警備業の法人化は、利益水準・取引先からの要請・隊員の雇用拡大の三つで判断します。ほかの業種と違うのは、個人で受けた公安委員会の認定を法人に引き継げず、法人として取り直す必要がある点です。税金と社会保険料の試算に加え、認定の空白を作らない逆算の段取りが欠かせません。
この記事の結論
所得が年800万〜900万円を超えて伸びる見込み、取引先から法人での契約を求められた、隊員を増やして採用を強化したい、のいずれかに当たれば検討の時期です。法人化するなら、認定の取り直しを前提に段取りを組みます。
- 個人の警備業の認定は法人に引き継げない。法人として認定を受けるまで、法人では営業できない
- 法人は役員1人でも社会保険の強制適用。要件を満たす隊員の保険料の会社負担が大きなコストになる
- インボイスは法人で登録し直し。新しい法人は2割特例・3割特例を使えない
- 中小法人の法人税は所得のうち年800万円以下の部分が15%。役員報酬で所得を会社と個人に分けられる
- 切り替えは冬から春の繁忙期を避け、個人の認定で営業を続けながら法人の認定を待つ
警備業の法人化を検討する三つの目安
交通誘導や施設警備の仕事を個人で請け負い、隊員も数名抱えるようになると、法人化が現実的な選択肢になります。判断の軸を一覧にすると次のとおりです。
| 判断の軸 | 法人化を検討しやすい状態 | 警備業での見方 |
|---|---|---|
| 利益水準 | 所得がおおむね800万〜900万円を超えて伸びる | 個人の税率が上がる区分に入る。役員報酬で会社と個人に分散できる |
| 取引先からの要請 | 元請や発注者が契約先を法人に限っている | 大型現場や官公庁関連の案件では、法人格が入口の条件になることがある |
| 隊員の雇用拡大 | 隊員を増やし、採用を強化したい | 社会保険を整えた法人は採用面で選ばれやすい |
| 社会保険 | 隊員の加入を整えたい | 法人は強制適用。会社負担の保険料が増える |
| 消費税 | 課税売上が1,000万円を超えている | 法人でもインボイス登録が前提。計算方法を選び直す |
| 認定 | 法人で営業したい | 個人の認定は引き継げないため、取り直しの期間を見込む |
第一の利益水準は、個人の所得税が累進税率であることが理由です。課税所得のうち695万円を超える部分には23%、900万円を超える部分には33%の所得税がかかり、別に住民税10%がかかります。中小法人の法人税は、所得のうち年800万円以下の部分が15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)です。所得がおおむね800万〜900万円を超えるあたりが目安としてよく挙げられますが、社会保険料まで含めた試算が前提です。
第二は取引先からの要請です。警備業界では、元請や発注者が契約先を法人に限る運用をしている例が珍しくありません。第三は隊員の雇用拡大で、人手不足が続く道内の警備業では、社会保険を整えた法人であることが採用の後押しになります。
見落とし注意:公安委員会の認定は引き継げない
警備業は、公安委員会の認定を受けて営む許認可ビジネスです。個人で受けた認定は法人に引き継げず、法人化したら法人として新たに認定を受け直す必要があります。認定には欠格事由の審査や、警備員指導教育責任者の選任といった要件があり、審査には相応の日数がかかります。
認定の空白期間ができると、その間は営業できません。設立登記から認定取得、契約の切り替えまでを逆算し、次の順番で進めるのが基本です。
- 個人の認定で営業を続けながら、法人を設立して法人としての認定を申請する
- 法人の営業所に警備員指導教育責任者を選任し、隊員名簿や教育計画を法人で整える
- 法人の認定を受けた後に、取引先との契約と隊員の雇用を法人へ切り替える
- 切り替えが終わってから、個人事業の廃業の届出と、警備業法上の廃止の手続きを行う
手続きの詳細や必要書類は、北海道警察・公安委員会の公式情報で確認してください。
数値例で見る判断のイメージ
例えば年商2,400万円、経費を引いた所得が900万円の交通誘導警備の個人事業主を考えます。法人化すると、自分への役員報酬を会社の経費にして、所得を会社と個人に分散できます。
計算例:所得900万円の個人事業主と、役員報酬700万円にした場合
例えば、青色申告をしている個人事業主の令和8年分の所得税(社会保険料控除などは考慮しない概算)は、次のとおりです。
- 事業所得:900万円−65万円(青色申告特別控除)=835万円
- 課税所得:835万円−62万円(基礎控除)=773万円
- 所得税:773万円×23%−636,000円=1,141,900円
法人化して役員報酬を年700万円にすると、令和8年分の給与所得控除は次のようになり、報酬のうちこの部分には所得税がかかりません。
- 給与所得控除:700万円×10%+110万円=180万円
- 給与所得:700万円−180万円=520万円
残りの利益は法人に残り、法人税などの対象になります。実際の比較では、社会保険料の会社負担と本人負担、法人の地方税、住民税を加えて判断します。
家族が事務を担うなら、役員や従業員として給与を出す設計も可能です。一方で、社会保険への加入が義務になり会社負担の保険料が新たに発生するほか、決算申告などの事務コストも増えます。比較のポイントは次のとおりです。
| 項目 | 個人のまま | 法人化後 |
|---|---|---|
| 税金 | 累進課税で利益が増えると税率が上がる | 役員報酬で会社と個人に分散できる |
| 社会保険 | 本人は国民健康保険・国民年金 | 役員も厚生年金保険などへの加入が義務 |
| 信用力 | 案件によっては不利 | 元請・官公庁関連の案件で有利になりやすい |
| 事務負担 | 比較的軽い | 決算・登記・社会保険の手続きが増える |
| 警備業の認定 | 個人で受けた認定で営業 | 法人として取り直しが必要 |
ツール法人成りした場合の税負担を試算する所得と役員報酬の額を入れると、個人のままと法人化後の税負担の違いを比べられます。計算する
法人化の損得は、役員報酬の設定や家族構成、隊員数によって変わります。認定の段取りも含めた試算を、初回無料でご相談いただけます。
無料で相談する法人化で増えるコスト:隊員の社会保険料と事務
法人は役員1人だけでも健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所になり、要件を満たす隊員は全員が加入対象です。個人事業所は、法定の業種に当たり常時5人以上を使用する場合に強制適用で、2029年10月からは常時5人以上の全業種に広がります(既存の事業所は当分の間対象外)。警備業の個人事業所がいま対象かどうかは、年金事務所で確認します。
短時間で働く隊員は、2026年10月1日に月8.8万円の賃金要件が撤廃され、週20時間以上・企業規模51人以上・学生でないことが加入の要件です。企業規模の要件は、2027年10月に36人以上、2029年10月に21人以上へと段階的に広がります。
計算例:隊員1人あたりの社会保険料の会社負担
例えば、40歳未満の隊員の月給が20万円(標準報酬月額20万円)の場合、毎月の保険料は次のとおりです。
- 健康保険(協会けんぽ北海道):20万円×10.28%=20,560円
- 厚生年金保険:20万円×18.3%=36,600円
- 子ども・子育て支援金:20万円×0.23%=460円
- 労使合計:20,560円+36,600円+460円=57,620円
- 会社負担(半分):57,620円÷2=28,810円
- 同じ条件の隊員が10人なら:28,810円×10人=288,100円
- 年間では:288,100円×12か月=3,457,200円
このほか、雇用保険料(事業主8.5/1000)と労災保険料も事業主が負担します。法人化の試算では、役員本人の分だけでなく、隊員の分の会社負担まで含めて比べます。
このほか、法人住民税の均等割(札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら年7万円、赤字でもかかる)、決算・申告、役員変更などの登記の手間も加わります。
消費税とインボイス:法人は登録のし直し
消費税やインボイスの登録は、個人から法人へ自動では引き継がれません。法人として登録申請をし、取引先に新しい登録番号を伝えます。資本金1,000万円未満で設立した法人は、基準期間がない設立1期目・2期目は原則として免税事業者ですが、登録すれば課税事業者になります。
- 2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わっており、それ以後に設立した法人は使えない
- 令和9年分・令和10年分の3割特例は個人事業者だけの制度で、法人には同様の特例がない
- 法人の2期目は、前期の期首から6か月間の課税売上高と給与の支払額がどちらも1,000万円を超えると、登録の有無にかかわらず課税事業者になる
- 簡易課税を選ぶと、警備業はサービス業として第5種(みなし仕入率50%)。設立した事業年度中に届け出れば、1期目から適用でき、2年間は継続が必要
計算例:簡易課税と本則課税の違い
例えば、税抜の売上が2,400万円で、売上にかかる消費税が240万円、外注費や経費の支払いにかかった消費税が40万円の場合の納付額(地方消費税を含む概算)です。
- 簡易課税(第5種):240万円×50%=120万円
- 本則課税:240万円−40万円=200万円
給与には消費税がかからないため、人件費が中心の警備業では本則課税の控除が小さくなりやすく、この例では簡易課税のほうが納付額が少なくなります。
どの方法が有利かは、外注費や車両・装備品への投資の大きさで変わります。登録と計算方法の考え方はインボイス制度の実務ガイドでも整理しています。
無料ツール簡易課税と本則課税の納税額を比べる売上と仕入れの消費税を入れると、計算方法ごとの納付額を比較できます。計算する
法人化の手順とスケジュール
- 税金と社会保険料を試算する役員報酬の額、家族への給与、隊員の社会保険料の会社負担を含めて、個人のままと比べます。
- 定款を作成し、設立登記をする事業目的に警備業を入れ、役員構成と決算月を決めて登記します。
- 法人として警備業の認定を申請する主たる営業所を管轄する警察署を通じて申請し、隊員名簿や教育計画の整備も並行して進めます。
- 税務の届出をする法人設立届出書(設立から2か月以内)、青色申告の承認申請書(設立から3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日の早い日の前日まで)、給与支払事務所等の開設届出書(1か月以内)、インボイスの登録申請、簡易課税の届出の要否を確認します。
- 社会保険・労働保険の手続きをする健康保険・厚生年金保険の新規適用と、雇用保険・労災保険の手続きを行います。
- 取引先との契約を切り替える法人の認定後に、契約名義・請求書・振込口座・登録番号を法人のものに変えます。
- 個人事業を締める個人事業の廃業の届出と警備業法上の廃止の手続きを行い、切替日までの分で個人の最後の確定申告をします。
切り替え時期は、道内では除雪関連や年度末の工事が重なる冬から春の繁忙期を避けると、現場への影響を抑えられます。
札幌市内で法人を設立する場合(2026年10月時点)
- 設立前に特定創業支援等事業の支援を受けて証明書を取得すると、登録免許税が0.7%から0.35%になります(株式会社の最低額15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円。証明書の有効期限は2027年3月31日)。
- 法人設立届出書などの書面は、2026年7月10日から札幌業務センターへ郵送します(e-Taxと窓口への持参は所轄の税務署)。
- 北海道の最低賃金は2026年10月1日から1,131円です。隊員の時給と契約単価の見直しを、法人化の試算に反映します。
よくある質問
法人の認定が下りるまで、個人の認定で営業を続けられますか?
個人で受けた認定は、個人事業として営業する限り有効です。法人の認定を受けるまでは個人で契約・請求を続け、法人の認定後に契約を切り替えれば、営業できない期間を作らずに済みます。切り替えの前後で、どちらの名義で警備業務を行ったかを契約書と請求書で区別しておきます。
年の途中で隊員の雇用を法人に移すと、年末調整はどうなりますか?
個人事業主として支払った分の源泉徴収票を隊員に交付し、法人がその年の年末調整で前の支払分として合算します。社会保険と雇用保険は、法人での資格取得の手続きを行います。
家族を役員にする場合の注意点はありますか?
役員報酬は、期首から3か月以内に決めた額を毎月同額で払うのが原則で、職務の内容に見合った額にします。常勤の役員として報酬を受ける家族は、社会保険にも加入するのが一般的です。事務の実態と報酬の額を記録で説明できるようにしておきます。
法人化した後の決算・申告だけを依頼できますか?
当事務所では、決算・申告だけのスポットのご依頼はお受けしていません。法人化前の試算から、設立後の届出、月次の記帳と給与計算の確認、決算・申告まで継続して支援する顧問契約でお手伝いしています。
まとめ
警備業の法人化は、利益水準・取引先の要請・隊員の雇用拡大の三つを目安に判断します。個人の認定は法人に引き継げないため、個人で営業を続けながら法人の認定を取り、空白を作らずに切り替える段取りが要になります。隊員の社会保険料の会社負担や消費税の計算方法の変化も含めて、総合的に試算してから決めます。
札幌の公認会計士・税理士事務所
警備業の法人化のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
- 国税庁 タックスアンサー「法人税」
- 国税庁 タックスアンサー No.6505 簡易課税制度
- 全国健康保険協会「令和8年度の都道府県単位保険料率」
- 日本年金機構「社会保険の適用拡大(2026年10月の改正)」
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
