不動産管理会社の会計・税務は、預り家賃と管理手数料の区分、住宅と事業用が混在する消費税、敷金や立替修繕費の管理など、一般の業種より論点が多い分野です。税理士に相談する前に押さえたい5つの論点と、顧問契約で任せる範囲・費用が決まる要素を整理します。
この記事の結論
不動産管理会社の税務の核心は「自社の売上はどこまでか」と「課税・非課税の区分」です。この2点を日々の記帳で正しく扱える体制と、オーナー側の税務まで見通せる相談相手を選ぶことが大切です。
- 論点1:管理委託の預り家賃は売上ではなく預り金。サブリースなら転貸の家賃が自社の売上になる
- 論点2:住宅の家賃は非課税、事業用の家賃と管理手数料は課税。課税売上割合が仕入税額控除を左右する
- 論点3:敷金・原状回復費・立替修繕費は契約ごとに処理が分かれ、オーナー別の残高管理が要になる
- 論点4:事業用物件はインボイスの発行者と、経過措置(2026年10月1日〜2028年9月30日は70%)を確認する
- 論点5:同族の管理会社の管理料や修繕費の判定など、オーナー側の税務にも影響する
預り家賃は売上になる?管理委託とサブリースで違う(論点1)
管理委託方式では、入居者から集めた家賃はオーナーのお金で、管理会社にとっては預り金です。自社の売上に計上するのは、管理手数料、仲介手数料、更新事務手数料など、自社のサービスの対価だけです。
一方、サブリース方式(一括借上げ)では、管理会社がオーナーから物件を借りて入居者に転貸します。入居者からの家賃が自社の売上、オーナーへの借上げ家賃が自社の費用になるため、同じ「家賃」でも契約の形によって会計処理が正反対になります。
| 項目 | 管理委託方式 | サブリース方式 |
|---|---|---|
| 入居者からの家賃 | 預り金(オーナーへ送金する) | 自社の売上 |
| オーナーへの支払い | 預り金の精算 | 借上げ家賃(自社の費用) |
| 自社の主な売上 | 管理手数料・仲介手数料・更新事務手数料 | 転貸の家賃、各種の手数料 |
| 空室のリスク | オーナーが負う | 契約により自社が負う(借上げ家賃は払い続ける) |
| 住宅物件の消費税 | 預り家賃は自社の取引ではない。手数料は課税 | 転貸の家賃・借上げ家賃とも非課税 |
預り家賃を売上に計上してしまうと
預り家賃を自社の売上に混ぜると、売上規模が実態より大きく見え、金融機関の評価や消費税の計算がずれます。事業用物件の家賃が混じれば課税売上高が膨らみ、課税事業者や簡易課税の判定にも影響します。管理ソフトの入金データを会計ソフトに取り込むときは、オーナーごとの預り金として処理されているかを確認しましょう。
ツール消費税の課税事業者かどうかを判定する基準期間や特定期間の課税売上高から、消費税の納税義務があるかを確認できます。計算する
消費税はどこが課税でどこが非課税?(論点2)
不動産管理会社の消費税は、1つの物件の中でも課税と非課税が混在するのが特徴です。主な取引の区分は次のとおりです。
| 取引 | 消費税 | 注意点 |
|---|---|---|
| 住宅の家賃・共益費 | 非課税 | 住宅の転貸(サブリース)も、住宅として使われることが契約などで明らかなら非課税 |
| 事務所・店舗の家賃・共益費 | 課税 | 住宅と店舗が同じ建物にあれば、区分して集計する |
| 駐車場の使用料 | 原則として課税 | 住宅の家賃に含めて別に料金を取らない場合などは、非課税になることがある |
| 管理手数料・仲介手数料・更新事務手数料 | 課税 | 住宅の管理・仲介でも課税 |
| 礼金・更新料・返還しない敷金 | 住宅は非課税、事業用は課税 | 物件の用途に合わせて区分する |
| 原状回復費として受け取る金額 | 課税 | 家賃ではなく、工事・役務の対価として扱う |
| 非居住者向けの国内不動産の仲介等 | 課税 | 2026年10月1日以後は、相手が非居住者でも輸出免税の対象外 |
住宅の家賃などの非課税売上が多い会社ほど課税売上割合が下がり、支払った消費税の全額は差し引けない(仕入税額控除が制限される)ことがあります。その場合は、仕入れを「課税売上のためのもの」「非課税売上のためのもの」「共通のもの」に分ける個別対応方式か、一括比例配分方式で計算します。日頃の仕訳でこの区分を付けておかないと、決算でまとめて判断することになり、精度が落ちます。
簡易課税を選ぶ場合、不動産管理業は第6種(みなし仕入率40%)です。リフォーム工事の請負など他の事業もあるときは事業ごとに区分し、たとえば建設業は第3種(70%)になります。簡易課税を選べるのは、基準期間の課税売上高が5,000万円以下の場合です。
無料ツール本則課税と簡易課税の有利・不利を比べる売上と仕入れの金額から、計算方法ごとに納める消費税額を比べられます。計算する
敷金・原状回復費・立替修繕費はどう処理する?(論点3)
入退去のたびに動くお金は、誰のお金かによって処理が分かれます。管理会社の帳簿では、オーナーごとの預り金と立替金の残高を毎月合わせることが基本です。
| 項目 | 管理会社の処理 | つまずきやすい点 |
|---|---|---|
| 敷金・保証金(管理委託) | オーナーの預り金として管理する(オーナーへ送金する契約なら残高は持たない) | 返還する分と償却する分(敷引き)の区分が契約ごとに違う |
| 敷金(サブリース) | 入居者からの敷金は自社の預り金、オーナーへ差し入れた敷金は自社の資産 | 入居者との退去精算と、オーナーとの精算が別々に動く |
| 原状回復費 | 借主負担分と貸主負担分を契約書で区分する。工事を自社で請け負うなら自社の売上と原価 | 負担区分があいまいなまま記帳し、オーナーとの精算がずれる |
| 立て替えた修繕費 | オーナーへの立替金とし、精算時に預り家賃と相殺する | 精算のタイミングがずれ、預り金と立替金の残高が合わなくなる |
| 家賃保証会社経由の入金 | 入金経路ごとに、オーナー別の入金状況を確認する | 保証会社による立替え分と通常の入金が混在する |
| 口座の使い分け | 預り家賃用の口座と、自社の運転資金の口座を分ける | 資金が混同し、預り金の残高が説明できなくなる |
賃貸住宅管理業法(賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律)は、登録を受けた管理業者に2つのことを求めています。家賃や敷金などを自社の財産と分けて管理すること(分別管理)と、オーナーへの定期的な報告です。会計の仕組みもこの分別管理と合わせておくと、決算や税務調査での説明がしやすくなります。
建物の価値を高めたり使える期間を延ばしたりする支出は資本的支出として資産に計上し、元の状態に戻すための支出は修繕費になります。判定には金額や周期による目安もあるため、サブリース物件の改装やオーナーに提案する大規模な工事は、見積りの段階で区分を確認しましょう。具体的な仕訳は不動産管理業の仕訳事例集で設例つきで紹介しています。
インボイスは誰が発行する?事業用物件の注意点(論点4)
インボイス(適格請求書)が問題になるのは、主に事業用物件の家賃と、管理会社自身の手数料です。住宅の家賃は非課税のため、インボイスは必要ありません。
| 場面 | 確認すること |
|---|---|
| 管理手数料の請求(オーナー宛て) | 自社が登録事業者か。事業用物件を持つ課税事業者のオーナーは、管理手数料のインボイスで仕入税額控除を受ける |
| 事業用家賃の請求(テナント宛て) | 原則はオーナーが発行する。管理会社が自社の名前で代わりに発行するなら、媒介者交付特例の要件(オーナーと管理会社がともに登録事業者であることなど)を確認する |
| オーナーが登録していない場合 | 管理会社はそのオーナー分のインボイスを発行できない。テナントの仕入税額控除は経過措置の割合に減る |
| 口座振替・振込で受け取る家賃 | 請求書を毎月出さない場合は、契約書に登録番号などを記載し、振込の記録とあわせて保存する方法がある |
オーナーが免税事業者のまま登録しないと、テナント側の仕入税額控除は経過措置の割合に減ります。2026年9月30日までは80%、2026年10月1日〜2028年9月30日は70%、2028年10月1日〜2030年9月30日は50%です。賃料の交渉材料になることもあるため、オーナーに登録の要否を説明できるかどうかも、管理会社の付加価値になります。
なお、2割特例は2026年9月30日を含む課税期間で終わっています(3月決算法人は2027年3月期まで)。登録しなければ免税事業者になる個人のオーナーは、令和9・10年分に3割特例を使える場合があります。制度全体の流れはインボイス制度の実務ガイドで確認できます。
オーナーや同族の管理会社で気をつける税務は?(論点5)
個人のオーナーが、自分や家族が経営する管理会社に管理を任せる場合、管理料や借上げ家賃の水準が税務上の論点になります。同族会社との取引は業務の実態に照らして判断されるため、実態に見合わない管理料を払っていると、オーナー側の必要経費として認められないおそれがあります。
- 管理委託契約書があり、集金・入退去・清掃・修繕手配などの業務内容が書かれている
- 管理会社に、作業の記録やオーナーへの報告など、業務を行った記録が残っている
- 管理料の率や借上げ家賃の決め方を、根拠をもって説明できる
- 管理会社の役員報酬や家族への給与が、実際の業務に見合っている
- オーナーの確定申告(原則2月16日〜3月15日)に間に合う時期に、年間の収支報告を出せる
個人オーナーの不動産所得、法人化、相続の相談まで同じ事務所で見られると、管理会社とオーナーの数字を整合させやすくなります。法人化を検討する段階なら、不動産管理会社の法人化のタイミングと判断基準もあわせてご覧ください。
税理士に任せる範囲と、顧問料が決まる要素
任せる範囲は、記帳・決算申告・給与・資金繰りの4つに分けて考えると整理しやすくなります。
| 業務 | 自社で行う場合 | 税理士に任せるときに決めること |
|---|---|---|
| 記帳 | 管理ソフトのデータを会計ソフトに取り込み、オーナー別の預り金を照合する | 記帳代行にするか、自社の記帳をチェックしてもらうか |
| 決算・申告 | 決算整理の資料をそろえる | 法人税・消費税(課税区分と計算方法の検討)、償却資産の申告(毎年1月31日まで)を含むか |
| 給与・年末調整 | 給与計算ソフトで毎月計算する | 年末調整と法定調書(令和8年分は2027年2月1日まで)まで含むか |
| 資金繰り・融資 | 資金繰り表を作る | 月次試算表をいつまでに受け取るか、金融機関向けの資料づくりを支援してもらうか |
顧問料は、売上規模、取引量(管理戸数・オーナー数・入出金の件数)、記帳代行の有無、面談の頻度で大きく変わります。不動産管理会社では、これに消費税の区分の複雑さ(住宅と事業用の混在、サブリース、個別対応方式)や、給与計算・オーナー個人の申告など別契約の業務が加わります。
金額の水準は事務所によって幅があるため、同じ資料で見積りを取り、業務範囲と合わせて比べるのが現実的です。当事務所は決算・申告だけのスポット依頼はお受けしておらず、顧問契約で月次から継続してご支援しています。料金の考え方は料金・契約の流れでご確認いただけます。
管理戸数や物件の構成、サブリースの有無によって、任せる範囲と顧問料は変わります。初回無料で見積りの前提を整理できます。
無料で相談する面談で確認したいことと、切り替えのタイミング
面談では、自社の物件構成(住宅と事業用の比率、サブリースの有無)と管理戸数を伝えると、具体的な提案を引き出しやすくなります。直近の試算表や決算書も用意しておきましょう。そのうえで、次の点を確認します。
- 住宅と事業用が混在する物件や、サブリースの消費税区分を扱った経験があるか
- 預り金・立替金をオーナー別に照合する方法を提案できるか
- 課税売上割合を踏まえ、個別対応方式と一括比例配分方式の選択を検討してくれるか
- 事業用物件のインボイス(媒介者交付特例など)の運用を相談できるか
- 管理ソフトやクラウド会計とのデータ連携に対応しているか
- 月次試算表をいつまでに受け取れるか、担当者は誰か
- オーナー(個人地主・資産管理法人)の申告や相続の相談まで対応できるか
税理士の変更や新規の契約は、決算期の2〜3か月前までに動くのが安全です。決算直前の切り替えは引継ぎが間に合わず、双方に負担がかかります。複数の事務所に相談する場合は、同じ資料で比べると、顧問料や対応範囲の違いがわかりやすくなります。
北海道の管理会社で気をつけたいこと
札幌などでは転勤シーズンの2〜3月に入退去が集中し、敷金精算や原状回復費の処理が一気に増えます。個人オーナーの確定申告の時期とも重なるため、年間の収支報告を早めに作る、税理士の切り替えや面談をこの時期から外すなど、繁忙期を前提にスケジュールを組みましょう。
冬季の除排雪費や共用部のロードヒーティングの電気代は、共益費として入居者から受け取るのか、オーナーの費用として立て替えるのかで処理が変わり、住宅か事業用かで消費税の扱いも分かれます。契約ごとに整理しておきましょう。
よくある質問
預り家賃が多いと、消費税の課税事業者になりますか?
管理委託方式の預り家賃はオーナーの売上なので、管理会社の課税売上高には入りません。自社の課税売上(管理手数料・仲介手数料など)で判定し、基準期間の課税売上高が1,000万円を超えると課税事業者になります。サブリースで事業用物件を転貸している場合は、その家賃も課税売上です。
管理手数料や仲介手数料は、いつ売上に計上しますか?
管理業務の対価は、業務を行った月ごとに計上します。賃貸の仲介手数料は、原則として賃貸借契約の効力が生じた日の属する期の売上です。入金日で計上していると期末の売上がずれるため、決算前に確認しましょう。
帳簿や契約書はどのくらいの期間保存しますか?
法人の帳簿書類は原則7年、欠損金が生じた事業年度は10年の保存が必要です。メールやクラウドで受け取った請求書などの電子取引データは、電子帳簿保存法の要件に沿って電子データのまま保存します。
敷金をオーナーに送金している場合も、記録は必要ですか?
送金済みなら管理会社の帳簿に敷金の残高は残りませんが、どの入居者の敷金をいつどのオーナーへ送ったかは記録しておきます。退去時の精算で、誰が返還するのかを確認する根拠になるためです。
まとめ
不動産管理会社の会計・税務は、預り家賃と自社の売上の区分、課税と非課税の混在、敷金や立替金の残高管理、事業用物件のインボイス、オーナー側の税務という5つの論点で整理できます。顧問料は取引量や記帳の範囲で決まるため、同じ資料で見積りを取り、これらの論点を扱えるかどうかで相談相手を選びましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
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出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
