事業承継の前に在庫と売掛金を棚卸しし、帳簿の数字を実態に合わせておくと、後継者・金融機関・買い手に説明できる決算書を引き継げます。進め方は、現物と帳簿の突合、回収・処分の可能性の判定、方針の記録の3段階です。損金にできるかは税務の要件で決まるため、処理する前に要件と証拠を確かめます。
この記事の結論
在庫は実地棚卸と滞留・劣化の点検、売掛金は年齢調べと残高確認で実態をつかみます。評価損・廃棄損・貸倒損失は、税務の要件と証拠を確かめてから処理します。
- 時価が下がっただけの在庫は評価損にできず、破損や著しい陳腐化などの事実が必要
- 売掛金の貸倒損失は、法的な切捨て・全額回収不能・取引停止後の一定期間経過などの場面に限られる
- 処理の結果は、自社株の評価やM&Aでの純資産の調整にも影響する
- 判定の理由と証拠を記録に残し、承継の5年ほど前から毎期見直す
承継前に在庫・売掛金を整理するのはなぜ?誰が何を見るのか
在庫と売掛金は貸借対照表に資産として載っていますが、帳簿の金額どおりの価値があるとは限りません。長く動いていない在庫や、取引が途絶えた相手への売掛金は、営業を続けるうちに少しずつ積み上がります。
こうした資産が残ったまま会社を引き継ぐと、後継者は「この数字は本物か」を一から調べ直すことになります。承継の場面では、後継者以外にも決算書を細かく見る相手がいるため、誰が何を確かめるのかを先に押さえておくと、整理の優先順位を決めやすくなります。
| 見る人 | 確かめること | 整理していないと起こりやすいこと |
|---|---|---|
| 後継者 | どの在庫が売れるのか、どの取引先から回収できるのか | 引継ぎ後に原因の分からない差額や不良在庫が見つかり、対応が後手に回る |
| 金融機関 | 不良在庫や回収できない債権を差し引いた、実態の純資産 | 実態の純資産が小さく見積もられ、承継後の借入れや保証の見直しの話し合いで説明を求められる |
| M&Aの買い手 | 在庫・債権が実在し、売れる・回収できるか(財務デューデリジェンス) | 純資産を減らす調整の対象になり、譲渡価格の交渉で不利になる |
| 税務(株式・事業の承継) | 損失を計上する年度、自社株の評価額、引継ぎの方法ごとの課税 | 損失を計上できる年度を逃す、評価や課税の前提が後から変わる |
承継の形が親族内承継・従業員への承継・M&Aのどれであっても、実態に合った数字を引き継ぐことが出発点になります。整理は「数字を小さくする作業」ではなく、後継者が判断に使える数字に直す作業だと考えると、方針がぶれにくくなります。
いつ・誰が・どの資料で進める?準備と全体の流れ
整理は、承継の5年ほど前から始めるのが目安です。初回は原因の調査に時間がかかり、評価損や貸倒損失は要件を満たした年度にしか計上できないため、承継の直前にまとめて片づけることは難しいからです。基準日は決算日にそろえると、決算書と申告書の数字にそのままつながります。
進めるメンバーは、経営者・後継者・経理担当・営業や現場の責任者、そして税務の判断を担う税理士です。在庫の状態は現場、取引先の事情は営業が一番よく知っているため、経理だけで進めると判定の根拠が弱くなります。
後継者を棚卸しに参加させる
実地棚卸や取引先ごとの残高の確認に後継者が立ち会うと、商品や取引先の実情を数字と結びつけて理解できます。整理の判断に後継者が関わっておけば、承継後に「なぜこう処理したのか」を自分で説明できるようになります。
| 対象 | そろえる資料 | 使い道 |
|---|---|---|
| 在庫 | 在庫台帳(品目別の数量・単価)、棚卸表、入出庫の記録、仕入先の請求書、外部倉庫や外注先の預り証・在庫証明 | 現物との突合、最後に動いた日と単価の確認 |
| 売掛金 | 売掛金元帳、得意先別の残高一覧、請求書の控え、入金の記録、取引基本契約書、督促の記録 | 年齢調べ、残高の差異の原因調査、回収可能性の判定 |
| 税務・会計 | 法人税申告書と別表、棚卸資産の評価方法の届出書の控え、過去の評価損・貸倒損失・引当金の処理の記録 | 評価方法の確認、過去の処理との整合、損失を計上する年度の判断 |
- 基準日と範囲を決める決算日を基準日にし、対象とする倉庫・店舗・拠点と、在庫・売掛金の範囲(原材料・仕掛品、受取手形、未収入金を含めるか)を決めます。
- 現物と帳簿を突き合わせる在庫は実地棚卸で数量を数え、売掛金は年齢調べと取引先への残高確認で、帳簿の残高が実在するかを確かめます。
- 回収・処分の可能性を判定する品目ごと・取引先ごとに「そのまま引き継ぐ」「値引き販売や督促で回収する」「損失として処理する」に分けます。
- 税務・会計の処理を決める評価損・廃棄損・貸倒損失の要件に当たるか、どの年度に計上するか、会計だけで処理するかを税理士と確認します。
- 方針と根拠を記録する判定の理由・金額・証拠の保管場所をまとめ、後継者と共有します。次の決算では、この記録から見直しを始めます。
在庫の棚卸しで何を確かめる?現物と帳簿のズレの見つけ方
最初に確かめるのは、現物と帳簿の数量が一致しているかです。数量が合わない品目は、入出庫の記録をさかのぼり、出荷の計上漏れ・返品の処理漏れ・単位の取り違えなどの原因を探します。自社の倉庫にない在庫や、自社のものではない在庫が紛れていないかも、次の点で確認します。
- 外部倉庫・外注先・委託販売先にある在庫を、預り証や在庫証明で確かめた
- 他社から預かっている在庫や、販売済みで引渡し前の商品を数量から除いた
- 輸送中の商品(未着品)を、所有権が移る時点に合わせて計上した
- 原材料・仕掛品・半製品も、工程ごとに数量と進み具合を記録した
- 単価が仕入先の請求書と一致し、届け出た評価方法で計算されている
数量がそろったら、在庫の中身を「売れる在庫」とそれ以外に分けます。滞留の目安には、品目ごとの最終出庫日や在庫回転期間(在庫残高を1か月あたりの売上原価で割ったもの)を使うと、担当者の感覚に頼らずに洗い出せます。
| 区分 | 見分け方 | 整理の方向性 |
|---|---|---|
| 通常の在庫 | 出荷・使用の記録が続いている | そのまま引き継ぐ。単価の誤りだけ確認する |
| 滞留在庫 | 最終出庫日から長く動きがない、回転期間が他の品目より極端に長い | 値引き販売・用途の転換・処分を検討する |
| 陳腐化した在庫 | 型落ち・旧規格の品、季節商品の売れ残り | 評価損の要件に当たるかを確認し、処分の時期を決める |
| 破損・劣化した在庫 | 破損・型崩れ・品質の変化で、通常の方法では売れない | 評価損として処理するか、廃棄する |
| 評価方法 | 届け出た方法と実際の単価計算が一致しているか | 継続適用を前提に、必要なら変更の承認を申請する |
北海道で冬に決算日を迎える場合
屋外の資材置き場や車両・部品の在庫は、積雪で数量を確かめにくくなります。降雪前に屋外の在庫を数えておき、決算日までの入出庫を記録で足し引きして期末の数量を出すなど、数える時期と方法を前もって決めておくと漏れを防げます。
価値が下がった在庫は損金にできる?評価損・廃棄損の要件
法人税では、在庫の時価が下がったというだけでは評価損を損金にできません。評価損を計上できるのは、災害で著しく損傷した場合、著しく陳腐化した場合、これらに準ずる特別の事実がある場合に限られます(法人税法33条、同法施行令68条)。しかも、決算で評価損を費用として計上する「損金経理」が前提です。
著しい陳腐化の例として、季節商品の売れ残りで今後は通常の価額で売れないことが過去の実績などから明らかな場合や、性能・品質が大きく異なる新製品の発売で通常の方法では売れなくなった場合が示されています。破損・型崩れ・たなざらし・品質の変化で通常の方法で売れなくなった場合も、準ずる事実に当たります(法人税基本通達9-1-4、9-1-5)。
値下がり・作りすぎだけでは評価損にならない
物価の変動、過剰生産、建値の変更などで時価が下がっただけでは、評価損の計上は認められません(法人税基本通達9-1-6)。また、自社株の評価を下げる目的で、要件に当たらない評価損を計上しても税務調査で否認されます。事実と証拠がそろった品目だけを処理します。
| 処理 | 使える場面 | そろえる証拠・手続き |
|---|---|---|
| 評価損 | 破損・著しい陳腐化などで通常の方法では売れない在庫を、まだ手元に持っている | 損金経理。破損や陳腐化を示す写真・販売実績・新製品の発売時期、処分可能な価額の根拠 |
| 廃棄損 | 在庫を実際に廃棄した | 廃棄業者の受領書や産業廃棄物管理票(マニフェスト)、廃棄前後の写真、社内の決裁の記録 |
| 値引き販売・処分売却 | 処分価格であれば売れる | 販売の記録。売上として計上し、原価との差は売上原価を通じて利益に反映される |
| 低価法による評価 | 評価方法として低価法を選んでいる | 評価方法の届出(変更する場合は事前の承認申請)、期末時価の根拠 |
計算例:型落ちになった在庫の評価損
例えば、帳簿価額200万円の在庫が、性能の大きく異なる新製品の発売で通常の方法では売れなくなり、処分できる価額が60万円と見込まれる場合を考えます。評価損は 200万円−60万円=140万円 で、決算で損金経理すれば、その事業年度の損金になります。処分可能な価額は、買取業者の見積りや直近の処分実績などで裏付けます。
評価方法は届け出た方法を続けて使う
評価方法を届け出ていない法人は、最終仕入原価法(期末に一番近い仕入単価で評価する方法)で評価します。低価法(原価と期末時価のどちらか低いほうで評価する方法)を選んでいれば、期末の時価の下落を評価に反映できます。個人事業では、低価法を使えるのは青色申告者に限られます。
法人が評価方法を変えるには税務署長の承認が必要で、変更しようとする事業年度が始まる日の前日までに申請します。承継の直前に慌てて変えるのではなく、継続して使うことを前提に、実態に合う方法かを早めに確かめておきます。
会計で処理し、税務では加算する方法もある
税務の要件には届かないものの、実態として価値が大きく下がっている在庫もあります。その場合は、決算書では評価損を計上して実態を示し、法人税の申告書では損金不算入として所得に加算する処理(有税処理)を選べます。決算書の見え方と税金の計算を分けて考える方法で、後継者や金融機関に実態を伝えたいときに使われます。会計処理の基本は中小企業の経理・会計処理のガイドで確認できます。
なお、すでに現物が無い在庫(過去に廃棄・紛失したもの)は、いつ無くなったかによって、どの年度の損失とするかが変わります。時期が分からないまま今期にまとめて損金にすると、税務調査で計上の時期を問われることがあるため、経緯を確認してから処理を決めます。
売掛金の点検はどう進める?年齢調べと残高確認
売掛金は、取引先ごとに残高がいつ発生したものかを分ける「年齢調べ」から始めます。合計額だけを見ていると、毎月の入金に隠れて古い残高が消えずに残っていることに気づけません。数年前に取引が途絶えた相手への売掛金が、そのまま帳簿に残っているのはよくある例です。
| 区分 | 状態 | 確認・対応 |
|---|---|---|
| 約定どおり | 請求から回収予定日までの範囲にある | 通常どおり管理する |
| 期日を過ぎている | 回収予定日を過ぎても入金がない | 請求漏れ・金額の認識違い・相手の資金繰りのどれかを確認し、督促する |
| 前期以前から残っている | 入金は続いているが、古い残高が消えない | 入金の消込先の誤りや、値引き・返品・相殺の処理漏れを調べる |
| 取引が止まっている | 取引も入金もない | 相手先の状況を調べ、回収を続けるか貸倒れとして処理するかを判断する |
残高の実在を確かめるには、取引先に基準日の残高を記入して返送してもらう「残高確認」が有効です。監査で使われる手続きで、自社の帳簿だけでは分からない認識のずれが見つかります。返送された残高が帳簿と合わないときは、次の原因から確認します。
- 入金を別の請求や別の取引先に消し込んでいる
- 相手が差し引いた振込手数料や、値引き・返品・リベートの処理が漏れている
- 買掛金との相殺を、売掛金の側で処理していない
- 同じ請求を二重に計上している、または売上の計上時期が相手とずれている
- 受け取った手形や電子記録債権の処理が、売掛金と食い違っている
取引が続いていて入金が遅れているだけなら、督促や支払条件の見直しで回収を図ります。分割払いで合意する場合は、合意書や残高確認書に相手の署名をもらっておくと、債務の承認として消滅時効を更新する(期間をはじめから数え直す)根拠にもなります。長く放置した売掛金は、時効で請求できなくなるおそれがある点にも注意が必要です。
回収できない売掛金はどう処理する?貸倒損失・引当金・消費税
回収の見込みがない売掛金でも、貸倒損失として損金にできるのは、通達で示された場面に当たる場合です。法人税では次の3つの類型に整理されており、どれに当たるかで計上する年度や経理の要否が変わります。
| 類型 | 主な場面 | 処理のポイント |
|---|---|---|
| 法律上の貸倒れ | 更生計画・再生計画の認可や特別清算の協定の認可で債権が切り捨てられた。債務超過が相当期間続く相手に、書面で債務免除をした | 切捨て・免除の事実が生じた事業年度の損金になる。経理処理の有無で年度を選ぶことはできない |
| 事実上の貸倒れ | 相手の資産状況・支払能力からみて、全額が回収できないことが明らか | 損金経理が必要。担保があるときは処分した後でないと計上できず、一部だけの貸倒れは認められない |
| 形式上の貸倒れ | 継続して取引していた相手との取引を停止し、通達で定める期間が過ぎても弁済がない(担保がない場合)。取立ての費用が債権額を上回り、督促しても弁済がない | 売掛金などの売掛債権が対象で、貸付金は対象外。備忘価額(帳簿に残す1円など)を残して損金経理する |
判定の材料として、督促の記録、相手の破産・再生手続の通知、取引停止の時期を示す資料、担保の有無をそろえます。相手が営業を続けているのに「連絡が取りにくい」というだけでは、事実上の貸倒れには当たりにくい点に注意が必要です。
無料ツール貸倒損失として処理できるかを判定する相手先の状況から、貸倒損失として処理できる場面に当たるかを確認できます。判定する
回収不能がまだ確定していない段階では、資本金1億円以下の中小法人など(大企業の完全子会社などを除く)は、貸倒引当金で将来の損失に備えられます。期末の売掛金などに法定繰入率か過去の貸倒実績率を掛けて計算する方法で、貸倒引当金の繰入限度額を自動計算するツールで目安を確かめられます。
消費税にも影響があります。課税事業者として売上に消費税を計上していた売掛金が貸倒れになったときは、その消費税額を、貸倒れになった課税期間の納める消費税から差し引けます。貸倒れの事実を証明する書類の保存が条件で、免税事業者だった期間の売上に係る売掛金は対象になりません。
計算例:貸倒れになった売掛金の消費税
例えば、標準税率10%の売上に係る税込110万円の売掛金が、事実上の貸倒れの要件を満たした場合を考えます。売掛金に含まれる消費税等は 110万円×10/110=10万円 で、この10万円分を、貸倒れになった課税期間の消費税の計算で差し引きます(実際の申告では国税分と地方消費税分に分けて計算します)。
回収できる債権を放棄すると寄附金になることがある
承継を機に、取引先や関係会社への古い債権を「きれいにしたい」と放棄するケースがあります。相手が債務超過で回収できないなどの事情や、合理的な再建計画がないまま放棄すると、寄附金(法人税法37条)として損金にできる額が制限されます。放棄の前に、相手の財務状況と放棄の理由を書面で残します。
貸倒れや評価損の要件に当たるか、どの年度に計上するかは、証拠と相手先の状況で変わります。整理の前に初回無料で確認できます。
無料で相談する整理の結果は承継の方法と税金にどう影響する?
同じ在庫・売掛金の整理でも、株式を引き継ぐのか、個人事業を引き継ぐのか、第三者に譲るのかで、確認する税金と相手が変わります。承継の方法が決まっていない段階でも、次の点を知っておくと整理の時期を決めやすくなります。
親族内承継(株式の贈与・相続)の場合
要件を満たして評価損や貸倒損失を損金に計上すると、その年度の所得と会社の純資産が減るため、自社株の評価額にも影響することがあります。株式を贈与・相続する時期とあわせて、損失を計上する年度を税理士と確認しておきます。
事業承継税制の特例措置を使う場合は、特例承継計画の提出期限が2027年9月30日(旧期限の2026年3月31日から延長)、特例の対象となる贈与・相続は2027年12月31日までです。制度の全体像は事業承継税制のガイドで確認できます。
個人事業を親から子へ引き継ぐ場合
個人事業では、在庫や売掛金を「売買」「贈与」「相続」のどの形で引き継ぐかで、親と後継者の課税が変わります。例えば、親が在庫を子に無償で渡すと、親の側では販売したのと同じように、その価額を収入に計上する決まりがあります(所得税法40条)。
消費税では、免税事業者から課税事業者になるとき、その前日に持っている在庫のうち免税期間に仕入れた分の消費税額を、仕入税額控除の対象に加える調整があります(消費税法36条)。課税事業者である後継者が、相続で免税事業者だった親の事業を引き継いだ場合も、引き継いだ在庫に同じ調整があります。逆に免税事業者になる場合は、直前の課税期間に仕入れた期末の在庫の分を控除から外します。
無料ツール棚卸資産の消費税調整を計算する免税事業者と課税事業者が切り替わるときに、期末在庫に含まれる消費税額の調整額を計算できます。計算する
M&A(第三者への承継)の場合
買い手は財務デューデリジェンス(財務DD。買収前に対象会社の財務内容を調べる手続き)で、滞留在庫や回収できない売掛金を洗い出し、純資産から差し引く調整をします。売り手が先に整理し、判定の根拠を説明できれば、交渉の場で一方的に減額される余地を小さくできます。
譲渡契約では、売り手が「決算書は適正」「開示していない問題はない」と約束する表明保証の条項が入るのが一般的です。整理を済ませずに表明保証をすると、譲渡後に問題が見つかったとき補償を求められるおそれがあります。
承継後の借入れへの影響
金融機関は、決算書の在庫・売掛金の中身を見て、実態の純資産を見積もっていることが多くあります。整理で一時的に損失が出ても、原因と今後の管理方法を説明できれば、実態に合った数字として受け止められやすくなります。承継後の資金調達の考え方は融資・資金調達ガイドにまとめています。
整理の方針をどう記録し、後継者に引き継ぐ?
点検を終えたら、どの項目をどのような理由で整理したのかを記録に残します。承継後に後継者や金融機関から「なぜこの数字なのか」と聞かれたとき、経緯を示す資料があれば、後継者が自分の言葉で説明できます。引継ぎ資料には、次の内容を入れておくと十分です。
- 基準日・対象範囲・立ち会った人
- 品目ごと・取引先ごとの判定結果と、その理由
- 評価損・廃棄損・貸倒損失として処理した金額と事業年度、会計だけで処理した金額
- 写真・受領書・督促の記録・残高確認書など、証拠書類の保管場所
- 回収交渉中の取引先や処分待ちの在庫など、残った課題と担当者
- 評価方法・貸倒引当金・滞留の判定基準など、今後も続ける社内のルール
貸倒れや廃棄の証拠書類は、帳簿書類として保存します。法人の帳簿書類の保存期間は原則7年で、欠損金が生じた事業年度は10年です。税務調査で処理の根拠を問われたときに提示できるよう、記録と証拠を同じ場所にまとめておきます。
棚卸しと整理は一度で終わるものではありません。毎期の決算で年齢調べと滞留在庫の一覧を更新する習慣をつけておけば、承継の直前に慌てて処理する事態を避けられます。決算前の点検項目は経理・決算セルフチェックで確認できます。
よくある質問
後継者が決まっていなくても、在庫・売掛金の整理を始めたほうがいいですか?
始めておくことをおすすめします。親族への承継・従業員への承継・M&Aのどれを選ぶにしても、実態に合った決算書が判断の土台になります。事業を続けるか、譲るか、たたむかを比べるときにも、整理された数字があれば正しく比較できます。
貸倒引当金と貸倒損失はどう違いますか?
貸倒損失は、回収できないことが確定した債権を損失として処理するものです。貸倒引当金は、まだ確定していない将来の貸倒れに備えて見積もる費用で、法人税で繰り入れられるのは中小法人などに限られます。引当金で処理していた債権が実際に貸倒れになったときは、引当金を取り崩して充てます。
整理の結果、決算が赤字になると融資に影響しますか?
一時的な損失の計上で赤字になる場合でも、内容と原因を説明できれば、本業の収益力とは分けて評価してもらえる余地があります。損失の内訳、再発を防ぐ管理方法、翌期以降の見通しをまとめた資料を、決算書とあわせて金融機関に示すと伝わりやすくなります。
経営者が会社に貸しているお金(役員借入金)も整理したほうがいいですか?
整理の対象に含めることをおすすめします。会社が経営者から借りているお金は、経営者から見ると会社への貸付金で、相続が起きると相続財産になります。返済するか、資本に振り替えるか、放棄するかで会社と経営者の課税が変わるため、在庫・売掛金とあわせて方針を検討します。
まとめ
承継前の在庫・売掛金の整理は、実地棚卸と年齢調べ・残高確認で実態をつかみ、回収・処分の可能性を判定して、税務の要件と証拠を確かめてから処理する流れで進めます。評価損や貸倒損失は要件を満たした年度にしか計上できないため、承継の5年ほど前から毎期見直すのが現実的です。判定の理由と証拠を記録に残し、後継者が自分で説明できる状態で引き継ぎましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
