不動産賃貸オーナーの税務調査で見られるのは、家賃そのものより、礼金・更新料・共益費など家賃以外の収入の計上漏れ、修繕費と資本的支出の区分、減価償却と借入金利子の扱い、私的な支出の混入です。論点ごとの確認資料と日頃の備え、指摘を受けたときの加算税までを整理します。
この記事の結論
賃貸経営の調査は、契約書・通帳・精算書を突き合わせた「家賃以外の収入」と、修繕・減価償却・借入金利子などの「経費の区分」が中心です。資料で説明できる状態にしておけば、指摘の多くは申告の段階で防げます。
- 礼金・更新料・駐車場代・共益費、返還しない敷金は、総額で収入に計上する
- まとまった工事は、原状回復か価値を高める工事かを見積書・写真で説明できるようにする
- 土地と建物の按分、中古物件の耐用年数、取得時の諸費用は、取得した年に根拠を残す
- 赤字の年は、土地の取得に要した借入金の利子に損益通算の制限がある
- 誤りは原則5年、不正があれば7年さかのぼって修正され、加算税と延滞税がかかる
賃貸オーナーの税務調査で指摘されやすい論点は?
アパートやマンションを貸しているオーナーにも、税務調査は普通に行われます。数室のアパート1棟でも対象になり得るため、規模が小さいから大丈夫とは考えないほうが安全です。
家賃は契約で決まっており、管理会社の精算書でも把握しやすい収入です。そのため調査で指摘されるのは、家賃以外の収入の計上漏れ、工事費などの経費の区分、私的な支出の混入といった、家賃そのもの以外の部分が中心になります。
| 論点 | 調査で確認されること | 日頃の備え |
|---|---|---|
| 家賃以外の収入 | 礼金・更新料・駐車場代・自販機やアンテナの設置料が、契約書・通帳と一致しているか | 物件ごと・入居者ごとの収入一覧を作る |
| 敷金・保証金 | 契約上返還しない部分(敷引き・償却)や、退去時に原状回復に充てた部分の計上 | 退去時の精算書を保管し、返還しない部分を収入に計上する |
| 管理会社の精算書 | 送金額(差引額)だけを収入にしていないか | 家賃・共益費は総額で収入に、管理料・修繕費は経費に分ける |
| 修繕費と資本的支出 | まとまった工事が、その年の経費でよいか | 見積書の明細、工事前後の写真、工事の目的を残す |
| 減価償却・取得時の費用 | 土地と建物の按分、耐用年数、仲介手数料などの扱い | 売買契約書・重要事項説明書・精算書から按分の根拠を残す |
| 借入金利子 | 元本を経費にしていないか、赤字の年の土地部分の利子 | 返済予定表で利子と元本を分けて記帳する |
| 家族への給与 | 事業的規模か、実際に業務をしているか、金額は妥当か | 業務内容と勤務・支払の記録を残す |
| 私的な支出の混入 | 自宅の修繕費、家族旅行、私用の車の費用が入っていないか | 事業用の口座・カードを分け、按分の根拠を残す |
| 消費税の区分 | 住宅の家賃と、店舗・事務所・駐車場の賃料の区分 | 住宅の貸付けは非課税、店舗・事務所などは課税として分けて集計する |
家賃以外の収入はどこまで計上する?
賃貸経営には、毎月の家賃以外にもさまざまな収入があります。調査では、賃貸借契約書と通帳、管理会社の精算書を突き合わせて、次のような収入が漏れていないかが確認されます。
- 礼金・権利金・更新料
- 敷金・保証金のうち、契約上返還しない部分(敷引き・償却)
- 駐車場代・駐輪場代、トランクルームなどの使用料
- 自動販売機や携帯電話の基地局アンテナの設置料
- 共益費・管理費として入居者から受け取る金額
- 退去時に敷金から差し引いた原状回復費用など、入居者の負担分
退去時に敷金から原状回復費用を差し引いて返した場合は、差し引いた金額を入居者の負担分として収入に計上し、業者に支払った工事費を経費にするのが基本です。相殺して何も記帳しないと、収入と経費の両方が抜け落ちます。
いつの年の収入にするか
家賃は、契約で定められた支払日の属する年の収入とするのが原則です(支払日の定めがなければ受け取った日)。たとえば「翌月分を前月末までに支払う」契約なら、1月分の家賃は前年12月の支払日に計上します。帳簿を継続して記帳している場合などは、その年に対応する期間の家賃を収入とする方法が認められることもあるため、毎年同じ方法で計上します。
礼金は原則として物件を引き渡した日、更新料は更新後の契約の効力が生じた日の収入です。返還しない敷金は、返還しないことが確定した時点で収入になります。物件ごとの収支や仕訳の形は不動産賃貸業の仕訳事例集で確認できます。
精算書の「差引額」だけを記帳しない
管理会社の精算書は、家賃から管理料や修繕費を差し引いた送金額で届くことがよくあります。送金額だけを収入にすると、収入と経費の規模を誤り、調査で説明に苦労します。家賃・共益費は総額で収入に、管理料・修繕費は経費に、それぞれ分けて記帳します。
修繕費と資本的支出はどう分ける?
外壁塗装や設備の更新など、まとまった工事費は、その年の経費になる修繕費か、資産に計上して減価償却する資本的支出かの区分が最大の論点です。考え方の軸は、元の状態に戻す・維持するための工事か、建物の価値を高めたり耐久性を増したりする工事かです。
修繕費になりやすい工事
- 退去後の壁紙の張替え・床の補修などの原状回復
- 故障した給湯器を同程度の機種に交換
- 雨漏り箇所の部分的な補修
- 同程度の材料で行う外壁・屋根の定期的な塗り直し
資産に計上しやすい工事
- 間取りの変更や用途の変更のための改装
- オートロック・宅配ボックスなど設備の新設やグレードアップ
- 使用できる期間を延ばす大規模な改修
- ロードヒーティングなど融雪設備の新設
金額が小さい工事や、おおむね一定の周期で行う修繕などは、金額や周期による形式的な基準で修繕費として扱える場合があります。区分がはっきりしない工事を一定の割合で分ける方法も通達に定められています。どの基準を使う場合も、判断の根拠になるのは見積書・請求書の工事明細、工事前後の写真、工事の目的が分かる資料です。
「工事一式」の見積書は項目ごとに分けてもらう
「改修工事一式」とだけ書かれた見積書・請求書では、修繕費と資本的支出を区分できません。発注の段階で工事項目ごとの金額が分かる明細を出してもらうと、申告でも調査でも説明しやすくなります。
修繕費か資本的支出かは、工事の内容と資料で判断が分かれます。見積書の段階から確認できますので、初回無料でご相談ください。
無料で相談する減価償却と物件取得時の費用で何が見られる?
減価償却では、取得価額の決め方と耐用年数の当てはめが確認されます。特に物件を購入した年は、売買契約書・重要事項説明書・精算書をもとに、取得時の処理が適切かが見られます。
| 確認されるポイント | よくある誤り | 考え方 |
|---|---|---|
| 土地と建物の按分 | 根拠なく建物の割合を大きくする | 契約書の内訳、建物に係る消費税額からの逆算、固定資産税評価額の比率など合理的な方法で按分し、根拠を残す |
| 取得時の諸費用 | 仲介手数料や固定資産税の精算金を一括で経費にする | 仲介手数料と固定資産税の精算金は取得価額に含め、土地と建物に按分する。登録免許税・不動産取得税は必要経費にできる |
| 償却方法 | 建物を定率法で償却する | 現在取得する建物・建物附属設備・構築物は定額法で償却する |
| 中古物件の耐用年数 | 簡便法の計算誤り、取得時に多額の改修をした物件への簡便法の適用 | 中古資産の耐用年数の計算方法と、簡便法を使えない場合があることを確認する |
| 相続で取得した物件 | 新たに買ったものとして耐用年数や取得価額を計算し直す | 亡くなった方の取得価額と経過年数を引き継いで償却を続けるのが原則 |
ツール建物の減価償却費を定額法で計算する取得価額と耐用年数を入れると、毎年の償却費と未償却残高を確認できます。計算する
取得時の資料は物件を持つ限り保管する
売買契約書や取得時の精算書は、減価償却の根拠であり、将来売却するときの取得費の根拠にもなります。帳簿の保存期間が過ぎても、物件を持っている間と売却後の申告が終わるまでは保管しておきます。
借入金利子・家族への給与・私的な支出の注意点は?
借入金:経費になるのは利子だけ
必要経費になるのは借入金の利子で、元本の返済額は経費になりません。返済予定表で利子と元本を分けて記帳します。また、不動産所得が赤字になった年は、赤字のうち土地の取得に要した借入金の利子に相当する部分を、給与所得など他の所得と損益通算できません。
土地と建物を一つの契約でまとめて購入し、借入金をどちらに充てたか区分できない場合は、借入金をまず建物の取得に充てたものとして計算する方法も認められています。ローンで物件を買ったオーナーは、赤字の年の計算方法を確認しておきます。
家族への給与:事業的規模と実態が前提
配偶者など家族への給与を経費にできるのは、貸付けが事業的規模で、青色申告者なら「青色事業専従者給与に関する届出書」を出している場合などに限られます。事業的規模かどうかは、貸している棟数・室数などの目安と管理の実態で判断します。事業的規模でない場合は、青色申告特別控除も最大10万円になります。
要件を満たす場合も、清掃や入居者対応など実際に担当している業務の内容と、勤務・支払の記録を残し、業務に見合った金額にしておくことが大切です。
私的な支出の混入
自宅の修繕費を賃貸物件の経費に混ぜる、家族旅行を物件視察の旅費にする、私用の車の費用を全額計上するといった私的支出の混入は、調査で重点的に見られます。指摘されると過去の年分までまとめて修正することになり、加算税の負担も重くなります。
事業用の口座とカードを分ける
家賃の入金、管理料・修繕費の支払、借入金の返済を事業用の口座にまとめると、生活費との混在を疑われにくくなり、調査の対応も格段に楽になります。共用している車や通信費は、使用割合の根拠を残して按分します。
税務調査はどう進む?準備する資料は?
- 事前通知税務署から電話などで、調査の日時・場所・目的・対象の税目と期間などが伝えられます。税務代理を依頼している税理士がいれば、税理士を通じて連絡が来ることもあります。
- 日程の調整と準備都合が悪ければ日程の変更を相談できます。対象の年分の資料をそろえ、申告内容を見直しておきます。
- 調査当日自宅や事務所で、物件を取得した経緯、入居状況、収入と経費の内容について質問を受け、帳簿や資料が確認されます。物件を見に行くこともあります。
- 追加資料の提出当日に確認しきれなかった資料の提出を求められることがあります。管理会社や金融機関に取引内容が確認されること(反面調査)もあります。
- 調査結果の説明問題がなければその旨が通知され、誤りがあれば内容の説明と修正申告の勧奨を受けます。
- 修正申告と納付修正申告書を提出し、本税と加算税・延滞税を納めます。勧奨に応じない場合は、税務署が更正(税額の訂正)を行います。
連絡を受けたら、次の資料を年分ごとにそろえます。
- 賃貸借契約書と、入居者ごとの契約条件の一覧
- 管理委託契約書と、管理会社の毎月の精算書
- 事業用・生活用の通帳(対象の年分)
- 修繕の見積書・請求書・工事前後の写真
- 物件の売買契約書・重要事項説明書・取得時の精算書
- 固定資産台帳(減価償却の明細)と借入金の返済予定表
- 家族への給与の勤務記録・支払の記録
- 帳簿(総勘定元帳など)と過去の申告書の控え
青色申告の個人は、帳簿と決算関係書類・現金預金取引等関係書類を7年(前々年分の所得が300万円以下なら現金預金取引等関係書類は5年)、その他の書類を5年保存します。管理会社からメールやポータルで受け取った精算書・請求書は電子取引にあたり、2024年1月1日以後は電子データのまま保存する必要があります。毎年の申告前の見直しには経理・決算セルフチェックも使えます。
指摘を受けたら?さかのぼる期間と加算税
誤りを指摘されたら、修正申告をして不足していた税額を納めます。さかのぼれる期間は、原則として法定申告期限から5年、偽りその他不正の行為がある場合は7年です。
| 種類 | 主にかかる場面 | 割合など |
|---|---|---|
| 過少申告加算税 | 期限内に申告したが、税額が少なかった | 原則10%(期限内申告税額と50万円のいずれか多い額を超える部分は15%) |
| 無申告加算税 | 期限までに申告していなかった | 原則15%(50万円超の部分は20%。2024年1月1日以後に法定申告期限が到来するものは300万円超の部分30%) |
| 重加算税 | 収入や経費を仮装・隠ぺいしていた | 過少申告・不納付の場合35%、無申告の場合40% |
| 延滞税 | 本来の納期限までに納めなかった | 納期限の翌日から納付する日までの日数に応じてかかる |
調査の通知を受ける前に自分で誤りに気づいて修正申告をすれば、過少申告加算税はかからないのが原則です。気になる点があれば、通知を待たずに見直すほうが負担は小さくなります。所得税を修正すると、住民税も連動して見直されます。
計算例:礼金・更新料など50万円の計上漏れを指摘された場合
例えば、課税所得が330万円超695万円以下(所得税率20%)のオーナーに、礼金・更新料など50万円の計上漏れがあり、税率の区分が変わらない場合の本税の増加額(概算)です。
- 所得税:50万円×20%=10万円
- 復興特別所得税:10万円×2.1%=2,100円
- 住民税(所得割):50万円×10%=5万円
- 本税の増加額の合計:10万円+2,100円+5万円=152,100円
このほか、過少申告加算税と、納付が遅れた期間に応じた延滞税がかかります。
ツール延滞税・加算税を概算する追加で納める税額と納付日を入れると、加算税と延滞税の目安を計算できます。計算する
札幌・北海道の賃貸物件で気をつけたい点
北海道の賃貸物件では、除雪やロードヒーティングなど冬の費用が大きくなりやすく、その集め方と払い方が論点になります。除雪費やロードヒーティングの電気代・灯油代を、共益費として入居者から集める物件もあります。集めた共益費はいったん収入に計上し、支払った除雪費などを経費にするのが原則です。差し引き後の金額だけを記帳すると、収支の規模を誤ります。
物件の管理のために支払う除雪・排雪費は、必要経費として扱うのが一般的です。自宅と賃貸物件の敷地をまとめて除雪している場合は、面積などの合理的な基準で按分します。融雪設備の新設・入替えは資産計上になりやすく、部分的な修理は修繕費になりやすいため、工事の内容が分かる資料を残します。考え方は賃貸オーナーの除雪・排雪費用の扱いで詳しく整理しています。
調査の連絡はどの税務署から来る?
個人の調査は、原則として住所地を所轄する税務署が行います。札幌市内の税務署は区ごとに管轄が分かれ、中央区は西側が札幌西税務署、おおむね西10丁目以東が札幌中税務署です。
2026年7月10日からは市内5署の内部事務が札幌業務センターに集約され、修正申告書などを書面で郵送する場合は同センター宛てになります。e-Taxでの提出や窓口への持参は所轄の税務署です。
よくある質問
管理会社に任せていれば、調査の対応も管理会社がしてくれますか?
管理会社は物件管理の受託者で、税務署への説明や申告の代理はできません。調査ではオーナー本人か税務代理を依頼した税理士が説明し、管理会社には精算書や契約資料の提供を依頼します。管理会社に取引内容の確認が入ることもあります。
赤字の年にも税務調査は来ますか?
来ることがあります。不動産所得の赤字を給与所得と損益通算して還付を受けている場合は、経費の内容や、土地の取得に要した借入金の利子の計算が確認されやすくなります。赤字の内訳を説明できる資料を残しておきます。
税務署から「お尋ね」の文書が届いたら、税務調査ですか?
お尋ねや照会の文書は、自主的な見直しを促す行政指導として送られることがあり、調査とは区別されます。ただし回答の内容によっては調査に移ることもあります。事実に沿って回答し、申告漏れに気づいたら自主的な修正申告を検討します。
資産管理会社(法人)で貸している場合、見られる点は変わりますか?
収入の計上漏れや修繕費の区分など基本の論点は同じです。加えて、役員報酬や家族への給与の妥当性、オーナー個人と法人の間の賃料・管理料の設定、車両などの私的利用が確認されます。法人の帳簿書類は7年(欠損金が生じた事業年度は10年)保存します。
まとめ
不動産賃貸オーナーの税務調査は、家賃以外の収入の計上漏れ、修繕費と資本的支出の区分、減価償却と取得時の費用、借入金利子・家族への給与・私的支出の混入が中心です。契約書・精算書・通帳・工事資料を年分ごとに整理し、事業用の口座を分けておけば、指摘の多くは申告の段階で防げます。気になる点は、調査の通知を待たずに見直しておきましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
賃貸オーナーの申告・税務調査のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
