業務改善助成金の対象設備と申請の順番|後払いの資金繰りと会計処理

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業務改善助成金は、事業場内でいちばん低い時給を引き上げ、あわせて生産性を高める設備投資などを行った中小企業に、その費用の一部を国が助成する制度です。成否を分けるのは「交付決定前に発注しない」「賃上げと設備投資を一つの計画にする」の2点と、入金まで立て替える資金繰りです。

執筆:ジェイスタート会計事務所 編集部(札幌の公認会計士・税理士事務所)2026年10月時点の法令に基づき作成

この記事の結論

業務改善助成金は、賃上げと設備投資を一つの計画にまとめ、交付決定を受けてから発注すれば、設備投資などの費用の一部が後払いで戻る制度です。増えた人件費は毎年続くため、資金繰りと税務処理まで含めて判断します。

  • 令和8年度は50円・70円・90円の3コースで、助成率は3/4(引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5)
  • 交付決定前に発注・契約・購入した設備は、原則として助成の対象外
  • 北海道の令和8年度分は、最低賃金の発効日(2026年10月1日)の前日が期限で、計算上2026年9月30日だった
  • 助成金は後払い。設備代金と引上げ後の人件費は、先に自社で負担する
  • 助成金は課税対象の収入。設備に充てた部分は圧縮記帳を検討できる
目次

業務改善助成金とは?令和8年度の仕組みと要件

業務改善助成金は、事業場内最低賃金(その事業場で働く人のうち、いちばん低い時間給)を一定額以上引き上げ、生産性向上につながる設備投資などを行った中小企業・小規模事業者を支援する、厚生労働省の制度です。助成されるのは設備投資などにかかった費用の一部で、引き上げた人件費そのものが補填されるわけではありません。

助成額は、設備投資などの費用に助成率を掛けた額と、コースごとの助成上限額のうち、低い方になります。上限額は引き上げる労働者の人数などによって変わり、年度ごとに見直されるため、申請前に、申請する年度の交付要綱・申請マニュアル(厚生労働省)で確認してください。

項目令和8年度の内容
対象中小企業・小規模事業者のうち、申請時点の事業場内最低賃金が、改定後の地域別最低賃金を下回る事業場
コース事業場内最低賃金を50円・70円・90円引き上げる3コース
助成率引上げ前の事業場内最低賃金が1,050円未満なら4/5、1,050円以上なら3/4
申請期間2026年9月1日から、「地域別最低賃金の発効日の前日」と「2026年11月30日」のいずれか早い日まで
事業の完了期限交付決定を受けた年度の1月31日まで
助成上限額引き上げる人数やコースなどで異なる(申請する年度の交付要綱で確認)
令和8年度(2026年度)の業務改善助成金の主な内容(2026年10月3日時点)。要件・金額は年度ごとに見直されます。

過去の年度には30円・45円・60円などのコースがありましたが、令和8年度は50円・70円・90円の3コースです。古い年度の資料や解説をもとに計画を立てると、コースの選び方から食い違うため注意してください。

北海道の事業者はいつまでに、どこへ申請する?

北海道の地域別最低賃金は、2026年10月1日から1,131円に引き上げられました。前年は2025年10月4日発効の1,075円で、56円の引上げです。令和8年度の業務改善助成金は申請期限が最低賃金の発効日に連動するため、北海道の申請期限は計算上2026年9月30日でした。

1,131円北海道の最低賃金(2026年10月1日〜)
9月30日令和8年度の北海道の申請期限(計算上)
1月31日事業の完了期限(交付決定を受けた年度)

助成率にも北海道ならではの事情があります。申請期間中に北海道で適用されていた最低賃金は1,075円で、4/5の区分の基準である1,050円を上回っていました。このため4/5の区分に当たる事業場は限られ、3/4の区分を前提に資金計画を立てるのが現実的です。

また、どのコースを選んでも、2026年10月1日以後は改定後の最低賃金1,131円以上を支払う必要があります(最低賃金法)。コースの引上げ額だけで判断せず、引上げ後の時給が改定後の最低賃金を下回らないかを確かめます。最低賃金の改定内容は北海道の最低賃金1,131円と業務改善助成金の期限でも整理しています。

計算例:令和8年度の仕組みに当てはめた場合

例えば、事業場内最低賃金が1,080円の店舗が70円コースを選ぶと、引上げ後は1,080円+70円=1,150円となり、改定後の北海道最低賃金1,131円を上回ります。引上げ前が1,050円以上なので、助成率は3/4です。

助成の対象となる設備費が120万円なら、120万円×3/4=90万円が助成額の目安です(コースの助成上限額の範囲内である前提)。

申請窓口と、期限を過ぎてから検討する場合

申請窓口は北海道労働局です。最低賃金が改定される時期(例年10月ごろ)の前後は検討する事業者が増え、年度によっては予算の関係で受付が早めに締め切られることもあります。

令和8年度の北海道分の期限を過ぎてから検討を始めた場合は、次年度以降の公募内容を確認しながら準備を進めます。要件や期間は年度ごとに見直されるため、見積書の取得、賃金台帳の整理、賃金規程の見直しなど、年度が変わっても生きる準備から始めると無駄がありません。

どんな設備投資が対象になる?申請書で問われる「因果関係」

対象になりやすいのは、「作業時間を減らし、生産性を上げる」という理屈が立つ投資です。申請書では、その設備で何の作業がどれだけ減り、浮いた時間を何に回すのかを、自社の言葉で説明できるかが問われます。

業種設備投資の例減らせる作業(説明の軸)
飲食店食器洗浄機、券売機洗い物の手作業、注文受けと会計の手間
小売店POSレジ、自動釣銭機レジ締め、釣銭の計数、売上の集計
業種共通(事務)受発注ソフト、経理ソフト伝票の転記、集計、請求書の作成
設備投資と「減らせる作業」の対応例。対象になるかどうかは、その年度の交付要綱と労働局への確認で判断します。

逆に、古くなった機器の単純な買い替えや、用途のあいまいなパソコンの購入だけでは、生産性向上の説明が弱くなりがちです。同じ機器でも、減らす作業と時間を具体的に示せるかどうかで、計画の説得力が変わります。

計算例:自動釣銭機付きレジで浮く時間

例えば、自動釣銭機付きのレジを導入した小売店で、レジ締めが1日1時間短くなり、月25日営業する場合、1時間×25日=25時間の作業が毎月浮きます。時給1,150円のパートの作業時間に換算すると、25時間×1,150円=28,750円分です。

浮いた時間を売場づくりや発注業務に回し、賃上げの原資になる売上や粗利を生む、という筋道が申請書の説明の柱になります。

申請から入金までの流れは?順番を誤らないための手順

流れは、交付申請、交付決定、設備の発注・導入と賃金の引上げ、実績報告、助成額の確定と入金の順です。各段階でやることは次のとおりです。

  1. 現状を確認する賃金台帳で事業場内最低賃金と、その水準で働く人を確認し、引き上げる額(コース)と人数を決めます。
  2. 見積書をもらう導入する設備を選び、見積書を取得します。この段階では発注・契約をしません。
  3. 交付申請をする申請書と事業計画を提出します。北海道の事業場は北海道労働局が窓口です。
  4. 交付決定を待つ交付決定の通知を受け取ってから、設備を発注・契約します。
  5. 賃上げと設備の導入を行う引き上げた賃金を就業規則や賃金規程に明記し、設備を導入して代金を支払います。交付決定を受けた年度の1月31日までに完了させます。
  6. 実績報告をする支払いを証明する書類や、引上げ後の賃金が分かる書類を添えて報告します。
  7. 助成額の確定と入金審査を経て助成額が確定し、入金されます。

順番を誤ると対象外になる2つの落とし穴

交付決定前に発注・契約・購入した設備は、原則として助成の対象外です。「先に買ってしまった」は後から取り返しがつかないため、見積書の段階で止めて申請するのが基本です。

令和8年度は、申請時点の事業場内最低賃金が改定後の地域別最低賃金を下回っていることが条件でした。申請前に改定後の最低賃金以上へ引き上げてしまうと、要件を満たさなくなります。賃上げの時期は、申請の手順とあわせて決めておきます。

増えた人件費と後払いの資金繰りはどう考える?

助成金で戻るのは設備投資などの費用の一部で、1回限りの入金です。一方、引き上げた賃金は毎年続く固定費になり、後から元に戻さない前提で考えます。助成額ではなく、増える人件費を毎年まかなえるかが判断の軸です。

計算例:時給を70円引き上げた場合の人件費

例えば、パート5人の時給を70円ずつ引き上げ、1人あたり月80時間働く場合、70円×80時間×5人=28,000円が毎月増えます。1年では28,000円×12か月=336,000円です。

社会保険に加入しているパートがいれば、会社負担の保険料も増えます。前の計算例のようにレジ締めの時間が浮いても、その時間で売上や粗利を生めなければ、増えた人件費は利益を圧迫します。

事業場内最低賃金だけを上げると、すぐ上の時給で働く人との差が縮まり、時給の逆転を避けるために周りの時給も見直すことがあります。人件費の試算は、最低時給の人だけでなく、近い水準で働く人も含めて行います。

助成金は後払いのため、設備代金はいったん自社で支払います。入金までの資金は自己資金か融資で手当てし(融資・資金調達ガイド)、設備の採算も事前に確かめておきます。採算の測り方は設備投資の採算を回収期間法・NPV・IRRで確かめる方法が参考になります。

時給を上げると、パートの「年収の壁」はどうなる?

時給を上げると、扶養の範囲で働きたいパートが勤務時間を減らし、人手が足りなくなることがあります。社会保険の扶養は原則として年収130万円未満で、2026年4月1日からは労働契約の内容から見込む年収で判定します。

税の扶養(配偶者控除・扶養控除)の対象になるのは、令和8年分では給与収入136万円以下です。従業員51人以上の企業では、週20時間以上働くパート(学生を除く)は年収にかかわらず社会保険の加入対象です(月8.8万円の賃金要件は2026年10月1日に撤廃)。賃上げ後の時給で年収を見込み、シフトを事前に話し合っておくと安心です。税の壁の全体像は基礎控除の引上げと「178万円」の整理で確認できます。

助成金の会計処理と税金は?圧縮記帳と消費税の扱い

業務改善助成金は、法人では益金(雑収入)、個人事業主では事業所得の総収入金額に含まれ、課税の対象になります。消費税は、助成金に対価性がないため課税の対象外(不課税)です。設備の購入にかかった消費税は、本則課税なら通常どおり仕入税額控除の対象になります。

設備の取得価額主な処理助成金への課税との関係
10万円未満消耗品費などとして、その年に全額を経費にする経費と助成金の収入が同じ年度に計上されれば、相殺されやすい
20万円未満一括償却資産として、3年で均等に経費にすることも選べる経費化が3年に分かれ、助成金の収入が先に課税されることがある
40万円未満青色申告の中小企業者等は、少額減価償却資産の特例で全額をその年の経費にできる(2026年4月1日以後の取得、年300万円まで)10万円未満と同じく、相殺されやすい
上記以外耐用年数にわたって減価償却する圧縮記帳を使わないと、助成金の収入にその年度で課税され、経費は耐用年数にわたって計上される
取得価額による処理と、助成金への課税との関係(2026年10月時点)

計算例:200万円の設備で圧縮記帳をする場合

例えば、法人が助成対象の設備を200万円で購入し、助成率3/4で200万円×3/4=150万円の助成額が確定した場合(上限額の範囲内である前提)、圧縮記帳をすると帳簿価額は200万円−150万円=50万円になります。

助成金の収入150万円と同額の圧縮損が計上されるため、その年度の所得は増えません。その代わり、以後の減価償却費は50万円をもとに計算するため、税負担は将来に繰り延べられます。

圧縮記帳は、法人は「国庫補助金等で取得した固定資産等の圧縮額の損金算入」、個人事業主は「国庫補助金等の総収入金額不算入」の規定によるもので、助成金の返還が不要と確定していることなどが要件です。設備の取得と助成額の確定が決算期をまたぐ場合は手順が変わるため、交付決定通知書や額の確定通知書を保管し、決算前に確認します。

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期限に間に合わない・対象外のときの選択肢は?

申請期限を過ぎた場合や、事業場内最低賃金がすでに改定後の最低賃金以上で対象にならない場合でも、賃上げや設備投資を後押しする制度はほかにもあります。同じ経費に国の補助金・助成金を重ねて受けることは原則できないため、どの経費にどの制度を使うかを先に決めます。

制度向いている場面内容・時期の目安
賃上げ促進税制(中小企業向け)賃上げそのものを税負担の軽減で後押ししたい給与等の支給額が前年度より1.5%以上増えれば増加額の15%、2.5%以上なら30%を税額控除(上限は法人税額等の20%)。法人は2027年3月31日までに開始する事業年度、個人は令和9年分まで
少額減価償却資産の特例40万円未満の設備をその年の経費にしたい青色申告の中小企業者等が対象。2026年4月1日以後の取得から40万円未満に拡大、年300万円まで(2029年3月31日まで)
デジタル化・AI導入補助金2026(旧IT導入補助金)受発注・会計ソフトなどITツールの導入通常枠は5万〜450万円・補助率1/2。第6次の締切は2026年10月30日17時
中小企業省力化投資補助金(一般型)人手不足を補う省力化設備の導入第8回の受付は2026年9月18日〜10月16日17時
小規模事業者持続化補助金販路開拓とあわせた設備投資一般型・通常枠第20回の受付は2026年11月5日〜12月15日17時。通常枠50万円・補助率2/3で、賃上げなどによる上乗せあり
内容・時期は2026年10月3日時点。公募は回ごとに変わるため、申請前に各回の公募要領で確認してください。

賃上げ促進税制(中小企業向け)の法人の適用期限より後の扱いは、令和9年度の税制改正で決まります(2026年10月時点で延長は未決定)。給与等の集計では、給与に充てるために受け取った補助金などを差し引くルールがあるため、受け取った助成金の性格を確認したうえで計算します。

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よくある質問

個人事業主でも申請できますか?

労働者を雇っている中小企業・小規模事業者が対象で、個人事業主も対象になり得ます。大企業が実質的に支配している会社(いわゆるみなし大企業)は対象外とされています。受け取った助成金は、事業所得の収入として確定申告に含めます。

パソコンやタブレットは対象になりますか?

パソコンやタブレットのように汎用性の高い機器は、年度によって対象外とされたり、条件が付いたりすることがあります。業務での使い道と減らせる作業を具体的に説明できるかがポイントで、対象かどうかはその年度の交付要綱と労働局への確認で判断します。

交付決定の前に最低賃金の発効日が来たら、賃上げはどうなりますか?

最低賃金の発効日以降は、助成金の交付決定が出ているかどうかに関係なく、改定後の最低賃金以上の賃金を支払う必要があります(最低賃金法)。助成金の手続きとは切り離して、発効日に間に合うよう賃金を引き上げます。

助成金の申請書類は税理士に頼めますか?

助成金の申請書類の作成・提出の代行は、社会保険労務士の業務に当たる場合があります。当事務所では、設備投資の資金繰り、賃上げ後の人件費の試算、助成金の会計処理や圧縮記帳など、会計・税務の面からお手伝いします。

まとめ

業務改善助成金は、賃上げと生産性向上の設備投資を一つの計画にまとめ、申請・交付決定・発注の順番を守ることで、設備投資などの費用の一部が後払いで戻る制度です。令和8年度は申請期限が最低賃金の発効日に連動し、北海道は計算上2026年9月30日でした。増えた人件費は毎年続くため、入金までの資金繰りや助成金の会計処理、ほかの制度との使い分けまで含めて判断しましょう。

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出典・参考(公的機関)

本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。

更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度の業務改善助成金・北海道最低賃金を反映)

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