清掃業の法人化の目安は2つです。利益(事業所得)がおおむね500万〜600万円を超えて安定してきたときと、ビル管理会社や官公庁との取引で法人格を求められたときです。人を使う業種なので、社会保険の負担と、外注スタッフと雇用の区分もあわせて判断します。
この記事の結論
税金面では利益500万〜600万円超の安定が試算を始める目安で、清掃業では管理会社の協力会社登録や入札の要件が法人化のきっかけになりやすいのが特徴です。社会保険の負担と、外注スタッフの扱いを整理してから決めます。
- 利益500万〜600万円超なら、役員報酬と家族への給与で所得を分ける効果を試算する
- ビルメンテナンス会社の協力会社登録や官公庁の入札で、法人格や社会保険の加入が条件になっている場合がある
- 法人は社長1人でも社会保険の強制適用。パートの加入範囲もあわせて確認する
- 実態が従業員の「外注」は給与と認定されるリスクがある。法人化を機に契約を整理する
- 年末の大掃除や春の退去清掃の繁忙期を避けて、法人化の時期と決算月を決める
清掃業の法人化を考える2つのきっかけは?
ハウスクリーニングから事業所の定期清掃まで、清掃業は個人事業で始めやすい仕事です。その分、軌道に乗ってくると「そろそろ法人化すべきか」と迷う時期が来ます。判断を先送りにすると、税負担でも取引でも機会損失が静かに積み上がります。
一つ目は税金です。個人の所得税は利益が増えるほど税率が上がる累進構造ですが、法人税率は比較的フラットです。利益がある水準を超えると、法人化して役員報酬を取る形のほうが世帯全体の手取りが増えやすくなります。
二つ目は取引です。ビルメンテナンス会社の協力会社登録や、官公庁・指定管理施設の清掃業務の入札があります。こうした取引では、法人であることや社会保険への加入が事実上の条件になっている場合があります。清掃業は、この「取引要件としての法人化」が他業種より多いのが特徴です。
| 判断の軸 | 確認すること | 清掃業での見方 |
|---|---|---|
| 所得水準 | 利益が500万〜600万円を超えて安定しているか | 単発の大口案件だけで利益が膨らんだ年は慎重に判断する |
| 取引要件 | 元請け・管理会社・発注者が法人格や社会保険の加入を求めているか | 定期清掃や施設の清掃業務を増やしたいなら重要な判断材料 |
| 社会保険 | 社長・家族役員・スタッフの保険料がいくら増えるか | パート中心の現場ほど、加入範囲で負担が大きく変わる |
| 外注と雇用 | 外注スタッフの働き方が実態として雇用に当たらないか | 法人化と同時に契約と働き方を整理する好機 |
| 消費税 | 免税期間・インボイス登録・簡易課税の選び方 | 人件費が中心なら簡易課税が有利になりやすい |
| 家族への給与 | 家族が経理や現場をどの程度担っているか | 役員報酬・給与として業務の実態に見合う額にする |
| 固定費 | 均等割・決算申告・記帳の手間 | 均等割は赤字でも年7万円(札幌市内の最小区分) |
利益600万円の清掃業は法人化で得になる?数値例で見る分岐点
たとえば年商1,800万円、経費1,200万円、利益600万円の個人事業主を考えます。個人のままなら、この600万円に所得税・住民税・国民健康保険料がそのままかかります。課税所得が330万円を超え695万円以下の部分には、所得税20%と住民税10%がかかります。
法人化して自分に役員報酬を支払えば、給与所得控除が使えるうえ、所得を法人と個人、家族に分散できます。法人に残した利益には、中小法人なら年800万円以下の部分に法人税15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)がかかります。
計算例:利益600万円を役員報酬に振り分けた場合の給与所得
例えば、法人化して社長の役員報酬を年400万円、経理を担う配偶者の給与を年100万円にした場合です(令和8年分の給与所得控除で計算)。
- 社長の給与所得控除:400万円×20%+44万円=124万円
- 社長の給与所得:400万円−124万円=276万円
- 配偶者の給与所得:100万円−74万円=26万円
- 2人の給与所得の合計:276万円+26万円=302万円
個人のまま事業所得600万円を1人で受けるのに比べ、所得税・住民税の対象となる所得は小さくなります。配偶者の合計所得は26万円で62万円以下なので、社長は配偶者控除も受けられます(青色事業専従者の場合は配偶者控除の対象外)。
ただし、法人では社長の社会保険料(会社負担と本人負担)がかかり、配偶者も働き方によっては加入の対象になります。法人に残る利益はわずかになり、均等割は赤字でもかかります。手取りで比べるには、社会保険料まで含めた試算が必要です。
具体的な税額は家族構成や各種控除で大きく変わるため、最新の税率を含めた試算が必要です。利益600万円という水準は、試算する価値が十分にあるラインといえます。税率や控除の改正点は令和8年度税制改正のポイントで確認できます。
無料ツール法人成りの損益分岐を試算する利益と家族構成を入れると、個人のままと法人化した場合の税金・社会保険料の合計を比べられます。計算する
ビル管理会社・官公庁との取引では法人が有利?
ハウスクリーニング中心で個人客が相手なら、法人かどうかが受注に影響することは多くありません。一方、オフィスビルや商業施設の定期清掃、マンションの共用部の清掃は、管理会社経由で受注するのが一般的です。管理会社の協力会社として登録する際に、法人格や社会保険の加入、賠償責任保険の加入などを確認されることがあります。
- 取引したい管理会社・元請けの協力会社登録の条件(法人格・社会保険・保険の加入)
- 官公庁や指定管理施設の入札参加資格の条件と、申請できる時期
- 建築物衛生法に基づく建築物清掃業の登録が、受注の条件になっているか
- ごみの収集・運搬を伴う仕事で、廃棄物の処理に関する許可が必要か
個人で受けた登録や許可は、事業者が個人から法人に変わると、そのまま使えない場合があります。法人で取り直す必要があるか、入札参加資格の更新時期とあわせて、登録先・許可先の窓口で事前に確認します。
札幌で清掃の仕事を広げる場合
札幌でも、大型ビルや分譲マンションの管理会社経由の仕事を増やしたい場合に、法人格や社会保険の加入を求められる論点に直面しやすくなります。法人化すると、資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の札幌市内の法人でも、北海道2万円+札幌市5万円の均等割がかかります。赤字でもかかる固定費として見込んでおきます。
人を使う清掃業ならではの注意点:社会保険と外注・雇用の区分
法人化すると、社長1人でも健康保険・厚生年金保険が強制適用になり、雇用するスタッフにも会社負担分の保険料が発生します。個人事業でも、清掃の事業は法定の業種に当たるため、常時5人以上を雇っていればすでに強制適用です。その場合、法人化で増えるのは主に社長本人と家族役員の保険料です。
パート・アルバイトが多い現場では、加入範囲の確認が欠かせません。正社員と同程度に働く人は加入の対象です。週20時間以上の短時間労働者は、従業員51人以上の企業が対象で、2026年10月1日に月8.8万円の賃金要件は撤廃されました。企業規模の要件は、2027年10月から36人以上に広がります。
「外注」の実態が雇用なら給与と認定される
現場スタッフを外注(業務委託)として使うか雇用するかは、大きな論点です。実態は指示どおりの時間・場所で働く従業員なのに外注費として処理していると、税務調査で給与と認定され、源泉所得税や消費税の追徴につながるリスクがあります。
| 確認する点 | 外注(請負)に近い | 雇用(給与)に近い |
|---|---|---|
| 仕事の進め方 | 作業の手順や時間配分を本人が決める | 現場の時間・場所・手順を会社が指示する |
| 代わりの人 | 本人の判断で他の人に任せられる | 本人が働くことが前提 |
| 報酬の決め方 | 現場ごと・成果ごとの金額 | 時間給・日給で計算 |
| 道具・資材 | 本人が用意し、費用も負担する | 会社が用意する |
| ミスや損害 | 本人が責任を負い、やり直しも本人の負担 | 会社が責任を負う |
計算例:外注費が給与と認定された場合の消費税
例えば、インボイス登録をしている個人のスタッフに、外注費として年間税込330万円を払っていた場合です。外注費なら消費税の仕入税額控除の対象ですが、給与は対象外です。
- 控除できなくなる消費税:330万円×10/110=30万円
- 過少申告加算税(原則10%):30万円×10%=3万円
このほかに延滞税がかかり、給与として源泉徴収すべきだった所得税も会社が納めることになります。
外注先が免税事業者の場合は、インボイスがないため仕入税額控除がもともと制限されます。2026年10月1日〜2028年9月30日は70%、2028年10月1日〜2030年9月30日は50%しか控除できません。法人化のタイミングは、この働き方と契約の整理をする好機でもあります。
外注スタッフを雇用に切り替えるか、契約を見直すかで、社会保険料と消費税の負担は大きく変わります。現在の契約と支払の記録をもとに、初回無料で整理できます。
無料で相談する消費税はどう変わる?免税期間・インボイス・簡易課税
法人化によって消費税の免税期間を確保できる場合がありますが、元請けからインボイス(適格請求書)の発行を求められて登録するなら、その効果は限定的です。登録すれば、設立当初から課税事業者として申告が必要です。
- 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終了し、法人に後継の特例はありません
- 個人の3割特例(令和9・10年分)は、登録しなければ免税事業者になる個人だけが使えます。個人のままでいるか法人化するかで、使える特例が変わります
- 清掃業は簡易課税ではサービス業の第5種(みなし仕入率50%)です。新しく設立した法人は、最初の課税期間中に届け出ればその期間から選べます
清掃業は売上に占める人件費の割合が高く、給与は仕入税額控除の対象になりません。課税仕入れ(資材・外注・車両費など)が少ない場合は、本則課税より簡易課税のほうが納付税額が少なくなりやすい業種です。
計算例:本則課税と簡易課税の比較
例えば、税抜売上1,800万円(消費税180万円)、課税仕入れが税抜500万円(消費税50万円)の場合です。国税と地方税を合わせた概算で計算します。
- 本則課税:180万円−50万円=130万円
- 簡易課税の控除額:180万円×50%=90万円
- 簡易課税の納付税額:180万円−90万円=90万円
この例では簡易課税のほうが40万円少なくなります。外注の割合が高い場合は結果が逆になることもあるため、毎期の見込みで比べます。
ツール簡易課税・本則課税・2割特例を比較する売上と仕入れの金額を入れると、課税方式ごとの納付税額の違いを確認できます。計算する
簡易課税を選ぶと原則2年間は継続が必要で、基準期間の課税売上高が5,000万円以下であることが条件です。インボイス登録の判断や経過措置の扱いはインボイス制度の実務ガイドで確認できます。
法人化のタイミングと手続きの順番は?
年末の大掃除シーズンや、春の退去・引越しに伴う清掃の繁忙期に法人化の事務を重ねるのは避けるのが無難です。決算期も繁忙期を外して設定すると、棚卸しや決算作業が楽になります。
- 試算と方針の決定直近の申告書をもとに、役員報酬・家族の給与・社会保険料を含めて損益分岐を試算します。
- 取引先と登録・許可の確認管理会社や発注者の登録条件、入札参加資格、建築物清掃業の登録などの扱いを確認します。
- スタッフの契約の整理外注を続ける人と雇用に切り替える人を分け、契約書と働き方をそろえます。
- 会社の設立下のチェックリストの項目を決めて定款を作り、本店所在地を管轄する法務局に設立の登記を申請します。
- 設立後の届出税務署へ法人設立届出書(設立の日以後2か月以内)と給与支払事務所等の開設届出書(開設の日から1か月以内)を出します。青色申告の承認申請書は、設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日までです。
- 保険とインボイスの手続き社会保険・労働保険の加入手続きを行い、法人としてインボイスの登録を申請します。個人の登録番号は法人に引き継げません。
- 個人事業からの切替え車両・清掃機材の引継ぎ方を決め、取引先に通知して契約と請求書の名義を切り替えます。個人事業の廃業の届出と、最後の年分の確定申告も行います。
会社設立で先に決めておくこと
- 商号(会社名)・本店所在地・事業目的
- 資本金の額と出資者の構成
- 決算月(繁忙期を避けると申告が楽)
- 役員構成と任期
- 設立日
清掃業の経営に役立つ情報は清掃業・ビルメンテナンスの経営に役立つ最新情報に、個人のままで使える対策は個人事業主の節税メニューにまとめています。
よくある質問
個人事業のまま、スタッフを社会保険に入れることはできますか?
できます。常時5人以上を雇っていれば強制適用で、5人未満でも従業員の同意を得て年金事務所に申請すれば、任意で適用事業所になれます。ただし事業主本人は加入できず、国民健康保険と国民年金のままです。取引先が求めているのが「事業主本人の加入」なのか「スタッフの加入」なのかを確かめておきます。
ハウスクリーニング中心でも法人化のメリットはありますか?
個人客が中心なら、取引要件としての法人化のメリットは大きくありません。インボイスを求められることも少ないため、判断の中心は税金と社会保険の試算になります。管理会社や事業所向けの仕事を増やす計画があるかどうかで結論が変わります。
法人化したら、個人で使っていた車両や清掃機材はどうなりますか?
法人に売却するか、個人の所有のまま法人に貸すかを決めます。売却する場合は時価を基準に価格を決め、個人側では売却による所得が生じることがあります。車両のローンやリースは名義の変更に金融機関・リース会社の同意が必要なため、早めに相談します。
役員報酬は、繁忙期に合わせて月ごとに変えられますか?
原則としてできません。役員報酬は期首から3か月以内に決めた額を毎月同じ額で払う(定期同額給与)のが基本で、期中に増やした分などは原則として法人の経費になりません。季節で利益が変わる場合は、年間の見込みから無理のない月額を決めます。
まとめ
清掃業の法人化は、利益500万〜600万円超の安定と、管理会社の協力会社登録や入札の法人要件が2つのきっかけです。法人化すると社会保険が強制適用になるため、パートの加入範囲と外注スタッフの働き方をあわせて整理します。消費税は免税期間の効果が限られる一方、簡易課税が有利になりやすい業種です。繁忙期を避けた時期に、利益水準・家族構成・取引先の要件で一社ごとに試算してから決めましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
