介護事業所の法人化は、税負担だけでなく「介護保険の指定」と「社会保険の整備」から判断します。介護保険サービスの指定は原則として法人でなければ受けられないため、参入するなら法人の設立が先です。自費サービスを個人で営む場合は、所得年500万〜700万円超が試算の目安です。
この記事の結論
介護保険サービスを行うなら、所得の水準にかかわらず法人の設立が前提です。介護保険の対象外の自費サービスを個人で営んでいる場合は、所得年500万〜700万円超を目安に、税負担・社会保険・設立と維持のコストを比べて判断します。
- 介護保険の指定は原則として法人が受けるもの。個人の事業を法人に移すときは、指定や許認可を法人として受け直す
- 法人税は年800万円以下の所得に15%(2027年3月31日までに開始する事業年度)。所得が増えるほど個人の累進税率との差が開く
- 法人は役員1人でも社会保険の強制適用。採用・定着には有利だが、保険料の事業主負担が増える
- 赤字でも法人住民税の均等割(小規模な法人で年7万円)がかかる
- 指定申請の締切から逆算して、法人の設立・人員・設備・運転資金を準備する
介護事業所が法人化を検討するタイミングは?
法人化のタイミングは、今どんな形で事業をしているかで大きく変わります。最初に押さえたいのは、介護保険の指定を受けて訪問介護や通所介護などのサービスを行うには、原則として法人であることが要件になっている点です。病院・診療所・薬局が行う一部の医療系サービスなどの例外はありますが、介護事業所の多くは法人でなければ指定を受けられません。
そのため、介護保険サービスに参入するなら、所得の水準にかかわらず法人の設立が先になります。個人で営めるのは、介護保険の対象外の自費サービス(家事の援助や外出の付き添いなど)が中心です。
| 今の状況 | 法人化を考えるタイミング | 判断のポイント |
|---|---|---|
| これから介護保険サービスを始める | 指定申請の前(法人の設立が先) | 申請先の締切と、人員・設備の基準から逆算する |
| 個人で自費の介護・生活支援サービスを営んでいる | 所得が年500万〜700万円を超えてきたとき、または介護保険に参入するとき | 税負担の比較と、保険サービスへの展開の計画で判断する |
| 自費サービスで人を雇い、事業を広げたい | 採用を本格化する前 | 法人の社会保険で採用・定着を図るか、保険料の負担と比べる |
自費サービスを個人で営む場合、一般的な目安として、個人事業の所得(事業所得)が年間500万〜700万円を超えてくると、法人化による税負担の軽減効果が出やすいといわれます。所得税は累進課税で、所得が増えるほど税率が上がるため、その影響を法人化で緩和できるからです。
| 区分 | 税率 |
|---|---|
| 所得税(課税所得330万円超695万円以下の部分) | 20% |
| 所得税(695万円超900万円以下の部分) | 23% |
| 所得税(900万円超1,800万円以下の部分) | 33% |
| 住民税(所得割) | 10% |
| 法人税(中小法人の年800万円以下の部分) | 15%(2027年3月31日までに開始する事業年度) |
| 法人税(年800万円を超える部分) | 23.2% |
| 地方法人税 | 法人税額の10.3% |
| 法人住民税の法人税割(札幌市内の中小法人) | 法人税額の7.0%(道民税1.0%+市民税6.0%) |
計算例:利益が100万円増えたときの税金の差(事業税を除く)
例えば、課税所得が700万円前後で所得税23%の区分にある個人と、所得が年800万円以下の札幌市内の法人で、それぞれ利益が100万円増える場合です。
- 個人:所得税 100万円×23%=23万円、復興特別所得税 23万円×2.1%=4,830円、住民税 100万円×10%=10万円
- 個人の合計:23万円+4,830円+10万円=334,830円
- 法人:法人税 100万円×15%=15万円、地方法人税 15万円×10.3%=15,450円、道民税 15万円×1.0%=1,500円、市民税 15万円×6.0%=9,000円
- 法人の合計:15万円+15,450円+1,500円+9,000円=175,950円
差は、334,830円−175,950円=158,880円です。
ただし、法人に残した利益を個人で使うには、役員報酬や役員退職金として受け取る必要があり、役員報酬には社会保険料もかかります。あくまで目安なので、実際には役員報酬と法人に残す利益の配分、設立・維持のコストまで含めて試算します。
無料ツール法人成りした場合の税負担を試算する個人のまま続けた場合と法人化した場合の税金・手取りの違いを、所得の金額を入れて比べられます。計算する
法人化のメリット:介護事業所の視点から
| メリット | 介護事業所にとっての意味 |
|---|---|
| 介護保険の指定を受けられる | 訪問介護・通所介護・居宅介護支援など、保険サービスへの参入の前提になる |
| 税負担の最適化 | 所得が一定水準を超えると、法人税の税率と役員報酬の給与所得控除で全体の税負担を抑えやすい |
| 役員報酬と家族への報酬 | 経営者自身や経営に関わる家族を役員にして報酬を設定でき、将来の役員退職金も準備できる |
| 社会保険の整備 | 法人は強制適用。社会保険の完備は、ヘルパーや介護職員の採用・定着につながる場合がある |
| 信用力 | 金融機関や取引先、利用者とその家族から見た信頼につながりやすい |
介護事業所の場合、いちばん大きなメリットは税金よりも「指定を受けられること」です。税負担の比較は、保険サービスへの参入を考えていない自費サービスの事業者にとっての判断材料と考えると整理しやすくなります。
消費税は、法人化しても大きくは変わりません。介護保険サービスの対価は消費税が非課税で、自費サービスは課税になるものが多くあります。非課税の売上が中心の事業所では、仕入れや設備にかかった消費税の多くを控除できずコストになるため、その分も資金計画に織り込みます。
法人化のデメリットと注意点
法人化には、設立・維持にかかるコストと手続きの増加が伴います。主な点を確認しておきましょう。
- 設立の費用:株式会社は登録免許税の最低15万円と定款認証の手数料、合同会社は登録免許税の最低6万円などがかかる
- 均等割:赤字でも毎年かかる。資本金等1,000万円以下・従業者50人以下なら、道府県民税2万円と市町村民税5万円の年7万円が目安
- 社会保険料の事業主負担:役員と、要件を満たす職員の健康保険・厚生年金保険料の半分を法人が負担する
- 事務の負担:決算申告、社会保険の手続き、役員報酬の管理に加え、役員や管理者が変わったときの指定の変更届も要る
- 防衛特別法人税:2026年4月1日以後に開始する事業年度から、税額がゼロでも申告が必要
- 指定の取り直し:個人で行ってきた事業を法人に移す場合、指定や許認可は法人として受け直すのが原則
特に見落としやすいのは、指定と事業の継続です。法人の設立後に同じサービスを続ける、または保険サービスを始めるには、法人名義での指定申請と指定の受領が必要です。申請の締切は自治体ごとに決まっていて、締切を一度逃すと開始の時期が後ろにずれるため、法人の設立日を締切から逆算して決めます。
開業当初の資金繰りに注意
介護保険サービスの報酬(介護報酬)は、サービスを提供した月の翌々月に国民健康保険団体連合会から入金されるのが一般的です。開業当初は、入金までの間の人件費や家賃を自己資金や借入で賄う必要があるため、設立時の資本金と借入の計画に、この期間の運転資金を織り込んでおきます。
判断基準のチェックリスト
次の項目を税理士と一緒に確認するのが、法人化を判断する実践的な方法です。
- 介護保険の指定を受けて行うサービスを、始める・広げる予定があるか(原則として法人が前提)
- 今の事業所得が年間おおむね500万円以上あり、今後も増える見込みか
- 職員の採用・定着のために、社会保険を整える必要があるか
- 法人の設立・維持のコスト(均等割・社会保険料・申告の費用)を差し引いても、手取りが増える見込みか(税額シミュレーション)
- 指定申請の締切までに、法人の設立と人員・設備の準備が間に合うか
- 介護報酬の入金までの運転資金を、自己資金や借入で用意できるか
介護保険への参入の有無、所得の水準、人員の計画で、法人化の時期と形は変わります。試算と段取りを、初回無料で整理できます。
無料で相談する介護事業はどの法人の形で行う?
介護保険サービスは、株式会社や合同会社などの営利法人でも、NPO法人などの非営利法人でも行えます。ただし、特別養護老人ホームなど一部の施設は、社会福祉法人や地方公共団体などに運営主体が限られます。
| 法人の種類 | 設立の方法 | 特徴 |
|---|---|---|
| 株式会社 | 定款認証と登記 | 信用を得やすく、配当もできる。役員の任期ごとの登記と決算公告が必要 |
| 合同会社 | 登記(定款認証は不要) | 設立費用を抑えやすく、運営の自由度が高い |
| NPO法人(特定非営利活動法人) | 所轄庁の認証を受けて登記 | 設立までに時間がかかる。利益の分配はできない |
| 一般社団法人 | 定款認証と登記 | 利益の分配はできない。非営利型の要件を満たすかで法人税の範囲が変わる |
| 社会福祉法人 | 所轄庁の認可 | 特別養護老人ホームなどの運営主体。設立の要件が厳しい |
NPO法人や一般社団法人は、利益を分配できません。一方で、介護保険サービスは法人税の収益事業(医療保健業)に当たるのが一般的で、株式会社などと同じように課税されることが多くなります。「非営利の法人だから税金がかからない」とは限らない点に注意します。
法人化から指定までの進め方は?
- 試算と方針決め法人の種類、役員、資本金、役員報酬、行うサービスの種類を決めます。
- 指定の窓口への事前相談申請の締切、人員・設備の基準、必要な書類を確認します。
- 法人の設立定款の事業目的に、行う介護サービスの事業を記載して登記します。
- 事業所と人員の確保管理者やサービス提供責任者など、基準を満たす人員と設備をそろえます。
- 指定の申請と受領法人名義で指定を申請し、指定を受けてからサービスを始めます。
- 税務・社会保険・労働保険の届出法人設立届出書は設立の日以後2か月以内、青色申告の承認申請書は設立の日以後3か月を経過した日と最初の事業年度終了の日のいずれか早い日の前日まで、給与支払事務所等の開設届出書は開設の日から1か月以内です。社会保険・労働保険の加入手続きも行います。
- 個人事業からの移行自費サービスの契約を法人に切り替え、個人事業の廃業の届出と、個人の最後の年の確定申告を行います。
役員報酬は、定期同額給与として原則として期首から3か月以内にしか改定できないため、介護報酬の入金の見込みと合わせて、設立時に1年分の資金繰りを考えて決めます。指定申請の書類は、介護事業に詳しい行政書士に依頼する方法もあります。設立後の会計・税務の範囲は会計・税務顧問のご案内でご確認いただけます。
無料ツール役員報酬の水準を試算する役員報酬の額を変えたときの、個人の税金・社会保険料と法人の税金の合計を比べられます。計算する
札幌・北海道で介護事業所を法人化する場合
窓口・人件費・社会保険料で確認したいこと
指定や届出の窓口は、サービスの種類と事業所の所在地で異なります。札幌市内の事業所は札幌市が窓口になるサービスが多いため、申請の締切とあわせて確認してください。
北海道の最低賃金は、2026年10月1日から時間額1,131円です。時給で働くヘルパーなどの人件費の見通しに反映します。協会けんぽ北海道の健康保険料率は10.28%(令和8年3月分から)、介護保険料率は1.62%で、令和8年4月分からは子ども・子育て支援金0.23%も加わります。厚生年金保険料率は18.3%で、いずれも労使折半です。
札幌市内で特定創業支援等事業の証明を受けて会社を設立すると、登録免許税が0.7%から0.35%になります(株式会社15万円→7.5万円、合同会社6万円→3万円)。
最低賃金や社会保険の制度の動きは人事労務・最低賃金・社会保険の最新情報でまとめています。
よくある質問
NPO法人と株式会社では、税金の扱いは違いますか?
NPO法人は、法人税法上の収益事業から生じた所得だけが課税の対象です。ただ、介護保険サービスは収益事業に当たるのが一般的なため、介護が事業の中心なら、株式会社と同じように法人税がかかると考えておくのが安全です。違いが大きいのは、利益を分配できない点と、設立の手続きと期間です。
家族を役員にして報酬を払えますか?
払えます。職務の内容に見合った金額であれば、役員報酬として損金になります。不相当に高額な部分は損金にならないため、経営や業務への関わり方を説明できるようにしておきます。毎月同じ額で支給する定期同額給与が基本で、改定は原則として期首から3か月以内です。
法人化した後、個人事業の最後の確定申告はどうなりますか?
個人事業を廃業した年は、廃業の日までの事業所得を、翌年2月16日〜3月15日に確定申告します。個人事業の開業・廃業等届出書は、廃業の日から1か月以内に提出します。年間の期限は個人事業主の年間スケジュールで確認できます。
設立時の資本金はいくらにすべきですか?
介護保険の指定に一般に資本金の要件はなく、介護報酬が入金されるまでの運転資金を踏まえて決めることが多くなります。資本金等が1,000万円を超えると均等割の区分が上がり、資本金1,000万円以上で設立すると1期目から消費税の課税事業者になるため、小さすぎず大きすぎない額を試算して決めます。
まとめ
介護事業所の法人化は、税負担の軽減だけでなく、介護保険の指定と社会保険の整備の観点から判断します。介護保険サービスに参入するなら法人の設立が前提で、自費サービスを個人で営む場合は所得年500万〜700万円超を目安に、設立・維持のコストと比べます。指定申請の締切と介護報酬の入金時期から逆算して、早めに計画を立てましょう。
札幌の公認会計士・税理士事務所
介護事業所の法人化のご相談は、ジェイスタート会計事務所へ
- 初回相談は無料(オンライン対応可)
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- その場でご契約を迫ることはありません
対応:法人の決算・税務顧問/個人事業主の確定申告/相続・贈与・事業承継/融資・資金繰り
出典・参考(公的機関)
本記事は2026年10月時点の法令等に基づく一般的な解説です。個別の状況により取扱いが異なる場合がありますので、実際の申告・手続きは税理士等の専門家にご相談ください。
更新履歴:2026年10月 全面改訂(令和8年度税制改正を反映)
