経営改善計画書は、リスケ(返済条件の変更)や追加融資の相談で、会社をどう立て直し、借入をどう返すかを数字で示す計画書です。作り方の要は、現状分析・改善策・数値計画・返済計画を一本の筋でつなぎ、金融機関が支援を判断する「実抜計画(実現可能性の高い抜本的な計画)」の水準に仕上げることです。
この記事の結論
金融機関が見ているのは「頑張ります」という意欲ではなく、改善策と数字が結びついた根拠のある計画です。実現可能性と抜本性を満たす実抜計画を目指し、作った後のモニタリングまで含めて設計します。
- 計画書の柱は現状分析・改善の方向性・数値計画・返済計画・アクションプランの5つ
- 実抜計画の「実現可能性」は関係者の同意・追加支援が不要・十分に厳しい想定、「抜本性」は一定期間後に正常先へ戻ること
- 返済額は「税引後利益+減価償却費」という返済原資から逆算する
- 役員報酬の減額や債務免除益など、税務の論点も計画段階で織り込む
- 認定支援機関が関わると客観性が高まり、専門家費用の補助(経営改善計画策定支援事業)も検討できる
経営改善計画書とは?必要になるのはどんな場面?
経営改善計画書とは、業績が悪化した原因を分析し、どの施策で収益を回復させ、借入をどのように返済していくかを具体的な数値で示す計画書です。業績が伸び悩み、返済が重くなってきたときの再生の出発点になります。
求められるのは、主に金融機関との交渉の場面です。金融機関は、場面ごとに次のような点を確かめようとします。
| 場面 | 金融機関が知りたいこと | 計画書で示すこと |
|---|---|---|
| 返済条件の変更(リスケ)を依頼する | 猶予した後に返済を再開できるか | 改善策の効果と、返済原資の回復の見通し |
| 新たな融資を相談する | 資金の使い道が改善につながるか | 資金の使途と、それによる利益・資金繰りの変化 |
| 既存の借入の継続を相談する | 業況の悪化が一時的か、構造的か | 悪化の原因と、それを取り除く施策 |
| リスケの期間を更新する | 計画どおりに進んでいるか | 計画と実績の差と、その原因・修正策 |
計画書づくりは、追い込まれてから慌てて行うより、早い段階で着手するほど現実的で実行可能な内容に仕上がります。資金が尽きる直前では、改善策の効果が出るまでの時間を確保できないためです。
実抜計画とは?「実現可能性」と「抜本性」の中身
実抜計画とは「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」の略で、金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」に示された考え方です。金融機関が返済条件を緩めた後も支援を続けられるかどうかの判断に使われます。
金融機関は融資先を、返済能力に応じて正常先・要注意先・破綻懸念先などの「債務者区分」に分けて管理しています。返済条件を緩めた融資は原則として不良債権(貸出条件緩和債権)として扱われますが、実抜計画に沿って再建が進んでいる場合はこれに当たらないとされます。計画の質が、金融機関が支援を続けられるかを左右するのはこのためです。
| 要件 | 意味 | 計画書で示すこと |
|---|---|---|
| 実現可能性:関係者の同意 | 計画の実行に必要な関係者の同意が得られている | 取引金融機関への説明と合意の状況 |
| 実現可能性:追加支援が不要 | 計画に盛り込んだ金融支援(債権放棄や返済猶予など)の内容が確定し、それを超える追加の支援が必要と見込まれない | 計画期間を通じて資金繰りが回ること |
| 実現可能性:十分に厳しい想定 | 売上・費用・利益の予測が楽観的でない | 過去の実績と施策の根拠に基づく売上予測 |
| 抜本性 | 一定期間の後に、債務者区分が正常先に戻る | 計画最終年度の利益水準、債務超過の解消、返済能力の回復 |
なお中小企業については、「合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画(合実計画)」が策定されていれば、実抜計画とみなしてよいとされています。いずれにしても、問われるのは計画の前提が現実的で、問題の根本に踏み込んでいるかどうかです。
売上のV字回復を前提にした計画は逆効果
希望的観測で売上の急回復を見込む計画は、かえって信頼を損ないます。売上は過去の実績から堅めに置き、改善の柱は自社で決められる原価・固定費・不採算事業の見直しに置くほうが、実現可能性の説明がしやすくなります。
何を書く?計画書の構成要素と根拠になる資料
経営改善計画書に決まった唯一の様式はありませんが、金融機関に納得してもらうために盛り込む要素はおおむね共通しています。現状分析から改善策、数値計画までを一貫したストーリーとして示すことが大切です。
| 構成要素 | 記載する内容 | 根拠になる資料 |
|---|---|---|
| 現状分析 | 業績悪化の原因、財務状況、事業の強み・弱み | 直近数期分の決算書、月次試算表、部門別・取引先別の売上と粗利 |
| 改善の方向性 | 売上回復策、コスト削減策、不採算事業の見直し | 商品・取引先ごとの採算表、固定費の内訳 |
| 数値計画 | 損益計画・資金繰り計画(複数年の見通し) | 改善策ごとの効果の試算、資金繰り表 |
| 返済計画 | 借入の返済スケジュールと返済原資の裏付け | 借入一覧(金融機関・残高・金利・返済額・保証) |
| アクションプラン | 誰がいつまでに何をするかの具体的な実行策 | 担当者・期限・確認する数字の一覧 |
最も重要なのは、改善策と数値計画が結びついていることです。「売上を伸ばす」と書くだけでは不十分で、どの施策でどれだけ売上や粗利が変わり、それが損益と資金繰りにどう反映されるのかを筋道立てて示します。例えば、不採算部門の縮小で固定費を下げ、主力事業に人と資金を集中する、といった道筋を数字とともに描くことが説得力につながります。
作り方の手順:現状分析から金融機関への説明まで
計画書は、次の順番で作ると手戻りが少なくなります。数字の前に原因、原因の前に事実、という順番を守るのがコツです。
- 実態の把握決算書の数字を実態に引き直した「実態貸借対照表」を作ります。回収できない売掛金、売れない在庫、含み損のある資産、役員への貸付金などを調整し、実質的な債務超過の有無と大きさをつかみます。
- 原因の分析部門別・商品別・取引先別に粗利を分け、どこで利益が失われているかを特定します。売上の減少なのか、原価の上昇なのか、固定費の増加なのかを切り分けます。
- 改善策の決定原因ごとに打ち手を決め、担当者と期限を置いたアクションプランにします。経営者の役員報酬や私的な支出の見直しも、ここで検討します。
- 数値計画の作成改善策の効果を損益計画に落とし込み、資金繰り計画と返済計画につなげます。毎月の資金残高がマイナスにならないことを確かめます。
- 金融機関との調整取引金融機関が複数ある場合は、全行に同じ計画を説明する会議(バンクミーティング)を開くことがあります。返済額は借入残高の割合で按分する方法(残高プロラタ)がよく使われます。
- モニタリング計画と実績を定期的に比べて金融機関に報告し、ずれが出たら原因と修正策を示します。計画は作って終わりではありません。
数値計画はどう作る?返済原資と債務償還年数の考え方
数値計画の中心は「返済原資」です。返済原資とは借入の返済に充てられるお金のことで、簡易的には税引後利益に減価償却費(現金の支出を伴わない費用)を足して求めます。返済計画は、この返済原資の範囲に収まるように組み立てます。
計算例:返済原資と債務償還年数
例えば、税引後利益が年300万円、減価償却費が年200万円の会社の場合、返済原資は 300万円+200万円=500万円 です。約定どおりの返済が年800万円なら、毎年 800万円−500万円=300万円 が不足します。この場合は、返済額を返済原資の範囲に抑えるリスケを依頼しつつ、利益を増やす改善策を数値計画に織り込みます。
同じ会社の有利子負債が6,500万円、現預金が500万円なら、正味の借入は 6,500万円−500万円=6,000万円 です。これを返済原資で割った 6,000万円÷500万円=12年 が、借入を返し終えるまでの年数の目安(債務償還年数)になります。
金融機関は、債務償還年数のほか、実質的な債務超過がいつ解消するか、経常利益がいつ黒字に戻るかといった指標で計画を評価します。小さな改善の積み重ねも数字に表れます。例えば月1万円の改善も、年間では12万円の差になります。
資金繰り計画は月次で作り、法人税や消費税の中間納付、賞与、社会保険料の支払いも漏れなく入れます。資金繰り表の作り方と毎月の運用は資金繰り表の作り方と毎月の運用ルーティンで解説しています。
北海道の会社は季節変動を月次計画に反映する
冬季に暖房費や除雪費がかさむ、工事や観光の売上が季節で大きく動くなど、道内の会社は月ごとの資金の山と谷が大きくなりがちです。年間の平均で計画を作ると、谷の月に資金が足りなくなることがあるため、月別の資金繰り計画で確かめます。
計画に新規の借入や借換えを織り込む場合は、利率の変化にも注意します。札幌市の融資制度(マル札資金・特別資金)は、2026年10月1日以降に実行される分から利率が0.3%上乗せされています。
改善策に織り込みたい税務の論点は?
改善策の中には、税金の扱いを確認しておかないと、計画どおりの効果が出ないものがあります。計画段階で確認したい主な論点は次のとおりです。
| 改善策 | 税務の論点 | 計画段階での確認 |
|---|---|---|
| 役員報酬の減額 | 定期同額給与は原則として期首から3か月以内の改定に限られる。ただし経営状況の著しい悪化による期中の減額は「業績悪化改定事由」に当たる場合がある | 減額の理由と時期を、金融機関との協議や計画の内容と合わせて記録に残す |
| 金融機関による債権放棄 | 免除された額は債務免除益として課税所得になる | 繰越欠損金で吸収できるかを試算する(中小法人等は所得の全額まで控除でき、繰越期間は10年) |
| 遊休資産の売却 | 売却損益が出るほか、不動産なら固定資産税の負担も変わる | 売却の時期と、売却益が出る場合の納税資金 |
| 在庫・不良債権の整理 | 評価損や貸倒損失は、税務上の要件を満たす場合に損金になる | 処分・回収の証拠と、損金にできる時期 |
とくに役員報酬は、期中に減額しても損金の扱いが崩れないかを確かめずに実行すると、改善のつもりが税負担の増加につながることがあります。減額の理由が計画書と整合しているかを、実行前に確認しましょう。
計画書が金融機関に評価されない典型例は?
| よくある失敗 | なぜ評価されないか | 直し方 |
|---|---|---|
| 売上だけが大きく伸びる計画 | 根拠がなく、想定が厳しくない | 売上は堅めに置き、施策ごとの効果を分けて示す |
| 改善策と数字がつながっていない | どの施策で利益が戻るのか説明できない | 施策ごとに売上・原価・固定費への影響額を置く |
| 損益計画だけで資金繰り計画がない | 返済できるかどうかが分からない | 月次の資金繰り計画と返済計画をセットにする |
| 経営者の報酬や私的な支出に触れていない | 経営者の本気度が伝わらない | 役員報酬・交際費などの見直しを計画に盛り込む |
| 金融機関ごとに説明がばらばら | 一部の金融機関だけが有利になると疑われる | 全行に同じ計画を示し、返済額の配分ルールを明確にする |
| 提出後に実績を報告しない | 計画が実行されているか判断できない | 定期的に計画と実績の比較を報告する |
金融機関から見て信頼できる決算書と月次の数字があることも前提になります。決算書の見え方を整える考え方は銀行融資を有利に進める決算書の作り方と格付け対策で整理しています。
認定支援機関と進めると何が変わる?費用の補助と専門家の選び方
認定支援機関(認定経営革新等支援機関)とは、中小企業等経営強化法に基づいて国の認定を受けた支援者で、税理士・公認会計士・弁護士・金融機関などが認定を受けています。第三者の専門家が計画の策定に関わることで、前提の置き方や数字の整合性に客観性が加わり、金融機関の評価も得やすくなります。
金融機関との調整を伴う計画を認定支援機関の支援を受けて作る場合、専門家に支払う計画策定やモニタリングの費用の一部を国が負担する「経営改善計画策定支援事業」を利用できることがあります。申請の窓口は各都道府県の中小企業活性化協議会です。使い方と補助の内容は経営改善計画策定支援事業の使い方と専門家費用の補助で解説しています。
専門家を選ぶときは、次の点を確認しておくと、計画の質とその後の伴走の差が見えてきます。
- 実態貸借対照表や部門別の採算分析まで踏み込んで現状を分析してくれるか
- 損益計画だけでなく、月次の資金繰り計画と返済計画まで作れるか
- 役員報酬・債務免除益などの税務の影響を、計画段階で試算できるか
- 金融機関への説明や、計画策定後のモニタリングまで対応できるか
- 認定支援機関に当たるか(中小企業庁の認定支援機関検索システムで確認できる)
当事務所は、公認会計士・税理士として、現状分析から数値計画の策定、金融機関への説明資料づくり、その後のモニタリングまでを一貫して支援しています。財務面の支援の全体像は中小企業の財務コンサルティングの進め方でご覧いただけます。
どこまで踏み込んだ計画が必要かは、借入の状況と金融機関との関係で変わります。初回無料で現状の整理からお手伝いします。
無料で相談するよくある質問
経営改善計画書は、自社だけで作っても受け付けてもらえますか?
自社で作ること自体は可能で、経営者の言葉で書かれた計画は熱意も伝わります。ただ、実態貸借対照表の作成や資金繰り計画との整合、税務の影響の試算には専門的な作業が多く、金融機関から専門家の関与を勧められることもあります。原案を自社で作り、数字の検証を専門家に依頼する分担も選べます。
事業計画書(創業や融資の申込み用)と経営改善計画書は何が違いますか?
事業計画書が「これから何をして伸ばすか」を示すのに対し、経営改善計画書は「なぜ悪化したか、何を変えて立て直し、どう返すか」を示します。悪化の原因分析と返済計画が中心になる点が大きな違いです。
リスケ中でも新しい融資は受けられますか?
一般には難しくなりますが、計画どおりに改善が進み、新たな資金の使い道と返済の見通しを具体的に説明できれば、相談の余地はあります。まずはモニタリングで計画と実績の比較を積み重ね、金融機関の信頼を回復することが先決です。
計画どおりに進まなかったら、どうすればよいですか?
ずれが分かった時点で早めに金融機関へ報告し、原因と修正策を示します。悪い情報ほど早く共有するほうが、計画の見直しに応じてもらいやすくなります。前提が大きく変わった場合は、数値計画そのものを作り直します。
まとめ
経営改善計画書は、再生に向けた道筋を金融機関と共有するための土台です。現状分析・改善策・数値計画・返済計画を一貫したストーリーで示し、実現可能性と抜本性を満たす実抜計画を目指しましょう。返済原資からの逆算と月次の資金繰り計画、役員報酬などの税務の論点まで計画段階で詰めておくと、提出後のモニタリングで計画の信頼性を保ちやすくなります。
札幌の公認会計士・税理士事務所
経営改善計画・金融機関対応のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
