創業融資の自己資金は、開業資金の総額に対する割合で考えます。日本政策金融公庫のFAQでは、自己資金は融資判断の重要な要素とされ、平均2割程度と紹介されています。ただし審査では金額と同じくらい、通帳の履歴から「どう貯めたか」「出どころはどこか」が確認されます。
この記事の結論
自己資金は開業資金総額の2割程度が一つの目安です。金額に加えて、本人名義の口座に少しずつ貯めてきた履歴と、お金の出どころを説明できるかが評価を左右します。
- 公庫のFAQでは、自己資金は融資判断の重要な要素で、平均2割程度とされている
- 認められやすいのは、積立の履歴がある預金や、書類で出どころを示せる退職金・贈与
- 申込み直前の一時的な入金(見せ金)や、返済義務のある借入金は自己資金とみなされにくい
- 補助金は後払いのため、自己資金の代わりにはならない
- 足りないときは、開業時期・初期投資の規模・調達の組み合わせを見直す
自己資金はいくら必要?開業資金総額の2割程度が目安
自己資金の額に一律の正解はありません。実務では、まず開業に必要な資金の総額を出し、そのうち何割を自分で用意できるかで考えます。日本政策金融公庫(以下、公庫)のFAQでは、自己資金は融資を判断するうえで重要な要素とされ、平均2割程度という水準が紹介されています(2026年10月3日閲覧)。
総額が大きい計画ほど、それに見合う自己資金が求められやすくなります。自己資金がごくわずかだと計画全体が借入頼みに見え、審査では慎重に見られがちです。反対に、総額に対してまとまった自己資金があれば、計画の実現性が高いと評価されやすくなります。
計算例:開業資金の総額が600万円の場合
例えば開業資金の総額が600万円で、その2割を自己資金で用意する場合、600万円×20%=120万円が自己資金、600万円−120万円=480万円が融資で賄う額になります。
自己資金の割合を変えると、借入額と毎月の元金返済は次のように変わります(返済期間5年・60回で元金を均等に返す場合。利息は含みません)。
- 自己資金60万円(1割):借入540万円、毎月の元金は540万円÷60=9万円
- 自己資金120万円(2割):借入480万円、毎月の元金は480万円÷60=8万円
- 自己資金180万円(3割):借入420万円、毎月の元金は420万円÷60=7万円
自己資金が厚いほど毎月の返済が軽くなり、売上が計画を下回ったときの余裕も生まれます。
審査で自己資金が重視される2つの理由
一つ目は、事業への本気度と計画性です。これから始める事業には実績がありません。開業に向けて少しずつ資金を準備してきた事実は、計画的に物事を進められる人だという信頼につながります。
二つ目は、返済の余力です。開業直後は売上が安定しないことが多く、手元資金を取り崩しながら事業を回す場面が出てきます。貸す側から見れば、自己資金は売上が想定どおりに伸びなかったときの緩衝材でもあります。
公庫の創業融資で自己資金はどう扱われる?制度の概要と計画書の書き方
創業時の融資の中心になるのは、公庫の「新規開業・スタートアップ支援資金」です。公式サイトに掲載されている主な条件は次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 新たに事業を始める方、または事業開始後おおむね7年以内の方 |
| 融資限度額 | 7,200万円 |
| 返済期間 | 設備資金20年以内、運転資金10年以内(うち据置期間5年以内) |
| 担保・保証人 | 税務申告を2期終えていない方は、原則として無担保・無保証人 |
| 利率 | 創業の場合の引下げ措置あり(0.65%、雇用の拡大を伴う場合は0.9%の引下げ。適用条件は公式サイトで確認) |
| 自己資金 | FAQで融資判断の重要な要素とされ、平均2割程度と紹介 |
公庫の創業計画書では、「必要な資金」(設備資金・運転資金)と「調達の方法」(自己資金、親・兄弟・知人などからの借入、公庫からの借入、他の金融機関からの借入)を並べて書き、両方の合計を一致させます。自己資金の欄に書いた金額は、面談で通帳などの裏付けを確認されると考えておきましょう。
設備資金と運転資金を分けて見積もる
設備資金は見積書で根拠を示しやすい一方、運転資金は仕入・人件費・家賃などを何か月分見込むかで金額が大きく変わります。根拠なく運転資金をふくらませると総額が増え、自己資金の割合が低く見えてしまいます。必要な資金は、見積書や家賃の契約条件など、説明できる数字で積み上げるのが基本です。
申込みから面談までの流れや、面談で聞かれやすい質問は日本政策金融公庫の創業融資の流れと面談対策で詳しくまとめています。
自己資金として認められやすいお金・認められにくいお金
自己資金は「事業のために用意した、返済しなくてよいお金」と考えると整理しやすくなります。同じ金額でも、名義と出どころ、裏付けの書類があるかどうかで評価が変わります。
| お金の種類 | 扱いの目安 | 用意したい裏付け |
|---|---|---|
| 本人名義の預金(給与などから積み立てたもの) | 認められやすい | 積立の経過が分かる通帳・入出金明細 |
| 退職金 | 出どころを示せれば認められやすい | 退職金の振込記録、退職所得の源泉徴収票 |
| 親などからの贈与 | 返済不要であることを示せれば自己資金として説明できる | 贈与契約書、振込の記録 |
| 開業準備ですでに支払った費用(物件の保証金、設備の代金など) | 事業のための支出と示せれば、自己資金として説明できる場合がある | 契約書・領収書・振込の記録 |
| 株式・投資信託など | 換金して口座に入れておくと説明しやすい | 取引報告書、売却後の入金記録 |
| 親族・知人からの借入 | 返済義務があるため、自己資金ではなく借入として扱われる | 金銭消費貸借契約書と返済の計画 |
| 自宅で保管していた現金 | 出どころを示しにくく、評価されにくい | 早めに口座へ預け、以後の履歴を残す |
| 申込み直前の一時的な入金(見せ金) | 出どころを説明できず、自己資金とは認められにくい | (そもそも用意しない) |
判断の軸は「本人が自由に使えて、返さなくてよく、出どころを書類で示せるか」の三つです。開業準備で使った費用は、預金残高からは消えていても、契約書や領収書で事業のための支出だと示せれば、自己資金を投じた実績として説明できます。準備段階の支払いは、事業用と分かる形で記録を残しておきましょう。
見せ金はなぜ分かる?通帳で確認されるポイント
審査の直前に親族などから一時的にお金を借りて口座残高を膨らませても、通帳の動きを見れば把握されるのが一般的です。タイミングよく大きな入金があると、その出どころを確認されます。説明できなければ自己資金とは認められにくく、計画全体の信頼性まで下がりかねません。
評価されやすいのは、毎月の給与から一定額を積み立ててきた預金のように、準備の過程が通帳から読み取れる資金です。金額がやや少なくても、続けて貯めてきた履歴は計画性の裏付けになります。面談の前に、次の書類をそろえておくと説明がスムーズです。
- 自己資金を貯めてきた口座の通帳(ネット銀行は入出金明細)
- まとまった入金がある場合は、その理由を示す書類(贈与契約書、退職金の明細、保険の解約返戻金の通知など)
- 複数の口座から資金を移した場合は、移す前の口座の通帳や明細
- 給与明細や源泉徴収票(積立の原資が給与であることの裏付け)
- 開業準備ですでに支払った費用の契約書・領収書
長く記帳していない通帳は「合算記帳」に注意
長期間記帳していない通帳は、未記帳の取引がまとめて「合算」で印字され、個々の入出金が分からなくなることがあります。積立の経過を示せないと説明に手間取るため、こまめに記帳するか、銀行で取引明細を取り寄せておきましょう。
親からの資金援助は「贈与」か「借入」かで扱いが変わる
親から開業資金の援助を受ける場合は、もらうのか(贈与)、借りるのか(借入)をはっきりさせることが出発点です。融資の審査での見え方だけでなく、税金の扱いも変わります。
贈与として受け取る場合
- 返済不要なので、自己資金として説明できる
- 1年間(1月1日〜12月31日)の贈与の合計が基礎控除110万円を超えると、受け取った人に贈与税の申告が必要
- 贈与契約書を作り、振込で受け取って記録を残す
借入として受ける場合
- 返済義務があるため、計画書では自己資金と別の「借入」として書く
- 金銭消費貸借契約書を作り、取り決めどおりに返済する
- 親への返済額も含めて、開業後の資金繰りを組み立てる
贈与税の申告・納付は、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までです(2026年中の贈与は2027年2月1日〜3月15日)。60歳以上の父母・祖父母から18歳以上の子・孫への贈与では、特別控除2,500万円の相続時精算課税を選ぶこともできます。ただし一度選ぶと撤回できず、将来の相続税の計算にも影響するため、家族全体の資産の状況を踏まえて決めましょう。
「借りたことにして返さない」は避ける
借入として計画書に書いたのに返済の実態がない場合、税務上は贈与とみなされるおそれがあります。反対に、贈与を受けたのに借入として扱うと、審査では自己資金が少なく見えます。実態に合わせて書類を整えることが、融資と税務の両面で身を守ることにつながります。
自己資金が足りないときはどうする?見直しの5つのポイント
自己資金が思うように貯まっていなくても、計画の組み方で対応できる余地はあります。次の順に見直すと、無理のない資金計画に近づきます。
- 開業時期を見直す開業を少し後ろにずらし、毎月の積立で自己資金を厚くします。準備期間を使って、事業計画の精度も高められます。
- 初期投資を絞る中古設備の活用や段階的な設備投資で、開業時の総額そのものを小さくします。総額が下がれば、同じ自己資金でも割合が上がります。
- 売上と経費の根拠を固める見込み客・単価・客数の根拠を具体的に示すと、自己資金の不足を補う材料になります。
- 公的な制度を組み合わせる公庫に加えて、自治体の制度融資や信用保証協会の創業関連の保証を検討します。地域の制度は次の節で整理します。
- 補助金は「後払い」と理解して計画する補助金は原則として事業を実施した後に精算して支払われるため、採択されてもすぐには入金されません。自己資金の代わりにはならず、立替えの資金を自己資金や融資で用意しておく必要があります。
補助金を受け取ったときの税金
補助金は原則として課税の対象となる収入です。補助金で固定資産を取得した場合は、法人は圧縮記帳、個人は総収入金額不算入の規定を使える場合があります。受け取る年の税額に影響するため、申請の段階で処理の方針を決めておくと安心です。
なお、自己資金をすべて設備や内装に充てると、開業後の運転資金や生活費が不足しがちです。手元に残す資金の考え方は現金は月商の何か月分必要か(手元流動性の考え方)も参考にしてください。
自己資金の示し方や、借入額と返済額のバランスは計画ごとに変わります。創業計画書の組み立てから初回無料で確認できます。
無料で相談する札幌で創業する場合に組み合わせられる支援制度
札幌市内で創業する場合は、公庫の融資に加えて次の制度を組み合わせられます。いずれも2026年10月3日時点の情報です。利率や期限は変わることがあるため、申込みの前に各窓口で条件を確認してください。
| 制度 | 主な内容 |
|---|---|
| 特定創業支援等事業 | 札幌中小企業支援センター・札幌商工会議所で、1か月以上・4回以上、経営・財務・人材育成・販路開拓の4分野の支援を受けると証明書が交付される。会社設立の登録免許税が0.7%から0.35%に(最低額は株式会社15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円。市内での設立のみ)、公庫の利率引下げ、創業関連保証を開業6か月前から利用可、持続化補助金〈創業型〉の要件。証明書の有効期限は2027年3月31日 |
| さっぽろ新規創業促進補助金 | 会社を設立した場合の補助(株式会社75,000円・合同会社30,000円)。設立から90日以内か2027年3月31日の早い日までに申請(募集期間は2026年4月1日〜2027年3月31日) |
| 札幌市の創業・雇用創出支援資金 | 融資限度額5,000万円・利率1.70%以内(2026年4月1日時点の表記)、保証料の1/4以内を補給。2026年10月1日以降に実行される融資は利率が0.3%上乗せ |
| 北海道中小企業総合振興資金(創業貸付) | 創業貸付(1)〜(3)は融資限度額3,500万円・期間1〜10年・固定1.8〜2.4%(2026年10月1日現在)。創業貸付【スタートアップ】は経営者の個人保証が不要 |
| 創業関連保証(北海道信用保証協会) | 保証限度額3,500万円・保証料率0.86% |
| 小規模事業者持続化補助金〈創業型〉 | 第4回の受付は2026年11月5日〜12月15日17時。補助上限200万円(インボイス特例で50万円上乗せ)、補助率2/3。特定創業支援等事業の証明が要件 |
証明書は会社設立・融資申込みの前に
特定創業支援等事業の証明書は、登録免許税の軽減・融資・補助金のすべてに関わります。設立登記の後では登録免許税の軽減を受けられないため、会社の設立や融資の申込みより前に受講を始めておくと効果を生かせます。創業の相談は、さっぽろ創業支援プラザ、商工会議所、北海道よろず支援拠点でも受け付けています。
融資の種類や申込みの順番は融資・資金調達ガイドで整理しています。公庫と制度融資のどちらから進めるかは、開業の時期と必要額によって変わります。
よくある質問
自己資金がゼロでも創業融資は受けられますか?
公庫は自己資金を融資判断の重要な要素としているため、自己資金がまったくない状態では、計画の実現性や返済の余力を示すことが難しくなります。開業時期を遅らせて積み立てる、初期投資を小さくするなど、計画そのものを見直すのが現実的です。
配偶者名義の預金は自己資金に含められますか?
家計を共にする配偶者の預金を、事業に充てる資金として説明できる場合もありますが、扱いは審査する金融機関の判断によります。配偶者が資金を出すことに同意していることと、預金の出どころを説明できるようにしておきましょう。
申込みの前に、複数の口座のお金を1つにまとめてもよいですか?
本人の口座どうしの移動であれば問題ありませんが、移した先の通帳だけを見ると、直前に大きな入金があったように見えます。移す前の口座の通帳や明細もあわせて用意し、資金の流れを説明できるようにしておきましょう。
自己資金はいつの時点の金額で見られますか?
申込みや面談の時点で通帳から確認できる残高と、それまでの積立の経過が見られます。開業準備で先に支払った分は、契約書や領収書で補足できます。支払った後も記録を捨てずに保管しておきましょう。
まとめ
創業融資の自己資金は、開業資金総額の2割程度を一つの目安にしつつ、本人名義の口座で積み立ててきた履歴と、出どころを示す書類で裏付けることが大切です。親からの援助は贈与か借入かを決めて書類を整え、見せ金は避けましょう。足りない場合は、開業時期・初期投資・調達の組み合わせを見直し、補助金は後払いである点を踏まえて資金計画を立てます。
札幌の公認会計士・税理士事務所
創業融資・資金計画のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
- フォーム・LINEは24時間受付、翌営業日までにご返信
- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂
