保証債務や担保提供は決算書にほとんど表れないため、財務DDでは借入契約書・登記事項証明書・信用保証書を突き合わせ、「誰が・誰のために・何を差し入れているか」を一覧にして把握します。旧役員の保証や根抵当権、取引先への保証まで拾い、M&Aや事業承継での経営者保証の解除につなげます。
この記事の結論
保証・担保は「代表者が会社のために」「会社が他者のために」「会社の資産が自社の借入のために」の三つの向きに分け、契約書と登記で一覧にすると漏れなく把握できます。
- 決算書や内訳書だけでは足りず、金銭消費貸借契約書・保証契約書・登記事項証明書(共同担保目録付き)で確認する
- 退任した旧役員の保証、完済後も残る根抵当権、取引先への根保証、リースの連帯保証が見落としやすい
- 担保余力は「担保評価額−先順位で押さえられている額」で考え、他行から見ると根抵当権は極度額で枠が埋まる
- 経営者保証は、経営者保証に関するガイドラインや保証協会の事業者選択型経営者保証非提供制度を踏まえて解除を交渉する
- M&Aでは、保証の解除の方法と期限を最終契約に書き込む
保証債務・担保提供とは?「三つの向き」に分けて考える
保証債務とは、他人の借入などが返済されないときに代わりに返済する責任のことです。担保提供は、借入の返済を確保するために不動産や預金などを差し入れることをいい、他人の借入のために自分の財産を差し入れる場合を物上保証と呼びます。
財務DD(財務デューデリジェンス=買収や承継の前に財務内容を調べる手続き)では、保証・担保を次の三つの向きに分けて整理すると、論点の取りこぼしを防げます。
| 向き | 典型的な例 | 財務DDでの論点 |
|---|---|---|
| 代表者・役員・親族から会社の借入へ | 代表者の連帯保証(経営者保証)、代表者の自宅への抵当権(物上保証) | 経営者が交代するときの解除・差替え。売り手のオーナーにとって大きな関心事 |
| 対象会社から他者の債務へ | グループ会社や取引先の借入の保証、代表者個人の借入の保証 | 帳簿に表れない負債(偶発債務)。買い手が引き継ぐリスク |
| 対象会社の資産から自社の借入へ | 本社・工場への抵当権・根抵当権、在庫や売掛金を担保にした融資 | 資産を自由に売却できない制約と、担保余力 |
連帯保証は「会社が返済できなくなったら保証人が代わりに返済する」という条件付きの責任のため、通常は帳簿に金額が表れません。中小企業の決算書には保証債務や担保に入っている資産の注記が書かれていないこともあり、契約書と登記を確認しなければ実態は分かりません。調査全体の流れは財務DDの進め方と調査項目で整理しています。
何の資料で確認する?資料と入手先の一覧
保証・担保の情報は一つの資料にまとまっていません。次の資料を突き合わせ、契約ごとの内容を一覧表に落とし込みます。
| 資料 | 確認できる内容 | 入手先 |
|---|---|---|
| 借入金及び支払利子の内訳書(法人税申告書の添付書類) | 借入先、期末の残高、利率、担保の内容 | 対象会社(申告書の控え) |
| 金銭消費貸借契約書・保証契約書 | 連帯保証人の氏名、保証の範囲(元本のみか、利息・損害金も含むか)、株主や代表者が変わるときの届出・承諾の条項 | 対象会社、金融機関 |
| 不動産の登記事項証明書(共同担保目録付き) | 抵当権・根抵当権の設定状況と順位、債権額・極度額、同じ借入の担保に入っている他の不動産 | 法務局 |
| 信用保証協会の信用保証書・保証料の明細 | 公的な保証制度を使った融資の内容、保証料の額と負担者 | 対象会社 |
| 金融機関の残高証明書 | 基準日時点の借入残高。契約の一覧と突き合わせて漏れを確認する | 金融機関 |
| リース契約書・割賦契約書 | 連帯保証人、残りのリース料、途中で解約するときの条件 | 対象会社、リース会社 |
| 取引基本契約書・保証書 | 仕入先などとの継続的な取引に伴う保証(根保証) | 対象会社 |
| 取締役会議事録・株主総会議事録 | 保証・担保提供を決めた経緯と承認の記録 | 対象会社 |
共同担保目録で関連する担保をたどる
登記事項証明書を「共同担保目録付き」で取得すると、同じ借入の担保に入っている他の不動産が一覧で分かります。会社の土地から調べ始めて、代表者個人の自宅や親族の土地まで担保に入っていると分かることもあります。在庫や売掛金を担保にしている場合は、動産譲渡登記・債権譲渡登記の有無も法務局の証明書で確認します。
把握の手順は?一覧表を作るまでの5ステップ
- 借入契約ごとに一覧にする取引しているすべての金融機関について、借入契約ごとに残高・最終返済日・連帯保証人・担保を1行ずつ並べます。内訳書と残高証明書の金額が一致するかも確かめます。
- 会社の不動産の登記を確認する会社が所有する不動産の登記事項証明書を取得し、抵当権・根抵当権の順位、債権額・極度額、権利者を確認します。
- 代表者・親族の財産の担保提供を確認する共同担保目録や契約書から、代表者個人や親族の不動産・預金が会社の借入の担保に入っていないかを確認します。
- 保証協会付き融資の条件を確認する信用保証協会の保証付き融資について、保証の範囲、保証料、求償権(保証協会が会社に代わって返済したあと、会社や保証人に請求する権利)の扱いを確認します。
- 会社が他者のために負う保証を確認するグループ会社・関係会社・取引先・代表者個人の債務について、対象会社が保証人や担保提供者になっていないかを、契約書・議事録・聞き取りで確認します。
一覧表には次の項目を入れておくと、金融機関との交渉や最終契約の作成にそのまま使えます。
- 借入先・契約日・当初の借入額・現在の残高・最終返済日
- 連帯保証人の氏名と保証の範囲、保証人が現役の役員かどうか
- 担保の物件・所有者・順位、抵当権か根抵当権か、債権額または極度額
- 信用保証協会の保証の有無と、保証料の額・支払方法
- 株主や代表者が変わるときに、金融機関への届出や承諾が必要か
見落としやすいのはどこ?よくある失敗と防ぎ方
保証・担保の把握で漏れが出やすいのは、過去の経緯で残っているものや、借入以外の契約に紛れているものです。次の表で一つずつ潰していきます。
| 見落とし・失敗 | 起きる理由 | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 退任した旧役員の連帯保証が残っている | 保証契約は保証人と金融機関との契約のため、役員を退任しても自動的には外れない | 借入契約ごとに保証人を確認し、退任者の保証は早めに解除を申し入れる |
| 完済した借入の根抵当権が残っている | 根抵当権は、元本が確定するまでは借入がゼロになっても消えない | 登記で極度額と設定の経緯を確認し、不要なものは抹消の手続きを金融機関と相談する |
| 取引先への根保証が個別の契約に紛れている | 仕入先との取引基本契約の中に、保証の条項が入っていることがある | 主要な仕入先との契約書を読み、保証の条項を抜き出す |
| リースの連帯保証と残りのリース料を見落とす | リース料を賃借料として処理している会社では、残りのリース料が負債に載らない | リース契約の一覧を作り、未経過のリース料と保証人を確認する |
| 保証料・手数料の把握漏れ | 保証協会の保証料は、利息とは別にかかる | 保証料の支払状況と、前払分の会計処理を確認する |
| 本人への確認を省略する | 書類に表れない口頭の約束や覚書がある | 代表者・旧役員など保証人本人に直接確認する |
根抵当権の極度額とは、その根抵当権で担保される上限額のことです。実際の借入残高より大きく設定されていることが多く、残高だけを見ていると担保の重さを見誤ります。抵当権との違いは根抵当権と担保設定の基本で詳しく説明しています。
個人の根保証には極度額の定めが要る
継続的な取引から生じる債務をまとめて保証する根保証契約は、個人が保証人になる場合、現在の民法では極度額(保証する上限額)を定めなければ効力を生じません。代表者が仕入先などに根保証をしている場合は、極度額の定めと保証の期間を確認します。民法改正の前に結んだ契約は扱いが異なる場合があるため、契約日もあわせて確かめます。
担保に入っている資産はどう見る?担保余力の考え方
担保に入っている資産は、売却するときに抵当権者の同意や抹消の手続きが必要になり、会社が自由に処分できません。遊休不動産を売って借入を返す計画がある場合も、担保の付き方によって進め方が変わります。
担保余力とは、担保の評価額から、先の順位の抵当権などで押さえられている金額を差し引いた残りのことです。他の金融機関から見ると、先順位の根抵当権は借入残高ではなく極度額いっぱいまで使われる前提で考えるため、同じ不動産でも担保の種類によって余力が大きく変わります。
計算例:根抵当権の極度額で担保余力が変わる
例えば、時価6,000万円の土地に、A銀行の1番根抵当権(極度額5,000万円、借入残高3,000万円)が設定されている場合で考えます。金融機関が時価に掛け目を仮に70%かけて担保評価すると、担保評価額は6,000万円×70%=4,200万円です。
- A銀行から見た担保余力:4,200万円−3,000万円=1,200万円
- 他の金融機関が2番抵当権で融資を検討する場合:先順位の極度額5,000万円を差し引くため、4,200万円から5,000万円を引くと800万円のマイナスで、担保余力はないと判断される
金額や掛け目は説明のための仮の数字です。実際の担保評価の方法は金融機関ごとに異なります。
担保に入っている不動産の時価は、設定したときから大きく変わっていることがあります。担保余力を把握しておくと、追加融資や資産の売却、M&A後の借り換えの判断がしやすくなります。在庫や売掛金を担保にする融資の仕組みは、ABL(動産・債権担保融資)で運転資金を確保する方法で解説しています。
2026年5月25日には、事業全体を担保にする企業価値担保権の制度も施行されました。不動産や個人保証以外の担保が設定されていないかも、契約書と登記で確認しておきます。
経営者保証は外せる?M&A・事業承継での解除の進め方
M&Aや事業承継で経営者が交代するとき、大きな論点になるのが代表者の連帯保証(経営者保証)です。売り手のオーナーは、株式を手放した後も保証が残ると、経営に関われないまま返済の責任だけを負うことになります。
| 枠組み | 内容 | ポイント |
|---|---|---|
| 経営者保証に関するガイドライン | 法人と経営者の資産・経理の分離、財務基盤の強化、適時適切な情報開示がそろえば、保証を求めない融資や既存の保証の解除を検討するよう示した指針 | 決算書の信頼性と、会社と個人のお金の区別が出発点 |
| 事業承継時に焦点を当てた特則(同ガイドラインの特則) | 前経営者と後継者の双方から保証を取る「二重徴求」は原則として行わないとする | 後継者の負担を軽くするよう金融機関と話す根拠になる |
| 事業者選択型経営者保証非提供制度 | 信用保証協会の保証付き融資で、一定の要件を満たしたうえで保証料を上乗せ(0.25%または0.45%)すると、経営者保証を提供しないことを選べる | 2024年3月15日に始まった制度 |
株式譲渡で保証を整理する4つの方法
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 買い手側の保証への差し替え | 金融機関の同意を得て売り手の保証を外し、買い手側の代表者などの保証に切り替える | 金融機関の審査が要るため、クロージング日から逆算して早めに相談する |
| 買い手側の資金での借り換え | 買い手が用意した資金で既存の借入を返済し、保証・担保をまとめて外す | 繰上返済の手数料、根抵当権の抹消、保証協会の保証料の扱いを確認する |
| 保証のない形への切り替え | ガイドラインの要件や保証協会の制度を使い、経営者保証のない融資に変える | 財務内容と情報開示の体制が問われる |
| クロージング後の解除を契約で約束する | 最終契約で、買い手が解除に努める義務、期限、解除できない場合の補償を定める | 期限と補償の範囲をあいまいにしない |
同じ連帯保証人が複数の借入に重複して名前を連ねている場合は、借入ごとに保証の内容と残高を一覧にし、解除を申し入れる順番を決めます。金額の大きい借入や、返済が進んで残高が少なくなった借入から着手すると、交渉の成果を得やすい傾向があります。
解除の交渉は、業績や財務内容によって進めやすさが変わります。決算書と保証・担保の一覧を整理したうえで、税理士と一緒に金融機関へ相談する進め方が現実的です。
北海道・札幌市の制度融資で借り換える場合
北海道中小企業総合振興資金には、経営者保証を提供しない融資を後押しする「一般貸付(2)経営者保証非提供促進型」(限度8,000万円、固定2.4〜3.0%、2026年10月1日現在)や、経営者の個人保証が不要な「創業貸付【スタートアップ】」があります。
札幌市の融資制度(マル札資金・特別資金)は、2026年10月1日以降に実行される分から利率が0.3%引き上げられています。借り換えで保証を見直す場合は、最新の要綱と利率を窓口で確認してください。
制度融資の選び方や金融機関との話し方は、融資・資金調達ガイドにまとめています。
保証の解除は、決算の内容と金融機関ごとの条件で進め方が変わります。初回無料で、保証・担保の一覧づくりから相談できます。
無料で相談するよくある質問
保証人として会社の借入を肩代わりしたら、税金はどうなりますか?
返済を肩代わりすること自体に税金はかかりませんが、資金をつくるために個人の土地などを売った場合は譲渡所得の申告が必要です。会社が返済できない状態で保証債務を履行し、会社への求償権(立て替えた分を請求する権利)が回収できなくなった場合は、回収できない部分の譲渡所得がなかったものとみなす特例があり、確定申告で適用を受けます。
会社が代表者個人の借入を保証している場合、何が問題になりますか?
会社が取締役の債務を保証することは、会社と取締役の利益が相反する取引にあたり、取締役会(取締役会がない会社は株主総会)の承認が必要です。承認の記録がない場合や、代表者の返済が滞っている場合は、買収後に会社が肩代わりするおそれがあるため、クロージング前の解除を前提に交渉します。
保証協会付きの融資を繰上返済すると、保証料は戻りますか?
保証料は融資の実行時にまとめて支払うことが多く、期限前に完済すると、残りの期間に応じて一部が戻る場合があります。戻る額は保証協会の取扱いによるため、M&Aで借り換える前に確認します。会計上は、支払った保証料のうち未経過の期間に対応する部分を前払費用(1年を超える部分は長期前払費用)として処理します。
DDで見つかった保証は、譲渡価格に影響しますか?
対象会社が他者のために負っている保証で、履行を求められる可能性が高いものは、実態の純資産から差し引く、価格を調整する、個別に補償を定めるといった形で価格や契約条件に反映します。会計上は、履行の可能性が高く金額を見積もれる場合に債務保証損失引当金を計上しますが、税務上は引当金の段階では損金になりません。
まとめ
保証債務・担保提供は決算書にほとんど表れないため、三つの向きに分けて、借入契約書・登記事項証明書・信用保証書などを突き合わせて一覧にすることが出発点です。旧役員の保証、根抵当権、取引先への根保証、リースの連帯保証は特に見落としやすい項目です。経営者保証の解除は、ガイドラインや保証協会の制度を踏まえ、M&Aでは方法と期限を最終契約に書き込んで進めます。
札幌の公認会計士・税理士事務所
保証・担保の整理と経営者保証のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
