試算をお手伝いします。
無料で相談する北海道のホテル・旅館で確認しておきたいこと
宿泊税・免税販売・季節変動への備え
道内には、宿泊税を課している自治体や導入を予定している自治体があります。税率や課税の開始日、免除の範囲は自治体ごとに異なるため、施設の所在地の案内で確認し、宿泊料と区分して受け取る設定にしておきます。
売店で外国人旅行者向けの免税販売をしている施設は、2026年11月1日から免税店の手続きがリファンド方式に変わっています。販売時の運用やレジの設定が変わるため、国税庁の案内で手続きを確認します。
冬の除雪を個人の事業者に頼んでいる場合は、相手がインボイス登録をしているかを確認し、免税事業者なら経過措置で処理します。観光シーズンで売上が偏る施設は、消費税の中間申告(直前の確定消費税額(国税)が48万円超で年1回、400万円超で年3回)と確定申告の納税資金を、繁忙期の入金から確保しておくと資金繰りが安定します。
宿泊業の経営や税務の話題は宿泊業(ホテル・旅館・民泊)の経営に役立つ最新情報にもまとめています。
よくある質問
出張で泊まる法人客から、インボイスを求められないことがあるのはなぜですか?
会社が従業員に支給する出張旅費・宿泊費のうち、通常必要と認められる部分は、会社側が帳簿の記載だけで仕入税額控除を受けられる特例があるためです。ただし、会社が施設に直接支払う宴会・会議室の利用料や団体の宿泊費には、インボイスが必要です。
自社で発行する宿泊券を販売したときの消費税はどうなりますか?
自社で発行する宿泊券を販売した時点では課税売上にならず、前受金として扱います。宿泊券を使って宿泊や飲食をしたときに、その内容に応じた税率の課税売上になります。
登録番号の記載漏れや税率の誤りがある領収書を渡してしまったら?
インボイス発行事業者は、交付したインボイスに誤りがあった場合、正しい内容に修正したインボイスを交付する必要があります。法人客から指摘を受けたときの再交付の手順を、フロントのマニュアルに入れておきます。
登録をやめて免税事業者に戻ることはできますか?
登録の取消しを求める届出書を提出すれば登録をやめられます。翌課税期間の初日から取り消すには、その初日から数えて15日前までに提出します。ただし、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える課税期間は免税事業者になりません。
まとめ
ホテル・旅館のインボイス対応は、法人客に正しいインボイスを出せる体制づくりと、OTA予約・入湯税・キャンセル料など宿泊業に特有の処理の整理が中心です。仕入側では2026年10月1日から70%に下がった経過措置の影響を確認し、簡易課税・2割特例・3割特例と本則課税を、設備投資の予定も含めて比べておきましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
