サッシ・ガラス工事業の法人化は、課税所得がおおむね800万円前後で続くようになったときや、元請から一次下請の条件として法人格を求められたときが検討の目安です。税率だけで決めず、社会保険料、インボイス、建設業許可の引継ぎ、応援職人への支払いの区分まで含めて判断します。
この記事の結論
法人化で得をするかは「税率の差」と「社会保険料などの増加」の差し引きで決まり、サッシ・ガラス工事業では元請の取引条件と建設業許可の引継ぎが時期を左右します。
- 課税所得が800万円前後で続くようになったら、個人と法人の負担を試算し始める
- 法人は役員1人でも社会保険の強制適用。役員報酬にかかる保険料まで含めて比べる
- 元請向けの取引が中心なら、法人でもインボイス登録が前提。免税期間を当てにした法人化は効果が小さい
- 建設業許可は、事前の認可で法人に引き継ぐか、法人で取り直す。空白期間をつくらない段取りが要る
- 応援職人への支払いは、法人化を機に外注費と給与の区分を見直す
サッシ・ガラス工事業で法人化を考えるのはどんなとき?
法人化が現実味を帯びるサインは、大きく三つあります。一つ目は利益の水準です。個人の所得税は利益が増えるほど税率が上がる累進課税で、利益が一定額を超えると、税率がほぼ一定の法人のほうが負担を抑えやすくなります。
二つ目は元請からの要請です。建設業界では与信管理や安全管理の観点から、一次下請を法人に限る元請があります。再開発や大型物件の現場ほど、取引先の確認は厳しくなる傾向があります。三つ目は職人の雇用で、社会保険を整えた法人のほうが、採用の場面で選ばれやすくなります。
| 判断の軸 | 個人事業のまま | 法人化した場合 | サッシ・ガラス工事業での見方 |
|---|---|---|---|
| 所得と税率 | 所得税5〜45%の累進+住民税10%+個人事業税 | 法人税は年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%+地方税 | 課税所得800万円前後が続けば試算する |
| 社会保険 | 建設業は常時5人以上を使用すると強制適用。それ未満は任意 | 役員1人でも強制適用 | 役員報酬にかかる保険料の負担が増える一方、職人の採用では有利になりやすい |
| 消費税 | 基準期間の売上が1,000万円以下なら、令和9・10年分に3割特例を使える場合がある | 法人に3割特例はない | 元請向けが中心なら、どちらでもインボイス登録が前提 |
| 信用・取引条件 | 一次下請の要件を満たせない場合がある | 法人格で要件を満たしやすい | 元請の口座開設や取引審査に影響する |
| 建設業許可 | 個人で取得 | 事前の認可で引き継ぐか、法人で新たに取得 | 許可の空白期間をつくらない段取りが要る |
| 家族への給与 | 青色事業専従者給与(届出が必要) | 役員報酬・給与として支給 | 実際の仕事内容に見合う金額にする |
税率で比べると、所得いくらから法人が有利になる?
個人事業の利益には、所得税(5〜45%の7段階)と住民税(所得割10%)、個人事業税がかかります。サッシ・ガラス工事のような請負業の個人事業税は5%で、事業主控除290万円を差し引いた所得にかかります。
| 課税所得 | 所得税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 195万円以下 | 5% | 0円 |
| 195万円超330万円以下 | 10% | 97,500円 |
| 330万円超695万円以下 | 20% | 427,500円 |
| 695万円超900万円以下 | 23% | 636,000円 |
| 900万円超1,800万円以下 | 33% | 1,536,000円 |
| 1,800万円超4,000万円以下 | 40% | 2,796,000円 |
| 4,000万円超 | 45% | 4,796,000円 |
法人の所得には、法人税(中小法人は年800万円以下の部分15%、超える部分23.2%)と地方法人税(法人税額の10.3%)、法人事業税(所得400万円以下3.5%、800万円以下5.3%、超える部分7.0%)、法人住民税がかかります。中小法人の15%は2027年3月31日までに開始する事業年度が対象で、延長されるかは2026年10月時点で決まっていません。
計算例:利益を100万円増やしたときの税金の差
例えば、課税所得がすでに800万円ある個人事業主の利益が、さらに100万円増える場合と、法人に残る所得が年400万円以下の法人で同じ100万円が増える場合を比べます(札幌市内の中小法人の税率で概算。復興特別所得税等と均等割は除く)。
- 個人:所得税 100万円×23%=23万円、住民税 100万円×10%=10万円、個人事業税 100万円×5%=5万円。合計 23万円+10万円+5万円=38万円
- 法人:法人税 100万円×15%=15万円、地方法人税 15万円×10.3%=15,450円、法人事業税 100万円×3.5%=35,000円、特別法人事業税 35,000円×37%=12,950円、道民税 15万円×1.0%=1,500円、市民税 15万円×6.0%=9,000円。合計 150,000円+15,450円+35,000円+12,950円+1,500円+9,000円=223,900円
税率だけを見ると法人のほうが軽くなりますが、実際には役員報酬の設定、社会保険料、均等割、事務の負担を含めて試算します。役員報酬には給与所得控除が使え、例えば年600万円なら600万円×20%+44万円=164万円が控除されます(令和8・9年分の計算)。
ツール法人成りした場合の税負担を試算する個人事業のまま続けた場合と法人化した場合の負担の違いを、数字を入れて比べられます。計算する
個人のまま続ける場合も、令和9年分からは要件を満たすと青色申告特別控除が75万円になるなど、選択肢は変わっていきます。税制改正の全体像は令和8年度税制改正のポイントで整理しています。
社会保険料や固定費は、どのくらい増える?
法人は役員1人だけでも、健康保険・厚生年金保険の強制適用事業所です。個人事業所は、建設業のような法定の業種で常時5人以上を使用する場合に強制適用となるため、従業員が少ない個人事業主ほど、法人化による保険料の増加が大きくなります。
計算例:役員報酬が月50万円の場合の保険料
例えば、標準報酬月額が50万円で40歳未満の役員の場合、毎月の保険料(会社負担と本人負担の合計)は次のとおりです。
- 健康保険:50万円×10.28%=51,400円
- 厚生年金保険:50万円×18.3%=91,500円
- 子ども・子育て支援金:50万円×0.23%=1,150円
- 合計:51,400円+91,500円+1,150円=144,050円
- 年間:144,050円×12か月=1,728,600円(会社と本人で半分ずつ負担)
個人事業で払っていた国民健康保険料・国民年金保険料はなくなり、将来の年金は厚生年金の分だけ増えます。差し引きは家族構成や年齢で変わるため、個別に試算します。
このほか、法人には赤字でもかかる法人住民税の均等割があり、札幌市内で資本金等1,000万円以下・従業者50人以下の法人は、北海道2万円と札幌市5万円の年7万円です。設立時には登録免許税(株式会社は最低15万円、合同会社は最低6万円)がかかり、決算・申告や給与計算の事務も増えます。
建設業の国民健康保険組合に加入している場合
建設業の国民健康保険組合(いわゆる建設国保)に加入している場合、法人化した後も一定の条件のもとで加入を続けられる場合があります。手続きの期限がある取扱いのため、設立前に組合と年金事務所へ確認しておきます。
サッシ・ガラス工事業ならではの注意点は?
応援の職人への支払いは、外注費か給与か
応援に来てもらう職人への支払いを外注費で処理している場合、法人化を機に働き方の実態を確認しておきます。指揮命令や拘束が強いと、税務上は給与と判定されることがあり、そうなると源泉徴収が必要になるほか、消費税の仕入税額控除も受けられません。国税庁の個別通達「大工、左官、とび職等の受ける報酬に係る所得税の取扱いについて」では、次のような点を総合して判断します。
- 本人に代わって他の人が作業してもよいか(代替性)
- 作業の進め方について、具体的な指揮監督を受けていないか
- 引渡し前の完成品が不可抗力でなくなったとき、報酬を請求できるか(危険の負担)
- 材料や用具を本人が用意しているか
- 作業時間や場所に拘束されていないか
建設業許可と社会保険の加入
個人で建設業許可を受けている場合、建設業法の事業承継の認可を事前に受ければ、法人に許可を引き継げます。認可を受けない場合は法人として新たに許可を取り直すことになり、許可のない期間が生じると、一定規模以上の工事を受注できなくなります。また、適切な社会保険への加入は建設業許可の要件で、元請から加入状況の確認を求められる場面もあります。
インボイスの登録番号と簡易課税の区分
インボイスの登録は法人として新たに申請し、登録番号が変わります。新しく設立した法人は、設立した課税期間中に、その初日から登録を受ける旨を書いて申請すれば、設立日にさかのぼって登録を受けられます。元請には、切替日と新しい番号を早めに伝えておきます。
簡易課税を選ぶ場合、サッシ・ガラス工事は建設業として第3種(みなし仕入率70%)が基本です。ただし、元請から材料の支給を受けて取付けだけを行う工事は、加工賃に類するものとして第4種(60%)になる場合があります。取引の形ごとに区分を確認しておきます。
無料ツールインボイスの経過措置で控除できる額を計算する免税事業者の職人や業者に支払った金額から、経過措置で控除できる消費税額の目安を確認できます。計算する
進行中の工事・車両・取引口座の切替え
切替日に進行中の工事は、契約者が個人のままか法人に変わるかを元請と取り決め、売上をどちらで計上するかを明確にします。ガラスやサッシ建材の仕入先との掛け取引、リース中の高所作業車や車両、損害保険の契約名義も、切り替えが漏れやすいポイントです。個人で所有していた車両や工具は、法人へ売却するか賃貸するかを決め、価格の根拠を残しておきます。
法人化で得をするかは、所得・家族構成・元請との取引条件で一件ごとに変わります。初回無料で試算から確認できます。
無料で相談する法人化はどの順番で進める?いつの時期がよい?
北海道では冬期に外装まわりのサッシ工事が落ち着く地域が多いため、閑散期を設立準備に充てると現場への影響を抑えられます。決算月も繁忙期を外して設定すると、棚卸や書類の整理の負担が軽くなります。
- 試算する税金・社会保険料・消費税を、個人のままの場合と法人化した場合で比べ、役員報酬の水準を決めます。
- 会社の基本事項を決める商号・本店所在地・事業目的・資本金・出資者・役員構成・決算月・設立日を決めます。
- 設立登記をする登録免許税は株式会社が最低15万円、合同会社が最低6万円です。
- 税務署・都道府県・市町村へ届け出る法人設立届出書は設立の日以後2か月以内、青色申告の承認申請書は設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで、給与支払事務所等の開設届出書は開設の日から1か月以内です。
- 社会保険・許可・インボイスを手続きする年金事務所で社会保険の新規適用、建設業許可の承継の認可か新規申請、インボイスの登録申請を進めます。
- 取引先と契約を切り替える元請・仕入先・リース会社・保険会社・金融機関に連絡し、口座と契約の名義を法人に移します。
- 個人事業を締める個人事業の廃業の届出を廃業の日から1か月以内に出し、1月1日から廃業日までの所得は翌年2月16日から3月15日まで(土日の場合は翌平日)に確定申告します。
役員報酬は、原則として事業年度の途中で金額を変えると損金にならない部分が出ます。改定は期首から3か月以内に行うのが基本なので、設立時に1年分の資金繰りを見込んで決めておきます。
札幌市内に本店を置く場合
法人住民税の法人税割は、資本金1億円以下かつ法人税額1,000万円以下の法人で道民税1.0%・市民税6.0%です。法人税の申告期限は事業年度終了の日の翌日から2か月以内で、法人住民税・法人事業税も同じです。
2026年7月10日から、市内の税務署の内部事務は札幌業務センターに集約されており、書面の届出は同センターへ郵送します。e-Taxや窓口への持参は、本店所在地を管轄する税務署が窓口です。
よくある質問
売上1,000万円以下の小規模でも、法人化したほうがよいですか?
税額の面では効果が小さいことが多く、個人のままなら令和9・10年分に消費税の3割特例を使える場合もあります。一方、元請から法人であることを求められている場合は、税額以外の理由で法人化を選ぶこともあります。個人のまま負担を抑える方法は個人事業主の節税メニューも参考にしてください。
株式会社と合同会社のどちらがよいですか?
設立時の登録免許税は合同会社のほうが低く、役員の任期による重任登記もありません。建設業許可はどちらでも取得できます。元請や金融機関との取引で株式会社が求められていないかを、事前に確認して選びます。
赤字の年でも、法人の申告や税金は必要ですか?
必要です。均等割は赤字でもかかります。また、2026年4月1日以後に開始する事業年度からの防衛特別法人税は、基準法人税額から500万円を差し引いた額に4%をかける税で、税額がゼロでも申告が必要です。
家族を役員にして報酬を払うことはできますか?
できます。ただし、実際の仕事内容や勤務の実態に見合った金額であることが前提で、名前だけの役員に高い報酬を払うと損金にならないおそれがあります。社会保険の加入も役員ごとに判定します。
まとめ
サッシ・ガラス工事業の法人化は、課税所得800万円前後が続くことを試算開始の目安に、税率の差と社会保険料・均等割などの増加を差し引きで比べて判断します。元請の取引条件、建設業許可の引継ぎ、インボイスの登録番号の変更、応援職人への支払いの区分は、この業種で特に準備が要る点です。工事の閑散期に合わせて段取りを組むと、現場を止めずに切り替えられます。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
