不動産仲介業のインボイス対応は、手数料を払う依頼者が「事業者か消費者か」で決まります。土地の売買や住宅の家賃が非課税でも仲介手数料は課税なので、法人や投資家との売買、社宅の法人契約、貸主からの広告料(AD)があるなら、登録と発行体制の整備が前提です。
この記事の結論
仲介手数料は、対象が土地でも住宅でも課税取引です。事業者の依頼者が一定以上いる仲介業者はインボイス登録が前提で、個人の借主が中心でもADや法人契約があれば対応が必要になります。
- 土地の売買・住宅の家賃は非課税でも、仲介手数料には消費税10%がかかる
- 収益物件の売買、社宅の法人契約、貸主・管理会社からのADは発行を求められやすい
- 共同仲介では、各社が自分の受け取る手数料についてインボイスを発行するのが原則
- 免税事業者への支払いの控除割合は、2026年10月1日〜2028年9月30日は70%
- 簡易課税なら仲介手数料は第6種(みなし仕入率40%)。条件を満たす個人は令和9・10年分に3割特例も使える
仲介手数料は課税?土地や住宅の家賃が非課税でも消費税はかかる
消費税では、土地の売買や貸付、居住用住宅の家賃は非課税です。しかし仲介業者が受け取る仲介手数料は「仲介というサービスの対価」なので、対象が土地でも住宅でも課税されます。売買・賃貸を問わず、手数料には消費税10%がかかります。
手数料を払う依頼者が課税事業者なら、その消費税を仕入税額控除するためにインボイス(適格請求書)が必要です。登録番号のない請求書では満額の控除ができないため、事業者の依頼者からは登録番号の有無を確認されると考えておきましょう。
計算例:税抜66万円の仲介手数料の場合
例えば、法人の売主から税抜66万円の仲介手数料を受け取る場合、消費税は66万円×10%=66,000円です。依頼者が課税事業者なら、この66,000円を仕入税額控除できるかどうかがインボイスの有無で変わります。
仲介業者が免税事業者で、取引が2026年10月1日〜2028年9月30日なら、依頼者が控除できるのは経過措置の70%分です。66,000円×70%=46,200円となり、66,000円−46,200円=19,800円は依頼者が控除できない負担として残ります。
インボイス登録は必要?取引の場面ごとに依頼者を見て判断する
判断の軸は、手数料などを払う相手が仕入税額控除をする事業者かどうかです。同じ賃貸仲介でも、お金の出どころが個人の借主か、法人や貸主かで答えが変わります。
| 取引の場面 | 手数料などを払う人 | インボイスの必要度 | 補足 |
|---|---|---|---|
| 住宅の売買仲介 | 個人の売主・買主 | 低い | マイホームの売買は消費者どうしの取引が中心 |
| 収益物件・事業用不動産の売買仲介 | 法人、事業として賃貸経営をする個人 | 高い | 依頼者が課税事業者なら発行が前提 |
| 居住用の賃貸仲介 | 個人の借主 | 低い | 借主は仕入税額控除をしない |
| 社宅の賃貸仲介(法人契約) | 借主の法人 | 高い | 法人が手数料を払うため発行を求められる |
| 広告料(AD)・業務委託料 | 貸主・管理会社 | 高い | 事業者間の取引。貸主が課税事業者なら発行が必要 |
| 共同仲介の分配金 | 相手の仲介業者 | 高い | 業者間の精算も課税取引 |
貸主が課税事業者かどうかは、住宅の家賃(非課税)以外に、店舗・事務所の賃料や駐車場の収入(課税)がどれだけあるかで変わります。住宅だけを貸す個人の貸主が免税事業者であれば、ADのインボイスを求めないこともあります。依頼者ごとに課税・免税を把握しておくと、請求書の出し分けで迷いません。
収益物件の売買や社宅の法人契約を扱う、ADの比重が大きい、のどれかに当たるなら、登録を前提に考えるのが現実的です。免税事業者は年の途中でも登録でき、提出日から15日以降の希望日を登録日にできます(2029年9月30日を含む課税期間まで)。制度全体の流れは「インボイス制度の実務ガイド」で確認できます。
共同仲介・手数料の分配では、誰が誰に発行する?
元付業者と客付業者が手数料を分け合う共同仲介では、原則として、それぞれの業者が自分の受け取る手数料について自分の依頼者にインボイスを発行します。売主側の手数料は元付業者が売主へ、買主側の手数料は客付業者が買主へ、という形です。
注意が要るのは、一方の業者がまとめて受け取ってから相手に分配する形です。お金の流れと書類の流れがずれやすいため、誰が誰に何を発行するかを取引ごとに決めておくことが大切です。分配を受ける業者が分配元に請求書を出し、分配元はその請求書で仕入税額控除を受ける、というように契約関係と書類をそろえます。
- 手数料をどの依頼者から、どの業者が受け取るか
- 分配がある場合、分配金の請求書を誰が誰に出すか
- 相手業者の登録番号(国税庁の適格請求書発行事業者公表サイトで確認)
- 精算書の金額と、請求書・入金額が一致しているか
相手業者が免税事業者のときの分配金
分配金を払う側では、相手業者が免税事業者だと、仕入税額控除は経過措置の割合(2026年10月1日〜2028年9月30日は70%)に限られます。帳簿には「70%控除対象」などと経過措置の適用を記載しておきます。
経費側で確認すること:経過措置70%と少額特例
支払う側の整理も欠かせません。物件ポータルサイトの掲載料や反響課金、業者間の物件情報システムの利用料、物件写真の外注カメラマンへの報酬、チラシの印刷代などは、仕入税額控除の対象になる主な経費です。一方で、仲介業ならではの「消費税の対象外」の支出もあります。
| 支出 | 消費税の扱い | 確認すること |
|---|---|---|
| ポータルサイトの掲載料・反響課金 | 課税 | 請求書の登録番号。PDFなど電子データで受け取ったものは電子データのまま保存 |
| 外注カメラマン・チラシ制作など個人への外注 | 課税(相手が免税事業者なら経過措置) | 登録の有無と、帳簿への経過措置の記載 |
| 業務委託の営業担当(フルコミッション)への報酬 | 課税(相手が免税事業者なら経過措置) | 雇用契約の給与(消費税の対象外)と区別できる契約になっているか |
| 業界団体の会費 | 対価性がなければ不課税 | 団体からの案内で課税・不課税を確認 |
| 営業保証金・弁済業務保証金分担金 | 預け金(資産)で経費ではない | 仕入税額控除の対象外 |
| 依頼者のために立て替えた印紙代・登記費用 | 不課税(立替金) | 手数料と分けて精算する |
免税事業者からの仕入れは、インボイスがなくても一定割合を控除できる経過措置があります。割合は段階的に縮小し、判定は請求書の日付ではなく課税仕入れの日(引渡しや役務が完了した日)で行います。割合が切り替わる日の前後に完了した撮影や制作は、完了日で判定します。
| 課税仕入れの日 | 控除できる割合 |
|---|---|
| 2026年9月30日まで | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日以後 | 控除できない |
ツールインボイスの経過措置で控除できる額を計算する免税事業者への支払額を入れると、時期に応じた控除額の目安が分かります。計算する
税込1万円未満の課税仕入れは、インボイスがなくても帳簿の記載だけで控除できる少額特例があります。対象は基準期間の課税売上高が1億円以下か、特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者で、期間は2023年10月1日〜2029年9月30日です。
経過措置が70%になったことで見直したい点は「インボイス経過措置が80%から70%になった後の対応」にまとめています。仲介業の具体的な仕訳は「不動産仲介業の仕訳事例集」も参考になります。
納める消費税はどう計算する?簡易課税は第6種、個人は3割特例も
仲介業は、給与や歩合給など消費税の対象外の支出が経費の中心になりやすく、課税仕入れが少ない傾向があります。その場合、実際の仕入れで計算する本則課税より、簡易課税や特例のほうが納税額が小さくなることがあります。
| 計算方法 | 使える事業者 | 納付税額の求め方 | 期間・手続き |
|---|---|---|---|
| 本則課税 | すべての課税事業者 | 売上の消費税−仕入れの消費税 | 届出不要 |
| 簡易課税 | 基準期間の課税売上高5,000万円以下 | 仲介手数料は第6種。売上の消費税からその40%を差し引く | 適用する課税期間の初日の前日までに届出、2年継続 |
| 2割特例 | 登録しなければ免税事業者になる事業者 | 売上の消費税×2割 | 2026年9月30日を含む課税期間まで(個人は令和8年分、3月決算法人は2027年3月期まで) |
| 3割特例 | 個人事業者のみ(条件は2割特例とほぼ同じ) | 売上の消費税×3割 | 令和9年分・令和10年分。届出不要 |
計算例:売上の消費税が80万円の個人の仲介業者
例えば、売上に係る消費税額(地方消費税を含む)が80万円で、売上はすべて仲介手数料(第6種)の個人事業者とします。
2割特例(令和8年分まで):80万円×20%=16万円
3割特例(令和9・10年分):80万円×30%=24万円
簡易課税(第6種):80万円×40%=32万円を差し引き、80万円−32万円=48万円
本則課税の納税額は、実際の課税仕入れの消費税額によって変わります。
3割特例は、基準期間の課税売上高が1,000万円を超える年や、特定期間で課税事業者になる年などは使えません。法人には3割特例がないため、法人化を考えている個人は消費税の負担の変化も含めて時期を検討します。3割特例の後に簡易課税へ移る場合、届出はその課税期間の確定申告期限まで出せます(例:令和10年分に3割特例を使い、令和11年分から簡易課税にするなら2030年4月1日まで)。
入居者の火災保険などの代理店手数料を受け取っている場合、簡易課税ではその収入を金融保険業(第5種・50%)として区分できます。区分しないと低い率で計算されるため、売上は種類ごとに集計しておきます。3割特例の詳細は「2割特例の終了後に使える3割特例」で解説しています。
無料ツール簡易課税・本則課税・2割特例を比較する売上と仕入れの金額を入れると、どの計算方法で納税額が小さくなるかを比べられます。計算する
簡易課税と特例のどれが有利かは、課税仕入れの額と今後の売上の見込みで変わります。初回無料で試算できます。
無料で相談する請求書・領収書で気をつける点は?
インボイスには登録番号のほか、次の事項を記載します。仲介業では「何の取引の手数料か」を具体的に書くと、依頼者の経理でも処理しやすくなります。
- 発行者の名称と登録番号
- 取引年月日
- 取引の内容(例:〇〇マンション〇号室 賃貸借契約の媒介手数料)
- 税率ごとに区分した対価の額と、適用税率(10%)
- 税率ごとの消費税額(端数処理は1枚の請求書につき税率ごとに1回)
- 交付を受ける人の名称(法人名・個人名)
印紙代や登記費用など、依頼者のために立て替えた実費は、手数料と分けて記載します。立替金は消費税の対象外なので、手数料と合算して消費税を計算しないようにします。
契約の解除などで仲介手数料を返金・減額したときは、返還インボイス(返金した金額や消費税額を記載した書類)を交付します。税込1万円未満の返金であれば、交付は不要です。
業務システムの帳票を一度確認する
契約書や重要事項説明書と一緒に請求書・領収書を出力する業務システムを使っている場合は、帳票に登録番号と税率ごとの消費税額が出るかを確認します。旧様式のテンプレートが残っていると、記載漏れの原因になります。
よくある質問
免税事業者のままでも仲介業は続けられますか?
続けられます。依頼者が個人中心なら影響は小さい一方、事業者の依頼者は経過措置の割合でしか控除できないため、取引条件の見直しを求められることがあります。なお、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると、登録の有無にかかわらず課税事業者になります。
個人の借主に渡す領収書もインボイスにする必要がありますか?
消費者に対する交付義務はありません。ただ、通常の領収書に登録番号などの記載事項をそろえておけば、相手が事業者でも消費者でもそのまま使えます。様式を一本化すると発行の手間が減ります。
登録すると、個人の借主が中心の仲介業者は損になりますか?
登録すると課税事業者になり、売上の消費税を納める必要があります。個人の借主からの手数料が大半でADも少ないなら、登録の利点は小さくなります。個人事業者は令和9・10年分に3割特例が使えるため、負担額を試算してから判断します。
個人から法人に切り替えると、インボイスの扱いは変わりますか?
法人は個人とは別の事業者なので、改めて登録が必要です。個人の登録番号は法人に引き継げません。3割特例は個人だけの制度のため、法人化の時期によっては消費税の負担が増えることがあります。
ポータルサイトの請求書がPDFで届きます。印刷して保存すればよいですか?
電子データで受け取った請求書は電子取引にあたり、2024年1月1日以後は電子データのまま保存する義務があります。日付・金額・取引先で検索できるようにしておくのが原則ですが、基準期間の売上高が5,000万円以下で、税務職員からのダウンロードの求めに応じられるなら、検索の要件は不要です。
まとめ
不動産仲介業では、土地や住宅の家賃が非課税でも仲介手数料は課税で、依頼者が事業者ならインボイスが求められます。売買・賃貸・共同仲介・経費の場面ごとに、誰に発行し、誰から受け取るかを一度棚卸ししておくと迷いがなくなります。納税額は簡易課税(第6種)や2割・3割特例で大きく変わるため、登録の判断とあわせて試算しておきましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
不動産仲介業のインボイス・消費税のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
